戦いは終わった...だが、ヒーローは俯いている。
半分守るべきものを守れず、助け出すことが出来なかったからだ。
半分、というのはアーシアの事である。リアスが持っている悪魔の駒...僧兵の駒を用いて眷属として転生したのだ。
アーシアは蘇った際に真っ先に一誠に抱きつき、泣きながらお礼を言っていた。その際に一誠の表情はだらしなくニヤけていたが、女性陣の殺気を感じ取りすぐさま何時も通りの顔に戻った。
全てを終えたと思い、ホッとしている者たちは各々自らの住まいや部室へと帰っていったのだった。
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「...どうしても、駄目なんですか?」
「ええ...一度転生してしまったら、抜き取ることは出来ない。下手をすれば死んでしまうわ」
各々が帰っていった後、市川とリアスはそんな話をしていた。彼はリアスの言葉を聞いて、後悔の念に包まれている。軽はずみな気持ちで騎士にならなければ、下手に正義感を振りかざさなければ、自分にもっと力があれば、先程の下っ端は生き返れるか或いは死なずに済んだのかもしれない。
アーシアが生き返る直前、市川は下っ端の事を言わなかった。彼は誰よりも相手の事を考えてしまう、それ故に何も言い出せずにいた。その事に気付いたのはリアスだけだった。
「...少し、一人にして下さい」
「...わかったわ」
彼の言葉に対して、彼女は一瞬驚きそして立ち去る。
「っ...くそ...」
あの時もその気持ちはあった。だが戦いの最中という事もあり、すぐさま胸の奥にしまい切り替えることが出来た。
だけど今はそれが出来ない。込み上げてくるものが抑えきれずに喉の奥から吐き出しそうになる。
「...ぁぁあ...」
必死に止め様にも止めどなく瞼に水滴が出来始めてしまう。ポロポロと崩れ落ちるそれは彼の頬を濡らし一筋の跡となる。
「っふ...ぐっ...ぐぅっ...」
今彼はゼブラーマンではなく、市川新二という一人の少年だ。だからこそ我慢していた感情を吐き出している。
ヒーローとは十字架の様な物だ。光を放ち、闇を抱え込む悲しみの十字架。
どんなに闇が深かろうと、彼らは決してそれを忘れることはしない。
「ああああああああああああ!!!」
守れなかった人の思いを踏みにじる様な真似は決してはならないからだ。今回の件で、彼は自分の憧れていたものの過酷さをその身をもって知った。
知ってしまったのだ。
Side 市川
守れなかった。
守りたかった。
だけど無理だった。
当初は考えもしなかった、目の前で助けるべき人が死ぬのを見る事を。出来たはずの事が出来ずに時が過ぎ去ってしまった事を。
今の僕に何が足りない?
どうして助ける事が出来なかった?
何がいけなかったんだ?
「...ああ、そうか。僕は...」
そこまで考えて、気付いた。今の僕に足りないもの。これから手に入れるべきもの。
それは力だ。今の僕じゃあ弱者一人救えないヒーロー擬きだ。ならば努力して、特訓して、手に入れてやる。全てを救い出すことの出来る力を。
悪とも呼べない下衆な奴等を許しはしない、絶対的な力を。
ソノ通リダ。俺タチハマダマダ未熟。ナラバチカラヲ付ケル様ニシテ、来タルベキマデ蓄エテイケバイイ。
前にも心の中に響いていた、ドス黒い声。あの時は急な事な上に拒否反応を起こしてしまい、怯えていたけど今は心地良く感じている。
サァ! 行コウ!! 甘イ白ヲ捨テテ黒ヘト!!!
「ああ...僕...嫌、俺は黒だ。悪も、悪と呼べねぇ屑も決して許さない。妥協しない黒だ!!」
もう迷わない。俺は俺のやりたい様に...自分の正義を貫き通す。
悲しみは人を変える。悪人を善人に、善人を悪人にへと変えてしまう。
今の彼はまだ悪ではない。だが少なくとも正義と呼べる状態でもない。
心なしか、マスクとスーツが少し黒に染まっている様に錯覚してしまうほど、今の彼は正義とは離れていた。
だけどまだ...この時はまだ、彼はリアス・グレモリーに忠誠を誓う騎士の転生悪魔だった。
そう...この日はまだ始まりに過ぎない。精々がプロローグといった所だ。此処から長い苦難が始まろうとしている。
最後まで残ってた市川は涙を拭って立ち上がり、教会を後にする。
白と黒は混ざる事はない。だからこそ今の彼の背中は、悲しみを背負っている様に見えたのだった。
To be continued...
これにて第1章本編は終わりです。