赤きチャンピオン   作:匿名匿子

1 / 1
OPENING 1

 ———決まったぁ!! ついにワタルを破った!!

 

 耳にノイズが流れ込む。景色が滲んでいく。

 

 ———新たなセキエイチャンピオンの誕生だ!!

 

 頭がぼんやりと霞みがかかったようになる。

 

 ———チャンピオンの名は、

 

 

 

 ドサッ!

 部屋に何かが落ちた音が響いた。その正体は、三十キロの肉の塊。そう、少女の身体である。

 少女は身体を起こし、床に転がっていたポケギアを手に取った。

 

「きゃあああああああああ!! 遅刻だ!!」

 

 慌ただしく部屋を飛び出す少女の名は、

 

 ———ルージュ。

 

 *

 

「おはよう、ルージュ。目覚めはどうだ?」

「最悪よ」

 

 簡単に答え、ルージュはチャンピオンロードの外れにある、ポケモン協会本部の自らの部屋にダンボールを運び入れた。

 チャンピオンになってから早一ヶ月。この一ヶ月は、ポケモン協会から手持ちや経歴などにチェックが入り、不正などが無いか厳しく調べられた。一週間に渡るそれが終わったあとは、メディアなどのインタビューの受け答えをしたり、チャンピオンとしての体勢を整えたり規約の確認をしたりと大忙しだった。その間、母親や兄とは全くと言っていいほど会うことが出来なかった。

 

「ポケギアの番号を突き止められそうになったのには参ったかなぁ」

「史上最年少のチャンピオンだからな、それだけメディアや市民も興味があるんだよ」

 

 結局のところ、出来る限りの技術や手間暇を駆使し、デマの番号をインターネット上に大々的に流したために本格的に突き止められることはなかった。もう一つの、兄に頼んで急いで買ってきてもらった安物のポケギアは、デマとして流した番号のせいで一日中鳴りっぱなしだった。メディアから「返信などは無いのか」と聞かれたときは、「まずはチャンピオンとしての体勢を整えてから対応させて頂こうと思っています」と答えておいたが、このポケギア怒りの湖に沈めていいだろうか。

 そのような出来事があったせいで、ルージュはチャンピオンとしての自室に荷物を運び入れるどころか、場所すら知らなかったのだ。昨日やっと部屋を教えてもらい、今荷物を運び入れているところである。

 

「……少なくないか?」

「一気に入れても片付けるのが大変でしょ? 収納できる量とかもわからなかったし。今は必要最低限だけ入れて、後から足していくわ」

 

 ダンボールの中に入っているのは、ポケモン協会との契約書や規約書、ポケモンに関する本などが八割を占め、残りは着替えや生活用品ばかりだった。それらを棚にしまい、次はリュックサックを開ける。大量の新しいモンスターボールやキズぐすりを収納箱に種類別に入れ、棚へ入れる。モンスターボールが六つ並んでいるボールベルトは、デスクの上に置いた。ペン立てに筆記用具を入れ、軽く確認すると、ソファーに置いたリュックサックから着替えを取り出した。

 黒いブルームスカートにスパッツ、白いシャツ、赤のパーカー。これが本来の少女の出で立ちである。桃色のワンピースなんて、お洒落したいときなら存分に着こなすが、旅のときはこれで充分なのだ。変装のために目深にかぶった女の子らしい帽子を取り、ルージュはシャワールームに入って着替えを済ませた。

 

「うん、そっちの方がしっくり来るね」

「でしょ? ポケモンのときは、これで充分よ」

 

 黒い髪の毛を一つに束ね、赤いキャップをリュックサックの上に置く。

 準備が整ったルージュを見て、男———ワタルは頷いた。

 

「俺は特に君に物を教えようとは思わない。君のお兄さんや君を見ていると、本当にタフで何でも好き勝手にやってくれそうだ。……というわけで、俺がチャンピオン時代にやり残した書類の整理から始めてくれ! 今俺の部屋から運び出し作業をしているはずだから、よろしく!!」

「ちょっと待てワタルーーーッ!!」

 

 ルージュの必死の叫びを聞かず、ワタルは一目散に部屋から飛び出して行った。タイミングよく扉がノックされ、事務員と思わしき人物の声が聞こえる。

 

「チャンピオン、お荷物です」

「ワタルの奴めーーー!!!」

 

 大声で叫びながらも、ルージュは諦めて書類を詰め込んだと思われるダンボールを受け取るために扉を開けるのだった。

 

 

 

 書類を片付けるより先に、整理から始める。重要性のあるものをまずはデスクに持って行き、そこからまた分類する。ある程度の真面目さは持ち合わせているものの、棚が一つ埋まるほどの大量の書類を自分だけで分類しようとは思わない。適任なところへ振り分けていくつもりである。ルージュの上司は元チャンピオンとしてポケモン協会に勤めるワタルとポケモン協会会長のみ。ワタルはアレだし、協会長は自身も仕事をサボって「部下をみーんな適当に使っちゃっていいよー」というお墨付きまでくれちゃったのだから、最大限活用することにしたのだ。

 二時間かけて分類を終わり、紙束を詰め込んだダンボールを大量に事務員のワンリキーに運ばせる。残っているのは、自分自身が片付けなければいけない書類と、対応する間でもない苦情。苦情の方はリザードンに頼んで燃やしてもらおうと考えながら、片付けなければいけない書類のことをポケギアのスケジュール機能にメモし、ルージュはひとまず仕事を終わらせた。

 セキエイのチャンピオンは、他地方のチャンピオンと少しわけが違う。カントー・ジョウトはこの世界を代表する地方となっており、その地方最強のポケモントレーナー———つまり、トレーナー業界の代表なのである。それだけ仕事には負担が多く、ポケモンレンジャーのような活動も行っていたワタルには書類整理の時間などなかった。ルージュは本業をポケモントレーナーからチャンピオンに置き換え、まずは仕事を溜めないようにすることを決意した。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(必須:5文字~500文字)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。