機動戦士ガンダム鉄血のオルフェンズ PD321Teufels Speicher Ⅰ   作:YASU79FP

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pixivの奴をちょっと加筆修正しました


叛逆の烏

 

死んで…

それが最後に聞いた、10年ぶりに再会した幼馴染の声だった。

 

ネビロスの太刀はしっかりシュバルツのコックピットを貫通していた。だが、それはライアンの右半身を切り裂いた。

奇跡的に体ごと潰される事態からは避けられた。

だがこれはライアンを却って苦しませる。ネビロスはコックピットから太刀を引き抜き、そして基地と本土をつなぐ橋を潰し、消え去っていく。

"待ってくれよ、アイリーン"

 

喋る力もなかった。

伸ばす右手もなかった。

今の彼にできるのは記憶の底から溢れ出る嘗ての思い出、それを眺めながら死までの残り時間を待つことだけだと悟っていた。

「グレイズ強襲型のエイハブウェーブが消えました」

HQではこの一連の騒動を当然見ていた。状況も、何が起こったかも把握していた。

「クソの役にも立たんな…」

そう言った基地司令の声は怒りで震えていた。

「今回の件の損害を報告せよ」

「MW部隊が全機撃破、グレイズ3機大破、一機中破、あとエリアBの宿舎が半壊、との事です」

「チッ、思っていたより被害が大きいな…、本部になんて報告すればいいか…」

「それと今回の件で戦死者の人数も多数おり…」

「戦死者…?」

「ハイ、グレイソン一尉を始めMW部隊も全員戦死、シュバルツのライアン二尉は現在は不明ですが…」

司令はそう言ったオペレーターの後頭部を掴みキーボードに叩きつけた。

「いいか、我々は機体の試験途中でMSが暴走し、謎の爆発が起きた、それにより多くの犠牲者が出た、そうこれは事故なんだ…決して誰も戦ってはいないんだ…いいな?」

「グッ…」

オペレーターは押し付けられているせいで返答する事を許されなかった。

「ええい!早く今回の件で取れたデータだけを今のうちにコピーしておくようにと技術班に伝えておけ!」

オペレーターから手を離すと司令は管制室から出て行った。

目の前に白い世界が広がっている。

 

ここはどこだ?

俺はどうしてここに?

辺りを散策するように手を伸ばす。何もない。何が起きているんだ…思い出せ…俺は確か…

閉じていた目がゆっくり開いた。目の前の白い世界はいつの間にか白い天井へと変わっていた。体を起こそうと右手を腰の後ろにつく。

ここで異変に気付いた、自分の右手、右半身は切り裂かれた。なのに何故…

「ライ…アン二尉…?」

二尉という言葉が随分と懐かしく感じる。この声も、響も。何かを彼女に向けて何かを言おうとしたが、何を言えばいいのやら…。

取り敢えず普通に。声を掛けよう。

「おはよう、リリィ三尉」

ライアンは微笑んだ。それを見た三尉の目には涙が溜まっていた。それを見せまいと袖で拭く。

「馬鹿ッ…」

小さな声で呟いた。

「あのーお二人さーん自分もいるんスけど…ネェ…」

「おっミハエル准尉、お前も無事だったか」

「無事かどうかって言われると骨一本折ったりしちゃったンスケド、二尉に比べれば軽傷ッス」

「そうか…俺はどのくらい寝ていたんだ?」

「3日間です」

「3日も寝ていたのか俺は」

「これでも早い方ですよ、週間とか下手したらもう意識戻らないんじゃないかって言われてたくらいなんですから」

「そうか…」

よく再生治療で右半身を取り戻せたものだと自分もその奇跡の余韻に浸っていた。

「その間リリィ三尉は毎日二尉のところ来てくれてたんスヨ」

「准尉!?何言って、わっわたしがそんな」

「そうかリリィ三尉、感謝する」

「いや、だからその…えーと」

「まぁそう照れるなって」

「うぐぐぐ」

彼女の顔は耳まで赤く染まっていた。

他愛ない話で盛り上がっている中、ライアンが1人この部屋にいない事に気付いた。いや、気付いていたが、意識しないようにしていた。だが、確認はしておきたかった。

「なぁ…グレイソン一尉は…どうなった」

さっきまでの賑やかなムードが一気に暗い雰囲気に変わった。

「グレイソン一尉は…あの時もう既に弾に潰され内臓が殆ど潰れていたらしく…救助が来た時にはもう…」

「……そうか…」

なんとなく分かっていた。あの人なら生きていればきっとこの場にいただろう。

「許せねぇッスヨ…あの女…それにガンダム…」

ガン…ダム…?

「そうだ!ネビロスの現在位置は!?」

「それがまだ…」

「そうか…」

彼は2人に悟られないように胸を撫で下ろした。

10年ぶりに再会した幼馴染はヒューマンデブリで、MSパイロットで、隊長の仇。

もし彼女がアイリーンでなければ彼は無理にでも体を動かしガンダムを探して復讐をするだろう。だが今の彼にその発想はなかった。

またゆっくりと話をしたい。彼女に会いたいそれだけだった。

10年前

 

ライアン、アイリーン、アレックスの3人は毎日のように遊んでいた。

だがこの日、アイリーンが火星に移住することを告白した日の事。

「そーいやライアン、なんで兵隊なんだ?強くなるなら別に他の方法だってあるだろう?」

アレックスが何気なく聞く。

「だってさ、兵隊ってのはみんなの平和を守ってるんだぜ、この世界の平和だって守ってるんだぜ!」

「まぁそうなんだけど…でも強さが力とかって限らないだろ、金持ちになれば強い人だってシステムだって買える、守るならこれで充分じゃないか?」

「ノーノー、俺はね正義になりたいんだ!」

「え?」

「平和ってのはこの世界の事、それを作ってるのは正義」

「まぁ、そう…かな?」

納得には至ってなかった。

「つまり正義は平和を守る力があるんだよ!兵隊さんになれば俺はお前らを守れるんだ」

「お、おう」

「特にMSパイロットになればもう何も心配することないしな!」

「あー…なるほど、お前ただMSに乗りたいだけか…」

「ち、ちげーよ!!MSに乗りたいってのもあるっちゃあるけど、みんなを守りたいっていう気持ちと、正義になりたいって事にも嘘はない!」

「そっか」

「おう!そうだ、だからジュニアハイスクール卒業したら俺は軍のよーせー学校ってとこに入ってMSについて勉強するんだ」

「勉強?お前が?」

アレックスは彼から出た聞きなれない言葉に吹き出した。

「笑うな!」

「だって、お前が、勉強て」

明らかに笑いすぎていた。

「好きなことだったらきっと出来る!!」

「そうかそうかせいぜい頑張れよ〜」

そう言ってその日彼はアレックスと別の道に別れそれぞれの家路に着く。

その3日後例の事件は起きた。

実感はわかなかった。宇宙そら

 

で何が起こったのか10歳の子供に想像がつかなかった。ただただ、手の震えが止まらなかった。

そして1週間が経ち操作は打ち切り、ライアンの父がアイリーン達家族3人の墓を建てた。

その時アレックス達の家族も一緒にその丘へ足を運ばせた。

「バスラーさん…この墓の金額を半分も出してくれたこと、感謝します」

「いえいえ、息子と仲が良かったと聞きますからこれ位はしないと」

「どうしてこんな事になってしまったのでしょう…」

「えぇ…誰も悪い訳では無いのに…」

「はい…誰も…」

「お父様そろそろ僕から彼女に花を手向けさせてくれませんか?」

「アレックス…任せるぞ」

「はい…」

「ライアン、お前からも彼女に送ってやってくれ、その方が彼女も喜ぶ」

「いやだ」

「ライアン…これが彼女のためなんだ」

「いやだ!アイリーンは死んでない見つかってないだけだ!!」

「違う、彼女はもうこの世にいないんだ」

「じゃあなんでこの下には死体が埋まって無いんだよ!!どうして意味も無い石ばっかり立ててそこに花を置かなきゃならないんだよ!!」

「ならここで何もしないで彼女の帰りを待つ事とでも言うのか、それこそ意味の無い事だとは思わないのか?」

「ライアン君、君の気持ちは分かる、でもね、僕たちだって悲しいんだよ、認めたく無いんだよ」

「ライアン…」

アレックスは寂しそうな声で彼の名を呟く

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「ライアン!!」

彼は墓に背を向け全力で走った。

現実を受け入れられなかった。

 

こんなの嫌だ。

 

ライアンが悪夢から目を覚ました。その目が写したのは白い天井だった。

 

「また10年前の夢か…」

徐々に動かせるようになってきた腕目をこする。

10年前、ギャラルホルンが正義だと信じ、強くなって守る為この軍へ入隊した。だが今のこのギャラルホルンは正義なのか?

 

決して国に干渉することのないはずのギャラルホルンが国の中に基地を建て、自分達が批判したヒューマンデブリを使いMSを開発。

 

これが正義なのか?

 

彼の拳は弱々しく握り締められた。

 

それから、ある程度体が動くようになっていってリハビリが始まった。

生まれたての小鹿のように足をふらつかせつつもポールを使って歩くところから始め彼の体は元に戻りつつあった。

そんなある日の事、杖を使えば生活に支障はない程度に彼の容態は回復していた。

そしてなんとなく、MS格納庫に訪れた。今のMSハンガーは寂しく見える。今は2機のグレイズと一機のシュバルツクロウしかいなかった。

その夜中のMSハンガーにの一点に光が見えた。シュバルツクロウを整備していた曹長だった。

杖の地面の叩く音に気付いた曹長が敬礼をし下へと降りてきた。

「やぁ、曹長、作業の邪魔して悪いな」

「いえ、二尉こそお体の方大分回復していそうで安心しました」

そして2人は水のボトルを片手にシュバルツクロウの足元の段差になっているところへと腰掛けた。

「寂しくなっちまったな…」

「えぇ…本当に…」

「一尉のグレイズはどこへ?」

「それならこいつに」

曹長は真上のシュバルツクロウを指差した。

「いやこいつはシュバルツクロウだろ」

「シュバルツクロウはコックピット部分からリアクターにかけて太刀が貫通していて使い物にならなかったんです、そこで一尉の残したグレイズとニコイチしたんです」

「一尉の残してくれた物がこいつか…」

「えぇ…こんな物でも形として残るんですね…」

「流石にもうこいつを使う機会はないが…」

「いえ、二尉それが近々ネビロス破壊作戦が極秘裏に遂行されるらしいです」

「何!?どういう事だ!?」

「上の連中はあの大きな機体をあっさり見つけられるとでも思っているのでしょうね、おまけにパイロットが日ヒューマンデブリなので容易に見つかると思っていますよきっと」

「その為のMS整備か」

曹長がボトルを傍に置きポケットに手を突っ込んだ。

「二尉は正しいと思います?」

話題と声色を突然変える。

「何が…?」

「このギャラルホルンが、この基地が、この世界が、ですよ」

「…」

答えられなかった。彼はそれが今まさにわからないから。

「私はギャラルホルンなんて大っ嫌いなんですよ」

曹長は唇を噛み締めた。

「ここに来てからそれはずっと強くなりましたよ…、人をモルモットのように扱い、殺して、上の連中はのうのうと暮して、下の連中はただただあいつらの手足のように扱われて、今回の件で戦死した奴らだってあいつらが勝手に事故死って事にしたんです」

「じゃあ一尉も」

「恐らく…」

「この基地狂ってますよ、こんな基地ない方がマシですよ」

鉄の地面の血がそれを物語っている気がした。

あの時たくさんのヒューマンデブリ、いや人間が死んだ、それをあの時は黙って見ている事しか出来なかった。

だけど本当は…

「駄目だ…」

「二尉?」

「こんなの駄目だ…」

「自分も二尉と同じ気持ちです」

そしてポケットの中で何かを握りしめた。

「俺はさ曹長、守りたいものがあったからこの軍に入った、でもこの基地にいればそれを失ってしまう気がするよ」

あの時自分がアイリーンの息の根を止めてしまうかもしれなかった。2人を守るはずが殺す事になったかもしれない。

この基地にいたら自分の目的が変わってしまう、そんな事は嫌だ。

「二尉、自分実はヒューマンデブリなんですよ」

ポケットから手を覗かせた。

そして腕を捲り痛々しい火傷跡を見せる。

「これ、作業中のドジでやっちゃった事にしてるんですけど実ははこれガキの頃に海賊の奴らにやられたんです、そんなある日ある方に救っていただいたんです」

「ある方?」

「はい、彼は私を買い取って普通に学校にまで行かせてくれました、今はもういないんですけどね」

「そうか…そんな優しい人が世界を変えてくれるのかもな」

「変わるんじゃありません、変えるんです」

彼の腕を裏返し手のひらをライアンの前で広げた。

そこにはただ一つデータチップが置かれていた。

「なんだこれは?」

「これがあれば世界は変わるかもしれません」

ライアンは迷った、このチップは何かヤバイものだと察していた。だが彼はそれを受け取った。

「二尉ならそうすると思いました」

「中見てもいいんだよな?」

「見る時は1人で見てください、絶対ですよ」

そうしてスパナを片手に曹長はシュバルツへの整備へと戻った。

自室へと戻りPCを立ち上げチップを差し込む。

 

「一体なんなんだ?」

モニターにデータが広がる。

「こ、これは…」

5年前NGF計画が始まった頃から今までの動き、この前の機体のデータ、映像第二計画、全てに関して記載されていた。

「こいつをどうしろって言うんだ…」

モニターの前で戦慄した。

極秘裏に動いてきたNGF計画の全貌それが今ライアンの目の前にあるのだから。

「曹長は俺にこんなもの渡して何しろって言うんだ…」

チップをPCから抜きベッドへと腰掛けた。

「まぁいい、明日聞こう…」

そのまま眠りについた。

 

 

 

 

また夢を見た。

 

4年前

 

ライアンはギャラルホルン士官学校へと入学した。父親のコネもあったが学校には余裕で合格した。

何故彼がこの学校に進んだかは言うまでもなくアイリーンが関わってくる。彼はあの逃げ出した日から墓には行ってない。ライアンはアイリーンの死を受け入れていなかったが、この時内心はもう諦めていた。その気持ちを覆いかぶせるように彼女達との約束、兵士

になるという約束で思いを繋ぎ止めていた。

彼はMSパイロットになるために勉強をしてきた。その成果が報われたのか士官学校では好成績を収めたが、周りがそれを親の七光り、コネなど様々な噂が立てられていた。

 

10歳の頃のライアンなら殴りかかっていたかもしれないが今の彼にとって周りの人間などどうでもよかった。

ギャラルホルンという正義の軍で強さを学ぶ。力で守りたいものを守る。そして約束、それだけだった。

その頃からライアンの真下の順位についていたリリィ三尉は彼に追いつこうと努力をしていたのだが、彼は全く興味を示さなかった。

時は流れ座学の授業から実技授業も増えていった。

 

銃の組み立て、cqc、時にはリアクター状況下での通信訓練などもした。

当然MSパイロット志願者の彼のクラスは中古のグレイズ二機を実際の授業に使うことを許されていた。

再び見た光景はその実戦演習の事だった。

 

その日の演習はただグレイズを飛ばすことだけだった。

訓練ではシュミレーターを使わず実機で行うものだった。

グレイズは二機しかない為、2人ずつ交代で出撃をした。

その時、リリィはたまたまライアンと同じ時に出撃をする事になった。

今の彼女の目的はこの男になんでもいいから勝つことだった。

2人に順番が回ってくる。

グレイズに乗り込み消耗した推進剤の供給から始まる。

その時リリィは隣のライアンへの回線を開いた。

「ちょっといいですか?」

「なんだ…」

ライアンは異常がないかモニターで機体の各部の可動チェックをしていた。

「私リリィブラウンって言います、ご存知ないかもしれませんが、私いつも成績はあなたの後ろなんです」

「つまり2位ってこと?」

彼のいかにも自分が一位だと誇張する態度には苛立ちを覚えた。

「はいそうですよ…」

「でそんな2位が何か用か?」

リリィが震える拳でレバーを握りしめた。

「その2位が、この実技試験においてあなたを超えることを宣言します!!」

「あ…そう…」

明らかに無関心な対応に彼女の苛立ちは有頂天に達した。

グレイズの地響きがアスファルトを震えさせる。

バァン!

その大きな音に周りにいた士官候補生がたじろぐ。

二機ともカタパルトに接続し発進シークエンスへと移行する。

前傾姿勢をとり準備完了のハンドサインを送った。端に置かれた赤色のライトが点滅し3回光ったのちライトは緑色の輝きを放つ。

その瞬間、カタパルトが地をこすり火花が舞う。

それに合わせスラスターから青白い焔が吐き出される。

勢いよく飛び立った二機のグレイズは上空へ消えていく。

今回の演習は端的に言えば森を抜けるだけの簡単なものだ。

機体のスラスターがオーバーヒートしないよう、なおかつ低空での滑空が求められた。

ただリリィのライアンへの敵対心がグレイズのペダルを踏み込ませる。

リリィのグレイズはライアン機よりも前に出た。

(よし…)

しかし本人はグレイズに青白い火花が散っていることに全く気づいていなかった。

そのスパークをライアンのグレイズが確認した。

「スラスター腰部に異常…?」

ライアンは通信を開こうとする。

しかしその通信は蹴られた。

「チッ!」

そのままペダルを踏み込み実力行使でリリィのグレイズを止めようとする。

だが、そんなライアンの事情を知らない彼女もまた機体を加速させる。

だがこれ以上機体を加速させると遅からずオーバーヒートする。

それを感じていたライアンもまたさらにペダルを押し込む。

「んググッ」

正面からのGがかかり機体の細部から悲鳴をあげる音がコックピット内に響く。

そんな彼の機体もオーバーヒートする勢いだ。

「止まれよォォォォォ!!」

リリィのグレイズにマニュピレーターを伸ばす。

「こいつ!邪魔するつもり!?」

リリィのグレイズが反転し足でライアンのグレイズを蹴り上げる。

だがその時、無理をした動きをとったリリィのグレイズの背部スラスターは紅い炎を吹き出し黒い煙を巻き上げる。

「え!?爆発!?」

なにも状況がわからないままグレイズの高度は下がっていく。

「クソがッ!!」

ライアンは落ちるグレイズを視界にいれペダルを踏み倒した。

間一髪だった。

ライアンのグレイズはリリィのグレイズを抱きかかえるように受け止めていた。

幸いコックピット周りには目立った外傷もなく、パイロットの無事は見ずとも明らかであった。

しかし両機ともスラスターはもう使い物にならなくなっていた。

二人共やれやれといった顔でコックピットから顔を出す。

「ちょっとなんなの!?」

最初に吠えたのはリリィだった。

「いきなりあんなスピード出して、近づけて危ないじゃない!」

 

「危ない…?そもそも君はちゃんと機体のチェックをしていたのか?出撃前しっかりと機体の状態を中から見ていなかったのではないのか?」

 

「なんですって〜!」

機体から身を乗り出しライアンの機体へと近づく。

「黙って聞いていれば好き勝手言ってくれちゃってさぁ、優等生だからって調子乗ってんじゃないわよ!!」

 

「いつ君が黙ったんだ」

 

「うるさい!」

 

「それに君じゃない、私にはリリィブラウンっていう名前がちゃんとあるんです!」

 

段々面倒になってきたライアンはグレイズのコックピットを閉じようとするがリリィにその手を掴まれる。

「逃げないでよ」

「逃げたんじゃない、この口論には何の意味もないからとりあえず通信が生きているか確認しようとしただけだ」

 

「やっぱり逃げたんじゃない!」

 

頭に血が上っていた、もうなに言ってもダメだろう。

 

その時先程まで太陽の日がさしていた空を雲が覆い、雨がポツンポツンと降り始めた。

 

「雨が降ってきた、機器が濡れてしまうからコックピットを閉めさせろ」

「えっ!?ちょ」

彼女を振り払いコックピットから遠のけハッチを閉めた。

暗くなったコックピットをモニターが照らす。

「被害状況、は…背部スラスター、それとマニュピレーターの動きが若干鈍い、大した問題ではないな、後は通信が生きていれば良いのだが」

本部と連絡すればこの事態はすぐに解決したはずだった。だがそう上手く事は運ばなかった。

 

「ダメか…これはあの女の方のグレイズに頼るしか…」

 

ゴンゴンと雨の音とは違う大きな音が装甲の表面を叩く。

その音を確認するためコックピットのハッチを開く。

「また君かぁ…なんなんだ?」

「その…私もこっちのコックピットの中いれてくれないかな…」

 

「なに言ってるんだ君は、もう一機グレイズがあるだろ!」

 

「それがあっちのグレイズハッチ閉まらないし雨に濡れるてもうなにも動かないし…」

 

「という事はそっちの通信も使えないのか…」

 

「お願い!」

 

必死になっていたのがわかった。

とても先程まで頭に血が上っていたとは信じられん。

「わかったよ、このままだと俺も濡れるしな」

 

「ありがとう!」

 

と言ったは良いもののやはり二人で乗るとコックピットは相当狭く感じる。

ついでに言えば雨に濡れた女と狭い空間に2人っきり、男としては正気を保てるか不安だ。

「手出したらぶっ飛ばすよ」

 

念を押すように言われた。

 

「わかっている、そんな事で退学なんてくらったら洒落にならない」

 

そこから2人は長い沈黙に入った。

ただただ、コックピットには雨音が響くのみ。

「・・・」

「・・・」

この間をなんとかするためにライアンはとにかく何かしていたかった。

だが彼には通信が生き返らないか通信機のONとOFFを繰り返しパチパチ音を立てるだけだった。

「うるっさい!!」

 

久しぶりに人の声を聞いた気がした。

 

「死んでる通信機が生き返るわけないでしょ!!」

 

「す、すまん」

 

「あーもういいから、ライアンくん何か喋ってよ」

 

「何か…?」

 

「そう」

 

こういう時何を喋ればいいものかライアンには知識がなかった。

 

そして考えた末でたのが

「何故軍に志願したんだ、君は」

「そんなに間を溜めてそんな質問するの…?まぁいいわ、教えたげる」

 

リリィは何も写ってないモニターに自分の顔を向けた。

 

「家から逃げてきたのよ、許婚から逃げたかった、ただそれだけ」

 

「君はお嬢様なのか」

 

「やめて、今はただのMSの訓練生」

 

「道理でこんなに綺麗な訳だ、君は」

 

「きっ綺麗!?」

その顔はすぐに赤くなった。

「あぁ、学生時代とかモテただろ、かなり上玉だと思う」

 

「わわわわ私をからかうのもいい加減にしなさい!!、そうだ、あ、あなたの軍に志願した理由は何よ?」

 

「俺…」

脳裏に焼きつく彼女の笑顔

3人の約束

「俺は…この絶対的正義のギャラルホルンで力を手に入れる、全てを守る力を…」

 

リリィにはある言葉が引っかかった。

 

「絶対的正義?」

 

「あぁ…ギャラルホルンが今までこの世界を作ってきた、この戦争のない平和な世界はギャラルホルンの正義によって成されている」

 

「確かに今のこの世界を作ったのはギャラルホルンよ、でもね、私には本当に平和かわからないわ」

 

「どういうことだ?」

 

「確かに戦争が起こっていない、でも火星には飢餓に苦しんで死んでいる子供がたくさんいるの、それでも平和って言える?それが正義なのかなって」

 

「それは…」

 

「私が言いたいのはさ、そう簡単に正義ってのは決められるものじゃないんじゃないかって事、しっかり自分の目で確認することが必要ってことよそれが"悪"って可能性だってあるんだから」

 

その時光が差した。

 

「正義は簡単には決められない…か」

 

ベッドから起き上がったライアンはある決意をした。

 

彼はこれまでギャラルホルンの正義を信じてきた。

 

ずっとギャラルホルンは正義だと揺らぐ事はないと確信していた。

しかしそれは違った。

上の奴らが自分達の為に宇宙海賊と裏で取引をしたくさんの人間を殺した。

その光景を見てギャラルホルンは正義だともう言えない。

少なくともこの基地ドゥッペル基地は間違っている。

「ライアン二尉!具合はどうですか?」

 

リリィ三尉の元気な声が耳を通り抜けた。

 

「うん、いい感じだ、この調子ならもう大丈夫だろう」

 

「そう、良かった」

 

安堵して笑顔を浮かべる彼女。

 

「正義はそう簡単に決められない…か」

 

「へ?」

 

「昔お前が言ってた言葉だ、覚えてる?」

 

「えぇ、一応」

 

「全員が悪って事はないんだよな…」

 

「あの…熱でもあるんですか?」

 

「いや、至って冷静のつもり」

 

「ならいいんですけど」

 

「悪い、俺これから行くところあるから、」

 

そう言い放ち彼はある場所へ向かった。

この時間彼ならここにいるはずだとそこに足を伸ばした。

格納庫の重いシャッターを自分の全体重を乗せ動かす。

 

突如顔の左側から差し込んだ光に曹長も顔を傾ける。

 

「…来たぜ」

 

「ライアン二尉…?どうしてここへ」

 

「こいつについて色々聞きたいことがあるんだ」

 

そう言いライアンはポケットから曹長から渡されたメモリーカードを取り出した。

 

「場所、変えましょう」

 

曹長の顔は一気に緊張した趣になった。

格納庫の裏で二人は背中のトタンに自分の体重を預ける。

「で、何か、まさか僕を殺しに?」

 

「まさか、お前がしたい事は大体想像つく、こいつを流出させよってんだろ、全世界…いや宇宙にも、か?」

 

「はい大体そんな感じです」

 

「ならその役を何故俺に?」

 

「私たちの目的はあなたの仰った通りそれを流出させる事」

 

「達…?」

 

ライアンは首を傾げた。

 

「えぇ、私はある方の指示で動いています」

 

「それまでずっとそいつの命令に従ってたっていうのか」

 

「はい、ですがね、私はその方に買われて良かったと思ってます」

 

「なんでだ、自由なんてないだろうに」

 

「僕はもともとヒューマンデブリなんです」

 

「ッ!?」

ライアンは絶句した。

「あのままヒューマンデブリとして働いていたらどうなっていた事か…本当に…感謝しています、だからあの方の為にもこれだけはやらねばならないんです」

 

「そいつの目的は?」

 

「彼はギャラルホルンを潰し、ヒューマンデブリもない、人が平等でいられる世界を作ろうとしているんです」

 

「平等…」

 

「そこにはライアン二尉の…ライアンさんの助けも必要なんです!力になって貰えませんか」

 

曹長は頭を下げた。

 

「その話聞くとなんかギャラルホルンを真っ向から潰す…みたいな話に聞こえるが」

 

「そうなると思います…」

 

「やめた」

 

「え?」

 

「やめたって言ったんだ」

 

「どうして…?」

 

「俺は死にたくねぇよ」

 

「死ぬって決まったわけじゃ…」

 

「勝てるわけねぇだろうが!ギャラルホルンに!!俺は死にたくもねぇし戦いたくもねぇ!!」

 

「アイリーンさんは戦うつもりですよ」

 

「なんでお前がアイリーンを知っている!?」

 

「今の私達の方で保護しています、彼女は戦うつもりなんですよ」

 

「戦うってなにで?どこと?」

 

「MS…ガンダムネビロスで…あなたのいるギャラルホルンと」

 

「ッ…!」

 

下唇を噛み堪える。

 

「いいんですか、敵になっても?いいんですか、このままで?」

 

「だが俺はギャラルホルンを裏切る訳に…」

 

「いつまでそんな事にこだわってるんだよ!」

曹長は突然強い口ぶりに変わる。

そのままライアンの襟を掴み上げた。

「あの方も君と彼女が戦うこともあの方が君と戦うことも望んでなんかないんだよ!!」

 

「グッ!」

力は強まっていく。

「あなたはここにいるべき人間ではないんだ!!あの方と彼女の近くにいるべき人だッ!!」

 

「離せよッ!!!」

曹長の手を振り払う。

その勢いで曹長は地面に倒れ伏した。

「わかったよ、誰だかしらねぇがそいつの口車に乗ってやるよ!アイリーンの側に居てやるよ!俺のやりたいようにやってやるよ!!」

 

「ライアンさん…やってくれるんですね」

 

「ああ!やってやるさ !」

 

格納庫裏での二人の密会はまだ続いた。

 

 

 

 

 

彼らはお互いの感情をぶつけ合い、それにより疲弊していた。

 

彼らの興奮が収まるまで少し時間が経ってからライアンの口が開いた。

 

「ところで具体的な事なにすればいいのか聞いてないんだが」

 

「あ、それでしたらもう既に作戦があります」

 

そうして曹長はは周囲に人がいないか辺りを見回し、確認できたところで抑えた声でしゃべり始めた。

 

「まずライアンさんにはこのデータを持ってシュバルツクロウでここから脱出して下さい」

 

「何故シュバルツクロウでいく必要があるんだ?」

 

「2つほど理由があります」

そうして人差し指を天に向けた。

「1つ、今橋が壊れているのでMSでなければ本土に渡れません」

 

「ちょっと待て本土に行かなきゃならんのか?」

 

「ええまぁそこで落ち合う約束ですから」

そして中指も天に向けた。

「そして2つ、シュバルツクロウにもNGF計画のデータが残っているので一応バックアップ的な感じで持って行って貰いたいです」

「お前はどうする?」

 

「私はもう少し調べなければならない事があるので、だからできるだけライアンさんには騒ぎをできるだけ大きくして皆の気を引きつけておいてください」

 

「MSで出るだけで基地は大パニックだよ」

 

「確かに」

 

2人の笑い声が空に響く。

ライアンも久しぶりに声をあげて笑った。

彼はあの日から一度も笑えてなかった事を実感した、その顔は少し寂しそうに見えた。

「ところでお前の言ってるあの方って誰?」

 

「それはここでは言えません、最重要機密事項ですから、でも心配する事はないですよ」

 

「何故?」

 

「さぁ?」

その余裕をどこかに隠していそうな顔に少しイラッとした。

「さて…じゃあここで決行日時、時間を教えておきます、決行は2日後深夜0:00時です」

 

「で落ち合う場所っていうのは?」

 

「その点に関してはシュバルツクロウに入っています」

 

「さて…では私はシュバルツの整備に戻ります、2日後の為にね」

 

ああ…と返事をして、その場に立ち尽くした。

 

怖い

 

戦いたくない

 

死にたくない

 

ネガティヴな思考が渦巻く中もっとも輝いていた大きな思考があった。

 

アイリーンに会いたい

 

彼が願うのはただそれだけだった。

 

彼自身も2日後の準備に備える為に寮に帰り必要最低限の物を準備する。

 

その途中の廊下

 

リリィ三尉が向かいから歩いてくる。

 

「二尉どこに行ってたんですか?」

彼女のなにも知らない瞳はしっかりとライアンを見つめていた。

ギャラルホルンを裏切る事になれば彼女も裏切る事になる。

そんな事はわかっている。

ただそれは頭の中での話だった。

彼女を撃つことになった時ライアンは彼女を打てる自信はない。

「どうしたんですか?二尉?」

 

下を向いたライアンの顔を覗いた。

 

「リリィ…一つ頼みがある」

 

「なんです?」

 

これを言うには躊躇した。

彼女は彼の中で大事な友人だった。それにこんな事を言うのはとても心が苦しくなるだろう。だがこれはきっと彼女の為になる。

「もう俺に関わらないでくれ」

 

「へ?、どうして?なにがあったの?」

 

「君には言えない」

 

「どうして!?私に言ってくれない理由を教えてよ!」

 

「ダメだ」

 

そして一呼吸置く。あと一言。

 

「お前は俺みたいな糞みたいな人間に付き合う必要はないんだよ、俺は一人で突っ走ってガンダム逃して、シュバルツぶっ壊して、挙げ句の果てにたくさんの人が死んだ、一尉が死んだのだって未熟な俺のせいだ」

 

知らぬ間に多くの事をしゃべっていた

 

「そんな事は…」

 

「あの時俺は死んでいればよかっ…」

 

パシン!

 

左頬を強く叩かれた。

ヒリヒリ痛む。恐らく手形がついただろう。

「ふざけないでよ…」

小声で呟く。

「ふざけないでよッ!!!」

その声に周りの兵たちの視線を集めた。

「死んだほうがよかったなんて誰も思わない!、隊長だって、ミハエルだって、私だって…」

 

彼女の頬に一滴の水滴が流れた。

 

「私は…ライアンが起きた時すっごい嬉しかった、寝てたときすっごい不安だったんだよ…だからそんな悲しいこと言わないでよ…」

 

ライアンはただただ打たれた頬をさするだけだった。

 

「今の二尉…嫌いです」

 

彼女はライアンに顔を隠すようにして彼を通り過ぎる。

 

「何はともあれ、目標達成か…」

 

彼女に打たれた頬がひどく痛む。

 

 

 

 

時間の流れというものは早い

リリィ三尉に頬をぶたれた日からそう2日が経った。

ついに彼と曹長の計画が始動する。

 

いつものようにMSの操縦練習に見せかけての脱出。

 

その際、グレイズ達は整備不良で出せなくし、恐らくMW数機の追撃となるだろう。

だが数キロメートル逃げきったらネビロスが破壊した橋がある。

そこを飛び越えてしまえばライアンの勝ち、そこからはあらかじめ曹長がシュバルツにインプットしたデータをもとに合流ポイントへ向かう。

至って簡単な任務。

 

覚悟はできた、別れもした。

 

準備は万全。

 

落ち着く時間が欲しくはあったが時間は少しも待ってくれない。

 

彼はシュバルツに乗り込んだ。

 

曹長がいつもと変わらない声で「今日も頼みますね!」と彼に向け言葉を送る。

 

他の整備兵はグレイズ二機の整備に当たっていた。

 

曹長から通信が入る。

 

「任務開始30秒前…」

そこから10秒沈黙が続く。

それからして曹長の方から

「頼みます…」

の一言を受け取った。

10

9

8

7

6

緊張で足は震えている。

5…

4…

3…

2…

1…

「ゼロッ!!」

シュバルツのスラスターが真下に向けられ機体をゆっくり浮かし、倉庫の屋根を突き破る。

 

周りの整備兵が狼狽えている隙に曹長は懐に仕込まれていた銃を整備兵達に向け発砲する。

 

1秒でも長くシュバルツの脱出時間を確保するためである。

 

もっとも、シュバルツが突き破った屋根の破片が雨のように降っているこの状況ではその必要もあまりないのかも知れないが。

 

シュバルツが上空に舞い上がり空へと消えていった。

 

その直後2人のテストパイロットが格納庫へと到着した。

 

「シュバルツが脱走ってマジ?」

 

ミハエルはこの状況になっても緊張感が微塵んも感じられない喋りをする。

 

だがリリィ三尉はそれに比べ顔を曇らせている。

 

片方のグレイズは地上用ブースターへの換装は既に終わっていた。

だがもう一つのグレイズは整備中でスラスターも何もつけていない。

周りの整備兵が言うにはまともに使えるのはグレイズ03、つまりミハエルの愛機しか使えなかった。

 

「まずいッ!」

 

曹長が銃を構えた時、倉庫に数人の兵士が入り全ての銃のスコープが彼を狙っていた。

 

数発の銃声が発せられた後、赤い血潮が噴き出す。

 

「クッソォ…グレイズを一機出されるとは…」

 

彼を狙った銃弾は急は外れていたものの四肢は完全に動かなくなっていた。

 

「まだブチ殺すんじゃあネェぞ!、こいつには拷問が待っているからな」

 

曹長は激痛によりそこで意識を失った。

 

「ちょっと待ってよ…どういうこと…?」

 

あたりを見回す。

ライアンの姿は当然見当たらない。

「嘘…」

 

絶句した。あれだけギャラルホルンに誓っていたライアンがこんな事をしたことに驚きを隠せなかった。

 

ーー

地上用ブースターは以前のグレイズに使われていたブースターより速度がかなり上がっている。

その速度に復旧されてないコンクリートは砂埃を巻き上げ木々揺らす。

 

「ライアン二尉…じゃないっすヨネ…」

 

シュバルツのパイロットがそうでない事を祈るばかり。

 

だがこの機動、完全に使い慣れている者の動きだ。

 

恐る恐るシュバルツとの通信を開く。

 

「そこのシュバルツ止まれよ!じゃないと発砲許可が下りるッスヨ!」

 

「…」

 

黙ったまま、シュバルツは速度を上げる。

本部からの連絡

兵器使用自由シュバルツを止めろ。最悪撃破しても構わない。

との報告だった。

その連絡を受け取り、グレイズは肩のバズーカのトリガーを持つ。

 

照準は目の前のシュバルツ。

 

ロックオンから逃れようとシュバルツは常人離れした機動を見せつける。

 

その機動でもはや誰が乗っているのか一目瞭然。

 

「撃ちますよ!!!ライアン二尉ィッ!!」

 

その声は整備兵達の反対を押し切って乗ったリリィのグレイズにも届いていた

 

「ライアン…」

 

グレイズ02も大型のライフルを片手に走り出した。

〜〜

バズーカの弾はライフルに比べ弾速が遅く見切るのは簡単である。

 

またライアンの操縦技術は彼を凌駕する、故にその程度の攻撃なんてことなかった。

 

「クッソォ…クッソォ…クッソォ…クッソォ…!」

 

苛立ちと焦りがミハエルの心を埋め尽くし冷静さを奪う。

 

道の真ん中でグレイズ02は二機を捕捉し。

一本道であるが故スコープで充分狙えた。

「ライアン二尉ィッ!、なんでこんなこと…答えろつってんだろろぉがあああああああああああああ!!!!!」

 

怒りーー。

 

彼は怒りに身を任せ機体を操っている。

 

「答えろ答えろォォ答えろォォォ答えろォォォォォ!!」

 

シュバルツのコックピット内に怒りの声が響く。

 

ライアンは通信に応じることにした。

ライアン自身この基地を出る前にここで彼と話したかった。

「ミハエル、上達したな」

 

「やっぱ、二尉ナンスネ…」

 

「あぁ…」

彼の狂った声に怯えてしまう。

威嚇で足が竦む。

 

「ナンデ…ナンデぇぇぇぇぇ!!!!」

 

「教えてやるよミハエルッ!!俺は自分の信じる正義がここにあると思ったからここに来たんだ、でもなこの基地で起きたことは、ここでの出来事は絶対に正義じゃない!!、俺はここに居たくない!!」

 

「自分勝手な!」

 

「ごもっともだぜ!」

 

この通信は2人だけにしか聞こえている訳じゃない。

 

グレイズ02は確かにシュバルツを狙っていた。

 

「ライアン…あなたは…」

 

軍規と私情

 

どちらを優先するか。

軍規を優先するならシュバルツ

私情ならグレイズ

このどちらかへ発砲で迷っていた。

普通ならシュバルツへ迷わず撃つだろう。

だが、彼への気持ち…彼の意思…彼との記憶

これらがリリィを惑わす。

「ーーーッ!」

答えは決まった。

大型ライフルがはなった銃弾はグレイズの大型の地上用ブースターへと直撃した。

 

「リリィ…三尉…ッ!?」

 

グレイズはアスファルトの大地へと崩れ落ちる。

 

その間にシュバルツは橋を越え、基地からの脱出へと成功したのだった。

 

「ライアン…さようなら」

 

彼女は悟った。もう会う事はないだろうと。

 

彼女の頬を涙が濡らした。

 

 

 

 

 

ドゥッペル基地の上空、大型の輸送機が通過する。

その中では優雅に下の景色を楽しみながら、ワインの味を嗜む男の姿、そしてその後ろには腕を後ろに組み佇む少年の姿があった。

「ン…やはりワインはアフリカユニオンのものが一番美味い…」

そう言って小さいテーブルの上へ置く。

「だが…少し下のカラスがうるさいなぁ…」

モニターに映るエイハブウェーブの反応を横目につまみのチーズを口に入れる。

 

「僕が片付けてきましょうか?」

後ろに佇んでいた男が提案する。

「そうか頼んだぞ我が息子…"ライエン・クロウ"」

 

「はい、仰せのままに…父さん…」

その男は微笑した。

シュバルツは基地を抜け今は基地を囲む森の突っ切り合流ポイントへ向かう。

 

行っても行っても同じような景色、自分がどこにいるのか、どこから来たのか見失う。

 

だが合流ポイントは着々と迫ってきている。

恐らくこれで間違っていないだろう。

「あと10分あれば着くな」

"ただし何も無ければ"の話だが。

 

上空ではうつ伏せにされた機体に少年が乗り込み待機する。

 

そして輸送機の腹が開くとMSの姿が見える。

 

「リアクター機動」

 

その機体のカメラが点灯する。

 

「敵の位置確認」

 

頭部が開きセンサーが爬虫類のようにギョロギョロ動きシュバルツを特定する。

 

「あれが例のシュバルツクロウかぁ…何故ここにいるのか…?」

 

そう首を傾げたのも束の間、彼はレバーを掴む。

 

「まぁなんでもいいか」

 

左側に見えるランプが点灯。

赤い光から緑色へと発光した。

出撃の合図。

「シュバルベグレイズ、ライエン・クロウ出るぞ」

 

肩と足を止めていたストッパーが解除され遥か上空から一機のMSが降下する。

 

「1000…900…750…」

 

すごい速さで降下していく。

重力の力を強く実感する。

太腿に装備されたスラスターが姿勢制御を取り、安定したところでシュバルツクロウを射程圏内に捉える。

 

だが、それは向こうも同じ。

対ナノラミネートライフルは既にエイハブウェーブを確認した後すぐに発射した。

「先手必勝って奴ですか」

 

緑色の機体のシュバルベグレイズはバックパックと足のスラスターを使いその弾丸を交わし、そのままシュバルツへと左腕のアンカーを射出した。

 

急遽飛び出たアンカーに回避行動が追いつかずアンカーに腕を挟まれる。

 

「捕まった!?」

 

「あー、あー聞こえますか?」

 

「!?」

 

「お聞こえてるっぽいね、悪いけど所属と名前言ってもらえるかな」

 

「俺には所属なんてない!」

 

そう言ってシュバルベのアンカーを振りほどそうとする。

 

がしっかりと食い込んだアンカーはシュバルツからは離れない。

 

「しょうがないなぁ、じゃあ殺すか」

 

シュバルベのスラスターが全力ブーストをかけ距離を詰めようとした。

 

その時一瞬の閃光がワイヤーを切った。

 

「何だ!?」

「なぁに?」

そこから通信が入る。

それは予想外の事だった。

「ライアン!!大丈夫!?」

 

「アイリーン!?何故ここに!?」

 

2人のこの会話は筒抜けだった。

 

「いきなり乱入とは恐れ入ったよ、しかもパイロットが女性で機体名はガンダムネビロス…ねぇ…」

だがそんなことは些細なことだった。

「それより…」

 

少年は狂気の笑顔でシュバルツを見つめる。

 

「会いたかったよぉ、お義兄さん!」

 

そう言って腰のアックスを引き抜きシュバルツへと襲いかかる。

 

先程まで晴れ渡っていた空は雲で覆われていた。

 

 

 

 

 

「ライアン!」

 

ネビロスは背部の滑空砲を展開し構える。

が二機の距離は近くライアンに当てる可能性もあった。

「これだけ近づけば味方は援護できないみたいだねぇ!」

 

「ッー、こいつ!!」

 

「ライアン兄さん、僕はあなたと話がしたかったんだ」

 

「兄さん!?、ふざけんな、俺に弟などいない!」

 

シュバルツは先程咄嗟に引き抜いた大剣でシュバルベを振り払う。

 

「おっと、危ない」

 

「どこの誰だか知らんが邪魔をするようなら容赦はしない」

 

そう言うとシュバルツは右手のライフルをシュバルベへと向ける。

 

「容赦…?」

 

「そうだ、こちらには二機MSがいるんだ、お前に俺たちが殺れるとでも?」

 

ネビロスも盾から太刀を引き抜きシュバルベへ向ける。

 

「ガンダムが一機とグレイズの改良型が一機かぁ…普通なら無理だろうね」

 

"普通なら"

 

この言葉が耳に引っ掛かる。

 

しかし考える暇は与えなかった。

 

背部のスラスターから放たれた青色の炎が空気を焼いた。

 

さらに腰のスラスターでも加速をかける。

 

「早い!!」

 

ネビロスが滑空砲を放つ。だがその速さに阿頼耶識でさえ対抗できない。

 

「その程度ですかぁ!?」

 

シュバルベはライフルを連射させるがネビロスのナノラミネートアーマーには傷がつかない。

 

「黙って見てると思うなよ!」

 

ライアンはトリガーを引く。

 

シュバルツから一発の銃弾が放たれた。この一撃が当たればきっと奴を機能停止に陥れただろう。

 

「そんなものォ!」

 

シュバルベに装備されたアンカーを射出し振動弾に直撃させ、弾く。

 

「ーーッ!?」

 

アンカーは直進しシュバルツの細い腰をがっしりと固定する。

 

「捕まった!?」

 

「ソォラァ!!」

 

アンカーのワイヤーを掴みシュバルツの機体は浮く。

 

そして遠心力が働くまま、ネビロスの方へと機体は投げられる。

 

それによりネビロスはシュバルツの下敷きになってしまった。

 

「まずは兄さんからだぁ!!」

 

アックスを構えたシュバルベが二機に接近する。

 

「ライアン、どいて!!」

 

ネビロスがシュバルツをどかし自分の機体の自由を取り戻す。

 

ーが時既に遅し

 

阿頼耶識の性能を持ってしても機体は攻撃を躱しきれずアックスの直撃を受ける。

 

しかし間一髪、急所からは外れアックスは機体の右肩に切り込んでいた。

 

「アイリーン!!」

 

シュバルツが数発発砲した。

 

ネビロスの肩からアックスを引き抜き蹴飛ばしたあと、シュバルベはシュバルツとの交戦に入った。

 

だがシュバルベは弾の飛んでくる方へ機体を傾けたのだ。

 

躱しながら猛スピードで距離を詰められる。

 

「チッ!!」

 

シュバルツは大剣を持ち直しシュバルベの方へと機体を傾ける。

 

アックスと大剣がぶつかり合う。

 

「兄さんやるねぇ…」

 

「だから俺には弟なんて…」

 

「兄さんが僕の存在を知る訳ないよ」

 

「何言ってんだよこいつはァ!」

 

大剣を突き放しもう一度刃へ当てる。この時押し付けるようにも見えた。

 

「だってアルグレー父さんは君のいない間に僕を買ったんだから!!」

 

「買った!?」

 

「それにね、アルグレー父さんは君みたいな息子はいらないとも言ったんだ」

 

「知るか!そんなもん!!」

 

シュバルツの大剣は重心を利用し様々な方向から剣戟をする。

 

しかしそのどれもがはるかに小さいアックスにいなされる。

 

「だからねぇ、兄さん…僕が父さんの為にーー ー " 君 を 殺 す " 」

 

 

 

 

 

"殺す"

 

ライアンの脳裏に映る一尉の最期、断末魔、血、すべてのビジョンがトラウマとなって現れた。

 

「動きが止まったねぇ!」

 

「させない!!」

 

ネビロスが滑空砲を放つ。

 

「うるさいなぁ」

 

この弾もアックスで弾く。

 

この状況にアイリーンもライアンへ通信する。

 

「ライアン!大丈夫!?返事して!!」

 

…れる…

 

「何?ライアン」

 

「ころ…される…俺が…」

 

「ライ…アン…?」

 

「死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない」

 

「しっかりして!!ライアン!!」

 

アイリーンの必死の声にも応じない。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

手に持ったライフルで当たりを撃つ。

弾がなくなるまでずっと打ち続けた。

「あーあ、ダメだこりゃ」

 

「くるなぁ!くるなぁ!」

 

ライアンに見えていたのはMSではなく黒い影のような抽象的な何かが視界を覆い尽くすのだ。

 

弾切れを起こしたライフルを捨て両手に大剣を装備し黒い闇を払うように振り回した。

 

「死にたくない死にたくない死にたくない死にたくないんだ!!!」

 

「残念だけど死んでもらうよ、兄さん」

 

「お前も俺を殺すのか!!」

 

腰のスラスターを完全解放しシュバルベへと突進する。

互いの機体に重い衝撃がのしかかる。

肩で打ちつけられたシュバルベは体制を崩す。

そこにここぞとばかりに二刀の大剣が降りかかる。

「ッー、くッ!!」

 

苦しさの中から出た声と共に機体をスラスターで反転させ直撃を防ぐが、片腕を持ってかれる。

 

「コロス…イキル…コロス…」

 

錯乱状態で言葉は片言になっていた。

 

ここで通信が入る。

「アイリーン!!思いっきりライアンのコックピットをブン殴れ!!」

「えっ、アレックス!?、どこ!?」

 

「下だよ!!」

 

そこにはジープに乗った男たちがランチャーを持って構えていた。

 

「殴ったらライアンは…」

 

「リアクターは2基しか稼働させてないから安心しろ死にはしない!!」

 

「信じるよ…」

 

ネビロスの拳はシュバルベを追おうとするシュバルツに直撃した。

 

外的損傷は見られないがしばらくするとシュバルツの動きは止まった。

 

「んん!?仲間割れかなぁ?」

 

「アイリーン!ライアン持って飛べ!!」

 

「えっ!?わかった!」

 

アレックスの構えたランチャーのスコープにはシュバルベが入っていた。

 

「FIRE!!」

 

放たれたランチャーは機体に当たることなく爆発した。

がそれと同時に銀色の粒があたりの森に降り注ぐ。

「ナノラミネートチャフか…」

 

「お前ら!!アイリーン!!ずらかるぞ!!」

 

ジープは煙に消え、MSはレーダーから消える。

 

「失敗かぁ…」

 

機体はただその場で立ち尽くした。

 

上空を飛んでいた輸送機がドゥッペル基地の真上で着陸態勢にはいる。

 

中破したシュバルベグレイズを回収した後このドゥッペル基地に監査に来たのだ。

もっともその途中にシュバルツクロウを見たのは偶然であったのだが。

長い長い滑走路へと輸送機が着陸する。

 

そして基地司令自らもてなした。

 

「アルグレー 一佐、遠いところわざわざ出向いて下さりありがとうございます」

 

彼へ敬礼をする。

 

「なぁに私の方から頼んだのだ、君がどうこういう問題ではない、それに統制局から監査局に移って初めての司令なんだ、まぁなんだ、よろしく頼むよ」

 

「ハッ!」

 

基地司令も頭が上がらない様子だ。

 

「ところで…」

 

アルグレーは辺りを見回す。

 

「ボロボロだが何かあったのかい?」

 

「いえ…少し事故が…」

 

「ほう…、ここはいわば秘密基地なのですから決してバレないようにして下さい」

 

MSが二機も脱走したなど言えるはずがない。

 

もちろん脱走した二機に関しては監査局に情報が漏れていた。

 

基地本部の客室へとアルグレー他付き添いを通した。

 

「長旅お疲れでしょう、何か飲みますか?」

 

「いえ、結構」

 

そうしていきなり話題を切り出す。

 

「NGF計画…どうなったんですか?」

 

司令の顔は青ざめた。

 

「何の…話でしょうか…」

 

「知ってますよ、統制局と組んで宇宙海賊取引、さらに政治家にも金を渡していたと…聞きましたが?」

 

「いえ…そんな事は…」

 

「ほう…シラを切るわけですか…それなら…」

 

パチン!と指を鳴らし後ろで控えていたライエンがアルグレーに数枚の写真を渡した。

 

「こちらは何ですかね?」

 

裏返して司令にはっきりと見せた。

 

それは先ほどシュバルベが交戦した時に撮ったものだ。

 

「こちらの灰色の機体がNGF計画の一号機、黒いのがシュバルツクロウ…で間違いないですかね?」

 

「こ、これを…どこで…」

 

「先ほど、私の息子がこいつらに襲われましてね…、少しでも情報が欲しいのですよ、ただこの辺でMSを製造しているのはこの基地のみ…」

 

机を人差し指で数回たたいた後

「本当のことを話してくれませんかねぇ…あなた方だって海賊にNGF計画の機体を渡さなければならないのでしょう?」

「わかり…ました…」

 

結果一番恐れていた監査局へ情報を渡すことになってしまった。

 

ことの顛末、NGF計画自体3年前から始動していたことなど洗いざらい全て。

 

「ほうほう…なかなか信じられないことばかり起きていますねぇ…」

 

するとアルグレーはポケットから葉巻を出して日をつけ一呼吸おいた後こう言い放った。

 

「統制局ではなく監査局と組みませんか?」

 

木目の天井、基地より少し硬いベッドいつもよりライアンはさらに違和感を覚えて起床する。

 

 

 

 

 

「ここは?」

 

自分の覚えている最後の記憶を探ってみる。

自分で覚えていたのは死ぬ直前の感覚を覚えパニックになり…そこからは覚えていなかった。

体を動かそうとするも少しまだ傷が痛む。

 

そして真横の小さいテーブルと椅子にはアイリーンが腰かけていた。

しかし彼女は眠っていた。

それでいてこの男の目を釘付けにする。

無意識に彼女に手を伸ばそうとした。

キィィ…

 

扉の開く音が聞こえた。

恐る恐る後ろを振り向くとそこにはある男が立っていた。

「あのーあなたは…?」

 

初対面の人と接するように話した。

 

「あなたって…プッ…クスッ…」

 

男は失笑した。

 

「え…いや…あのー」

 

「なにキョドッてんだライアン、俺だよ、アレックスバスラー!」

 

「アレックス…」

 

その声を聞くのもアイリーンと同じくらい聞いていないだろう。

 

「アレックス…なのか」

 

「さっきからそう言ってる」

 

ライアンの顔は笑みに満ちた。

 

「心配したぜ、あの後全然会えないからどうなったのか心配で…」

 

あの後というのはバスラー家とクロウ家で墓参りに行った時のことである。

 

「まぁ、なんだ…色々あってな」

 

「ふーん、まぁいいか、でなんだってお前がこんなところに、てかここどこ?」

 

「ここは俺の家…いや拠点かな?」

 

「拠点…?」

 

「ああ、ここは俺がギャラルホルンを潰すための拠点…」

 

強く握られた拳がそれを物語っていた。

 

「ちょっと待ってどういうことだ…」

 

「わかった、ゆっくり話そう」

 

昔、あの墓に行った後にアレックスの親はもう一度取材をした。

彼の父は報道記者で各地を駆け巡っていた。それが息子の友ならば尚のこと。

そして彼は調べるうちにある真理に気づいた。それはギャラルホルンが裏で取引を行っているということ。

 

政治家に金を渡し裏で政治家を操る人達が現れた事に気づいたのだ。

 

彼は真の報道をするため各方面へ記事を公開する予定だった。

 

しかしそれはとあるギャラルホルンの男により阻止され彼の父はこの世を絶った。

 

それから彼の屋敷にもギャラルホルンは攻め入り虐殺を始めた。母を始め多くの人が殺され、何人かの使用人によって彼の命は救われたが彼は帰るべき場所も愛してくれた人も失った。

 

彼の父はただ、真実を伝えようとしただけだった。それなのに力でねじ伏せられたのだ。

彼はその日復讐を決意し皆の前から姿を消すことになった。

アイリーンもアレックスももう帰るべき場所はなくなっていた。今やここが唯一の場所なのだ。

 

「知らなかった…そんな事が…」

 

「なに、気にすることでもないさ」

 

そう言ってコーヒーをライアンに渡しサンキュと一言言って受け取る。

 

「実はヒューマンデブリを人間に戻す社会にするなんて言ってるけど本当は俺の復讐でもあるんだ、それにあの時お前を読んだのも本当は捕らえて情報を聞き出す為だった、本当にすまない…」

 

「いいんだよ、そんな事は」

 

「そうか、ありがとう…」

 

それでと言って更に重たい口を開く

 

「お前も一緒に戦ってくれないか」

 

瞬間ーあの時、シュバルベグレイズがフラッシュバックされてくる。

 

その体は震えていた。息も荒い。

 

「大丈夫か!?ライアン!」

 

そしてライアンは呟いた

 

「ごめん…多分俺には…戦えない…」

 




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