君と俺と私の名前 ~YOUR NAME is ULTRA〜 作:ドンフライ
ごく普通の大学に通い、ごく普通の青春を過ごし、ごく普通の日々を暮らし続けている女子大学生、宮水三葉。しかし、彼女には一部の地球人や宇宙人以外には家族でさえも一切明かしていない秘密が3つほど存在した。彼女には、男子大学生の姿をした恋人、立花瀧がいると言う事。彼女はその瀧と共に、ここから遥か遠く離れた別の宇宙から迷い込んできた、と言う事。
そして――。
「お待たせー、待ったー?」
「よう瀧、なんだ随分緊張してるなー?」
――今日のように、突然1日中その立花瀧と体が入れ替わってしまう、と言う事である。
普段の瀧とは異なり、三葉の意識が宿ってしまうと彼はどこか和らげな雰囲気となり、歩き方や走り方、そして口調も柔らかいものへと変わってしまう。だが幸いな事に、瀧の親友である司も高木も、これもまた親友の変わった特徴であるとあっさり認識してくれた。『元の宇宙』とは異なり、怪獣も宇宙人も平気で歩き回るようなこの宇宙だからこそ、異質なものへの警戒感や違和感と言う概念が薄れているのかもしれない。
そして、そんな宇宙人の1人が――。
「あ、ごめんごめん、皆待たせた?」
「ひ、日比野先生!」
「い、いや俺たち待ってないですよー、大丈夫です!」
――生徒たち3人の憧れの目線を受けながらやって来た。
これで休日を利用し、カフェでたっぷり語り合う面々は揃った。早速面々は集合場所を離れ、少し足腰を鍛えた先にある目的地まで向かう事にした。
「先生、あのバスケどこで学んだんですか!?」
「俺あんなの見たの初めてです!」
「お、俺もです先生……」
以前の興奮が冷めやらぬ様子で日比野先生に語りかける司と高木に違和感を抱かせないよう瀧の口を借りて便乗しつつ、三葉は改めて自分達のそばにいる美形の青年の姿を見た。
温和な顔に優しい微笑み、そしてふわりとした髪型――もし自分がずっと瀧くんに思いを寄せていなければ、確かに恋心を勝手に抱いてしまいそうなイケメンだ、と彼女はおもった。それもそのはず、この美形の先生の正体は、別の宇宙からこの場所に降り立ち、人々の平和を守ってくれる頼もしいヒーロー、ウルトラマンメビウス。瀧くんをはじめ多くの人々に応援される存在なのである。
その頼り甲斐ぶりを存分に押し出しつつ生徒からの言葉にも決して舞い上がる事なく、ある意味冷静に対応する彼の姿を見れば、子供の頃に強烈な憧れを抱いたという瀧くんの気持ちも少しわかるような気がした。そして、ちょっぴりだけ「ずるい」という単語も頭の中に浮かんだ。
「……おい瀧ー、緊張し過ぎだってー」
「明日からも会うんだしさー」
「そうだよ、立花君。気になる事があったら何でも言ってごらん」
とてもありがたい助言なのだが、この時点での三葉にはそのような思いはなかった――。
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「え、チーズがたっぷりあるカツカレーは無いんですか?」
――瀧が行きつけのカフェで、突然日比野先生がメニューに無いカレーライスの種類を注文すると言う行為に出るまでは。
司や高木が呆気に取られるのは勿論、彼の体を借りている間に何度かこの場所で美味しくパフェやパンケーキをこっそり頂いている三葉もまた、突然の光景に何も言いだす事が出来なかった。
しかも、全く悪意が無い純粋無垢な表情のまま、そのメニューは存在しないと告げられた先生はその矛先を三葉=瀧たちに向けてしまった。皆で一緒にメニューにあるカレーを大盛りチョイスで食べよう、と勧めてきたのである。既にパンケーキやパフェを頼み、それで昼の腹を満たそうと注文を完了していたにも関わらず。
「お、俺たち大丈夫です……」
「先生だけで構わないですよ……」
「あ、そうなの?わかった。じゃあこのカレーを……」
一番最後に届いたカレーライスを美味しそうに食べる日比野先生の表情は、確かにとても幸せそうだった。じっくり見ていれば、どこか『今』の瀧に似たようなこの世の幸せを満喫しているような雰囲気を感じる事ができたかもしれない。だが先程の行動のせいで、男子高校生3人はすっかり黙り込んでしまった。店員さんを困らせるどころか、むしろくすりと笑われるまでに至ったのだから当然だろう。
ただ、そんな彼らの心の内を日比野先生――一応正体がウルトラマンメビウスであるはずの人物が知ったのは――。
「「「先生、何やってるんですか!」」」
「え、えっ……」
――店を出て少し経ち、3人に一斉に突っ込まれた時であった。
「もう、カレー屋にすれば良かったな、昼飯の場所……」
「大好きなのは分かりましたけど、やり過ぎですよ……」
「ほ、本当にごめん……つい興奮しちゃって……」
いくら天然ボケ気味なところがある先生と言えどもあれは流石にやり過ぎだという司や高木の痛烈な指摘に日比野先生が平謝りする光景を側から眺める三葉もまた、あまりの天然ぶり、そして瀧の体で甘いものを食べまくった過去がある自分をはるかに凌ぐ食い意地ぶりにある意味感心していた。確かに先生は宇宙人、しかも地球から遠く離れた光の国からわざわざ来てくれたヒーローなのは間違いない。だがそれにしても、まさかあの時都会の事を何一つ知らずに興奮していた自分自身よりも変な光景を見てしまうとは思わなかったのである。
そして彼女も、日比野先生の秘密に触れないよう注意しながら突っ込んだ。そこまでしてカレーを求めているのか、と。
「ま、まあ……色々思い出が詰まっている品だからね……」
「思い出……そうですか……」
返ってきた言葉の中に含まれていた単語に、どこか心揺さぶられるような感触を覚えた三葉は、思い出に他人を巻き込みすぎないように、と先生を注意する生徒の様子をしばし無言で見つめていた。瀧くんが憧れていたヒーローは、単に強くて格好良い存在だけではなく、もっと様々な思いを抱えているのでは無いか、と考えながら。
ともかく雰囲気が滅茶苦茶になってしまったのは間違いない、と言いながらこの面々の主導権を握った司が、皆で一緒にゲーセンかどこかへ向かって気晴らししよう、と先生がいる前で告げた、まさにその時だった。
「……!」
「今の声……高木も瀧も聞こえたよな……?」
「ああ……!」
「うん……!」
悲鳴のような声が、4人の耳に飛び込んできたのは。
皆でアイコンタクトのようなものを取った直後、その方向へと向かった彼らが見たものは、1人の老人が腰を抜かしたかのように倒れこみ、その向こうで何かの影が逃げていくと言う、明らかな『犯罪』の光景だった。
宇宙人や怪獣の侵略や破壊と並んであってはならない事態に高校生の3人が固まっている中、真っ先に体を動かしたのは日比野先生だった。そのご老人の介抱や通報は任せた、こちらはあの犯人を追い掛ける、と告げた後、そのまま走り去ってしまったのである。
「せ、先生……い、行っちまった……」
「だ、大丈夫ですか、おじいさん!?」
唖然とする暇もなく、急いで倒れこんだ老人を支えた司や高木は、瀧に急いで警察に通報するように告げた。幸いこちらの世界でも警察へ繫がる3桁の番号は同じ、急いで状況を報告するべきだと急いだ三葉であったが、その行動を止めたのは、被害者であったその老人であった。警察ではなく、今すぐXioに知らせてくれ、と頼んできたのである。
その理由はたった1つ……。
「わ、わしの宝を奪ったのは……う、宇宙人じゃ……!」
「「「!?」」」