君と俺と私の名前 ~YOUR NAME is ULTRA〜   作:ドンフライ

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3.プロローグ3・4人の来訪者
20.カタワレ時の残骸


「んっ……」

 

 目が覚めた時、瀧は非常に懐かしい光景に囲まれていた。まるで昔ながらの民家のように畳敷きの部屋に、整理された諸々の家具や勉強道具、そしてあちこちに丁寧にたたまれたりぶら下がっている服――ただし、男子高校生ではなく女子高校生が着るような服。かつて彼が何度も何度も見続け、記憶の中に刻まれたそのままの景色である。

 

 

「……?」

 

 だが、1つだけ違ったのは彼の体だった。

 あの時彼が経験していた記憶の中では、この場所にいると言う事は、その体の胸の方には2つの膨らみがあるはずだった。体つきもほっそりとしているはずであった。しかし、今の彼の体は現在お世話になり続けている高校生の『立花瀧』のものだったのである。

 しかも、少しづつ意識が覚醒していくにつれて、彼はどんどんおかしい点に気づき始めた。そもそも先程まで自分がいたのは、大暴れする怪獣にウルトラマンが立ち向かうというまるでテレビの世界のような異常空間の中のはずである。それがどうして、そこから遠く離れた緑豊かなド田舎にある大きめの家の中にいるのだろうか。それに、何故自分は私服ではなく『制服』で、女子が眠る布団の中で目覚めたのだろうか。

 

 何が起きているか理解できず、不審そうな顔をしていた時――。

 

 

「あ、瀧くん起きたー?」

「……三葉?」

 

 ――彼の元に現れたのは、瀧がずっと昔、幾度となく記憶していた『女子高校生』の姿をした宮水三葉であった。既に大学生、社会人になったはずの彼女までもが既に過ぎ去ったはずの過去の体を持っているという事で、瀧は確信した。

 

 これは『夢』の世界なのだ、と。

 

 

「やっぱり瀧くんも気づいたかー」

「当然だぜ、いきなり糸守町のあの部屋で目覚めるんだからな……」

 

 自分の頬をつねり、あまり痛くない事を知った彼よりも先に、三葉の方は既にここが『夢』の中の故郷、糸守町である事に気づいていた。先に起きて広い家の中を彷徨っても、瀧くん以外に誰も人がいなかったからである。

 奇妙な事だが、彼の目の前にいる彼女は滝の夢の産物ではなく、あの時Xioの特殊車両に揺られながら隣で共に眠りについた宮水三葉本人であった。証拠はないが、不思議な事に互いに目を合わせた瞬間、直感でその事を知ったのだ。

 

 

「こんなに広い家や町に、俺と三葉だけか……」

「まあ、私たちの『夢』やからね。たまにはこういうのもありかなって」

 

 

 それに、せっかくこのような『夢』を見る事が出来ているのだから、一緒にこの町を楽しもう、と三葉は瀧に提案した。脳内の電気信号が生み出しているであろう幻想の光景ながらも、その中でしか味わえなくなった故郷を思いっきり楽しみたい、と言う気持ちで彼女はいっぱいだった。勿論、瀧もそれに賛成しない訳がなかった。

 

「俺も『立花瀧』として、この町の雰囲気を楽しみたかったからさ」

「瀧くん……うん、じゃあ早速色々案内……しなくて大丈夫やね」

「いや……念のためお願いしますよ、三葉『先輩』」

「えっへん!」

 

 

 そして、たった2人だけの糸守町へと2人は飛び出していった。

 

 

~~~~~~~~~~~

 

「……改めてみると、本当に何も無いな……」

 

 糸守町は、かつて典型的な山間の町として、丸い湖に見守られながら存在していた。たくさんの緑が太陽に照らされ、田んぼが恵みの雨に濡れ、沈む夕日に湖面が照らされる、美しい光景に恵まれ続けていた。確かに都会に住む者からすれば、ゆったりした時間が過ぎるユートピアかもしれない。

 ただ、それは外部から見た意見であった。この町に結び付けられていた三葉にとって、この場所はどこへ行っても何も無い、物足りない場所だったのである。

 

 

「夢の中とは言え、なんでスナックが2軒もある事まで再現してるんだ……」

「私だけのせいじゃない、瀧くんだってこの夢の……」

「まあそれもそうだけどさ……でも、懐かしいな」

「うん……」

 

 

 両側が緑に囲まれるアスファルトの道を駆けたり、近くの木に体を委ねて一休みしたりしながら、2人は『故郷』の思い出を確かめるように楽しみ続けた。そして、彼らが昔『カフェ』と洒落た名前で呼んでいた――と言うより勝手にそう名付けられた自動販売機の元へと向かい、特に喉は乾かないが気分で缶ジュースを飲もうとした時であった。

 

 

「……あれ?」

「どうしたん、瀧くん?」

 

 

 ずっとこの町に住んでいたはずの三葉よりも先に、瀧はある違和感に気づいた。彼の記憶では、自動販売機の傍に三葉の親友と共に製作した木造りの簡易なテーブルやいす、そして日よけのパラソルがあったはずである。しかし、何故かこの夢の中の自動販売機には、そのような居心地の良い設備が存在しなかったのだ。

 

 彼の指摘で気付いた三葉は、『夢』の中で想像し忘れたのかと感じ、目を瞑ってそこにお馴染みの光景を再現しようとした。夢の中ならば何でもできる、と考えたのである。ところが、いくらテーブル出ろ、椅子飛び出せ、と念じても、そこには何も現れる気配は無かった。

 

 

「……宮水神社の巫女の力でもダメか……」

「その肩書きやめて、この状態で言われると少し恥ずかしい……」

「悪い悪い……どうした?」

 

 もう一度目を開いた時、三葉は何かに気づいた。

 

 

「……違う……」

 

「え?」

 

「……見た目は同じなんやけど……何かが違う、何かが違う!」

 

 

 同じ言葉を2度繰り返し、自分の中の考えを固めた三葉は、瀧の手を掴んで言った。今から急いで『宮水神社の御神体』が眠る山へと登り、この光景を上から眺めてみよう、と。先程までごく普通にいた夢の中の町の様子に、三葉は強烈な違和感を覚えてしまったのである。最初は突然のことに慌てた瀧も、彼女の掌の暖かい感触が強くなるにつれ、次第に同じ思いを抱き始めた。

 

 歯医者が無ければ24時間営業のコンビニも無く、その癖何故かスナックは2箇所――そんな懐かしいド田舎なのに、明らかにここは自分たちの知るあの場所ではなくなっている、と。

 

 

~~~~~~~~~~~

 

 

 夢と言うのは非常に自分勝手なもので、何を念じても思い通りにいかない事もあれば、逆に『夢』の方からぴったりの演出をしてくる事もある。

 不思議と息を切らすことなく、長い山道を進んだ先にある、まるで天空の庭園のような不思議な場所に辿り着いた2人の背後には、彼らにとってまさに理想的な空が広がっていた。

 

 

「カタワレ時……」

「だよな……」

「そんなに時間経ってないのに……」

「一気に朝が夕暮れになっちまった……」

 

 

 他の地域では『黄昏時』とも呼ばれる、夕焼け空が静かな夜になるまでの僅かな時間。

 そのほんの僅かな時の中で、瀧と三葉は『2度目』の再会を果たし、未来と過去を変えるための重要な会話を交わしたのである。そこで互いに言い合った言葉は、戻った記憶の中にしっかりと刻み込まれていた。

 

「色々と思い出すな」

「口噛み酒とかー?」

「そ、それは仕方ないだろ、もう……」

 

 ちょっとアレだか忘れる事ができない記憶も刻まれている事に苦笑し合いながら、2人は改めてこの山からじっと町の様子を見た。しかし、例の『カフェ』が未開店状態であった事以外に、特に違いは見当たらなかった。

 

 

「……気のせいだったんかな……」

「いや、三葉が何か違うって感じれば……なあ……今考えたんだが……」

「え?」

 

 ふと頭の中に浮かんだ『食い違い』の理由が頭に浮かんだ瀧が、それをあの時のように三葉に説明しようとしたその時だった。2人は同時に、ご神体がある方向へと目を向けた。明らかに自分たちとは異なる誰かがそこにいる事に気づいたのである。

 

 

 その青年は、泣いていた。泥に汚れた白衣を纏いながら、ずっと頭を下げ、涙を流し続けていた。瀧も三葉も、どちらも見た事がないような姿をした、今の自分たちとあまり年齢が変わってい無さそうな姿の青年であった。

 僅かな興味を抱きながら、2人はその方向へと駆けた。自分たちだけの『夢』の中なのに知らない人がいるという状況に疑問を抱くことなく、ただあの青年の涙を止めたいという思いだけでそちらへ急いだのである。

 

 

「どうしたんですか?」

「な、何かあったんですか?そんなに泣かんでください……」

 

 

 しかし、2人の言葉が耳に入っても、その青年は泣き続けていた。そして口からはずっと、ごめん、全て俺のせいだ、取り返しのつかない事をやってしまった、と言う謝罪の言葉だけが零れ続けていた。自分のせいで、皆の大事な『思い出』が壊されてしまったのだから、と。

 何を言っているのかさっぱり分からず困惑した2人が、ふと街が見える方向と反対側――ご神体が祭られているはずの方向を見た時だった。

 

 

 

 そこに、瀧と三葉がずっと抱いていた違和感の正体があった。

 

 

「……な……な……!!」

「あ……!!」

 

 

 この場所に辿り着いた時に見たまるで天空に浮かぶ静かな庭園のような光景は、一瞬で姿を変えた。そこに存在していたのは、石造りの御神体やそれを囲む綺麗な緑、そして斜面ではなかった。

 巨大な何かによって無残に抉り取られたかのように瀧と三葉が登ってきた方向とは反対側の斜面が完全に崩落し、御神体の神聖さを犯すかのように大量の紅や白が美しかった緑を奪い取る、まるで廃墟、地獄、悪夢のような光景が広がっていたのである……。

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