君と俺と私の名前 ~YOUR NAME is ULTRA〜 作:ドンフライ
人々の憩いの空間から恐怖からくる悲鳴が覆う場所に変貌してしまった隠れ家風のカフェから、Xioの隊員たちの指示に従い人の流れに飲み込まれつつなんとか脱出する事ができた瀧と三葉であったが、その外で繰り広げられていたのは、まさに彼らが人生で初めて見るような、『破壊』の光景だった。
「……」
「……」
一瞬だけ後ろを振り向いた彼らの目に映ったのは、東京の町を思い出ごと破壊するような、巨大な獣であった。
まるでヘドロが溜まった下水道のような体に禍々しい赤き突起が覗き、瀧と三葉が見上げるほどの高さにあるその龍の方には、まるで海に生えたサンゴが固まったかのような物体が付着している。この世のものとは思えない異様な姿を目の当たりにしてしまった瀧と三葉は、そこから動けなくなってしまった。
だが、それを見計らったかのようにその巨体から伸びる頭がこちらの方角を向き、そして地響きを鳴らしながら近づき始めては、流石にそのような畏怖のような心に呑み込まれている暇など無かった。今はとにかくあの巨大な存在から逃げなければ、どんなものよりも大事な命、思い出、そして『ムスビ』を守る事はできないのだから。
「瀧くん!瀧くん!」
「三葉!聞こえてるよ、三葉!」
他の避難する人たちの最後尾で、2人は互いの名を呼び合いながら懸命に走り続けた。瀧とのデートに備えて用意した靴がハイヒールで無かった事が幸いし、三葉も懸命に瀧と握った手を離さないまま、あの恐怖から逃げ続ける事ができた。
だがその間にも事態は容赦なく進んだ。彼らの声をかき消すかのように、背後から次々と爆発音が響いたのである。それがあの巨大な破滅を呼ぶものの突起から打ち出され続ける『ミサイル』、そしてその攻撃をかわしながらも懸命に足止めをするべく攻撃を続けているXioの特殊メカによう爆音である事など、2人は知る由も無かった。今まで体験した事がないようなこのような事態から2人揃って生き残ると言う事だけで精一杯だったのである。
しかし――。
「うわっ!!」
「きゃあああっ!!」
――彼らの逃走劇は、度重なる振動によりヒビが入ってしまったアスファルトが逃げる足を遮った事で、同時に中断してしまった。それでも何とか手を握り続け、互いの顔を確認しあった瀧と三葉であったが、立ち上がろうとした時、彼らのすぐ側で、今までより遥かに大きな爆発音が聞こえた。その方向を見た2人が見たものは――。
「……」
「……」
――あの巨大な生命体が発射したであろうミサイルが直撃した事で支えていた柱が破壊され、大地にそびえ立つ姿を維持できなくなったビルの姿であった。
瀧と三葉の時間が、一瞬止まった。
もう間もなく、あのビルの残骸は自分たちの体を取り込むだろう。ここでの楽しかった日々と共に。
あれは彗星ではない。天から降ってきた、彗星のような幻想的な美しさを一切持たない、人間の力で敵うわけがない怪物だ。例え時間を変えたとしても、あの怪物には何の意味も成さないだろう。だが、あの時に比べれば幸せかもしれない。2人の傍には、大事な存在が、最期の時まで――。
『……諦めないで!』
――突然脳内に響いた、誰のものとも分からない響きにはっとした直後、2人の体は別の何かに引っ張られながらその場を離れ、1台の車の中へと突っ込まれた。その直後、瀧や三葉がいた場所に、崩れ落ちたビルから飛び散った人間の背丈ほどの残骸が飛び散った。
「……あ……あれ……」
「お……俺たち……」
何が起きたのか混乱する2人であったが、運転席から聞こえる声は彼らに救難信号を与えるかのごとく急かした。
「早くシートベルトを着けて!ここから脱出するから!」
「「は、はい……!」」
その声に従い、急いで近くにあったシートベルトをつけた、まさにその直後であった。突然彼らの背後に、まるであの絶望を消し去るような眩い光が走ったのである。頑丈なベルトに阻まれ、あまり体を曲げる事はできなかったが、少しだけ後ろを見る事ができた瀧と三葉の目に映ったのは、直前まで彼らの背後で蠢いていた凶悪な存在とは全く違う、太陽のような赤色、人々に安らぎを与える夜を思わせる黒色、そして全てを照らす銀色に彩られた、文字通りの『光の巨人』であった。
2人は、その名前を知っていた。
今からずっと昔、彼らが生まれる何十年も前から、テレビや映画のスクリーンの向こうで、人々の平和を守り続けている勇者であった。だが、今やそれは架空の存在ではなく、彼らの側に確実にいるものである。
そして、2人は同時にその名を呟いた。
ウルトラマン、と。