君と俺と私の名前 ~YOUR NAME is ULTRA〜 作:ドンフライ
「へー、そんなイケメンの教授が…」
『三葉の後輩が熱く語ってくれてさ……』
無事バイトが終わって家に帰り、彼の父と片言交わしてから自室に戻った瀧――いや、瀧の体の中に宿っている三葉は、今日も普段通りに彼のスマホを使い、自分の体を借りているだろう瀧と会話をしていた。
相手の方から出たのは、三葉が通う大学にイケメン教授が2人もいる、と言う話だった。一方は温和そうな感じ、もう一方はどこかクールな雰囲気を持ち、科学分野に非常に詳しいのだという。
以前、三葉から瀧の通う高校にもそのようなイケメン実習生がいる事を指摘された際は、何故そのような事を忘れていたのかと突っ込みを入れた三葉であったが、こちらの場合は事情が異なるのを、彼女の方も瀧の方も知っていた。三葉はずっと、大学生活をただ淡々と、何かを探しながらもその探し物すらわからないと言う状況を彷徨い、何度意味が分からない涙を流したかと言う状況だったのである。そんな時にイケメンなど、尚更気にする余裕は無いだろう。
「なんか、意外と私たちの周りってイケメン多いやね」
『ま、まあ……で、でも俺だって……!』
「冗談冗談、瀧くんが一番のイケメンに決まってるやよ……って……」
恐らく今頃、スマホの向こうで瀧も三葉の顔を真っ赤にさせているのだろう、と彼女は気恥ずかしい気持ちを感じた。しかし、すぐに顔を振り回し、その感情をぬぐい捨てた彼女は、こちらから話すのは大事な話だ、と瀧に伝えた。バイトに行く合間、瀧の友達からの遊びの誘いを敢えて断った上で調べてみた重要な事である。
「……た、瀧くん?」
『いや、悪い、ただ驚いただけだよ……』
「どうして?」
例え運命で結ばれた『カタワレ』同士であっても、時にその考え方や物事の捉え方には差が出てしまうもの。特に三葉の故郷――元の世界では1度消えた故郷については、瀧は遠慮しがちな考えだった。三葉を傷つけたく無いと言う思いがあったからかもしれない。だが、幸いなのか実際は真逆であった。
「瀧くん、私は大丈夫。どんなに壊されても、結局あのド田舎は私の故郷やもん」
『そうか……でも悪いな、時間があまり無いのに……』
「でも、だいたいの事は分かった。この世界の、『糸守町』の事」
結論から言えば、ウルトラマンたちがいるこの奇妙な世界でも、三葉やその親友の故郷である山間の小さな町、糸守町は、現在の日本の地図には掲載されていなかった。2人の記憶にある通り、全住民を残して崩壊してしまったのである。
だが、彼らの記憶と明らかに違うのは、その要因だった。平気で怪獣と互角に立ち向かえるらしいこの世界の人々の力を持ってすれば、三葉の故郷を壊滅させた空からの光など一撃で粉砕できるだろう。だが、問題はその空から落ちてきたものが、彗星では無かった事である。
『……へ……怪獣……?』
「新聞にあった。『あの日』にやって来たのは、怪獣だったんやって」
多分少し前の三葉と瀧なら、そんな荒唐無稽な話をされれば正直頭にきて怒鳴っていたかもしれない。自分たちにとって本当に辛く、そして暖かい思い出を無残に汚されるような気がしたからだ。しかし、今となっては彼らはこれを事実として受け入れざるを得なかった。糸守町を破壊し尽くしたのは、宇宙からやって来た恐るべき生命体だ、と。
「まだその時には地球にウルトラマンはいなくて、防衛隊の人間だけで立ち向かった、って書いてた。で、迅速な判断で私ら住民は全員避難できたけど……」
『まさか、怪獣を止められなかったとか……?』
「ううん、退治は出来たみたいやけど……」
写真に映されていた見た目だけの被害こそ彼らの元の世界よりは少なく、大地こそいくつか抉れてはいたが三葉の宗家である糸守神社を始め、多くの建物が原形をとどめていた。にも関わらず、糸守町はあの戦い以降今もなお全町民の避難を余儀なくされており、糸守湖に至っては、人間と怪獣の戦いの結果美しく描かれていた円形の姿から歪んだ姿に変貌してしまった、というのだ。
『そうか……他には何か分かったか?』
「あの対応で色々あったらしくて……でも何かよくわからん人たちの言葉ばっかり……それで、それ以降は時間が取れなくて……」
『分かった……大丈夫だ……』
形は違えど、この世界でも自分たちが経験したような出来事に近いものは起きてしまっていたと言う事実を、瀧や三葉は改めて認識し、しばし互いの口を瞑った。糸守と言う地が、ここでも消え去ろうとしているのだ。
『……三葉……辛いな……』
「ううん、私はむしろ安心した。おばあちゃんもお父さんも、テッシーもサヤちんもみんな無事みたいやし。命がなきゃ何も出来ないから……」
『三葉……』
その後、すまないという声と共に、スマホの向こうから自分が鼻をすする声を三葉は聞いた。そう、本当にここに命が無ければ、瀧くんにとっても自分にとっても、未来に何の価値も見出す事が出来ないのだから。そして、こちらの世界における瀧にあたるのが、もしかしたらその「Xio」なのかもしれない、と考えた三葉は、同時にほんの少し複雑な気持ちになった。もしかしたら、この世界で暮らしていた宮水三葉は――。
「……あ、しまった!宿題いっぱい出たから今のうちにやらんと!」
『……え、マジか!?すまん、代わりに……』
「最低限だけ。それ以外は瀧くんの分やから、瀧くんが責任持つんよ」
『そ、そうだよなー……わ、分かったよ……』
――慌てて取り繕い、瀧と共に混乱したような声を上げながら、三葉は自身が抱いた嫌な予感を払った。そうだ、宮水三葉と立花瀧は、どんな場所でも、どんな宇宙でも、必ず巡り合う運命なのだから……。