閉じた世界が今、開く
それから数日後、いつものように自分の世界に引き篭もっていると突然、ドオォォンと巨大な大砲のような音がした。
何事かと思い窓を開けて外を見ると、
「おっ、やっと顔出したなー理子!ほら、急いで支度しろ。今からコイツに乗って出掛けるぞー!」
市街地だというのに戦車に乗り、こちらに向かって手を振る三つ編み眼鏡の少女がいた。おそらくあれが安斎千代美だろう。
なんで戦車!?じゃあさっきの音って砲弾を撃った音?いや流石に空砲だろうか。どちらにしろ、こんな町中で空砲を撃つなんて何考えているのよ...。
「おーい、早くしろー!なんならもう1発撃っとくかー?」
「わっ..分かったから、ちょっと待ってて!!」
2回もあんな砲音出されるなんてたまったもんじゃない!!私は急いで近くにあったジャージに着替えて家を飛び出した。外に出たのなんて何日ぶりだろうか。
「ちょっと何考えてるの!もっと近所迷惑とか考えてよね!」
「すまんすまん、こうでもしないと出て来てくれないと思ってな。ほら、乗れ!出発だ!」
ハハハッ、と軽く笑って謝っているが絶対反省していないな..。はぁ、もうここまで来たら仕方が無い。
「よいっ..しょと!で、この戦車はいったい?」
「コイツか?コイツはセモベンテ、イタリアの自走砲..まぁ戦車だ!うちの戦車道チームで使ってる戦車なんだがな、ちょっと借りてきた。」
「借りてきたって、それ...あとで怒られたりするんじゃないですか?」
「んー...大丈夫なはず、いや大丈夫だ!たぶん!」
後に聞いた話では、やはり無断で持ち出していたようでかなり叱られたらしい。全くこの人は。
「どうだー、初めて乗る戦車の乗り心地は?」
「狭い、暑い、揺れが激しい...けど、まぁ悪くはない」
「そうかそうか!なに、すぐに気に入るさ!さぁ見えてきたぞ、我が戦車道チームの練習場だ!!」
そこには私が画面越しでしか見た事がなかった様々な戦車が、実際に走り撃ち競り合っていた。
「すごい...ねぇ安斎さん、これみんな中学生が動かしてるの?」
「あぁ、お前と同じ中学生だ。残念ながら理子が通う中学で戦車道はやっていないようだが、個人でやっているチームも沢山ある!どうだ、やってみないか?戦車道!」
なんだろうか、この胸の鼓動は。この昂揚は。今まで全てがつまらないと感じた私でも...この人となら、変われるかもしれない。
「これ以上戦車で家の前に来られても困るからね。いいわ、やってあげる。その代わりしっかりと教えてよね。」
「このアンチョビに任せろ!3月までの間、私が面倒みてやる!あ、学校にもちゃんと行くんだぞ。戦車道には頭も体力もどちらも必要だからなー」
「う...わ、わかった。ってなんで3月までなのよ?こっちの高校に通うんじゃないの?」
「ん、言ってなかったか?私はアンツィオ高校から戦車道のスカウトを受けてな。春からアンツィオの学園艦に引っ越す予定なんだ。」
「な、なによそれーー!!」
ーーーーーーーーーー
それからの日々はあっという間に過ぎていった。
私はあれから真面目に学校へ通うようになり、放課後や休みの日には安斎さんから戦車道のいろはを教わっていった。
そして3月、安斎千代美がアンツィオの学園艦へ引っ越す前日。
私と安斎さん、いやアンチョビさんは送別会からの帰り道を2人で歩いていた。戦車道チームのメンバーがアンチョビさんの為に送別会をしてくれたのだ。部外者である私まで呼んでくれて。
「楽しかったなぁ今日は!んー、遂に明日か...長いようであっという間だったなぁ。」
「そうですね...。アンチョビさんは寂しくないんですか?」
正直、私は寂しい。数ヶ月の間だったが彼女は私に沢山のことを教えてくれた。
毎日のように会っていた彼女と明日からは会えなくなるなんて。
「そりゃあ寂しいさ。でもアンツィオ高校は私を必要としてくれた。アンツィオの戦車道を復興させてほしいと。ならば私がやることは1つだ!」
......そうだ、この人はこういう人だった。きっとこれから先、アンツィオの戦車道は復興する。私を救ってくれたように。
「とはいえ、現在数人しかメンバーがいないと聞いたからなぁ。私が入学する時にはどうなることやら。」
大丈夫...。貴女ならきっと。
「大丈夫ですよ、アンチョビさん。再来年、私がアンツィオに入学してすぐに戦車道チームに入れるようにしっかり立て直していて下さいね!」
「えっ、お前アンツィオに来るつもりなのか!?初耳だぞぉ!別に戦車道するならもっと良い学校あるだろぉが、黒森峰とか聖グロリアーナとか..」
確かにどちらの学校も戦車道に関してはとても有名だ。他にもプラウダやサンダースだってある。けど私は単に戦車道がしたいからアンツィオに行くんじゃないんだ。
「私はアンチョビさんと戦車道がしたいからアンツィオに行くんです!中学では一緒に試合とか出れませんでしたからね。」
「まぁ、そこまで言うなら止めはしない。わかった..アンツィオで待っているぞ、佐久間 理子!!」
そういうとアンチョビさんはこちらに手を差し出してきた。
その手を私は、しっかりと握り返した。
「えぇ、すぐに行くから待っていて下さい!アンチョビさん、アンチョビ姐さん!」
そして...
「そして、私をあの部屋から...あの閉じた世界から救ってくれて、ありがとうございました」
次の日、彼女はアンツィオの学園艦へと旅立っていった。
そして現在。佐久間理子は求め、走る。安斎千代美がアンツィオに『いない』世界で、安斎千代美がアンツィオに『いる』世界に再び戻るために。
物語は再び、安斎千代美がアンツィオから消えた世界へと戻る