怪人バッタ男 THE FIRST   作:トライアルドーパント

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前連載作でもそうなのですが、小説作品が元ネタだと漫画作品よりも文章……特に地の部分に気を遣います。そして、劇場版はノベライズが出ている関係上、本編と違って小説作品を元ネタにして書いているのと近い感覚になり、普段よりも作業が遅れます。
作者としても「気に過ぎじゃないか」と思う部分はありますが、作者はあくまでも運営と言う名の神に生殺与奪の権を握られた哀れな豚に過ぎないので、どうしても気になります。まあ、変態仮面とかソッチ方面のネタほどではありませんが……。

今回のタイトルの元ネタは『W』の「Oの連鎖/老人探偵」と「少女…A/嘘の代償」の二つ。しかし、この劇場版って考えれば考えるほど、どうにも粗い部分が目立つ作品なんだよなぁ……。


第36.5話④ Qの連鎖/推理の代償

発目の献身によって峰田が変態ブドウに覚醒し、戦闘意欲と戦闘力が変態的に向上した事で此方側の戦力が増え、そこから更に警備システム奪還の成功率を上げる為の作戦会議を重ねた結果、俺達は四つのチームに分かれて行動する事となった。

 

まずは「警備システムを奪還するチーム」が、俺、出久、麗日、メリッサさんの四名。

 

次に「人質が囚われているレセプションルームの様子を盗聴し、各チームに状況を伝えるチーム」が、耳郎、八百万、上鳴の三名。

 

そして、「臨機応変に対応する遊撃隊」として、轟と飯田の二名。

 

最後に、犯人の逃走手段である「屋上のヘリを使用不能にするチーム」が、変態ブドウこと峰田一人だ。

 

八百万が作った無線を出久達が受け取り、俺がヘルメットの周波数を無線に合わせた事で準備は完了。イナゴ怪人1号の「ローカスト・エスケープ」によって、ヴィランが乗っ取った警備システムと言う名の防衛ラインを易々と突破し、難なくコントロールルームの近くに到着すると、分厚いガラス越しにヴィランらしき二人の男の姿が見えた。

 

「此方、ライトニングホッパー。全員無事にコントロールルームの近くに到着。確認できるヴィランは二人。オーバー」

 

『フゥー……此方、アブノーマルグレープ。屋上のヘリに乗っているパイロットを確認。パイロットの他にヴィランはいない。いつでもイケるぞ。オーバー』

 

『えーっと……此方、此方…………イナゴ怪人と合流した。兎に角、何かあったら言ってくれ。オーバー』

 

『此方パーティー会場。ヴィランに特に動きはないよ。オーバー』

 

「了解。では計画通り、これから作戦行動に入る。それと、轟は無理にジョークを言う必要は無い。オーバー」

 

割とノリの良い峰田。律儀に合わせようとするも何も思いつかない轟。完全に無視している耳郎と、無線通信一つとっても、それぞれの個性が表れている事に思わず笑みがこぼれるが油断はしない。

そして、問題のヴィランについてだが、一人はモニターにかじりついて何か作業している様に見えたが、もう一人はタバコを吹かして割と暇そうにしており、ハッキリ言ってかなり無防備だ。

 

本来なら通風口を介してイナゴ怪人1号を侵入させ、ヴィラン達を島の外にでも放り込む所だが、ミュータントバッタが補充出来ない上に、イナゴ怪人1号は此方側にとって貴重な移動手段だ。

ヴィラン側にそれを知られる事は元より、下手にミュータントバッタを消耗した結果、いざと言う時に「ローカスト・エスケープ」による撤退が不可能になると言った事態は、最低でもオールマイト達プロヒーローが解放されるまでは避けておきたい。

 

また、俺がヴィランをガラス越しに『超強力念力』で拘束しようとした場合、死角になっている部分が能力の対象外になって完全に拘束する事が出来ない為、万全を期すならばやはり直接コントロールルームに乗り込み、制圧する必要がある訳だ。そして、その為のバディは既に決まっている。

 

「あっちゃん、麗日さん。頼んだよ」

 

「うむ」

 

「うん。デク君もメリッサさんをお願いね」

 

本作戦における最重要人物であるメリッサさんの護衛を出久に任せると、俺は“個性”で体重を0にした麗日を背負い、監視カメラの死角を意識しつつ、コントロールルームの中のヴィランに気付かれない様に急接近する。

 

「………(スッ)」

 

「………(コクッ)」

 

「了解……!?」

 

「誰だ、テメ……!」

 

「麗日!」

 

「うん!」

 

ハンドサインで背中の麗日に合図を出すと同時に、ドアの開閉ボタンを押してコントロールルームに侵入。不意を突かれた二人のヴィランを瞬時に『超強力念力』で拘束。そこで麗日がすかさずヴィラン共の口にピシャリと掌を当てると、酸素比率6%以下の空気を吸い込んだ彼等は瞬時に意識を失った。

出久と耳郎の話によると、ヴィランはボス以外の全員がヘルメットをしていたらしいので、もしもコイツ等が一切油断せずヘルメットで顔を隠し続けていたら、もう少し手間取った事だろう。

 

……と、言う事はだ。警備システムを乗っ取り、プロヒーロー達を軒並み無力化しているとは言え、アホ面を晒しながらタバコを吹かして油断していたと言う時点で、コイツ等は『プロのヴィラン』では無いと断言する事が出来る訳だ。

作戦の成功による安心感よりも、こんなお粗末なヴィランがとんでもなく大それた事をやってのけていると言う事実からくる不安の方が大きいのだが、これで警備システムを元に戻す事が出来る。麗日が出久とメリッサさんに作戦成功の合図を出し、俺は無線で他のチームに吉報を入れた。

 

「……此方、ライトニングホッパー。ヴィランを無力化し、コントロールルームの奪取に成功した。だが、相手は間抜けにも敵地で油断しきっており、プロのヴィランでは無いと判断できる。繰り返す、相手はプロのヴィランでは無い。オーバー?」

 

『此方、半分こ怪人。つまり、「I・アイランド側にヴィランの内通者が居る」って線が濃厚になった訳か』

 

『フゥー……此方、アブノーマルグレープ。パイロットの無力化に成功。これからヘリの固定作業に入る。その後は予定通り、ライトニングホッパーと合流する』

 

『えーっと……じゃあ、此方イヤホンジャック。ヴィランのボスがさっき「80階の隔壁を全部降ろせ」って指示を出して、パーティー会場から二人出てったよ。何かあったの?』

 

「ねえ、あっちゃん。コレ……」

 

「うん?」

 

話の流れに負けたっぽい耳郎からの報告を聞き、俺達が此処に突入するまでに何があったのだろうかと思いながらヴィランをふん縛っていると、出久が指差すモニターにはどう言う訳か勝己と切島の二人が歩いている姿が映っていた。

不機嫌な勝己と苦笑いを浮かべている切島の表情から察するに、大方このトラブルに巻き込まれて状況を打開しようとした結果、センサーが反応してヴィランに感づかれてしまった……と言った所だろう。

 

「……此方、ライトニングホッパー。80階に勝己と切島を確認した。多分、脱出経路を探す過程でヴィランに発見されたのだと思われる。オーバー」

 

『え? 何であの2人が80階に居るの?』

 

「さあな……取り敢えず、ヴィランが上げた隔壁は警備システムの解除と同時に何とかなるが、ヴィランの方は対処が間に合わん。勝己の性格から考えて、まず間違いなくヴィランと激しい戦闘になるだろう。オーバー」

 

『なら、俺が行こう。他に要救助者がいた場合、ソッチは飯田に任せるって事でどうだ?』

 

「分かった。じゃあ、勝己と切島は轟に任せる。ついでに、現在の状況を二人に説明してくれ」

 

『ああ、それじゃ少しの間、イナゴ怪人を借りるぞ』

 

「所で、二人が居る80階の此処って、どんな所なん?」

 

「植物プラントよ。“個性”の影響を受けた植物を研究しているの」

 

「“個性”の影響を受けた植物ですか……そう言えば、沖縄で巨大化したゴーヤが暴れた事件があったような……」

 

「あったね。オールマイトが同時に出現した他の巨大ヴィランと一緒に片付けて、まとめてゴーヤーチャンプルーにしたんだ」

 

この中でタワーの構造に最も詳しいメリッサさんがコンソールを動かし、勝己と切島の現在地がどう言う場所なのか説明しつつ、監視カメラ映像から館内の状況を調べてくれているが、どうやら俺達の他にトラブルに巻き込まれ、取り残されたパーティーのゲストらしき人物はおらず、この近くにヴィランと思われる人物は、マシンガンを持った二人組がコントロールルームがある最上階の非常階段で待機しているだけだとか。

 

「ならば……この非常階段の所に居るヴィランを仕留めてしまえば、取り敢えず警備システムを元に戻す位の時間は確保する事が――」

 

「パパ!!」

 

メリッサさんの悲鳴を上げ、その原因となったモニターに目を向けると、其処には何か操作しているらしい眼鏡を掛けた壮年の男性と、それを手伝う小太りの男性が映っていた。

 

「サムさんもいる!!」

 

「此処は?」

 

「保管室よ。でもどうしてこんな所に……」

 

「ヴィランに連れてこられて、何かさせられてる……?」

 

「それじゃ、早く助けないと!」

 

「……いや、待て。コレはおかしい」

 

「? 何がおかしいの?」

 

「保管室にデヴィット・シールド博士と助手のサムさんの二人だけで、ヴィランが一人も居ない事がだ」

 

「それは……保管庫の様子は此処でモニタリング出来るし、島中の人を人質に取ってるから必要無いって事じゃ……」

 

「……それじゃあ、出久。デヴィット・シールド博士ってのは、世間的にはどんな人物だ?」

 

「それは、ノーベル個性賞を受賞した“個性”研究のトップランナーで、若い頃はオールマイトのアメリカ時代のサイドキックを勤めた、オールマイトのヒーローコスチュームのヤングエイジ、ブロンズエイジ、シルバーエイジ、ゴールドエイジの全てと、オールマイトのサポート用マシンである『オールモービル』を製作した天才発明家で、オールマイトの活躍は一重に博士の発明が……」

 

「ああ、うん。もう良い。そこまでだ。つまりだ、そんな輝かしい経歴を持った、明確なヒーローサイドの人物が相手となれば、仮に人質を取って言う事を無理矢理聞かせたとしても、『知らない所で何かしでかすんじゃないか?』と疑って掛かるのが、ヴィランとしては普通の発想なんじゃないのか?」

 

「あぁ……そっか。カメラの位置とかモニターの死角とか、博士ならヴィラン以上にタワーの構造をよく知っとるだろうから、此処で見られててもバレない様に、こっそり何かやるかも知れんって事やね」

 

「そうだ。こんな対応は最早、プロとかアマとか言う以前の問題だ。前提として、ヴィラン側が彼等に対し『自分達を絶対に裏切らない』と、『見張りは必要無い』と確信していなければ、こんな対応は取らない」

 

「……ちょ、ちょっと待って……あっちゃん、それって……」

 

「この状況から鑑みるに、デヴィット・シールド博士と助手のサムさんの二人がヴィランと内通し、『I・アイランド』にヴィランを招き入れた人物である可能性が高い」

 

正直、口に出して言うべきかどうか悩み所ではあった。だが、状況的にデヴィット・シールド博士と助手のサムさんがヴィランの仲間である可能性が高い以上、出久達がこの二人に対して「被害者であり救助者」と言う認識だけを持つのは非常に不味い。少なくとも最悪を回避するには、「加害者なのかも知れない」と言う認識を持って貰う必要がある。

 

「嘘よ……そんなの……パパがそんな事する筈が無いわ……」

 

「それなんですよね……状況的にはそうなんですが、彼等がこんな事をする動機が分からない。ヴィラン側がこんな杜撰なやり方で大丈夫だと判断した理由も分からない。強いてあげるなら『彼等の動機が金銭等の報酬が目的で、金を払っている間は安全』とでも思っているとしか……」

 

『管制室。80階の警備マシンを稼働させろ』

 

「「「「!!」」」」

 

俺の発言にメリッサさんが大きなショックを受け、彼等が内通者と仮定しての犯行動機について俺が予想を口にする中、気絶させた二人のヴィランの内、ゴーグルの様なモノをかけていた男の無線に連絡が入った。声の主は恐らく、パーティー会場にいるヴィランの親玉だろう。

 

『どうした? 応答しろ』

 

「ど、どうしよう!?」

 

「無視しろ。無線に出なければ『何かあった』とは思っても、『コントロールルームが奪還された』と断定する事はまだ出来ない。そうなるとヴィランの次の行動は……」

 

「現場に一番近い部下を寄こして、確認しようとする……だね?」

 

「そうだ。此処からはプランBだ。ヴィランの足止めは俺がやる。出久と麗日はメリッサさんの護衛。メリッサさんは警備システムの解除を急いで下さい。警備システムが元に戻り次第、デヴィッド・シールド博士とサムさんの保護。その時に無線を全員に繋げた状態で、ヴィランを招き入れた理由を皆に聞かせるんだ」

 

今回の作戦を始めるにあたり、全員で話し合って幾つかのプランを事前に決めておいた訳だが、此処で言うプランBとは「作戦の途中でヴィランに感づかれた場合」を想定したプランである。まあ、プランAとの違いは「コスチュームを着て一番プロヒーローっぽい見た目をした俺が囮になる」って事だけだが。

そして、無線については「仮にヴィランに協力する内通者がいた場合、ヴィランに協力する理由を解決する必要がある」……と皆には事前に説明していたのだが、これは出久やメリッサさんがまともに動けなくなると言う最悪を想定しての指示と言うのが俺の本音だ。仮にこの二人が動けなくても、他の誰かが動ける様にな。

 

「シィッ!!」

 

「きさ――」

 

「セイッ!!」

 

幸い、コントロールルームで最上階の構造は一通り見る事が出来たので、奴等が非常階段からコントロールルームに向かう為に通るだろう最短ルートは把握している。

ボスからの指令で此方に向かってくるヴィランを待ち伏せし、出会い頭に素早く正確に急所を攻撃する事で、彼等はヴィランの親玉に無線で異常を伝える事も出来ず、為す術無く昏倒した。

 

そして、ヴィランをモーフィングパワーで作った鎖で手早く拘束すると、急いでエレベーター前に移動する。

 

『非常階段。どうだ? 何かあったか?』

 

「………」

 

非常階段からやって来たヴィランより奪った無線機から、やや苛立った様子のヴィランの親玉の声が聞こえてきた。お使いに出した手下が無線に出ないとなれば、流石に「誰かが何かしている」と言う事に気がつくだろう。

 

そして、ヴィランの次なる一手だが、俺の予想としては「パーティー会場の人質を使う」か、「仲間を使って警備システムを再び奪還しようとする」の二つ。後者に関してそれを可能とするのはデヴィット・シールド博士と助手のサムさんの二人だが、その二人がヴィランを招き入れた内通者である可能性を出久達に伝えている以上、此方は不発に終わる。

そして、前者に関しても間も無く警備システムが元に戻る事を考えれば、こちら側の勝利はもはや目前。面倒くさがってヒーローと人質を隔離しなかった事が仇となり、復活したヒーローによって彼等は瞬く間に鎮圧され――。

 

『此方、イヤホンジャック。ヴィランのボスが一人でパーティー会場から出ていったよ。エレベーターが動いてる』

 

「! 判断が早いな……」

 

しかし、一人か。そうなると、ヴィランの親玉は初めからパーティー会場にいる仲間を切り捨てるつもりだったと言う事かな。

 

「此方、ライトニングホッパー。恐らく、ヴィランのボスにコントロールルームが奪取された事がバレた。一人でパーティー会場から脱出したのは、間も無く警備システムが復旧すると見越しての事だと思う」

 

『え!? それじゃあ、パーティー会場に残ってるヴィランは!?』

 

「多分、ヒーロー達を足止めする為の捨て駒だ。耳郎達は警備システムが解除されたら、オールマイトに情報を伝えてくれ。俺は可能な限り時間を稼ぐ。オーバー」

 

『了解!』

 

そんな通信を耳郎としている間に、エレベーター前に到着。事前にヴィランが取るだろう色々なパターンを予想していたお陰か、ヴィランの行動に対してスムーズに対処する事が出来ている。これも最近帰り道で妙にエンカウントする、リーマンヒーローと茶をしばいた成果だ。

 

「よっと!」

 

そして、エレベーターのドアに触れて『モーフィングパワー』を発動。厳重に閉ざされた鋼鉄の扉に大穴を開けると、此方に向かって上昇する一基のエレベーターに向かって、迷う事無く飛び降りた。

上昇するエレベーターに両手両足で着地し、再びモーフィングパワーを発動すると、エレベーターの天井に穴を開けて内部に侵入する。

 

「何っ!?」

 

「セイッ!」

 

幾らプロとは言い難い、アマのヴィランの親玉と言えど、悪党を率いる立場にある以上、それなりの戦闘力はあるだろうし、頭もそこそこに回るだろう。そして、流石に異常事態が発生した現場に着いたなら、まず油断する事は有り得ない。

しかし、完全な密室であり、且つ頑丈な造りをしているエレベーターを使って移動する最中に襲われるのは、流石に想定外だろう。事実、鉄仮面の奥に見えるヴィランの親玉の双眸には、驚きの色がありありと表れている。

 

「お前は……!」

 

「オラァ!!」

 

そして、その隙に親玉の両手を掴み、鳩尾目がけて前蹴りを入れる……が、妙な手応えだ。何か防具を着込んでいるのか?

だが、それでも衝撃は吸収しきれなかった様で、右手に握っていた拳銃を手放した……が、落とした拳銃が勝手に動き出し、その銃口が左腕に密着すると、引き金が独りでに動き出し、銃弾が何発も発射された。

 

「ぐっ……チィッ!!」

 

発射された銃弾は全て強化服に弾かれるが、一点に集中して何発も打ち込まれた衝撃で、思わず掴んでいた右手を離してしまう。すると、ヴィランの親玉は解放された右手で懐中時計の様なモノを取り出した。

 

『BUILD』

 

てっきり、拳銃やナイフと言った武器を取り出すと想像していただけに怪訝に思ったが、その懐中時計の様なモノのボタンが押され、独特の音声が鳴ったかと思えば、何と懐中時計は瞬く間に装甲へと変形し、ヴィランの親玉の右手には大型のドリルが装着され、そのまま俺に殴りかかってきたではないか!

 

「ハアッ!!」

 

「ヌオオッ!?」

 

想定外のアイテムを用いた強力な攻撃をまともに喰らい、吹き飛ばされて左腕も手離してしまうが、エレベーターのボタンを適当に押しまくり、最上階に到着する前にエレベーターを止める事には成功した。

一方、自由になったヴィランの親玉の全身には顕現した装甲が次々と装着され、その全体像は赤と青の二色を基調としていて、中々どうしてカッコイイ見た目をしている。

 

しかし、とてもではないが信じられん光景だ。ヘルメットによって強化された視覚によって、俺は全ての工程をしっかりと目撃しているが、掌に収る程度の大きさの物体が一瞬にして戦闘用と思われるコスチュームに変化する等、もはや魔法と言っても差し支えない様な気がする。

 

「何だ……ソレは……」

 

「ああ、ちょっとした最新技術ってヤツだ。お前等ヒーローには、まだ出回っていない……なッ!」

 

ええい、随分と面倒な玩具を持っているではないか。だが、俺の目的はあくまでもオールマイトを筆頭とした、プロヒーローが解放されるまでの足止めであり、コイツをコントロールルームに行かせない事にある。

 

「んんん……オゥラアッ!!」

 

「ぬぅ……!」

 

ドリルを高速で回転させながら突き出した右腕を両手で抱えこみ、ヴィランの親玉と共にエレベーターから脱出する。扉が閉まり、上層に向かったエレベーターの表示は121階。流石にメリッサさんが警備システムを復旧させるだけの時間は稼げると思うが、それも相手の保有する戦力次第と言った所だ。

 

「ハァアアアアア!」

 

「チッ……なら、これはどうだ?」

 

ヴィランの親玉に殴りかかる俺に対し、ヴィランの親玉が舌打ちをして呟いた瞬間、ヴィランの親玉が纏っていたバトルスーツが使い手から分離し、中身が無くなっているにも関わらず、俺に対して攻撃を再開した。

 

「!! さっきの拳銃と良い、コレと良い……金属を操る類いの“個性”か!?」

 

「そうだ。俺が触れた金属であれば、俺は自由に操る事が出来る。こう言うことも……な」

 

『GAIM』

 

ヴィランの親玉はニタニタと笑いながら新しい懐中時計を取り出すと、今度は真紅を基調としたバトルスーツを装着した。両手には輪切りにした柑橘類を模した剣を握り、両肩には同様のブレードが付いた二本のサブアームと思わしきモノが生えている。

 

……何か、コレとよく似た物を極最近見た気がするが、コッチはオレンジではなくブラッドオレンジって感じで、デザインもコッチの方が完成度は高いから、関連性は無いだろう。多分、偶然の一致と言う奴だ。開発者の感性の。

 

「さて、何時まで耐えられるかな?」

 

そして、“個性”を使う為の条件を満たした事で、このブラッドオレンジなバトルスーツもまた、ヴィランの親玉から脱皮でもするかの様に分離し、襲いかかってくる。

イカン、既にこれで3対1。このまま順当に手数を増やされると、収集がつかなくなる。現にヴィランの親玉は、三つ目の懐中時計を取り出そうとしている。

 

だが、何かを操作するタイプの“個性”である以上、本体を気絶させる「本体狙い」が何よりも有効の筈……!

 

「舐めるな……ッ!」

 

右から高速回転するドリル。左から両肩のサブアームを含めた四本のブレードが迫る中、ベルトの右横のプッシュスイッチを叩き、内部で圧縮された空気の圧力によって、散弾の様に弾け飛んだ強化服の装甲が、鋼の操り人形の動きを阻害し、動きを止める。

間髪入れずにアクセルフォームに変化し、音速を超える速度で一気にヴィランの親玉の懐に潜り込むと、その鉄に覆われた顔面に何発も拳と蹴りを叩き込んだ。

 

「UWYYYYYYYYYYYYYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

 

「ウグワアアアアアアッ!!」

 

盛大に吹っ飛んだヴィランの親玉が被る鉄仮面はひしゃげ、その体は床に放り出されると、横たわったままピクリとも動いていない。そして、奴の“個性”で動いていたバトルスーツは、糸の切れたマリオネットの様に完全に沈黙した。

 

「GUURRRRRR……」

 

すると、丁度メリッサさんが警備システムを元に戻したのか、防火シャッターと隔壁が次々と格納されていく。今頃、出久達はデヴィット・シールド博士と助手のサムさんの元に向かっている旨を、無線でメンバーに伝えている事だろう。

 

「MUUUUUUUU……」

 

そして、俺の方もヴィランの親玉を戦闘不能にした事を無線で報告すべく、飛んでいったヘルメットを回収しようとヴィランの親玉に背を向けた瞬間、ヴィランの親玉が懐からマシンピストルを取り出して乱射し、二基のバトルスーツが戦闘行動を再開した。

 

「FU……」

 

しかし、怪人バッタ男と化した俺の目は単眼と複眼の機能を併せ持ち、その視野は背後にまで及ぶ。不意討ちを狙ったつもりだろうが、この俺に隙は無い。即座に『超強力念力』による障壁を全方位に展開し、無数の銃弾と高速回転するドリル。それに4本のブレードを難なく防いだ。

 

「そうだ。それを待っていた」

 

だが、不意討ちが失敗したにも関わらず、不敵な笑みを浮かべたヴィランの親玉はマシンピストルを撃ち尽くすと、懐からもう一丁大型の拳銃を取り出して発砲。すると、発射された一発の銃弾は『超強力念力』の障壁を貫き、そのまま俺の右の掌に大きな穴を開けた。

 

「GUGAAAAAA!」

 

「フフフ……所詮はガキか。油断したな」

 

こ、の、野郎……! たった一発当てただけで、やたらと嬉しそうじゃねぇか……ッ!

 

しかし、マシンピストルは弾切れ。大型拳銃の方は形状から察するに中折れの単発式で、どちらの銃も使用するには再装填が必要となる。

 

つまり、今の貴様は完全に無防備ッ! 右手に開いた風穴を一瞬で治癒し、そのニヤケ面に拳を叩き込んで一気に仕留めてくれるわ、ヴァカめッ!!

 

「MMMUUUU……NGA?」

 

しかし、そんな俺の意志に反し、肉体は予想外の反応を見せていた。確かに銃創は一瞬で治癒した。だが、それで終わらなかった。治った右腕は徐々に肥大化し、全身の緑色の皮膚に血管が浮き上がり、負傷した部分以外の筋肉も激しく痙攣する。

 

「GG……OOOVVVGVUU!! VIGABA……OOBIDE……」

 

「ん? ああ、さっきお前に撃ち込んだのは、相手の“個性”を活性化させる特殊な弾丸でな? 言ってみれば、ちょっと強力な栄養ドリンクって所だ。被弾者の“個性”が被弾者の肉体を死滅させる程、強力にな……」

 

「RUWWOOOOOOOOOOOOOOOOO!!」

 

鉄臭い液体が腹の底からせり上がり、そのまま口から吐き出される中、ヴィランの親玉がマリオネットを懐中時計に戻しながら種明かしをしている間にも、俺の“個性”は暴走し続けていた。

 

触覚からは緑色の電流が絶え間なく溢れ、右腕は筋骨隆々とした巨大なモノに変わり、左腕は溶岩の様に熱く、皮膚の割れ目からは紫色の炎が噴き出している。

胴体は発達した黄金色の筋肉の鎧に覆われ、右足は高速移動に特化した形状に変化し、背中から生えた巨大な触手は、焼けたアスファルトに転がるミミズの様に跳ね回った。

 

「やれやれ……これじゃあ、どっちがヴィランなのか分からんな」

 

『FOURZE』

 

両腕に巨大なミサイル……いや、ロケットか? 兎に角、強大な推進力を備えている事が一目で分かるコスチュームを召喚する。予想通り即座に分離し、戦力は2対1となるが、ハッキリ言って嫌な予感しかしない。

 

タワー内の照明が復旧し、窓の防火シャッターや通路の隔壁が格納された事で、警備システムが完全に元の状態に戻った事を悟った今、ヴィランの親玉は形振り構わず目的を達成しようとするだろう。

そして、出久達が今どんな状態になっているかは分からないが、少なくとも碌な事にはなっていない筈だ。状況は好転している様でいて、むしろ逼迫していると言って良いだろう。

 

「悪いが、遊びは此処までだ」

 

『DRIVE』

 

「残り少ない人生を楽しんでくれ」

 

「AAA……AGE……!」

 

自動車のタイヤをモチーフとしたバトルスーツを装着し、残像が発生する程のスピードで俺のヘルメットを奪取すると、脇目も振らずに立ち去っていくヴィランの親玉。

俺は出久達の元へ行かせまいとモーフィングパワーを発動するが、周辺の床や壁が滅茶苦茶に作り変えられ、イメージ通りにヴィランの親玉を妨害する事が出来ない。

 

そして、全身を走る激痛に、肉体の極端な変化により狂った重心は、ただ速いだけの直線的な動きでしかない機械人形の突撃を、回避不可能な致命の一撃に変えていた。

 

「RRRRWWWWOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!」

 

正面からソレを受け止める他に取るべき手段が無かった俺は、粉砕された壁ごとタワーの外に放り出され、地面に叩きつけられた。




キャラクタァ~紹介&解説

呉島新
 本編では『個性破壊弾』を撃ち込まれていたが、劇場版では“個性”を強制的に活性化させる弾丸を撃ち込まれて“個性”が暴走。『Fate/Zero』で起源弾を撃ち込まれたマルフォイ……ではなく、ケイネス先生の如く肉体をズタボロにされ、挙げ句の果てには『バイオハザード』シリーズに登場するクリーチャーだと言われても遜色ない姿になってしまう……え? 元からそんな感じだって? そんなー。

ウォルフラム
 作者の趣味によって、『Fate/Zero』の衛宮切嗣と『ジオウ』のライドウォッチの要素が混ざってしまったヴィラン。その結果、オール・フォー・ワンからは下記の“個性”を極端に増幅させる弾丸や『超再生』の“個性”を、『筋力増強』と共に追加で支援して貰い、原作よりも強くなっている。
 この世界ではシンさんが関わった結果、原作よりも悲惨な目に遭うヴィランは数多く存在するが、原作よりも強化されたヴィランはオール・フォー・ワン以外にはコイツ位しかいない為、結構貴重な存在と言える。まあ、そのオール・フォー・ワンも原作より酷い目には遭った訳だが……。

緑谷出久&メリッサ・シールド
 尊敬できる身内と言える人物が内通者なんじゃないかと言われ、驚きを隠せない二人。本作では事前に予測としてソレを聞かされている所為で、メリッサさんはコントロールルームで原作よりもスムーズに警備システムを解除する事が出来ていない。
 尤も、デク君の洞察力なら原作でも「保管庫にヴィランが一人も居ない」と言う時点で、博士がヴィランの仲間である可能性に行き着きそうな気がするのだが、前半部分のメリッサさんとオールマイトの会話から二人の関係を察する事が出来ていなかった事を考慮すれば、別に不思議でも何でも無い様な気もする。まあ、その辺も劇場版の不満点なのだが。



プランB
 劇場版における飯田の発言を元にしたネタ。つーか、プランAってどんな作戦だったのだろうか? 尚、この世界では作戦を煮詰める際、シンさんが「いいか、皆を囮にした者が英雄になるのではない。自分を囮にした者が英雄になるのだ……」と、何処ぞの卑劣様なのかイタチなのか、よく分からん事を言っていたとかいないとか。

ライドウォッチ
 原作漫画における『敵連合VS異能解放軍』で登場した、「超圧縮技術」と言う劇場版から原作に逆輸入されたと思われる凄ぇ技術によって採用する事が可能となったコスチュームと言うか変身アイテム。
 見た目と効果は『ジオウ』に登場する各種ライドウォッチだが、アナザーライダーの要素として「使用にはドライバーが不要」と言う設定を組み込んでいる。また、鎧武のライドウォッチは中の人ネタで『武神鎧武のライドウォッチ』になっている。その出所は……。

個性増幅弾
 オール・フォー・ワンとドクターの二人が、「モノは試しにシンさんの“個性”を限界まで元気にさせて見ようぜ!」「それな!」と言う感じで造った弾丸。決してウォルフラムの肋骨から作った『起源弾』ではない。
 元ネタは原作や『ヴィジランテ』にも登場した“個性”のブースト薬……ではなく、小説『仮面ライダー1971-1973』に登場した、改造人間の強化細胞を活性化させる薬品。つまりは、あわよくばとシンさんの捕獲を狙ったモノである。

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