怪人バッタ男 THE FIRST   作:トライアルドーパント

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三話連続投稿の三話目。この『怪人バッタ男』シリーズも来月で3年目に経過するので、何か記念小説を一作……と思って色々書いているのですが、どうにも出来がイマイチ。執筆のテンションが下がり続ける中、エターナル克己ちゃんが『ジオウ』に登場するSURPRISE-DRIVEで持ち直す。そして、『ジオウ』の最終回には五代雄介が出ると、作者は信じている。

今回のタイトルの元ネタは、『W』の「Oの連鎖/老人探偵」。それぞれの頭文字を変えただけなんですが、印象としてはエライ違いですな(笑)。


第36.5話③ Qの連鎖/怪人探偵

ヴィランに掌握された警備システムを、ヴィランに気付かれること無く奪還する。

 

此処がI・アイランドである事を考えれば、警備システムの質から誰もが不可能と断言する様な作戦だが、幸いな事に『ローカスト・エスケープ』を使えるイナゴ怪人1号の協力が得られれば、決して不可能では無い。

むしろ、イナゴ怪人1号の主である俺が言うのもなんだが、『ローカスト・エスケープ』を使用する事が出来れば作戦の成功率は飛躍的に上昇し、もはや我々の勝利は約束されたも同然だ。

 

誓って言うが、これは決して慢心などでは無い。空間系の“個性”は総じて利便性が高く、どれだけ大きなアドバンテージを得られるかは、『敵連合』のミストマンこと苦労霧……もとい、黒霧によって証明されている。

 

何せ、相手との距離や物理的な障害を完全に無視して一気に本丸へ攻め込み、不利となれば瞬時に安全地帯まで撤退する事が出来るのだから、味方につければ非常に心強く、敵に回れば非常に厄介な事この上ない。

父さん曰く、この手の“個性”は「一度行った場所にしか行けない」とか、「生物にしか作用しない」と言った、何らかの制限や条件が存在するらしいが、いずれにせよ奇襲や不意討ちにおいて最適の能力の一つだろう。

 

故に、俺が警備システムの奪還に協力すると意志表示した事で、出久を筆頭とした奪還推奨組は明るい表情を見せていたのだが、俺の質問に対してはイマイチその意図が理解できていない感じの表情をしていた。

コレに関しては、脱出推奨組の飯田達も同様であるが、発目だけはこの質問の意図を把握している感じの表情を浮かべながらウンウンと頷いている。

 

――即ち、「我が意を得たり」と言わんばかりのドヤ顔だ。何かムカつく。

 

「つまり……どう言う事だってばよ?」

 

「初歩的な事だよ、ワトソン君。人質とは突き詰めれば“欲しいモノを手に入れる”為のモノだ。欲しいモノはヴィランによって異なるが、それは裏を返せば“人質を取る以上、相手には必ず何らかの『要求』がある”と言う事。

そして、ヴィランにとっては重要な外交カードであると同時に、自身の安全を確保する為の命綱でもある。そんな大事なモノをヒーローと同じ空間に置いておくなんて事は、まず有り得ない。仮に同じ空間に置いておくとしても、まず間違いなくヒーローを死体にしておく」

 

「そうですね。緑谷さんの言う通り、『警備システムの奪還』と言う一手で状況は一変する訳ですが、そもそもヴィランが“一手で自分達が不利になる状況”を許している事自体が奇妙な話です。

私なら占拠した場所が200階もある高層タワーである事を利用して、人質をその何処かに隔離してしまいます。そうすれば、ヒーロー側の攻略難易度を高めつつ、自分達の安全をより確固たるものに出来ますからね」

 

質問に対して何も考えてなさそうな上鳴に答える形で、ユーモアを交えながら俺がヴィランの行動の中で不自然と思う部分を指摘し、頼んでもいないのに発目がそれを補足した。

 

正直、ヒーロー科よりもサポート科の発目がその辺の事をワカッているのがアレだが、他人の立場を明確に理解し、自分の為に利用しようとするコイツの性格と観察眼を考えれば、ヴィランが「利用できるモノを利用しない事」に、ごく当たり前の様に気付く事が出来たのだろう。世の中、一体何が役に立つか分からないものである。

 

「何より、人質を交換する為の交渉において、ヒーローの存在はどう考えても邪魔だ。特にオールマイトはその場に居るだけで、周りに『オールマイトなら、何とかしてくれるだろう』と言う気持ちが湧いてくる。現に俺達もさっきまでそう思っていた訳だしな。

しかし、『オールマイトがヴィランに殺された』となれば、ヴィランに要求される側は『ヴィランに逆らおう』って気は起らず、『ヴィランに従うしかない』って気持ちが強くなると思わないか?」

 

「しかし、人質交換の交渉は、殺人などの悪印象の大きい手段に出ると、要求が通りにくくなる恐れがある。ヴィランがそれを踏まえて、拘束したヒーロー達を生かしておいたとは考えられないか?」

 

「いや、ヴィランがヒーローを殺すのは“よくある事”だ。勿論、悲劇ではあるが、ヒーローは常にあらゆる脅威に立ち向かう仕事だから、それは“仕方の無い事”だと大半の人は認識する。少なくとも、罪の無い一般人を見せしめに殺すよりは悪印象が小さい。

何より、相手はオールマイトを筆頭とした世界各国でもトップクラスの実力を持つヒーロー達で、所謂『達人』や『天才』と呼ばれる類いの人間だ。仮に悪印象を持たれたとしても、十分過ぎるお釣りがくる」

 

「……確かに、言われてみればそうだよな。ヴィランにしてみれば、その方がずっと安全だし……」

 

「そうなりますと、ヴィランにはそれが出来ない『理由』か、敢えてそれをしない『狙い』があると言う事になりますわね」

 

「ヴィランがヒーローを殺す道理はあっても、ヒーローを生かしておく道理は無ぇ。十中八九、後者だろうな」

 

「単純に“交渉がまだ始まってない”ってだけなんじゃないの? オールマイトも交渉については何も言ってなかったし、ヴィランが交渉の時にリアルタイムでヒーローを処刑する様子を見せる為に、ワザと生かしておいてるって事も考えられない?」

 

「それじゃあ、尚更急がないと!」

 

「それはどうでしょうね? 確かに効果はあると思いますが、計画を実行する上で最も厄介な存在を排除出来るなら、早めにソレをやると思いますよ? 天才や達人を相手にする場合、基本的に二度目のチャンスはありません。最初の一手で仕留めるのが定石です。

そもそも、お話を聞いた限りヴィランは武装している様ですが、それって『“個性”に自信が無い』と言う事でしょう? 正直、今拘束されているヒーロー達は、そんな自信の無い“個性”と銃器で殺せる様な相手なんですかね?」

 

「それは……うん……」

 

飯田や轟、八百万や耳郎と言った、知識のある者や現場を分かっている者達の意見を交え、何度も仮説と推測を重ねていくが、発目のある意味で正気を疑う、しかしある意味では真っ当な疑問が出た所で、再び沈黙のシンキングタイムが始まった。

 

実際、他のヒーロー達に関しては知らないが、オールマイトに関しては銃弾如きで死ぬとは到底思えず、例え核ミサイルが直撃したとしても髪型がアフロになるのが精々で、口から煙を吐きながら「これでしばらくタバコは要らないな! HAHAHA!」と言ってのけそうなのが怖い所だ。

現に雄英のUSJ襲撃事件で、『敵連合』はミストマン黒霧や、ハンドマン死柄木の様な「殺傷能力の高い“個性”」を用意していた事を考えると、並大抵の方法ではオールマイトを殺せない様な気がする。

 

「そうだね……でも、銃に関してはそう思わせるミスリードか、目に見えて分かりやすい脅威として用意した線もあると思う。それに、自分の“個性”を見せるのは、ヒーロー達に弱点を教えるのと変わらないし……」

 

「他に考えられる理由としては『ヒーローを殺す必要が無い』って所だが、それも考えてみればどうにもおかしい。I・アイランドはそれこそ、そこら辺のチンピラが占拠しようと思って簡単に占拠できる様な場所じゃない。必然、ヴィランは綿密な計画と入念な準備を行った上で、今回の襲撃を実行したプロフェッショナルの筈だ。そして、どんな分野でもプロは“無駄な事はしない”し、“仕事には真剣な態度で徹底する”筈だ」

 

「……いや、ちょっと待ってよ。それって要するに『ヴィランは計画が失敗するリスクを避けるのが無駄だと思ってる』って事でしょ? おかしくない?」

 

「まあ、流石に拘束したヒーローに人質を奪われるのが承知の上だとは思わんが、それでも詰めが甘い感じは否めない。ちょっと、プロのヴィランの仕事とは思えないな」

 

「いや、プロのヴィランて……」

 

「仕方が無いだろ。他に例えようがない」

 

麗日が呆れるのも無理は無いが、それ以外にどう表現しろと言うのだ。相手は個性犯罪が一度も起こっていないI・アイランドで、史上初の個性犯罪をやってのけた連中である。普通に考えるなら、アマチュアである筈は無い。

 

「つまりだ。俺が疑問に思っているのは『ヴィランは何か目的があって人質を取っている筈なのに、金ヅルになりそうな人質を大事にしていないし、目に見える危険を排除して作戦の成功率を上げる訳でもないのは、一体どう言う事なのか?』……って事だ。そして、今言った事は人質交換にむけた“交渉の準備”でもある」

 

「なるほど。仮にヴィランの目的が人質交換によるものなら、その為の準備があって然るべきなのに、それが無いのはおかしい……と言う事か」

 

「そうだ。しかし、出久と耳郎から聞いた限りでは、ヴィラン側からそんな素振りは一切見られず、人質を取って得た効果はパーティー会場にいるヒーロー達を動けなくしただけ。それらの情報を総合して考えるに――

 

1. ヴィランが目的を達成する為に選んだ手段は人質交換ではない。つまり、ヴィランと交渉の余地は無い。

 

2. 金ヅルになりそうな大勢の人質に対する扱いから、ヴィランの目的が身代金である可能性は低い。

 

3.ヴィランと交渉の余地が無い事から、ヴィランが自発的に人質を解放する可能性があるのは、ヴィランが目的を達成した後だけ。

 

4.島中の人間を人質に取ったのは、会場にいるヒーロー達の動きを止める為で、それ以上の価値を“全ての人質”に対して見出していない可能性が高い。

 

5.ヴィラン側にとってもセントラルタワーからの侵入と脱出が困難な状況を作った事から、ヴィランの目的はセントラルタワーの中にある『何か』である可能性が高い。

 

6.本来なら殺す筈のヒーローを生かしている事で、ヴィランには何らかの得がある。

 

――と言った、ヴィラン側の目論見や内情が予想出来る。そして、ヴィランの謎を解く鍵になるのは、人質の解放条件にもなるだろう『ヴィランの目的』だ。これが分かれば、ヴィランの奇妙な行動の意図も理解する事が出来る筈だ」

 

「「「「「「「なるほど~~~」」」」」」」

 

発目を除いたほぼ全員の口から納得と感嘆の声が零れ、正に目から鱗とでも言うべき思いが籠った視線が向けられる。これも「常に相手を良く見て、その行動と意図を予測しろ」と、嫌に懇切丁寧なナイトアイの小言……もとい、教えの賜物だ。

 

「しかし、『ヴィランの目的』ねぇ……」

 

「身代金じゃないなら、此処でしか手に入らない物とか?」

 

「そうなると……最新のサポートアイテムやコスチュームか?」

 

「或いは、売るに売れない所謂“曰く付き”か、それを造った科学者と言った所でしょうね」

 

「でも、仮にヴィランの狙いが最新のサポートアイテムやコスチュームだとしても、そうした情報は『I・エキスポ』の公開前に外部に漏れない様、厳重な情報規制が敷かれてるし、研究者にも守秘義務が課せられている筈よ。ただ『最新のアイテム』ってだけで、どんな物かも分からない物を奪取する為に、ヴィランが此処にやって来るとは思えないわ」

 

「つまり、“ヴィランは此処に来る前に、此処にどんな物があるのか分かっていた”とおっしゃるのですか?」

 

「いやいや、『I・アイランドの最新アイテム』なら、そのブランドだけで高く売れるんじゃねぇの?」

 

「いえ、サポートアイテムやコスチュームは、基本的に“クライアントの要望に答える物”であって、その性質上“誰でも使えるような物”ではありません。よって、『窃盗』が目的だとしても、“誰かに売る”よりは“自分でそれを使う”と考えるのが妥当です」

 

「或いは……“誰かにサポートアイテムか何かを此処から取ってくる様に頼まれた”って事も考えられるんじゃない?」

 

「そこなんだが、仮に連中の目的が『窃盗』や『誘拐』だとして、こんな騒ぎを起こす必要があるとは思えない。基本的にはどちらも“そうと悟られない”事が理想だが、仮にバレたとしても“誰がやったのか分からない”様に努める。

そして、問題のヴィランには警備システムをかいくぐり、誰にも知られること無くI・アイランドに侵入し、警備システムそのものを手中に収める程の、鮮やかとさえ言える隠密活動スキルがある。ならば、誰にも気付かれる事無く目的の物や人物を手に入れて、誰にも悟られる事無く脱出する事だって出来たとは思わないか?」

 

「あ……」

 

「だよね。ヴィランの目的が『窃盗』や『誘拐』なら、今の今までヴィランの侵入が表沙汰にならなかったんだから、派手な事をせずにそのまま目的を遂行すれば良い。堂々とヒーローの前に現われるなんて有り得ない。仮に人質を取るとしても、一人か二人で十分だ。でも、逆に言えばこれまでの事は全部、ヴィランが目的を達成する上で“必要”だって判断した事になる……」

 

先程の俺の推理から『ヴィランの目的』に身代金の線が消え、次にサポートアイテムや研究者だと轟が当たりを付けて皆で話し込むが、それはそれでヴィランの行動とその成果に矛盾する部分が見られる事を俺が指摘すると、上鳴を筆頭に「言われてみれば」と言う顔をし、出久がそれを何時ものブツブツで補足する。

 

相澤先生じゃないが、ヴィランの行動は正直「合理性に欠ける」と言わざるを得ず、仮にヴィランアカデミアなるものがあったとすれば、即座に除籍処分を下されるだろう。

しかし、出久の言う通り、ヴィランは今回の犯罪計画を企てるに当たり、それらを“目標の達成に必要な事”と考え、実行している筈だ。それがどんなに奇妙な事であろうと、それだけは曲げようのない事実だ。

 

「ううむ……確かに緑谷君の言う通りなのだろうが、どう考えてもプロのヴィランがこんな騒ぎを起こす必要や理由があるとは……」

 

「そう。飯田の言う通り、どう考えてもプロのヴィランが合理的な行動を取っている様には見えないし、出久が言う様にプロのヴィランは計画を立てた中でそれ等を『必要な事』として組み込み、実行している筈だ。

そこで、このプロのヴィランと俺達の間にある認識のズレは何が原因で起こっているのかと言うと、それは俺達が“相手はプロのヴィランだ”と仮定して考察を進めていた事にある。では、“相手がアマのヴィランだ”と仮定すればどうなる?」

 

「いや、さっき相手はプロフェッショナルの筈だって言ってたやん」

 

「……いや、侵入とその隠蔽なら、アマのヴィランでも不可能とは言い切れねぇ。流石にI・アイランドとは比べ物にならねぇだろうが、実際に厳重な警備網を敷いている施設に人知れず侵入し、それを周囲に一切気付かせなかったアマのヴィランを、俺達は知っている」

 

「! そうか! 『敵連合』か!」

 

轟が一つの可能性に気付き、飯田が何よりの実例を思い出した事で、それを体験した全員の脳裏にUSJ襲撃事件の光景が鮮やかに蘇った。

実際に恐れ多くも畏くも、プロのヴィランとは到底思えないチンピラが徒党を組み、ヒーローの巣窟たる雄英に殴り込みをかけた事を鑑みれば、「有り得ない」と切って捨てる事は出来なかった。

 

「そう言えば、あの時も大勢ヴィランが侵入したのに、電気系の“個性”持ちが原因で雄英の警報システムが機能しなかったんだよね? 確かにそれと同じ事が起こってるとすれば……」

 

「なるほどな! つまり、ヴィランは“個性”を使ってI・アイランドに人知れず侵入し、セントラルタワーのコントロールルームを襲撃して警備システムを掌握したは良いが、目的のブツを手に入れる事が出来なかったから、島中の人間を人質にしてヒーローの動きを止めつつ、目的のブツを脅し取ろうとしてる……って事だなッ!!」

 

当時を思い出すような麗日の意見に追従し、何時の間にか眼鏡をかけて蝶ネクタイをしている峰田が「謎は全て解けた!」とか、「真実は何時も一つ!」と言わんばかりのポーズを取りながら、もっともらしい推理をビシッと決める。

 

「う~ん……確かにヴィランの行動と矛盾する部分は無いケド、そもそもタルタロス並みのセキュリティを誇るI・アイランドに“個性”を使って侵入するなんて出来るのかな?」

 

「そうね。I・アイランドは最先端の“個性”研究の場でもあるから、それこそ世界中のありとあらゆる“個性”による侵入を想定した警備システムを構築しているわ。勿論、警備システム自体もアップデートを重ねて日々進歩してる。

流石にタルタロスみたいに問答無用で銃を向けられる事はないケド、登録外の生体反応があれば即座に島中に警報が鳴って、現場に警備ロボットが飛んでくる筈よ。とてもじゃないけど、“個性”でI・アイランドに侵入したとは考えられないわ」

 

「では、I・アイランドの出身者や、一度でもI・アイランドに立ち寄った場合ならどうでしょうか? その時に“個性”による転移を可能とする何かを仕掛けていた……とか」

 

「それも難しいと思う。どんな形でもI・アイランドに立ち寄ったなら、必ず此処のコンピューターにパーソナルデータが登録される事になる。勿論、“個性”の情報もね。正直に言えば、今でもヴィランがI・アイランドのセキュリティをかいくぐったなんて、とても信じられないのよ」

 

しかし、出久とメリッサさんが峰田の推理に異を唱え、更に発目が“個性”によって侵入する為の方法を提示するが、それでもメリッサさんは否定的だ。それだけ、此処のセキュリティに自信があると言う事なのだろう。だが、だからこそ考えられる事がある。

 

「だとするなら、考えられる可能性は一つだ。ヴィランは絶対に警報が鳴らないルートを使って侵入したんだ」

 

「なんやて工藤!?」

 

「俺は呉島新だ。誰だ工藤って」

 

シャーロック・ホームズ曰く、「不可能を消去して、最後に残ったモノが如何に奇妙であっても、それが真実となる」。この消去法のロジックと、「I・アイランドで今まで個性犯罪が起こっていない」と言う前例を考えれば、信じ難い事だがヴィランがI・アイランドに侵入した方法はコレしかあるまい。

 

しかし、峰田よ。そのデカい眼鏡と蝶ネクタイをした格好で関西弁を使うのは、何故か知らんが物凄く違和感があるぞ。後、お前の出身って確か神奈川県じゃなかったっけ?

 

「で……ヴィランはどんなトリックを使ってI・アイランドに侵入したって言うんだ?」

 

「トリックと言うよりは、単純な心理的盲点だ。“ヴィランが常に抜け道や裏道を使うとは限らない”。つまり、ヴィランは正規のルートを使って侵入したと俺は考える」

 

「正規のルート?」

 

「それでは、“ヴィランは普通にI・アイランドに入ってきた”とおっしゃるのですか!?」

 

「でも、普通にって一体どうやって!?」

 

「具体的には、武器を持っていても警戒されないプロヒーロー。或いは武器をパーツに分解して持ち込み、外注の業者として堂々と入国したと考える。正規のルートを通っている訳だから、当然警備システムは反応しない。もしかしたら、昼間に俺達とすれ違っていた可能性さえある」

 

「要するに……ヒーローや業者の替え玉って事?」

 

「それは無理よ。さっきも言ったでしょ? 一度でもI・アイランドに足を踏み入れたなら、その時点でパーソナルデータが登録される。ヒーローに関してはライセンスの情報等も入国前に入力されるから、替え玉なんて絶対に不可能よ」

 

「確かに、プロヒーローの替え玉はライセンス等の問題から難しいでしょう。しかし、業者なら少なくとも『最初の登録時』は関係無い。それに加えて今は『I・エキスポ』による一般公開の関係もあって、現在のI・アイランドには通常よりも多くの業者が出入りしています。つまり、新規参入する業者があっても、怪しまれる確立は通常より圧倒的に低い筈です」

 

「なるほど。『I・エキスポ』の開催時期に合せた犯行って訳か。業者として入国したなら、確かにセントラルタワーへの侵入も難しくはないだろうな」

 

「……いや、ちょっと待ってよ。業者として入国したって言うけど、それをやるには、その、つまり――」

 

「気付いたか。そう、業者に発注する事が出来るのは、当然ながらI・アイランドの人間だけだ。しかも、それが出来るだけの役職や、信用されるだけの高い地位や実績が必要になる」

 

「……呉島君。君は、自分が何言っているのか、分かっているのか? いや、さっきからそんな事が、よりにもよってこのI・アイランドで起こっていると考えていたのか?」

 

「安心しろ、飯田。俺は至って正気だ。だが、I・アイランドの警備システムは、世界中の優れた頭脳を持った科学者や研究者達が、自分達の安全を確保する為に造ったモノだ。その効果は“今まで一度も個性犯罪が起こっていない”事で、どれだけ強力なシステムなのかは証明されている。

だが、その余りにも強固な鉄壁さ故に、俺はその可能性に行き着いた。如何に堅牢な守備を誇ろうと、陥落しない城はこの世に存在しない。そして、古今東西の城攻めに於いて、ソレは常套手段だ。俺がさっき『最悪の事態』と言ったのも、つまりはそう言う事だ」

 

「……確かに最悪ですわね。それが本当に起こったとすればですが……」

 

「? どゆこと? 何言ってっか、全然なんだけど?」

 

「察しなよ、上鳴。つまり、『I・アイランド側に、ヴィランと内通している裏切り者がいるんじゃないか?』って言ってるの!」

 

「ウェエッ!?」

 

それは、この場にいる誰もが無意識に排除し、或いは出来る限り考えないようにしていた可能性だった。出久を筆頭に何人かは察していたし、俺の言いたい事も分からないでは無いと言った風だが、やはり「そんな事は信じられない」と言った表情をしている。

 

「ちょ、ちょっと待って! 例えば……そう! プロのヴィランが狙いを絞らせない為に、アマのヴィランの振りをしてるって事は考えられないの!?」

 

「否定は出来ませんが、それならヴィランは自分達の目的が身代金だと思わせる為に、人質をヒーローから離して隔離しておくんじゃないですかね? 謎と言うものは疑う事で生まれますが、疑えない事は謎になりません。そうした“人質を取ったヴィランらしい行動”をされたら、こうして呉島さんが疑問に思う事も無かったと思いますよ?」

 

「……仮にI・アイランド側に裏切り者が居るとして、ヴィランに協力して一体どんな得があるんだ?」

 

「そうだな……例えば、『最新の技術や発明品を最初に手にするのは科学者で、その次はソレを必要とする専門職の人間である』と言うのが世間の常識だが、中には専門職の人間が手にする前に、裏社会の無法者が科学者と闇取引を済ませている場合もあるらしい。

現に父さんは過去にそうしたヤバイ連中に闇取引を持ちかけられた事があると言っていたし、日本には『正規のサポート会社が、コスチュームやサポートアイテムをヴィランに横流ししている』なんて噂もある」

 

「いやいや、待て待て! 闇取引って言うのはその名が示す通り、人気のない夜の公園とかで、人目を避けてコソコソと行うもんだぜ! 闇取引がヴィランの目的なら、こんな大事を起こす必要は全く無いとオイラは断言するぜ!」

 

「内通者と開発者が同一人物ならそうでしょうね。しかし、そうでなかった場合はその限りではありません。例えば、内通者の役目が『ヴィランの侵入を助けるだけ』ならどうでしょう? 勿論、それなりの地位や権力が無ければ不可能ですが」

 

「それなら……確かに、峰田の推理とも合致するとは思うケド……」

 

「でも、I・アイランドでそれなりの地位にある人がお金に困ってるなんて、ちょっと想像出来んなぁ……」

 

「そうだな。実際、一口に“裏切る”と言っても、色々なパターンがある。さっき言った報酬目的以外にも、何らかの引くに引けない理由でヴィランに協力を強要されている可能性だって充分あり得る。

そもそも“個性”だって、究極的には『何でもアリ』の代物だ。それこそトリックもクソも無い。インチキなんてやりたい放題で、一昔前なら完全犯罪だってお手の物だ。誰も知らない全く未知の“個性”に、想像もつかないような工夫を加えて侵入した線も、完全には否定しきれない」

 

「そ、そうですわね! ヒーローに与する人達が、好き好んでヴィランに協力する筈がありませんわ!」

 

「うむ! 確かにそっちの方が、合っている気がするな! 皆もそう思うだろう!?」

 

「そうだな……“個性”に関しても、その具体例が目の前に居る訳だしな」

 

「確かに……」

 

「………」

 

いや、言いたい事は分かるが、皆して俺を見て頷くなよ。まあ、分かるケド。

 

とは言え……だ。この場にはメリッサさんが居る手前、自身の薄汚い欲望から率先してI・アイランドを裏切った者が居ると思わせたくない所があるのもまた事実である。少々、不満に思うリアクションがあったとしても、そもそもの原因は俺の予測なので文句は言うまい。逃げ道を用意したのも、他ならぬ俺だけど。

 

「……まあ、ヴィランがI・アイランドに侵入した方法については一旦置いといて、話を『ヴィランの目的』に戻そう。丁度、それを補強する情報が入ってきた」

 

「と、言うと?」

 

「先程、イナゴ怪人1号がセントラルタワーに向けて移動する途中、『タワーの屋上にヘリが着陸したのを確認した』と、俺にテレパシーを送ってきた」

 

「屋上にヘリ? もしかして、ヒーローが!?」

 

「いや、パイロット以外は誰も乗っていない。救出と救援に来たのなら、ヒーローが何人も乗っている筈だから、まず間違いなくヴィランの仲間だ。つまりは、逃走用の足だな」

 

「って事は……ヴィランの中にワープ系の“個性”持ちは居ないって事?」

 

「そうなるな。そして、“ヘリにパイロット以外は乗っていない”、“人質を取って目的を達成しようとしている”と言う二点を考えれば、峰田の言う通りヴィランは“セントラルタワーの中に居る誰かから、目的の物を脅し取ろうとしている”んだろう。では、今セントラルタワーの中に居る人物の中で、最もその可能性が高そうな人物と言えば?」

 

「……デヴィット・シールド博士?」

 

「パパが!?」

 

「それじゃあ、ヴィランの目的はデヴィッド・シールド博士の発明品か、博士自身って事か?」

 

「あくまで、可能性として一番高いと思うだけだ。まあ、デヴィット・シールド博士でなかったとしても、それと似たようなモノだとは思うが……」

 

「稀代の天才の照らす光に埋もれた不遇の天才って、歴史的にも結構居るらしいですからね。いずれにせよ、ヴィランの目的と事件解決の鍵を握る人物が、セントラルタワーの中に居る事は確実でしょう」

 

「………」

 

うん。発目の言う事も一つの真理であり、有り得る心理ではあるのだが、それは「科学者がI・アイランドを率先して裏切った場合」の一例なので、此処はちょっと止めて欲しい所である。

 

「それでだ。奪還作戦の具体的な内容だが、これまでの情報からヴィランは最低でも四つに分かれて活動していると予想出来る。具体的には――

 

1.パーティー会場の人質を管理しているチーム

 

2.警備システムを掌握しているチーム

 

3.目的を達成する為に活動しているチーム

 

4.逃走手段を用意しているチーム

 

――の四つだ。俺達の目的は、警備システムの奪還だが、もしも俺達が警備システムを再変更する前に、ヴィランが『警備システムを掌握しているチーム』に異常が起こったと気付いたらどうなる?」

 

「間違いなく、コントロールルームにヴィランが殺到するだろうな。バレるタイミングとして理想的なのは“警備システムが変更された瞬間”だが……」

 

「そうね……悪いケド、警備システムの再変更には、それなりの時間が掛かると思うわ」

 

「まあ、ヴィランだって訓練の時の俺達みたいに、無線か何かでやり取りしている筈だよな……」

 

「ああ。だから俺達も幾つかのグループに分かれて行動し、ヴィランの動きに対抗するのが良いと思う。一応、やる気満々の出久、麗日、轟、耳郎、上鳴、メリッサさん、そして俺とイナゴ怪人の最低8人で実行する奪還作戦も考えてある。

まず、最重要の『警備システムを掌握しているチーム』は、警備システムの変更が出来るメリッサさんと、この世で最も強力な毒ガスを操り、ヴィランの意識を静かに奪える術を持つ麗日が対応する。これに小回りの効く出久が加われば、多少のトラブルが起こっても大丈夫だと思う」

 

「……確かに交戦する事はないだろうけど、結構エグイ作戦だよね」

 

「一回でも呼吸したらアウトだからなぁ……」

 

「? どうしてお茶子さんの“個性”で毒ガスを操る事が出来るの?」

 

「ああ。それはですね……」

 

麗日の『気体成分の無重力化』と言う、対人特攻の必殺技を知らないメリッサさんに、麗日が詳細を説明する事で、メリッサさんは目を丸くしながらも納得してくれた。どんな“個性”も「くだる」「くだらねー」は、頭の使い方一つでどうにでもなるのである。

それにしても、たった一度呼吸するだけで相手を無力化し、不可視である事から閃光弾や催涙弾よりも回避が困難な必殺技など、麗日もドエライ技を習得したモノである。原因は俺だが。

 

「次に、ヴィランのリーダーっぽい奴が居る『パーティー会場の人質を管理しているチーム』だが、これは耳郎が“個性”による盗聴で、パーティー会場の外から情報を収集。轟と上鳴は耳郎の護衛とサポートってトコだな。それと言い忘れたが、各チームにはモーフィングパワーで無線を作って渡しておく」

 

「何かあったら、他のチームに無線でヴィランの指示や動きを伝えるって事ね。了解」

 

「そして、『逃走の手段を用意しているチーム』は俺が一人でやる。『ローカスト・エスケープ』で外に脱出したら、タワーの壁をよじ登って屋上に向かい、出久達のチームがコントロールルームのヴィランを無力化すると同時にパイロットを昏倒させて、ヘリを『モーフィングパワー』でヘリポートと一体化させる。その後で、俺は出久達のチームと合流だ」

 

「『目的を達成する為に活動しているチーム』は?」

 

「コントロールルームを奪取してから対処する。ヴィラン側のチームの中で、唯一現在位置が予想出来ないし、まず間違いなく人質になる人が一緒に居る。その上、“個性”を下手に使えない場所に居る可能性だってあるから、下手に人を動かせない。

他には、俺達みたいにパーティー会場以外の場所でこのアクシデントに遭遇して、タワーの何処かで助けを待っている人も居るかも知れんから、そこは奪還した警備システムを利用して臨機応変にいこうと思う。勿論、救助が最優先だ」

 

「まあ、タワーの中を虱潰しに探し回るより、奪還した警備システムを利用した方が、ヴィランの動きを見たり、要救助者を探すのは簡単だと思うわ」

 

「……それなら、俺も協力しよう。このタワーの何処かに、助けを求める者が居るかも知れない。そして、実際に要救助者が居るとしたら、その人達を救助しない理由は無い」

 

「そう言う事であれば……私も協力しますわ」

 

かくして、考えた計画を一通り説明した所で、予想外の展開と言うか嬉しい誤算が起こった。脱出推奨派の飯田と八百万が、俺達に協力を申し出てくれたのだ。

 

ヒーローの資格を持たない俺達に、ヴィランとの戦闘は許されない。そう考えれば、トラブルに巻き込まれた要救助者の保護は、今の俺達に出来る最善の行動である。

俺達にタワーからの脱出を推奨しつつも、内心その事に不満を覚えていた飯田と八百万にしてみれば、それはギリギリ俺達に協力する事が出来る一線と言った所か。

 

「と……言った感じの作戦を考えた訳だが、何か意見のある奴は改善案をプリーズだ」

 

「パッと聞いた感じだと、俺からは特には……。強いて言うなら“伏兵的な第5のチーム”が要るかも知れねぇって事くらいだ。『最低4つ』って言ってたから、気付いてる事だとは思うが」

 

「僕としては、雄英体育祭を見ていて、僕達の情報をヴィランが知ってるのかも知れない……って所かな?」

 

まあ、確かにそれらは懸念材料だよな。殆ど対処は不可能だけど。

 

轟の言う様にヴィラン側の総戦力はハッキリと分からないし、出久が言った様に『雄英体育祭』は日本全国どころか、世界中に情報が発信されている様な一大イベントだ。当然、ヒーローだけでなく、ヴィランの目にも止まっている可能性は高い。

しかし、この『雄英体育祭』の注目度に関しては、「雄英がオールマイトの出身校である」と言う部分が大きいと思う。何せ、アメリカでも大人気のヒーローを輩出した学校の体育祭だ。むしろ、世界が注目しない理由は無い。

 

「あ! それなら、誰かが囮になって確かめるってのはどうよ? 俺達の事を知ってるなら、戦ってみれば知ってるって感じのリアクションとかするだろうし、相手の“個性”もそれで分かるっしょ?」

 

「……どうだろうな。連中にしてみればワザワザ戦う必要はないから、仮に俺達を知っていても人間を差し向けてくるとは限らないぞ?」

 

「そうですね。警備システムを掌握した事で、文字通り腐るほどある暴徒鎮圧用の警備マシンを手駒に出来た訳ですから、イレギュラーに対して単純な物量で押し潰すのも、戦法としてはアリです」

 

「……さっきから思ってたんだけど、もしかしてあっちゃんと発目さんって……!」

 

上鳴の提案した囮作戦に難色を示す俺と発目を見て、出久はワイシャツのボタンを飛ばしながら「ベストマッチ」とプリントされたTシャツを見せつける。それを見た発目は機嫌を良くし、俺は何とも言えない気分になった。

確かにこれまでの言動を鑑みるに、思考と分析の方向性に関しては、俺と発目の相性はそう悪くないのかも知れん。人としての相性は知らんが。

 

「まあ、仮に囮作戦をやると言うなら……出久達がコントロールルームを奪取してメリッサさんが警備システムを書き変えている間に、気絶したヴィランの無線を奪って会場のヴィランに偽情報を流し、差し向けられたヴィランを待ち構えて罠に嵌める……って感じになるだろうな。勿論、コントロールルームに『警備ロボを差し向けろ』って指示が来る可能性もあるから、どう転ぶかは完全にヴィラン次第だ」

 

「上手くいけば伏兵を動かしたり、会場の警備が手薄になるってトコだろうな」

 

「な、なぁ、ちなみに、オイラは……?」

 

「決まっていよう。覚悟無き者など、物の数に入らん」

 

そして、これまでの会話で完全に蚊帳の外になっている事に不安を覚えたのか、峰田が自分はどうすれば良いのか俺達に問いかけるが、何時の間にか背後に立っているイナゴ怪人1号から、戦力外の理由を突きつけられていた。

 

「来た! イナゴ怪人! これで勝つる!」

 

「イナゴ怪人……これが……」

 

「待たせたな、皆の衆。そして、我が王。此方を……」

 

そして、作戦のキーパーソンが到着した事で場が色めき立つ中、イナゴ怪人1号は『強化服・弐式』が入ったケースを、うやうやしい仕草で俺に手渡した。

 

「え? 何で呉島のコスチューム持ってきてんの?」

 

「分からぬか、リビドー・スパーキング。ヴィランが我が王の真の姿を見たが最後、ヴィランは確実に恐怖に慄き、この世のものとは思えぬ絶叫を上げる! 我が王の認知度を考えれば、その時点で正体がバレる可能性が高いではないか!」

 

「それは……うん……」

 

「ああ……」

 

「………」

 

確かにイナゴ怪人1号の言う様に、世にも恐ろしい見た目のグロテスクなバッタ怪人と、バッタがモチーフのメタリックなヒーローなら、ヴィランだろうがヒーローだろうが、明らかに前者の方を脅威と感じるだろう。

そして俺自身、ヒーローとしてよりも、怪人としての認知度の方が高い事は知っている。しかもどう言う訳か、海外ではその傾向が日本よりも顕著なんだとか。

 

そういう意味では、イナゴ怪人1号の判断は正しい。それに怪人バッタ男の状態では意思疎通が出来るのは出久だけなので、正直『強化服・弐式』を持ってきてくれたのは有難い。色んな意味で悲しい事だが。

 

「……で、発目はどうする?」

 

「私ですか? 当然、ホテルでお待ちしています。正直、今の私では足手纏いにしかなりませんからね。ですが、その前に……」

 

確かに、元から発目を同行させるつもりは無い。むしろ、メリッサさんを同行させなければ解決出来ない、この状況が特殊なのである。

しかし、此処で発目は何を思ったのか、突然スカートの中に両手を突っ込むと、その場でッ! 何とッ! 勢いよくパンツを脱ぎ降ろしたッ!!

 

「は、発目さん!?」

 

「ちょ! 一体、何をやって……」

 

「ほいっと」

 

発目の突然の奇行に全員が混乱する中、発目は脱ぎたてのパンティであやとりでもやる様に両手で広げ、あろう事かソレを峰田の顔に仮面の如く装着させたッ!!

 

「フゥオッ!? こ……これはッ!! 絶妙なフィット感と、脱ぎたての生暖かさが与えるこの衝動はッ!! しかし、何時もと何かが違う……ハッ! そうか! パンティの外側がオイラの顔に密着しているからだッ!! 女人のかぐわしい香りがしないのはその為かッ!!

しかし……どんなに嗅ぎたくても臭いを嗅げないこの屈辱ッ!! パンティにさえ拒絶され、侮辱される様なこの感覚ッ!! 感じるぞ……そんな虫ケラの様な自分に、オイラは感じているッ!! 正に、正に……屈辱のエクスタシィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッ!!」

 

その時、不思議な事が起こってしまった。

 

「フォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」

 

峰田が雄叫び上げると同時に、その小さな体から禍々しい紫の光が溢れ出し、更にはI・アイランド全体が一瞬にして暗雲に包まれた。変態も度が過ぎれば、しまいには天候さえも左右する事が出来るらしい。

 

「クロス・アウッ!!(脱衣)」

 

そして、超人的な脱衣に合せて、悪事と不正と犯罪、そしてやたらとイカ臭いチェリーの香りをまき散らし、ヴィランよりも遙かにデンジャラスな格好をした、次世代のありとあらゆる意味で究極のヒーローが、よりにもよって此処I・アイランドに顕現した。

 

「フゥウウウウウウウウ……これだ。これこそがオイラの究極の姿。悪党共を打ち砕き、正義を成す為に手に入れた、オイラの力だ……」

 

「……で、結局峰田はどうするんだ?」

 

「当然、協力するぜ。例え、正義に嫌われようとも、変態は正義でなければならないからなッ!!」

 

「フフフ……上手くいきましたね! 私に協力出来る事はこれ位ですが、皆さんの健闘をホテルでお祈りしています。では、イナゴ怪人さん、脱出をお願いします」

 

「よかろう。そして、貴様の評価をほんの少し、改める必要があるようだ。具体的には砂粒一つほど」

 

「!?」

 

砂粒一つと言うものの、あのイナゴ怪人が発目を認める発言をした事に俺が驚愕したのも束の間、発目はイナゴ怪人1号の手によってセントラルタワーから脱出した。……取り敢えず、コスチュームに着替えるか。主に恐怖と混乱を振りまかない為に。

 

 

〇〇〇

 

 

結論から言うなら、僕達の分析と考察は少なからず事件の核心に触れていた。その後で練り直した作戦も、決して悪いものではなかったと思う。でも、それと同時に僕達は重大なミスを幾つも冒していた。

 

一つ目のミスは、内通者の存在を疑いながらも、「アメリカ時代のオールマイトの元サイドキック」にして、「ノーベル個性賞を受賞した“個性”研究の第一人者」と言う過去と経歴を持ち、更にはメリッサさんの父親である事から、デヴィット・シールド博士とその助手のサムさんを、真っ先に容疑者から外していた事。

 

だからこそ、事件の真実を知った時、全くそんな可能性を考えていなかった僕達は、彼等がヴィランを招き入れた事に、頭が真っ白になる程の衝撃を受けた。特に、博士の娘であるメリッサさんの心境は、とてもじゃないが筆舌に尽くしがたいものだっただろう。

 

二つ目は、博士が裏切った理由が「オールマイトの体から、“個性”が無くなりつつある事」だった事。

 

オールマイトの“個性”『ワン・フォー・オール』は、他者に譲渡する事が出来る“個性”で、今は僕に譲渡されている。今オールマイトが使っているのは、譲渡された“『ワン・フォー・オール』の残り火”で、その力は徐々に衰えている。

でも、『ワン・フォー・オール』の詳細を知らない博士からすれば、オールマイトの“個性”が消失しつつある理由がまるで見当もつかないのは、“個性”研究の第一人者である事も相俟って、「どんな事をしてでも、何とかしなければ」と思わせるほど、博士を精神的に追い詰めてしまったんだと思う。

 

オールマイトから『ワン・フォー・オール』を受け継ぎ、オールマイトから「博士は『ワン・フォー・オール』の事を知らない」と教えられていたのに、僕はそんな博士の心情を想像する事が出来なかった。

あの中で唯一、僕だけがその事を知っていた事も相俟って、あの時の僕は取り返しのつかない致命的なミスを犯してしまったように思えて仕方が無かった。

 

三つめのミスは、デヴィット・シールド博士と助手のサムさんは、それぞれが異なる目的でヴィランと内通していた事。

 

博士がヴィランと内通していた目的は「オールマイトの“個性”を元に戻す事」だったけど、助手のサムさんは「博士の発明品を渡す事による報酬」を目的として、ヴィランと内通していた。

そもそもこの事件はサムさんが博士に提案したモノであり、志を同じくしていたと思っていたサムさんの裏切りは、「博士に計画を提案した時点で、サムさんは博士をも裏切るつもりだった」と言う隠された事実を博士に自覚させ、只でさえ良心の呵責に苦しむ博士の心に深い傷を与えた。

 

そして、僕達が犯した、最も大きな過ちは――

 

「祝えッ!! 世界の新たな支配者の……真の王者の誕生をッ!!」

 

ヴィランの首領たる人物の戦闘力がッ!! 僕達の想像を遙かに邪悪に超えている事だったッ!!




キャラクタァ~紹介&解説

呉島新
 これまでの経験と、雄英での勉強の日々の集大成を、劇場版と言う晴れ舞台で発揮する怪人主人公。前回から「シンさん・ナイトアイフォーム」は継続しており、イナゴ怪人1号の協力と気遣いによって、非常に複雑ながら「強化服・弐式」を手にした。
 実際、怪人体のシンさんが監視カメラに写っていたり、自分の前に突然現われたら、誰だってそりゃあ絶叫する。ヴィランからしたらその光景は、リアルバイオハザードとしか言い様が無いのではなかろうか?

発目明
 性格面は兎も角、能力的にはシンさんと相性が良いかも知れないマッドな少女。実際「他人の立場を利用する事が出来る」と言う事は、観察眼や着眼点に優れ、人心を把握し掌握する術に優れていると言う事でもある為、プロファイリングは結構得意だと思われる。
 シンさん達への貢献として、自らのパンティを使って峰田を変態ブドウに覚醒させたが、流石にパンティの内側を峰田の顔面に付けるのは嫌だった模様。ぶっちゃけ、この世界線の劇場版で発目を登場させた理由の一つは、峰田を変態ブドウにする為だったりする。

緑谷出久
 劇場版ではオールマイトが捕縛されて冷静さを失っていたのか、勉強熱心で観察と分析が武器と言う設定がまるで生かせていなかった原作主人公。正直、彼を含めたヒーロー科の誰一人としてヴィランの行動に違和感を覚えなかったのは、劇場版における作者の不満の一つである。
 ……他の不満は何かって? 劇場版のポスターに後ろ姿で登場していた、梅雨ちゃんの出番がやたらと少なかった事に決まってるじゃないか。いや、劇場限定コミックスの表紙を見た時から、嫌な予感はしてたけど。

峰田実/変態ブドウ
 発目の協力によって、原作を遙かに超える戦闘意欲と戦闘能力を発揮した変態。ついでに何かアブノーマルな性癖にも目覚めた節がある。他にも「峰田・バーローフォーム(下手なコスプレ)」を披露しているが、特に意味は無い。
 尚、メリッサさんは変態ブドウの変身にドン引きしていたものの、その反面“個性”とは異なる謎すぎるパワーアップに興味津々。その一方で「極力関わり合いになりたくない」と言う思いの板挟みになっているとか、いないとか。

ウォルフラム
 劇場版のラスボス。今回は予告編。当初は中の人ネタで『鎧武』の武神鎧武にするか、『ジオウ』のオーマジオウ(ジクウドライバー)にするか悩んだ結果、アンケートにアーマータイムが要望としてあったので『ジオウ』を選択した次第。……え? 『RX』の霞のジョー? 確かに、彼も「改造人間ではある」が……。
 所で、スピンオフの『ヴィジランテ』では、巨大化したゴーヤが出てきたじゃろ? そして此処には“個性”の影響を受けた植物を研究する“植物園”があるじゃろ? そんで、此処にはイナゴ怪人がいるじゃろ? なら、ウツボカズラとかサラセニアとか、食虫植物があっても別におかしくないじゃろ? つまりは……そう言う事だ。

イナゴ怪人1号
 どれだけ認めたくない事でも、認めざるを得ない事を知った怪人。発目にしてみれば、パンツ一枚でコイツの信用を得られるなら、むしろ安い買い物だと思うかも知れない。所で、「パンツ穿いてない系」のネタは「女装してみたら結構イケてる系」のネタと同じく、学校を舞台とした作品では結構な鉄板感があると思うのは、作者の気のせいだろうか?



初歩的な事だよ、ワトソン君
 ご存じ、名探偵シャーロック・ホームズの名台詞。他にも「現場で発生すべきなのに起きなかった出来事に注目する」と言った、ホームズと共通する行動をシンさんはとっているが、これは「もしも『Wの世界』にシンさんが居たら」と言うコンセプトで書いた二次小説が、フィリップ・マーロウの要素を含む鳴海探偵事務所のメンバーとの対比として、シンさんにはシャーロック・ホームズの要素を組み込んで書いた影響である。そもそも、未熟なシンさんにハードボイルドな台詞は早すぎるのだ。

シンさんの知名度
 色んな意味で「絶対に有り得ない光景」のオンパレードであった為、今年の『雄英体育祭』の1年生ステージは世界的にもありとあらゆる意味で有名。メディアと言うモノは、良かれ悪しかれ「視聴率が取れる」と判断した画を採用するので、必然『仮面ライダー』よりも『怪人バッタ男』の方が知名度は高くなる。
 つまり、イナゴ怪人1号が懸念した通り、『怪人バッタ男』として襲撃をかけたら正体がバレていた可能性は高い。でも、海外では日本ほど異形系“個性”の迫害は少ない国もあるので、劇場版に登場したブラジルのハチ女チックな見た目のヒーローなんかは、案外シンさんに対して友好的なのかも知れない。



後書き

今回の投稿はここまで。そして、今話を以て、以前募集した劇場版に関するアンケートの中で採用したアイディアは、一通り出揃う事となりました。アンケートに応募してくださった読者の皆様、本当にありがとう御座います。

尚、不採用になったアイディアの幾つかは、考えていた二次小説でネタがダブったものもあったりします。具体的には「この世界のシンさんが『鎧武の世界』に行ったら」と言うコンセプトで、色が反転したブラック斬月に変身するシンさんの話とか。

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