君と俺と私の名前 ~YOUR NAME is ULTRA〜   作:ドンフライ

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9.気づかぬムスビ

「お姉ちゃーん!早く起きー……って、うわ、また?」

「う…うーん…」

 

三葉の体の中に文字通り入った瀧の1日は、大学生になった三葉の胸を揉む事から始まっていた。彼女の妹、四葉が呆れ顔なのも無理はないが仕方ない。この感触を味わう度に、彼はここに何よりも大事な存在がいる事を確かめられるからだ。

とはいえ、そんなに味わってはいられない。今日は大学で講義が詰まっている日だ。しかも三葉ならしっかり分かりそうな講義……つまり瀧の場合なかなか理解できそうにない内容、と言う訳だ。尚更三葉に汚点を作ってはならない、と彼は必死であった。

そんな彼がスマホを見ると、三葉が残した気になる文章があった。

 

「組紐……あ、これか……そうだよな、ごめん、三葉」

 

ここ最近、今まで体験した事がない三葉の大学生活に馴染むだけで精一杯だった彼は、あの大事なものを目立つところに身につけると言う余裕すら無かった。最近はあまり『綺麗な飾り』を付けてないんですね、と言われた三葉は、ちょっとチクリとするような言葉で瀧に注意を促したのである。

 

組紐。幾つもの紐を、文字通り複雑に組み合わせながら縫う、今は無き三葉の故郷の伝統工芸にして、『宮水』の名を守り、糸守と言う場所があった記憶を紡ぐ重要なもの。

 

「……よし、っと」

 

これを身につければ、三葉の心がきっと守ってくれる――いや、三葉の心も守り通す事ができる気がする。そう信じた彼は、朝ご飯を早く食べるよう促す声に従い、都会のマンションにある1人部屋を後にした。

 

~~~~~~~~~~

 

「あ、先輩、今日はその飾り、付けてきたんですね」

「う、うん……やっぱり大事なものだし」

「宮水先輩はそっちの方が似合いますよー」

 

大学生だった頃の三葉は、どこか陰があるように見えながらも、普段から真面目に授業に取り組む生徒だった――瀧が知らなかった、三葉の大学時代の後輩がいつか教えてくれた真実だ。そうやって彼女の事を褒めてくれた後輩は、この怪獣やウルトラマンが蠢く変な世界でもしっかり三葉を評価してくれていた。

 

ただ、まるで組紐に加えて三葉の事が褒められているような気持ちに嬉しくなっていた瀧であったが、ふと気になる事があった。陰があるようで、まるでふらりとどこかに旅立ってしまいそうで、なんだか心配だった、と語ってくれたあの時のように、この後輩もまた三葉を気遣うような素振りを見せたのだ。

 

(そうだ……この世界が、俺たちとは違う世界だとすれば……)

 

 三葉の故郷、糸守町はどうなっているのだろうか。

 少なくとも彼女の妹の四葉やテッシーさんが彼と同じこの都会にいると言う事ならば、やはりこの世界の糸守町にも何らかのとんでもない事態が起きたのではないか、それが気になっていると――。

 

「もー先輩、また暗くなる!明るく明るく!」

「え、あ……ご、ごめん……ありがとう……」

 

 ――しばらくは彼女のようなこの大学での人間関係に慣れる必要がある、そして恐らくここでそれを調べてしまっては、きっと後悔する事になる、と考えた瀧は、この三葉を励ましてくれる後輩の話を聞く事にした。ただしその話は――。

 

「それで先輩、聞いてくださいよー!この大学に、凄い美形の教授が2人も!来たんですよー!」

「び……びけい……ねぇ……」

 

 ――当然というべきか何というか、イケメンの話であった。どうやら、この大学の科学分野の学科に、つい最近別の大学から2人のイケメンがやって来たらしい。しかもタイプが真逆、片や優しくとも熱く、片や厳し目だが気遣いが上手いと言う。

今やこの学校の女子の多くで噂が持ちきりだ、と明るく言う後輩の目的が、彼女から見ても間違いなく美人であろうこの宮水三葉を励ますためであるのは間違いなかった。しかし、瀧はあまり興味を惹く事ができなかった。彼の心が新社会人の男性だから、と言うのもあったが、それ以上に三葉の気持ちを考えれば、例えイケメンとは言え、靡く訳にはいかない、と感じたからである。

 

まだこの時点で、瀧も三葉もそのイケメンが何という名前なのか、知る事はなかった……。

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