並行世界から来た空戦魔導士   作:白銀マーク

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14話 記憶の断片

 アキラはミソラの覚悟を聞いた後に一人、街を出歩いていた。別に何かあるわけじゃないが、それでもどうしても街を歩かずにはいられなかった。

(母親…父親…)

 その言葉がアキラの頭の中を反芻する。それが何を意味するのかは、今のアキラにはわからない。しかし、その言葉が頭の中で反芻することをやめない。まるでそれが呪縛のように、鎖のようにアキラの心を締め付ける。

 アキラが街に出ている理由は日課の記憶の欠片探しだ。しかし、今のアキラに記憶探しなんてできるはずもない。

 何も考えれず、ただ淡々と時間が過ぎていく。記憶を思い出せないことに焦りこそすれど怒りは沸いてこなかった。そんななか、アキラはふとあるものを見つけた。

「月と太陽のペンダント……」

 そのペンダントは何か魔性の魅力があるわけではないのにアキラを引き付けた。まるで失っている”何か”を象徴するようなそれはアキラの手を呼びつける。アキラは迷うことなく店の中に入り、そのペンダントを購入した。

 そのままアキラはアルテミア寮に戻ることにした。

 後に知ることになるが、そのペンダントを売っていた店の中に、そのペンダントの対とされるペンダントが置いてあった。そのペンダントは宇宙のように深く青黒い星の散りばめられたようなシャトル型のペンダントで、中に思い出の写真の切り出しを保存できるようになっているものだ。

 

 

 

 アキラがアルテミア寮に戻った翌日、カナタが談話室を独占している光景が目に入った。階段を昇り右が男子、左が女子寮へとつながる共用スペース。五階まで吹き抜けで三人掛けのソファーを占領し、机に資料をぶちまけていた。

「やぁ、何してるの?」 

 アキラはカナタが裏切者とさげすまれているのを知りながら悠々と会話を持ち掛けた。

「ん? いやな…。それより、ミソラはどうだった?」 

「残念ながら僕が折れたよ。今後も、ミソラは魔砲剣で中衛の魔砲士と同じ働きをしてもらうよ」

「そっか。やっぱりお前が折れたか」

 カナタも大体察していた。ミソラが魔砲剣士をやめないことぐらい誰でも察しが付く。

「で、認めたってことはお前が担当するんだろ?」 

「冗談きついよ。僕は小隊の隊員なんだ。それは教官である君の仕事でしょ?」

「ま、そうなんだけどな」

 二人で今後についての語り合いを始めた。そんな時だった。

「いくらみんなから嫌われているからってば所を選ぶべきですよ。ここではみんなの迷惑になります」

 ロイド・オールウィンがその状況に対して遅れて注意をしてきた。

「んっ、みんなが距離置いてくれてるんだからいいじゃんか」

「カナタのそういう姿勢には脱帽ですね」

「? なんで脱帽するんだよ?」

「えっと…確か特務小隊(ロイヤルガード)の…ロイドさんでしたよね?」

「編入して間もないのに覚えていただけており光栄ですね」

「有名じゃないですか特務小隊(ロイヤルガード)って。実際に相当腕の立つような人の集まりですし」

「そういってもらえると嬉しい限りですね」

 アキラはロイドに軽口をたたけるぐらいあまり立場を気にしない、それに腹をたてないロイドもかなりの器らしい。ふと、ロイドはアキラを見て、言葉をこぼした。

「それにしても、あなたは面白い方ですね」

「? なぜですか?」

「それは……」

 少し言葉を選んでこう告げられた。

「あなたがいると、カナタがいい顔をするんですよ」

 その顔は過ごした昔のことを思い出すように優しい顔をしていた。

「なんと言うか、戦友…ですかね。あなたとカナタからただならぬ類似感を感じます」

「そう‥‥ですか……」

「そういえば、あなたはそのゴーグルをなぜつけて活動しているのですか?」

 ロイドはアキラが普段からずっと肌身離さず身に着けているゴーグルについて、疑問を投げかけた。

「えっと、まぁ、付けてないといけないんですよ」

 言葉を濁しながらそう伝える。

「そうですか」

 ロイドもそれ以上踏み込まなかった。

「で、話を戻しますが。カナタ、そこ以外のところで資料に目を通す気はありませんか?」

「なんでだ?」

「いくら避けられているからと言っても、ここは公共の場ですっ!」

 新たな声が混じる。

「ユーリじゃん」

「そういえば、先輩が‥「すいません、彼を罵るのはあとにしてもらえないでしょうか?」‥‥え?」

 アキラが初めて声に怒りを纏わせた。大気をも凍り付くような、一瞬でその場の空気を変えるだけの力をその静かな怒りを込めた一声で沈めた。

「僕もですね。カナタが悪いとは思うけど、真剣にやってるとこに水差されるのはいい気がしないですし」

 そう一度区切ってから、相手に同意を求めるように視線を向ける。

「それに、今は僕ら個人向けのことをやってるんじゃないんですよ。特務小隊(ロイヤルガード)に所属しているんだから、このぐらい、聞き分けられるでしょ?」

 声から怒気は消え失せ、相手を諭すように言葉を並べた。

「その‥‥、申し訳「僕ではなく、彼に‥‥ですよ」‥‥‥っ!」

 ユーリの唇に人差し指を当て、言葉の続きを制する。

「僕自身に言われていることならここまで言いません。ただ、真面目に事をこなしている相手を貶す、などという行為に口を挟んだだけですから」

 アキラの口元の口角が上がる。ゴーグルのせいで、はっきりとはわからないが、その仮面の下でほほ笑んでいる気がした。

「じゃあ、あとは頑張ってね。僕は疲れたから散歩でもしてくるよ」

 その場から逃げるように離れる。些細なことに怒りを持った自分から逃げるように。

 あの後、いくら考えてもあそこまでの言葉を浴びせる理由がわからなかった。

「これが‥‥、僕の体に染みついている、意識に住み着いている記憶の断片‥‥‥」

 あんなのを記憶の断片として、過去の自分を見つける術として、記憶の隅に置いておかなければならないなんて。

「まったく、とんだ馬鹿だな。僕は」

 その言葉は青いキャンバスに吸い込まれて、誰にも届くことなく、スッと、溶けていった。




 読んでくれている皆様、長らく時間がたってしまい、申し訳ありません。
 スランプってやつで、筆が乗らないと。いやぁ、久しぶりに書けるぐらいまでスランプから脱却できて、ようやっと書き始めることができましたぁ。
 こんな調子ですが、気長に待ってくださった方には、ホントに頭が上がりません。
 今後とも、よろしくお願いしますっ!

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