君と俺と私の名前 ~YOUR NAME is ULTRA〜   作:ドンフライ

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34.ダブル・スマイル

「うーん……」

「……」

 

 テレビの画面の向こうでは、今日も無事ウルトラマンエックスが防衛組織・Xioと協力して怪獣災害を抑え、どこまでも響く笑い声を止める事ができた。だが、肝心の瀧が安心するのはまだ早かった。一件落着と言わんばかりに動き出そうとしたところを四葉に止められ、テッシーやサヤちんに再びじっくり見定められ始めたのである。

 

 正直、ここで自分が『宮水三葉』ではない別の誰かである、という事を敢えてばらしてしまうという選択肢もあったかもしれない。だが、瀧にはそのような手段を思いつく余裕もずるさもなかった。三葉の方も様々な形で体が入れ替わっている事を懸命に隠し続けているのに、自分だけその苦労から逃げ出すのはあまりに卑怯だし、そもそもこちらから明かすなら三葉と共に真相を暴露したい、と考えていたからである。

 

 ただ、中には勘の鋭い人――宮水神社の神主やその『息子』などのように相手の方からその違和感に気付いてしまう例外もいる。もしかしたら、目の前にいる2人もその『例外』に含まれるのではないか、と考えていた時だった。

 

「……四葉ちゃん、これ調査打ち切りやな」

「「えっ!?」」

 

 テッシーから出たのは、四葉は勿論瀧も驚かせるような言葉であった。彼の記憶にある、あの無茶な事でも最大限努力を続けるあの頼もしすぎる逸材が、あっさりと解決を諦めたのだから。

 当然四葉はお姉ちゃんは宇宙人に未だ乗っ取られているかもしれないのに、と反論したのだが、それを優しく諭すようにテッシーは理由を説明し始めた。

 

「よーく思い出してみい。四葉ちゃんの姉ちゃんが『宇宙人』になった後、何か『悪い事』でもしたか?おっぱい揉む事以外で」

「おっぱい……以外……ご飯が洋食メインになって、なんかこう格好良くなって……」

 

 まるで裁判の中で検察に過去の罪を洗いざらい言われているような感触を瀧は感じ、緊張の色が解けなかったのだが、幸いにも四葉の口から出てきた過去の案件はどれも普段のお姉ちゃんからすればどこか違うと言うものばかりで、テッシーが前もって除外していたあの恒例行事以外は特に悪事は無かった。そもそも三葉の体を借りている身として、そんな事を恋人である彼がする訳はないのだが。

 

「確かに悪い事一切無いなー」

「で、でも、やっぱり変なのは気になりますって!」

 

 サヤちんも次第にテッシーが言いたい事を理解し始めている中でもまだ納得がいかない四葉であったが、そんな彼女でも理解せざるを得ない例えをテッシーは持ち出した。もし今、自分の姉に宿っているのが今までの悪の宇宙人ではなく、ウルトラマンだとしたらどうなるか、と。

 

「えっ……」

「ほら、俺らじゃどうにもならん時に色々な力を使って守ってくれる、あのスーパーヒーローや。ニュースでも取り上げとったやろ、ウルトラマンは遠い宇宙のどこかからやって来て平和を守ってくれる『人』やって」

「……あー、テッシーが言いたい事全部分かったわ。四葉ちゃん、変やって思う行動も、もしかしたらそれは悪事を働くためやなくて、単に地球に慣れとらんだけかもしれんよ」

 

 もし本当に三葉の体にまだ宇宙人の意識が残っているのなら、と前置きを入れながらも、サヤちんもまたフォローを続けた。目の前の異質な存在が気になってしまうのは仕方ないかもしれないが、そこですぐそれを排除しようと動き出すのではなく、まず相手と『分かり合う』事こそが一番大事なのではないか、と。

 

「……分かり合う……私のお姉ちゃんと……」

「四葉……」

 

 犯罪組織を作る宇宙人のように悪意を持つ連中が三葉の体に今も残り続けているのなら承知しないが、少なくとも今の段階では大丈夫、まずは姉妹の仲をもっと深めてそういった互いに知らないところをより確認し合う――Xioの言葉を借りれば、『共に生きる』事が一番大事だ。これが、オカルトのプロフェッショナルからのアドバイスであった。

 

~~~~~~~~~~

 

「「……」」

 

 テッシーのマンションを出た後も、しばし宮水姉妹は無言の状態が続いた。相談事が突然の怪獣出現で一時打ち切りになってしまった挙句、結局姉が宇宙人だったのかどうかはっきりした結論が出ないまま、そのまま現状維持と言う結論に至ってしまった以上仕方ないかもしれないが、それ以降、どうしても四葉は姉と目を合わせる事が出来ないかのようにずっと目線を下に向け続けていた。

 心の中で煮えくり返らない何かが残っているとき、地球生まれの人々はその対象から逃げるかのような行動を取る――ずっと同じような日々を何年も繰り返し、見えない光をずっと探し続けてきた瀧には、そのような時に一番必要な行動は何か、よく知っていた。誰かが悩みもがいている時、一番必要なのは――。

 

 

「……え?」

 

――その不安な心を癒す暖かさだ、と。

 

 休日の電車の中で突然姉に頭を撫でられ、驚きの表情で見上げた『妹』に対し、瀧は大事な存在の姿を借りながら、自らの、そして宮水三葉の思いを伝えた。

 

「四葉……色々と、これからも迷惑をかけちゃうかもしれない。駄目なお姉ちゃんだね」

「お姉ちゃん……」

「でも、これだけは信じてほしいの」

 

 例え自分が宇宙人でも、この世界の人間でなくとも、どんな時でも宮水三葉はこの世界にたった1人の妹の味方であり続ける、と。それは単に彼女と入れ替わっている事への責任感だけではなく、あの不思議な日々を初めて経験する中で得る事が出来た『兄』としての自覚でもあった。目の前で大事な存在が悲しそうな顔をしているのはもう見たくない、と言う。

 

 

「……お姉ちゃん、ずるいよ……えへへ……」

「えへへ……」

 

 

 その言葉通り、この方法は効果てきめんのようであった。あくまでも自分はお姉ちゃんにはいまだに宇宙人が宿っていると信じている、これから何か悪事を働いた時には承知しない、と小声でこっそり釘を刺しつつも、四葉はもう少しこの不思議な日々を楽しんでみたい、と言う思いを告げたのである。

 

 そして車内に、2人の姉妹――いや、『兄妹』の笑顔が芽吹いた。

 

 

 

 翌日、他人の体を乗っ取る『宇宙人』からごく普通の地球人の高校生男子へと戻った立花瀧に届いたのは、1通のお礼のメールだった。今までよりもどこか妹が優しくなったという事に加え、瀧と入れ替わっている間に起こる様々な出来事について、非常識な事がほとんど起こらなかった『元の世界』よりも親友が理解してくれるようになった、と。

 

「……それも、そうだよな」

 

 この異質な宇宙、奇妙な世界と共に生きる――また1つ、その良い方法を見つける事が出来たのかもしれない、と考えた瀧は、心の中で『この宇宙』の頼もしい親友にお礼を告げた。ただし、ある1点を除いて。

 

 

「……誰がおっぱい星人だよ、三葉……しかもなんか凄い楽しそうな文章でからかいやがって……」

 

 

 楽あれば必ずそこに苦があるもの。これからは入れ替わった時の確認作業と言う名の楽しみがしづらくなりそうだ、と瀧は自らの良心をいったんひっこめ、笑顔で溜息をつくのだった。画面の向こうで悪戯げな笑顔を見せる『お姉ちゃん』を頭に浮かべながら……。

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