74話
「ハァァァ……!!」
ここは管理局管轄の研究所……の中でも特に特別な施設。 その中でフェイトやなのは、クロノにみまもられながら一人魔力を高めているのがキリンだ。
「魔力がドンドン上がっていく……すごい……! もう1200万……!」
「ほ、本当に大丈夫なんだよねクロノ? キリンの魔力でこの施設壊れたりしないよね?」
「心配するな。 ここは元々艦体に取り付ける装備の実験場でもあるんだ。 いくらキリンが馬鹿げた魔力を解放するとはいえそれくらいなら耐えられるはずだ」
「だ、だよね……」
「……多分な」
「お兄ちゃん!?」
二人の心配を他所にキリンはドンドン魔力を高めていく。
そしてある瞬間から放出されている魔力量を観測する機械に表示されている数値を見てなのはが気付く。
「っ! キリン君の魔力量が少しずつ下がっていく……!」
「ということは……来るぞ!」
放出しているはずなのに下がり始める魔力。 それに比例してキリンの足元から徐々に白い光が渦巻き始める。
観測する魔力量が0になったと同時にキリンの全身を包み見えなくする。
そして。
「…………」
光が剥がれ始め、少しずつ村咲 輝凛の本当の姿が露出されていく。
「これが……あの時私達、ううん。 全次元宇宙を救った……」
「キリンの……『神の領域』に辿り着いた輝凛の姿!」
本来の女性の姿になるキリン。 魔力は感知出来なくなり神の力を纏っている。
しかしその力を測定できる技術はまだ存在しないので何のデータにも残すことはできない。
皆が呆気に取られている中、一人の男性が到着する。
「どうやらもう俺の案内はいらないようだな」
「拳君」
「みんなーこんにちはー!」
「ヴィヴィオちゃんも!」
遅れて到着したのは拳とヴィヴィオであった。 拳の姿を見て輝凛は実験スペースから皆がいるモニター席に移動する。
「ふむ……どうだ輝凛。 今のお前なら俺の力の気配が分かるのではないか?」
「拳君の力の気配……?」
「ああ。 一つ次元が上の力、それを今のお前なら見分ける事ができるはずだ」
「……」
拳の顔をじっと見る。 そして口元を緩めながら頷く。
「あぁ。 今ならキミのその……尋常じゃねぇ力がよく分かるぜ……!」
「ふっ、前も言ったが今の俺は型落ち状態だ。 大した力ではない」
「ホントかよ……力の総量が違いすぎるぜ」
ローリを相手にしている時ですら流れなかった汗が一つ流れる。 それ程までに神の領域に到達した者と元々神の領域にいた者では差があるのだ。
「なるほど、神の領域に入ったその状態なら同じ領域の拳の強さを感じとる事ができるんだな」
「あぁ……流石の『
「……その名前はなんだ。 いやまぁお前の力だから好きなように名乗って構わないが」
「可愛いだろう? ちゃんを付けることによって──お?」
そうして話していると、輝凛の全身が光る。 そして光が弾けると元のキリンの姿に戻っていた。
「あー、キリンちゃんが元に戻った」
「おぉ? ヴィヴィオちゃん的には『超キリンちゃんゴッド』の姿の方が好き?」
「うーん、どっちも好き!」
「やったぜ」
「でもその名前は可愛くないと思う」
「(´・ω・)」
子どもは素直で辛辣であった。
若干気を落とすキリンは置いておいて、次にテストを行うフェイトが一つのカートリッジを持つ。
「次は私の番だね」
「フェイトママ何するの?」
「ヴィヴィオには言ってなかったけ? みんなで実験だよ」
「実験!」
そういうとフェイトはバルディッシュを起動させ、カートリッジを挿入する。 もちろんこれはただのカートリッジではなく……
「キリン特製カートリッジ、リロード!」
『OK. Ready go』
キリンの魔力が込められたカートリッジをリロードすることによってフェイトの全身を藍色の光が包み、髪の色を深い青に染める。
「フェイトママが青いフェイトママになった!」
「これは……すごいな」
計器を確認するクロノが静かに驚愕する。 それは魔力量の数値。
その量は1000万を超える、まさにキリン級の魔力を有しているのだ。
「なんて凄まじい……放出している魔力量もそうだがキリンの魔力と融合することでここまでの魔力をコントロールできるようになるのか……!」
クロノの言う通り、この膨大な量の魔力を有していながらフェイトには一切のデメリットがない。 キリンでさえその肉体に損傷が生まれるというのに対し、フェイトにはその様子が一切見えない。
その様子を見ていた拳が感心しながら言う。
「……流石だ。 『
『……トゥルース???』
拳の口から出た新たなワードに皆が首を傾げる。 新たな力の存在を拳が説明し始める。
「人間が神の領域に辿り着く、これはキリンがやって見せた事だ。 これは肉体も魂も神の力を纏うもの。 それに対し『
「人間のまま……?」
「そうだ。 誰しもが『神の領域』に辿り着く可能性があり、そして『
拳の説明を受け衝撃を受ける。 しかしその説明の中で気になる点があった。
それをクロノが代表して聞く。
「……一体その……『神の領域』と『
「神の領域とはすなわち『本来の姿』であり潜在的に秘められた『名もなき力』だ。 何物にも当てはまらない本来の現象、だからキリンは転移前の本来の姿に戻った。 もしキリンが『
「なる……ほど、我々ではまだ理解に時間がかかるということだけは分かった。 なら二つの力に優劣はあるのか?」
「ある。 神の領域はこの世界、ありとあらゆる存在の一つ次元が違う位置の存在だ。 『
拳の説明から察するに。 二つの力には明確な差があるものの、こと力という点だけで見ればより磨かれた方が強い。 そういうことなのだろう。
ここまでの説明を聞いてなのはが気付く。
「あれ? もしかしてあの時の私も……」
思い起こされるのはローリとの戦いで真紅の光を纏ったなのはの姿。
「あぁ、あれも『
「あの時のママ光ってたね、いつもと違って赤かったけど」
「とはいえ『
「なるほど……つまりは愛の力ってことだね!」
「……そうなのだろうか?」
なのはの結論に少し困惑するも、概ね間違っていなさそうなあたりは流石なのだろう。
真紅に輝くなのはと藍色の光を纏うフェイト、どちらも愛を受け取った時に発現している。 もしかしたら人間の力の頂点とはそういう力が源なのかもしれない。
「でも私はあの時以来あの姿になれないんだよね……やっぱり拳君から力を分けてもらわないといけないからかな?」
「……それはどうだろうな。 俺が与えたのはキッカケにすぎない、アレはなのは自身が自らの殻を破り辿り着いたものだ。 また何かのキッカケがあれば恐らくは……」
「本当? じゃあ私もこれからもっと頑張らなくっちゃ!」
「わー! ママ頑張れー!」
「ママ頑張るー!」
高町なのは、未だ限界を知らず。
もしかしたら真に恐ろしいのはキリンでもなくフェイトでもなく、拳でもなく。
この果てしない成長をまだ遂げているなのはなのかもしれない、そうこの時クロノは思った。
「……やれやれ、流石は我らのエースオブエースだ」
昔からの友を見て、少し笑いながらそう言った。
「そういえば拳君とヴィヴィオちゃんはどこさ行ってたの?」
二人の実験も終わったのでなのは達が一緒に生活している家に。 クロノも一緒である。
キリンは皆にお菓子や飲み物を配りながら拳達が遅れてやってきた理由を聞く。
「あぁ、ヴィヴィオと共に聖王教会の方にな」
「なんで?」
「なんだ……その……所謂『原作ブレイク』というやつだ」
「え゛っ?」
思わぬ拳のセリフに濁った声が出る。 さんざん今まで原作を尊重し大切にしていた拳から出てくるとは思えない言葉。
その言葉の内容とは?
「ここら辺は翔次が詳しいだろうが……ヴィヴィオはゆりかごを起動させた古代ベルカの聖王のクローン。 故にそれを崇拝する聖王教会の過激派が何かしらの行動をしかねない、というのが数多くの『リリカルなのは世界』での現象だ」
「え、えぇ……聖王教会そんなに酷くないと思うけどなぁ」
「所詮は可能性の無限解釈に過ぎん。 過ぎんが……それでもこの世界でそれがないとは言い切れない。 だからヴィヴィオと共に確かめに行ってたのだ」
リリカルなのは二次小説大体聖王教会の過激派がヴィヴィオ狙ってる説。 検証されてないが恐らくはあり得る話である。 ならばこの世界でも例外ではない。
「カリム・グラシアから話を聞いてから確かめに行ったのだが……まぁそういう輩はいなかった」
「ねーみんないい人だったねー」
「そういうわけでこうして何もなく合流した次第だ」
リリカルなのは二次小説大体聖王教会の過激派がヴィヴィオ狙ってる説、検証失敗。
しかし些か拳にしては心配しすぎな気がしないでもないキリン達は拳に聞いた。
「……でも流石に気にし過ぎじゃねか? 拳君の超スーパーパワーならヴィヴィオちゃんが狙われたとしてもあっさり返り討ちにできちゃうべ?」
キリンの質問に拳は少し考えた後、ヴィヴィオを見る。
「そうかもしれない。 ……だが」
「パパ?」
「拳君?」
ヴィヴィオとなのはを交互に見る、そして優しい表情で穏やかに話す。
「不思議な気持ちなんだ。 愛する者がいて、それを守りたいと思う自分がいるのが。 この気持ちを手放したくないと思う自分がいる」
拳君はヴィヴィオの頭を優しくタッチしながらそのまま続ける。
「杞憂なのかもしれない。 でもその杞憂すらも取り除けるのであればどんな苦労もやってのけられる。 そんな気持ちなんだ」
「えへへ〜パパくすぐったい〜」
「あー! ヴィヴィオばっかりずるい! なのはにもやって〜!」
「ふっ、仕方ない」
優しく二人に触れる拳の表情から読み取れる彼の深い慈愛。 恐らくはこの先家族にのみ向けられるであろう愛の温度。
それを見て暖かい気持ちに皆がなる。
「……拳の気持ちは俺には分かる。 結婚して子どもがいるとああいう気持ちになるんだ」
「なのはもああやって甘えられるくらいに拳がお父さんになったんだね」
「……いやでもこれ、なのはちゃんが逆に幼児退行してね?」
閑話休題。
「で? キリン、お前はこれからどうするんだ?」
クロノがキリンに問う。 というよりも元々クロノの要件はキリン達の新しい力の検証ではなくキリンのこれからについてである。 あの実験はおまけに過ぎない。
「うーん? まぁしばらくは高町家とシェアハウスするかなぁって」
「そういう話ではなくてだな……いやまぁお前たちがシェアハウスするというのも中々変な話ではあるが……」
元々はなのはとフェイトが一緒に暮らそうと相談していた。 そこにキリンが来てヴィヴィオが来た。 その段階では二人が仕事でいない間はキリンにヴィヴィオの面倒を見てもらいたいという話になりキリンも居候する話であった。
そこに拳が帰ってきたのでキリンとフェイトは違う家に住もうと話をしていた。
いたのだが、紆余曲折あり高町家とキリン達は一緒のシェアハウスをすることになった。
主にキリンが家事できるのと、ヴィヴィオのワガママであるが。
「まぁ、その事はいい。 キリン、お前は翔次同様に嘱託の魔導師として六課で戦ってきてくれた。 お前にその気があるならそのまま管理局に……」
「嫌でーす☆」
即答であった。
「気持ち悪い断り方をするな!」
「オレはそういう、公務員になるのは向いてないって」
「……彼女が公務員なのにお前はニートを貫くつもりか?」
「やめてお義兄さま! ち、違うから! 専業主夫だから!」
デュランダルよりも冷たい視線がキリンを射抜く。 彼女に養ってもらうという時代によっては非常に情けない構図。 とはいえキリンにもキリンなりの目的がある。
「こ、ここら辺は拳君も絡む話だから……お義兄さま許して!」
「拳君も?」
「そそ。 実はさ……」
キリンは拳を見る。 拳が頷いたのを確認すると話し始める。
「オレ、また色んな星を巡ろうと思うんだ」
それは10年前にもあった話。
そしてそれは今も行われようとしていた。
この話をした日から数ヶ月後、キリンは拳と共にミッドチルダから別の星に出発した。
10年前を彷彿とさせる行動、しかしこれにはキリンと拳の中にある『決意』がそうさせたのだ。 その『決意』を聞いたなのはとフェイトは少し考えた後に小さく頷いて納得した。
ヴィヴィオは駄々をこねたが、必死に拳が説得した。 膨れっ面で納得したそうだ。
当然仲間たちにも説明した。 仲間たちは「
こうしてキリンと拳は旅立った。
半年後、とある任務でとある星を調査しにきたフェイトが偶然キリン達に遭遇する。
7ヶ月後、なのはも合流する。
10ヶ月後、なのはと拳がミッドチルダに帰還した。 フェイトが別の任務に入ったためそれにキリンが同行した。
1年後、再び拳がミッドチルダから旅立ち、キリンとフェイトに合流。 二人はまだ同じ任務を継続していた。
そこから1ヶ月後、現地の惑星にて
しかしミッドに戻ってきたのは拳のみ。
キリンとフェイトが皆の元に戻ってきたのは旅立った最初の時から実に──3年後の事であった。
場所は地球。 海鳴市。
なのはと拳の結婚式が行われる、その日であった。
次回、「オレはオレの幸せに会いにいく」最終話。
今回も誤字脱字等のミスがありましたら、コメントにてお教えください。