とあるカルデアに茨木童子が召喚されたようです   作:九蛇

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結局何が言いたいのか作者も理解していないので雰囲気だけでも感じ取ってください。


子供と大人・結

 気がつくと、怪しく灯った月の光をまた見つめていた。

 

 

「あぁ、ようやく来たか。待ちくたびれたぞ。暇だった故、酒が飲めん汝が故、山の上手い水を汲んでおいた。汝にそれを飲む度胸があるなら飲むが良い」

 

 

 いつの間にか、昨夜も持っていたであろう白い徳利と赤漆の盃が手の中にあり、そこには並々と透明な液体が入っていた。匂いを嗅いでみると無臭で、お酒特有の匂いは全くない。飲むべきか否か一瞬の逡巡の後、覚悟を決める。徳利から盃に中の液体を注ぎ、そして――

 

 

「いただきます」

 

 

 飲んでみるとそれは(ただ)の美味しい水で。

 

 

「あ、美味しい」

 

「クク、知りもしない相手をよく信用できるとは。珍妙な男よな」

 

 

 後ろの女は僅かながら喜色の混じった声でそう言った。

 ちょっと迂闊過ぎたかもしれないけど、もし毒が入っていても多分大丈夫だし、後ろの彼女はそんなこと絶対にしないって確信があったから出来た行動なんだけどな。

 

 

「さて人間。少し気が早いが、本題といこう。(なれ)の答えを聞かせてもらおうか。時間の心配はいらんよ。今宵は存分に語るがよい」

 

 

 きた、でも心配することはない。オレは言いたい事を言えばいいだけだ。それに……

 

 

「オレは先に貴女の答えを聞いてみたいです」

 

「………………」

 

 

 後ろの女は、それからずっと黙ったまま。静寂の空気が二人を包んでいた。やっぱり駄目かな。うん、駄目だな。早い内に撤回しないと大変なことになりそうだ。

 

 

「あの、やっぱり――」

 

「フフ、いいだろう。汝のその蛮勇を評して、(われ)から先に言わせてもらうとするか 」

 

 

 良かった、先程の大胆な行動からはふさわしからぬ安堵の吐息がほっと出る。

 

 

「答えの前座として、少し昔話をしよう」

 

 

 彼女はその言葉を切り口にゆっくりと語り出した。

 

 

「吾にはその昔、目標があった。その目標にただ突き進み、いつの日かそれに辿り着いてみせると、必死に走り続けた。その道を進んでいると仲間が出来た。互いに違いはあれど、目標を持つが故に吾等は共に行動するようになった、そんな仲間が」

 

 

 懐かしむ様な、そんな語りは続いていく。

 

 

「ある日の事だ。その出会いは必然か、はたまた唯の偶然か。兎も角、吾等は本物に出会った。その者は吾等がそれぞれ欲していたもの、目指していたそれを全て持っていたのだ。

簡明直截(かんめいちょくせつ)に言うと憧れたよ。嫉妬などは置き去りに、それはもう吾等はひたすら憧れた。生き方を、力を、考えを、趣向を、美しさを、吾等はその者の持つ何かに近づこうとした。そして、吾等がその者と共に暮らし始めるのは、当然の帰結であったに間違いない。

愉しかった。あの時を思い返して口から出るものは、ただ一言のみ。愉しかった。其の(とき)は千古不易のものだと、愚かにもそう思ってしまう程に」

 

 

 彼女は一度語りを止め、酒を呷る。

 

 

「目標など彼方へと忘れ去っていたある晩。人間達は吾等を討たんとやって来た。そうだな、今宵の様な月が出ていたことは確かだ。人間達は毒の酒にて吾等を嵌めようとした。そして、その策略は見事に成功を収める。一つ誤算があったとすれば、吾だけは生き延びたということか。

そこからの記憶はそれよりも曖昧で、復讐なんてものに手を伸ばしたことだけは覚えておる」

 

 

 結果は見事に失敗に終わるのだがな、乾いた笑いで彼女は自嘲する。

 

 

「再び生き延びることに成功した吾は、一度山に戻り、そして……。そう、そして…………。

嗚呼、また(・・)だ。すまぬ人間。今宵は口がよく廻ると期待していたのだが……。今宵もまた何も答えは出なかった」

 

 

 酷く残念そうな口調で、彼女は謝る。オレはそんな彼女に対して、どんな言葉を返せばいいか分からなかった。慰めればいいのか、許せばいいのか、或いは励ませば。きっとどんな言葉を送っても特に反応しないし、どうにもならないだろうことだけ分かってしまった。

 

 

「さぁ、人間。汝の番だ。『如何にして子供は大人になるのか』このどうしようもない問いの答えをくれんか。良ければそれを吾の答えにしてもよいだろうか?」

 

 

 縋るような彼女の言葉は、オレの肩に重くのしかかってくる。間違えてはいけない、早く言わなければいけない、そんなプレッシャーが。

 でも、オレの答えは決まっている。それをただ言葉に換え、口にするだけ。

 

 

「分かった。でも、オレも答えを言う前に話をします」

 

 

 オレはそれ程昔ではない、今までの生きてきた中で一番濃かった話をする。

 

 

「始まりは本当に突然だった。何処にでもいる一般人だったオレは、何時の間にか世界を救わなければいけなくなった。怖かったし、泣きそうにもなった。でもマシュが、皆が支えてくれたお陰でオレは何とか闘うことが出来た」

 

 

 目を閉じれば今でも鮮明に思い出すことができる。特異点で出会った人達、味方になってくれたサーヴァント達、勿論戦う事になった敵達の事も。

 

 

「何度も命の危機を感じたし、今生きているから言えることだけど、オレは今回の長い旅は本当にいい思い出だと思ってる。みんなが幸せに終われなかったけど、それでも俯かないで、前を向いて生きていこうって。そう考えさせてくれたことはきっと感謝してもしきれ無い」

 

 多分カルデアに来なければ、マシュに出会わなければ、この気持ちも考えも生まれてこなかっただろう。

 争いはあるけど昔よりは遥かに平和な世界で、平々凡々と時がすぎるのを待って、社会に出て、人に気を使って生きていくうちに自然と大人になっていく。普通に生きえいれば辿り着くその答えは、様々な出来事のお陰でオレだけの答えへと変化していったんだと思う。

 

 

「そんな経験からオレは貴方に、答えを言おうと思います」

 

 

 答えを得たなんて大層なこと、オレには出来なかったけど、答えを見つけることは出来た。

 だから、オレが見つけた――

 

 

「大人になるための、答えは――」

 

「そこまでだ、ますたー」

 

 

 後ろにいる彼女に似た、しかし幼さが残った声が制止の言葉がオレの言葉を遮る。そしてその言葉は、後ろではなく前から聞こえてきた。声のした方向を向くとそこには、着崩した黄色い着物を身に纏い、人間にはない2本の(いか)めしい角を額から生やした鬼の娘――

 

 

「いばらぎん!」

 

「いばらぎん、言うな!」

 

 

茨木童子がいた。

 

 全く、汝はそれしか言わんのか、そうぶつぶつと文句を言いつつ腕を組みながら茨木童子はオレの元にやって来る。

 

 

「ほれ、(われ)が来たのだ。帰るぞ」

 

「え、でも。本当にいいの?」

 

(なれ)は変な所に察しがいい。大方、奴の正体に感付いているのであろうに」

 

 

 オレの手を掴み、見た目とは裏腹の力でグイッと地面に引っ張られる。どれだけ子供の姿に見えてもサーヴァントであり、鬼である彼女の力ではオレには抵抗しようにも出来なかった。

 

 

「なんだ、愚か者か。鬼にも関わらず、鬼として異端の者よ。人から畏怖され、鬼の真似事を愉しめる地で得た心地はどうだ?」

 

 

 去ろうとするオレ達に向かって、後ろにいる彼女は抑揚なく問いかける。オレの手を引き、前を歩く茨木童子は足を一度止め、振り向かずに冷然と返答した。

 

 

「黙れ、うつけ者。鬼でも、人ですらない、(ただ)の茨木童子の抜け殻が。貴様こそ、自問自答し続け、この現代まで生き続けるとは。さぞかしつまらなかろう。さっさと死んだらどうだ?」

 

「愉しいのだな、茨木童子。正直に吐かぬ所がまた子供らしい。だが、それを愉しいと感じる限り、貴様は鬼からかけ離れていく。汝は吾と何処も変わらんさ」

 

「否、この戯けが。吾が子供というのなら貴様は赤子だな。

ついでに言うなら、この男は茨木童子を喚び、吾はそれに応じた。その事実はこの男がいる限り、如何様(いかよう)にしても変わらん。更に、吾はそれを変えさせん。故に、貴様になんと言われようが吾は茨木童子。サーヴァントであり、大江山の首魁であり、鬼だ。貴様とは違う。」

 

 

 茨木童子はそう言い通すと、また歩を進めようとした。慌てて、後ろにいる彼女に一言だけ言いたい、と茨木童子に伝えると彼女は物凄く嫌な顔ををした後。

 

 

「全く、吾も甘くなったものだ。以前ならば意見など聞かず、即刻斬り捨てていたか、放っていたのだがな。」

 

 

 そう言って掴んでいた手を離してくれた。どうやら待っていてくれるらしい。そして、先程とは打って変わって憂いの篭った、申し訳なさそうな声が後ろから掛けられる。

 

 

「すまぬな、人間。答えを聞けなかったのは残念だが……。仕方の無き事だ、別れは何時(なんどき)も俄にやって来る。もう汝は此処に来ることは無い、安心召されよ」

 

 

 ゆっくりとオレは振り返る。そこには昨夜見たものと同じ、こちらに背を向けた金髪で黄色い着物を着崩した、茨木童子が成長したような女性が座っていた。そして、オレの知っている茨木童子にあって、目の前の女性に無いものがある。鬼の角が、その後ろ姿から見ることが出来なかった。やっぱり、これが昨日感じた違和感の正体だろう。

 けど、目の前の女性が誰であろうと関係ないことだ。オレは言いたいことを言いにここに立っているのだから。

 

 

「オレは此処に来られなくても構いません。でも、一言だけ言わせてもらいます。

いつかカルデアに遊びに来て下さい。そこに答えがあるなんてことは保証出来ないけど、答えのない問なんて存在しないってオレは考えてます。それにカルデアなら、オレもほんの少しだけど貴方の答え探しを手伝うことは出来ると思う」

 

「――――――」

 

 

 言いたかったことはたったこれだけ。昨日の茨木童子の助言を無視して色々な事を言ってしまったけど、オレはこれでいいと信じてる

わら。それに、当の茨木童子は何も言わず、ただじっと待っているだけで、何も文句は挟まなかった。

 だから、オレはそう言い切ると、茨木童子と共にカルデアへと帰っていった。

 

 

 

  ◆

 

 

 

壊れた屋敷の縁側のような所に女が一人。ただ何をするわけでもなく月を見つめている。先程まで居た男は既に居なくなったが、男の言葉は女の中に余韻として酷く残っていた。

 

1つ、酒を飲み、盃に酒を注いだ徳利を床に置く。すると何かが床に一つだけ置かれていることに女は気付いた。それを手に取ってみると台形の何かで、表面には『チョロルチョコ』と書かれていた。一体誰が置いていったのか。

 

女は適当に包み紙を開け、むき出しになったそれを口に含む。

 

元から小さかったそれは口の中に入ると数秒の内に溶けて、いつの間にか無くなっていた。

女は口の中に甘さが残ったまま、震えた声でこう呟いた。

 

「甘い……。嗚呼、本当に……甘いな」

 

気付けば、女は自分の着物の袖を濡らしていた。

 

 

 




取り敢えず、妄想したネタは書き尽くしました。
それと、成長した茨木童子の姿は皆様のご想像にお任せするつもりで書きました。
因みに私は慎ましくも程よいボンキュッボンだと思ってます。

どうでもいい事ですが、これから先は更に忙しくなりそうで、執筆出来なくなりそうです。
読んでくださった人達、感想を書いて頂いた皆様、本当にありがとうございました。
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