勇者のあしあと   作:葵木々

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町娘アリアの夢見る散歩

ずっと、夢物語が好きだった。

白馬の王子さまだとか、自分だけの騎士とか、姫に仕える執事とか。そういう童話は大好きだし、何度も想像したことだってある。

 想像の中の私はお姫様で、綺麗なドレスを着ている。そして自分だけの騎士と、王子様と、執事と踊るのだ。想像の中の舞踏会、こっそり抜け出した湖畔の二人は愛を語り合う。ああ、ロミオとジュリエット!あなたの物語から悲劇を無くしたら、どんなに幸せなことでしょう!

「なんて、思ってた時期があったんだよねぇ」

独り、ため息をつく。お祭り騒ぎの街の中、人気のない公園のベンチで一休み。一休みっていうか独り休み。

なんでこんなことになったのか。夢ばっかり見てたからこうなったのか?理想が高すぎるのも考え物で、この世界にはどうやら夢も希望も無いようだ。

「いい加減、お相手欲しいなぁ」

別に、縁が無かった訳じゃない。とはいえ縁が合った訳でもない。すべてはハードルが高すぎる私の趣味嗜好がいけないのだ。

もっと平凡でいい、飾らなくていい。手を繋いで、隣り合わせで歩いていければそれでいいのだ。

「別に、今街に来ている勇者とお近づきになりたいなー、なんて。少ししか思ってないし」

ちょっとだけ、期待しないでもない。そもそもの話、なんでこんな休日に常日頃からインドア派のお前がオシャレして街に出かけているのかなんて聞かれると、目を反らすしかない訳でして。

「勇者、ね」

「呼びました?」

―――――え。待って、ちょっと待って。

まさか拗らせすぎて幻聴さえ聞こえるようになったのか、それとも我が弟のいたずらか。

確かに夢物語は好きだったけど。今でも割と夢見てるけど!

「え、と。勇者さん?」

「あ、はい。勇者です」

どうやら、夢物語が始まりそうです。

 

 

 

ずっと夢見てたことが、現実になっている。

あり得ないと思っていたことが、目の前で起きている。

「色んな街を巡ってるんですね!」

「諸国外遊というやつです。祖国からの指令でして」

魔王を倒すため冒険の旅に出る勇者と、偶然知り合った町娘。二人は人気のない道に足跡を残し、やがては湖畔にたどり着く。

「大変なんですね」

「そうですね」

二人は偶然の出会いを楽しむように、会話を弾ませる。笑顔の二人は、踊るように湖畔を歩き、束の間の逢瀬を楽しむのだ。

(マズイ、会話が進まない!)

夢の中で幾度となく繰り返した理想の手順は、現実に拒まれていた。そもそも、まともに話した男なんて我が弟とお父さんぐらいしかいない。そんな私に降って湧いたこのチャンス、生かせる気がしないのだ。

「え、えと!今日はいい天気ですね!」

もっと気の利いた会話を振れないのか私は――――!

「そうですね。街も賑やかだし、楽しいです」

「勇者が来るからって、昨日ぐらいからお祭り騒ぎなんですよー」

なんとか取り繕えてはいるけど、いつボロが出るか分からない。お淑やかに、気立て良く、少し上目遣いで相手の顔を見つめながら!がんばれ私!

「ところで」

「ひゃいっ!?」

「オススメの食堂ってないですか?」

―――――ない!インドア派の私にそんな予備知識はない!私の家に来て下されば手料理振る舞いますよなんて言いたいけど料理出来ない!

この怠け者め、取り柄の一つぐらい用意しときなさいよ。確かにお姫様とか憧れるけど、何も世間知らずまで真似しなくてもいいでしょうに。

思い出せ、私の四半世紀に満たない人生で経験した外食を!

「マルクト食堂とか、オススメですよ」

辛うじて覚えていた、一回だけ行ったことのあるお店。何食べたとか覚えてないけど、不味かった記憶はないから大丈夫な筈。きっと。

「そうなんですね」

あ、会話途切れた。話題が無い。我ながら己の引き出しの少なさを反省すると共に、もう少しアウトドアに生きようと誓います。

「もっと、人の居ないところに行きましょうか」

「えっ―――――」

息が止まった。あぁ神様、勇者様は私と二人っきりになりたいそうです。もうお遊びでも良いです、私は幸せです。二人は人気のない場所でベールに包まれて、あぁとても雄々しいマウンテン。たぶん勘違いだけど、私は幸せです。

「じゃあ、あっちですね!」

ブリキ人形のようなぎこちなさで、カクカクと歩く。とはいえ、人気のない所なら私の本領発揮だ。独りを極めれば視線が分かる、すなわち人目につかない所なんてすぐに分かるのだ!とても悲しい!

「綺麗な場所ですね」

「ふふ、小さいころからの遊び場です♪」

ぼっちの遊び場。まさかこんな生かされ方をするとは、人生捨てたもんじゃない。

慣れない日曜大工で作った歪なベンチよ、勇者様の椅子となる栄光を与えよう。

「これ、私が作ったんです。座ってみます?」

「すごいですね、では遠慮なく」

勇者が腰掛けた瞬間、嫌な音がした。具体的に言えば、ベンチが真っ二つ。

「だっ、大丈夫ですか!?」

「大丈夫ですよ。でも気付くべきでした。あなた用でしたね、このベンチ」

それは・・・・・暗に私が痩せてるって褒めてくれてるんですね!あぁ勇者様の女たらし!いけず!あなた、私が夢見た理想の王子さまそのものです。

緊張と幸せで、若干どころではなく暴走気味な私の脳。燃えだしそう。

「でも良いですね、秘密基地っぽくて」

「やっぱり憧れますか?」

「秘密基地といえば、男のロマンですよ。昔はよく遊んだものです」

ごめんなさい、これにロマンも何もないんです。あるのは独りぼっちの思い出だけです。でも、勇者様も男の子な面があるんだ。優しそうな雰囲気とのギャップにクラクラしそう。

「この道って、どこに繋がってるんですか?」

「えーと、湖ですね。行ってみましょうか」

 

 

 

 

二人で湖畔のベンチに座ったまま、傾いてゆく夕陽を眺める。勇者がこの街に来ると聞いて夜もロクに眠れなかったせいか、何もしていないと眠気が襲ってくる。

せっかく勇者と二人で話が出来るのだから、もっと話さないと。でも眠い。ああ、私の頭が勇者の肩に乗っている。頭撫でられて気持ちいい。

「ゆうしゃ、さん。また会え―――」

 

 

 

 

気が付くと、秘密基地で横になって寝ていた。

「あれ、一人?」

勇者はいない。たぶん、湖畔のベンチよりはここの方が安全だと運んでくれたんだろう。

辺りはもう暗い。こんなところで寝たせいか、体が怠いし節々は痛いし頭痛いし――――。

「おでこは熱いし」

風邪だし。

帰ってお薬飲んで寝よう。もう一度寝れば、夢だって見られる筈だ。現実でも夢のような出来事があったのだから、夢こそ理想的じゃなきゃいけない。

素敵な夢をもう一度。出来ればまた現実で、素敵な勇者と二人きりで。

 

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