君と俺と私の名前 ~YOUR NAME is ULTRA〜 作:ドンフライ
「へぇ……ここが……」
日本最大の都市・東京は、あらゆる所に無限の顔を隠している。たくさんの人が行き交う場所とあれば、長い人生を過ごしている人々の憩いの町もあり、この世の次元とは違う世界を愛する人々が集まる地域もあれば、そのような喧騒を忘れさせてくれる所もある。長年東京に住んでいた瀧でも、知らないところは幾らでも存在するのだ。 今回三葉が案内してくれた、まるで隠れ家のような小さな和風カフェも、その1つであった。
「大学の頃はよく利用しとったんよー。懐かしいわ~」
「あまりはしゃぎ過ぎるなよー」
そして早速彼らは、下側に窓がある2人用の席を確保し、それぞれ注文を決め始めた。最初はそれぞれ好きなものを頼めば良いのでは、と考えた瀧と三葉だが、せっかくの機会なので、それぞれ同じメニューを頼むと言う結論に至った。
そして、三葉がお勧めするスイーツが来るのを待つ間、再び彼らは若い頃の自分たちの体を使い様々な事を語り合った。瀧が大学生活の中で三葉の真面目さに翻弄されている事、三葉が高校生活で瀧の友達の良さに感心している事、などなど。
「やっぱり俺の方が不利なのかな……」
「でも瀧くん、色々学べたやろ?もう一度こうやって大学行けるなんて中々無い事やし」
「それもそうだが……まあ、でも三葉は大学生の頃でも可愛いっていうのは確実に分かったぜ」
ところが、何の気なしに出たその言葉を聞いた途端、三葉は顔を真っ赤にしながら、高校生の瀧くんの方がもっと可愛かった、と反論した。いや、単に批判したと言うよりもむしろ年上の自分が有利に立ちたいと言う思いや突然の言葉への照れ隠しが含まれていたのかもしれない。勿論瀧も、三葉の乱れ髪のしわくちゃさの方が俺より良いじゃないかと言い、三葉も瀧くんのシャンプーの香りの方が気持ちよかったと告げ、互いに良いところをぶつけ合うと言うよく分からない戦いが勃発しかけてしまった。
ただ、幸か不幸か、その仲が良い喧嘩は長く続かず――。
「ご……ごめん三葉……」
「た、瀧くん……こそ……」
――長年の恋人の惚気話を全く気にしないかの如く、店員が持ってきた注文の品を見て、顔の紅潮を最大ゲージにしつつ、戦いは終わりを告げた。お互い、何度かちらりと目線を合わせては背ける仕草を繰り返すうち、ようやく気持ちが落ち着いてきた。
「やっぱり、久しぶりに面と向かって合った訳やからつい……ね」
「そうだよな……この場所に来て、意外と月日が経ったもんだぜ」
隠れ家的なこのカフェからあまり外の景色が見えないのは残念だが、それでも下の方にある明かりを入れるための窓からは、2人がよく知る都会の街並みが少しだけ顔を覗かせていた。
確かにあちこちに怪獣などによる被害の爪痕が残っていたり、まるでテレビのロケにでも使っているような派手な車が普通に行き来していたりと異様な箇所もある。それでも、町の『心』は彼らが知る東京そのものだ、と瀧も三葉も考えていた。
「あんなに悪い怪獣とかがいっぱい出てるのに、あんなに滅茶苦茶にされても、それでも人はこの町に住み続けるんやね…」
「三葉……」
一瞬、三葉の表情に何かが見えた瀧は、突然彼女の手に自分の手を当てた。どうしたのか、と驚く顔の彼女に、彼は言った。どれだけ怪獣やら彗星やらが根こそぎ何もかも消そうとしても、ここに自分たちがいる限り、糸守も東京も、そしてこの世界も決して消える事はない、と。
何名かの客の視線が集まるのも気にせずに言った瀧の言葉に、三葉が感じた不安な気持ちはすぐに消え去った。そして、互いに今度こそしっかりとした笑顔を向けあい、メニューの品を全て食べきった、その直後だった。
「……ねえ、瀧くん……何かサイレンみたいな音聞こえん?」
「何だ……火事でも……あれ、止まった……?」
最初、遠くで何かが起きたのではないかと考えた2人であったが、次第にそのサイレンが鳴っていたであろう場所から足音が聞こえてくるにあたり、明らかに何か大変な事態が起きようとしている事を察知した。そして――。
「皆さん、急いでこの場所から離れてください!」
「怪獣がこの近辺に出現する反応が出ました!すみやかに避難して……」
――突然カフェのドアを勢いよく開け、まるでSF映画のような服装をした1組の男女が大声で避難誘導の指示を出した、その時だった。
突如、カフェの中を巨大な地響きが襲った。辺りの皿やコップが落ちて割れ、立てかけてあったメニューも大きく揺れた。しかも、そこから立て続けに同じような揺れが次々にこのカフェにいた人々に襲いかかってきたのである。
そして、一瞬揺れが収まった隙を見て、カフェの入り口にいた男女――いや、怪獣対策の前線に立つXioの隊員2名は、大声で店内にいる全ての人々に伝えた。
「怪獣出現!怪獣出現!」
「私たちに従って今すぐ避難してください!」