機動戦士ガンダム鉄血のオルフェンズ PD321Teufels Speicher Ⅰ   作:YASU79FP

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翻る翼

 

その知らせがアレックスの元に届いたのは2日経ってからの事だった。

 

「屋敷が焼かれた!?」

 

受話器を強く握る。

携帯電話で話している相手にも彼の驚愕した声が感じられる。

 

「はい、アレックス様…屋敷にいたほとんどの者が焼死体となって庭に積み上げてあります」

 

「ーー!?」

声にもならない声だった。怒りと悲しみが混在する感情でもはや理性まで飛んでいた。

「クソがクソがクソがクソがクソがクソがぁ!!!!」

 

「落ち着いてくださいアレックス様!」

 

「これが落ち着いていられるかよ!!」

 

「シュバルツクロウとライアンクロウの姿がないのです!」

 

その言葉を聞き、ようやく話が頭に入ってくる。

 

「シュバルツとライアンがいない!?」

 

「はい、ですが脱出した形跡があり、恐らく彼は生きているかと…」

 

「ライアンは生きているんだな?」

 

「だと思われます」

 

少し安堵の声を漏らすと相手にはまた何か異常があったら知らせろと伝え電話を切った。

そして電話を切るや否や頭を椅子に抱え座る。

 

そして自分の机に握り拳を強く叩きつける。

どこにもぶつけようのない怒りは痛みとなってそして悲しみへと変わっていく。

 

顔は涙でしわくちゃだった。

こんな姿は自室であるからこそ晒すことができる。

 

しかしそこにドアを叩く音が部屋の中に響く。

 

咄嗟に顔を拭き、"入れ"と指示を出す。

 

「大丈夫ですか?アレックス?」

そう声をかけた女性はまだ一歳にも満たない子どもを抱きかかえていた。

 

「エリカ…来ていたのか…」

 

「えぇ…貴方に会ったらこの子も泣き止みましたよ…」

 

「フッ…人の気も知らないで気持ち良さそうに寝やがって…」

 

そう言ってアレックスは子供の頬を人差し指で軽く突く。

 

「なにか…あったみたいですね…」

 

「お前が気にすることではないさ」

 

「でも…」

 

「心配するなよ、お前はその子だけを守ってくれるだけで…それだけでいい」

 

「でも私の前でくらい弱音吐いてくれてもいいのですよ?」

 

「子供の前でそんなことできるかよ」

 

その時彼に穏やかな時間が流れた。

だが、突然騒音が屋敷の近くで響く。

ガタガタと窓が震え、周囲の通信機器が砂嵐を写していた。

 

「これは…エイハブウェーブ!?」

アレックスが窓へと走りガラスの戸を開け身を乗り出し空を見上げる。

 

上空にある黒い影。

 

「シュバルツ…クロウ…!?」

 

黒い影はそのまま彼の真上を通り奥の庭へと着地をした。

 

「ー!少し見てくる!!」

 

そのまま彼は嫁と子を置きざりに庭へと向かう。

階段を駆け下り中庭へとつながる大きな扉をこじ開ける。

 

扉を開けた瞬間飛び込んでくるのはえぐれた土に舞い上がった花がひらひらと舞い降り、その中心にはシュバルツクロウが直立していた。

 

その幻想的な風景一時的に心を奪われる。

 

「ーー!そうだライアン!!無事かぁ!?」

 

シュバルツクロウへと駆け寄る。着との衝撃によって耕された土は彼のスーツを汚した。

 

近寄っても機体はただただ立っているだけだった。

 

「チッ、なにか反応しやがれッ!」

 

その声にようやく答えたかの如くシュバルツクロウが立膝を立て屈む。

18mの巨体が動く度大きな風が巻き起こりアレックスも思わず立ち止まって両腕を顔の前にバツの形で突き出し自らの目を土埃から守る。

 

その風が収まった後再び彼の機体へ走り出す。

 

だらんと垂れた腕によじ登るように駆け上がっていく。

コックピットハッチの前に立ち手動でハッチを開けた。

 

中で蹲っていたのは間違いなくライアンだった。

 

「ライアン!大丈夫か!?」

 

ライアンは返事をしなかった。

何も話さない事が、一層不安を引き立てる。アレックスはその焦りで更に彼に問いかけた。

 

屋敷で何が起こったか、誰がやったのか、お前自身は大丈夫なのかと。

 

しかし彼はアレックスの声には応えなかった。

そして小さな声で許しを乞い始めた。

 

「…ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい……」

 

「誰もお前を攻めてない!真実を聞かせてほしいだけだ!!」

 

「アレックス……俺は…俺は…あいつらを…殺してしまった…」

 

今の彼に会話をしても無駄だと判断したアレックスは取り敢えず基地の地下へ彼を誘導した。

 

ベッドを用意するとライアンは赤子のようにすぐ寝てしまった。嫌なことから逃げるように直ぐに。

 

「ライアン…何があったの?」

 

アイリーンは影から一部始終を見ていた。

 

「いたのかよ…そんなとこにいないでこっちに来たらどうだ?」

 

そう誘われアレックスの左隣に立つ。

 

「見ろよ、安心して寝てやがる」

 

「そうね…」

 

そうして2人はライアンを見守る。

そして一呼吸置いた後、アレックスに再び問いかける。

 

「ライアンに…何があったの…?」

 

「俺も詳しいことは知らないが、屋敷を焼かれた…こいつはその時の唯一の生き残りだ」

 

「そんな…」

驚きの余り手で口を押さえた。

彼女の涙が頬を滴り落ちる。

 

「ライアンだけでも生きていてくれて…本当に良かった」

 

「うん…」

涙で声は震えていた。

 

「お前は…」

アレックスはアイリーンに対して無用な事を言おうとした。そうと分かっていてそれを口にした。

 

「お前だけは…ライアンの側に居てやってくれ…」

 

「わかってる…言われなくても…」

 

そうしてアイリーンはシーツに隠れた彼の手をそっと引き寄せた。

 

 

目の前に広がる光景は残酷だった。

 

目の前の人が焼かれ、撃たれ死んでいく。まだ息の根のある者はナイフを確実に心臓へと突き刺し傷を抉る。

 

たくさんの人が目の前で死に、彼は逃げている。

 

人々の悲鳴が彼に助けを求める。

だが、彼はそれに目を瞑り耳を押さえて走り抜ける。

そして通り抜ける度、彼を恨む声が聞こえる。

 

ごめんなさい…ごめんなさい…

 

謝罪をしながらその道を走り抜けてきた。見ないように、感じないように逃げた。

人殺しにはなりたくなかった。

もちろん直接、人を殺した訳ではない。

 

だが、彼は殺してしまったのだ。

 

もう責任から逃れられないのだ。

 

懐かしい人たちが次々に思い浮かぶ。

 

ついこの間会ったヴォルフだって懐かしく思える。

 

彼だってきっと俺の事を恨んでいる。

俺に関わったばっかりに、みんな不幸になる。死んでいく。

 

"そうだ"

 

声が聞こえる。

その声に便乗するように何処からともなく湧き続ける。

 

"お前のせいだ"

 

"お前が殺した"

 

周りの黒い影の中から囁く。

 

数々の皮肉の言葉から逃れるように俯き耳の穴を塞ぎ自らの声を出して相殺しようと声を荒げる。

 

しかしそんな抵抗も意味はなく、彼の体に直接響く。

 

「やめろッ!!やめてくれッ!!」

 

悲痛の叫び。

 

みっともなく涙を流し地に膝をつき、悶える。

 

「俺は…!俺は、誰も殺しちゃいない!!」

 

"嘘…"

 

黒い影が風に流れ形を変化させる雲のように2人の形を作った。

それはたちまち、実体化した。

 

2人とも彼のよく知る人だった。

 

「ライアン、あなたは私達も裏切った、信じてくれる人も殺した」

 

「リリィ…!ミハエル…!」

 

嘗ての仲間の姿になった煙が彼の敵となる。

 

「俺だって出来ることならお前達と敵対したくなかったんだ…」

 

「でも裏切った」

リリィは彼の発言を即否定した。

 

「でも俺はそうするべきだと…そう思ったんだ!!」

 

「そうして、周りを裏切り、殺した」

 

「最低っすね、ライアン二尉」

 

「そんな…そんなつもりじゃ…」

指の先から震えていた。

ライアンにとって一番認めたくないのだ。

 

「二尉、あなたの意志は関係ない、結果的に死んでるのよ」

 

「違う…違う…!!俺は…誰も…殺してなんか…ッ!」

 

殺してなんかない

 

その言葉を口に出すことができなかった。

 

屋敷でのこと、もしもあそこに自分がいなければ皆が死ぬことなんてなかった。

自分一人という人間の為に犠牲になった。

 

「ごめんなさい…」

 

ふと出た言葉だった。

 

「ごめんなさい…ごめんなさい…ごめん

なさい…!!」

 

「認めたわね」

 

「ごめんなさい…!ごめんなさい…!許してください!俺に…俺に救いを下さい!!」

 

「GHの元エースパイロットが情けないですね…」

 

「もうなんだっていい、許してくれるならなんだってするから!!」

 

「そんなの決まっておるじゃない」

 

"戦って戦って戦って戦って戦って殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して

…そして最後にあなたが死ねばいい。"

 

その言葉は耳で聞いたわけではない。

彼の脳裏に響いた声だった。

「戦って…殺して…死ぬ…?」

 

「そうよ、あなたは今まで死んだ人たちに報いなければならない、そして、これから殺す人間の為に死ななければならないのよ」

 

足が震えた。

足だけではない、身体中がその言葉に恐れ、拒絶していた。

 

そして、笑った。

 

自分の人生を笑った。

 

涙を流し、喉から無理やり声を押し出すように、自分の人生を嘲笑し、愚弄するかの如く。

 

惨め、悲惨。

 

それすら笑えてくる。

 

「やってやるさ…」

 

荒げた声から一転、彼の波は穏やかで、どこからか風が吹き、嵐を予期させる様に見える。

 

「やってやるよ…俺が、殺して、俺が、死んでやるよ…」

 

彼は再び戦いの決意をした。

 

 

ドゥッペル基地のMS格納庫はただでさえ光がほとんど入らないのにそのさらに下の階にある一機のMSだけの格納庫が増設され、暗闇の中作業は続いていた。

 

青白い天からの薄い光のライトの中、監査局に呼ばれた整備士は機体のチェックをする。

 

黒く塗られた装甲覆われた機体がそこにあった。

その機体のフレームはネビロスのものと同じNGFだった。そのためエイハブリアクターも3基に増設されていた。

 

今はまだ本体に装甲を取り付けているだけでバックパックや武器などの取り付けは行われていない。いわば素体である。

 

そこに二人の男たちがエレベーターから降りてきた。

 

「司令、こいつの進捗状況は?」

黒い機体を指差した。

 

「ええと…現在基本的なところは組み終わっているらしいです、ただまだ武装やバックパックなどの方が完成しておらず…」

 

「どれ位かかるのだ?」

 

「あと1ヶ月はかかるかと…」

 

後ろにいる男に溜め息をつき、機体に目を戻す。

そして一番機体から遠い所で指揮している整備長に声をかける。

 

「どうかね、機体は?」

 

「ハッ、現在65%といったところでありましょうか」

 

「ふむ、よくやってくれているな、感謝する」

 

「ありがとうございます」

そう言った後に整備長は一つ気に掛かっていたことを聞いた。

 

「あの一佐、一つ伺ってもよろしいでしょうか?」

 

「可能な限りで答えよう」

 

「ハッ、では、自分達はこの機体について何も知らないのですが、ただこのデータによる数値ですとパイロットが扱える様な出力ではないと思うのです、仮に扱えるパイロットがいたとしても、そう多くはないと思われますが…」

 

「そうだったらしいな、以前は」

 

「以前…と言いますと?」

 

「君は知らない…と言っても私もそう詳しくはないのだが、これと同様のフレームを使った機体が以前あったのだよ」

 

「それは…いまどこに?」

 

「さぁな我々も知らない、おっと話が逸れてしまった、その機体をまともに扱えたパイロットはいなかったと聞いた、普通のパイロットでは無理だろうな」

 

「普通の…?」

 

「あぁ…」

 

「一佐!それ以上は!!」

後ろで話がを聞いていた司令が止めに入ったが、アルグレーは右手を上げ、問題ないと語った。

 

「普通ではないパイロット…つまり阿頼耶識を使ったのだよ」

 

「ーー!?」

 

強張った顔をしていたクールな整備長もこのことには目を見開き驚く。

 

「驚くのも無理はない、阿頼耶識を否定し続けた我々がその技術を使っているのだからな、しかもヒューマンデブリときたものだ、バレたら大変な事になる…」

 

「ッ!?」

絶句

一言も声が出なかった。

 

「そして今回のこの機体は、そんな扱いにくい機体を誰にでも扱える様にする措置を考案したのだよ」

 

「まさか…このカプセルと脳波観測装置やコネクターなどがコックピットの裏に隠れているのは…」

 

「この機体には2人人間が必要となるが、それで誰にでも動かせることができる」

 

「2人…でありますか…」

 

「あぁ…二人だ、最も一人はこの悪魔に自らの自由を売る事になるがね」

 

額から冷や汗が、肌は恐れからか鳥肌でザラザラになる。

たくさんのMSの製作に関わってきた整備長でさえ凍りつく。

 

「心配する事はない、その生贄はもう既に決まっているのだからな」

 

血の気が引いた。

人の命を命と思わないようなこの男を恐れた。

 

「当然だが、この事は他言無用だぞ、いいな?」

 

「は、ハッ!」

 

声も震える。

 

そうこれでいい、変な正義感など覚えず、ただ怯え従えばいい。ライアンのような掻き乱す存在は悪なのだ。

 

整備長の様子を見たアルグレーは彼自身の中でそう語った。

 

そしてかつての息子の事を思い出した時連鎖的に今の息子の事も過ぎった。

 

整備長に頑張りたまえと念を押した後に黒い機体、ガンダムサルガタナスにせを向けエレベーターに乗った。

 

エレベーターが上に向かっている間、司令がアルグレーに聞く。

 

「なぜ唐突に上へ?」

 

「すまないな、ライエンがどうなったのか、気になったのでな」

 

「いえ、そんなお気になさらずとも彼ならば必ずやってくれると…」

 

「私はね…物事には絶対も必ずもないと思っている、例え彼でも任務は失敗する事はあるだろうな」

 

そしてエレベーターは地上へと再び帰ってきた。

 

「それに今の我々には敵がいるぞ、司令」

 

「あんなテロリストもどき、敵になんてなり得ませんよ」

 

「言ったはずだぞ、絶対も必ずもないと」

 

そう言い彼は司令室へ戻る。

[newpage]

何度知らない天井を見上げたのだろう。

何故目を覚ました世界は自分の知らない所ばかりなのだろう。

 

まだ痛む頭を押さえながら起き上がる。

 

右手に違和感があった。

起き上がって右側に目をやる。

 

看病でもしてくれたのかアイリーンは寝ていた。

その彼女の握ってくれていた指を彼女が起きないようにゆっくり剥がす。

 

そして床に足をつけた。

 

 

起き上がったは良いもののここがどこかわからない。

アイリーンがいたのでアレックスの屋敷か何かだという事は察しがついていたが、今までいた屋敷よりだいぶ近代的で、金属で作られた床や壁。

裸足で歩いていたため少し冷たい。

 

そこへ反対側から一人の男と一人の女、そしてまだ首の据わっていない赤子を抱えていた。

 

「アレックス…」

 

「ライアン、お前起きていて大丈夫なのか」

 

「あぁ…問題ない、すまないな…面倒かけて」

 

「別に良いさ、あそこにお前を置いたのは俺だ」

 

「それに…屋敷にいた人達だって…」

 

「それは違うぞライアン」

 

彼の言葉を止めるように言葉を強く、尚且つ落ち着いた声で彼に放った。

 

「ありがとう…」

 

彼の気遣いに感謝をした。

 

「良いって事よ」

 

「そうだ、あの時の事、状況を話さないといけないな」

 

「お前まだ…」

 

「俺は大丈夫だから」

 

彼の目を見た時、アレックスはその瞳を信じる事が出来た、が、

 

「悪いが子供が居るところでそういう話はな…」

 

「子供…?」

そうして女に抱えられている赤子に視線を移す。

 

「あぁ…悪いな…お前の子か?」

 

「そうだ、可愛いだろ?」

その赤子は指を咥えスヤスヤと寝ている。

 

「抱いてみます?」

 

エリカは抱いている我が子を差し出してきた。

 

無意識に手を伸ばそうとした。

 

"俺が殺して、俺が死んでやるよ"

 

夢の中での決意が邪魔をした。

そして伸ばそうとした手を理性で断ち切った。

 

「俺はいいよ、起こすと悪いしさ」

 

「そうですか」

そうして子は母の手の中へ戻っていく。

 

これでいい。

 

これから人殺しになる男の手が触れていいものではない。

 

「ライアン、じゃあまた後でな」

 

3人の親子の影は遠くへ消えていく。

 

その伸びる影を見ながら、寂しい気持ちになる。

 

そのような弱気な自分の気持ちを罰して、彼らとは反対側に歩き出す。

 

壁の案内図を見てある場所へ歩き出した。

 

それは、かつての基地と同じ油の匂い、溶接する時の音が格納庫内に響く。

 

そしてシュバルツクロウと半壊のネビロスがハンガーにかけられていた。

 

シュバルツと対照的に格納されていたガンダムは肩の装甲を取り去り、腰の小型ブースターも外されていた。

ところどころフレームの姿が伺える。

 

「よぉ!ニイちゃん!」

 

見るからに堅いのいい陽気なひとが彼の姿に気づき話しかけてきた。

 

ライアンはキョトンとした顔で自分の事を呼んだのかと確認をとるように自分の人差し指で指す。

 

「初めまして、だな!俺ぁこいつらのメカニック担当のイチノセ、イチノセ・シュンってんだ!」

 

自らの親指を心臓に突き刺すように向ける。

なんと自己主張の激しい男なのだろうと感じられる態度だった。

 

「あ…俺はライアン・クロウです」

 

「知ってるぜ、色々大変だったな、体大丈夫なのか?」

 

「えぇ、どうやら迷惑かけたみたいで」

 

「いいって事よ!マスターのダチなんだからよ!」

 

「ところで、俺に何か用が?」

 

「おぉ…そうだったそうだった、俺ぁこここのメカニックのリーダー的な感じのやってんのよ、だけどよぉ俺MSの事とか全くわかんねぇんだ」

 

様子を見ると武装の取り外ししか行っていないように見える。

恐らく、それ以外何も手をつけることができないとライアンは推測した。

 

「俺はMWの専門でよぉ〜、MSのOSとかチンプンカンプンなんだ」

 

「OSなら俺が多少いじれますし、シュバルツは俺自身の手で整備しようと思ってたところでね」

 

「そりゃぁ助かる!よろしく頼むぜ!」

 

彼と堅い握手をした。

 

「て、事はニイちゃんこれからメカニック班として計画に参加するのか?」

 

「そっちでも、パイロットもやるつもりです、まだアレックスには言ってないんですが」

 

「そっかぁ…でも命は大事にしてくれよな」

 

「…はい」

そんな彼の恩情も今の彼は空返事でしか返すことができなかった。

 

「そういや嬢ちゃんはどうしたんだ」

 

「嬢ちゃん?」

 

「アイリーンの嬢ちゃんだよ、ガキの頃からのダチなんだろ?」

 

「え…あぁ…」

 

「あ!もしかしてそれ以上の関係だったりするのかい?」

 

興味本位で聞いてくる彼にライアンは作り笑いを浮かべ、そんな関係じゃないですよ〜、と照れ隠しを装うように答えた。

 

嘗ての彼ならそういう関係を望みたかったのかもしれない。だが今は、そんな事を考える事など許されないのだ。

 

彼の罪は死ぬまできっと消えないのだろう。

 

 

地下に広がる基地は広く、恐らく上のアレックスの屋敷よりも広いのだろう。

 

彼は格納庫を後にした。

その後見学も兼ねて色々回ってみる事にした。

 

長い廊下は案内の記号がなければほぼ同じで何処を歩いているのか全くわからない。

そもそもここに来るのは彼自身初めてだが、ここの地図を覚えるのは苦労するだろう。

 

基本的に閉じている扉は個人の部屋なのだろうから、そのままスルーをする。

 

食堂、トイレ、主要な所を覚えておく。

 

知らないうちに彼は彼の眠っていたベッドの所に戻ってきていた。

そこにアイリーンの姿はもうない。

 

暗くなった部屋の明かりを付けベッドに腰掛ける。

 

疲れから出た溜め息を吐くと、そのまま背をベッドの上に託す。

いつか来る戦いの事を考えると気は重くなる。

だが、少しでも罪が軽くなるのなら、と考えるなら彼は戦いからは逃げたくないのだ。

 

閉じていた扉が開くと反射的にライアンの上半身ml扉前の人物へと目線を向ける。

 

「い…いた…」

 

「焦ることなかっただろう?」

息を切らせた女と男が部屋の外で立ちすくんでいた。

 

「どうしたんだ?そんなに息を切らせて」

 

「だって、起きたらライアン居なくて…それで…」

 

「そんな簡単にこっから出る事なんて出来ねぇよ」

ライアンは笑みを浮かべる。

 

「それはそうとお前、どこ行ってたんだ?」

 

「あぁ…それはこれからお世話になる基地の見学と格納庫にちょっと」

 

「格納庫!?どうして!?」

アイリーンが食い気味に話に入る。

 

「シュバルツのメンテとか色々あれは俺の機体でこれからも俺の命を預ける事になる」

 

「命を…預ける…?」

彼女は言葉を失いそうになった。

その言葉は一番聞きたくない言葉であった。

 

「ライアン…お前…」

 

「アレックス…俺がさっき言いたかった事、今言う」

一呼吸おく。

 

「俺もお前たちと戦う、この世界を…変える…!」

 

二人はそのまま立ちすくんだ。

 

一人は驚愕し、一人は耳を塞いだ。

 

「なんでッ!どうしてッ!!ライアンが戦うなんて言うの!!」

 

「俺がそうしたいからだ、いつまでも守られてばかりいられないだろ」

 

その言葉はどこか虚ろであった。

その事を彼女は見え透いていた。

 

「違うッ!ライアン…もっと怖い事考えてる…」

 

そう小さな声で吐き捨て、彼女はその部屋から背を向けた。

 

部屋には男二人だけとなった。

 

そして、アレックスは1つ大事であろうと考えていた事を聞く。

 

「ライアン、俺が聞きたいのは1つ、かつての部下を…仲間と…戦う事が出来るか?俺たちは時と場合によってではあるが武力を使う、その時MSパイロットのお前が駆り出される時は必ず来る、その時お前は仲間を撃てるのか?」

 

「殺れる」

即答。

先ほどの虚ろな言葉ではなく、彼の本心。

 

「30分後ブリーフィングだ、右の角を曲がっ他ところにエレベーターがある、それで地下一階に上がり目の前にある第1会議室で行う、時間通りに、な…」

 

そうして彼も部屋から退出した。

 

そして一人になった。

 

これまで戦場から逃げ、知らぬ間に戦況は変わりつつある。

その事を知らずに生きていた。

そしてたくさんの人が死んだ。

 

その人たちに報いるため、戦い、自分の罪の償いの為に死ぬ。

 

その為の準備は整った。

 

その決意をした、再び、今度は現実で、一人で。

 

 

 

ドゥッペル基地でもまたちゃくちゃくと色々な準備がされている。

 

もちろんMSの開発もかなり進んでいた。

 

漆黒のガンダム"サルガタナス"を眺める男がいた。

 

「一佐殿、これでサルガタナスはあと例のシステムを取り付ければ完成です」

 

「ほう…思ったより早かったな、素晴らしい…君たちは非常に優秀だ」

 

「お褒めに預かり光栄です」

 

「だが今回の機体の本題はここからなのだよ」

 

「と言いますと?」

 

「阿頼耶識システム…これは今世界から忌み嫌われている、だがこれのもたらす功罪だってあるのだ、勿論兵器利用だって論外ではない」

 

一佐はよりガンダムへ体を近づける。

 

「確かにネクストガンダムフレームは非常に優秀だ、かつてのガンダムフレームを凌駕する、だがそれを扱えるものはどれだけいるだろうか…阿頼耶識を用いてなお、使える人間は限られる…そんな物に価値はない、ネビロスは失敗作と言っていい、兵器とは…MSとは誰もが使えて、絶対的な力であるべきなのだよ」

 

「ハッ!一佐殿のお言葉、肝に銘じておきます」

整備班長が屈強の意思を見せた。

 

「それで…例のシステムは完成したのか?」

 

「ハッ!、現在はカプセルの中で精神安定の為の薬品投与が行われており、手術は成功したと思われます」

 

「そうか…よくやってくれた」

 

そしてアルグレーはそのシステムの状態を確認すべくカプセルの方へ足を運ぶ。

 

「当初3カ月の予定だったが…まさか2カ月も早く出来てしまうとはな…」

薄緑の半透明の液体の入ったカプセルを眺めそう言った。

その液体に浸されているのは人だった。

 

四肢は切断され今は体と頭しかなく、その人間は目を開けたまま眠っているような虚ろな目をしている。

 

「すまないね、でも反逆したのは君、本来ならここにはいないんだよ…」

そのカプセルは何も話さなかった。

ただそのまま液体に浸り虚空を見つめるのみ。

 

「馬鹿だな、この女も…」

 

そう呟きカプセルに背を向けた。

 

 

 

ライアンは戦う。

 

これから何が起ころうと決してその足を止めない覚悟と自信がある。

今まで多くの人の死を見てきた。

 

彼らの為に、自分の為に…戦うと決め、第1会議室へと足を運んだ。

 

扉の前に立つと自動ドアは開く。

そこでようやくこれから共に戦場に立つ戦士を見ることができる。

 

見渡す限り男。おそらく彼らは自分の身を呈して戦う。

アレックスの願う世界、彼らの望み世界を実現するため、ヒューマンデブリだった彼らは銃を手に取り、反逆を企てようとしている。

 

自分の決意とは違えど、覚悟を皆決めている。

 

勿論ライアン自信も。

 

「よし、定時になった、作戦会議を始める」

アレックスの声で騒ついていた会場も静寂へ帰り、中央大型モニターから放たれる微弱な超音波のような音が聞こえるまでになった。

 

「今回の作戦は大掛かりになる、恐らく死人も出る、それでも良いと言う奴だけこの場に残って欲しい、いいか、これは強制じゃない」

 

誰一人足音を立てるものはいなかった。

 

「フッ…、後悔しても知らないからな…」

彼は口角を少し上げ呟いた

 

「ではまず、目的から説明しよう、今回の目的はギャラルホルンの失態を世間に公表する事だ」

 

中央のモニターが点灯した。

 

「これを見て欲しい、これは今我々の格納庫に保管されているMS、ガンダムネビロス、その設計図だ、こいつは約300年前の戦争"厄災戦"の英雄ガンダムフレームというフレームを再設計しリアクターを3基に増設したMSだ」

 

そうして画面はネビロスの骨格とも言えるフレーム後その数値を映す。

 

「見ての通りこいつは奴らのグレイズと比較にならないほどの高出力を誇る機体だ、だがそれ故に扱うことのできるパイロットはほとんどいなかった」

 

そして画面にまた新たなウィンドウが開く。

 

「そこで奴らはこいつに頼った、阿頼耶識システム…厄災戦時に使われた技術だ、これを地球の人間はひどく嫌う、そうしたのもギャラルホルンの奴らだ、だがその否定した技術を利用しその上彼らはヒューマンデブリを使い捨ての電池のように扱ったのだ!」

 

モニターは阿頼耶識システムの説明画像からあの時の画像を映し出す

 

あのドゥッペル基地での出来事、血で鉄の床を塗り、その上で倒れる無数の死体、その時の記憶がライアンにも呼び起こされる。

 

「こんな事が許せるだろうか!ヒューマンデブリの…いや…人の命をこんな無下に、こんな奴らに世界を任せていいはずがない!!」

 

その声に賛同するように多くの男たちが罵倒を飛ばす。

 

「だから今こそこの怒りを力に変え我々が世界を彼らから解放する!!」

 

「うぉぉおおおおおおおおお!!」

 

無数の男たちが殺意をむき出しにし雄叫びをあげる。

 

「そうだ、その為の一歩がこの作戦、このNGF計画と称される悪魔の所業を世界にバラす、その為に我々はTV局を占拠する!!」

 

衝撃的な発言だった。

これでは世間一般から見たら誰もがテロだと思うだろう。

 

「諸君が困惑するのも無理がない、側から見れば我々はテロリストだろう」

 

アレックスは台を強く手の平で叩きその思いをぶちまける。

 

「だが、誰かがやらねば、この世界は変わらない、ヒューマンデブリという存在も消えない!この事実を知っているものは動かなければならないんだ!!」

 

アレックスの熱弁に誰もが口を紡ぎ耳を傾ける。

 

「俺たちが世界を変える!俺たちがギャラルホルンという悪を排し、新たに前人類が平等に笑って暮らせる平和な世界を創りたい!!」

「だから…」

 

「だから…頼む…俺に…力を貸してくれぇッ!!!」

 

「あたりまえですよ、旦那、俺たちだってそういう思いでここまで来たんだ」

「そーだそーだ!!今更頭ァ下げるこたァねぇッ!!」

 

再び男達の歓声が上がる。

一人の男に対して無数の男達を従っている。

 

「単純な奴らだな…」

一人小声で呟いたライアンも微笑を浮かべる。

 

「ありがとう!ありがとう、みんな!!」

歓喜の涙で震えるアレックスはその顔を隠すように頭を深く下げた。

 

「あのー…盛り上がってるところ悪いけど…そろそろどう言う作戦なのか具体的に教えて欲しい…なぁ〜」

 

アイリーンが少し言いづらそうにしながら提言した。

アレックスもそうだなと袖で目を擦り、モニターの画面を変える。

 

「まず必要なのはこのデータ、制圧するための武力、今回の作戦では誰も殺すつもりは無い」

 

「ギャラルホルンが来る可能性は無いのか?」

 

ライアンが質問する。

 

「0では無いだろうな…それまでに蹴りを付ける」

「次に戦力だ、実際都市部に入るのはモビルワーカー数機と護送車のみ、一応都市部郊外にモビルワーカーとモビルスーツ二機を予備として配置する」

 

「モビルスーツ二機!?まってくだせぇ旦那ぁ!二機ってどう言うことですかい?」

 

「それは…ガンダムネビロスと、グレイズ強襲型、"シュバルツクロウ"だ」

 

「ええ!?俺たちは阿頼耶識なんてつけてねぇのに…誰が」

 

「そうか説明が遅れた、それには先程質問をしてくれた男、ライアンクロウが戦ってくれることになった」

 

「ライアンクロウってあいつもとギャラルホルンの奴だろ、信用できるんですかい!?」

 

「あぁ!彼は幼い頃からの俺とアイリーンの友だ、信用出来る!」

 

「っていってもよぉ…」

やはり何人かは首をかしげる。

 

「…」

ライアンも俯向く。

 

「俺ぁライアンのニイちゃんを信じるぞ」

野太い声が通る。

 

「イチノセさん…」

 

「俺ぁよ、人の心を読むのが苦手だけどよ、だけど格納庫で話した時に確信したぜ、こいつは信用していい男だ!俺も保証する!」

 

イチノセさんがそう言うのならと男達は納得し始める。

 

「だからアイリーン、ライアンも当日はよろしくな!」

 

「おう…」

「はい!」

 

「あのー…」

一人また手を挙げた。

 

「む、なんだ?」

 

「決行予定日とどこのTV局を抑えるのかまだ聞かされてないんですが…」

 

「あぁ…!すまない、すっかり忘れていた!場所は…」

 

〜〜〜

 

 

ドゥッペル基地の司令室。

アルグレーがサルガタナスのデータを閲覧しながらコーヒーをすすっていた。

 

扉を叩く音を聞き、入るよう指示を出す。

 

扉が開くと彼は早速要件を伝えた。

「父さん大変だ、奴らが動き出します」

 

「ほう…どこで仕入れた」

 

「スパイを送り込んでおいたのです、奴らの本部の基地ももう割れています」

 

「流石だ、ライエン、我が子よ…」

 

「それでどう致しますか?」

 

アルグレーはモニターから目を離し彼に目を向ける。

 

「その前にいつどこで何が起きるのか話してくれ」

 

「ハッ!予定日はpd322 1/2 都市のTV局を占拠した後例のデータを公表する予定です」

 

「それは…阻止せねば…ならんなぁ…」

 

ライエンを睨みつけた。

 

「私が隊をつれ今から現地へ向かいます」

 

「奇襲か…」

 

もう一度モニターに目を戻す。

 

「これは実戦で試してみたかったが…まぁいい…この機体も女も無駄になることは無い」

そう小さく呟き

「頼んだぞ、ライエン」

 

「ハイ!父さん!!」

 

〜〜〜

 

 

会議が終わった時おそらく日は暮れていた、アレックスは終わるや否やすぐに去り上にいる家族の元へ向かう。

 

ライアンも外へ出ようとしたその時、誰かに袖を引っ張られる。

 

「アイリーン…?」

 

「ちょっと…いい?」

 

休憩室、そこでは紙コップを置けばコーヒーが自動的に注がれ兵士たちの安らぎの場であった。

 

2つのコップを持ったアイリーンから片方のコップを受け取り例をした後熱いコーヒーを喉に流し込む。

 

「うまい…」

 

「そう…?実は私苦いの苦手…」

 

「そうなんだ…」

 

2人の空気は淀み、その空間がまるで口を開かせるのも妨げるようであった。

 

「あのさぁ…ライアン…」

小さな声で話しかける。

 

「どうしても戦うの?」

 

「あぁ、俺のこの決意は揺るがない」

 

「どうしてそこまで…ライアン…あんな目にあっていっぱい傷ついて…」

 

「だからこそさ」

 

コーヒーを飲み干し机にコップを置く。

 

「だからこそ…俺は戦う…彼らに報い、罪を償うそのために…」

 

「罪を…償うてって…一体何を…?」

その時基地の天井は大きく揺れ、轟音が響き、警報が鳴る。

 

「ギャラルホルンが基地上空に接近中!繰り返すギャラルホルンが基地上空に接近中!モビルワーカー12機とモビルスーツ1機を確認!」

 

そのアラート音は基地全体に響き兵士たちの安息の時間を奪う。

 

皆突然の事態の慌てふためき、基地内部は完全に混乱に陥っていた。

 

それは上にいたアレックスも同じだ。

 

「馬鹿な…なぜ奴らがここに…!?」

 

2人の命を守る為引き出しからハンドガンを取り出す。

 

「あなた…」

 

エリカは我が子を大事に抱えながら不安そうにアレックスを見つめる。

 

銃撃と共に窓ガラスは割れその音と反射的に彼女は背を丸くする。

 

「エリカ!行くぞ!!」

 

アレックスが銃を構え扉を足で蹴り飛ばす。

既に何人かの兵はアレックスに状況説明をしに来ていた。

 

「アレックス様…既に門は開かれギャラルホルンの兵が屋敷内に浸入しました…」

 

「くッ…ならば無線でもなんでも良いここから地下にその事を…」

 

「それが無線が使えないのです」

 

「何ィッ!?」

 

それはすぐに答えが出た。

 

「奴らMSを出してきたのか…」

 

2秒。

 

2秒という時間で彼は結論を出す。

 

「この基地を放棄、当初予定していた西の基地へ避難する」

 

そして武装した3人の兵を見る。

 

「1人は俺と共に通信センターに来い、今のことを基地中に知らせる、2人はエリカ達を頼む」

 

「いえ、私たちは自力で逃げます、ですから兵士さん達は…」

 

「馬鹿言うな、すでにギャラルホルンの奴らこの屋敷に入ってきているんだ1人にさせられん」

 

そして1人の兵を連れ通信センターへと向かう。

 

「さ、奥様こちらへ」

 

こちらも2人の兵に連れられ出口へと向かう。

 

〜〜〜

 

「待ってよライアン!!」

 

席を立とうとするライアンの袖を掴んだ。

 

「あなたどこ行くつもり?」

 

「格納庫だ、奴らならここでMSを投入して徹底的に叩き、この基地を完全に潰すつもりだ」

 

そう言ってライアンは彼女の手を振りほどき格納庫へ向かって走り出す。

 

「基地にいる諸君に告げる!」

 

基地全体にアナウンスが入る。

 

「諸君我々はこの基地を放棄する!繰り返す、我々は基地を放棄する!」

 

「何!?」

 

「今から私の言う通り動いてくれ、メカニック班はMWを全て動かせるようのしておけ、パイロットはそれに乗って脱出、またMSトレーラーにネビロスとシュバルツを乗せ脱出してくれ、そして皆はエリアc_145地点で合流せよ、先程の会議で話していた場所だ、これを期に計画を前倒しにする、あとできるだけ多くデータを持ち去るか、不可能なら壊してくれても構わん」

 

「そして最後に…死ぬな!以上ッ!」

 

そしてようやく戦士達は動く。

銃を持つものただ逃げるものそれぞれが動き始めた。

 

ライアンもまた格納庫へ走る。

 

「ニィちゃん!今からシュバルツを載せるところだ、あんたは…」

 

「いや載せなくて良い」

 

「な!?でもよぉ…」

 

「奴らはMSを持ってきている、間違いない」

 

「なんでそんなことが…」

 

「さっきアレックスとこの通信機で連絡とろうとしたら全く使えなかった、おそらくエイハブウェーブの影響だ」

 

「何!?」

 

「そいつが暴れられないのは恐らく例のデータを壊したく無いからだ、だがいざとなれば、きっと屋敷ごと破壊するつもりだ、だからそうなる前に俺が潰す!」

 

「そう言ったってなぁ…」

 

その時天井が揺れた。

 

尋常じゃなく大きな物体がこの上にいることだけが分かる。

 

「イチノセさん!シュバルツは出せるか?」

 

「一応推進剤は入れといた…」

 

「充分!」

 

ライアンは己の漆黒に輝く機体に向かって走り出す。

 

「イチノセさん!ライアンは!?」

 

「嬢ちゃんかい、ニイちゃんなら今シュバルツの中さ」

 

「なら私もネビロスに!」

 

「悪いネビロスはまだ出せねぇ」

 

「なら急いで!」

 

「お、おうよ」

 

アイリーンもシュバルツと向かいにあるネビロスの足元へ向かう。

 

「シュバルツ、ライアンで出るぞ!」

 

そう言って彼は機体用エレベーターにシュバルツを乗せた。

徐々に天井の光が近づく。

 

外の景色が開ける。

 

そこは炎の海だった。何人かの兵士が銃撃戦をし、血を流し倒れる。

その光景にあの丘の悲劇を思い出す。

 

「チッ!!」

 

その記憶を吹き飛ばすように頬をたたく。

 

「きたな!!お義兄さん!!」

 

「ッ!!」

 

シュバルベグレイズに装備されたライフルがシュバルツの装甲に着弾する。

 

「そこかぁ!!」

 

ライアンは背中に装備された二刀の太刀を引き抜きシュバルベグレイズへとブーストをかけ一気に距離を詰める。

 

「やっぱナノラミネートアーマーは硬いねぇ…」

 

そう呟くとライエンも腰に装備された剣を引き抜いた。

 

ガァン!!

 

二機の刃がぶつかり合い、重低音を響かせる。

互いのMSとも関節からは火花が散る。

 

「ッラァ!!」

 

叫び声とともに黒く塗られた足の装甲がライエンの機体の胴体部に直撃する。

 

「ッ!!」

 

倒れかかった体勢を立て直すように背中にの装備されたバーニアを吹かせ庭の花を焼く。

 

その庭はまだライアンがシュバルツで着地した際のあとが残っていた。

 

「くらえッ!!」

シュバルベのライフルから再び銃弾が数発発射された。

 

「うおおおおおお!」

 

そんな銃弾を物ともせずに突っ込む。

そして少し機体を浮かせ上から叩き込むように太刀を振り下ろした。

 

咄嗟にシュバルベは剣を寝かせてその攻撃を受け止める。

しかし上から攻めるシュバルツの太刀を振り払うことが出来ない。

 

機体の関節部もエラーを出し始める。

 

「破損状況B…まだまだ動くぜ」

 

悲鳴をあげる関節にさらに力を加え太刀を一瞬浮かせた。

その隙に右手のライフルをゼロ距離で発射。

 

「させるかよ!!」

 

シュバルツも発射されるも前に太刀でライフルを切り落とす。

そのライフルは切った瞬間に爆発し辺りに黒煙が舞う。

 

その黒煙を剣の風圧で霧払いするかのように吹き飛ばし再び二体の刃は激突する。

 

互いの機体はアラート音を発しつつも機体を動かす。

まだ動く、まだ動くと暗示をかけるかのごとく出力を上げ相手との力比べに負けないために。

 

バァンバァンと轟音を立て刀と刀はぶつかる。

刃は摩擦で火花を散らして、二機との戦いを加熱させる。

 

そして地面に足をつけ、自らの体で戦う者たちも業火の中で撃ち合いをしていた。

 

「第3小隊、突入!!」

 

その掛け声と同時に10数名の武装した兵が屋敷に突入する。

 

「クソッここまできてまた戦力投入だと!?」

1人の女と子供を守るには2人では絶望的だった。

弾薬も底をつきかけている。

 

「だが出口は目の前一気に中央突破を仕掛ければ…」

 

「ダメだ、数が多すぎる」

 

出口からは数メートル。

 

その間に十数の兵が常駐している。

 

「よし俺が囮になってあいつらの気を惹き付ける、その間にお前はエリカ様を逃せ」

 

「そんなこと…私の為に…」

 

「エリカ様に万一の事があったら我々はあの世にいてもこの世にいてもアレックス様に顔向け出来んのですよ、せめてこのちっぽけな人生に最後に花をもたせて下さい」

 

その男の覚悟をみてもう1人の兵は頼んだぞと言って彼に手榴弾を渡した。

 

「うおおおおおおお!!!!」

 

「敵!?」

 

気づいた時には彼らの仲間は4人程マシンガンの銃弾に撃ち抜かれていた。

 

「野郎ッ!!よくも!」

 

ギャラルホルン兵たちが彼に向け一斉射をする。

無数の銃弾が1人の男を文字通り蜂の巣にする。

 

「今ダァッ!いけぇ!」

 

そして兵はエリカと子を連れ彼らの直線数メートルを走り抜ける。

 

「なッ!?」

 

1人の兵がそのことに気づき後ろを振り向きかけた時、彼女らはすでに走り抜けていた。

しかし有効射程圏内にいた彼女らに銃口が向けられる。

 

「よそ見してていいのかよ」

 

手榴弾のピンを抜いた。

 

瞬間彼女の後ろで大きな爆発が起こり炎の扉でしめられた。

もう誰も追ってくることはない。

 

それは同時に彼の命の炎を燃やし尽くした証拠でもあった。

 

「行きましょう、エリカ様…」

 

「ハイ…」

溢れでる涙を堪えて再び走る。

 

「庭に行けば今ならMWが脱出している頃かもしれません、それに乗せてもらって脱出をしましょう」

 

「あなたはどうするの?」

 

「なんとかします、今は自分とその子のことだけを考えて」

 

「はい!」

 

庭では戦闘が激化していた。

二機のMSがやりあっている中その下でも日々とは銃口を向けあい血を噴き出していた。

 

「こんな…」

 

「走ってください、エリカ様!!」

 

そういった瞬間ー。

 

「こっちにも兵がいたぞ!殺せ!!」

 

1人のギャラルホルン兵が銃口を向けた。

 

「ッ!!」

 

銃弾が彼の胸を貫いた。

 

「クソがぁ!!」

 

そのギャラルホルン兵の頭にも一発の銃弾が貫いた。

 

呼吸も荒く命がもうないことを無意識に知らされる。

 

「エリカ様…いき…て…」

 

瞳から光が消える。

 

彼の死体をそっと地面に伏せ走り出す。

 

銃弾が飛び交う中走り抜け、生き延びようと必死だ。

 

二機のぶつかり合いも激しくなる。

 

ひたすら刃を避けるか叩きつけるかの攻防戦。

気を抜いたら、死ぬ。

 

「兄さんがまさかここまでやるなんて…」

 

「俺は今日ここでお前を仕留める…」

 

2人の殺意は機体を通して伝わる。

 

だがここでライエンはこのまま持久戦に持ち込まれたら、勝てる見込みがあるのか怪しくなっている。

 

事実先程から攻撃を受け続けた刀は先端が折れ刃こぼれもしている。

これでは仮に直撃しても機体を切ることができるか怪しい。

 

その時爆炎の中1人の女性が走っているのがモニターに映る。

 

(これだ…)

 

ライエンはその女にシュバルベの腕を伸ばす。

たちまち2人はシュバルベの手の中に収まった。

 

「兄さん…僕はこんな手を使いたくなかった…けどしょうがない勝つためだ…今なら機体を降りればこの人達を解放しよう…もし応じないのであれば…」

 

少しずつマニュピレーターに力が加わりエリカの顔も険しくなる。

 

「さぁ!どうする!?」

 

ライエンはこの時慢心していた、彼ならきっと降りる。

 

「右腕破損…?」

 

右腕の破損状況の表示が変わっていた時シュバルベの腕の関節から先は無くなっていた。

 

「正気か!?」

 

「正気じゃないかもなぁ…」

そう小さくライアンは呟く。

 

ボタっとシュバルベの腕が落ち腕の下から血が流れ出す。

 

真っ赤になった。

視界も手のひらも。

それは自分の血のみだ。

腹に抱えた赤子は元気に泣く。

白買った服が自分の血で赤く染まっている。

だがこの子からは傷1つ見ることはない。

 

「ごめん…ね…ごめんね…」

 

そうして赤子の髪を撫で続けた。

 

「兄さん!?あそこには女と子がいたんだぞ!」

 

「あぁ…いたな」

今度は膝に太刀を突き立てる。

血のようにオイルが噴き出す。

 

「死んだかもしれない!」

 

「そうかもなぁ…」

 

首根っこを掴み吹き飛ばすように頭部を引き抜く。

そして頭部を捨て、地面に突き刺した太刀を再び右のマニュピレーターで掴む。

 

「兄さんが殺したんだぞ!」

 

「それは違う」

 

シュバルベの左肩に太刀を突き刺した。

 

右の太ももにも太刀を突き刺した。

 

「お前が巻き込んだから死んだ…つまりお前のせい…俺が殺すのはお前だけだ!」

 

立ち膝をしたシュバルツがライエンにコックピットを握り潰そうと手を伸ばす。

 

「ッ!!!!」

 

シュバルベの折れた刃がシュバルツのを突き刺す。

しかしコックピットに突き刺すことはできなかった。

 

「東の国に"窮鼠猫を噛む"という言葉があるがお前は俺を噛むことができなかったな手を」

 

「それどうかな…兄さん」

 

その時シュバルツの機能が全て停止した。

 

「何!?」

 

「俺が貫いたのはてエイハブリアクター本体さ!!」

 

「コイツッ!!」

 

レバーを必死に動かすも全く応答がない。

 

「動けよ!!クソがックソがックソがックソがックソがックソがックソがックソがックソがックソがぁあああああああああああ!!!」

 

1人コックピット内で暴れ続ける。

 

「俺は!!!俺はあいつを殺す!!!殺すんだ!!!!!動けポンコツ!!!シュバルツクロウ!!!!」

 

「無駄だよ…」

ライエンは口角を上げコックピットにある自爆ボタンは作動させ、脱出を図る。

「じゃあね、兄さん…この機体と一緒に焼かれるといいよ」

 

「待て!!逃げるなぁあああああああああああ!!死ねぇええええええ!!」

 

そして2つの機体は爆炎に包まれる。

 

その時エレベーターからもう一機機体が現れる。

目の前でシュバルツクロウとシュヴァルべグレイズが炎に包まれる瞬間がネビロスのモニターに映る。

 

「ライアン!!!」

ネビロスは炎の中からシュバルツクロウを取り出す。

塗装は剥げ一部溶解している。

 

「ライアン!!!生きてる!?ライアン!!」

 

唯一生きている通信機能でアイリーンの声を傍受した。

 

「う…アツイ…」

 

「待ってて今…」

 

「あの子を…」

 

「何…ライアン?」

 

「あのグレイズの腕の下にある親子を…助けてやって…くれ…」

 

アイリーンはネビロスから降りグレイズの腕の下に向かう。

銃弾の雨は血に変わった後でほぼ止んでいた。

血の流れる先に親子の姿があった。

 

「こんな…」

 

エリカにはもう命を感じないただ子を大事に抱えたまま安らかに眠っている。

 

そこから泣きじゃくる赤子を胸に抱きしめネビロスのコックピットに乗せる。

 

「助けたよ…ライアン…」

 

「ならもう逃げろ…俺はここで…死ぬ…」

 

「ダメよ!!」

 

「無理なんだ…コックピットは開かないし…暑くてなにもやる気にならない…」

 

「なら機体ごと持っていく!!」

 

アイリーンはある装置を起動した。

 

「TSシステム起動ッ!!!」

 

阿頼耶識を通じてさらなる情報交換量が必要とされる。

 

「あああああああああああ」

 

かつてあの基地で味わった苦痛が蘇る。

 

これまでエイハブリアクターは二基のみ稼働させていた。今全てのリアクターを稼働させた。

 

「んおおおお!!」

 

シュバルツの上半身と下半身を引きちぎる。

そしてそれを大事に抱えて彼女は西に向け高く跳躍した。

 

PD321 10月23日のことであった。

 

[newpage]

先の奇襲で疲弊した兵たちがドゥッペル基地へと帰還する。

負傷している兵も少なくはない。

その兵たちを優先してドゥッペル基地へと搬入し手当を受けている。

 

アルグレーとともにこの基地へ駆り出された兵もかなり多く当然ライエンと共に戦場で銃を取り戦っていた。

 

そのライエンの姿を探していたがアルグレーが見る限りでは見る事はなかった。

 

そして格納庫へ行きシュヴァルべグレイズが帰還しているか確認に行く。

当然その姿はなく、シュヴァルべがいたMSハンガーはただ機体を固定するワイヤーがだらんと上からつる下がっているだけだった。

 

「死んだか…?」

 

アルグレーはふとそう呟く。

 

そうして格納庫から再び本部に戻ろうとした時のこと。

 

「父さん!!」

 

ライエンの声。

その声につられ後ろを振り向く。

彼は右腕を抑え、アルグレーの元へ近づく。

 

「ライエン、生きていたか」

 

「えぇ…あんな任務で死にはしません」

 

「その割に多くを失った気がするが?、シュヴァルべはどうした?」

 

「シュバルツクロウと共に爆発させました」

 

「ほう…それでは…」

 

「ライアンクロウも死んだと思われます」

 

アルグレーの口角は上がった。

 

「そうか…それだけでも充分だ、報告ご苦労、衛生兵に早く見てもらうといい」

 

そうしてアルグレーはジープへと乗り本部のある基地の北側へと走り出した。

 

 

 

西にある基地は森林に囲まれ住宅なども全くなく、そのため以前の基地より搬入などがしやすい。

そんな中、モビルワーカーやらいろんな大きさのトラックが絶え間なく搬入されていく。

彼らは1つでも多くのものを持って帰りたかった為だ。

突然の奇襲によって仲間を失った。

 

連れてこられなかった仲間だってたくさんいる。

 

せめて墓を作って安らかに、人類の故郷とも言えるこの地球で、寝むらせてあげたいのだ。

 

上空から木々を掻き分けて着陸する鋼の巨体の影が地面から光を奪う。

 

「どいて!!、そこにモビルスーツを降ろすから」

 

数人の人が基地の入り口の近くから遠のき、そのスペースに二機の機体が降り立つ。

 

「誰でもいい!誰かヒートカッター持ってきて!!シュバルツクロウのコックピットが開かないの!!」

 

その事を聞き、入り口で指揮をしていたアレックスも数人の整備班を回しシュバルツからライアンを引き出す、準備をする。

 

「イチノセさん!お願い早く!!」

 

「こちとら状況は分かってるつもりだ!黙って見ててくれ!」

 

そう言ってイチノセは手に持ったヒートカッターの電源を入れる。

刀身が熱で赤褐色に輝き、塗料の禿げたコックピット部に歯を当てるできるだけ中の機器も壊さぬよう慎重に、またパイロットの命が消えないよう迅速に、切っていく。

 

ある程度切れたら今度は熱で溶解しかけた金属を工具で無理やり広げ穴を広げる。

穴が広がる度にコックピット内の空気の温度が体に当たる。

 

イチノセもその温度に驚き焦りを感じ始める。

 

「よしいけるぞ!」

 

その声に集まった数人の男たちがコックピット内に手を伸ばすライアンの腕を掴む。

 

「せーの!」

 

数人の男たちの同時の掛け声によりライアンはコックピットから引っ張り出された。

 

呼吸は荒く、意識はない。

 

「早く、こいつも連れてけ!要救護者だ!!」

 

医療班に連れられタンカーに運ばれていく。

 

コックピット内のアイリーンも安堵の息を吐く。その拍子に気が抜けたせいか鼻から血がひと筋の線を引いて垂れた。

 

「やっぱりちょっときっつい…」

 

そうして泣き止まない赤子の髪を撫でた。

 

そこにアレックスの通信が入る。

 

「アイリーン、ネビロスも早く基地内のハンガーに!」

 

「その前にこの子預けたい」

 

そうして赤子の泣き声を聞かせる為マイクに近づけた。

 

「まさか…アイリーン…エリカは…!?」

 

沈黙。

何も答えは返ってこない。

 

「わかった…今はその子は俺が預かる…アイリーン…早く行け…」

 

コックピットから降りて赤子を抱えながらアイリーンはアレックスの元へ歩み寄る。

 

そうしてアレックスの手に赤子が抱かれた。

 

「ほら、父さんだぞ…泣くな…泣くんじゃ…ない…」

 

そう言ったアレックスの声は震えその言葉は自分に暗示をかけるかのようになんでも繰り返していた。

 

アイリーンの眼からも涙が途絶えることはなかった。

 

〜〜〜

そこから数時間後、ようやく基地も落ち着き、兵達が一息つける。

 

アレックスは我が子を抱え1人部屋に篭った。

 

アイリーンはライアンの元へ足を運ぶ。

 

管で体の各部位を繋がれているものの一命は取り留めすぐに回復するとも医者に言われた。

 

そうして、アイリーンがライアンのベッドの横の椅子に腰掛ける。

少し位置が遠い為腰をあげ、椅子をさらにベッドに引き寄せた。

 

ライアンが横になり、自分が横で見ている。

これで何度目だろうか。

 

そう呆れつつも早くライアンには起きてほしいと彼の手を引き寄せた。

 

「ん…」

 

そう引き寄せた時に彼の瞳が開く。

 

「アイリーン…」

 

「大丈夫?体…」

 

「あー…まだボーっとする…コックピットすげえ暑かったからな…」

 

「お医者さんもすぐ良くなるって言ってた」

 

「良くなる…?」

 

「うん」

 

「良くなるねぇ…」

そう言って彼は頭を掻いた。

 

「なんで生きてるんだろうな…」

 

「なんでって言われても…」

 

「そういえばさ…あの親子どうなった?」

 

それを聞かれ彼女は反応に遅れた。

 

「子供の方は…元気よ…」

 

「母親の方は…」

彼女は首を横に振った。

 

「俺のせいか…」

 

「そんなこと…」

 

「お前は何も知らないだろ!」

 

二人だけしかいない病室で怒鳴り声をあげた。

ひどく響く。

 

「俺だ…俺が殺した…あの二人が人質に取られた時、なんの躊躇もなく機体の腕を斬り落としたのは俺なんだ…俺があいつを殺したいばかりに…あいつの要件さえ飲んでればもしかしたら…」

 

右手を何度も何度も叩きつける。

 

「なんで…こうなるんだ…死ななきゃならない俺が生きて…なんでみんな死ぬんだよぉッ!!」

 

子供のように泣き喚く。

 

嘗てした決意も忘れ、無邪気に泣きじゃくった。

 

「俺なんていない方がいいんだ…俺なんて…」

 

「何言ってるの…ライアン…」

 

「俺がいるから、きっとみんな死ぬんだよ、俺のせいでみんな死ぬんだ!お前だってアレックスだって俺がいたらみんな…みんな…きんっと死んじまう、ならいっそここで」

 

彼の顔が大きく右へ向く。

まるで岩を投げつけたような痛みと重さ。

彼は殴られた。

思いっきり固められた拳で。

勢いで思いっきり後ろのベッドに倒れる。それをさらに襟を掴み顔を引き寄せた。

 

「そんな…悲しいこと…言わないでよ…」

 

彼女の俯き表情を見せてはくれない。

 

「私だってパパとママが死んで…すっごく悲しかった、背中に変なのつけられてすごく痛くて、でも誰もその傷を癒してくれなくて辛くてて悲しくて…それこそ死にたくなったよ…」

 

彼女は顔を上げ涙で濡れた顔を見せた

「でもただ、1つだけ、1つだけ希望はあった、ライアン・クロウっていう男が、きっと私と再会することをあきらめないって信じてた…」

 

「なん…で…?」

 

「ライアンは馬鹿だから、馬鹿だから宇宙船が爆発したところでそれだけで諦める男じゃないって知ってたから…」

 

「それだけの理由で…?」

 

「そう…言ってしまえばそれだけでもあの地獄の中それが唯一の希望だった、そしてチャンスが来たの、地球に降りるチャンスが、場所も約束の場所からと近くて、そのおかげでライアンとも再会して、でも殺し合いして、それでも会いにきてくれた、それでも実際会ってみるとなんか後ろめたさを感じて…そしたらあなたが救ってくれた、だから今度は…私が…」

 

「どうして…どうしてなんだ…どうしてそこまで…」

 

「ずっと、ライアンの事が好きだったからよ!10年前からずっと!」

 

「…!」

 

そうしてライアンの口を奪う。

 

初めて、近くにアイリーンがいることを実感した。

 

そうしてライアンは彼女の体を抱き寄せる。

 

「俺もそうだった…お前がいなくなって…それで気づいた…俺も君の事が好きだったんだよ!」

 

「それなら…もう死ぬなんて言わないで…生きて…私と…いや、私だけじゃない…みんなで生きて…新しい世界を見るの!」

 

「新しい世界…」

 

「そう…そしてその世界にライアンは必要なの」

 

「俺が…」

 

「そうよ、その為に頑張ってきたんだから…」

 

彼女は笑みを浮かべた。

そしてライアンは気づいた。

彼女の笑顔を見たのが初めてだと、そしてこの笑みを絶えず守りたいと。

 

「そうか…」

 

今まで彼は誰かを殺す為に戦ってきた。

今は違う。

この笑顔を守る為に、その為に戦う。

 

「ありがとう、アイリーン…」

 

そしてライアンはアイリーンを強く抱き寄せた。

 

〜〜〜

その日のライアンの検査は1日遅れて診断されることになった。

 

 

その日目を覚ました時間は普段よりも遅い。その為日も完全に上がっていてその日差しが肌を焼く。少し暑い。

 

そして右下に目をやるとアイリーンが寝ている。相当疲れているのだろう。

 

そんな彼女の安らかな顔をみると自分まで穏やかな気持ちになるのだ。

こんな時にそんな呑気な事をやっている場合ではないと言うのに。

 

そしてライアンは彼女の頭を優しく撫でる。

彼女だけは何があっても守り抜く。何が起ころうと彼女だけは…。

 

その時、彼女の眼が覚める。

まだ眠気が覚めないのか目をこすりながら徐々の体を起こす。

そうして彼女の体を纏っていたたった一枚の薄い装甲が重力によって剥がれ落ち、彼女は一糸まとわぬ生まれたままの姿になった。

 

その姿を見てうライアンは赤面し急いで

股間を押さえた。

 

どうしたのと寝ぼけた声で視線を落として3秒後、ようやく自分の状況に気づき急いでシーツを引っ張り上げる。

 

「エッチ…変態…」

そう呟く。

 

「何を今更…」

こちらも小さな声で呟いたがこういうものには女というのは敏感らしく

「何か言った?」

と睨みつけられる。

 

「あ、なんでもない…です…」

 

そうしてお互いちゃんと服を着て部屋の外へ出ようとした時。

 

「あ、待ってくれアイリーンは先に行ってくれ」

 

「どうして?朝ごはん…いやもう昼かな、ご飯食べに行かないの?」

 

「その…一緒に出て行くとアレだからさ、先にいけよ、俺ちょっと色々あるし」

 

そして何かを察してくれたアイリーンは後でと言って外に出た。

 

よくよく考えるとここは病室出会ったことを思い出し、どこも汚れたりしてないかの確認をする。

 

とりあえずシーツは問題ない。

 

とその時ー。

 

「はい、ちょっと遅れたけど検査するから」

医者が入ってきた。

 

「え、あ、はい…」

 

「1つ確認したいんだが…」

 

「はい…なんですか?」

 

「どこも汚してないよね」

 

「え!?あぁはい…汗などはかいてしまったので少し汗臭いかもしれないですけど」

 

「昨日はそんなに夜は暑くなかったと思うが」

 

「あーえーと…きっと俺代謝がいいんですよ」

 

「まぁ君がここでナニしようと勝手だがね、一応病室だからここ」

 

「はい…」

 

「さてじゃあ上脱いで」

 

そうして検査した結果、ライアンは何も問題なく、もう動いていいそうだ。

 

そうして彼はある男の元へ向かう。

 

「ここか…」

 

勇気を出して扉の前のコールをかける。

 

「アレックス…いるか…?」

 

すると扉が開く。

中に入れてくれるみたいだ。

 

そこには一人赤子をあやしているアレックスの姿があった。

部屋の明かりはついてなく、外から刺さる太陽光のみが光源だった。

 

「ライアン…無事だったんだな」

 

「あぁ…みんなが助けてくれた」

 

「そうか…」

 

「あの…さぁ…」

 

正直心が引ける。あの時のこと、彼には話さないといけない。それに彼女の最後を見たのはここには彼しかいない。

 

「アレックス…すまない…俺は君の妻を助ける事が出来なかった」

 

「仕方ない、戦いだったんだそうなんでも上手くいくなんてあり得るものか」

 

「そうだな…だが俺はあの時人質に取られた彼女達をそのまま見捨てようとしたんだ、このことは俺に責任がある」

 

「そうだったのか、でもまぁもう死んじまった人間だ、今更どう言ったところで変わらねえよ、だからお前は悪くない、責めるつもりもねえから」

 

「アレックス…お前…」

 

「悪いが少し外へ出ていてくれないか、今子供が寝たところなんだ」

 

「…」

 

そう言ってライアンは追い出された。

彼の心情は相当参っている。

 

今は何もしない方がいいのかもしれない。ここまで引っ張ってきたのはアレックスなのだから。

 

ならば少しでも彼の助けになりたいと強く願った。

 

〜〜〜

と思ったは良いもののどこへ行けば良いのか全く見当がつかない。

 

結局自分の居場所はここしかないと格納庫へ向かった。

 

そこではMWの整備、そしてMSの整備が同時進行していた。

 

「お、ニイちゃん!元気かい!」

遠くでイチノセが呼ぶ。

 

「ええ、おかげ様で!」

 

「そうかい!そいつはよかった!それで早速で悪いんだが1つ頼みを聞いてくれ!」

 

「なんですか?」

 

「ちょっとこっち来てくれ」

 

手招きされてイチノセの元へ走って向かった。

「これは…」

 

「おう、ニイちゃんのグレイズさ」

 

そこのは上半身のみのシュバルツクロウの姿があった。

ところどころ熱で溶解した装甲が痛々しさを物語る。

 

「これはもう無理ですかね…」

 

「ニイちゃんもそう思うか」

 

「えぇ…色んなところが焼き切れていてここの設備では…それに時間もかかる」

 

「そうかぁ…そこで提案なんだがよ」

 

「なんです?」

 

「こいつを見てくれ」

そうして左上指差す。

そこにはガンダムネビロスの姿があった。

 

「ネビロスがどうかしましたか?」

 

「いやぁ…こいつ所々フレームが丸見えでよぉ…しかも腰のスラスターも死んじまってる」

 

確かに腰の丸みを帯びたスラスターはかつての戦闘で破壊されたままだった。

それ以外のところはパーツを取り外してあり、どこか寂しい。

 

「そこでよ、こいつのパーツ、ネビロスにくれてやっても構わねえか?」

 

「シュバルツのを?」

 

「あぁこっちのグレイズは肩の装甲も腰のブースターも使える、このまま流用すれば、色々補えるんだ」

 

「そういうことでしたら、使ってください、あと俺も手伝いますから!」

 

「おう!助かる!!」

すると後ろからしゃしゃり出た男達も

「お!さすが一皮むけた男は違うねぇ!」

「やっぱり俺たちとは住む世界が違うなぁ」

とからかう。

 

「は、早くやりましょうよ…」

少しイラつく雰囲気ではあるが悪くはない。そうしてタブレットを手に持ち機体の状況を確認。

 

今、彼にできるのはこの程度の事。

アレックスが帰ってきた時、その時に胸を張って、この機体を見せてやろう。

 

そう静かに誓った。

 

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