やっと仕事がひと段落付いたので更新します
「本音、やりすぎ」
「だってぇ、れんれんがかんちゃんに酷いことしてるように見えたんだもん~」
「いや、確かに俺も悪かった」
攻撃された部分を擦りながらゆっくりと立ち上がるレン。先程の光景、嫌がる少女の手を無理矢理掴んでいる姿は申し訳ないが、犯罪をしようとしている人間にしか見えない
この光景をキサラが見たら、悪・即・斬と言われ、彼の体は2つに分かれていただろう
申し訳なさそうにレンを見る本音の頭を撫でながら、本音の隣に立つ簪を見る。やはりだ
彼女の表情を見ていると、秋良の姿が重なる。やはり、この少女は自分が初めて秋良に会ったときの彼の表情によく似ていた
全ての事に絶望していながらも残された僅かな光に向かって伸びた紐に必死にしがみ付いているあの時の秋良の姿に。秋良にとってはそれが白蘭であり、彼女にとっての紐が先程まで作業していたISなのだろう
しかし、先程レンも言ったことだが、代表候補生ならば鈴やセシリアのように国から専用機が与えられることがある。それにISを組み上げるにしても何人かの作業員を国から与えられるはずだ
しかし、彼女はそのどちらにも該当せずにたった1人でISを組み上げているのだ
「・・・なぁ、お節介だとは自覚している。それでも、俺に話してみてくれねぇか?そりゃあ、普通に考えれば初対面の人間にプライベートな事をベラベラと話すことは出来ないと思う。でもさ、力になりたいんだ。お前みたいな奴を見ていると」
「・・・何で・・・そこまでして私に関わろうとするの?」
「……似てるんだよ・・・・お前と・・・・良弥がな」
「良弥って・・・・千花良弥の事?馬鹿にしてるの?私とあんな才能の塊みたいな人が似ているなんて」
秋良の昔を知らない人間がこの話を聞けばそれは馬鹿にするなと言うのも分かる。簪も1組のクラス代表決定戦は観客席で見ていた。自分がこんな状況になった原因である織斑一夏と織斑春香が自分の専用機の開発を凍結してまで専用機を与える価値があったのかを知るため
そして、もう1つは秋良とレンのデータを取るためだ。そこで彼女は見た
ブリュンヒルデの弟と妹を蹂躙し、その後のセシリアとの戦いを見て、彼女はこんな天才が存在するのかと驚き、自分では彼に敵わない。凡人の自分では彼等の場所にたどり着けないと絶望した
「・・・・とにかく聞いてくれ。天才の領域に辿り着こうと努力する人間の話を」
そして、レンは語りだした。あの時の、自分が秋良の相棒になると誓ったあの日の事を。勿論自分がマフィアでミルフィオーレファミリーであることは話さずに
それは秋良達がIS学園に来る時から数年前に遡る。当時、レンはミルフィオーレの諜報部の一員として当時、ミルフィオーレファミリーに入ったばかりのキサラと共に働いていた。当時は頼りになる上司とキサラに揶揄われながらも一生懸命働いていた
そんな時にミルフィオーレファミリーに新しくメンバーが増えるという話がファミリー内で盛り上がっていた。何故、こんなにも盛り上がっているのかというとそのメンバーというのが幹部クラスである真六弔花に行き成り選ばれたからだ
自分達の主である白蘭が世界中を隈なく探して見つけ出した選りすぐりのメンバーである真六弔花。さらに驚いたのは噂だが、その人物の年齢は自分達と同い年だという。そんな少年の顔を一目見ようと仕事の後、基地の中をキサラと共に歩きながら探していた
「しっかし、これだけ探しても見つらないとはな」
「そうね。白蘭様の所にもいるのかしら?」
「そうかもな。それにしても、俺達と同い年の奴が真六弔花に選ばれるなんてな」
「ええ。でもおかしい話ではないでしょう?真六弔花には桔梗様やザクロ様みたいな大人もいればブルーベル様やデイジー様みたいな私達よりも年下の子だっているんだから」
「そうだな。だが、真六弔花の人間は俺達よりもハイスペックな存在みたいだからな。もしかしたら俺達よりももっと年上かもしれないぞ」
「年上・・・ねぇ」
キサラは初めて真六弔花のメンバーと会った時のことを思い出す。仲良くなろうと自分とお菓子を食べようと甘えてくるブルーベルに彼女ほどではないが、本を読んだり遊んでほしいと甘えてくるデイジー。もし、彼等が自分よりも年上だとしたら正直、色々な意味で痛い人だと感じてしまう
そんな時だっただろうか
レン達が歩いている廊下の奥の方から轟音が聞こえてきたのは
この道の先には限られた人間しか入ることの許された場所。この場所に入ることが出来るのは白蘭に情報を伝えるための諜報部と兵器の開発を行っている開発部の人間。そして、彼の幹部である真六弔花のメンバーのみである
恐らく真六弔花の誰かが模擬戦をしているのだろうと思い。もしかしたらそこに行けば目的の人物に会うことが出来るかもしれない。そんな思いを抱きながらキサラと共に目的の場所に掛けていく
‐ニャア
‐ニャオン
その2人の後ろを2匹の猫、白い毛を持った猫と黒い毛を持った猫は彼等の後をこっそりと付いて行く。この時はレンとキサラはこの猫の存在に気づけなかったという
轟音が聞こえてきたのはやはり真六弔花専用に作られたトレーニングルーム。ここは通常のトレーニングルームよりも死ぬ気の炎の耐性が10倍以上に設定されている。そうしなければ真六弔花達のトレーニングをすることが出来なくなるからだ
そこでレン達が見たのは桔梗、ザクロに挟まれた状態でフラフラになりながら何とか立っているという状態の秋良の姿だった。至る所から血が流れ、意識をほぼ失いかけているといった状態だ
「ハハン。中々頑張っているようですが、ここまでのようですね」
「ああ。白蘭様よぉ、もう終わりでいいか?」
『駄目だよ。この子が降参するまではやめるなって言ったよね?』
管制室らしき所からマイクを通して白蘭の声がアリーナに響き渡る。それを聞いたレンとキサラは正気なのかと自分達の主を疑った。どうみても目の前の少年はこれ以上戦えるような状態ではない。にも拘らず、白蘭は更に戦闘を続けさせようとする
これ以上少年を戦わせることで何か覚醒すると考えているのだろうか。するとそれを聞いた桔梗が匣に雲属性の炎を注入し、匣を開匣させる。すると匣の中から何体もの雲属性の紫色の炎を灯した恐竜が鳴き声を上げながら飛び出てきた
これは桔梗のために白蘭が作成した匣兵器、雲ヴェロキラプトルヌーヴォラヴェロキラプトル。現れた小型の恐竜達の標的は前方でフラフラと今にも倒れそうになっている秋良に定められた。そして桔梗の合図を待たずに秋良に向けて駆けていく。肉食恐竜の持つ本能で弱った獲物に止めを刺して自分達の胃袋を満たそうとその牙を秋良に向ける。明らかに手加減を一切しない、目の前の少年を確実に殺そうとしている
レンとキサラは白蘭のいる管制室に走り、白蘭に戦闘を中止させようとするが、今から管制室に掛けて行っても、その頃には秋良の体はヴェロキラプトル達の胃袋に収まってしまうだろう。目の前の透明なガラスを破壊して中に入ろうとするが、先程も言ったようにこのトレーニングルームは普通のものよりも10倍以上の強度を持っている。いくらレンとキサラの力で破壊しようとしてもビクともしない。そんなことを考えている間にも恐竜達は秋良に近づいていく
鋭い牙が秋良の体に突き刺さる。レンとキサラは思わず目を閉じてしまう
それくらいの時間が経っただろうか、もう秋良は恐竜達の餌になってしまっただろうか。そんな不安を抱きながらゆっくりと目を開けると、そこには首から上が胴体から切り離された状態で横たわって動かなくなったヴェロキラプトル達がいた。そして顔を下に向けたまま動かない秋良の手にはいつの間にか彼の身長を超えるほどの長さの藍色の炎を放つ剛槍、神鉄如意が握られていた
「・・・これは」
「ふん、ようやく目覚めたって所か?」
「ええ、あの剛槍、白蘭様が彼の為に作った匣兵器でしょう。それにしても美しい藍色の炎ですね。私達の死ぬ気の炎は炎の純度が高いほど混じり気のない澄んだ色をするものです。そして、その純度が高ければ高いほど属性の持つ特性を最大限に発揮できる。最も、それは私も同じことですけれどね」
桔梗の手に嵌められたマーレリングが紫色の炎を発すると、切られて横たわっていたヴェロキラプトルが切られた部分から再生していき、その数を増やしていく。1体だったものが2体に増え、10体だったものが20体に増えていき、再生したヴェロキラプトルから次々に秋良に襲い掛かる
それを顔を俯かせたまま神鉄如意を振り回し、再び全てのヴェロキラプトルが地に倒れる。しかし、再び桔梗の雲の炎によって切られた部分が再生していきその数を倍に増やす。そして、40体に増えたと思いきや桔梗のマーレリングが強く発光しどんどん数を分裂させていき、トレーニングルーム内はヴェロキラプトル達で埋め尽くされそうになっていた
「バーロー!!こんなに増やしやがって、邪魔でしょうがねえだろうが!!」
「あなたは黙ってみていればいいんですよ。さあ、行きますよ織斑秋良君。あなたが私達と同じマーレリング所有者ホルダーならば、白蘭様に選ばれた人間ならばこの程度の壁は難なく乗り越えてもらわなければ困りますよ」
アマゾン川に落ちた獲物に群がるピラニアの如く秋良に襲い掛かるヴェロキラプトル達
すると、先程まで俯いていた秋良の顔が突如起き上がり、ハイライトのない光を桔梗達に向け、神鉄如意を上に放り投げる。ヴェロキラプトル達にとっては獲物が自ら武器を放棄してくれてありがたいといった感じで秋良に飛び込んでいく
すると、藍色の光を放つマーレリングの隣に嵌めていたマーレリングから緑色の光が放たれ、その光が秋良を包み込む。ヴェロキラプトルの鋭い牙が秋良に襲い掛かろうとした時、その緑色の光によって弾かれてしまった
「あれは雷の炎・・・・成程、大空の中でも最も強度の高い炎で自分を守ったわけですか。ですが、その程度のバリア、破られるのは時間の問題ですよ」
「バーロー!!んなことしなくても、俺の嵐の炎なら一瞬だぜ!!」
ザクロが指に嵌めていたマーレリングを秋良に向けると、そこから赤い光が筒状になりながら秋良に迫る。雷の属性の持つ特性の硬化を嵐属性の炎の特性である分解で破ろうというのだ。赤い光は秋良とザクロの間にいたヴェロキラプトル達を巻き込んで秋良を包み込む
光が晴れると、そこには文字通り何もなくなってしまった
ヴェロキラプトル達の死骸や秋良の姿も跡形もなく消えてしまったのだ
「はっ!!俺様にかかればこんなの朝飯前だぜ!!」
「全く、また探さなくてはなりませんね。霧と雷のマーレリング所有者ホルダーを。まぁ、最もそれは
あの少年があなたの言う通り跡形もなく消えていればの話ですが」
「あん?何言ってんだよ目の前見ればはっきりs「スティンガー・・・・ブレイド・エ・・・・クスキューション・・・・シフト」あん?・・・・っ!!」
秋良の声が聞こえてくると同時に体全体が寒気によってブルブルと震えだす。そして声のした方向、神鉄如意が放り投げられた上を見ると、自分達に向けて手を向ける秋良。その前に
無数の神鉄如意が自分達に狙いを定めていた
「こいつは」
「成程、先程までバリアで護られていたのは霧の炎で作った幻覚。そしてザクロが攻撃した時、その攻撃の範囲外に移動して、霧の炎を使い、この壮大な光景を作り出したわけですか」
「はん!!所詮この武器達も幻覚だ。本物は1本だけだろ!!」
「そうですね(本物はザクロの言う通り1本なのは間違いないでしょう・・・・しかし、私の推測が正しければ、この武器達は全て)」
秋良の手が上から下に降りた瞬間、無数の神鉄如意が桔梗達に向かって飛んでいく。神鉄如意が貫通したヴェロキラプトル達は一瞬でその命を散らしていく。そう、全ての神鉄如意が実体を持っているのだ
「やはり・・・・これは実体を持つ幻覚・・・・ボンゴレ霧の守護者、六道骸も得意とする有幻覚ですね。流石は白蘭様がお選びになったマーレリング所有者ホルダー。ですが、まだまだ行きますよ」
桔梗のマーレリングがより一層輝き、再び数を増殖させていく雲ヴェロキラプトル。秋良はゆっくりと地面に降り立つとそのまま体を前後にフラフラと揺らせ、そして、前のめりに倒れてしまった
それを見た桔梗が雲ヴェロキラプトルを匣に戻し、ゆっくりと秋良に近づいていく。そして、その顔を見ると、死ぬ気の炎を使い過ぎて気を失ってしまったようで苦しそうにしている
「白蘭様、どうやらここまでのようですね」
『そうだね。僕としてはもうちょっと見ていたかったけど、仕方ないかな。桔梗ちゃん、悪いけど彼を医務室に連れてってもらえる?』
「申し訳ありません。これから私は任務で出掛ける用事がありまして・・・・なので」
桔梗はふと、この室内が見える窓に目を向けると、そこにこちらの様子を心配そうに見ているレンとキサラの姿を見つけた
「あの2人に任せるのはどうでしょうか?」
『ふーん・・・・まぁ、桔梗ちゃんが出来ないなら仕方ないよね。分かったよ。僕の方から2人には頼んでおくから』
桔梗のいるアリーナの壁には完全防音の設備が整えられているため、中の声は管制室からでないと聞くことが出来ないのだ。その後、白蘭に頼まれたレンとキサラはそれに断ることもせずに秋良をレンが背負って医務室に向かう。傍から見れば完全に兄に背負われている弟のようにしか見えない
それほど秋良の体は小さく、軽かった。こんな体であれ程の戦いを、それこそ気絶する程まで戦おうとする秋良の考えが2人には理解できなかった
そしてアリーナから歩いて5分ほどの場所にある医務室。その中のカプセルの中に秋良を入れて口に酸素マスクをはめて蓋を閉じる。すると、すぐに秋良の体全体が透明な液体に包まれる。このカプセルも白蘭が仮想世界パラレルワールドで得た知識を基にして作られたもので、患者の持つ死ぬ気の炎を使い、それを液体の中で晴れの活性の炎に変換することで肉体の回復を短時間で行うことが出来るという優れものだ
ほんの5分程だろうか。秋良につけられた傷は跡形もなく消えてしまい、閉じられていた目がゆっくりと開かれる。瞳に光が灯ると、彼の視界には自分の方を見ている2人の姿。どうやら彼等もミルフィオーレファミリーの一員なのだろうが、ここに来たばかりの秋良は一体この2人は誰なのだろうかということと自分の置かれた状況に疑問を持っていた
何故自分はカプセルの中に入れられているのだろう
そして、段々と記憶が戻ってきた。自分は特訓の為に桔梗、ザクロと戦い、その最中に気絶してしまったようだ。白蘭からは自分が降参するまで辞めることは許さないと始める前に言われていた。しかし、降参もせず気絶してしまうという結果。秋良は手を頭に抱えて顔を真っ青に染める
「お、おい!!どうしたんだ!!」
「しっかりしなさい!!」
『・・・・だ・・・・もう・・・は・・・・・だ』
急に顔を青く染めて何かに恐怖するようにガタガタと体を震わせる秋良に戸惑いを隠せないレンとキサラ。その恐怖の中で秋良は小さな声で何か呪文をつぶやくかのように同じ言葉を繰り返す。聞こえてきたのはもう1人は嫌だという言葉
幼い頃から孤独という地獄を味わってきた秋良にとっては自分が傷つくことよりも1人になることが何よりも恐ろしかった。故に彼は子供の頃から周りの人間に認めてもらおうと努力した。しかし、その結果は秋良の望むものとは反対に、周りの人間達はどんどん秋良から離れて行った
そして、誘拐され、千冬の言葉を聞いた瞬間、彼は本当に1人になってしまった。そんな彼に手を差し伸べた白蘭は彼にとってまさに神様だった。そんな白蘭に失望されてしまったと思い込んでいる秋良は白蘭が自分を使えない奴だと言って捨ててしまうのではないか
また自分は孤独になってしまうのだろうかという恐怖が彼を支配する
『もう1人は嫌だもう1人は嫌だもう1人は嫌だもう1人は嫌だもう1人は嫌だもう1人は嫌だもう1人は嫌だもう1人は嫌だもう1人は嫌だもう1人は嫌だもう1人は嫌だもう1人は嫌だもう1人は嫌だもう1人は嫌だもう1人は嫌だもう1人は嫌だもう1人は嫌だもう1人は嫌だもう1人は嫌だもう1人は嫌だもう1人は嫌だもう1人は嫌だもう1人は嫌だもう1人は嫌だもう1人は嫌だもう1人は嫌だもう1人は嫌だもう1人は嫌だもう1人は嫌だもう1人は嫌だもう1人は嫌だもう1人は嫌だもう1人は嫌だ』
秋良の精神に甚大なダメージを受けたことでカプセルから緊急を伝える警報が鳴り響く
カプセルを開けて秋良を中から出そうとするが、カプセルの蓋はビクともしない。このままではいけない。どうしてこうなったかは分からないが早急に彼をこの中から出さなければならない。キサラは秋良に呼びかけながら蓋に手をかけ、力づくでこじ開けようとする
「しっかりしなさい!!今、出してあげるから!!え~と、停止ボタン・・・・停止ボタンは・・・・」
「お前みたいな機械音痴に任せられるか!!そこをどけ!!」
キサラが振り返ると、手に晴れの炎を宿したレンが拳を振り抜こうとしていた
慌ててキサラが避けると拳を振り抜き、カプセルのガラス製の蓋を破壊する。透明な液体が滝のように外に噴き出す中、手に傷がつくことも気にせずに秋良を中から救出する。傷ついた彼の手は自分の持つ晴れの活性の炎によって瞬く間に塞がっていく
カプセルから出た秋良はただただ同じ言葉を呟きながらガタガタと震えているだけだった
「倒れるまで特訓させるなんて随分スパルタな人なんだね~」
本音が感想を言う中、ここまでの話を聞いても簪は秋良が自分と同じとは思えなかった。死ぬほどの努力をしたのは分かるし、気の毒だなとは思った。しかし、才能があったからこそ特訓の成果であれ程強くなれたのだろう。織斑一夏や織斑春香のような何もしないでただ吠えているだけの自称天才とは違い、彼こそが真の天才なのだろう
やっぱり自分とあの男は住んでいる世界が違う。そう思いながら格納庫から出て行こうとする
「・・・・話はまだ途中なんだが?」
「もう十分。確かに彼がただの天才ではないことは分かった。それでも彼と私が同じとはとても思えない」
レンにそう告げ、背中を向け出口に向かおうとする。その後を慌てて追いかけようとする本音
「・・・・あいつが子供の頃、才能がないというだけで虐待を受けていたって言ってもか?」
「・・・え?」
「俺達もここに来る直前に聞いた話だ。優秀な姉と兄に追いつこうと血の滲む様な努力をして、そして、その領域にたどり着けなかった・・・・それがこいつ、千花良弥なんだ」
「ええ、だからこあの子は「キサラ」ご、ごめんなさい」
レンの言葉にキサラが続こうとしたが、強く言い、中断させる
これ以上話せば自分達の存在がバレてしまう可能性が出てくる。それにキサラが話そうとしている話はとてもではないが平和な環境で生きてきた目の前の少女達に話せる内容ではない
「ま、俺から言えるのはこんな所だな。俺達も自分の専用機の調整とかあるからまたここに来るとは思うけど、そん時はよろしくな」
「お邪魔して御免なさいね」
簪の横を通り抜けて格納庫から出ていく
何故、あの男の話を聞いてしまったのだろうと疑問に思う簪。優秀な姉と兄に追いつくことができなかった千花良弥という少年に話を聞いてみたいと思った簪は本音と共に格納庫を後にした
「はぁ・・・・」
その頃、秋良は学園の食堂でココアをテーブルに置いた状態でぼぅっと外を眺めていた。相変わらず何かに悩んでいるようだ。そんな物思いにふける秋良の姿に母性本能を擽られている食堂内の生徒達は秋良の姿に見とれてしまっている
そんな生徒達の間を掻い潜るように1人の生徒が秋良に歩み寄る
「秋・・・・じゃなかった。千花良弥だったかしら?」
「・・・・あぁ、2組の鳳さん。どうかしましたか?」
秋良の前に立つ鈴。彼女は何も持っていない手ぶらの状態だったので、自分と話をするためだけにここに来たようだ。自分だけ座っているのも失礼なので、席に着くように促すと、それに従い秋良の向かい側の席に座る
「実はお願いがあってね。私と模擬戦してほしいのよ」
「成程、代表候補生として世界で数人しかいない男性操縦者の戦闘データを取ってきてくれと本国の方にでも頼まれたわけですね」
「察しがよくて助かるわ。まあ、それとは別にちょっと確認したいことがあってね」
彼女が確認したいことが何かは分からない、というよりも色々な可能性が考えられるが、これだと言った答えが出ない。それに悩み過ぎてパンクしそうになっている頭をすっきりさせるには丁度いいと思った秋良はココアの入ったカップをグイッと飲み干し、席を立つ
「いいですよ。でも、アリーナは予約でいっぱいだったはずですが」
「その心配は無用よ。さっき予約取ってきたから」
「よく取れましたね・・・・ああ、織斑先生に頼んだわけですか」
「ええ、本当はあんな奴に頭下げるのも嫌なんだけどね・・・・出席簿1発で許可してくれたわ」
彼女の顔をよく見ると、痛みに耐えるかのように僅かにプルプル震えており、頭には僅かだがコブが出来ているようだ。彼女に心の中で合掌し、共にアリーナに歩いていく
彼女の隣を歩くのは何年ぶりになるだろうかと子供の時の思い出を懐かしみながら歩く。それは隣にいる少女も同じ想いだった。見た目は変わってしまっている。こんなに鋭い刃物のような瞳をしていなかった。だが、鈴は本能で感じていた
「(やっぱり、あんたは秋良なんだよね。一夏や春香には分からないけど、私には分かるんだから。お姉ちゃんを心配させた事、許していないんだからね)」
「・・・・あの、僕の顔に何かついていますか?」
「ううん、背は低いのにそんなにカッコいい表情も出来るんだなって思ってね」
「っ!!せ、背が低いのは・・・・鈴おn・・・・鳳さんも一緒じゃないですか」
「そうだったわね(ふふふ、本当に変わらないわね。背が低いことを言われたらムキになるところは)」
見た目は若干秋良の方が背が高いのだが、傍から見ると鈴の方がお姉さんに見えてしまう。先程の会話を聞いていた生徒達は鈴が予約したであろうアリーナに我先にと向かう
中国の代表候補生、というよりも国家代表に最も近い代表候補生と言われている鳳とクラス代表決定戦で一夏と春香、セシリアに勝った秋良
このビッグカードを見逃すわけにはいかないとかけていくのであった
アリーナに入ると、お互いのピットの方向に分かれ、更衣室で模擬戦の準備をする秋良。彼の指にはめられた4色のリングから赤い光が灯る
-ギャウゥン
「・・・・うん、そうだね。多分鈴お姉ちゃんは気づいていると思うよ。でも、あの人から接触がない限りは今のスタンスで行こうと思うんだ・・・・君が悲しむことはないよ。これが僕の選んだ道なんだから
さ、鈴お姉ちゃんと戦うのは確か、僕が誘拐されたモンドグロッソの直前くらいだったから・・・楽しみだね・・・うん、そうだね。僕達のエンタメを皆に見せてあげよう」
リングに向かって話しかける秋良。傍から見ればかなりイタイ人間のように見えるが、秋良は何時頃からは分からないが、自分の専用機の中に眠る4体のドラゴンと会話をする事が出来るようになったのだ。初めてドラゴン達の声が聞こえてきたときは心霊現象が起きたと驚いてミルフィオーレの基地の8分の1を破壊してしまったぐらいだ
戦う準備を整えた秋良はピットからアリーナに出ていくと、そこには既に専用機、甲龍を装備し、2振りの青竜刀を両手に持った鈴が待っていた
秋良がアリーナに入ってきた瞬間、観客席から大声援が響き渡る。辺りを見回すと、クラス代表決定戦の時のように観客席に空きがないほど生徒達で埋め尽くされていた
その中で鈴は専用機甲龍を身に付け2振りの青竜刀を両手に持ち、秋良が入って来るのを待っていた
「(秋良の戦闘の映像はここに来てから少し見させてもらったけど、まさか専用機を幾つも持っているとは思わなかったわ。それに一夏と春香を倒したあの戦闘能力・・・・どうやってイタリアの大企業のテストパイロットになったのかは分からないけど・・・・多分、あたしよりも強い)」
いいじゃないか
興奮によって彼女の持つ手に力が入り、青竜刀がそれに応じるかのように振動する。自分よりも強い人間と戦うことができる。これ程気分が高揚することがあるだろうか
何時から自分がこんなにも戦闘狂になってしまったのかは分からないが、今はこの気持ちに正直になった方がいい
そんなことを考えていると、秋良のいるピットの方から漫画などに出てくるドラゴンの咆哮の様なものが聞こえた気がした
それと同時にピットの方から赤い光が見える
「その二色の眼で捉えた全てを焼き払え!!現れろ!!オッドアイズ!!」
ピットから飛び出してきた秋良
全身を甲龍の様な赤で染まり、秋良の目があるであろう場所は2色の色が塗られており、ドラゴンの尾の様なものが生えている
しかし、鈴が映像で見たダークリベリオンやクリアウィングの様な翼は無く、飛行能力が備わっていない様に見える
「レディを待たせるなんて酷いんじゃない?それにそのIS、あんたの他の専用機みたいに翼がないみたいだけど、それで大丈夫なわけ?」
『ええ、そのことでしたら心配無用ですよ。それにそんなに余裕を持っていると、織斑姉弟のようにすぐに負けてしまいますよ?』
「はっ!!あんな奴等と一緒にして欲しくないわね。それに余裕じゃないわよ・・・・・楽しいのよ。多分あたしよりも強いあんたと戦うことができるのは」
『(相変わらずだね鈴お姉ちゃん)そうですか。ではその期待に応えれるように僕も精一杯あなたと・・・観客の皆を楽しませるとしましょう・・・・見せてあげますよ。僕とオッドアイズによる最高のエンタメを』
お互いに笑みを浮かべると試合開始のブザーが鳴り響く
鈴は青竜刀をクロスするように構え、スラスターを噴かせ、秋良に迫っていく。一見、一夏や春香のように唯々闇雲に突っ込んでいく猪のようにも見えるが、秋良は彼女のISの方の部分に装備された武器であろう部分が作動しているのが見えた
それを確認した瞬間、何かが秋良の体にめり込む
『ぐふっ!!(見えない攻撃・・・・やっぱりあの肩の部分にある武器に秘密が)』
その攻撃の勢いを殺すことができず、アリーナの壁まで吹き飛ばされてしまう。それを見届けた鈴は青竜刀をクロスしていたのをやめて、左右の手に持ち替えて秋良目掛けて投げつける
秋良の左右両側から襲い掛かる青竜刀、横に避けることは出来ない、後ろにはアリーナの壁、正面に回避することも出来るが、そうするとこちらに向かってきている鈴の近接攻撃の餌食になってしまう
多少のダメージ覚悟で鈴と近接で戦えないこともないが、このオッドアイズはセシリアのブルーティアーズと似ていて遠距離からの攻撃がメインとなっており、近接の武装はそれほど威力がないのだ
『(仕方ない上に避けるしかないか)』
上空に飛び上がる秋良、そして鈴よりも高い位置からハイパーセンサーで彼女の表情を見た秋良は彼女の口元が僅かに動いているのを見た。その彼女の口の動きから何を言っているのかが分かった
ビ・ン・ゴ
それと同時に秋良の頭上に浮いていた鈴のISの装備から見えない攻撃が秋良に襲い掛かる。再び轟音と共に秋良の体は地面に叩きつけられてしまう。それと同時に左右から鈴の投げた青竜刀が秋良に襲い掛かり、先程よりも大きな音が鳴り響き、秋良の姿が煙で見えなくなってしまった
戻ってきた青竜刀を両手に持ち、秋良の姿を見ようと目を凝らす。しかし、ハイパーセンサーには秋良の倒れている姿が僅かに見える
開始直後からの鈴の猛攻に会場はヒートアップし、秋良の勝利を信じている生徒達は悲鳴を上げている
「(取り合えず先制攻撃は成功したわね。どうやら秋良の企業には龍砲のデータは知られていないみたいね)」
龍砲とは彼女の専用機甲龍に装備された第3世代型兵器であり、空間自体に圧力をかけ砲身を作り、衝撃を砲弾として打ち出す衝撃砲で、砲弾だけではなく、砲身すら目に見えないのが特徴だ
秋良の知らない武器で彼にダメージを与えることは成功した。しかし、問題はここからだ。企業代表と言われている人間ならば今の攻撃である程度龍砲のことは予測されてしまうだろう。その中で如何にして自分の得意な距離で戦うことができるか
そんなことを考えているとハイパーセンサーが秋良の姿をとらえた
その位置は
「(私の・・・・・後ろ!?)くっ!!」
スラスターを噴かせ、咄嗟に左に避けると、先程まで彼女がいた場所を赤い光が通り抜け、地面に大きな穴をあける。発射された方向を見ると自分に向けてオッドアイズの武器であるキャノン砲を構えている秋良がいた
「そんな!!いつの間に後ろに。だってさっき!!」
確かにハイパーセンサーは秋良が自分の前の方向に倒れていると判断した。しかし、実際に秋良は自分の背後にいた。ハイパーセンサーに知られないでどうやってあの距離を移動したのか。そう考えながら秋良が倒れていた方を見ると、僅かな藍色の光が消えていくのが見えた
「(あの光は?)『余所見をしている暇はありませんよ?』くっ!!」
今度は自分の頭上から声と共に赤い光が突き抜ける
それにしても飛行能力が見られなかったオッドアイズがどうやって移動しているのかと思考を巡らせていると、観客が歓声を上げている声が聞こえた
その声の内容に違和感を感じた
『すごいねー』
『綺麗!!』
凄いは分かるが、綺麗とはどういうことなのだろうかと考え、その声を発したであろう生徒の方を見ようとした鈴は思わず上空を見上げた
美しい虹の道が架けられたアリーナ内で激しく戦いを繰り広げる秋良と鈴
彼の見せる人を楽しませる戦い方に魅了されていく鈴
そんな楽しいショーをぶち壊しに乱入してきた白
楽しみにしている生徒達を悲しませる目の前の白に秋良は憤りを感じ、彼の戦いに魅了された鈴も白の次に乱入してきた黒に牙を向ける
戦いの後、秋良は何かを決心したかのようにどこかに電話をかける
果たして彼の出した答えとは
「・・・・はい。僕は」
次回、Obiettivo 12お楽しみにお待ちください