モモンガさんとファーマー忍者(仮)   作:茶色い黒猫

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住んでる地域で木枯らし1号が吹きました。

寒くなる一方ですね(´・ω・`)


第10話

 

 ピメントの揺るがぬ決意を込めた台詞に、モモンガは軽く――ゲームが現実になったのだとしても、骨だけなので表情は変わらないが――微笑んだ気がした。

 

「分かってます。恵実さんを一人には出来ませんもんね。出来る限りは協力します」

 

 あっさりと告げる友人の、その言い回しに気づいた事でモモンガとは対照的に複雑な表情を浮かべる。

 

「協力します。って、モモンガさんはここに残るつもりか? 他に誰か来ている可能性もあるけど、一人になりますよ?」

 

「はい、身寄りもいませんし帰るつもりはありません。が、一人にはなりませんよ。仲間が創ったNPC達――まだ信頼出来るかは分かりませんが、皆の子供がいますから」

 

 帰る事を拒否したモモンガに、悲壮感は見られない。我慢しているのか本心からの言葉なのか、ピメントには見抜けなかった。

 

「それに、その帰り道が一方通行とは限りませんしね」

 

 その台詞に、乗る形でピメントは告げる。

 

「それなんですが、色んな可能性を考えたので聞いてくれますか。先ず第一に現実世界と言うか元の世界と言うか……とにかく前の世界の俺達の事ですが……」

 

 それからのピメントの話は長かったが要約するとこうだ。

 

 先ずは、元の世界で自分達はどうなっているのか。

 

 可能性が高いのは、人間の肉体は残り精神だか魂だけがアバターに宿り異世界に跳んだ可能性。

 

 その場合でも、精神がコピーされ元の自分達は何も問題なく生活している可能性がある事。

 異世界が夢の様なもので、元の世界の時間が停滞、または非常に遅く流れており、異世界から戻れば元に戻る可能性。

 時間は普通に流れており、抜け殻の身体が衰弱死する可能性。

 

 そして、精神や魂だけにしろコピーにしろ、元の世界では既に死んでいる可能性。

 

「さすがにあっちの肉体まで消えてる、って可能性は無いと思います。で、向こうの身体が死んだら今の俺達が死ぬだか消えるのか、って疑問もありますが……」

 

 ピメントは己の頭上に生えている猫耳を確かめる様に触りながらも、真面目な声で続ける。

 

「それは嫌でも時間が教えてくれるだろうから置いとくとして、他の問題は……」

 

 猫耳を触っていた手が下がり、今度は黒い布の上から膨らんだ胸を揉む。それを見たモモンガは苦笑しながら止める。

 

「まだピメントさんが女性の身体になった、と認識するのに慣れてないので止めてください。それで、他の問題は……帰れる、となった場合ですね」

 

「そうです。精神だか魂だけの説だと、コピーでも衰弱死でも問題ですが、コピー説なら帰ったらどうなるのかが分かりません。死んでたら幽霊でしょうが、コピーだと意識が統合されるのか、どちらかが消えるのか……」

 

 今まで考えた事もない事を考えるピメントは、過去に観て読んだ映画やアニメ、漫画や小説などの内容を必死に思い出しながら、あらゆる可能性を探していく。

 

「とにかく、精神か魂だけの場合は、夢説以外はなるようにしかならないって事ですね。身体が無かったら恵実の守護霊にでもなるとして。後は――」

 

「来たのは魂だけだったが、帰るにあたって“その身体”で帰るしか無い場合、ですね」

 

 モモンガの指摘に頷き、身体の調子を確かめる様にその場で軽く跳ねるピメント。

 

「人間種だったらまだ良かったのですが、性別は90日経てば戻せるとして。顔も種族も違うとなったら恵実が俺と分かってくれるかどうか……」

 

 ピメントの言葉にガックリ肩を落とす骸骨。

 確かにこの兄馬鹿は妹の事が最優先なのだろうが、余りにも視野が狭まっている気がして他の問題を提起する。

 

「確かに恵実さんが第一でしょうが、他にも問題があるでしょう? 人間ではないこと自体が問題ですし、身体が違うと本人認証が出来ないから、色々と不都合が出てきますよ。お金とか――」

 

「この身体で稼ぎます! あ、やらしい意味じゃないですよ。この性能のままで帰れたらどんな肉体労働でも百人力ですよ。最悪、傭兵にでもなりますし」

 

 そう言って玉座の側からジャンプしたピメントは、空中で何度も回転して、玉座から十メートルは離れた階段下に捻りを加えて音も無く着地した。

 

「もし貧弱になっても帰るしかないですし、その時はその時です」

 

 胸を張って答える友人に、モモンガは呆れながらも応援するしかないな、と息を吐いた。

 

「はぁ。分かりましたよ。全面的に応援しますから、先ずはこの世界での……」

「ちょい待ち」

 

 モモンガの言葉を遮ったピメントは、アイテムボックスから一つの指輪を取り出す。

 

「それは……」

 

「そ、彗星の指輪です。色々とやる前に道が作れないか試したくて…… 時間が経ってあっちの身体が死ぬと困るし――ペパロニに会う前に使いたいと思って」

 

 指輪を填めながら暗い声で言うピメント。

 

「酷い親だけど、動くあいつと会うと後ろ髪引かれそうで…… 一応、往き来できる道を優先しますが、出る選択肢はランダムですしね」

 

 異世界に来て早々に、唐突な別れになるかもしれない友人を引き留めたい、と思ったモモンガだが、既に身寄りのない自分の我が儘で友人家族を引き離す訳にはいかない、と己を律する。

 

「そう、ですね。もしもの場合、ペパロニにはピメントさんの事は告げない様、NPCには箝口令を敷きます。ですのでピメントさんは心置きなく試してください」

 

「ありがとう、モモンガさん。心置きなくは無理だけど、少しは気が楽になったよ。じゃあ、話してると決意が鈍りそうだから、早々に使わせてもらいます」

 

 ピメントは彗星の指輪が填まった指を掲げると、使用方法が頭の中に流れ込んできた。

 それはランダムに提示される選択肢から選ぶのではなく、使用者の願いを叶える、といった不可能を可能にする強大な力であった。

 

「これなら! 指輪よ! 此所と元の世界、俺達が昨日まで居た世界に道を拓け!!」

 

 ピメントの願いが玉座の間に大きく響く。そしてその空間には、何事も起こらず静寂が訪れる。

 

「んんっ!? 指輪が発動しない?」

 

 指輪は発動する事は無く沈黙したままであった。事前に調べていた知識と、頭に流れ込んできた知識では、ワールドアイテムで促された効果や影響には対抗出来ずキャンセルされる。そうなっていたが、キャンセルどころか発動しない、なんて事は想定外であった。

 

「チッ、道具上位鑑定のスクロールは……」

 

 指輪を鑑定し直そうと、アイテムボックスに仕舞ってある魔法スクロールを取り出そうとしたピメントの手を、骨の手が抑え魔法を使う。

 

「〈道具上位鑑定〉……紛れもなく彗星の指輪です。使用もされていませんのでまだ使えます」

 

 モモンガの行った鑑定結果に肩を落とすピメント。落ち込む友人に何と声を掛けたものか悩むが、何を言っても気休めにしかならないと、無言で沈む肩に手を置いた。

 

「モモンガさん…… 大丈夫です。まだ色々と可能性はあるでしょうから。もしかしたら、勇者を召喚したお姫様が〜、みたいな展開で魔王みたいなのを倒せば帰れるかも……魔王?」

 

 ピメントは、気遣うように己の肩に置かれた手の主を指差し言う。と、置かれていた手が肩を離れ、猫耳の間にチョップが打ち込まれた。

 

「誰が魔王ですか。まったく、その調子なら大丈夫そうですね。心配して損しました」

 

「ちょっとショックでしたが、一つの可能性が消えただけですからね。未知の世界で帰れる可能性は未知の数だけあるでしょうから、簡単には諦めませんよ」

 

 「簡単じゃなくても諦めませんが」と猫耳と長い尻尾をピンッと立てている造り変わった友人の姿に、魔王と言われた男はやれやれといった風にジェスチャーを返し、一変して姿勢を正すとこわばった声を出す。

 

「でも……本当にバトルロイヤル的な感じで生き残った一人だけが帰れるとなったら、私はピメントさんに……」

「フライング・美乳アタック!!」

 

 一つの残酷で優しい可能性を口にしようとしたモモンガの顔面に、強くて柔らかな衝撃が走り、モモンガを弾き飛ばした。

 

「あたたっ――これ鎖帷子でやるもんじゃないな、自分も痛い。――で、モモンガさんよ。それ以上言ったら怒るぞ」

 

 この異世界に一人しかいないかもしれない友人が、何を口にしようとしたか分かった時点で口封じをし、手で胸を摩りながら少し離れた所で尻餅をつく骸骨を睨んだピメントの背後では、尻尾が不機嫌さを表す様に暴れている。

 

「確かに恵実は大事ですが、その為に友人を殺したら恵実の前に立てなくなりますよ。どちらかを殺せ、って究極の選択ならモモンガさんを殺りますが!」

 

 身も蓋もない怒り方に呆気にとられたモモンガだったが、友人のあまりの言い様に笑いが込み上げてくる。

 

「あははは! 酷い言い様ですね。あははは……ん? やっぱり抑制されたか?」

 

 急に笑いだして急に笑い止めたモモンガを見たピメントは、髑髏の額に手を当て心配そうに言う。

 

「やべぇ。乳アタックの打ち所がまずかったか? 脳に損傷……脳ミソあんの?」

 

 今度はノックをする様に髑髏を叩く手を払ったモモンガは、己の状態を説明する。

 

「変な事を言ってすみませんでした。それと、ち、乳アタックは二度としないでください。それで私が笑いを止めた理由なんですが――」

 

 モモンガ言わく、精神の昂りが一定を超えると強制的に抑制される。最初はアルベドの胸を触れさせられてパニック状態になったら急に冷静になり、その瞬間にピメントを殴って止めた時に違和感を覚え、気になっていたと。

「恐らく、精神攻撃無効化の能力が一定以上の感情の昂りを、異常効果と判断して安定化させているんだと思います。ピメントさんは変わった事はありませんか?」

 

 聞かれたピメントは、己の能力を思い起こす。精神攻撃に作用するのは、耐性が下がる〈獣化〉と忍者で会得した〈滅私〉だ。

 滅私は精神攻撃軽減であり、能力所持者に状態異常が起こった場合に、狂乱なら混乱、恐慌なら恐怖、といった感じにワンランクダウンした上で、状態回復までの時間を短縮させる能力である。

 

「一応〈滅私〉を持ってますが、特に変化は…… あ、いや。もしかしたら感情の触れ幅が心なしか小さくなってるかも」

 

 この世界に来て、短時間だが思い返してみると、性別の変化をすんなり受け入れたり、彗星の指輪が発動しないショックが小さかったり、すぐにショックから回復したような気がしていた。

 

「元の俺ならこれくらいショックを受けた、なんて分からないから何とも言えませんが。指輪の能力が変わったみたいに所持能力にも変化があるのかもしれません」

 

「――指輪の能力が変化していた? それって……ん?」

 

 モモンガは初耳である指輪の変化について尋ねようとした時。

 ピメントの片耳がピクリと動き、パッと扉の方へ顔を向けるのと同時、控え目に扉を叩く音が鳴った。

 二人はお互いに見あって、どちらが返事をするか視線で刹那の応酬を交わしたが、ギルドマスターであるモモンガを立ててピメントが返事をする。

 

「誰だ」

 

 その問いに恐々とだが通る声が応える。

 

「ユリ・アルファです。至高の御方々の御命令無しに此方に来てしまい、申し訳ありま――」

 

「何か緊急なんだろ? 入れ」

 

 畏まられた対応に慣れていないピメントは、ユリの謝罪に被せて入室を促す。

 扉の外で僅かに逡巡したユリだが、至高の御方の命に従い扉を開く。

 

「失礼致しま――あっ!?」

「お兄様!!」

 

 ユリが扉を開けた途端、まだ開ききる前の扉の隙間を小さな影が抜け、ピメント目掛け弾丸の如く突進する。

 獣と忍者故の動体視力で弾丸の正体を見抜いたピメントは、己に飛び付いてきた影を両手で受け止めると、独楽の様に回転して勢いを殺してから抱き止める。

 

「ペパロニか。こんな勢いで突っ込んできたら危ないだろ」

 

 己にしがみついて泣いているNPC、ペパロニの頭を撫でながら注意するピメントの顔には複雑な感情を含んだ微笑が浮かんでいる。

 

「どうしてここに? 設定だと俺の部屋で待機しているようになってたはずだけど」

 

「お、おに、お兄様がっ! さ、さよならと! やっと、も、戻って! ずっと待って!」

 

 しゃくり上げながら説明しようとするペパロニに、要領を得ないと困った顔をしたピメントがユリを見ると、フォローするように説明を始める。

 

「差し出がましいですが、私が説明致します。モモンガ様の命に従い九階層を警戒中に、ピメント様の部屋からペパロニ……様がお出になるのをお見受けし、声を掛けたのですが……」

 

 ユリの説明では、真っ青な顔をしてお兄様がいなくなる、と繰り返すペパロニに対し最初は、ピメントは玉座の間にいるので部屋で待つ様に宥めていたが、あまりにも必死な様子にプレアデス達も至高の方がいなくなってしまうのでは、と不安になりユリが代表してペパロニを連れて行く事にしたらしい。

 

「至高の御方の命令に背き九階層を離れペパロニ様をお連れし、あまつさえ疑ってしまったのは私です。罰ならどうか私に!」

 

 必死にペパロニを庇う、いや本心で自分が悪いと思っているかもしれないユリに、ピメントは礼を言う。

 

「ユリは悪くない。九階層で異常があって報告に来たのだろう? なら仕事……命令には背いてないさ。ペパロニの態度も俺が悪かったから気にするな。連れてきてくれてありがとう」

 

 至高の御方の慈悲に、アンデットにもかかわらず涙が溢れそうになるユリだったが、なんとか堪えて頭を下げる。

 

「感謝など滅相もないことでございます。……それで、ピメント様の事で御座いますが……」

 

 ユリが恐る恐るここに来たもう一つの理由、それこそが本命だった。

 

「あー、そうだな…… それは後で皆を集めて話そう。だが急に居なくなったりはしないと約束する。――ペパロニも、もう泣くな」

 

 つい先ほど、NPCには告げずに帰れるかを試した事は言わぬが吉だと判断し、モモンガに視線を投げる。

 モモンガはピメントの目を見て意を汲んでくれ、ユリとペパロニを見ながら落ち着いた優しい声で言い聞かせる。

 

「そうだとも。ピメントさんは急に居なくなりはしないさ。どこかに行くとしても、今度はペパロニも一緒だろう」

 

 モモンガがさらっと爆弾を投下する。

 驚いたのはピメントで、忍者の特技〈腹話術〉――本来は普通の腹話術とは違い、自身から離れた位置から声を発生させる術を、口を動かさずに出した声に指向性を持たせて、特定の相手にしか聴こえない。といった器用な使い方をしてモモンガを問い詰める。

 

『ちょっ!? なに勝手な事を言ってるんですか! 連れて帰れるかも分かりかねるのに!』

 

『他には聞こえてない? 〈伝言〉? とは違うか、器用ですね。そんな能力ありましたっけ?』

 

 〈腹話術〉と〈伝言〉で器用に会話する二人。モモンガが〈伝言〉を使ったので、〈腹話術〉を使う必要はなくなったのだが、それには気付かず、ピメントは〈腹話術〉を使ったまま話す。

 

『〈腹話術〉です。なんか出来ると思ったから出来ました。それは置いといて、ペパロニの事です!』

 

『こうして動いて喋るペパロニに会ってしまって、置いて行けるのですか?』

 

『うっ……』

 

 本人は認めないがピメントが妹を溺愛しているのは、密かにギルド全体の共通認識で、勿論モモンガも把握している。そんなピメントが過日の妹そっくりなペパロニを放置できる訳が無いと本人以上に知っていた。

 

 

『可能性、の話ですよ』

 

 あくまで穏やかにモモンガは告げる。

 

『まだ、魂とか肉体とか何も分かりませんし、連れて帰ることが出来るかもしれません。猫耳と尻尾生えてる人がアリなら、見た目は普通な少女の一人ぐらい増えたところで構わないでしょう。……成長はしませんが』

 

 最後だけ呟くように言ったモモンガだが、聞こえていても問題は無いと確信している。

 

『……分かったよ、連れて帰ります。帰る方法はアバの身体ごとだ。どうせ魂だけだと時間がかかった場合は、ほぼ御陀仏ですしね』

 

 そう覚悟を決めて〈腹話術〉を止め、腕の中でまだ啜り泣くペパロニの両肩に手を置くと、腰を落として目線を同じにする。

 

「ペパロニ。変な事を言ってすまなかったな、もう大丈夫だ。これからはずっと一緒だし、その内に恵実にも会わせてやる」

 

 ピメントの言葉に泣き止んだペパロニだが、まだ不安が残る顔をして創造主と約束をする為に小指を出す。

 

「お兄様、本当ですね? もう私を置いてどこにも行かないと約束してくれますか? 約束してもらえるなら、指切りしてください」

 

 不安で震える小さな小指に己の小指を絡めたピメントは、笑顔で力強く約束した。

 

「約束だ。嘘ついたら針万本飲んでやる!」

「「指切った!」」

 

 約束した事でようやく笑顔になったペパロニは、ピメントに部屋で待つように言われ、至高の二人にぺこりと頭を下げてユリと共に玉座の間を後にしようとしたところで足を止め、振り返ると聞き忘れた事を尋ねた。

 

「そう言えば、新しい御体のお兄様はお姉様なのですね。なんとお呼びすればよろしいですか? おにねえさま? おねに――」

 

「お姉様で」

 

 なんとも説明できない、嫌な予感がしたピメントは咄嗟の判断で、何かを回避した。




総集編は公開いつなんだろ?(´・ω・`)

特典とか撮りおろしとかあるのかなぁ
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