「春香姉!!急いでくれよ!!」
「待ちなさい一夏!!何をそんなに急ぐ必要があるのよ!?」
一夏と春香は廊下を走っていた。千冬に見つかれば出席簿は回避出来ないのは分かっているのだが、それでも一夏には急ぐ必要があった
それは今まさにアリーナで行われている秋良対鈴の模擬戦の事だった。しかし、彼の頭の中でかなり歪んだ方向に解釈されたという言葉が先に来るが
「鈴がアリーナで練習してきたときに秋良の奴が襲って来たんだろ!!急がないと鈴が危ないじゃないか!!」
「(どれだけ妄想豊かなのよこの愚弟は!!私達は別のアリーナで練習していた時に秋良対鈴の模擬戦が行われているって聞いただけでしょ!?)とにかく落ち着きなさい!!こんなところを千冬お姉様に見られたら」
「だったら春香姉は後から来ればいい!!俺は一刻も早く鈴を助けないといけないんだ!!」
「あっ!!一夏!!・・・・・・もうっ!!」
本当に走るのを止めようかと思ったが、暴走している一夏に付いて行かないと何処でどんな問題を起こしてしまうか分からない。本当なら秋良の名前を出すこと自体自分達家族に危険が及ぶというのにこれ以上問題を起こされてしまっては流石の千冬でも対応しきれなくなってしまう
「・・・・・剣道の才能だけで秋良を捨てて一夏を選んだのは間違いだったかしらね」
「え?なんか言ったか?」
「何でもないわ。まぁ、あなたの言っていることが事実である可能性もあるからね。急ぎましょうか」
「ああ!!待ってろよ鈴!!俺が今助けてやるからな!!」
妄想に向けて全力で走る弟に溜め息をつく春香。最早この愚弟の暴走を止めることができるのはこの世には存在しないのだろうか。間違いなく存在しないだろう
Ⅹ
「・・・・凄い」
そんな暴走姉弟がアリーナに近づいてきていることなど知りもしない鈴は、アリーナ内で自分の上空に起きている異常事態に声を漏らすことしかできなかった
上空に何もなかったアリーナ内
しかし、今はどうだろうか。美しい7色の虹の橋が天に向かっているかのように無数に架けられていた。その中の1本の虹の橋の上に秋良は立っていた
そう、これが彼の専用機、オッドアイズに隠された能力の1つ
彼の死ぬ気の炎をエネルギーにして何もないところに虹の橋を形成し、飛行能力の備わっていないオッドアイズを空中で戦えるようにしたサポート能力だ
『理解してもらえましたか?最初に僕が問題ないと言った理由が』
観客の歓声で消えないようにプライベートチャンネルで鈴の耳に聞こえてくる秋良の言葉。そうか、これが彼の言った理由の正体、そして彼が言ったエンタメという言葉。エンターテインメントを省略した言葉だということは分かっていたが、まさかこんな方法で観客を魅了するとは思わなかった
これ程、心の底から歓喜することがあっただろうか
最早嬉しさを隠し切れず秋良のいる上空に向けて笑い声をあげる鈴
「あははは!!!!最高じゃない!!最高の舞台に最強の相手!!これで満足しないわけないじゃない・・・・ねぇ、あと1つ聞かせてくれる?」
『何ですか?』
「あなた・・・・秋良なんでしょ?」
『・・・・・・・ちg「あいつらと違って私にはちゃんと分ってるからね。お姉ちゃんを心配させた分、後でO☆HA☆NA☆SHIがあるから・・・・逃げるんじゃないわよ」』
強制的に通信を切られてしまったが、ハイパーセンサーで秋良を拡大してみると、フルフェイスの淵から液体の様なものが大量に溢れ出している
恐らく、過去に受けた鈴からのO☆HA☆NA☆SHIを思い出して全身から冷汗が止まらないのだろう
「さて・・・・それは後にしておいて・・・・まずは・・・・・この戦いを楽しみましょうよ!!」
スラスターを噴かせて上空に飛ぶ甲龍。オッドアイズは虹の橋を飛び上がったり、下りたりしながらキャノン砲から赤いビームを放ちながら彼女の接近を躱す
美しい虹のフィールドの中を飛び回る秋良と鈴。流石は企業代表と最も国家代表に近いと言われている人同士の戦い、観客のボルテージは更にヒートアップしていく。放課後で本来ならば各々の自由な時間を過ごしているはずなのだが、今、この瞬間、彼等は2人の戦いに目を奪われていた
「喰らいなさい!!」
青竜刀、双天牙月を連結させ、ブーメランのように投擲する。それをジャンプすることで躱しながらキャノン砲を放つ。それを肩に装備している非固定浮遊部位アンロックユニットから龍砲を放ち相殺させる。ブーメランの要領でUターンし再び秋良に迫る双天牙月をオッドアイズの尻尾で弾き落とす
その間にスラスターを噴かせて急接近しながら右足を秋良に向けて突き出す。それをオッドアイズの手を使って掴むことで防御する。しかし、威力が強かったのか、オッドアイズの手の部分の装甲が一部破壊される。しかし、秋良も手を瞬時に放すと、体を回転させ、尻尾の部分で甲龍を薙ぎ払う
「ぐうっ!!」
『っ!!螺旋のストライクバースト!!』
キャノン砲から放たれた紅のビームが螺旋状に複雑な軌道を描きながら鈴に迫る
「それを受けるわけには・・・・いかないわね!!」
連結したままの双天牙月をバトンのように回転させることで秋良の攻撃を防ぐ。ハイレベルな戦いに観客席で見ているセシリアも鈴の実力に感嘆の声を漏らす
「流石、中国で最も国家代表に近いと言われているお方ですわね。良弥様に対してあれ程の戦いが出来るとは「かんちゃん、はやくはやく~」「ほ、本音、待って」あら?布仏さんではありませんか」
「あ~、せっしーだぁ。ここ空いてるから座っていい?」
「構いませんわよ。それに確かあなたは日本の代表候補生の更識簪さんではありませんか」
「は、初めまして。イギリスの代表候補生セシリア・オルコットさん」
「セシリアで構いませんわよ。その代り私も簪さんと呼ばさせてもらいますわ」
「あ~、かんちゃんだけずるい~。私ものほほんさんって呼んでよ~」
「ふふふ、分かりましたわ。のほほんさん」
子供のように喜ぶ本音を間に挟むようにして座る簪。本当はここに来るつもりはなかったのだが、格納庫でレンとキサラの話を聞いて、もう一度よく見てみたいと思った。そんな時にアリーナで秋良が中国の代表候補生と模擬戦をしていると本音から情報を貰い慌ててここに来た。秋良が本当に自分と同じ経験をしてきたのか、そして、自分はあの領域にたどり着くことができるのかを
「今はどんな状況なの?」
「どちらも決め手に欠けている・・・・・といった感じですわね。良弥様はこの虹の橋を使って器用に躱しながらの遠距離攻撃。それを搔い潜りながら良弥様に接近戦を仕掛けたい鳳さん・・・・SEのダメージもお互いに残り50%ぐらいですから、エネルギーの残量からリスクを冒して自分の得意な距離感に持っていけない鳳さんが僅かに不利でしょうかね」
「50%まであの千花良弥を追い込んだの?」
クラス代表決定戦を見ており、秋良の実力をある程度知っている簪だけではなく、周りで観戦している生徒達もここまで秋良を追い込むとは思っていなかった
てっきり秋良の楽勝で終わると思っていたのだが、鈴の実力が皆の予想以上に強かったので、誰もが予想だにしない展開になっていた
2人の戦いを見て思う
何故自分にはあれ程の才能がないのか。あれだけの才能があれば自分は姉とは‥‥‥そんなことを考えている簪にセシリアの刃物のように鋭い言葉が突き刺さる
「今のあなたを見ていると昔の自分を思い出しますわ」
「セッシー?」
「昔の‥‥‥あなた?」
「えぇ、強くなろうと努力しても才能のある方達には自分は追い付ける筈がないと勝手に決めつけて努力することから逃げていた私に」
「っ!!」
見透かされている
そもそも、シモンの門外顧問を勤めており、様々な国や組織の人間と交渉などをしているセシリアにとって、目の前の同い年の女の子の思考を読み取ることなど、造作もないことだ
しかし、彼女は勘違いをしている
才能のある人間は全員が必ずしも生まれつきあったものではないということを
「私は何度か彼と仕事をしたことがありますが、その時に何時も思っていましたわ。この方の才能が私にもあれば。ですがあの人と話したことで分かったんです。私がしてきた努力の大きさはあの人から見ればほんの少ししか見えないということを」
死ぬ気の炎の力を強くするのは己の覚悟
全てを失ってでも白蘭の為に力を使うという彼の狂気にも思える覚悟が彼の死ぬ気の炎を大きくし、秀才と呼ばれ、天才ではないと虐められていた少年が、天才の領域に、いや、それよりも遥か上の場所に立つことができているのだ
「ですから、あなたの努力は自分で決めた限界の範囲内での努力。それではあの領域に立つことは出来ませんわ。人は一度、限界を決めてしまったらそこから抜け出すことは難しいと言われています・・・・しかし、私はその限界を決めることを止めたお陰で今、ここにいれるのだと思っています。ですからあなたも・・・・・っ!!」
言葉を発しようとしたセシリアは突如アリーナ内に、正確にはアリーナに出るためのカタパルトが設置されているピットの方に目を向ける。それも先程までの様な優しい感じではなく、氷のように冷たい目だ
「どうしたの?セッシ―」
「いえ・・・・どうやらこの素晴らしいショーを台無しにする愚か者がいるようですわね」
彼女は感じていた
ピット内から感じる2つの弱い、あまりにも弱すぎる炎を
「すみません、少し席を外しますわ。それと簪さん」
「?」
「良弥様とお話してみたくなったら私に言ってください。お話しする場所と時間の提供ぐらいは出来ると思いますので」
そう言い残して簪と本音の元から離れていくセシリア
その心は怒りの炎で燃えていた。自分の恋する人の楽しみを邪魔する者は何人だろうと許しはしない。それが何の覚悟も持たない愚か者ならば生死を問わない
彼女の覚悟を示すかのように彼女の指にはめられた氷河のリングが強い光を放った。そして走りながら彼女は専用機のブルーティアーズのプライベートチャンネルを開く
その相手は
PiPiPiPi
『(ん?プライベートチャンネル・・・・セシリアさんから?)どうかしましたか?セシリアさん。生憎、今少し手を外せない状況ですから急ぎの用でなければ後にしてほしいんですけど』
「私と戦っている最中に誰かと話?舐められたものね!!」
双天月牙を投擲
それを何とか躱しながら接近してくる鈴を体を回転させ、尻尾で進んできた方向に跳ね返す
「ぐっ!!」
『忙しいのは承知しておりますわ。私もアリーナの観客席にいましたから。それよりも今すぐ鳳さんにも伝えてください!!この素晴らしいショーを滅茶苦茶にしようとしている輩がいると』
『何?それは一体「うおおおおおおおお!!!!!」っ!!ちぃ!!』
カタパルトから飛び出してきた白い塊が大声と共に片手に持つ雪片弐型を秋良の頭上から一気に振り下ろす。それをキャノン砲で防御し右足を彼の腹部に突き出し、反動を使って距離を取る
その人物、織斑一夏は蹴られた腹部を抑えながらも怒りの形相で秋良を睨みつける
『・・・・一体、何のつもりですか?織斑一夏さん・・・・それと「受けなさい!!」織斑春香さん!!』
秋良の背後から家具土で切り掛かる春香をキャノン砲を拳の代わりにして彼女を殴りつける。それに直撃し吹き飛ばされる春香を一夏が受け止める
「秋良!!お前・・・・鈴に何てことしているんだよ!!」
『は?』
「ちょっと!!何勝手なこと言ってるのよ!!「お前は黙ってろ!!大丈夫だ!!俺がお前を守るから!!」話を聞きなさいよ!!」
鈴の話も聞かずに秋良に向かっていく一夏。先程まで1対1で楽しんでいた戦いはいつの間にか1対3という圧倒的に卑怯な戦いに変化してしまっていた
『あなた達が参加しても僕には何の影響もありませんが、戦いの邪魔をするなんて、あなたの言葉を借りると随分と卑怯な真似をしますね』
「うるさい!!お前だって女の子にあんな攻撃して恥ずかしくないのか!!」
『戦いになれば男性だろうと女性だろうと関係ない!!ただ強い人間が勝つ。それだけだ!!』
「何がお前をそんな風にしちまったんだよ!!お前の会社の社長か!!だとしたらお前の会社の社長はとんでもない下種野郎だな!!」
『今・・・・・なんて言った?』
彼は引いてしまった。自分を地獄の底に叩きつけてしまう程の死のトリガーを。瞬間、パキンという音と共に彼の手首に巻かれていたタルトロスの戒めが砕け散ってしまった。それを瞬時に悟ったのは日本から遠く離れたイタリアにいる白蘭だった
「・・・・・ん?」
「白蘭様、どうかされましたか?」
「桔梗ちゃん・・・・・ちょっとマズイことになっちゃったみたいでね。これ」
「は?・・・・っ!!これは秋良に付けたタルタロスの戒めの欠片。それが砕けているということは」
「そう。どうやらどっかのお馬鹿さんが秋良君を本気で怒らせてしまったみたいだね」
「いかがなさいますか?」
「取り合えずレン君とキサラちゃんに連絡入れといて(それにしても、ちょっとがっかりかな。秋良君の怒りに満ちた全力をこの目で見る事が出来ないなんてね♪)」
秋良のことを心配しながらも、あの時、秋良がIS学園に向かう前に怒りに満ちた彼と戦った時の光景がフラッシュバックし、思わずタルタロスが巻かれていた方の手に力が入る
彼はあの時からいつも思っていた。いつか、自分が生きている間に全力の彼と戦いたい。そして、あの時の決着をつけたいと
故に白蘭は切に願う
これから始まるイベントの前に彼が脱落してしまわないように
Ⅹ
格納庫から出て、食堂にて休憩していたキサラとレンは桔梗からの連絡を受けて、アリーナに向けて走っていた。秋良の力を封印していたタルタロスの戒めが砕けてしまった。何故秋良がそうなってしまったのかは容易に想像が出来た
「くそっ!!またあの馬鹿姉弟が何かやらかしやがったな!!」
「鳳さんと模擬戦をしているのは聞いてたけど‥‥‥何でこうなっちゃうのかしらね!!」
急がなければならない
怒りに満ちた秋良の、真六弔花の恐ろしさは体感した者にしか分からない。もし自分達が考えていたことが正解ならば急がないと一夏と春香の命が危ない
タルタロスの戒めを施していた状態でも彼等を消すことなど容易にできたのだ。封印が説かれてしまった今となっては彼等の命など数秒で消えてしまうだろう
「ヒダリ、テンドウ!!」
そんな2人に追いつくように現れたのは道着姿の箒と彼女の方に乗っているリボーンだった。よりにもよってこの状況であまり会いたくない人物に出くわしてしまった
道場で本日のノルマをこなしていた箒は突如感じた強大な死ぬ気の炎に持っていた竹刀を落としてしまう程驚いてしまった。これ程の死ぬ気の炎は自分のボスである沢田綱吉、いや、もしかしたらそれ以上の大きさかもしれないと冷汗が頬から滴る
「リボーンさん!!これは!!」
「ああ、すげー死ぬ気の炎だな。この俺が今までこの炎に気づけなかったなんて‥‥‥一体何者だ?」
「とにかく急ぎましょう!!これ程の死ぬ気の炎を持った人間が学園に危害を及ぼそうとする者ならば急いで対処しないと!!」
「ああ、そうだな(外部からの侵入者‥‥‥可能性は0じゃねぇが、これだけの炎だ。近づいただけでも俺が感知できる筈だ。それが急に感知できた‥‥‥内部の人間か?)」
外部からの侵入者なのかそれとも内部の人間によるものなのか答えがはっきりとしないまま箒の肩に飛び乗り、感知された場所に走っている時に同じように走っているレンとキサラに遭遇したのだ
彼等の焦り様から彼等もこの炎の場所に向かっているのだろうと箒とリボーンは察した。つまり、この2人はこちら側の人間。つまりは千花良弥と名乗っていた男もこちら側の人間ということになる
「おめー等もこの炎を感じて向かっているんだろう?」
「(ちっ!!やっぱり秋良の炎を感知されたか。まぁ、アルコバレーノならそのくらいできて当然か。しかし、面倒なことになりやがった。白蘭様の計画もまだ進んでいないのにここで正体をバレるわけにはいかねぇ)」
「(どうするの?レン君)」
この状況では自分達がただの企業代表とイタリアの代表候補生だというのはどう考えても無理がある。こうなってしまっては裏社会の人間だということは明かすしかない。幸い彼女達は裏社会の人間だということは分かっていてもミルフィオーレファミリーだということは分かっていないようだ
「‥‥‥まあな、うちの企業は仕事上、裏社会の人間とも繋がっているからな。俺やキサラみたいに死ぬ気の炎を感知できる人間も雇われているんだよ」
「‥‥‥(企業が裏社会の人間と繋がっている‥‥‥まぁ、不思議な事じゃねぇ‥‥‥だが、まだ何かでっけぇ物を隠してる気がするのは俺の気のせいか?)」
「そうだったのか。とにかく急がないと!!生徒達に危険が及ぶ可能性があるからな!!」
リボーンが考えている最中だが、生徒達を危険に晒す訳にはいかないと目的地に向けてさらにスピードを上げる箒。そして秋良と鈴が戦っているアリーナにたどり着く
箒も道場に向かう最中に秋良と鈴が模擬戦をすることはクラスの生徒から聞いていた。観客席に続く通路を抜けてアリーナの様子が見える場所に着いた箒、そしてその後に続いたレンとキサラは思わず息を吞んだ
それはアリーナ内にいる生徒達も同じ様子だった
『成程、これがあなたの持つ力ですか・・・・実に下らない。その程度の実力で僕の主を侮辱したわけですか・・・・愚か・・・・実に愚かですね。そうは思いませんか?鳳さん、織斑春香さん』
「一夏っ!!」
「(これが秋良なの?あの優しかった子がここまでのことを出来るの?)」
先程の生徒達からの歓声すら聞こえなくなったアリーナ内。驚愕の表情を浮かべる春香と鈴。その眼下で織斑一夏は
「はぁ、はぁ、はぁ・・・・何でだよ・・・・何でなんだよ!!」
オッドアイズからダークリベリオンへと専用機を変えた秋良。ボディには少しの傷もついておらずSEも全くと言っていいほど減っていない。それに比べて一夏の白式は全身がボロボロになっており、空を飛ぶためのスラスターも所々から煙が出ていて、最早、満足に飛ぶことも出来ないだろう
SEも残り僅かしか残っていない。頼みの綱の零落白夜も発動することが出来ない。最も彼にとっては発動する『以前』の問題なのだが
『もう諦めたらどうですか?これが無い貴方など誰が危険だと感じますか?』
そう言いながら彼は右手に握られた純白の剣、本来、一夏の専用機の唯一の装備であり、彼と織斑千冬を繋げる象徴でもある武器、雪片弐型を興味なさげにくるくると回して玩具の様に弄んでいた。乱入してきた一夏と春香。それを秋良と鈴がそれぞれ対応する
春香を相手にした鈴は彼女の直線的な攻撃を躱しながら双天月牙をブーメランのように投げたり、龍砲を使って彼女の接近を封じる。春香と一夏のISの特徴は近接攻撃に大幅に特化しているため、接近さえ封じてしまえばこれ程戦いやすい相手はいない
そうして自分の得意な中距離の位置を保ちながら戦っていると、轟音と共に白い塊が地面に急降下し、砂煙が巻き上がる。白い塊は当然、一夏の白式だ
猪突猛進でオッドアイズからダークリベリオンに換装した秋良に雪片弐型で切り掛かるがクラス代表決定戦から何も変わっていない直線的な太刀筋に呆れながら躱していく。そして、躱し続けることに飽きてしまった秋良は頭上から振り下ろされる雪片弐型を片手で掴み、がら空きになった胴体に強烈な蹴りを喰らわせる。それに直撃した一夏は持っていた雪片弐型の柄を放してしまい、地面に衝突し、現在に至るのだ
「返せ・・・・返せよ!!それは俺と春香姉だけが持っていいものなんだ!!」
『ガキかよ・・・・見るに堪えませんね。その程度の力で貴方は皆を守る!!なんて言葉を言っていた訳ですね。最早、笑い話にもなりませんね。どうしてくれるんですか?僕と鳳さんによる楽しいショーを滅茶苦茶にして・・・・命を捧げる覚悟は出来ているんですよね?』
「五月蠅い!!お前は黙って俺と春香姉と千冬姉の言うことを聞いていればいいんだ!!兎に角!!早くそれを返せ!!」
『(ああ、こいつは・・・・本当に何も変わっていないな)返してあげますよ。こんな玩具』
ゴミを捨てるように雪片弐型を投げる
地面に刺さった雪平を取りに行こうと、僅かに作動するスラスターを噴かせ、雪片を引き抜き、秋良に向ける
その眼前にはダークリベリオンを装着した秋良の右足が迫っていた
サッカーボールの様に蹴り飛ばされ、アリーナの壁に突き刺さる一夏。意識が朦朧としているのか、体に力が入らず、抜け出すことすら出来ないようだ
「僕の事を馬鹿にするだけなら許せました。ですが、僕の主を馬鹿にする人間に与える命はありません」
右手の突起物に雷の炎を込める。それは鮮やかな緑色の光がそこから迸る。それを見た瞬間、レンとキサラは早く秋良を止めなければとピットに向けて走り出す
大空の属性の中で最も硬度のある雷の炎。真六弔花クラスの人間の攻撃を受ければISの絶対防御など紙切れに等しい。つまりあの攻撃を受ければ一夏の命は間違いなく塵と化してしまう。その時、その場にいた全員が秋良の背後に紫色の光が1体のドラゴンを模しているように見えた
そして、緑色の光が全てダークリベリオンの武装に注ぎ込まれるとその手を後ろに引き、一夏に突き出そうとする
狙いは左胸で鼓動する心臓
その部分を貫き、心臓を雷の炎で灰と化す。もしかしたらこの手を突き出してしまえば自分は人ではなくなってしまうかもしれない。それがどうした
この男は何の覚悟もなしに自分の主であり、命の恩人でもある白蘭を侮辱したのだ
そのような人間はこの世界に生きる価値もない
左胸に向けて放たれた攻撃
生徒達は絶対防御があるから大丈夫だろうと思っているのだが、それでも目を背けてしまう
どれ程の時間が過ぎただろうか
1秒
1分
あるいは1時間経っただろうか
目を瞑っていた生徒達はゆっくりと目を開く。そこには
「ぐううううううう!!!!」
双天月牙を交差して秋良の攻撃を防いでいる鈴の姿があった。一夏に攻撃が当たる寸前に彼の前に移動し、防御する
一夏は朦朧とする中、自分を助けてくれた幼馴染に感謝の言葉を贈ろうとする
「鈴、ありg「勘違いしてんじゃないわよ」り、鈴‥‥‥」
「正直あんたなんか死んだって何とも思わないわよ。寧ろそうなってくれた方が嬉しいわよ。だけどね、あの子があんたの腐った命1つで罰を受けるのは納得がいかないのよ」
鈴の死んでくれた方がいいという言葉にショックを受け、朦朧としていた彼の意識は深い闇の底に沈んでいった
ミルフィオーレならばいくらでも揉み消しはきくのだが、ここは中立の立場にあるIS学園。ここで殺人などを犯してしまえば、いくら男性操縦者とはいえ逮捕は必死。更には研究所に送られてモルモットにされる可能性がある。代表候補生として国家の闇もある程度知っている鈴はそんな所に大切な幼馴染を行かせる訳にはいかない
しかし、代表候補生とはいってもそれは表社会である程度力があるというだけ
裏社会
それも1人で戦艦数隻分の戦闘能力を持つ真六弔花の攻撃を防ぐことは容易な事ではない。双天月牙に罅が入り、それがミシミシと悲鳴を上げる
鈴は心の中で思っていた
何故自分はこんな仕打ちを受けているのか
死んでいると思っていた幼馴染と再会できたと思えば会いたくもない幼馴染とも再会してしまい、待ち焦がれていた秋良からこのような攻撃を受けている。それも、死んでほしいと思うくらいの人間の攻撃を代わりに受けている攻撃を防げないという焦りよりも、怒りのボルテージが最高潮に達しようとしていた
そして。それは突如起きた
「この」
ふっと鈴の姿が消える。支えを無くした双天月牙は秋良と共にアリーナの壁に突き刺さる
獲物を見失った秋良、そして、観戦していた生徒達も彼女の姿を捜す。すると、秋良の後ろに現れた鈴
獲物の存在を感知し、振り返る
そこに
鈴の強烈なビンタが襲い掛かる
そして、体を回転させながら、秋良に放った手を天高く突き上げる
「馬鹿ああああああああああ!!!!!!」
ビンタされた秋良は竹トンボの如く高速で回転し、アリーナの天井目掛けて飛び上がっていく
そして、ゴンという鈍い音が聞こえた後、その体は重力に従い、地面に落下し巨大な煙を発生させる。その中で気絶してしまい、ダークリベリオンが解除された秋良は目を回して動けないでいる
そんな彼を甲龍の手で掴み肩の非固定浮遊部位アンロックユニットに乗せてアリーナから出て行こうとする
それを背後から狙おうとした春香だったが、近づいたら殺されるのではないかという程の鈴の殺気に一歩も動けないでいた
『・・・・・・』
言葉が出ないアリーナ内にいる生徒達
後に鈴の右手は怪物を倒したという意味で黄金の右手と呼ばれるようになったという
秋良が医務室に連行されて目が覚めたのは日が暮れた夜になってからだった。目が覚めると医務室の先生に部屋に戻ることを告げて自分の部屋に戻ろうと歩いていく。鈴との戦い
途中で邪魔が入ったり、些か納得のいかない結果になってしまったが、彼女と戦ったお蔭で自分の中で明確とまではいかないがある程度の答えは出たと思う
そう考えた秋良は携帯電話を手に取り、どこかに連絡しようとする
番号を入力し、通話ボタンを押そうとした時だった
ジャキンという音と共に彼の背後のベンチからこちらに向けて銃を構えるリボーンに出くわしたのは
「動くんじゃねぇぞ」
「行き成り物騒ですね。そんなものを僕に向けて構えるなんてどういう考えをしているんですか?」
「俺は面倒なことが嫌いでな、単刀直入に聞くぞ・・・・おめぇ
俺のチームに入らねぇか?」
「・・・・はい?」
てっきりお前は何者だと言われると思ったのだが、まさか自分のチームに入れという勧誘だとは思っていもいなかった秋良は変な声を上げてしまった
「中国の代表候補生との試合は見させてもらったぞ。抜群の戦闘センス、その後の織斑一夏との戦いで見せた巨大な死ぬ気の炎・・・・結果はどうかと思うが、お前の力を貸してくれねぇか?」
「(ミルフィオーレファミリーということはまだバレていないようだな。まぁ、怒りに任せたとはいえあれだけの死ぬ気の炎を見ればそうなるのも頷ける。でも、これで2人目かぁ)」
「・・・・どうやら俺と同じアルコバレーノが既にお前と接触しているみたいだな」
「・・・・ええ、赤いおしゃぶりを身に付けた風という人間が既に僕のところに来ています。最も、彼は僕を勧誘だけして答えを聞かずに並盛に向かうと言って去っていきましたが」
「(風の奴が。あいつが勧誘するほどの人間だ。強ぇのには間違いねぇみたいだな)」
すると、秋良の携帯電話に着信を知らせる音が鳴り響く
ディスプレイには白蘭と映し出されていた。慌ててリボーンから距離を取り電話に出る。白蘭から自分の存在を明かさないようにしているので、出来るだけ距離を取る
行き成り自分から離れた秋良に首をかしげるリボーンだが、話をしているのを見て銃を下ろし、自分が乗っていたテーブルの上に胡坐をかく
『やあやあ、秋良君。今回の事はレン君とキサラちゃんから聞いたよ』
「・・・・申し訳ありませんでした。僕の軽率な行動でボンゴレ側のアルコバレーノに裏社会の人間だということがバレてしまいました。そして恐らくファミリーの人間にも」
彼がいつも方に乗っている箒
リボーンと共にいるということは間違いなく彼女はボンゴレ側の人間。リボーンにバレていないのを考えると、彼等にも気づかれることはないと思うが、警戒を強めなければならない
『そのことなら気にしなくていいよ。どうせもうすぐ全世界に知らせることになるんだからさ。それよりも彼にバレたっていうことは誘われているんじゃない?虹の代理戦争のチームに』
「虹の代理戦争・・・・ですか?確かにチームにならないかと今、誘われていますが。一体何が始まろうとしているんですか?」
『ん~、それならもう少ししたら説明してくれる人が来てくれるんじゃないかな?僕の時もそうだったし。そっか、リボーン君に勧誘されていたか。まあ、電話したのは君の容態の確認とは別にもう1つあるんだけどね』
「・・・・容態は問題ありません。ただ、タルタロスの戒めが壊れてしまったので、常時巨大な死ぬ気の炎を発していることになっていますが」
『まあ、裏社会の人間だってバレたならそれは問題ないよ。それでもう1つの方なんだけどね。秋良君、僕と真六弔花、それにブラックスペルと一緒に戦ってほしいんだよね。橙のおしゃぶりを管理するアルコバレーノ、ユニちゃんの代理としてね』
「・・・・え」
ユニという名前
確か10年後の未来で白蘭が世界を自分のものにしようとしていた存在。その彼女の代理として戦う。その内容は全く分かっていないが、これで3人のアルコバレーノから勧誘を受けたことになる。そして秋良の予想が間違いでなければ
「・・・・白蘭様、アルコバレーノの代理として戦うということは、ヴェルデさんも」
『そうだね。まだ君の所には行っていないみたいだけど。その内君の所にも来るんじゃないかな?なんせ2つのマーレリングに選ばれたんだからね。君みたいな優良物件はないと思うよ』
「・・・・そんな、僕なんてまだまだ」
『あ、因みにこれは命令じゃないからね。君の自由にしていいよ。どの選択をとっても僕はいいと思ってるから。勿論僕のところに来てくれれば嬉しいけどね』
秋良ほどの強力な人材を手に入れなくてもいいという白蘭。そこにあるのは鈴と同じ、強者と戦いという強い欲求。彼はずっと思っていた。本気の秋良と戦ってみたい。2つのマーレリングと自分の持つ大空のマーレリングが衝突するとどうなるのか
楽しさを何よりも優先する白蘭は例えそれが強力な戦力を失ってでも叶えたい願いだった
『それじゃあ、そろそろ切るよ。あんまり長電話してるとリボーン君に怪しまれちゃうからね。それじゃあ僕のチームに入ってくれるならまた連絡頂戴ね♪』
「はい。失礼します」
「話は終わったみてぇだな」
携帯電話をポケットにしまい振り返ると何処から取り出したのか分からないが自分サイズの布団にパジャマ姿で寝転がっていた。しかも、その状態で自分の方に銃を向け続けている。器用な休み方をすると溜め息をつく
「ええ、決断はもう少し待ってもらえますか?そのチームとか説明を受けていない状態で決めるわけにはいかないので・・・・それで、あなたでいいんですね?僕に説明をしてくれるのは」
「ええ、しかし、流石はIS学園ですね。忍び込むのも一苦労でしたよ。まあ、こうして私が侵入できている時点でセキュリティはザルですけどね。ヒャハハ」
秋良の背後の柱の陰から男が姿を現す
チェック柄のハット、ネクタイ、手袋をしスーツを着た男性。それが不気味な笑みを浮かべながらリボーンと秋良の前に現れる
「初めまして。私は虹の代理戦争を企画した者の遣いで尾道と申します。フフッ」
彼の不気味な笑みが暗闇の空に響いた
尾道によって代理戦争の説明を受けた秋良
そして、彼は次の日、学園を休み、自らが力を振るうためのアルコバレーノのもとに向かう。そして、始まる虹の代理戦争
IS学園で開かれるクラス代表決定戦
そこで戦う嘗ての幼馴染鈴と一夏。その戦いを巻き込むかのように始まった戦争。戦いに巻き込まれる一夏と鈴は
そして、秋良の最初の相手となるのは
次回、Obiettivo 13
更新遅くなりますが、お待ちくださると幸いです