前回は死んでしまった三井…
はてさて今回はどうなることやら!
深い闇の中で三井は目覚めた。何も見えない。上下左右もわからない。そもそも何処にいるかもわからない。
「あれ…?私…確か、友ちゃんに刺されて…」
ハッと気づく。そうだ、私は死んだんだ。もう…皆とは会えないんだ…。
ふとそんなことを思ったとき、自分の体が何かに引き込まれるような感じがした。
「え!?何…!?」
闇を進んでいった先に、一筋のまばゆい光が見える。その光が近づいてくると同時に体が照らされ、浮かび上がっていく。右手を伸ばしてみた。その光は大きくなり、彼女を飲み込んでふっと消え失せた…。
キーンコーンカーンコーン…
聞き慣れた音が聞こえ、ゆっくり目を開ける三井。そこには…
「…教室?」
周りを見た。椅子に座っている。前には机、その横に四俵とお揃いのキーホルダーがついた鞄、黒板、時計、貼り紙…
「戻ったんだ…生きてるんだ…!」
三井の目に喜びの涙が浮かんだ。しかし、すぐに涙は止んだ…下を向いて、席を立った。ふらつく足取りで窓辺へ向かう。心地よい風…楓が舞う空に、あのときの太陽が微笑んでいた。
「み…みっちゃん…?」
おそるおそる振り返ると、そこには泣いていた四俵が立っていた。三井が少し笑って頷く。
「よかった…!ちゃんと戻れてよかったぁ!!」
その場で顔を覆って泣き崩れる四俵。三井がしゃがんで、そっと背中を包む。また三井の目に涙が浮かんだ。
「うん…戻れた…生きてるよ。」
「ごめんね…!みっちゃんごめんね…!!」
何度も謝る四俵を、「大丈夫だよ。」と言って抱きしめる三井。そこには一度壊れたはずの絆がつながっていく架け橋があった。
「二人共、話を聞かせてもらおうか。」
三井が涙を拭いて顔を上げると、一丸が立っていた。目線は鋭かったが、彼女には心配している目線に見えた。一丸が静かに言った。
「お前が死んで、大変だったんだ。七尾は目を覚まさないし、四俵は警察に連れて行かれたんだぞ。何があったのか説明してもらう。」
「警察に…?」
三井はゆっくり四俵を見た。首を縦に振った四俵は俯き、少し涙声で言った。
「みっちゃん刺しちゃったのは事実だから…怖かったけど…」
そう言ってゆっくり三井から手を離して立ち上がった。そして一丸を見て頷いた。
四俵を見て三井が、早く元気にしないとと思ったのは言うまでもない。しかし何ができるのか、罪悪感を払うにはどうしたらいいのか、考え込んでいると沢山の足音が聞こえた。
「あ…!優花!!」
「三井さん!よかった…生きてる!」
「よかったな…三井!!」
五木、六条、二岡が三井を囲む。五木が、三井を立たせて抱き寄せた。その様子を見て俯いた四俵に七尾が後ろから「自分を責めないで」とでも言うように手をそっと握る。そしてゆっくり手を離しながら尋ねた。
「私が倒れてから、一体何があったの…?」
「皆…全部話すよ、私がした事…全部。」
四俵は語った。家族のこと、言い争ったこと、気が動転したこと…ときおり、震える四俵を三井が慰めながら…
「…それで、お巡りさんと話終わって、ママが来るのを待ってたら寝ちゃって…。」
「目覚めると学校…か。」
語り終わった四俵を見て、一丸が頷いた。三井と四俵が席に座る。
「元に戻ったって訳ね…私もそうだけど、皆精神的にさらに不安定になってるみたいね…」
「もう…皆限界だよ…」
七尾と六条の言葉で皆が俯く。
「ま、まあどうにかなるって!」
明るく振る舞う二岡に、皆はさらに落ち込むばかりであった。もう本当に参っていた。解決方法もないまま、このまま同じ日が続けば、最終的に殺し合いになってしまうだろう。そんなことを思った六条が皆の顔を見まわし、何かを言おうと口を開けたとき、二岡が先に口を開いた。
「皆…何かを言う時は相手のことを考えて言おうぜ…?」
珍しく真面目なことを言った二岡の説得力は大きかった。今度こそ皆は二岡を向いて頷いたのである。
「そうだね。あまり気分のいいものじゃないし…」
何かを言いかけた六条も納得する。
「ああ、命を奪うなんてことは許されないことだ。」
「ごめん…」
一丸の言葉を聞いてまた俯いた四俵に、五木が肩を叩く。
「まぁ、過ぎちまったことは気にすんなよ?な?」
「…うん。」
キーンコーンカーンコーン…
「さあ、席に着きましょう。」
全員が自分の席に向かうが、一丸は立ち止った。
「二岡。」
「ん?どうした修司?」
二岡が一丸に近づく。
「話があるんだ。」
「話?どうしたんだよ?」
何かを悩んでいる一丸に、二岡は純粋な笑顔を向けた。その笑顔はさらに一丸を困らせた。そして…
「いや…何でもない…」
とんだ不意打ちに、二岡は驚いた。
「なんだよ?話があるんじゃないのか?」
「すまない!何でもないんだ…」
「そうなのか?まあいいや、準備しようぜ?」
「あ、ああ…」
何が何なのかわからない二岡が席に着く。後ろの席を振り向いた。俯いて教科書を出している一丸に、二岡は今までに見せたことのない真顔を向けたのである。
そして、それに気づいた人は誰ひとりいなかった…。
そして、時間は過ぎ…放課後の中庭。
「五木さん!」
五木が、中庭のベンチに座っているのを見た六条が声をかける。
「お、六条か。」
五木は、何か束のようなものを左手に持っている。
「それってなあに?」
「勘違いした馬鹿共が、訳分かんねえ手紙渡してくんだよ。」
そう言って、六条に束を渡す。見ると、様々な文字で“五木広美さんへ”と書かれている。
「ら、ラブレター!?」
目を輝かせる六条に、五木が呆れ笑いで返す。
「そんなんじゃねえよ。メールアドレス書いてある紙ばっかなんだぜ?」
「す、すごい量だね…」
「ウザいだけだって!しかも女子からも来てるんだぜ?笑っちまうよ。」
「男女両方からモテるんだね?」
そう言われて、五木は少し視線を落とす。
「ま、まあ男も女も仲いいやつはいるしな。俺…男みたいだろ?だから、差別とかなく接せる…俺は、それはいいことだと思ってんだ。」
初めて五木の本当の思いを聞いた六条は頷いて、五木に尊敬の眼差しを送った。
「そうだね、僕も大事なことだと思うよ!でも、大変でしょ…?」
「まあな…あ!悪いな、しんみりさせちまって…!」
「大丈夫だよ!じゃあ僕教室戻るから、今日はこれで!」
「わかった!また明日な!!」
校舎に戻っていく六条を見送ったあと、また視線を束に向けた。
「ラブレター…あー!くだらねぇー!!」
地面に束を投げつける。風にあおられ、手紙の束は中庭を舞う。
「おい五木!」
見つかった…!そんな表情をして声の方を見ると、一丸が中庭に来ていた。
「ここはお前の庭じゃない。ゴミを捨てるな。」
そう言って、散らばった手紙を拾い集める。
「これは俺の鞄の中、ロッカー、下駄箱に勝手にぶち込まれてたんだ。」
ふてくされた様子で一丸を見る五木。
「じゃ、帰るからそれ捨てといてくれ。」
椅子にあった鞄を持って去ろうとする五木の背中に、一丸が声をかけた。
「全く…やることが大雑把で適当すぎる。お前はもう少し女らしくできないのか!?」
女らしく。いつも一丸に言われていることだが、五木はいつものように受け流したりはしなかった。その場で立ち止まり、下を向いて言い返す。
「おい…女らしくだと?」
「ああ。」
一丸の注意口調にとうとう怒りが抑えきれず、鞄を地面にたたきつけて、一丸に詰め寄った。
「俺は好きで女に生まれたわけじゃねぇ!行動や口調で性別分けてんじゃねえよ!てめえ何様だ!?ああ!?」
首根っこを掴まれて動揺する一丸を睨みつけ、怒鳴りつけた。
「い、五木!?」
「俺は小さいころからスカートも嫌いだし、人形やおままごとなんざ大嫌いだった!!それが悪いことなのかよ…!?」
五木の目がだんだん潤んでいることに気付いた一丸はさらに動揺したが、すぐ冷静になる。五木はさらに続けた。
「男は男らしく…?女は女らしく…!?そんなの勝手じゃねえか!!」
泣いていた。五木が泣いていた。今まで見たことのない姿に三度驚いた。しかしまだ、一丸は屈しない。
「だ、だが差別は減ってきている!」
「これは差別じゃねえ!区別なんだよ!!」
「…区別。」
この一言は、一丸の心に深く刻まれた。そして考えた。自分の中のイメージと違う存在を受け入れていなかった事を。そして…
「…悪かった、お前がそんな風に考えていたなんて知らなかった…すまない!」
深々と頭を下げた。これには五木も動揺を隠せなかった。まさか、あの一丸が俺に頭を下げるなんて…?五木の熱が一気に冷めた。
「あ、いや、もう頭上げてくれよぉ!怒ってねえからよぉ?」
「いや…!ダメだ…!すまない五木!」
まだ頭を下げてる…こういうところ意固地なんだから困っちまうよ…そう思った五木が、肩を叩く。
「ほら!もう大丈夫だろ?」
「あ、ああ。」
ようやく頭をあげた一丸から、五木が手紙の束をさっと取る。
「なあ一丸…」
「ど、どうした…?」
「いつも…ありがとな…叱ってくれて…」
少し頬を赤らめながら、後ろを向く五木。
「急にどうした…?」
「いや、なんでもねえよ…あ!じゃあお前捨てとけよそれ!絶対な!?」
目線を合わさず、鞄を持ってそそくさと帰ろうとする五木を一丸が呼びとめた。
「五木!」
「っ…!な、なんだよ!?」
まだ照れ隠ししている五木に、いつもより優しい口調で言った。
「お前にはいつも女らしくと言っているが、今の性格も…別に嫌いじゃない…」
「すっ…素直じゃねえな本当に…」
呆れ笑いをしている五木の髪を、涼しい風がなびかせる。一丸はこのとき、一瞬だけ見とれていたのである。
「じゃ、じゃあな!明日また…叱ってもらうから…か、覚悟しとけよなっ!?」
そう言い残し足早に去って行く五木を見て、一丸も呆れ笑いしながら呟いた。
「素直じゃないのは、お互い様だな。」
反対方向に歩いて行く一丸と五木。しかし、気持ちは同じ方向に歩いていると実感した二人であった。あと少しで赤く染まる太陽が、二人の心を温めるかのように呆れ笑いをしていた…。
ありがとうございました!
次回もお楽しみに!!