暁の軌跡   作:兼久

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俊足巧打。守備の名手。バント職人。

一般的に野球と言うスポーツにおける二塁手とは、大体こんなイメージではないだろうか?

では強打のセカンドとは?と問われた時に、貴方は一体どの選手を思い浮かべるだろうか?

東京都下の或る町に、足も守備も月並で、左投げなのに右打ちで‥‥‥

そもそもファーストでも無いのに左投げ、と言う時点でイレギュラー過ぎるのだが、それでも私好みの原石が転がってたので、追ってみた。

もしかしたら、おいおいコイツを忘れてないか?なぁんて言われるぐらいの男に成るかも知れない、と。

【影山秀路著・フーテンスカウト回顧録より一部抜粋】



#1「ちょっ、おまっ」∑(゚Д ゚;)

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「ちょっ、おまっー…捕ったァァァア?!」∑(゚Д ゚;)

 

1996年4月。彼を初めて見たのは、入部試験の時だった。

 

私の母校である暁大學附属学園高等部には、世間一般の私学と同様に、広告塔としての付加価値を認められた、硬式野球部が存在する。

 

その情熱たるや、スポーツ特待生用の学生寮から夜間照明付の専用グラウンド、果てはスポーツジム並のトレーニングルームを備えるまでに至る。

 

その為、レギュラーの殆どはセレクションにて選ばれたエリート候補生の集まりであり、他県からの野球留学生も非常に多かった。

 

一般入試の生徒が入部を希望したとしても、入部試験で徹底的に篩に掛けられ、監督のお眼鏡に適う人材がホンの一握りだけ、数合わせ程度に入部を許されるのみ。

 

補欠でも3年間楽しく野球をやりたい人間には、他校への入学を強くお勧めしておく。

 

私はその数少ない一般入部生である兄との縁で、マネージャーとして入部していた。

 

「ストライク、バッターアウトっ‥‥‥04番、不合格だ。次!」

 

泣きの再挑戦にもかかわらず、2打席連続となる見逃し三振。白球がミットに収まると同時に、バッターには死刑宣告にも等しいジャッジが突き付けられた。

 

口惜しそうに唇を噛み締めながら足早に立ち去る落伍者を横目に、不敵な笑みを湛えたサウスポーが亜麻色の、高校球児らしからぬ長さの前髪を“フッ”と軽く掻き揚げる。

 

強豪・暁大付属の門を叩くだけあって、グラウンドにはそれなりに自信のある生徒達が集っていた筈。だがその年の試験は、例年と比べても特に辛辣だった。

 

何しろ実技試験での対戦相手はAA(ダブルエー)世界野球選手権優勝投手で、打っても4番のスーパーヒーロー。

 

本人は駆け引きの欠片も無いデモンストレーション用の投球、なんて嘯いてはいたけれど、小気味好く三振の山を築くピッチングは、傍で観るギャラリーを魅了する。

 

翻ってバッターボックスに立てば、マウンドとその後ろで見守る同級生達のプライドを、粉々に打ち砕いた。

 

「この男には、一生敵わない」

 

たった1打席でも、そう痛感するのには充分過ぎる経験。マスコミが勝手に貼り付けた“マウンドの貴公子”なるキャッチコピーは伊達じゃない。

 

私が球団スカウトなら身も心も故障ナシで卒業してくれれば御の字で、指導者も変な癖を付けさせずに基礎を固めてくれれば万々歳。

 

名伯楽だと賞賛するし、ワシが育てたと吹聴しても咎め立てはしない。猪狩守とは、そんな選手だった。

 

だから、監督基準で最低限の基礎能力とメンタル面を視るのが主で、後は何とか喰らい付こうとする気構えなり、工夫する姿が見受けられれば及第点を与えられていた。

 

その場で不合格を言い渡された志願者だって、強引に掴んだチャンスをフイにしなければ、いっそ大人しく結果を待っていれば、お目溢しが有ったかも知れない。

 

「ちくしょーめぇぇ!空気嫁ねェ中坊なんざ大っ嫌いだバーカァァァ凸」

 

そんな中、長打性の当たりを放ったのは彼が最初で最後。

 

良い所を見せようとダイビングキャッチに失敗した負傷退場者に代わり、急遽センターに入った八嶋中の美技は、今も忘れない。

 

姓は十と書いてヨコタテ。名は升と書いてノボル。

 

実に変わった名前なので憶え易かったけど、彼と付き合いのある人間は大抵トーマスなり“て”抜きしてヨコタと呼ぶ‥‥‥私には関係無いが。

 

特に大きくも小さくも無い平均的な身長で、痩身でもアンコ型でも筋肉質でも無い。坊主頭に体操着の後ろ姿は他の入部希望者と全く見分けが付かず、中肉中背とは?の答えに打って付けの体躯。

 

ただ、見るに堪えない不格好なバッティング‥‥‥野球ゲームでクラウチングなどと形容される、上半身をホームベース寄りに前傾させるフォームと、セカンドに到達した辺りで悔しそうに叫んでいた姿が、強く強く印象に残っている。

 

「ぇ? やだな~暁の韋駄天を知らないワケ無いでしょーに!負け犬の遠吠えってヤツですよぅ、セ☆ン★パ☆イ★」(;´Д`)ノ ( - "-)

 

――16番、合格。

 

ごく平凡な成績ながら監督の琴線に触れた十升は一般入部生1番乗りを果たすと、アッと言う間に2軍メンバーでも中心的存在へと登り詰めて行った。

 

入部試験の結果が示す通り、特段身体能力がズバ抜けている訳では無い。誰もが舌を巻くほど真摯に野球と向き合ってる訳でも無い。

 

非科学的な表現になるけれど、人蕩しと言うか、神懸かり的に要領が良い。誰とでも時を措かず、スグに打ち解けてしまうのだ。

 

「行くぞヨコタ、今日は神社で階段ダッシュだ!」

「サー!イエッサー!」

 

「‥‥‥zzz」

「‥‥‥」・ω)oO(ウホッ!精神力、みwなwぎwっwてwきwたwww)

 

具体例を挙げれば、先輩後輩関係無しに誰もが煙たがる五十嵐権三とは、1軍2軍の垣根を越えて師弟みたいな間柄になっているし、いつも飄々として捉えドコロの無い九十九宇宙からも、妙に気に入られてサボリ(本人曰く精神修行)仲間になっている。

 

「1勝1敗だッ、入部試験の時はボクの勝ちだ!」

「ハハっワロス。お前ん中じゃアレも打ち取った内に入るんでちゅかー?」

 

不意に懐旧の念に駆られた私は、暁大付属野球部史上で最も破天荒な時代を、つらつらと追懐してみた。




【余話・八嶋中談】

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「お、またマタまた三振だ!やるじゃんあの1年坊」

入部希望者達を相手に、山のよーに三振を積み重ねる(猪狩)兄貴の方。

正直オイラが入る必要なんか無いと思うんだけど、センター前のポテンヒットを捕ろうとしてダイブした1年坊が失敗して、担架で運ばれちゃったからしょーがない。

実技試験中はコーヘーヲキスとかで、定位置に就けってカントク命令が出てるんだし、あんなのオイラかユーキじゃなきゃ絶対ムリだぞ?

「バッターアウト!‥‥‥次、そこのお前だ16番」

あんまりヒマなんで頭ん中でモーソーが始まる。オイラは推薦入学だったから(猪狩)兄貴の方と同い年だったとしても、入部試験は免除だ。

でも、もしバッターボックスに立たされたら?セフバンは得意じゃないし、ミズホがキャッチャーしてるからダイコン切りで内野安打狙――

思考中断。カキーンと気持イイ金属音が聞こえるのと同時に、オイラはフェンスに向かって走り出した。

「ちょっ、おまっ、」

人工芝とアンツーカーとの境目を目印に、速度の調整に入る。後でケンジに華を持たせてやれよってタシナメられちゃったけど、届くんなら捕るさ。カントクに怒られたらメッチャ怖いし?

差し出したグラブにボールが収まると、ウォーとかスゲ~とか、1年坊達の反応がチョー気持ちいい。だから野球って楽しいんだよ、打った奴には悪――

「大ッキライだバーカ凸」

うん、ナイスプレー自分。

アタルなんて名前と皆より少ーしだけ小っこいせいで時々~坊なんて仇名で呼ばれるけど、後輩なんかに舐められて堪るモンか。

鍛えてるから筋肉だってけっこー付いてるし、時々ホームランだって打つんだぞ?(パワー“D”ただし、あかつき同期野手8名中7位。弾道は意外にも3)それに(ツンツンに立てた髪の毛の分だけ猪狩)弟の方よか大っきいんだかんな。

「合格出来てヨカッタな、オイラもお前ん事は大嫌いだぞ」(;´Д`)ノ ( - "-)

最初はヤな奴だなーって思ったりもしたけど、楽しそーに野球をやってる奴をホントには嫌いになれないし、走塁競争じゃ1回も負けなかったけど、放課後にミズホ探し競争でオイラに勝ったりもしてるし‥‥‥そんなこんなでなんやかんやあったけど、いい奴だと思うぞ?(小並感)
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