君と俺と私の名前 ~YOUR NAME is ULTRA〜   作:ドンフライ

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36.未来を変えた龍

 瀧も三葉も記憶に無い、Xioとはまったく別の防衛隊で隊長を務めた経歴がある体育系の不思議な男性。

 だが、新人であった彼の初陣は悲惨な、そして非常に苦い結果に終わった。確かに長い間訓練を積み、戦闘技能は抜群だと自負していた彼らだったが、その訓練を活かす場がないまま何年も過ぎ去ったのが仇となり、この男性を残して全隊員が命を落としてしまったのである。

 そして、彼がずっと尊敬し続けていた『セリザワ隊長』もまた、この戦いを境に一時的に行方が分からなくなってしまった。

 

「「……!」」

 

 大事な存在の命が目の前で失われていく、と言う事態を形は違えど目の当たりにしたことがある瀧、その当事者である三葉は、男の言葉に一瞬背筋が震えた。夢の中とは言え、彼らの目の前にある意味自分達より過酷な経験をした者がいると言う事実を知ったのだから当然かもしれない。

 だが、それでも『隊長』だけは唯一命を落としたと言わず、行方が分からなくなった、と彼は語った。一体その隊長はどこへ行ったのかと言う瀧の問いに戻ってきたのは、予想外の言葉であった。

 

 

「……隊長は戻ってきたぜ。『ウルトラマン』と一体になってな」

「……う、ウルトラマン……!?」

「ど、どういう事なんですか!?」

 

 状況を呑みこめない2人に対し、男はそこに至るまでの事情を丁寧に説明した。

 確かに、セリザワ隊長はあの最初の戦いで一度は命を落とし、永遠に姿を現さないものだと思っていた。しかし彼の体は奇跡的にも、宇宙の遥か彼方にあるM78星雲出身の宇宙人――瀧を始め多くの地球人が『ウルトラマン』と呼ぶ存在に助けられ、息を吹き返したのである。だが、それはかつて三葉が経験したような状況よりも遥かに複雑な事情を抱えていた。このウルトラマンは、かつて救えなかった大切な命の恨みを晴らすためにセリザワ隊長の体を間借りし、そのまま復讐に利用しようとしていた、と言うのだ。

 

「復讐……」

「ああ……ややこしいから詳しい事は言わねえが、俺たちも何度も苦しめられた憎い相手さ」

 

 一度失った命はもう戻ってこない、だからこそこのウルトラマンは自らを復讐の鬼、ウルトラの名を捨てた『宇宙人』へと駆り立て、皮肉にも失われた命を利用する側へと回ってしまったのである。当然、セリザワ隊長をずっと尊敬していたというこの男性にとってもその事実はあまりにも受け入れ難いものだった。彼の望まない形で、変わり果てた憧れの存在が帰って来たのだから当然だろう。

 

「「……」」

 

 自分達がずっとテレビの中にしか存在しない子供向けの番組だと考えていた宇宙の中であまりにも壮絶な事態が起きていた事を知った瀧と三葉は、何も言葉を出せないまま互いに顔を見合い続け、そこに確実に最も大事な存在がいる事を確認しあうことしか出来なかった。

 だが、そんな2人にまるで喝を入れるかのように、男性の口調はどこか勇ましいものとなった。それでも自分は、ずっと『セリザワ隊長』を信じ続けた、と。

 

 

「信じられない姿になっても、そこにいるのは俺の尊敬する『隊長』だ。だからこそ、俺は懸命に訴え続けた。絶対に諦めない、って」

 

 そして、それは彼の仲間もまた同様だった。特に先程この男が特に重点を置いて語った『あいつ』は、懸命にそのウルトラマンに対して復讐の心を捨てるように訴え続けた。憎しみの力に囚われていては、目の前にいる敵に絶対に勝つことは出来ない、とわかっていたのかもしれない。

 本当に紆余曲折の道のりであったが、次第にその宇宙人は全てを理解し始めた、と男の思い出話は続いた。

 

 

「皆の絆を守るため共に戦う、それが『ウルトラマン』と言う存在だ……今思えば、セリザワ隊長と一緒になった時よりも前から、あのウルトラマンはその大事な思いを心にしまい続けていただけかもしれねぇな……」

 

 復讐のまま戦い続けた1人の宇宙人がその辛く悲しい心を開いた時、運命は大きく変わった。

 目の前に迫り来る強敵を前に、当時まだ1人の隊員だったこの男性、『あいつ』、そしてセリザワ隊長と共に、彼は『ウルトラマン』として共に戦ったのである。

 

「ウルトラマン……」

「絆の力……」

 

 瀧と三葉には、この男が単に自分達に対して奇妙な思い出話を語り続けているだけのようには見えなかった。自分たちの夢の中に突然現れた時点できっと何か伝えたいものがあるのかもしれない、壮絶な過去の中に何か今の2人の支えとなる何かを秘めている、と考えた2人は、そのまま彼の言葉を聞こうとした。ここでウルトラマンとして復活したという事は、男が憧れていた隊長もまた復活したかもしれない、と言う希望もあったのだろう。

 

 だが、続いたのはそんな心を砕くような、男の経験した『現実』だった。確かに隊長は蘇ったが、それはあくまでもウルトラマンと一体化した姿。ずっと憧れていた隊長がそのままの姿で戻ってくる事は2度と無かった。というのである。だが、それでも男の表情は明るく、そして優しいものだった。隊長がウルトラマンと共に地球を去った後、『あいつ』の力を借りてもなお平和を守りきれない最悪の敵が迫ったその時、絆の力で結ばれた多くの仲間達と共に、隊長やウルトラマンが助けに戻ってきたのだ。そして――。

 

「そのウルトラマンは、鎧を纏っていた。ずっと昔、復讐の相手に滅ぼされた星の人々の魂が形となった、な」

 

「「……!?」」

 

 ――最大の危機を迎えた際、その『鎧』が彼を、セリザワ隊長の命を救ってくれた。

 そして、その命をこの男もまた一度だけ共有した――分かりやすく言えば、セリザワ隊長と一体化したそのウルトラマンとさらに一体化し、強敵に立ち向かう機会を得た、と言うのである。

 

「……本当にあれは、今思い出しても凄い経験だったぜ……最後は皆の思いを1つに、宇宙を暗黒に包もうとする奴を倒せたんだからな」

 

 全てを失った最初の戦い、複雑な思いを抱いた再会、様々な強敵との遭遇、そして皆と共に立ち向かった最終決戦――どんな苦難も今やいい思い出だ、と言わんばかりに、地球や宇宙を守り抜いた戦士の表情は安らかなものであった。しかし、『未来』を守り抜いたんですね、と褒めた瀧の言葉を、彼は首を振って笑顔で否定した。守ったのではなく、未来も『過去』も変える事が出来たのだ、と。それは単に過去の形をそのまま変えたのではなく、男の中にあった複雑な思い――2度と返ってこない日々、全てを失った悲しみ、そして『あいつ』への憤り、その全てを別の形へと変える事が出来た、と言う意味も込められていた。

 

 

「ここにあるぶっ壊れた光景も、きっと変える事が出来る。俺やセリザワ隊長、そしてあのウルトラマンのように……そう信じてるぜ」

 

 その言葉は、実際に過去を変えた経験を持つ瀧と未来を救った記憶がある三葉の思いを、そのまま形にしているようであった。そして、ふと空を見上げた男は、そろそろこの場所を後にしないといけない、と告げた。もう少しすれば太陽は完全に美しい空の彼方へと沈み、この世とあの世を繋ぐという不思議な『カタワレ時』が終わりを迎えてしまうのだ。

 

 『夢』の時間が次第に終局へと進むかのように、瀧と三葉のお礼の挨拶を背に受けた男はそのまま御神体から姿を消そうとしていたが、突然何かに気づいたような動きをしながらこちらへ戻ってきた。会話の中に何度も出てきた『あいつ』について、2人に大事な用件を伝えるのをすっかり忘れていたのを、この時間になって思い出したのである。

 

「ここは『夢』だからな……覚えてないかもしれないが、出来れば頼む……」

 

 

 ただ、その言葉を受け取る前に瀧と三葉はどうしても気になる事があった。今の今まで、この男はずっと自分の本名を名乗らないまま思い出話を続け、そして伝言を伝える相手である『あいつ』の名前も、一切説明していなかったのである。

 一体貴方は誰なのか――根本的だが、見知らぬ誰かを知る上で重要な質問をぶつけられた男は、胸にある翼のような紋章に触れながら背筋を伸ばし、防衛隊の隊長として2人の聞き手に自らの名を語った。

 

 

「俺の名前は、アイハラ・リュウ。CREW GUYS隊長さ……何千年も前のな」

 

~~~~~~~~~~~~~~

 

「へぇ……随分不思議な夢だね……」

「本当に誰だか分からないのかー、瀧?」

「悪い……ぜんっぜん分からん……」

 

 翌日、普通に目覚める事ができた瀧は自分が昨晩見た不思議な夢を、日々野先生や親友に相談した。姿は勿論名前すら知らない、やけに体育系で熱血漢風な奇妙な男とずっと語り合うと言う、何を意味しているのかすらさっぱり分からない内容である。彼が得意とするイラストの形で思い出そうとしても、肝心の『夢』自体の記憶がほぼ失われている以上、相談された相手も含めてその場にいる全員がこの夢の真相を掴む事ができなかった。

 

 しかし、そんな中でもおぼろげながら、彼には1つだけ明確な記憶があった。

 その夢の最後の最後で、男はどういうわけか、自分以外の誰かにこのようなメッセージを残したのだという。

 

「確か……『俺達の翼』は、永遠だとか何とか……」

 

 何か鳥に関係する夢だったのか、それともサッカー選手か何かか、とより悩み続ける瀧や彼の親友たちは、話に乗ってくれていた日々野先生の顔が一瞬、どこか遠いところを向いているように感じた。何か知っているのか、と尋ねた彼らであったが、先生からの反応は普段どおりの天然そうなものであり、すぐこの行動の疑問はかき消された。

 

「まー、たまにはそんな夢も見るさ、なぁ♪」

「しかし美女とかそういう夢じゃないのかー。残念だなー」

「お前ら、俺に何を期待してるんだよ……」

 

 

 最終的に解決を諦め、呑気に語りだす3人は気づかなかった。

 日々野先生が教室を抜け出して1人校舎の屋上へと上がり、大空を見上げながらそっと涙を流していた事を……。


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