時を駆けるマルフォイ   作:ドラ夫

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1994年1月24日

 あれから13年近くの月日が流れた。

 俺ももう24歳だ。

 長かった。実に長かった。

 たった一人で過ごす月日は酷く進みが遅く、また退屈なものだった。

 あの日からも俺は、一人教会で過ごした。

 寂しくはなかった。2年が過ぎた頃、俺は孤独を紛らわせる方法を得たからだ。

 俺はシエラ・レイントンという架空の人物を作り上げた。

 歳は二つ上、豊満なボディで肌は褐色。赤い髪に赤い瞳。父親は冷凍魚の輸入会社で働いていて、母親は近くのスーパーで働いている。

 性格は両親以外で俺が一番親しくしていた人物──ヴォルデモートを参考にした。傲慢で気高く、それでいてかまってちゃん。

 俺は彼女が常にいるものとして生活した。

 一番風呂は譲ったし、風呂上がりもしっかりパジャマを着てから脱衣所を出たし、脂っこいものを食べた次の日はカロリーを気にして野菜中心のメニューにした。身嗜みにも気をつけるようにしたし、教会内もある程度の清潔感を保つようにした。

 シエラ・レイントンに様々な設定を付け足していくのは楽しく、俺は直ぐに彼女に夢中に成った。

 

 17歳を超えた頃から魔法の練習も始めたが、ライバルも師もいないとあまりはかどらなかった。

 改めて思うが、ヴォルデモートは優秀な教師ではあった。もしあいつがホグワーツの教師に就任していたら、もしかすると良い教師になっていたかもしれない。

 新しい呪文を覚えようとも思ったが、金がなく、教科書を買う事が出来なかった。

 ならばと思い新しい呪文の開発も試みたが、ゴミのような魔法が二、三個出来た程度だった。

 結局のところ俺がやった魔法的な訓練は、過去にやった呪文の復習だけだ。素早く撃てるようにしたり、直ぐに反対呪文を撃てるようにしたり、そんなところだ。

 

 この頃から食事も安定して食べる事ができた。

 魔法が使えるようになる前は、教会裏にある小さな畑で採れるサヤエンドウや芋、俺を死体と勘違いして食べに来るネズミくらいしか食べるものがなかった。

 過去に一度だけ死にかけの鹿を捕まえた事があったが、解体方法が分からず、とりあえず切って焼いて食べた。血抜きしていない鹿肉は死ぬほど不味かった。

 保存の仕方もよく分からなかった為、結局腐ってハエがたかってしまった。

 今では姿を消して遠くから『失神呪文』を放つ事で、簡単に鹿や狐を捕まえる事が出来る。解体用の呪文や、保存用の呪文もヴォルデモートから習っていた。尤もあいつは、それらの呪文を動物ではなく、人に使う事を想定していたようだが。

 

 そして今、俺は一人で禁じられた森に来ていた。

 シエラは一緒に行きたいと言ったが、彼女の容姿は非常に目立つ。だから無理矢理教会に押し込めて来た。きっと怒っている事だろう。帰ったら彼女の好きなミートパイでも作って、ご機嫌をとらないとな。

 ホグワーツにはダンブルドアの保護呪文がかけられており、あまり近づく事は出来ない。また、望遠呪文などの魔法を使っても中を見る事は出来ないようにもされている。

 しかしマグルの道具、つまりは望遠鏡を使えば、中の様子を見る事ができる。

 今は『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』の終盤、吸魂鬼の群れがハリー・ポッターとシリウス・ブラックに襲いかかっているところだ。

 過去から来たハリー・ポッターが守護霊を呼び出し、吸魂鬼達を追い払った。

 見事なものだ。

 俺が教わったのは闇の魔術がほとんど、当然守護霊の呪文は使う事が出来ない。

 吸魂鬼に襲われ、魂を擦り減らしたハリー・ポッターは気絶した。同時に、守護霊を呼び出した過去から来たハリー・ポッターがハーマイオニー・グレンジャーと共に立ち去っていった。

 どうでもいいが、思ったより出っ歯だな、ハーマイオニー。

 

 やがてセブルス・スネイプがやって来て、気絶したハリー・ポッターとシリウス・ブラックを魔法で持ち上げて連れて行った。

 直ぐにシリウス・ブラックは西の塔に監禁された。しかし30分しないうちにハリー・ポッターとハーマイオニー・グレンジャーがやって来て、救出。彼はヒッポグリフに乗って飛んで行った。

 

 ──今だな。

 

 俺は昔マルフォイ家から失敬したニンバス1989に乗り、シリウス・ブラックの後をつけた。

 魔法使いとしての技量は向こうが上だろうが、大分弱っているし、不意打ち。その上向こうには杖がない。問題ないだろう。

 ある程度ホグワーツから離れたところで──俺はシリウス・ブラックを後ろから撃ち落とした。

 

 

 

【1994:01:24:06:24:21】

【1994:01:24:06:24:22】

【1994:01:24:06:24:23】

 

 

 

「起きろ」

「うっ……」

 

 何処かの地下室。

 頬を叩かれ、無理矢理意識を覚醒させられる。

 目の前にいるのは──ボロボロの修道服を着た男だ。フードをすっぽりと被ってる、顔を見る事は出来ない。だが、一目でわかった。こいつは死喰い人だ。口の中に、死を喰らった臭いがこびりついている。

 体は椅子に縛り付けられている上に、両足が折られているな。逃げ出すのは不可能か。

 

「先にお前の不安を消していてやろう。バックビークは無事だ。今は裏手にある森に餌を採りに行っている。それと、俺は死喰い人ではない。いや、ある意味ではそうだったが、例のあの人に服従してはいない」

 

 左腕を見せてきた。

 闇の印はない。

 

「……」

「どうせ口にしないだろうが一応聞いておく、水と食料はいるか?」

「……」

「黙りか。まあいい、俺が勝手に話す。お前の望みはハリー・ポッターと一緒に暮らすこと。それにはお前の無実が証明されなければならない。そうだな?」

 

 こいつ、何者だ?

 何故私が無実なだけでなく、ハリーと一緒に住む事を望んでいる事まで知っている。開心術でも使ったか? いや、しかし……

 

「俺がそれを叶えてやる。その代わり二つ、俺に協力しろ。一つはお前の家にあるスリザリンのロケットを俺に渡すこと」

 

 スリザリンのロケット。

 そんなもの、どうでも良い。タダでやってくれてやる。

 

「もう一つは、バーテミウス・クラウチ・ジュニアの暗殺に手を貸すことだ」

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

「バーテミウス・クラウチ・ジュニア……? ハッ、知らないのか? あいつはもう吸魂鬼のキスを施行された。実の父親の手によってな。今頃は、もうすでに吸魂鬼になっているだろう」

「いいや、違う。冷血と言われたバーテミウス・クラウチ・シニアも、結局は父親だったということだ」

「あいつがか……?」

 

 シリウス・ブラックはどうにも、バーテミウス・クラウチ・シニアに人間味があったという事が信用出来ないようだ。

 

 バーテミウス・クラウチ・シニア。

 闇の帝王が全盛期にあった頃、魔法法執行部の部長だった男。

 闇祓いに非常に強い権力を与え、死喰い人を令状なしで逮捕、あるいは殺害出来るようにした。ぬるかった裁判制度を変え、直ぐに吸魂鬼のキスを施行出来るように変えた。

 ダンブルドアと並び、ヴォルデモートを最も苦しめた人物だと言えるだろう。

 次期魔法省大臣とまで言われていた彼だが──しかし、息子が死喰い人であったことが発覚。調査の結果、クラウチ家の家庭環境に問題があるとされた。

 それに、もう周りも疲れていたのだろう。

 彼は自分にも他人にも厳しい人物だ。彼がトップに立てば、間違いなく魔法省の体制は大きく変わる。二度と闇の帝王の様な魔法使いを出さない、厳しい魔法省に。

 ヴォルデモートとの戦いの後、そこまでしたいと思う人間は少ない。

 そこでバーテミウス・クラウチ・シニアを失脚させ、何もしない無能なファッジを大臣に仕立て上げた。

 だが、それでは困るのだ。

 来るべきヴォルデモート復活の時に備え、無能なファッジには死んでもらい、代わりに有能で容赦の無いバーテミウス・クラウチ・シニアを魔法省大臣に立たせる。

 

 現魔法省大臣であるファッジは俺が殺せばいいとして、問題になるのはどうやってバーテミウス・クラウチ・シニアを再びトップの座に返り咲かせるか、だ。

 簡単だ。

 ヴォルデモートの右腕にして、大量殺人鬼、死喰い人を輩出し続けてきた名家の跡取り──シリウス・ブラックを逮捕させれば良い。

 そしてシリウス・ブラックにヴォルデモートが生存していると証言させる。証拠としてスリザリンのロケットを提出させれば、誰も文句は言わないだろう。

 そこで障害となってくるのが、バーテミウス・クラウチ・ジュニアだ。

 奴の生存が知られれば、再びバーテミウス・クラウチ・シニアは失脚する──どころか、脱獄を手伝ったとしてアズカバン送りだ。

 故に俺は、バーテミウス・クラウチ・ジュニアを始末する事にした。

 だが、今では無い。

 何事にもベストなタイミングというものがある。待つのは得意だ。一年くらい、直ぐに過ぎる。

 

「なあ、シエラ」

 

 俺はシエラの好きなミートパイを作りながら、彼女に呼びかけた。

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