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緑のおしゃぶりを守護するアルコバレーノであるヴェルデ。本来、彼はイタリアにいるはずなのだが、現在、彼は日本の並盛町に来ていた。秋良達のいるIS学園にいるのならばまだ分かるが、何故、天敵であるリボーンが家庭教師を務めている沢田綱吉率いるボンゴレファミリーがいる並盛に来ているのか
「全く、本当ならばこんなところには来たくはなかったが・・・・様々なデータを検証して出た結果があの男になるとはな」
ヴェルデがこの町にいるであろうある男に会いに来た理由、それは昨晩に見た夢が原因だった。夜、地下にあるミルフィオーレの本部では研究者達が新しい匣兵器の開発をしている中、ヴェルデは仮眠室で少し休息をとることにした。相棒のケイマンを枕にして瞼を閉じると、日頃の疲れもあったのか直に意識は深い闇の底に落ちて行った
やがて目を覚ましたヴェルデの視界には先程までいた研究所の仮眠室ではなく暗い部屋に幾つもの試験管に浮かぶ様々な液体、机に広げられた数多の研究資料と電源の入ったコンピューター。そこは嘗て、人間だったころに自分が使っていた研究施設のある建物の中だった
「(・・・・ここは・・・・そうか、これは夢の中か)」
それは嘗て自分がこの姿に、アルコバレーノになった時の記憶。今更なぜこの夢を見るのか、もう二度と見たくなかった夢だ
研究していた合間に休憩を入れ、コーヒーを片手に自分の部屋に戻る。少し休憩を入れてまた研究を再開しようと自分が愛用する椅子に目を向けると、そこには鉄仮面で顔を隠し、仮面と同じ色の鍔のハット棒を被った、どう考えても不審者以外の何者でもない男が椅子に座り背もたれに体を預け、こちらを見ていた
「何者だ?」
「お邪魔しているよ、天才科学者君。他の者達同様私を見ても動揺を見せない。やはり君にも任せることにしよう」
「質問に答えろ。私は何者だと訪ねている」
「まあ、そう慌てるな。私は」
鉄の男の懐から出されたのは透明な色のおしゃぶり。見た目からしてかなりの年齢のはずなのだが、何故そんな物を持っているのかと疑問を浮かべるヴェルデをよそに男はおしゃぶりを弾く。宙を舞うおしゃぶりを見続けていると不思議とおしゃぶりが緑色の光を放ったような気がした
「(何だこの光は?)」
「
「ーーーー士ーーーー博士、ヴェルデ博士!!」
「っ!!」
自分を呼ぶ声がして、夢の世界から引き摺り出される。そして、目を開けると、視界には此方を心配そうに見ている研究者がいた
「大丈夫ですか?何やら魘されていたようですけど」
「いや、大丈夫だ。心配かけてすまない。所で何の用だ?」
「あ、はい。例の新製品なんですが・・・・急ぎではないので、また後日にしましょうか?」
「いや・・・・そうだな。済まないがそうしてもらえると助かる。新製品の方は私が見ておくから、新しい匣兵器開発のグループに参加してくれ」
「はい。分かりました」
ヴェルデに頭を下げて、仮眠室から出ていく研究員。赤ん坊であるヴェルデに丁寧に頭を下げるという中々にシュールな光景に苦笑いを浮かべるヴェルデは再び強い睡魔に襲われ、再び深い眠りについてしまった。再びヴェルデの意識がはっきりとすると、先程のおしゃぶりを見た以降の記憶が流れていた
「
「まあ、慌てるな。とりあえずこの紙に書いてある場所にいけ。仲間に会える」
腑に落ちないがとりあえず男の言う通りにしようと指定された場所に向かうヴェルデ。そして、指定された場所には彼に他に5人の人間が彼を待っていた。自分を合わせて6人しかいないので、もう1人はまだ到着していないようだ。メンバー達の顔を見ると、何れもある業界にその名を轟かせている人物達だった
「(懐かしいな。そういえばあの頃、コロネロはまだいなかった)」
コロネロの代わりに彼の教官で特殊部隊のエースであるラル・ミルチ、弾丸をも素手で止める拳法の達人風(フォン)、死神に嫌われた不死身のスタントマン、スカル、幻術を操る超能力者マーモン、当時の名をバイパー、そして、ユニの祖母であり、予知能力を持つといわれていた巫女ルーチェ
「お前達も謎の男に呼ばれてここに来たのか?」
「えぇ、それにしても貴方も
「そんなことはどうでもいいよ。僕はこんなつまらないところから早く帰りたいんだけど」
「そいつの言うことも一理あるな。私も部下達の所に戻らなければならないのだが」
「俺様も次の仕事が迫ってるんだからな!!」
このメンバーで何かをするのかと聞いたヴェルデだったが、この状況で誰が予想できるだろうか。このメンバーが協力し合って何かをしようとする光景を。それぞれの業界で力を発揮した人物達、やはり誰もが我が強く、風がまぁまぁと文句を言うメンバーを宥め、ルーチェはその光景をただニコニコと笑みを浮かべて眺めているだけだった
「・・・・それで?もう1人はまだ来ないのか?これ以上時間をかけるようならば私は研究施設の戻らせてもらう。超能力者だの、巫女だの、科学的に証明できない者達といると蕁麻疹が出てしまう」
「何だって?お前、僕を馬鹿にしているのか?どうやら死にたいようだね」
「落ち着いてくださいお二人とも、それにもう1人の方もどうやらもうすぐいらっしゃるようですし」
「ふん、噂に聞く予知能力というやつか。馬鹿馬鹿しい」
空いている椅子のうちの1つに座り、持ってきていたノートパソコンの電源を入れ、研究施設で行っていた研究のデータを纏め始める。それからしばらく誰もが一言も話さず沈黙が室内を包み込むが、それは聞こえてきた革靴の音で破られることとなった。ヴェルデは座っていたルーチェを見ると、彼女は自分の方を見てそれ見たことかと言わんばかりの笑みを見せた。それを面白くなさそうにフンと息をつくと部屋の扉が開き1人の男性が入ってきた
黒いハット帽を被り黒いスーツを身に纏った男、裏社会で何人もの人間を仕留めてきた人物。その名は裏社会に属していなくても耳に入るほどの有名なヒットマンであるリボーン。そして、彼はヴェルデ達を一瞥して残りの空いていた席に歩いていく
『懐かしい夢だろう?』
男の声によってヴェルデの意識は覚醒した。しかし、目が覚めた彼の視界には先程まで眠っていた仮眠室ではなく何処かの屋敷の食堂らしき場所。その光景を見てヴェルデはこれはまだ夢の中なのだと察した。そして、彼の目の前には
「古い夢を見ていたと思ったら」
「マーモン、あなたもですか!!私もです!!」
「オレもだ!!」
「お前達!!どういうことだ?」
自分の前で混乱を隠せないでいる他のアルコバレーノ、あの頃とは違い、ラル・ミルチの代わりにコロネロになっており、ルーチェがいないが、その他のアルコバレーノが勢揃いしている。どうやら彼等も夢の中から無理やりこの世界に引きずりこまれたのだろう。それにしても先程の声、聞き覚えのある声
いや、聞き間違えるはずがないのだこの男の声だけは
「懐かしい思い出を楽しんでもらえたかなアルコバレーノ諸君。君達は今、全員が1つの同じ夢を見ている」
「なんだとコラ!!」
「そんなバカな」
暗闇で姿は見えないが男の声に驚きを隠せないコロネロとリボーン。それもそのはずだ
1人の人間がこの夢を見ているのならばまだ分からなくもない。しかし、それが6人全員がとなると可能性があるとかないとかの話ではない。ハッキリ言えば不可能だ。しかも、その世界で各々が自分の意志で言葉を発している。夢の中にいるはずなのにここまで意識がはっきりと出来るものなのだろうか
「信じられぬだろうが、この夢から覚めた時、私の言っていることが全て現実だとわかるだろう」
「何者だ!!」
暗闇からこちらに向かって歩いてくる男。そして、やがてその姿は淡い光に照らされ、ヴェルデ達の視界にはっきりと映るようになる。その姿、忘れもしない。自分達をこんな姿に変えた張本人である男の姿は
「やあ諸君久しぶりだな」
鉄仮面の男の登場にマーモンとスカルは驚きを隠せず、リボーン、コロネロ、風は再会を喜ぶかのように男に向けて銃や拳を向け、今にも襲い掛かろうとする。それを見ていたヴェルデだが、それは出来ないだろうとすぐに理解した。何故ならばこの世界は目の前の鉄仮面の男が作り出したもの
つまりこの世界のすべての制御はこの男が握っているといっても過言ではない。そんな世界で自分達の攻撃を親切に受けるような愚か者ではないことはヴェルデには分かっていた
「慌てるな」
案の定、男がヴェルデ達に向けて手を翳すと、金縛りにあってしまったかのように動けなくなってしまった
「残念だがここは夢の中だ。いくら君達が最強の赤ん坊であってもその能力は使えない。第一私は君達と戦いに来たのではない
君達の意思の確認、そして提案をしに来たんだ」
「意思の確認だと!?」
「提案?」
自分達をこんな姿にしておいて今更何を確認させ、何を提案させるつもりなのだろうか。ヴェルデとしてはこの姿であっても研究には困っていないのでどんな提案も受けるつもりはないのだが。しかし、男の言葉は一部のアルコバレーノにとっては喉から手が出るほど欲しいものだった
「まずはとてもシンプルな確認だよ。君達をアルコバレーノに変えたその呪い
虹の呪いを解きたいか!?」
その夢を真実だと確信してヴェルデは今、並盛町を歩いているのだ。そしてしばらく歩いていると目的の建物が見えてきた。建物の文字はややズレているがそこにはしっかりと黒曜ヘルシーランドと書かれていた。ヴェルデはその建物の中に何の注意を払うこともなく入っていく
そして、どんどん奥に入っていき、劇が出来そうな舞台の上に置かれたソファーに目的の人物は腰かけていた。独特の髪型、まるでパイナップルの様な髪型にキリッと鋭くとがった目、その右の眼には六の文字が映っている人物、黒曜のトップであり、ボンゴレ霧の守護者でもある六道骸がいた
「やあ、会えて嬉しいよ六道骸君」
「クフフフフ・・・・これはこれは随分と珍しいお客さんだ。私に何か用ですか?アルコバレーノ」
「ねぇねぇ、あの話聞いた?」
「2組とこのクラスに転校生が来るんだって!!さっき職員室で聞いたって人がいるらしいよ」
一方、並盛から離れたIS学園では新しく来る編入生の話題で盛り上がっていた。レンが近くの生徒から話を聞くと、どうやら中国とイタリアからの編入生のようだ。中国はともかく、イタリアからとなるとレンの頭にキサラの姿が浮かぶ
自分達がIS学園に行く代わりにキサラはイタリアで代表候補生となり、イタリア政府を白蘭のものにするという計画はどうやら成功したようだなと安堵のため息をつく。それは計画が成功したことよりもキサラが無事に代表候補生になれたことの割合が大きいのだが
「だとよ良弥」
「・・・・・・・・」
「良弥?」
「え、は、はいすみません。聞いてませんでした。何ですか?」
朝からレンが気になっているのが秋良の状態。話し掛けても今のように考え込んでいるのかこちらの声が聞こえていないようだ。そして、ある程度の会話を終えると、再び何かに悩んでいるような表情を見せる。一度、何を悩んでいるんだと本人に聞いたのだが、何でもないですとはぐらかされてしまったので、彼が何を悩んでいるのかを知ることが出来ない
そんなことを考えていると教室に一夏と春香が入ってきた。彼等を見た瞬間、教室にいた何人かは嫌そうな表情を浮かべる。入学式初日のころの黄色い声は何だったのだろう
まさに霧の幻覚のようにそれは彼等に冷たい現実を与えることになった。しかし、そんなものに気づくならばこれまでの自分達がやってきたことの下らなさに気づくだろう
「おはよう、織斑君、織斑さん。ねえねえ聞いた!?1組と2組に編入生が来るんだって」
「ああ、さっき千冬姉から聞いたよ」
「どうやら一夏の存在をを危ぶんできたようですわね」
笑いにもならないというのはまさにこのことだろう
何が悲しくてこの程度の人間に危機感を覚えないといけないのか。これがアキラやレン、箒、セシリアの裏社会に関する人間ならば、その危機感は正しい
しかし、織斑千冬の弟というだけのただの一般人にその感情を抱いたものがいるならば、そいつは単なる無能だということなのだろう
「あ、あはは・・・・そ、そうだね。と、とにかく頑張ってよ織斑君!!デザート半年フリーパスのために」
「ああ、任せてくれ!!それに千冬姉から聞いた話だと、専用機を持っているのは1組と4組だけ、それに4組の奴の専用機はまだ完成していないっていうじゃねぇか!!」
聞いてきた生徒の乾いた笑いにも気づかずにクラスの生徒達から応援されている事に喜びを隠せないでいる一夏。頑張ってという応援の声を投げかけた生徒も本当は期待など微塵も思っていないのだ。しかし、もしもという可能性もゼロではない。そういう思いで投げかけた言葉の本質を目の前の男は気づくはずもないだろう
「まさかアンタが1組の代表になっているなんてね。今度はどんな卑怯な方法でその立場にいるわけ?織斑一夏」
一夏の背後から聞こえてきた女性の声。その声が聞こえた方を見ると、腰に手を当て、がっかりしたようにため息をつく鳳鈴音の姿があった。一夏は彼女を見ると、かつての幼馴染の再会を喜んでいるようで、春華は先程の鈴の言葉が気に食わなかったのか、彼女をギロッとにらみつける
「・・・・鈴・・・・・お前、鈴じゃないか!!久しぶりd「悪いけどあんたにその名前で呼んでほしくないのよね。本当は来るつもりなんてなかったけど、私が2組のクラス代表になったからクラス対抗戦の他のクラスの代表の確認はしとこうと思ってね」お、お前・・・・何言ってんだよ」
信じられなかった
箒に続いて鈴までもが自分を否定している。何か彼女に悪いことをしたのだろうか、いやそんなことはない、だったらどうして・・・・・
必死に答えを出そうとするが、全然心当たりがない
これこそが、彼女が一夏を、そして、春華を嫌っている理由だ。当たり前ではないことを当たり前であると捉えて、周りの人間にその考え方を強要する
今回もそうだ
まるで、箒や鈴が自分の言うことなら何でも聞いてくれる召使い、いや、奴隷のように思っているようにしか思えない。そんな人間に心を開いて仲良くすることは出来るはずもない
「ま、これで1組には余裕で勝つことが出来るわね。あと、あんたは4組の代表のことを馬鹿にした言い方してるけど、大丈夫なわけ?そんなことを言っている人にボロ負けしたら目も当てられないわよ。さっきここに来る前に4組の代表に挨拶に行ったけど、彼女はどっかの馬鹿のせいで専用機の作製を凍結されたから自分でISを組んでいるみたいよ」
「専用機を一からですって?そんなの無理に決まっているじゃない」
「そうね。普通に考えたら無理よ。でもね、私はその子と話していて確信したわ。あの子は必ずクラス対抗戦までにISを組み上げるって。まあ、あんたみたいな奴が優勝出来るとは微塵も思ってないけどね」
「そんなこと分からないだr「分かるわよ。あの子を・・・・あの子を犠牲にして今をのうのうと生きているあんた達には・・・・・そうですよね・・・・・織斑千冬先生!!」
会話をしている最中に鈴の背後に忍び寄りこちらに向けて出席簿を振り下ろそうとしている千冬に向けて後ろを振り向く反動を利用した上段の回し蹴りを放とうとする。千冬の持つ出席簿の硬度を知っている1組の生徒達は悲鳴を上げる。そして、出席簿と足が衝突する寸前に千冬の出席簿はどこからか放たれた何かによって弾かれてしまった。そして、鈴の足を白い手が掴み、千冬で当たる寸前で食い止めた
その手の持ち主、黒い髪に緋色の瞳を持った女性、キサラ・B・テンドウは右手に持っていたボールペンを制服の胸ポケットに差し込み、鈴の足を掴んでいる手を放す
「キサラ・・・・」
「鈴さん、スカートを履いている時にその蹴りはしない方がいいですよ。効率はいいですが、少しはしたないので。あと、織斑先生、こんな状態で自己紹介するのもどうかと思いますが、イタリアの代表候補生のキサラ・B・テンドウです。皆さんもこれからよろしくお願いしますね」
鈴の足を掴んでいた手を放し、2回パンパンと叩き、こちらを見ている生徒達の前でペコリと深く頭を下げる。朝早くから状況の理解に頭が追いついていない生徒達の中からキサラに向けて大声を上げる男、一夏がいた
「お前!!千冬姉に何をしたんだよ!!」
「あら、あなたが男性操縦者の1人、織斑一夏さんですか。何をしたと言われても、鈴さんを守るために少し離れたところから斬撃を飛ばしてから織斑先生を守るために鈴さんの足を掴んだだけですけど・・・・何か問題がありましたか?」
当たり前の事だと言わんばかりに言葉を出すキサラに生徒達はポカンと口をだらしなく開けてしまった。確かに斬撃を飛ばす事は達人クラスになれば可能だということは知っていた。それは目の前の人物である織斑千冬もそれは出来る。しかし、問題なのはキサラはそれをボールペンでやったということだ
その光景を見ていたレンは被っていたハット帽をより深くかぶりため息をつく。キサラも一夏や春香とは違うが、普通の人に比べるとやや常識というものが足りない
「ね、ねえイタリアの代表候補生のキサラ・B・テンドウってあの?」
「え!?あの他のイタリアの代表候補生全員を相手に無傷で勝ったっていうあの!?」
「もうイタリアから国家代表の話がきているっていう噂もあるよ」
レンがため息をついていると無視されたのが気に食わなかったのか一夏がキサラの肩を掴む。一夏からしたら代表候補生という人間がどんな人間かをよく知らないので、ただ単に美少女が編入してきたというだけであり、それよりも彼女が織斑千冬にしたことが許せないのだ
本当ならば生徒の頭を問答無用で叩くような暴力行為を平然と行っている千冬も問題なのだが、身内贔屓が酷い一夏にとっては自分が大切に思っている存在を傷つけたのが許せないのだ
「それで千冬姉が怪我したらどうするんだよ!!」
「では貴方はあのままでしたら鈴さんも無傷では済まないでしょう。あの出席簿、手加減をしたとはいえ少しの切り傷しかついていないところを見ると、かなり硬度の高いもので出来ていると思いますが、そんなものを思い切り振り下ろしたら鈴さんの足はもしかしたら骨に罅がはいってしまったり、酷い場合は折れてしまうかもしれないんですよ?それでも貴方は私のしたことは間違っていると言えますか?」
「そ、それは・・・・・」
千冬が傷つくのは嫌だが、幼馴染が傷つくのも嫌だと思う一夏はそれ以上の言葉を出すことは出来ない。普通に考えれば悪いのは100%千冬なのだが、そんな常識は目の前の男には通用しない
「それよりも一夏さん。何時まで私の肩を掴んでいるつもりですか?生憎ですが、初対面の男性に簡単に体を触らせるほど安い女では無いのですけれど、早く離さないと・・・・・・・その手が無くなりますよ?」
「っ!?」
ゾクッと寒気を感じて慌ててキサラの肩から手を離す
無くなりますよといった瞬間のキサラの声には何やらどす黒いものを感じた。無理もない、キサラは一夏の姉、織斑千冬が引き起こした白騎士事件で愛する婚約者であるレンタロウを亡くしたのだ。その原因ともいえる存在が傍にいることに違う意味で喜びを隠せなくなっているのだ
「・・・・・凰、早く教室に戻れ」
「はいはい、分かってますよ。こいつ等と一緒の空気にあまりいたくないんで。じゃあ、キサラ、助けてくれてありが・・・・・と・・・・・う・・・・・」
キサラに手を振り2組に向かおうとした鈴の視界に入ったこちらを見る1組の生徒達。その中に見つけたのだ。白いハット帽の男の隣で外をぼうっと眺めて溜め息をついている秋良の姿を。髪形や纏っている雰囲気は全く別物なのだが、彼を見ていると幼い頃に助けてあげることの出来なかった少年の姿にしか見えなくなっている
「(何考えてるのよ私は。もう秋良はいないのに・・・・・でも、あいつを見ていると秋良にしか見えないのは何でだろう?)」
ニュースや千冬達の言葉で秋良が亡くなったことを聞いた時はこの世の終わりかと思った。しかし、現場からは秋良が監禁されていた事が見つかっただけで、秋良が亡くなったという証拠は見つからなかったとニュースは言っていたので、もしかしたら生きているかもしれないという淡い期待を何度も抱いたことがある
しかし、その期待を抱き続けて何年も経ってしまい、心のどこかで生きていて欲しいという反面、もうこの世にはいないのではないかという思いを抱くようになり、秋良の様な人を二度と生まないためにも中国の代表候補生になり、何れは国家代表となって中国の女尊男卑主義者の意識を変えようと決意して彼女はこの場にいるのだ
なので、彼女の前に現れた秋良に似たこの少年を秋良だと断言するのはこの少年にも失礼に値するだろうと考え、自分のクラスである2組に向かっていった
その様子を見てレンはホッと安堵の息を漏らした。彼は諜報部にいた頃に織斑秋良の周辺は8割方調べていた。その中で出てきた彼の幼馴染である凰鈴音。彼女の性格からするともしかしたら秋良の姿を見た瞬間、彼を織斑秋良だと確信して一夏達の下に行くのではないかという危機感を抱いていたのだが、彼女はレンが予想していた以上に一夏と春香、そして千冬に対して嫌悪感を抱いているのだと思い、彼女が自分達の敵になる可能性は低いと判断した
それはレンの隣の空席に座り、鞄から教材を取り出すキサラも同じ判断だった
「・・・・あいつは特に監視の必要はないな」
「ええ、彼女の部屋に一晩泊めさせてもらって軽くコミュニケーションを取ったけど私達の、そして、秋良君に危険を及ぼす存在ではないことは確信出来たわ。それよりも白蘭様の指示通りにイタリアの代表候補生になった部下に対して何か言うことはないの?」
「言うことっつっても・・・・・まぁ、ご苦労だったな」
「・・・・はぁ」
「何だよ」
『仕方ありませんよキサラさん。レンさんはこういう人間なんだということは貴方が一番良く知っている筈じゃないですか』
キサラのため息に同情するかのように彼女の腰についているチェーンに匣と一緒につけられていたUSBメモリーから男性の声が聞こえてくる。その声にレンは大声を上げそうになったが、キサラは自分の口に人差し指を当て、静かにするようにレンに指示する
「気持ちは分かるわ。私もフィリップさんと話したいこともあるし。でも、ここでそれをするべきではないことは分かってるわよね?」
現在の技術ではISコアに死んだ人間の意識を取り込むなどということは出来るはずもない。これはヴェルデの技術が高すぎることと、白蘭が
現状の喜びに任せて会話をすることはマズイと考えたレンはそれにコクリと頷く
そして、キサラは前の席でセシリアの隣に座っている秋良の様子が気になる。元幼馴染に再会したことで彼が何かしらのリアクションをすると思っていたのだが、それが一向に見られない。それどころか彼は鈴が廊下でそのような事をしていた事すら気づいていないようでボケーっと窓の外を見ている
「(・・・・ねぇ、秋良君。どうしちゃったの?)」
「(俺にも分からねぇんだよ。昨日の夜にあいつと別れてから何かあったと思うんだがな。今朝からずっとこの様だ)」
「(まあ、後で聞いてみるわ。それよりもミルフィオーレの幹部クラスである真六弔花の秋良君を本人の意思とは言え1人にするなんて。あなたの任務の中には当然、彼の護衛も入っているのよ?それを放棄するなんて・・・・全く、あなたの脳みそにはカツ丼のことしかないわけ?)」
「(何だと!!俺のことを馬鹿にするのはいいが、カツ丼のことを馬鹿にすることは許さないぞ!!)」
「(安心しなさいよあんたのことしか馬鹿にしてないから)」
「(そっか、ならいいんだ・・・・・って、そうじゃねえよ!!ったく、黙ってれば可愛い女なのに、口を開けばトンだどSお嬢様だな!!)」
「だ、だだだだだだだだ誰が可愛いよ!!そ、そそそそそんなこと言われてもう、ううううう嬉しくなんかないんだからね!!」
「ほぅ、編入初日から私語とはいい度胸だな、テンドウ」
「え?はにゃ!!」
小声で会話していたのだが、レンの可愛いという言葉に異常に反応してしまい、思わず声を上げてしまった。そんな彼女の額の中心に千冬が投げた出席簿がクリーンヒットする。額を抑えながらすみませんと言い席に着くキサラにクラス中の視線が集中する。可愛いという言葉、それはきっとレンから言われた言葉なのだろう。だとしたら彼女とレンとの関係は何なのだろうと疑いの目を向ける者もいれば、きっと彼等はそういう関係なのだろうと血の涙を流すものもいる
そんな生徒達を強制的に黙らせSHRを終え、授業に入ることになった
Ⅹ
「ったく、キサラの野郎、あんな大声上げやがって」
昼休憩の時間になり、キサラと秋良とセシリアと一緒に食堂に行こうとしたのだが、セシリアは自分が参加しているテニス部のメンバーと、キサラはクラスの生徒達と食事に行ってしまったので、秋良と2人で行こうとしたのだが、秋良は1人にしてくださいと言ってどこかにフラフラと歩いて行ってしまったので、仕方なく1人で食事をとることになったのだ
『まぁ、彼女の心を理解していない君ではそうなるだろうね』
「何だよお前まで。だったらお前はあいつのことが分かってるっていうのかよ?」
『少なくとも君よりかは分かっているつもりだよ。あ、そういえばヴェルデ博士からブラックジョーカーの追加装備が僕の方に転送されているみたいだから確認した方がいいんじゃないかな?』
「ヴェルデさんが・・・・・そうだな秋良もあんな感じだし、1人でいてもやることもないしな」
あれからキサラもセシリアも秋良を心配に思い、話し掛けていたのだが、キサラに関しては編入した時のことすら記憶になかったようで、行き成り目の前にキサラが現れてことに驚いているほど何かを悩んでいるようだった。力になろうと悩みを聞こうとしたのだが何も話してくれない
何もやることがないというよりも何をしてあげることも出来ない現状の自分に情けなく思いながらも彼から話してくれることを期待してブラックジョーカーの追加武装を確認するべく格納庫に入っていった
そこには既に先客がいた特徴的な水色の髪の頂上辺りについている機械的な何か気怠そうな紅い瞳に眼鏡をしたその少女はISの前で必死にパソコンのキーボードを叩いていた。その傍らにはトレイに乗せられた食事が手を付けていない状態で置かれていた
どうやらこの少女、ISに夢中になりすぎて食事をとることすらも忘れているようだ。このまま放っておくべきなのだろうが、彼女を見た瞬間、何故か彼女の横顔が秋良のそれと重なった
だからだろうか
「昼飯食わねぇと昼から持たねぇぞ」
彼女に声を掛けてしまったのは
「・・・・昼ご飯を食べるか食べないかは私の自由。そんなことをあなたに言われる筋合いはない」
キーボードを叩きながら器用にこちらに顔を向ける少女。そこからは明らかに機嫌が悪いという雰囲気を全力で出していた。夢中になっているところに横槍をいれられれば誰だってこうなるだろう
それよりもレンが気になったのが彼女の紅い瞳の下にできた隈。それの濃さを見るだけで彼女がどれだけ寝ないでこの作業をしているのかが理解できる
「ISの調整をするのは大切なことだが、しっかり寝ないとミスをするぜ」
「・・・・さい」
「あん?」
「うるさいって言ったのよ!!何よ行き成り出てきたと思えば!!男性操縦者で専用機も簡単にもらえたあなたなんかに・・・・・私の気持ちが・・・・この子を最初から作らないといけなくなった私の気持ちが分かるわけないでしょう!!!!!それなのに勝手な事言って・・・・・出て行って!!ここから出て行ってよ!!!!!」
「っ!!」
急に怒鳴りだした少女に驚きを隠せない。彼女の様子からしてそんなにヒステリックに声を上げるような人ではない。しかし、それよりも気になる言葉を聞いた
『最初から作らないといけなくなった』
その言葉にレンは違和感を覚えた。ISとはあのヴェルデでさえも何人かの研究員と共に作らないといけなかったものだ。それを悪いが彼よりも技術の低い、尚且つ高校生がそんなことを出来るわけがない。それを少女は1人でやろうとしているのだ
「・・・・最初から作るって・・・・あんた確か日本の代表候補生の更識簪さん・・・・だよな?専用機は国から与えられるんじゃ」
「あ・・・・・っ!!」
初対面の人間になんてことをしてしまったんだと小さく声を漏らした簪はISを待機状態に戻し、身近のものを慌ただしく片付け、レンの横を走り去ろうとする
そんな彼女の手をレンは掴んだ。急に掴まれた簪はそれを振りほどこうとするが反対の手に大切なパソコンを持っているため、思うように力を入れることが出来ない。それもあってか彼女の機嫌はどんどん悪くなっていく。何なのだこの男はと
行き成り出てきたと思えば他人事のようにこちらの心配をする。そもそもお前達が、お前達男性操縦者が現れたからと。レンは悪くないのだが男性操縦者というだけであの男を思い浮かべてしまい、怒りを抑えることが出来なくなっている
それだけでなく、作業が上手くいっていない事へのストレスや碌に睡眠をとっていないため、彼女の感情をコントロールする機関が麻痺しているのだろう
「放して!!放してよ!!」
「放っておけないんだよ!!お前を見ると・・・・あいつの姿と重なっちまって」
「はあ!?何よそれ!!そんな理由で私の事に・・・・私の領域に入ってこないでよ!!」
「勝手に入ってきたのは悪いと思っている!!それでも俺はあんたの力に「こら~!!」」
格納庫内に聞こえてきた間延びした声の方を見ると、クラスメイトののほほんさんこと布仏本音がプリプリと怒りながらこちらに走ってきていた。それは普段の彼女からは想像できないほどのスピードだった
「かんちゃんを・・・・・虐めるなー!!」
「ちょ、待て!!布仏!!俺は別に「のほほんクラーッシュ!!」ぐはっ!!」
のほほんクラッシュという所謂体当たりを鳩尾にクリーンヒットしたレンは顔を真っ青に染めてゆっくりと簪の前で倒れこんでしまった
「本音・・・・」
「かんちゃん大丈夫~?」
「う、うん。あのね本音、この人は「分かってるよ~」本音・・・」
「かんちゃんに悪戯するれんれんにはO☆HA☆NA☆SHIが必要だもんね~」
「え?いや、本音、違「くらえ~!!憤激ののほほんさんバースト~!!」「ぐへあぁ!!」」
レンを仰向けに向かせ鳩尾に向けて容赦なく全体重を掛けたのしかかりをする本音。気絶しているのだろうがレンの口からは苦しみを訴える声が漏れている。レンの気が付くまで延々と本音のO☆HA☆NA☆SHIは続くのであった
『やれやれ、ここまで女性の心が分かっていないとはね』
とフィリップはため息をついたという
気絶から復活したレンは簪から事情を聴く
そして、彼は簪の専用機の開発を手伝うことになった
一方、秋良は未だに何かに悩んでいた。そんな時に彼の前に現れた鈴。彼女は男性操縦者のデータを取りたいので、秋良に模擬戦を申し込む
嘗ての幼馴染のお願いを断ろうとしたが、このまま悩んでいるよりかは思いっ切り動いた方がいいと彼女の願いを受け入れることにした
彼女の専用機、赤く染まる甲龍を見て彼の中に眠る赤い竜が雄たけびを上げる
「その二色の眼で捉えた全てを焼き払え!!現れろ!!オッドアイズ!!」
戦いが終わった後に秋良は答えを出すことが出来るのか
次回、Obiettivo 11お楽しみにお待ちください