君と俺と私の名前 ~YOUR NAME is ULTRA〜 作:ドンフライ
「良かった……良かった、瀧くんが無事で……!」
『大丈夫だよ三葉、原因の疲れもだいぶ取れたからさ』
それでもやはり心配だった、と女子大生の三葉はスマホの向こう側にいる男子高校生の「瀧くん」に優しく愛らしい声を送った。何年も何年もずっと彼を探し続けていた辛い日々が心から消えないからこそ、彼が保健室で休んだと聞いて気が気で無かったのである。
そして、体調に問題はないと言う報告を改めて聴きつつ、あの時三葉が見たイケメン先生は、やはり瀧の高校にいた教育実習生である事を彼女は知った。どうやら深い理由はなく、ただ単に忙しい日々の中でそのイケメンの事を忘れていただけらしい。だがそれも仕方ないだろう。過去にこの時間を経験していた頃の瀧は、自分と何度も体が入れ替わっていた少女――宮水三葉の方ばかり気になっていたのだから。
「あーそうやね、私も凄い優しそうやって思った」
『まあ、でもおっちょこちょいだった記憶があるからな……暖かく見守ってやってくれ』
「なんか瀧くん、先輩みたいやね」
『だって見た目は学生でも頭脳は立派な社会人だぜ、俺たち』
どこかで聞いたような言葉だ、と笑いながらも、その直後三葉は真剣な声で瀧にある解説を始めた。もう一度経験する事になった大学での日々を縫い、彼女は今日1日でこの時間に時間に潜む自分たちの記憶にはない様々な出来事を調べていたのだ。
ただその中身は、常識では考えられないような日々を経たはずの三葉にとっても信じ難いものばかりだった。その内容がアニメや漫画だったらまだ納得できるが、どうしてそれが現実に現れてしまっているのか、と。
『……三葉、お前の気持ちは凄い分かる。俺も同感だ。だいたい何だよ、ウルトラフレアで怪獣出現って……』
「15年前に起きたそのフレアで出たオーロラを受けて、世界中に怪獣……どこの特撮ヒーローやって思ったんやけど、間違いなく現実みたい……」
その謎のオーロラをきっかけに、世界中にあったという怪獣みたいな感じの形をした人形『スパークドールズ』が本物の怪獣になってしまった。その対策のため、地球防衛の要となる精鋭部隊『Xio(ジオ)』が誕生した。そして今から少し前、そのジオや地球の頼もしい味方として、未知の巨人と言う意味から『ウルトラマンX(エックス)』という存在が現れた――真剣に読んで良いのかどうか悩みそうなほどの過去だが、他の資料を漁っても同じような事しか書いておらず、これがどうあがいても世界の真実だと無理やり三葉に押し付けるようだった。
「一体何がどうなっとるんやろか……」
『うーん……』
これは確かに瀧くんが保健室で寝込むのも無理はない、と考えた時、その本人が三葉にある事を告げた。もしかしたら、そもそも今の自分たち自体が別の何か、それも自分たちが全く知らない何かと入れ替わってしまっているのではないか、と。
それが何かまでは流石の瀧でも分からなかったが、三葉はその考えに大いに納得した。彼女や彼を取り囲む人々は、怪獣やXio、それにウルトラマンエックスが普通にいる世界に当たり前のように馴染んでいる。まるで過去に自分たちが入れ替わり続けた時とは正反対の内容だ。
「じゃ、じゃあ元の私たちに戻れる……かどうかも分からんよね……」
『そうなんだよな……俺と三葉の間は昨日のように入れ替われたけど、俺たちと何かは未だに代わってない……』
結局自分たちに何が起きたかさっぱり分からないまま、三葉と瀧の間に沈黙が流れてしまった。だが、それを解いたのは意外にも三葉のどこか勇ましい声だった。自分たちの力だけで解決するのが無理ならば、頼もしい仲間の手を借りるのが一番だ、と。
「こう言う事に詳しい私の友達、瀧くんも知ってるやろ?」
『ああ……テッシーさん!』
勅使河原克彦、通称テッシー。様々な分野の建築に関わる仕事を親から受け継ぐべく奮闘し、故郷を蘇らせるという大きな夢を持つ、三葉の大親友の1人だ。その彼には、様々な工学に詳しい事に加え、常識を超えた超常現象を扱うオカルトにも明るいと言う特徴があった。もしかしたら、彼の豊富な知識の中にヒントが眠っているやもしれない、と三葉は考えたのだ。
『そうか……確かにあのテッシーさんならなんか分かるかもな!』
「明日は時間あるし、散歩がてらテッシーの元を訪ねてみるよ。住所は記憶通りの場所やったし」
この訳のわからない事態、2人で一緒に乗り越えていこう、と三葉と瀧は互いを励まし合った。そして、この世界に来た意味や抜け出す方法を協力して見つけよう、と。
ところがそう誓った翌日、少しだけだが早速彼女たちに躓きが襲ってしまった。
「な、何でこんな時に……」
三葉が起きた時、その体や声は女性のものではなく、彼女よりも若い男子のものに変わってしまっていたからである。そして、手元にあったスマホには、彼女からのアドレスでメールが届いていた。
何とか頑張ってみる、そっちも上手く乗り切ってくれ、と。
「……ふふ、瀧くん、頑張って」
そう呟きながら、彼女――外見上『立花瀧』は優しく微笑んだ……。