機動戦士ガンダム鉄血のオルフェンズ PD321Teufels Speicher Ⅰ   作:YASU79FP

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拙い文章ではありますがpixivに乗せていた物を加筆修正致しました。
お時間があれば読んでいってください。


悪魔の再誕

夢を見た。

子供の頃の夢、10年前の夢、子供の頃3人で遊んだ丘。

約束した、ここに家を建てよう、約束した、ここで3人一緒に暮らそう、約束した、俺がここを守る。

〜〜〜〜

狭い閉鎖空間のなか金属と油の匂いに紛れて目をさます。久しぶりに夢を見た。何故今更10年前のことを夢に見たのだろうか。彼自身でも不思議に思う。

その狭いコックピットの中で大きく体を伸ばす。

するとどこからか靴底が鉄板を叩く音が近づいてくる。

「あ、やっぱりここにいた」

コックピットの外側からひょっこり顔を出す女兵士の姿が目の前に現れた。

「リリィ三尉かぁ、何か用か?」

その男は大きな欠伸をかきながら言う。

「ええ、隊長が招集をかけてますよ!」

「了解、了解すぐ行くよ」

「ライアン二尉、急いでよ、あなた以外みんなもういるんだから」

コックピットを出て外の空気を吸う、メカニックマンの汗と油の匂いが彼の鼻を塞いだ。

「ほら、走るの二尉」

「へいへい」

こんな風に命令されてはどちらが上官なのか。

 

彼が到着すると既に2人の男が立っていた。

「遅いぞライアン二尉」

そう言ってきたのは隊長のグレイソンハイマン一尉、彼の年季の入った傷やシワのせいかなり年を食って見えるがこれでも31歳。

だが実戦に出たことのある兵士である。

「あれ、ライアン二尉何処いたんすか?」

軽口を叩く彼はミハエルジョン准尉、歳は19とかなり若い。

先ほどから男に世話を焼いてくれるのはリリィ・ブラウン三尉、家は富豪らしい。

それとこの先ほどから腑抜けた態度の男、ライアンクロウ二尉の4人でこの第113MS試験運用小隊が編成されている。

「敬礼!」

隊長の一声で三人同時に敬礼をする。

「よし、楽にしろ、ではまず本日宇宙から物資が届く為エリアAの滑走路にはできるだけ近づくな、という事、そして…ライアン二尉」

「はい」

「貴様…ガンダムネビロスでまた寝ていたな?」

「いや…その…OSの確認をしていたら寝落ちをかましてしまいまして」

「馬鹿者ッ!休む時は宿舎で休まんか!」

「ハッ以降気を付けます!」

「だがここで残念な知らせだ、上からの命令で貴様は今日でガンダム・ネビロスのテストパイロットを解く、よってこれからの編成も変わることを貴様らにも伝えておく」

「待ってください、確かにガンダム・ネビロスは扱い辛い機体ですけど…いつかは…!」

「伝達事項は以上、解散」

隊長はそう言うと本部の方へと向かう為軍用ジープに乗った。

「しかし隊長も大変っすね、伝達事項を報告したらわざわざ上にまた報告に行かなくちゃいけないんですから」

「クッソ…まだまだこれからだったのに、やっとコツが掴めてきたのに…そんなにデータ取るのに急がなきゃいけないのかよ!」

「あんな機体ただの欠陥機っすよ、は誰でも乗れるように作らなきゃ意味ないっすよ」

「そうですよ、いくらリアクター三基つけて高出力になっても動かせなきゃ意味ないもの」

リリィも准尉に同意し補足を足した。

「でも、ガンダムだぞ、ガンダムなんだぞ!厄災戦を終わらせたあの伝説の、英雄の、MSのデータを基にして作られた機体なんだぞ!こんな代物に乗れる機会もう二度とないんだぞ!」

「二度と見たくもないし乗りたくもないですね」

「なっ、お前…あれを見自由に動かせるようになればこれからのは大きく変わる!絶対に!」

「二尉落ち着いて下さいよ〜、取り敢えず朝飯食いに行くましょう、ね?」

「そもそもお前らにはガンダムフレームの説明から…!」

「ああ、もうライアン二尉の悪い癖、MSの事になるとすぐ熱くなるんだから」

この上官の悪い癖に周りは日々頭を悩ませている。

 

朝食をとった後、訓練を行う前の彼らの携帯端末に一通の連絡が届く。

内容は、隊の試験用MSの配置換えのみ。

彼、ライアン・クロウはガンダム・ネビロスのパイロットから降ろされギャラルホルンの主力量産型MSグレイズの強襲型、コードネーム"シュバルツ・クロウ、の専属パイロットになった。

はぁ…と溜息を吐きつつ彼は格納庫へ向かう。

 

彼はその機体の真下に立った。

18mの黒く塗られた巨人。

「また…こいつか…」

また、というのは彼は以前もこの機体のパイロットに任命されていたのだ。

しかし突如開発されたガンダム・ネビロスによってその配置を変えられた。しかし現在そのガンダム・ネビロスを動かせなかった為、再びこの漆黒の機体のコックピットに乗り込んだ。

 

「あ、やっぱりここにいたんですね二尉」

リリィ三尉は今朝のようにコックピットの外から顔を出す。

「朝はガンダムで昼はグレイズ強襲型シュバルツクロウですか、本当に二尉はMSモビルスーツ好きなんですね」

「で、何の用だ」

「そんな邪険にしないでください」

 

「こいつの前のテストパイロットはお前か?」

 

「話聞いてください 、て言うか何してるんです?」

「見ての通り点検だよこいつを俺が動かすのは久しぶりだからな」

 

「別にそんなに念入りにしなくたっていいじゃないですか、少し前まで私がのっていたんですから」

 

「やっぱりお前だったのか、どうりでペダルが軽い訳だ」

 

「え?そんな事ないですよ」

 

そう言うとリリィ三尉はペダルをつま先で突くようにして押す。冷たい金属の板が自分の足によって上下する。軽すぎず重すぎず扱いやすくしてある自分の足に馴染んだ感覚。

自分の感覚は間違っていない。

だがこの男の感覚は違う。

 

「この軽さじゃまるで急発進と急ブレーキしか出来ない車だな、よくこれで動かせたな」

 

「じゃあ二尉はどのくらいの設定にしてあるんですか」

 

ちょっと待ってろと言ってペダルの調整をする。

何度か確認のために自分で押して微調整。

三尉自らの足で先程と同じ様にペダルを押す。しかし先程と全く違う感覚を味わった。

 

さっき自分が押したのは板のような感覚ではなく金属そのものが置いてあるような感覚。自分の足では到底動かせないと悟った。そしてこの機体が既に二尉の機体になってしまった事も。

 

「すごい…これを動かすの…?」

すっかり固まってしまった。

「男女の身体能力の差ってやつだろうな、驚く程でもないだろ」

「と言うかそんな事を俺と話にきたのか?」

「あ、そうじゃない」

急に彼女の声はしおらしくなった。頬は少し火照っている。

そんな事は御構い無しにライアンは右モニターの下の配線を確認する。

「ラ、ライアン二尉はいつ休暇を取る予定ですか?」

 

「休暇は今週末にとるから、予定通りに進んでいたならネビロスのテストが終わったらになったな」

 

そう言いながら配線の確認を終えると今度はモニターのチェックをする。

 

「じゃあ私もその日に休暇取ろうかな〜…なんて」

彼女は平然を装っているつもりなのだが声が震えていた、あと一言何か絞りだそうと彼女の頭の中で彼を誘う口実を考えていた。

コックピットは外から入る工具の音がよく聞こえた。

 

ようやくまとまったのか彼女が口を開こうとした。

 

「おかしい」

それは黙っていた彼の口からようやく出た言葉だった。

この"おかしい"という4文字の言葉は彼女のを混乱に陥れた。どこがおかしいのか、休日を同じ日に取るところか、それとも毎日のようにコックピットを挟んで会話をしている事か。それとも私自身がここに存在する事か。そんな思考が頭の中で無限にループしている。

 

「やっぱり変だ」

 

「何が変なのよ!!」

うっかり声を張ってしまう。

「え、あ、いや、ネビロスの整備が」

 

彼女はMSのことを言っていた事に安心と同時に自分の話に耳を傾けてくれない二尉に呆れた。

この男は女よりMSが好きなのだ。

だがここで会話を終わらせたくなかった。二尉が何を見ていたのかも知りたかった。

「で、何が変なんです?」

「コックピットシートごと交換してるんだよ、ネビロス」

彼の視線の先は隣のモビルスーツハンガーにあるガンダムネビロスだった。

 

「じゃあどこか壊れてるんですよ、きっと」

 

「いや、今日の朝まで俺はあいつに乗ってたんだ、そんなはずはない」

 

そんなはずはない…

それは確実に言えたことだった。

コックピットブロックにはなにも問題がなかった。

 

「おーい二尉、帰って来て下さ〜い」

 

三尉の声でようやく気がつく。

 

「何ぼーっとしてるんですか、ちゃんと話聞いてくださいよ」

 

「あぁ…すまん」

 

「話を聞けない人は嫌われますよ」

 

「俺だって友達くらいならいるぞ!今週末だって会う約束してるし、かつてはガールフレンドだっていたぞ」

"いた"

そう"いた"のだ。

「ライアン二尉、それって…どういう…」

 

「悪い、メインモニターのチェックしたいからコックピットハッチ閉めるぞ、挟まれたくなかったらどけ」

 

どうして彼はもういない彼女の事を口にだすのだろう。

忘れたい記憶。

メインモニターは霞んでいた。

ライアンはコックピットの中で頭を抱えていた。

 

「アイリーン…俺は…」

 

 

 

話は10年前に遡る。

 

PD311

子供の頃のライアンは幼馴染の2人とよく遊んでいた。

1人はアレックス・バスラー、彼は子供の頃の彼は良いところに住んでるお坊ちゃん、くらいしか分からなかった。

もう1人はアイリーン・ガルシア、彼女も親がギャラルホルンの監査局に所属している為、裕福な家庭だっただろう。

そしてライアンの親もギャラルホルンホルンの統制局に所属していた。

つまり3人共裕福な家庭だった。

学校が終われば3人でよく遊んでいた。

とにかく3人でいる事が楽しかった。

都市郊外から出ると広大な草原が広がっている場所がある。そこが彼らの遊び場だった。

 

晴れの日にそこで太陽の日を浴びながら横になるのはとても気持ちが良い。雨の日以外はほぼ毎日そこに遊びに行った。

特に何かあった訳でもない。

毎日馬鹿話をしたり体を動かしたり、時には読書もしたり、ただ3人でいた事が楽しかった。

 

こんな日がずっと続いて欲しかった。

 

 

もちろんそれが永遠に続く訳が無かった。

 

 

「「え!?、火星」」

 

2人の声が重なる

 

「うん…」

アイリーンの声はいつもよりも低い。

悲しい表情を見せた。

冗談ではない事は明らかだった。

「おとうさんがね、火星ってところに行くんだって…」

「すぐ、帰ってくるのか?」

アレックスが聞く。

「それがね、多分…そこに住むことになりそうなの…」

 

「そんな…」

アレックスはすっかり黙ってしまった。

「だからアレックスくんとも、ライアンとも…お別れだね」

 

「ねぇ、ところで火星ってどこ?地球のどこにあるんだ?」

 

「おまえ、本気で言ってんのか?、授業で習っただろ」

 

「だって普段授業なんて寝てるし」

 

「フフッ、それだからライアンはいつも成績が悪いのよ」

彼女の顔にも笑顔が少し戻る。

「あのなぁ、火星ってのは星だ、子供だけで行ける場所じゃないんだよ」

 

「ふーん、じゃあさ、大人になれば大丈夫なんだな」

 

「は?、おまえなにいってるんだ!?」

 

「だってさもう二度と会えなくなる訳じゃないんだろ?だったらさ大人になってからでも遅くないよ」

 

「火星ってすごく遠いんだぞ!大人になったってそんなのもう会える訳ないだろ」

アレックスの目には涙が溜まっている。

「約束!!」

突然アイリーンが叫ぶ。

「約束しよう」

「約束ってなにを?」

 

「大人…だから…10年後の今日!ここで3人で集まろう!」

 

「10年後って…20歳って事か、でも…」

 

「それだけ?」

ライアンが口を開く

「10年分の寂しさがそんなことで解決される訳ないだろ!そうだな…ここに家を建てて3人一緒に住むとかしないと俺は約束しねぇ!!」

「「は!?」」

2人は顔を赤らめる。

もちろんライアンは何にも考えてない。この頃のライアンは頭のネジが一本外れている。

ライアンも我ながらナイスアイデアだと自画自賛している。

そんな彼の様子を見て2人に顔にも笑顔が戻る。

 

「おいおい、まずは家を建てるには土地を買う必要があるぞ」

 

「へ?権利?」

 

「ライアンにわかる訳ないか、家を建てるのは俺に任せてもらおう」

 

「じゃあ私は、え、えーと」

 

「お前は火星からここに来ることになるからな、それだけで充分だ」

 

「そうそう」

 

「いや、ライアンお前は何かしろ」

 

「え〜」

 

「言い出しっぺはお前だろ!」

 

「うんとさ、じゃあ俺はここを守る人、兵隊さんになる!」

「強くなってここを守ってやるよ!」

「なんだそれ」

「なにそれ」

2人に突っ込まれる。

「まぁでもそれで良いよ!ライアンだしね!」

 

「そうだなライアンだからな」

 

「おう!」

バカにされている事にも気付かず胸を張って答える。

〜〜〜

「じゃあ、またね!!」

その話の後彼女と別れを言った。

"またね"と

それが最後になるとも知らずに。

 

3日が経った。

6月9日、予定通りならアイリーンは火星についているはずだった。そしたらライアンに電話をかける。そのはずだった。

一向に電話はかかって来なかった。

理由はその次の日、朝のTVニュースで知る事になった。

 

"火星行きの船消息不明"

 

6月7日の時点でアイリーンや他の客を乗せた船から信号シグナルが消えた。

 

船はその後も見つかることもなく、その捜索活動は打ち切られた。

 

かつて3人で遊んだところにはアイリーンの墓が建てられた。

だがライアンは一度だけそこに行ったきり20歳になった今でもその土地に足を踏み入れていない。

嘗て約束をした。

再び3人で平和な毎日を送り続けたかった。

ただそれだけだった。

叶わない夢に何故まだ執着しているのか。

まだ信じられないのだ。未だに死体が見つからないという事が彼女が実はどこかで生きているのではないか。

そう考えてしまう。

生きていて欲しいと思う自分がいる。しかし、この辛い記憶をこの先覚えていても悲しい事が待っている、それならいっそ忘れたいと思う自分がいる。

 

その2つの彼の思いが彼自身を10年間苦しめ続けてきた。

 

忘れたいから、彼女の墓にはいかない。

 

忘れたくないから、アレックスとも未だに会う。

彼との話の間には必ずアイリーンの話をする。

忘れたくないから。

無意識のうちに。

 

 

「なんだよ…結局俺は…どっちなんだ」

 

袖で目を拭う。

 

 

その時上空を滑空する輸送機があった。

中では通信士が基地との連絡を取り合っている。

「こちらギャラルホルンドゥッペル基地、そちらの所属を名乗れ」

 

「こちら第12ギャラルホルン物資供給部隊」

 

「要件を言え」

 

「届け物を届けに来たんだ」

 

「了解だ、エリアAの滑走路に誘導する」

 

「了解」

 

このギャラルホルンドゥッペル兵器開発基地にはエリアAとエリアBがある、エリアAにはこの基地の司令等がいる本部などに上位層の人間がいる事が多い。また本部以外には滑走路しかない。この滑走路の長さは3000mもある。

エリアBではMSの整備工場、試験場、宿舎などメカニック全般で低階級の兵士がいる事が多い。

滑走路の地面に現れた輸送機の影が次第に大きくなる。

車輪を出し着陸態勢へ移行し着陸するに余りある滑走路に無事着陸した。

 

着陸してすぐに駆け寄る男達がいた。

1人はこの基地の司令

もう1人は基地のMSのメカニック長だ。

司令が降りてきた輸送機のパイロットへ話しかける。

「君、これが例の」

「ハッ!本部よりお届けに参りました!」

 

「中を見せてもらえるか?」

 

「問題ありません、どうぞこちらへ」

 

機体の後部のハッチを開け中のものを確認させた。

 

「メカニック長、これで間違いないかね?」

 

「えぇ…彼らなら一応問題ありません」

 

「ネビロスはどうなっているのかね」

 

「そちらの作業は日が暮れるまでには終わりますよ、司令」

 

「よし、諸君これらを出したまえ」

司令の後ろで待機していたギャラルホルンの兵士が銃を構え、輸送機内の物資を運び出す。

「そこの君、これらが運び終わったらすぐ帰るのだぞ、この事は誰にも口外してはならん、いいな?」

 

「ハッ!了解であります」

 

日が暮れ、1日が終わろうとしている。

 

ライアンはエリアBのMS試験場でグレイズ強襲型のスラスターのテストをしていた。

機体に異常はない。

機体が夕日に照らされ影を伸ばす。

 

「よし、二尉今日は日が暮れるしこのくらいにしましょう」

技術曹長からの通信が入る。

「了解」

ライアンから放たれた声は少し冷たかった。いつものライアンならMSを操縦する時はいつも楽しそうにしていた。

しかし今日は彼女、アイリーンの事が頭から離れない。

「何かあったんですか?」

突然曹長は口を開く。

「ちょっとな…」

 

「今日の数値がいつもより悪いですからね、何か悩み事ですか?」

 

「うん…まぁな…、少し思い出したくないことを思い出しちまったよ、だけどな…忘れたくはないんだ…って言っても何言ってんのか分からないだろうけどな」

 

「もしかして女性関係ですか?」

曹長の直球な質問に二尉は意表を突かれた。

「うん、まぁそんな所かな」

 

「へぇ…意外ですね…」

曹長の心の声が漏れる

「そうか?」

 

「聞くか?俺の話」

 

「自分でよければ…」

そう言うと二尉はコックピットの中で頭を垂れ自らの両手を合わせる。

そして力強く握る。

技術曹長に10年前彼らに起きた事件を洗いざらい話し、曹長はそれを全て逃さず聞き入れた。

そしてこう言った。

「二尉はまだその人のこと好きなんだと思います、どんな形であれ会いに行くべきですよ」

 

好きという言葉に違和感を覚えた。確かに彼女のことは好きだった、だがそれは彼の話している恋人の好きというより、きっと友達としてという意味だ。

 

「好き…ね…今週末の休みにでも墓に行ってみるよ、ありがとうな、曹長」

 

「いえいえ、自分は全力のシュバルツとライアン二尉がみたかっただけでやったことですよ、礼を言われる覚えはありませんよ」

 

またあの丘へ行く、 彼は決心した。

過去の嫌なことから逃げない。

きっと彼女のことを忘れたら俺はきっとあの楽しかった日々すら忘れてしまうのだろう。

〜〜

このドゥッペル基地は湖に囲まれている。

 

本土と基地を繋ぐのは北と南の橋のみ。

周りは森林に囲まれ人の気配など全くない。ここまでして隠されているのはギャラルホルンの本土に干渉しないという規定に違反する為なのである。

 

そんな風景を見ながらただ夜風の冷気に当たる。それもライアンの日課となっていた。

 

静寂な夜の風景が水面に反射される。風に吹かれれば水面も揺れ風景も乱れる。

 

そして風が収まれば水面ももまた静寂になる。

しかし写した風景は乱れる前と変わっていた。

風に吹かれ靡いた金色の長い髪、整った顔立ち。

視線は水面に釘つけになった。

声が聞こえた。

自分の後ろに立った美しい女性から

「1つ聞きたいことがあるんですけど…良いですか?」

 

「1つ聞きたいことがあるんですけど…良いですか?」

月光に照らされ髪は黄金に輝き、透き通った声が彼の耳を抜けた。

その美しさに彼は見惚れていた。

 

「そこの女ァッ動くなァッ!」

聞き覚えのある声だった。何故なら彼は彼の隊長、グレイソン一尉だった。

振り返るとその照準が彼女を狙っていることがわかった。

「ん?そこにいるのは二尉!?無事か?」

 

「無事ってどう言うことですか?」

 

「詳しいことは言えない!」

 

「どうしてですか!」

すると一尉の変わるかのように彼女が口を開く。

「それは私が、ヒューマンデブリだからよ!」

「貴様ァッ!それ以上言うと撃つぞ!」

 

「ちょっと待って下さい一尉!、なんでヒューマンデブリがこんなところにいるんですか!?」

 

「詳しいことは後で話す!女ァッ!早く来い!」

 

彼女は振り返り両手を挙げ、グレイソンの元に向かっていく。

 

「一体…どうなってやがる…」

 

グレイソンに再び会ったのはそれから30分後の事、誰もいないMS倉庫での事だった。

 

「一尉どうしてここで?」

 

「実際見てもらう方が早いと思ってな」

 

2人はネビロスを下から見上げる。

その18mを超えた巨大な体は天井から漏れる薄暗い月光に照らされている。

「今回のヒューマンデブリの件はこのガンダムが関わってくる」

 

「ガンダムとヒューマンデブリが?」

 

グレイソンは少し間を置き一呼吸した後ゆっくり語り出した。

 

「このガンダムネビロスはお前も知っての通りピーキーだ、それ故に満足に使えるパイロットがいない」

 

「それは俺がこれからって」

 

「軍は…この基地のお偉いさんは貴様がこいつを扱えるまで待てないのさ、こいつのデータがいち早く欲しいんだ」

 

「何故そんなに焦ってるんですか、こいつの開発期間限られているんですか?」

 

「そうとも言えるが、そうでもないとも言える」

 

「どういう意味ですか?」

 

「貴様は奇妙に思わないか、こんな基地に新型のMSが二機開発されているこの状況が」

 

「え?」

 

「グレイズ強襲型とガンダム・ネビロス、グレイズに関しては新型兵器の導入、ネビロスに至ってはフレームからかつてのガンダムフレームを基にしてはいるものの完全新規フレームだ、どこから予算が出ているとは思わないか?」

 

何も言えなかった。

 

「因みにギャラルホルンの統制局から依頼されたのはグレイズ強襲型だけだ」

 

「じゃあ、あのガンダムはどこから来たんですか!?そもそもそれと開発期間に何の関係が!?」

 

ライアンの声は倉庫の中でよく響く。

 

「落ち着け、1つずつ話そう」

「まずネビロスのことに関してだ、あいつの依頼元はとある宇宙海賊なんだ」

「宇宙海賊!?」

 

「あぁ…この基地の上の連中はそいつらと繋がっている、金やらガンダムフレームのデータも貰っていたな」

 

ライアンは言葉を失った。

自分の中のこの基地が、ギャラルホルンが壊れる気がした。

「だがその取引には続きがある、ここで開発したMSネビロスはデータを取った後宇宙海賊に送る物なんだ、そしてデータはこの基地とギャラルホルンの統制局に保管される」

 

「まさか、統制局まで…」

 

「そのまさかだ、このNGF…ネクストガンダムフレーム計画はギャラルホルンで極秘裏に進められている計画なんだ」

 

「こんなの監査局に知られたら大変な事になりますよ!」

 

「そうだな、その監査局も黙っていないらしい」

 

「嘘…だろ…?」

 

「2週間後に監査局がこの基地に来るんだよ」

 

「つまりそれまでに俺たちはネビロスのデータを取り尽くすということですか?」

 

「さらにその後パーツをばらして、そいつを宇宙海賊に渡して全てをなかった事にする」

 

「じゃああのヒューマンデブリは?」

 

「あれらは宇宙海賊から貰ったものだ、それでネビロスのパイロットになって貰う、それだけだ」

 

「ヒューマンデブリがMSを動かせる訳ないじゃないですか!、俺らだってまともに動かせないのに!」

 

「あいつらには阿頼耶識が組み込まれているんだ」

 

「まさかコックピットブロックを丸ごと変えたのもその為だったのか!?」

 

「察しがいいな」

 

次から次へとギャラルホルンで聞く事が絶対ない禁忌の言葉の数々、ヒューマンデブリ、宇宙海賊、阿頼耶識

 

彼がいた場所は黒く汚れていた。

 

「俺は二尉を信用している、だからこのことを話した、この事は他言無用だ、いいな?」

 

「こんな奴らが地球を統治していただと…!」

 

「だから…?」

 

一尉は胸ぐらを掴んで二尉を壁に叩きつけた。

 

「いいか、よく聞け…お前がここでこのことを公表でもしてみろ…世間はパニックになる、下手したら戦争が起きるんだぞッ!!」

 

「でも…こ…んなの…おかしぃ…グッ!!」

 

グレイソンの腕は更にライアンを強く締め上げる。

 

「確かにおかしいのかも知れん、でもなぁ、それでも今は平和なんだ!誰も死なない!!それではいかんのか!!!答えろ二尉!!!」

 

グレイソンの締め上げている腕のせいか、それとも言い返せないのか、言葉が出ない。

 

グレイソンはようやく冷静になりそしてゆっくりと二尉を放す。

 

「最後に一つ言っておく、俺だってこの事は快く思っていない、だが、俺たちは、上の命令に従うしかないんだ」

 

そう言い残し一尉は倉庫を跡にする。

 

現在、この地球はギャラルホルンという組織によって世界の平和を維持している。

よってギャラルホルンの圧倒的な武力に通用するものはなく、この支配体制は300年前の厄災戦から続いている。

ライアンはMSのことに関しては優秀だ。だがそれ以外のことに関しては頭が回る訳ではない。それ故にギャラルホルンが300年もの間ずっと変わらない正義の存在であり強さの象徴であると信じ続けていた。

だからこそ、このギャラルホルンの腐敗には目を瞑っていられなくなった。

しかし、この腐敗を世間に公表して、その後どうなるのか、それ以前に公表する事が出来るのか、そんな事考えていない。

 

 

 

「今日も数値があまりよくないですね…」

 

技術曹長がライアンの出した結果に首を傾げる。

 

「二尉、なにかシュバルツに異常はありますか?気になった事があれば何でも言ってください」

 

返事が返ってこない

曹長が二度三度問いかけたところでようやく声に気がつく。

「あ、すまない曹長、何の話だっけ」

「扱っていてシュバルツに異常はないか確認を」

「そうだったか、すまんな今日は少し眠くてな」

「二尉はパイロットなんですからいつ異常が来ても出られるようにしっかり休息はとっておかないと」

隣のグレイズから通信が入る。

「リリィ三尉か」

「二尉、今日も数値が悪いんですってね」

「ああ…」

「もしかしたらOSに不備があるのではないですか?」

「そんなはずはないと思うのですが」

技術屋もこの会話に介入してきた。

「見た限り異常はありませんでした」

「でも数値が異常なんでしょ、悪い意味で」

「それは…」

「それじゃあ二尉私と模擬戦しませんか」

「模擬戦?三尉が俺と?」

「もちろんです、実際に色々動かしてみてわかる事があるかもしれないでしょう?」

「え、いやしかし」

「いいよね、曹長?」

「アッハイ」

割と上官に対してしっかり意見を言う曹長でも三尉の威圧に勝てなかった。

「俺抜きで勝手に…」

格納庫に戻り二機の機体を通信でリンクさせる。

今回はバーチャル空間での模擬戦だ。

そもそも模擬戦には二種類ある。

実際に機体を動かす模擬戦と仮想空間での模擬戦だ。

実際に機体を動かせばもちろんGや風などの自然現象など実戦に近い形でやれる。

しかし、推進剤などの消費、整備など色々手間がかかる。

一方で仮想空間ならGなどは再現できないものの推進剤や整備は特に必要ない。

それに今回OSの異常を調べるにはこれで充分だ。

「準備はいいですか二尉?」

「いつでもOKだ」

メインモニターに格納庫がMS戦艦の格納庫を写す。そして機体を歩かせ甲板上部のカタパルトへ接続。

 

「グレイズ強襲型、ライアン・クロウ出るぞ!」

 

カタパルトから火花が散る。

勢いよく飛び出した機体は戦場へと誘う。

 

緑で囲まれた戦場はどこかドゥッペル基地を彷彿とさせる。

 

そしてレーダーが反応する。

10時の方向エイハブリアクターの反応、もちろんこれはリリィのグレイズだ。

一直線にこちらへ向かってくる。

射程範囲内に入った瞬間、グレイズから3発の銃弾が放たれた。

全ての玉を回避しこちらも正面から突撃する。

場所が割れている以上回り込んで後ろから狙う事はできない。

故に一直線にグレイズを狙う。

強襲型が対ナノラミネートライフルを構え照準を定める

「エイハブウェーブ観測」

グレイズの固有振動数を観測するのはあのナノラミネートアーマーを貫く為だ。

ナノラミネートアーマーはエイハブリアクターから発生するエイハブウェーブを受けて硬化する、そうなってしまうと普通の弾ではその装甲を貫く事はできない。

そこで発案されたのがこの対ナノラミネートライフルだ。

このライフルはエイハブリアクターから発生するエイハブウェーブを観測しそれと逆位相の波を振動弾という特殊な弾に込める。

その振動弾は敵ナノラミネートアーマー着弾時に一時的にナノラミネートウェーブを相殺し、ナノラミネートアーマーを無効化、勢いで貫通させる。

という仕組みだ。

当たりどころによっては一撃で仕留められるかもしれないがいちいち観測してから撃つためタイムロスも大きい。

1対1でなければ使い勝手が悪い。

「エイハブウェーブ観測完了、逆位相のデータ、転送」

狙いはグレイズのコックピット

「当たれぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

グレイズのコックピット目掛けてまっすぐに飛んでいく。

 

だがリリィ三尉は狙いがわかっていたかのように右へとよけ、今度は5発の弾を放つ。

それを腰のスラスターを使いバックブーストで全てかわす。

そしてお互い円を描くように睨みを利かせたまま回る先に仕掛けたのは二尉、円の直径をなぞるように敵目掛け突撃、ライフルから放たれた銃弾はグレイズの肩へ当たる。

致命傷には至らなかった。

距離300m

シュバルツは右手のライフルを右アームに預け、アームから大剣を引き抜く。

全てのスラスターから太い青白い光を放つ。

グレイズはこれを回避することは不可能だと悟り、バックブーストとライフルで弾幕を張りつつ腰のバトルアックスを装備し、強襲型からの一閃を受ける。

ガァン!!

鉄と鉄がぶつかった重い音がコックピットに響く。

シュバルツは休む暇を与えない左手に持った大剣がグレイズをコックピットを引き裂こうとする、右手のライフルを咄嗟に放し大剣の身代わりにする。

切り裂いたことでライフルが爆発しその爆風と煙に紛れて一度距離を取り、右から回り込もうとする、しかしシュバルツは二本の大剣で爆風を切り裂く。

一瞬でもチャンスは与えない。

左手のアックスと左手の大剣が火花を散らし交わる。

グレイズ圧倒的な力に潰さそうになるが腰のスラスターを吹かし持ちこたえている。

強襲型の右手の大剣がグレイズのコックピットを貫こうと狙いを定める、左手の大剣でアックスを振り払い、そのまま腰を捻り右手の大剣で貫く。

いけるッ!!

 

"それでも今は平和なんだ!誰も死なない!!それではいかんのか!!!答えろ二尉!!!"

 

あの時の一尉の言葉が脳裏をよぎる。

その隙が一気にこの場を変える。

左手の大剣が振り払われた。

グレイズのアックスによって。

一気に距離を詰めたグレイズ右手が強襲型の頭部に飛んでくる。

 

この衝撃に一瞬カメラが砂嵐を写す。

 

その一瞬にグレイズの左手が強襲型のコックピットを潰そうと構える。

 

右手の大剣を引き出しその攻撃を阻止

 

しかしその一撃によりシュバルツの体制が崩れた。

そこにすかさず右足からの蹴りがシュバルツを襲い、シュバルツの背中が地に着く。

空からはアックスを振り下ろすMS。

 

足の底のスラスターでこれを回避、そして右アームのライフルで弾を放ちできるだけ近づきづらい状況を作る。

 

徐々に腰の大型スラスターを起こし体制を立て直す。

 

だがそれでもなお接近するグレイズ

 

1発当たっただけで致命傷に至るかもしれない死の雨を切り抜け、シュバルツクロウに、ライアン・クロウに接近する。

 

二尉は逃げる、グレイズを避けるように。

 

グレイズは空高く舞い、地球の重力の力を利用し加速する。そして右アームごとライフルを斬る。

 

「クソッ!クソォッ!!」

 

いつもより反応できない。いつもより思いっきり動かせない。

 

その焦れったい思いに苛立ちを感じる。

三尉のグレイズは止まらない。

シュバルツクロウの動きを止めるまで。

近づくグレイズを右手の大剣で振り払おうとするもグレイズの裏拳に止められ左手の大剣はアックスに止められる。

 

 

 

 

 

「今の二尉は動きが悪いです」

三尉からの回線

「ッ…!あぁ…そうだなお前強くなったな」

「違います!今の二尉が弱いんです!」

「いいですか二尉…何か悩んでるのはわかります、でも、そんなことで迷惑をかけないで下さいよ!」

「そんな…こと…だと…!?」

「はい!そうです!二尉の悩みなんて糞以下なんですよ!周りにとっては!!」

 

シュバルツの瞳から光溢れた。

 

「うるせぇぇ!!!」

 

 

強烈な頭突きがグレイズに一撃を加える。

これによろめいたグレイズから隙が生まれた。

ライアンは怒りに身を任せアクセルを踏み込む。

スラスターの炎が暴れる。

太刀筋はめちゃくちゃ、浅く刺さったり深く刺さったり、ただただ振り回す。

グレイズに反撃の余地はない。

右肩を切り落とされ、頭部はセンサーが丸裸。

スラスターは推進剤をほとんど使い果たしている。

今の状態は満身創痍。

唯一の武器は左手のアックス

二尉の怒りとスラスターがオーバーヒートする。

それでもなお攻撃は続く

「クソクソクソクソがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

そうして左手を振り上げた時、グレイズには腕が無くなっていた。

 

同時に限界を超えて炎を吐き出したシュバルツのスラスターが爆発する。

 

そしてお互いのMSが膝から崩れ落ち、シュミレーターが終了する。

 

結果は引き分けに終わった。

 

コックピットから出てきたパイロットは二人共汗が溢れ出ていた。

その顔を互いに見つめ格納庫に二人の笑い声が響く。

「お疲れ様です、二人共」

「曹長、気が効くな」

二人はキンキンに冷えた水を曹長から受け取り、一気に飲み干す。

「あぁ…生き返るぅ…」

「よかったいつもの二尉…」

 

「リリィ三尉…えっと…そのすまなかった」

「え?」

「ほら、そのクソとかなんとかずっと連呼したりして、さ」

「それなら私だって本音を聞き出す為とは言えクソ以下とか行ってしまって…そのすみませんでした!でも心配だったんです、二尉がなにか思いつめていたようだったので…」

今回の件は三尉なりに気をつかってくれたのか。

 

「ありがとな、リリィ三尉」

そう言うと無意識にリリィ三尉の頭を笑顔でわしゃわしゃと撫でていた。

突然のことに硬直したリリィ三尉は状況を理解するとみるみる顔が赤くなった

「なっなに!?なにを!?」

「あー、すまん、つい」

 

「ついじゃないです!!セクハラですよ!セ・ク・ハ・ラ!」

 

「仲良いですね〜二人は」

 

「そう見える?」

「そんな事ないです!!」

「アッハハ、やっぱ仲良いですね、じゃあ僕はOSに異常がなかった事が確認出来たのでこれで」

 

「お前もありがとな!」

曹長は敬礼をし格納庫の外へ出る。

そして一気に静かになった。

二尉は周りに人がいないか確認した後再び話始めた。

「ちょうどいい機会だから三尉に話しておくよ」

「なんですか?きゅ、急に」

この時二人っきりの空間、ちょうどいい機会、三尉は期待していた。もしかすれば、と。

しかし、そんな期待はすぐに壊れた。

「この基地の事なんだが、聞いてくれるか?」

「えぇ…聞きます…」

「嫌ならいいんだが…」

「もう聞くから早く話して!」

「アッハイ」

この一尉から聞いた一連流れを全て話した。

ガンダムネビロスの事

ヒューマンデブリの事

阿頼耶識の事

洗いざらい全て

 

「なるほど、それで…」

 

「今日の不調はそれのせいだったんだろうなぁ…人に話したら楽になったよ、後これ他言無用ね」

 

「それも一尉から言われたんですか?」

 

「うん」

 

「そんな事簡単に話しちゃっていいんですか?」

 

「いや、三尉なら大丈夫かと」

 

「そう思って私もライアン二尉に伝えたのだがな」

声の低い男の声が後ろから聞こえた。

「グレイソン一尉…!」

 

「全く仕方のない男だ、リリィ三尉もこの事はこれ以上広げるな」

 

「了解です」

 

「それよりなんで一尉がここに?」

 

「私だけではない」

そう言うと後ろから手錠をはめたヒューマンデブリの列横には銃を構えたギャラルホルン兵が歩く。

「今から外に出る事は出来ないからここで見ていくといい」

 

「見るって何を?」

 

「悪魔との契約だ」

 

「悪魔との契約…!?」

その言葉を聞いた時、どいう意味かわからなかった。

「一尉それはどういう意味ですか?」

リリィの声は震える。

この基地で何が起きようとしているのか、それが悪魔という言葉によってさらに不安が降り積もっている。

忽ち人が集まってくる。

技術者はほぼ全員集まっている。

そして二人に護衛に挟まれ基地司令が顔を出す。

「やぁ、グレイソン君。準備はいいかね?」

 

「いえ、暫しお待ちを」

 

「早くしたまえ、いつ監査局が来るのか分からんのだぞ、我々には時間がないのだ」

 

「ハッ!」

 

そして基地司令周りを見渡し異変に気付く。

 

「ところでそこの二人は君の部下かね?」

 

「ハッ、我が小隊のテストパイロットであります!」

グレイソンの言葉に反応し二人は敬礼をする。

「ライアン・クロウ二尉であります」

「リリィ・ブラウン三尉です」

「ライアン…あぁ…君が以前のネビロスのテストパイロットか」

 

「ハイ!」

 

「ほぅ…もし時間があれば君をネビロスの正式パイロットとしてあげたかったのだが申し訳ないな」

 

「いえ、自分の腕が未熟であったのが原因でして」

 

「そんな事はない、君は優秀だよ」

 

「恐縮であります!」

 

「ところでグレイソン君、彼らには当然今回の事を話してあるんだろうな」

 

「ハッ、大方話してあります」

 

「そうか、では始めるか」

瞬間技術者達が足を働かせ各持ち場につき一般兵がヒューマンデブリに銃を突きつけながらネビロスの方に歩かせる。

ヒューマンデブリをネビロスに乗せ阿頼耶識の接続を確認する。

コックピットの中を覗いた整備士がOKサインを出す。

確認後技術者は阿頼耶識システムを起動させる。

エイハブリアクター三基分の膨大な出力のデータ、それの制御を人間の小さな脳での制御を強いられる。

「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

デブリが悲鳴をあげる。

だが、まだネビロスを動かすには至らない。

「彼はダメだな」

基地司令が言い放った。

「最大出力で奴を殺せ」

そう言い技術者たちはレバーを徐々に上げる。

「ぐぁぁ…ッあぁッ!」

コックピットの奥からは血しぶきが見えるほど、悲鳴が弱々しくなっていくのがわかった。

臓器潰れる音が聞こえる。

そして全てが途絶えた。

ずるずるとコックピットから運び出される死体、その血のインクは鉄の大地を塗る。

 

「よし、次だ」

何事もなかったかのように司令が命令を出す。

「い、いやだぁぁぁああああああ!!こんなのうわあああああああ」

「ヤメロォォォォォォォォォォォォオオオオオオオオォォォォォォオオオオオオオオオオオオ!!」

「死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない」

紙くずのようにちぎっては投げちぎっては投げの繰り返し。

 

「ウッ!」

鉄と血の匂いにリリィ三尉は耐えられなくなり口を両手で押さえる。

「リリィ三尉、無理をするな」

崩れそうになる三尉の両肩をそっと二尉が支える。

「すまない、三尉…俺のせいで…」

 

「何言ってるんですか…三尉の悩み聞こうとしたの私からじゃないですか、謝ることなんてないですよ…」

三尉は苦しみの中で笑顔を作り出した。

その笑顔を見て二尉の中にあの時真実を知った時以上の怒りが込み上げてくる。

そして彼は司令の元へ歩く。

「司令、この計画…自分はやめるべきだと思います」

「二尉貴様ッ!」

グレイソンは隊長として彼を止めようとする。

「まぁ待て一尉、二尉の話を聞こうじゃないか」

司令の口調は落ち着いていた。

「ほら、話してみろ二尉」

司令のメガネが光を反射し、彼の目を隠す。

「ハッ、僭越ながら申し上げます、このNGF計画、今すぐに中止すべきです」

「何故?」

「何故って…!ギャラルホルンがこんな非人道的な事をして良いとでも!?人をあんな簡単に使い捨てて…監査局にだって勘付かれて…もう中止すべきです」

「確かに阿頼耶識もヒューマンデブリも差別される、ギャラルホルンはそういう風に印象操作をしてきた、この事が表沙汰になったらそれこそ大変な事になるだろうねぇ…」

「なら…!」

「そうならない為に統制局の奴らはここを選んだ、アフリカユニオンのごく一部の人間しか知らない、決して国の中に基地を作らないギャラルホルンが極秘裏につくった、このドゥッペル基地にね」

「でも今監査局が近づいてる、バレたら終わりです、それに彼らにとっても中止にした方が良いに決まっている!」

「彼ら…というのはヒューマンデブリのことか?彼らは人間ではない、いくら死のうが問題ではない」

「正気かよッ…!」

「あぁ正気だよ、我々は軍人だ、上から出た命令を黙って遂行するのみ、それにね、二尉、仮に監査局にバレても奴らだってこの事を公にする気はないはずだ、殺されても私位だろうな、君の安全は保障しよう」

「違う俺はそんな事!」

「二尉さん…でしたっけ」

突如女の声が聞こえた。彼女はあの夜会ったヒューマンデブリだった。

服装は下着ともうほぼ変わらないくらい破廉恥な格好をしていた。

だがそんな事今のライアンには気にならなかった。

「君は…君はこれでいいのか!?」

「二尉さん、これは私が望んだ事です、私はあのMSのパイロットにならなきゃいけないんですよ」

「死ぬかもしれないんだぞ!」

「私はいつだって命を張ってきた、こんなところで死ぬ命じゃない!」

「フッ…どうやらヒューマンデブリの方がよっぽど頼もしいな」

「なんでッ…なんでッ…」

「二尉、もうやめろ」

グレイソンの照準がライアンの頭を狙う。

「さぁ、再開するぞ、良いなデブリの女?」

「えぇ、いつでも」

阿頼耶識が接続され、徐々に情報が彼女の中に流れ出した。

「…ッ!!」

それは想像以上の衝撃、頭の中にどんどん流れ込んでくる、気持ち悪く、そして痛い。

「ンッ…アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」

痛みで声を上げる。

耐えようとしても溢れ出る。

「彼女もダメか?」

しかし整備士の様子は違う。

「いえ、司令これは…」

「ほう、安定してきている…よし、ゆっくり量を上げていけ」

「了解」

レバーが上がるほど苦しみも増す。

「ウッ…ァァァァァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアア!!!」

「すごい…まだ耐えていますよ彼女…!!」

「よしいけるぞ、あの女…口だけではないな、最大出力だ良いな」

「ハッ!」

そんなに必死になって目を血で滲ませて体中に激痛を走らせて、彼女は何故そんなにあのMSを欲しがる。

人間のライアンには理解出来ない。

だがヒューマンデブリの彼女には夢がある。約束がある。

「負けない…負けたくない…!まだ…まだ…まだ…私は…死ねないッ!!」

最大出力に達した時、声が上がった。

技術者達の歓声が、どよめきが格納庫を満たした。ついにネビロスに耐えうる人材を探し当てたのだ。

ネビロスのカメラアイが綺麗な翠を放つ。

「ハァッ…ハァッ…ハァッ…これで…準備…出来たっ!待ってて…ライアン、アレックス!」

誰も聞いていなかったであろうコックピットで呟く彼女の顔は苦しさに耐えながら満面の笑みを作った。

そしてそっと瞳を閉じる。

彼女が次に目を覚ましたのはベッドの上だった。

 

ベッドの上で寝たのは人間だった頃以来だろうか。

 

「よぉ、目覚めた?」

 

右横にはあの時の二尉がいた。

ゆっくり体を起こし二尉の姿をしっかりと確認する。

「ねぇ…ここは」

白い天井、シーツ、こんな当たり前の光景が今の彼女にとって贅沢な空間だ。故にどこか落ち着かない。

「ここは、この基地の医療施設だ」

ライアンは下を向いて呟く。

「で、二尉さん…でしたっけ?どうしてあなたはここに?」

「聞きたい事がある」

「ヒューマンデブリの私に?」

「やめてくれ、俺はそういうの好きじゃない」

「変な人ね」

「何が?、ヒューマンデブリだって人間だよ」

昨日見たあの光景、彼らが悲鳴を上げ倒れ、血を流し、死んでいった。死を恐れる彼らは間違いなく人間だった。命が確かにあった。

だがこの女は違う、この女だけは自ら望み、自分の命をあのMSに売ろうとしていた。

「何故だ!何故君はあの悪魔…ガンダムネビロスの力が欲しい?、何故命を秤にかけてまであの力を望む!?」

「そんなことか…」

「そんなこと?、君は死ぬのは怖くないのか」

「怖いよ、でもね、それ以上に私は限られたことしか出来ないまま一生を終えてしまうことの方が嫌なの、ヒューマンデブリになった時から私の人生は制限された、これはもう変えられないの、だったらその制限の中で精一杯自由に生きるの、だから今回の場合もし私がもし死んでも私に悔いはない!」

「すごいな、やっぱり君は人間だよ、しっかりした」

「そう?」

「あぁ…だがそれとMSのパイロットになる事がどう繋がるんだ?」

「MSさえあればもっと色々な事が出来るかなって、それだけ…」

その言葉を呟いた後に何かを思い出したかのように彼に迫る。

「ねぇ!この基地はどこの基地にあるの!?」

「どこって…ヨーロッパってわかるか?その北側のドゥッペルって所、因みにこの基地の存在はこの基地にいる奴らと軍の一部しか知らないんだ」

「何故?」

「この基地国の中にあるんだ」

「それが何か問題あるの?」

「ギャラルホルンは本来国の政治には介入しちゃいけないんだ、だから国に基地を立てることはなく、海洋上とかにあるんだ」

「何故この基地は?」

「そこは詳しいことしらねぇんだけど、アフリカユニオンの上の奴らとうちの連中になんかあるらしくてね、こっそり資金援助してるんじゃないかって噂」

「それが監査局って所にバレたらまずいからあなたは反対してたのね」

「ま、それもあるな、だけど、俺はあの非人道的なやり方が気に食わなかった、それが一番の理由だな」

「優しいのね」

「まぁな」

そういった彼の顔は別の方向を向いていた。

少し恥ずかしかったのだ。真っ直ぐに言われるのは。

その様子を見ていた彼女は過去の幼馴染の一人のことを思い出していた。

「すこし…似てるわ…」

誰にも聞こえないような声で優しく微笑みながら呟いた。

「なんか言ったか?」

「なんでもないわ」

彼には関係の無い事だから、彼女は敢えてその事を黙った。

「そうか、すこし長くなっちまったな、ここらでお暇するわ」

「えぇ」

「また今度時間があったら話そうぜ!」

「そうね」

そう言い厳重なロックのかかった扉を解除しその場を立ち去った。

扉をでて一番最初に待っていたのはリリィ三尉だった。

「二尉、彼女と何話してたんですか?」

「世間話だよ」

「そう…ですか…」

やはり心のどこかで二尉の気持ちの心配はあった。

ライアンは次に会うとき、もう少し彼女についてもう少し詳しく彼女のことを探ろうと決意した。何故か分からないが知りたくなったのだ。

取り敢えず次は名前から聞こうと心の中で決意を表した。

だが次にこの二人が会うのは思いもよらぬ場所になる。

 

巨大な影を追うように数機のMW(モビルワーカー)が進撃する。

巨大な悪魔にその照準を合わせ砲撃をするが、そんなものは当然MSには効かなかった。

その砲撃に反応したネビロスが盾から太刀を引き抜きそのままMWへと叩きつける。その衝撃にアスファルトがかち割れ、その衝撃によって起こされた強風が周りのMWをも飲み込み吹き飛ばす。

直撃を受けたMWは当然ながら潰されていた。そのMWからはオイルと乗っていた兵士の赤黒い液体が交じり流れている。

「クソォッ!また死んだ!早く来てくれよ…MS部隊!」

エイハブウェーブの影響でまともに通信できない通信機に必死に訴える兵士。MWは横たわり唯一の脱出口も倉庫がひしゃげ中から出る事はできなかった。外の状況だって分からない。ただわかることは地を揺らしながら、轟音がこちらに迫って来ている事だけだった。

ズシン、ズシン。

音が止まった。

次の瞬間彼らは宙を舞った。自分の体が離れていくのを感じながら。

ボトボトと地面に落ちていく肉片、そして血がアスファルトを赤く塗り上げる。

 

「ごめんね、でも…邪魔…しないでッ!!」

太刀が最後のMWを串刺しにした。

時間は少し遡る。

 

その日ライアンはいつもより少し早く起きていた。

朝、格納庫へと赴くためだった。

格納庫ではもう準備が始まっていた。ネビロスの機器の整備などを行っているのだろう。いつもよりピリピリとした空気だった。

「早いな二尉」

グレイソンが後ろから声をかける。

「一尉、おはようございます」

「何故ここに来たんだ?」

「なんか…落ち着かなかったんです」

「そうか…」

そう言ったグレイソンの顔は少し曇っていた。

「二尉、貴様はこの計画、納得したのか?」

「いえ、してません、と言うかできません」

「そうか、実の所な、私自身も納得してはいないのだ」

そんな事は大体わかっていた。あの昨日の光景を見ていれば分かる。あの時の一尉の手は怒りで震えていた。だが彼は軍人だ。上の命令が絶対だ。だからこれまでも、これからもこの計画に疑問を抱かないようにして、怒りを抑え、命令に従うのだろう。

「二尉、私は戦いが嫌いだ」

「一尉は実戦の経験があるのですか?」

「あぁ…ちょうど10年前…私がお前くらいの時だ、ギャラルホルンの支配体制に意を唱える者がいた」

一尉は目を閉じ当時の事を語りだした。

「私たちの任務はそいつら鎮圧だった、圧倒的武力でそいつらを制圧しようとしたんだ」

「当然制圧出来たんですよね?」

「あぁ…だが多くの犠牲が出た、向こうからも、こちらからも」

「…」

二尉は黙った。ギャラルホルンからの犠牲が出たという事実に驚きを隠せなかった。

「何故向こうだけでなくこちらからも犠牲が出たのか?って顔をしてるな、それはな2つほど理由がある」

「まさか…MS…!?」

「そうだまずそれが一つ目だな、あれはロディフレームを基にした機体だったかな、奴のせいで私のいた部隊は壊滅したよ」

「もう一つは?」

「もう一つは奴らの戦術だな、とても頭の悪い」

「頭の…悪い?」

「自分の命をもってして自分のプライドを守る奴らだったよ、投降しろと言っても奴らは足があれば爆弾を持って突っ込んでくる、上の連中を守るため、自分の命を投げうち、一人でも多く道ずれにする、負けは決して認めなかった」

「それでどうなったんですか」

「結果はギャラルホルンが制圧したよ、MSは押収した、もうその国で氾濫はありえないだろうな、だが双方大きな犠牲を出した、本来死ななくて良い者まで命を散らした」

「…」

「奴らがッ…奴らがあんな事をしなければこんな事にはならなかった、余計な事をしなければ」

「一尉…」

「だからな…ライアン、今回の事は黙って見ていて欲しい、俺の事を恨んでくれても構わん、だが、せめて俺の隊員には死んで欲しくない」

「死ぬって大袈裟な」

「お前が今回の事を世間にバラしたらギャラルホルンに殺される事は明確だ、それだけに留まらず真実を知ったアフリカユニオンだって黙っていないかもしれない、宣戦布告だってありえる、だからこのまま何事もなく、このまま無事に、誰にも知られずこの計画を済ませたいのだ」

「了解…しました」

彼は敬礼した。

「推進剤供給完了!」

 

「全システム異常なし!」

「よし!パイロットを乗せろ!」

技術者達の声が格納庫内を飛び交う。

ライアン達はその様子を二階から見ていた、一応彼らもMSでの待機命令が出ていた。

「しっかし遂にネビロスが動くンスネェ!」

「ミハエル准尉うるさいぞ」

「すいませ〜ん、一尉」

そういった彼の顔はニヤけていた。当然反省している態度ではない。

「でも楽しみっすよね?ライアン二尉だってそうでしょ!?」

「え…まぁ…そうだな」

「どうしたんすか二尉?」

「ン…いや何でもない」

「もしや…まだネビロスに未練があったり?」

「違う」

「なんか異様にクールっすねぇ」

そう呟きながら二尉の見た先を見てみる。

その先にはネビロスのパイロット、ヒューマンデブリの姿があった。パイロットスーツは阿頼耶識を接続しやすいようにしてある。

「あれが…例のパイロットですか…ほほぅ綺麗な人っすねぇ…」

准尉はそう呟くと何か閃いたかのように声を上げた。

「准尉…うるさいわよ」

「リリィ三尉…あれは強敵っすね」

「殺すわよ」

「ごめんなさい」

そんなたわいない話をしている中、準備は着々と進む。

「よし、女入れ!」

「…はい」

阿頼耶識を接続、大量の情報が頭のなかをかき回す。

それに耐えながらネビロスを格納庫の外へ歩かせる。

バックパックに二問の小型滑空砲左腕にシールドを取り付けていた。

その光景に皆少し見惚れていた。

それと同時に小隊の彼らも自分のグレイズに乗り込んでいた。

コックピット内でネビロスを見守るライアン。

 

「まずはネビロスを飛ばしてみせろ」

司令からの命令が下った。この時司令ら上層部はエリアBの司令室にいた。無線により司令を出した。

この時遂にネビロスが飛ぶ姿を拝める。

誰もがそう思った。

しかしネビロスは盾から太刀を引き抜き、左手にあっ建物を叩き切った。

幸いその建物は一般兵士達の宿舎だった為そこでは死者は出なかった。

そして司令が困惑している間に腰のスラスターユニットを吹かし上空へ飛び立つ。

この情報はMSに待機していたライアン達の耳にすぐ入った。

「ネビロスが…宿舎を…!?」

ライアンの声は驚きのあまり裏がえる。

彼女の昨日の言葉、出来る事が増えるという事を思い出しまさか、と顔を顰める。

「ちょっと、どうして出せないのよ!!」

リリィ三尉の罵声が飛ぶ。

「す、すみません、推進剤のチェックが遅れてました」

「あと何分で出せるんスカ!?」

「一尉のグレイズなら30秒、他は最低5分は必要です」

「あぁっもうっ!!」

リリィ三尉の怒りはコックピット内のモニターぶつけられる。

「作戦を伝える、今上からの命令でネビロスは最悪破壊しても構わないそうだ、ただしできるだけ壊さないようにという事だ、パイロットの生死については問わない」

「撃墜命令…ですか!?」

ライアンは自分で言ったその言葉に震えた。今この瞬間から命のやり取りが始まろうとしているこの瞬間に。

「私が先行しネビロスの足を止めその後、貴様らと合流、後に確実に仕留める」

「了解!」

隊員の緊張感のある返事にグレイソンの身もまた震える。

「今度は絶対に誰も殺させん」

MW部隊は先行してネビロスを追っていた。少しでも足止めになるだろうという司令の浅はかな考えだった。勿論果敢に悪魔に立ち向かった名も無き兵士達は歴史に決して残らぬ戦死を遂げた。

 

だがその時間、兵士達が命と引き換えに稼いだ時間がグレイソンのグレイズの到着を間に合わせた。

グレイソンはその殺伐とした光景に言葉を失う。今の彼のターゲットスコープに入れるのはあの悪魔、ネビロスのみ。

地上用ブースターを装備したグレイズは300mくらいの距離からライフルを放つ。だが阿頼耶識の反応はそれを圧倒的に凌駕した。軽く機体を動かし躱す。

その間地上用ブースターでホバー移動をしたグレイズが後ろへ回り込もうとしている。ネビロスはそれを確認した時アスファルトの大地を砕きながら移動し太刀を構える。

グレイズは手持ちのライフルで弾幕を張りネビロスの接近を阻止しようとするが、構えた盾と強固なナノラミネートアーマーに阻まれ接近を許してしまった。

刀を振り上げる動作に入った瞬間、左手のマニュピレーターが握り拳を作りネビロスに一撃加えようとするがまたも盾に阻まれ押し返される。

だが地上用ブースターから一気に青白い光が吐き出され倒れかかった体制を持ち直す。

ネビロスの太刀の矛先がグレイズに向いている。

グレイズの腰に装備された近接戦闘用の武器、バトルアックスを左手で持たせようとした。しかしコックピットのモニターに警告を受ける。先程の衝撃で左マニュピレーターが完全に逝った。リアクター三基分の力によるものなのだろうか。

その物理的力量差をその身にひしひしと感じる。

ライフルをその場に投げ捨て右マニュピレーターにアックスを持たせ襲ってくる太刀を受け止める。

しかし衝撃をまともに受けたグレイズのモニターは各部位の異常で埋め尽くされた。

右肩

右マニュピレーター

両膝間接

から稲妻が発する。

振り払おうとしても肘のアクチュエーターはもう限界だった。

それでも耐えようと、押しつぶされまいとブースターの炎を吹かし耐える。

機体の足が硬いアスファルトに飲み込まれていく。

そのブースターも臨界域に達しようとしている。

「ッ!!」

覚悟を決めた。

彼のグレイズはフレームから右肩以下をパージした。そのまま左方向へと炎の跡を引く。

だが彼にはもう武器を持つ手がない。

唯一の望みは彼らの部下の到着だった。

出来るだけ彼らを命の危機に向き合わせたくなかった一尉にとっての最大の屈辱だった。

その頃ちょうど推進剤の補給が完了し3機のグレイズは発進した。

恐らくネビロスと交戦しているポイントまで40秒で着くという地点だった。

それまでネビロスの攻撃に耐えれば彼らの助けを受けられる。

一尉グレイズの状況を見ても容赦なくネビロスの太刀はグレイズを襲う。

地上用ブースターの推進剤はもう残り少ない。いつまで避けられるものか。

推進剤が尽き、そのバックブーストの勢いで地面をえぐる。

絶対絶命、ここまでなのか。

上空を見上げたグレイズのモニターに映ったのは弾幕だった。

その弾幕を避けるように一尉のグレイズからは遠ざかっていく。

彼らの部下が到着した瞬間だった。

「一尉!!無事ですか!返事をして下さい!一尉ィッ!!」

ライアンの必死の叫びがうるさいくらいにコックピット内に伝わる。

「あぁ…なんとかな…」

リリィ三尉とミハエ准尉のグレイズが倒れた一尉の前に出て弾幕を張る。

「今のうちに一尉は後退を!」

「ここは俺たちに任せてください」

二人の声が重なる。

「リリィ三尉…ミハエル准尉…」

自分の部下達をこれほど頼もしく思えたことはないだろう。

だから彼らを信じた。

ライアン二尉、今から俺は後退する、その間、貴様を一時的に指揮権をお前に譲る、奴を…止めろッ!!」

「…了解ッ!!」

ライアンのシュバルツクロウは左アームにマウントされていた大剣を引き抜く。

「行くぞお前ら!」

「はい」

「了解っス!!」

使う言葉は違えど意思は同じだった。

グレイソンがブースターをパージし後退しようとした時、ネビロスのバックパックから伸びた滑空砲が准尉に照準を合わせていた。

「まずい…あれは…ッ!」

しかし通常この距離なら滑空砲でさえナノラミネートアーマー貫けない。

そう思っていた隊員達は何も警戒しない。

そして滑空砲から放たれた弾は准尉のグレイズへと直進する。

「させるものかァッ!!」

満身創痍のグレイズを前に動かし准尉を突き飛ばした。准尉のグレイズは横たわって何が起きたか把握できなかった。

そこには一尉のグレイズがただ立っていた。

 

そのコックピットには滑空砲から放たれた弾が突き刺さっていた。

「グハッ!」

コックピットはモニターは潰れ外状態は見えなかった。

その密閉空間で血が足元に溜まっていく。

この時のグレイソンの体は左半身がほとんどなかった。もう助からない。

「隊長…自分はようやく隊長の元へ…」

残った右手をモニターへと砂嵐状態のモニターへ伸ばす。

 

「自分は…自分の…部下を…ま…もりま…し……」

グレイズのエイハブウェーブと共に一尉の命はその時止まった。

「う、嘘ッスヨネ…一尉…?俺は…俺は…」

「ミハエル避けろー!!」

ライアンの必死の叫びは届かずネビロスの2発目の弾がミハエルのグレイズを撃ち抜く。

「一尉…ミハエル…嘘ッ…こんな…」

 

リリィの前に倒れた2機のグレイズは完全に機能を停止していた。

ミハエルは生死が不明なのだがグレイソンは誰がどう見ても助からないと分かる。

だが悲しみに浸る余裕はなかった。

「リリィ!!前を向けェ!!今お前のモニター入れるべきは仲間じゃない!」

「二尉…」

ライアンは大剣を片手にネビロスへと突撃する。

一尉を殺しミハエルを撃ったこのガンダムを倒す為に。

悲しみと怒りを背負った大剣を振り下ろす。

ネビロスの硬い太刀と交わる。

「リリィ!今だ!アックスを抜け!」

「…」

「三尉!!応答しろ!!…ッ!!」

その時細身のネビロスの太刀がそれよりも一回り大きい剣を払った。

隠れていた右手のライフルが狙う。

「エイハブウェーブ…観測完了」

ネビロスと鍔迫り合いをしていた時にずっと観測していたのだ。この一撃の為に。

だがヒューマンデブリと言えど馬鹿ではない。

ネビロスの膝のカーフミサイルを射出した。ナノラミネートアーマーの弱点、装甲を溶かす熱量での攻撃。

ライアンはバックブーストをかけ奇跡的にミサイルを回避することに成功した。

だが完全に対ナノラミネートライフルを放つチャンスはなくなった。

だが周りが炎の海と化し、その中ただリリィのグレイズは立ち尽くしていた。

「嫌…嫌…死にたくない…私まで…」

ネビロスが次々味方を襲う姿に彼女は怯え恐怖で体が動かなくなっていた。

(先にあの機体を殺る!)

ヒューマンデブリの女はネビロスのバックパックに装備された"対ナノラミネート滑空砲"を展開した。

ターゲットはリリィのグレイズ。

「やらせないッ!!」

ライアンのシュバルツがネビロスに切り掛かる。

再び剣と剣が叩きつけあった。火花を散らし互いの機体の全力をぶつけ合っている。

「あなたはどうして…戦えるの…?怖く…ないの…?」

デブリの女はこの男の闘志に疑問を抱いた。

普通ならいきなり実戦なんて言ったら、リリィみたいになってしまう方が多い。だがこの男は躊躇なく飛び込んでくる。

「俺だって…怖いさ」

鍔迫り合いによる接触回線が二人の会話を紡いでいた。

「だけど…何もしない方がもっと怖いッ!」

シュバルツの大剣が太刀を払いその足でコックピットを叩く。

体制を崩しかけたが、ブースターを使い距離を取りつつ、体制を立て直そうとする。

「其処だ!」

対ナノラミネートライフルをネビロスに向け、放つ。

しかしその危機的状況にも関わらずネビロスは盾で弾を弾く。

「早い…!」

その後しっかりと着地したネビロスは再びシュバルツへと直進する。

「二尉!どいて!!」

突然の通信だった。

「リリィ三尉…いつから其処に」

9時の方向、リリィのグレイズライフルを構え、そのライフルから銃弾が発射された。しかし当然ながらネビロスは全ての弾を直撃したにも関わらず無傷だった。

「やっぱりこのライフルじゃ歯が立たないかぁ…」

声も手も震える。

(でも…戦うんだ!)

「三尉!いけるか!?」

「二尉、私も戦います!」

そう言った言葉からは覚悟が感じられた。

「よし、今から奴を…ガンダムを止めるぞ、俺たち二人で」

「ハッ!」

「2対1でも変わらないんだから…」

ネビロスのコックピット内でただ一人呟く。

「三尉、アックスを抜け、近接戦でないと奴は仕留められない!」

「了解!」

リリィのグレイズの左マニュピレーターにはアックスが握られた。

「3秒後…合図したら弾幕を張りつつ近づけ、俺は正面、お前はその位置からだ」

「了解」

それまで睨み合っていた互いの機体が動き出そうとしている。

「3…」

「2…」

「1…」

「行くぞォォォォォォォォォォッ!!」

 

2機のグレイズのスラスターが炎を吐き出す。

2機のライフルからも光が放たれる。

だがネビロスが見ていたのはライアンのグレイズのみ、彼のライフルが特殊なものだと察していた。リリィは大して弊害にならないと思い、ネビロスはシュバルツの方へ機体を傾けた。

「やっぱり食いついてきたな」

ライアンがそう呟くと一つリリィに命令を出しシュバルツをネビロスへと加速させた。

しなるような速さで大剣を振り回し、できるだけ長い時間刃と刃が接触しなように、反撃の隙を与えないように連撃を加えていく。距離をとろうとするネビロスを逃さないように地上用に特化した腰のスラスターを吹かせ舞うように切る。

この混戦状態の中リリィのグレイズは何もすることがなかった。いや、できなかったのだ。ただ2機の後を追う。

コックピットに重低音が響き、揺れ、ケツが痛くなってくる。

ネビロスに至ってはこのしつこく付き纏うシュバルツに苛立ちも感じていた。ネビロスの反応もいつの間にか荒々しくなっていた。

「まだまだ、これからだぜ」

右のマニュピレーターにも大剣を持たせる。

二刀を羽根のように広げネビロスへと突撃する。

「うおおおおおお!!!!」

一撃目と二撃目にほぼ間隔がなくなり一撃目をいなすと直ぐに二撃目の刃が襲ってくる為、やむなく盾で受け止めた。

その瞬間2機の動きはほぼ静止した。

盾と大剣が押し合い、どちらも引かない。

「離れろォォォォォッ!」

右手の太刀がシュバルツへと向かう。

バァン!バァン!バァン!

3発の銃弾が太刀への着弾により起動を変えシュバルツへの直撃を避ける。そしてその隙に左手で逆手持ちにした大剣をネビロスのコックピットを目掛けて切り掛かる。

「ッ…!!」

デブリの女は急遽右手を振り下ろしシュバルツの左肩をフレームごと叩ききった。シュバルツのモニターをアラート画面が覆い尽くす。

そして左足から繰り出された蹴りがシュバルツに直撃しそのまま力に負け吹き飛ばされる。だがその背後からリリィのグレイズがアックスを構え突撃した。今のネビロス左足を地につける前にグレイズが切り掛かる。

先ほどライアンからだされたのは隙を彼が作りそこでリリィ三尉がとどめを刺す。

そんなアバウトな内容だった。しかし現に実行している。

このまま…いける!

そう思えた。しかし再びバックパックの滑空砲が展開しリリィ三尉に向け発射される。弾丸は左太ももに命中した。

姿勢が崩れグレイズが地のアスファルトを抉る。

「この…程度…」

しかしグレイズは立ち上がらない。

「どうして…ッ!?」

理由は直ぐわかった。滑空砲の弾がフレームごと貫き足の機能を完全に殺したのだ。

「三尉!無事か!?」

「私は…でも…もう機体が…」

「了解ここから先は俺が追撃する」

ネビロスの後を追うシュバルツの後ろ姿をただただ見ることしかできなかった。

「二尉…」

この島から脱出す唯一の方法、ネビロスはそこへ向かう。

シュバルツはそれを阻止する為奴の後を追う。

背後のバックパックに装備された滑空砲が展開し背を向けたまま滑空砲がシュバルツを狙う。

ライアンもあの滑空砲の正体にようやく気づいた。

あれは対ナノラミネートライフルの滑空砲仕様だと。基本的な原理はライフルと同じだ。エイハブウェーブを相殺してナノラミネートアーマーを無効化する。

しかし、ライフルよりも威力は上だ、グレイソンを殺した時ウェーブはミハエルのグレイズの物だっただろう。それなのにグレイソンのグレイズに弾は突き刺さった。もともと満身創痍だったのもあるが、それは威力が上がっている証拠になった。

だからこの距離で当たれば確実に機体に傷がつく。

銃口から弾が放たれる。

右スラスターに被弾した。

「爆発する!」

腰の右スラスターをパージしそこから一気に距離を詰めるためフルブーストをかける。

ネビロスは反転しシュバルツの攻撃を受け止める。

「もう邪魔しないでよッ!」

「そうはいかねぇ!」

刀は弾かれる。再びブーストをかけるがそこで推進剤の量がわずかなことに気がつく。

「やるしかねぇッ!!」

思いっきりペダルを踏み込んだ、ここで一気に決めるつもりだった。

大剣を構え、コックピットを狙い全力で奴を殺しにかかる。

「約束したんだ…あの丘で再開するって…」

デブリの女はレバーを強く握りしめた。

「だからこんな所で閉じ込められるわけには…あいつらのモルモットになるわけには…いかないのッ!!」

シュバルツの渾身の一撃を交わし構えた太刀で右肩を切り落とす。その勢いで姿勢を崩すシュバルツはなんとかして無事着地しようとする、だが、推進剤は完全に尽きていた。

轟音を立て地面をえぐった。

夕日が二機を照らす。

 

ネビロスはゆっくり倒れ伏したシュバルツに近づく。ライアンは衝撃により負傷しシュバルツを動かせる状況でなかった。

ネビロスはシュバルツに太刀を突きつける。

「ごめんね…私は…本当はこんな事したくない…でもね、私は10年前の約束があるのそれだけの為に今まで生きてきた。ヒューマンデブリになってもそれだけが私に人間の心を残してくれた…あなたに罪はない、それはわかってる…」

薄れゆく意識の中で聞こえるヒューマンデブリの回線。

10年前の約束という言葉。その言葉だけが耳の中に強く残る。

「だけど…私は約束を守りたい、パパとママを殺されたの日から、ヒューマンデブリになったあの日から、私は邪魔する奴を排除して生きてきたの!目的の為に!」

「だからね、死んで…」

その言葉は涙で震えていた。

「アレックス、ライアン…待ってて今から行くから、約束…守るから」

彼の中でその疑いが確信に変わった。

"そうか君は、アイリーン…だったんだな"

 

ネビロスの太刀はグレイズ強襲型のコックピットをしっかりと貫いていた。

 




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