ーー3年前の秋、私は彼女と出会った
夏の暑さが和らぎ、秋の涼しさを感じる季節になってきた。しかし私にはそんな事など知った事ではなかった。
何故ならここ数ヶ月、まともに外に出ていなかったからだ。
私、佐久間 理子は中学1年生にして 重度の引きこもりとなっていた。
何故このような状況になったのか。
別に学校でイジメにあった訳じゃない。テストの点が悪かったからでも、クラスに馴染めなかったからでもない。
ただ、つまらなかったからだ。
入学当初は友人も出来たし、目新しい物もたくさんあった。しかし私の心を揺さぶるようなものは何一つ無く、次第に私は学校へ通うのを辞め部屋に閉じこもるようになっていった。
目標もない、夢もない、心躍らせるものも何も無い。そんな私が腐っていくのに、そう時間はかからなかった。
「はぁー...今日も何もせずに1日が終わるなぁ。」
そういって私はパソコンの電源を入れ、最近ハマりつつあるオンライン戦車ゲームへとログインする。
昨日はあと少しのところで負けてしまったからな。相手の名前は確かに...にこにゃーだかねこにゃーだか、そんな感じの名前だった筈。次こそは勝ってやる。
ーーコンコンッ
そんな時だった、ドアを叩く音がしたのは。
母親が夕食を持ってきたのだろうか?いや、それにしてはまだ早すぎる。
それとも担任やクラスメイトがやってきたのだろうか。どちらにせよ「学校においで」や「みんな待ってるよ」などの決まり文句しか言ってこないだろう。
などと考えていると扉の向こうにいる人物が話し掛けてきた。
「佐久間 理子だな。私は安斎千代美、隣町の学校の中学3年生だ!アンチョビと呼んでくれ!どうだ、私と少し話でもしないか?」
後に聞いた話だが、私の母は彼女の母親と知り合いだったらしく、年上の子と話すことで少しでも良い影響になればと思い彼女をこちらに寄越した、という事だ。
しかしその時の私はそんな事知る由もなく、
「そうですか。はじめまして安斎さん、ではさようなら。」
更に自分の殻に閉じ篭っていった。
「あ"ぁ"!!おい、もうちょっと話を聞いてもだなぁ!」
あぁ、もう煩いなぁ...。これ以上のノイズを拒んだ私は近くにあったヘッドホンをつけて、改めてゲームを始めた。
それから暫くしてヘッドホンを外すと、部屋の前は静かになっており人の気配もなくなっていた。
安斎千代美か、もうここに来る事はないだろうな。
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しかし次の日、
「理子ー!私だ、アンチョビだー!どうだ、外に散歩でも行かないか?私は中学の戦車道チームで隊長をやっていてな、練習でも見にこないか?」
「結構です。戦車ならゲームで事足りてます。」
まさか2日連続でやってくるとは思っていなかった。が、私は早々に断りヘッドホンをつけ再び自分の世界に潜っていった。
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そしてまた次の日も、
「やっほー理子!腹減ってないか?私の作ったパスタでも食べないかー?絶品だぞーほっぺた落ちちゃうぞー!」
「さっきポテチ食べたばかりなのでお腹いっぱいです。」
ヘッドホン。
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更に次の日も、
「なぁ理子ー!戦車のゲームしてるんだって?私にも教えてくれよ、それとも私が色々と戦術を教えてやろうか!」
「どちらも遠慮しておきます。安斎さんお一人でどうぞ。」
ヘッドホン。
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その次の日もまた次の日も彼女はやって来た。
次第に私は彼女がやってくるであろう時間帯に事前にヘッドホンで耳を覆い、世界を閉ざしていた。
これで少しは静かになるだろう。
私は少しも寂しくは、なかった。