本当に励みとなっています。
前書きにて申し訳ありませんが、厚く御礼申し上げます。
そして恐らく多くの方が期待するらぶらぶちゅっちゅな展開に持っていきたいとは思うのですが、
亀の歩みで申し訳ありません。
なんとか頑張っていきますので、よろしければお付き合いください。
あず。
「―そういやさ、四葉もさ」
「んんっ?」
三葉のトーンが少し落ち着き、やや覚悟を含んだ声色になった。
四葉はテーブルの上にあるチーズケーキを一口含んだ所で問いかけられ、
スプーンを咥えたまま、くぐもった声で返答する。
「もう、大学受験なんやね」
「……せやね」
三葉は今まで意図して避けていた話題を敢えて、した。
三葉自身は何かを求めるように、大学から上京し、違和感を抱えたまま東京で就職した身だ。
あまり自分から出来る話題ではないという自覚があった。
しかし今では四葉も高校3年生となり、いつまでも避けては通れないという思いがある。
「どうするん?」
自分に問いかける資格はあるのだろうか、
と一瞬躊躇した顔のあと、三葉はそれを口に出した。
少し悩んで、スプーンをそっと置いて四葉は返す。
「決めとらん。でも勉強はしとるよ」
それがどこまでの本音か、
三葉は四葉の表情から読み取ることはできなかった。
大学進学なのか、何か夢があって専門学校に行くための勉強なのか、
高卒から社会に出るための勉強なのか。
そして場所は東京なのか、その他の土地なのか、岐阜なのか。
それは、糸守、なのか。
言葉に出してしまいそうな単語は沢山ある。
「そっか……しゃんと言えるところまでになったらさ―」
しかし、そのどれもを三葉は口に出せなかった。
代わりに、冷えた空気をゆっくりと振り払うように、三葉は少し視線を彷徨わせ、
「一番に教えてほしいよ。私は四葉の味方やからさ。
父さんにも、おばあちゃんにも何かあったら説得の手伝いはするよ」
そのままふっと微笑んだ。
四葉はそれが言葉そのままの意味なのか、
三葉のなんらかの意志の現れなのか、こちらも読み取れなかった。
だから、
「ありがとう。そんならまずお姉ちゃんに相談するわ」
四葉もお返しと、笑った。
三葉はその笑みを見て、四葉を探ってしまった詫びなのだろうか、
少し話題を自分に動かした。
「私はさ……ホンマ自分勝手やなって時々思うんよ。
彗星災害で人が減る中、若い人は外に出る機運があった。
国から色々な補助が出て、居住地が限られたからって。
でもそれに乗じたのは、宮水として良かったんかなって」
「ちがっ……」
四葉は否定の声を上げたが、三葉は遮るように言葉を続けた。
「大丈夫。何かを背負ってるってわけじゃあないんよ。
ただ漠然とした想いとして、私が求めるものが東京にあった気がしたん。
田舎モンの憧れとかそんなものだったかもしれんけど、それでもあった気がしたんよ。
でもそれが見つかったんじゃないかって思うんだ。
それがさ―」
「立花瀧、さん―」
ごくり、と四葉は一人の名前を紡いだ。
三葉はゆっくりと顔を2度ほど横に振る。
「わからん。そうかもしれんし、そうじゃないかもしれん。
でもそうあって欲しいって。身体が訴えているのは感じるんよ」
本人にすら分からない感情すら飛び越えた訴え、
到底四葉には理解しがたいものだった。
だから思わず、そうならという言葉を口に出してしまう。
「立花さんがそうだったら。お姉ちゃんはどうするん?」
どう、とは。
その先にある言葉は。未来は。取り得る選択肢は。
三葉は言葉を探して思案したので、また少しの静寂が二人を包んだ。
それを破るように、お姉ちゃんさ、と四葉は言葉を続けた。
「宮水の家はさ、軽くなったよ。お父さんのおかげやよ」
「分かってる。神社が無くなって、宮水の神さまは飛騨の神社に合祀された。
祭りも、なくなった」
「神楽舞も、口噛み酒ももうやらんでええしね」
二人は一つ一つ、事実を重ねた。
かつて行われていた宮水の祭事は、あの彗星災害からほとんど行われなくなった。
糸守町は二人の父、宮水俊樹が変わらず町長を務めているが、
災害を機に居住地の多くが消失し、
三葉や勅使河原克彦、名取早耶香のように都会に出た若者も多い。
その若者に連れられて家族そのままが他に移住した、という世帯もある。
人口はいまや700人前後をウロウロする辺りと把握している。
あの彗星災害で半数程にまで減っているのだ。
しかし、それでも俊樹は糸守を寄り処とする人のため、
復興の旗振りをしていると二人は父の背中を見て確信している。
「いま宮水の家がやらんといかんことは、1年に1度のお参りのために、組紐を編むこと」
目を細め、自分の髪を束ねる組紐-リボン-を撫でるように、三葉は紡いだ。
「その組紐を、御神体にお供えすること。それも幽世-カクリヨ-側には行かないでよし。
現世-ウツツヨ-側に作った新祭壇に、組紐と糸守湖の水をお供えするだけ」
四葉もその続きを目を瞑って紡ぐ。
その行事は、元々お参りをしていた時期より少し前の9月中旬連休頃としている。
唯一の行事すら、休みに合わせられるようにと日取りは固定されていない。
だから必ず休みをとって帰省し、忘れそうで忘れていない組紐を祖母と3人で編み、行事に励む。
そして帰り際には、編み方だけは忘れんやないで、と毎年優しく祖母は微笑む。
その祖母の顔に、二人は同じく泣きそうになりながら、毎回外の世界に向かうのだ。
「おばあちゃん……ホントのところ、どう思っとるんやろ」
ポツリ、と四葉は下を向いて呟いた。
この場の二人が答えを持ち合わせてない問いだ。
三葉はその答えではなく意志を語る。
「父さんが民俗学者だったなんて私は災害の後初めて知った。
後からちゃんと調べて、学歴を見たら凄い優秀な人だったなんてのはすぐ理解した。
それにお母さんと父さんは宮水の歴史について調べてる中で知り合ったことも知らんかった。
私には知らんことばっかりよ。
だからさ、何がホントなのか、ウソなのか、私には分からん」
二人の与り知らぬ所で決められた方針は、宮水の一族である三葉と四葉に自由を与えた。
そして、二人はまさに今、その自由を謳歌している。それは自覚していた。
しかし祖母と父の意志の先にこそ、
二人が取り得る選択肢の答えが用意されていることも、同様に二人は自覚している。
ただその答えを、祖母も、父も、真正面から私たちに語らないだろう、とも。
なら考えるしかない。
自分たちなりに、尊敬しうる祖母と父の意志を考えて、考えて、考えて選ぶしかない。
三葉は言葉を続けた、
「でもさ、雰囲気を見てたらおばあちゃんと父さんは和解はしたんだなってのは分かるよ。
その上で出した結論が今なんだってのは、信じるしかない。
私も、今は父さんを尊敬してる」
三葉の確かな意志の表明に、四葉も続いた。
「あの災害のゴタゴタから父さんは私達を守ってくれた。
オカルトを唱える週刊誌とか、ショックで記憶が曖昧な人に付け込んだ取材とか、
そういう色々なものから。だから、私も今は父さんを尊敬しとるよ」
受験に直面してK大とか異次元の偏差値なのは分かるしね、と四葉は少し笑う。
二人の意志が重なった所で、空気も少しやわらかくなる。
だからさ、と三葉は紡いだ。
「考えながら、今を生きるしかないんよ私達は。四葉―」
「うん」
「一人で考えて、泥沼にハマって、そのまま沈んじゃあいかんよ。
近くにお姉ちゃんがおるんやから、必ず相談してな?私もそうするから」
「ありがとう、お姉ちゃん。お姉ちゃんも、私に何でも言っでな゛」
四葉は涙目になってしまい、言葉尻が濁ってしまう。
その後ゴシゴシと目を拭い、あんたはホンマに泣き虫なええ子やなぁ、と三葉は少しからかった。
緊張は少しずつほぐれ、空気は更に柔らかくなる。
二人はもう少し他愛のない話をした後、頃合いと見て四葉は家に戻る時間となった。
*****
右手にじんわりとした、安心する熱がある。
お姉ちゃんはもう遅いからと家まで送ると提案してくれた。
しかし私を送るということは帰りは一人ということだ。
想い人が居るのになんかあったら悪いわ、と少し冗談を言ったけれど、
私は強いから大丈夫やよ、とよくわからない反論をされてしまった。
それで少し大通りに出て、ちょっと並んで歩いた所で手を握ってくれた。
びっくりして右側で歩くお姉ちゃんを見上げるが、こちらを見て笑ってまだ寒いね、と一言。
少しだけ大げさに手を振ってみたり、微妙に力を入れて握ってみたり。
私のいたずらにも動じること無く、ゆっくりと歩を合わせて暖かみを与え続けてくれる。
―なんでこの人は、こんなに、素敵なんだろう。
同じ女性として嫉妬してしまうほど、お姉ちゃんは素敵だ。
私は同じ血を持っているはずなのに、8年後にこんなに素敵に振る舞えるだろうか?
全く自信はない。
手をつなぎながら、軽口を言っているとあっという間に家までたどり着いた。
でも、こんな素敵なお姉ちゃんをからかう武器を私は今日手に入れたのだ。
マンションのオートロックを開けながら、
ニシシと笑って一言、
「お姉ちゃんさ、明日、キメてきなよ?」
「アホ!全くこの子は!」
お姉ちゃんは真っ赤になりながら叫ぶ。
最後に一矢報いて、コロコロと表情豊かなかわいいお姉ちゃんに戻すことが出来た。
本当に、こんなにかわいいお姉ちゃんを虜にする、立花瀧という人物に私は凄く興味が湧いた。
あず。
です。続けてなんとか8話です。
もしかしたら後書きが長いかもしれません。そうなったらすいません。
映画を見て、小説を読んで、また映画を見て、
私が心惹かれたのはキャラはもちろんなんですが、
何よりも俊樹が糸守と宮水をアフターでどう扱うかです。
あの出来事は宮水家の解放の転機にはなりますが、
上手く運ばなければ宮水家の神性を逆に高めてしまうことになります。
じゃあこういう風に立ち回ったんじゃないか?という私の妄想がこの話です。
また今回敢えて三人称視点にしてあるのは二人の心理を濁すためです。
(ラストの四葉視点はかわいいからつい書いてしまいました)
そして二人が知らない情報は出来るだけ書かないことにも努めました。
考えて、探し続けるのが人生です。
三葉か四葉がその答えを出すまで、この小説が続けていけたらなと思います。
わかりませんが。(実は着地点はいまいち不明です)
勿論俊樹と一葉おばあちゃんの和解の話とかも、出来たら書きたいです。
でも、取り敢えずはここからは瀧三で走ります。
それでは、よろしければこれからもお付き合いください。