怪人バッタ男 THE FIRST   作:トライアルドーパント

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原作のヒロアカでは「見た目がヴィランっぽいヒーローランキング」なる物があるそうで、ギャングオルカが第三位だとか。仮にシンさんがプロヒーローになったなら、このランキングの不動の一位になりそうな予感。もしくは永久欠番。

そして、この話を投稿した後で、B組に焦点を当てた番外編を投稿します。

また今回の活動報告は、内容が『職場体験編』のネタバレ要素を含むので、ネタバレが嫌いな人は見ない方が賢明です。

11/21 誤字報告より誤字を修正しました。報告をしてくださった読者の皆様、ありがとうございます。

6/20 誤字報告より誤字を修正しました。ありがとうございます。

2018/5/20 誤字報告より誤字を修正しました。毎度報告ありがとうございます。

2018/10/13 誤字報告より誤字を修正しました。報告ありがとうございます。

2020/9/9 誤字報告より誤字を修正しました。報告ありがとうございます。


第3話 雄英危うし! 敵連合の侵攻!

峰田が憎悪を撒き散らしながら「朋友」と呼んでいた筈の轟の胸倉を掴み、そんな峰田を物陰から現れた数人の女子(轟曰く「知り合いではなく、ずっと尾行されている」)が袋叩きにすると言う、極めて普通(?)の昼休みが過ぎると、今日も今日とて午後のヒーロー基礎学の時間がやってくる。

 

今日はオールマイトではなく相澤先生が教壇に立っており、教室の雰囲気もどこかオールマイトの時とは違っている。

 

「今日のヒーロー基礎学だが……俺とオールマイト、そしてもう一人の三人体制で見る事になった。内容は災害水難なんでもござれの『人命救助【レスキュー】』訓練だ!」

 

ふむ。「見る事になった」と言うのが少し気になるが、多分昨日のマスコミが侵入した騒ぎで、セキュリティ面に注意している……と言った所だろうか?

もっとも、クラスの大半は『人命救助』訓練の方に意識がいっているようで、その事を疑問に思っている奴は殆どいない。

 

「今回コスチュームの着用は各自の判断に任せて自由とする。中には活動を制限するようなコスチュームもあるだろうからな。訓練場は少し離れた所になるからバスに乗っていく。以上、準備開始」

 

コスチュームを着込む事による活動制限……か。クラスの皆にそうした事があるのかどうかは知らないが、俺に関しては該当するモノが一つだけある。

 

それは“個性”把握テストの際に獲得した超高速機動形態だ。

 

俺はアレをオールマイトの「トゥルーフォーム」に倣って「アクセルフォーム」と呼称しているのだが、アレは発動の際に脱皮を必要とする関係上、コスチュームを着た状態では使用する事が出来ない。

そのあたりの事を話す為に、先日父さんの研究所を訪ねたわけだが、父さんは自信満々で俺に一つの解決策を提案した。

 

「このコスチュームで重要な部分はベルトとヘルメット。それに手足を覆うグローブとブーツ。そして胸部のコンバーターラングだ。この内グローブとブーツは、下地のライダースーツと一緒に圧縮して、ベルトの中に格納する事が出来る様になっている。

そこで、『アクセルフォーム』を使う際には、下地になっているライダースーツの部分を弾き飛ばしてから『アクセルフォーム』を使い、使い終わったら再びコスチュームを装着する機能をつければ問題は解決する」

 

「つまりベルトから新しくコスチュームが出てきて、それが俺の体に装着されるって事?」

 

「そうだ。それも自動的にな。しかしヘルメットとコンバーターラングは、弾き飛ばされたコスチュームから拾って再使用する事になる。コレに関しては『超強力念力』を上手く使って、科学の力でコスチュームが自動的に修復されている様に誤魔化せば、何かと都合が良いだろう。

それとこの機能は今の所、一回の戦闘では一度しか使えない。もう一度使うにはメンテナンスが要る。だから使い所は良く考える事だ」

 

一度しか使えないことを念押しするが、既に解決策を用意している事を考えると、流石はIQ600の天才科学者だ。まあ、父さんは何十年も前から俺用にコスチュームを考案していたらしいから、この準備の良さは当然と言えば当然なのかも知れない。

他にも何か色々なタイプのコスチュームを用意しているらしいので、それらのお披露目も案外近いかも知れない。

 

そんな訳で、今回の俺は迷わずにコスチュームを着る事を選んだ訳だが、コスチュームをサポート会社の修復に出している出久以外、男子は全員がコスチュームの着用を選んでいた。

 

「相澤先生は自由って言ってたけど、皆コスチュームを着るんだな?」

 

「そりゃそうだろ。プロになったらコスチュームを着てヒーローをやるんだぜ? だったら誰だってコスチュームを着た上で訓練するって」

 

「……それもそうだな」

 

「ん? そう言えば、呉島のコスチュームってそんな色だったっけか? 前よりも少し黒くなった気がするんだが……スプレーでも塗ったのか?」

 

中々鋭い切島の言う通り、俺が今手にしているコスチュームは、前回使った物と少しカラーリングが違う。

スーツの色は前と同じく黒だが、側面の2本ラインと背中の羽根部分がメタリックなダークグリーンに、ダークブルーだったマスクは濃いダークグリーンに、クラッシャー、コンバーターラング、ブーツなど、ブルーグリーンだった部分もダークグリーンになっている。但し切島が言う通り、別にスプレーを塗ったからこうなった訳では無い。

 

「ああ。コレは前のをバージョンアップしたコスチュームなんだ。それでカラーリングが少し違うらしい」

 

「バージョンアップ? お前、一体どこの業者のコスチューム使ってんだ?」

 

「業者じゃなくて研究所だ。コレは俺の父さんが造った物で、父さんの研究所から直通で送られてきたんだ」

 

「え!? マジ!? つーか、呉島の親父さんって科学者なのか!?」

 

「何だ? 面白い話?」

 

それから俺はクラスの皆にせがまれて、父さんの話をする羽目になった。ついでに俺がヒーローを目指している、二つの理由の内の一つについても。

 

「夢は叶わなければ呪いになる……か。考えさせられる言葉だな」

 

「うむ。その為に父の無念を晴らすと言うのも、分かる気がする」

 

「………」

 

はて? 障子や常闇が言う様に、割りと理解を示してくれているヤツが多いんだが、何故か轟の視線だけがやたらと鋭かった。イナゴ怪人の時にしてもそうだが、一体何が轟をそうさせるのだろうか? ここは一つ本人にその理由を聞きたい所だが、素直に答えてくれそうにない冷たい雰囲気を醸し出している。

 

こうして釈然としないままに女子組と合流したのだが、やはり女子も全員コスチュームを着ていた。……と言う事は、俺以外にコスチュームで活動制限がかかるような奴は一人もいないと言う事か?

そんな事を考えながらバスに揺られていると、梅雨ちゃんがいきなり出久に対して爆弾と思える様な発言を投下した。

 

「貴方の“個性”って、オールマイトに似てる」

 

「そそそそ、そうかな!? いや、でも、僕はその、え~」

 

「待てよ梅雨ちゃん、オールマイトは怪我しねぇぞ。似て非なるアレだぜ」

 

切島の台詞にクラスの大多数が肯定的な反応をしているが、俺は今の出久の反応で自分の仮説に大きな確信を得た。やっぱり、出久は嘘がつけない体質らしい。まあ、其処が良い所なのだが。

 

「しかし、緑谷みたいなシンプルな増強系もそうだけど、呉島や蛙吹みたいな生物型の“個性”も良いよな。一つの“個性”で色々な事が出来る! 俺の“硬化”は対人じゃ強えけど、いかんせん地味なんだよなー」

 

「僕は凄くカッコイイと思うよ。プロでも充分通用する“個性”だよ」

 

出久の言う通り、シンプルな能力だからこそ強い“個性”は結構ある。逆に色々出来るからこそ、器用貧乏になってしまうケースも多いと聞く。

 

「派手で強ぇっつったら、やっぱ爆豪と轟だな」

 

「……ケッ」

 

「まあ、勝己はヒーローとして活動する上で、色々と面倒な制約が多そうだけどな」

 

「と言うと?」

 

「まず、派手な爆音の所為で隠密行動が出来ない。潜伏しているヴィランがいたら、爆音が狼煙の役割をして逃げられる可能性が高い。それに夜にヴィラン退治なんぞしたら、周辺住民から苦情が殺到しかねん。コスチュームに消音機能でもあれば話は変わってくるがな」

 

「………」

 

「そしてこれは勝己に限った話じゃないが、破壊力の高いタイプの“個性”は二次被害を招きやすい。例えば“個性”を使ったら窓ガラスが割れて、その破片が通行人に当たりました……とかな。

市街地は元より、銀行や博物館なんかの貴重品や歴史的価値のある物が保管してある施設では、そう言った高火力の“個性”は使用する事そのものが大きな制限になる。色々な保険や控除があるとは言え、ヒーロー活動中の損害は基本的にヒーローの自己負担だしな」

 

こうしたヒーローが活動する上での二次被害に関しては、Mt.レディがその最たる例と言えるだろう。彼女は未だにマネージャー兼相棒との二人三脚で事務所を切り盛りしているらしいのだが、彼女のヒーロー活動に伴う被害総額は半端な金額では無いらしい。

 

「なるほどな~。派手で強いってのも考えものって事か」

 

「そうなると、コスチュームの要望に『攻撃力の強化』ってのはあんま意味ねぇのかもな」

 

「んだとゴラァッ! ちゃんと意味はあるわぁっ!!」

 

「ちなみに俺が勝己なら、籠手に『任意のタイミングで点火できる手動の装置』なんかを要望として出すけどな。そうすればヴィランの発生率が低下しても、爆破解体の工事とか採石場とかで活躍出来るだろうからな」

 

「そう言えば、ヴィラン退治なんかは基本的に歩合制だから、犯罪率が低下したらヒーローの収入も減っちゃうんだよね」

 

「あ~、そう言えばこの町にオールマイトが来てから犯罪率が低下して、副業がメインになってるヒーローも結構いるって聞いた事あるな~」

 

ヒーローと言う職業に就く者ならば、犯罪率の低下は最も喜ぶべき事ではあるのだが、それに伴って収入が減ると言うのもまた、目を背ける事の出来ない現実である。

 

実際に犯罪件数の低下によってMt.レディは本業が月に二回まで低下し、ニッチなファンの為のニッチなイベントの方がむしろメインになっているらしい。そして彼女としてはもっと正攻法で売れたかったらしく、俺が彼女のイベントを見に行った時には――

 

『止めて、見ないで! 会社の為にこんな仕事を、お金の為にこんな事をしている私を!』

 

――と、まるで自分が汚れてしまったかの様な事を言っていた。

 

その後もプロヒーローになった後の事について、皆でワイワイガヤガヤと語り合った。これもまた俺が今までに体験した事の無い素晴らしい空間と時間だったのだが、それはある一人の男によって一変した。

 

「俺、ちょっと思ったんだけどよ。合体技って有れば良いんじゃねぇかと思うんだよ」

 

「おっ! 確かにそれって良いかもな!」

 

「何かアイディアはあるの? 峰田ちゃん」

 

「そうだな。取り敢えずは、俺と八百万の品種改良合体。俺と葉隠の丸見え合体。俺と芦戸のドロドロ合体。俺と蛙吹の繁殖合体。俺と麗日の子作り合体を考えて――」

 

峰田の性欲が駄々漏れで、知性の欠片も感じられない、ド直球で超低俗な話に女子達の怒りが爆発した。特に梅雨ちゃんと耳朗の二人が凄まじい。しかし、繁殖合体の梅雨ちゃんは納得できるが、話題に上がらなかった耳朗がブチ切れているのは何でだろうか? 疑問ではあるものの、それを聞く勇気は俺には無い。

 

その後、肉を叩き潰し、骨を砕く生々しい音が聞こえなくなるまで、男子全員が峰田の座っている座席から目を背け、相澤先生はずっと黙っていた。

 

「心臓破裂させていいかな?」

 

「バスが汚れるわ。着いてからにしましょ?」

 

「命だけは……命だけはお助けを……」

 

ここで俺は助け舟を出す事にした。但し、峰田の命を助ける為と言うよりは、止めを刺そうとしている梅雨ちゃんと耳郎の二人の将来を守る為だ。比率で言うなら1:9位で。

 

「ココで殺るより、人命救助訓練の事故に見せかけた方が都合良くないか?」

 

「「………」」

 

俺の言葉を受けて梅雨ちゃんは峰田を巻きつけていた舌をしまい、耳郎は峰田の心臓部分に突き刺していた、耳たぶから伸びるプラグを外した。そして二人は黙って元いた座席に戻った。

 

「くくく、呉島ぁ! お前なんて事言ってんだよぉ!」

 

「ジョークだよジョーク。アメリカンジョーク。アイツ等がそんな事を本当にやると思うか?」

 

「いや、アイツ等、全然目が笑ってねぇんだけど……」

 

「気のせいだ。不安なら自力で助かればいい」

 

「人命救助の意味なくね!?」

 

「もう着くぞ。そろそろいい加減にしろ」

 

『ハイッ!』

 

相澤先生の言葉に、峰田以外の全員(俺を含む)が元気よく答えた。峰田は絶望した。

 

 

●●●

 

 

俺達が到着した場所にあったのはドーム状の施設であり、その実態は「あらゆる事故や災害」を想定して造られた演習場『ウソの災害や事故ルーム』。略して『USJ』だ。明らかに『USJ【ユニバーサル・スタジオ・ジャパン】』を捩って、無理矢理とってつけた様な施設名だが気にしない。

そして、水難ゾーンにはサメ型ロボットが用意されている上に、入り口には身長制限まで設けられているおかげで、何も知らない人が本物と間違えてもおかしくは無いと俺は思った。

 

「なんかオイラ、ココ入れないっぽい」

 

「どう言う事? 峰田君じゃ救助できないって事?」

 

「……って事は、必然的に峰田は救助される側になるのか?」

 

「そんな……ハッ!?」

 

「「「「「「………」」」」」」

 

峰田の視線の先を辿ると、女子組の全員が養豚場のブタを見る様な目で、峰田を静かに見ていた。ヤベェ。冗談のつもりで言った殺人計画が、現実のものとなる可能性が浮上してきたぞ。……ん? 待てよ? そうなると俺は殺人幇助の罪で逮捕か!?

 

その事に思い至った俺が、これから『USJ』で起こるだろう血の惨劇を回避する方法を、頭脳をフル回転させて考える中、災害救助で活躍するスペースヒーロー『13号』先生のお小言が始まった。

 

「超人社会は“個性”の使用を資格制にし、厳しく管理する事で一見成り立っているように見えます。しかし、その実一歩間違えれば簡単に人を殺傷できる力を個々人が持っている事を忘れないで下さい」

 

『………』

 

誰もが13号先生の言葉に、静かに耳を傾けていた。それは13号先生の言う事が、「“個性”を持つ事」が前提として成り立っている、超人社会の一つの真実だからだ。

 

そして13号先生が言うには、俺達は相澤先生の体力テストで“自分が秘めている可能性”を知り、オールマイトの対人訓練で“それを他人に向ける危うさ”を知った。そして今回の授業で、“そんな力を人命の為にどう活用するか”を学んで欲しいとの事だ。

 

「君達の力は人を傷つける為にあるのではない。助ける為にあるのだと心得て帰って下さいな。以上! ご静聴有り難うございました」

 

13号先生のお小言が終わった時、万雷の拍手と賞賛の嵐が13号先生に送られた。流石は紳士なヒーローと言われるだけはある13号先生だ。きっとカッコイイとは、こんな人の事を言うのだろう。

お蔭で峰田実殺人計画の事は、女子組の頭から抜けてしまっただろうし、俺もさっきまでの悩んでいた事を忘れ、これから始まる『人命救助訓練』に対して期待に胸を膨らませていた。

 

――鬼気迫る相澤先生の声が聞こえるまでは。

 

「一塊になって動くな! 13号、生徒を守れ!!」

 

相澤先生の背後に見える、中央広場の噴水付近に発生している黒いもやの様な物の中から、ゾロゾロと大勢の人間が出てきていた。そして誰もが悪意の光を宿した瞳をしているのを確認した俺は、即座に手に持っていたヘルメットを装着した。

 

「何だアリャ? また入試ん時みたいな、もう始まってんぞパターンか?」

 

「いや、アレはどう見ても救助を待つ“被災者”じゃない。あそこに居る連中が纏っているのは、明らかに“加害者” の雰囲気だ」

 

「呉島の言う通りだ! アレはヴィランだ!!」

 

「ヴィラン!? ヒーローの学校に入り込んでくるなんてアホ過ぎるぞ!?」

 

確かにそうだ。この雄英高校は数多くの名だたるプロヒーローが教職を務めており、言うなれば“ヒーローの巣窟”だ。俺だってヴィランがココを襲撃するなど、正気の沙汰とは思えない。

しかし、轟の懇切丁寧な説明のお蔭で、連中が“何か目的があってここに来た”事と、この襲撃が“用意周到に計画された奇襲”である事を、この場に居る全員が理解した。

 

そして、幾度となくチンピラや不良の集団に絡まれ、人知れず戦闘経験を積んでいた俺の経験則から考えれば、連中の雰囲気と立ち位置から判断するに、水色の髪をした全身に手を貼り付けている奴が主犯だ。取り敢えずアイツを俺の中で手マ……いや、ハンドマンと呼称するとしよう。

 

とりあえず俺は、仮面の下でバッタの“個性”を発動させる事にした。今はイナゴ怪人が俺の考えを勝手に受信しないようにしている(つもりでいる)し、俺が奴等にテレパシーを送信するには、“個性”を使った状態で無ければならないからだ。しかし、特に怒りの感情が無いこの状況では、バッタ男になるまでの時間が結構長い。

 

そうして俺がヘルメットの下でもたついている間に、俺達生徒は13号先生と共にこの場から避難する事、そして学校に連絡を入れる事を指示した相澤先生が、出久の心配を他所に単身ヴィラン達の居る中央広場へと飛び降りた。

 

相澤先生は多数のヴィランを相手に“抹消”の能力で相手の“個性”で無力化し、次々と体術と捕縛術でなぎ倒していく。そんな相澤先生の戦闘スタイルは、一言で言うなら華麗。オールマイトが“力のヒーロー”なら、相澤先生は“技のヒーロー”と言った所だろう。

 

「嫌だなプロヒーロー。肉弾戦も強い上、ゴーグルで目線を隠して集団戦にも適応させてるのか……チッ」

 

「凄い! 肉弾戦も強くて、目線をゴーグルで隠して集団戦も有利に運ぶなんて! 多対一の戦闘こそが先生の得意分野なんだ!」

 

む? あのハンドマン、もしかして分析力は出久並みか? 見た感じだと一番ヤバそうなのは、あの脳味噌丸出しの黒いマッチョメンだが、取り敢えずハンドマンへの警戒レベルは上げておいた方が良さそうだな。

……とは言うものの、俺達は相澤先生の言った通りに、13号先生の指示に従ってこの場から避難しなければならない。クラスの皆がゲートに向かっているので、俺と出久もそれに続いたのだが、先頭を走る13号先生の前に、黒いもやを纏ったヴィランが立ちはだかった。

 

「初めまして、我々は『敵連合』。僭越ながらこの度、“ヒーローの巣窟”たる雄英高校に入らせて頂いたのは……“平和の象徴”たるオールマイトに、息絶えて頂きたいと思っての事でして」

 

大胆不敵に目的を語る、黒いもやを纏ったヴィラン。コイツは俺の中でミストマンと呼称する事にしよう。そこから更に何事か行動を起こそうとしたミストマンに対して、血気盛んな勝己と切島が攻撃を仕掛けた。

 

「その前に俺達にやられるって事は、考えなかったのか!?」

 

「危ない、危ない……。そう、生徒とは言え優秀な金の卵……」

 

「駄目だ! どきなさい、二人とも!」

 

結果から言えば、勝己と切島の行動は悪手だった。二人が前に出た事で13号先生はブラックホールでミストマンを攻撃する事が出来ず、致命的な隙をミストマンに与えてしまったからだ。

 

「散らして……嬲り殺す」

 

勝己と切島の攻撃が全く効いていない様子のミストマンは、黒いもやで巨大な渦を作りだし、俺はそれに飲み込まれた。

 

 

●●●

 

 

突然空中を浮いている様な感覚に襲われ、平衡感覚が狂って上下左右が滅茶苦茶に感じる黒一色の世界から抜け出した先にあったのは、灼熱の炎によって燃え盛る町並み。

しかし上を見るとドーム型の天井が見えるので、ここは『USJ』の中にある火災ゾーンだと分かった。

 

「うわっと! ん? 呉島!?」

「尾白?」

 

「来たか。お前達に恨みはねぇが、へへへ……覚悟しろよぉ!!」

 

俺と尾白の二人を中心に、周囲360度に満遍なくヴィランが居た。そして炎熱系の“個性”を持っている複数のヴィランが、火炎放射による攻撃を俺達に繰り出してきた。

 

俺の“個性”の弱点は炎や高温であるものの、このコスチュームは零距離からの火炎放射にも耐えられる耐火性を誇る為、俺は特に何もしなくても問題ないのだが、俺の近くにいる尾白はそうはいかない。確実に丸焼けになるだろう。

 

だからこそ、このコスチュームの搭載された機能を使わせて貰う。

 

「や、やべぇッ!!」

 

「伏せろ尾白! 唸れ、『タイフーン』ッ!!」

 

ベルトの左横に備え付けられたダイヤルスイッチを捻り、ベルトの風車「タイフーン」が高速回転する。この「タイフーン」は通常空気を取り込む事で、搭載された機械類や装置の冷却、または胸部装甲の「コンバーターラング」に空気を圧縮させる事で、潜水時には空気ボンベの代わりすると言った恩恵を俺に与える。

そしてコレは裏技だが、通常と逆に「タイフーン」を回転させる事で、「コンバーターラング」に圧縮された空気を「タイフーン」から一気に排出する事が出来る。その時に排出される空気は、竜巻の様な凄まじい威力の爆風と化すのだ。

 

「な、何ぃいいいいいいいいいいいいいいッ!?」

 

「うおおおおおおおおお!! あっちぃいいいいいいいいいいいいッッ!!」

 

複数の方向から迫り来る炎を、ベルトの「タイフーン」から放たれる風で跳ね返し、それを周囲に展開させる事で巨大な炎の壁を作って、一時的にヴィラン達の視界が遮られた。

 

「何か、青山みたいな技だな……」

 

「確かに。コッチもほんの数秒しか使えないしな。それよりも尾白、一旦隠れるぞ」

 

「隠れるったって何処に……って、うおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!?」

 

尾白を抱えて高く跳躍し、炎の壁を乗り越えて手ごろな距離にある建物の屋上に着地する。一方のヴィラン達だが、炎の壁が消えたと思ったら俺達の姿がいなくなっていた事に驚き、手分けをして俺達を探し始めた。

 

「どうするんだ? このまま隠れながらココを脱出して、他の連中と合流するのか?」

 

「いや、ココにいるヴィラン達を俺達二人で全滅させよう。アイツ等は言ってみれば血に飢えた野獣だ。獲物を求めてココに居るなら、獲物が居ないと分かれば別の狩り場へと獲物を探しに行くに決まってる」

 

「クラスの誰かにしわ寄せがいくって訳か……」

 

「雑音が多くて聞き取り辛いが、クラスの皆は全員『USJ』の中に居る。それぞれが少なくとも二人以上の数で纏まっているから、取り敢えず逃げに専念すれば死にはしないだろう。そうなると一番ヤバイのは相澤先生だ」

 

「どうしてだよ? 相澤先生かなり強いぜ?」

 

「多対一戦闘で一番ヤバい展開は、雑魚から始まって消耗した所で強い奴との大将戦にもつれ込む事だ。それに今回の場合、本来なら相澤先生とオールマイトの二人が殿を務める筈だっただろうしな」

 

「確かに、相澤先生と一緒にオールマイトが居れば安心だよな」

 

尾白の言う事はもっともだし、俺も正直そう思っている。しかし、あのミストマンが「オールマイトを殺す」と語っていた以上、それこそがヴィラン達の望むべき展開だったのだろうとも思う。オールマイトがこの場に居なかったのは、ヴィラン達にとって大きな誤算だった筈だ。

 

「だから基本的に多対一の戦闘では、一番始めに大将を仕留めるのが理想だ。コレには相手側の戦意喪失を狙えると言うメリットもある。そう簡単にはいかないけどな。

まあ、裏技で敵の中で一番弱い奴を徹底的にボコボコにして戦意喪失させるって方法もあるが」

 

「………」

 

何だその目は。まさか俺がそんな事をするとでも思っているのか?

 

「……まあ、兎に角だ。ココにいるヴィランは全滅させる。しかし、俺を火災エリアに放り込んだと言う事は、俺の弱点が高温だと知っている可能性がある」

 

「そう言われてみれば、ココに居るヴィランは炎熱系の“個性”の奴が多かったな。つまり、情報が漏れてるって考えられる訳か」

 

「ああ。俺もそう思っているんだが、そうなると奇妙な事がある。それなら何でココに梅雨ちゃんがいないんだ?」

 

「蛙吹? ……あ! そうか! 蛙の“個性”!」

 

「そう。情報が漏れているとして、奴等が俺達の“個性”を知っているなら、俺の他に梅雨ちゃんがココに送られている筈だ」

 

まあ、要するに俺が今知りたいのは、連中が俺の事をどれだけ知っているのかと言う事だ。そこら辺が分かれば今後の展開は大きく異なる。

 

「そこでだ。俺は少し情報収集に集中する。尾白はその間、周りの見張りを頼む」

 

「あ、ああ、分かった。そう言えばさっきも何か雑音がどうのって言ってたよな? それもお前の“個性”の力か?」

 

「いや、このヘルメットが特別なだけだ」

 

このフルフェイスのヘルメットは、頭部を守る装甲であると同時に、ヒーローとして活動する上での情報を司る重要な部分だ。

俺の“個性”使用時における弊害を解消する『言語変換機能』を筆頭に、広い視界と赤外線による暗視能力に、ズーム機能を持つ複眼『Cアイ』。4キロ四方の音を聞き取る『聴覚補助』、電波の送受信を行う『超触覚アンテナ』、対ヴィラン用脳波探知機『Oシグナル』を備えているのだ。

 

今回は『聴覚補助』の機能を使い、ヴィラン達の会話を盗み聞きする事で奴等の情報を得るつもりだ。早速『聴覚補助』の有効範囲をこの付近一帯に絞り、意識を耳に集中させる。

 

『オイ! そっちにはいたか!?』

 

『駄目だ! 見当たらねぇ!』

 

『畜生! アイツ等一体何処に行きやがった!?』

 

『……なぁ、あのバッタの鉄仮面の隣にいた奴ってどんな顔してたっけ?』

 

『はぁ? お前何言って……アレ? どんな奴だっけ?』

 

『いや、そもそも二人だったか? 一人だった様な気がするんだが……』

 

……ふむ。取り敢えず、奴等は俺達の事を良く知らないようだ。俺の事を知っていたら『バッタの鉄仮面』じゃなくて、『怪人バッタ男』と呼ぶだろうし。

 

「尾白。作戦が決まった」

 

「ど、どんな作戦なんだ?」

 

「俺がこれからコスチュームを脱いで、怪人バッタ男の姿で奴等に接触する。そしてお前はさり気なく連中に混ざったら、適当に相手を混乱させる様な台詞を言って、連中を疑心暗鬼に陥れて仲間割れを誘うんだ」

 

「……いやいやいやいや! ちょっと待て! それの何処が作戦なんだ!? ヴィランの前にノコノコ出て、やられに行くって事だろ!?」

 

「大丈夫だ。奴等は俺達の事を知らないし、さっき見たお前の顔をよく覚えていない。それどころか、お前が初めからこの場に居なかった事にされかけている」

 

「はぁっ!?」

 

「いいか、尾白。俺を見て連中が仲間だと思ったなら『ヴィラン』。敵だと思ったなら連中は『よく訓練されたヴィラン』だ」

 

「いや、呉島。ちょっと待って、何で俺が居ない事にされてるんだ? なぁ!?」

 

「そんな事俺が知るか! いいから急げ! 時間がない!」

 

「お、おお……」

 

戸惑っている尾白を他所に、俺はコスチュームを脱いだ全裸の状態で、ヴィラン達に堂々と合流した。尾白も半信半疑と言った感じではあるが、俺の後ろをちゃんと着いて来てくれた。

 

「おお! そっちはどうだ!?」

 

「駄目だ! あの餓鬼ども、何処に行きやがった!」

 

「そうか。それで……えっと、ア、アンタの方はどうだ? 見つかったのか?」

 

「GURUUUU……」

 

「そ、そうか。居なかったのか……」

 

「………」

 

首を横に振って意志を示す俺を見て、ヴィランの誰もが俺達がターゲットである事に全く気付いていなかった。ヴィラン共は俺の事を仲間だと勘違いし、近くに居た尾白の事は気にも留めていない。

 

「……いや、ちょっと待て。ソイツは本当に俺達の仲間なのか?」

 

「はぁ!? どう見たって俺達と同じヴィランだろうが!」

 

「でもよぉ、あんな見た目の奴がいたら絶対に忘れないだろ。もしかして、アイツさっきの竜巻野郎なんじゃ……」

 

不味い! この見た目が逆に仇となるとはッ! しかし、ここで引いたら俺の正体がヒーローの卵だと思われてしまう! そこで俺は、『正しい事を言ったヴィラン』の胸倉を掴み、無理矢理にでも誤魔化す事にした。

 

「JYAAAAAAAGURUAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

 

「ひぃぃいいいいいいいいいいいいいいいいっ!! スミマセン! スミマセン! 俺が悪かったです! 貴方はどう見てもヴィランです! どうか許して下さいぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!!」

 

至近距離で俺の顔を見ながら、何と言っているのか分からない誤魔化しの叫びを聞いた『正しい事を言ったヴィラン』は、即座に俺に対して泣いて謝った。そして彼の台詞を聞いた俺も泣きそうになった。

確かにこの光景を見た奴に「どっちがヴィランか?」って聞いたら、十人中十人が「俺がヴィランだ」と答えるだろう。

 

「GRUUUU……」

 

「おい、何だか落ち込んでないか?」

 

「ああ、仲間じゃないって思われた事がショックだったんだろうな」

 

「そうだな。アレをヒーローだと思うなんてどうかしてるぜ」

 

「……でも、確かに奴等が俺達の中に紛れてるのかも知れないぜ?」

 

「お、おお。確かにそうだな。取り敢えず、コイツは除外するとして……ん? 今言ったの誰だ?」

 

「オラァ! てめぇかぁ!?」

 

「バッ、バカ! 俺は初めから居ただろぉ!?」

 

「ハッ! どうだかなぁッ!!」

 

こうしてヴィラン共は俺達の策に嵌り、同士討ちを展開して見る見る内に弱っていった。ちなみに、この仲間割れの引き金となった台詞を言ったのは、俺の後ろに居た尾白だ。ナイスフォローだが、涙目になるのは止めてくれ。俺も泣きそうなんだから。

 

そして俺は真正面から殴る蹴るの暴行によってヴィラン達をボコボコにし、尾白は暗殺者の様に静かに一人ずつヴィランを倒していった。必殺の「ハイバイブ・ネイル」や「スパイン・カッター」は決して使わない。ヒーローはヴィランを殺す為に拳を振るわないからだ。

 

かくして、俺と尾白は必要最低限の労力で火災ゾーンのヴィランを全滅させる事に成功し、全てのヴィランが地に伏せる中で、俺は尾白と会話をする為にヘルメットを被った。お蔭で首から上はヒーローで、首から下は怪人と言う、実にシュールな格好となっている。

 

「……呉島、この状況を俺は喜んでいいのか?」

 

「コレが『戦術』と言うものだ。そしてこれ以上、深く考えるのは止めよう。お互いに辛くなるだけだ」

 

「……そうだな」

 

まあ、正直今回の一件を考えると、下手をすれば尾白は透明人間の葉隠よりもステルス性能が高いような気がするのは確かだ。ある意味、相澤先生以上のアングラ系ヒーローになれるかも知れない。

 

こうして俺と尾白は「火災ゾーン」を脱出した訳だが、右隣の「山岳ゾーン」と左隣の「水難ゾーン」の内、俺達は「山岳ゾーン」へと向かった。「水難ゾーン」でも良かったのだが、俺の勘が「山岳ゾーン」へ行けと言っているのだ。もしかして、虫の知らせと言うヤツだろうか?

 

そして実際に「山岳ゾーン」に到着してみると、なんと上鳴がヴィランに捕まって人質になっていた。一緒に飛ばされたらしい、八百万と耳郎がホールドアップをしている。

 

「上鳴さん!!」

 

「やられた! 完全に油断してた……」

 

「同じ電気系個性としては殺したくないが……しょうがないよな」

 

「ウェ……ウェ……」

 

この位置からだと上鳴の表情が見えないが、声にならない悲鳴を上げている事から察するに、上鳴はきっと恐怖と緊張でガチガチの顔をしているのだろう。そして、あのヴィランが電気の“個性”持ちだとすれば、ヤツを倒せばこの施設の通信機や電気系統が全て回復する可能性が高い。

 

俺がそんな事を考えている間に、耳郎が上鳴を助けようと行動を起こしていたが、電気ヴィランには耳郎の作戦は筒抜けだった。

まあ、今まで伏兵として隠れていたって事は、耳郎の“個性”についても知っている訳だから、耳たぶに注意していれば簡単に分かるだろう。

 

「よし、行くぞ尾白! 俺達の生まれ持った才能の合体技『ザ・仲間割れ』の出番だ!」

 

「お、おお……」

 

尾白は乗り気ではなかったが、それでも俺達二人の連携は完璧だった。尾白は足音も無く静かに電気ヴィランの方へと移動し、俺は真正面から電気ヴィラン目掛け、雄叫びを上げて突進する。仮に俺が失敗したとしても、背後に居る尾白が上鳴を奪還すると言う訳だ。

 

「WOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!」

 

「何だ!? むっ、増援か!! はははは、天はどうやら俺に味方をしたようだな!!」

 

俺の姿を認識した電気ヴィランは、仲間が来たと勘違いした。お蔭であっさりと接近する事が出来たが、この電気ヴィランも『訓練されたヴィラン』では無いらしい。

 

「丁度良い所に来たな。コイツを少し持っていてくれ」

 

「GRUUUU?」

 

「何、この餓鬼共を殺す前に、ちょっと楽しませて貰うだけだ。安心しろ、お前の分もちゃんと残しておいて――」

 

「SHYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

 

「ぐわぁああああああああああああああああああああああああああああああッッ!!」

 

性欲を持て余した電気ヴィランの顔面に、容赦ない正義の鉄拳が炸裂する。完全に油断していた電気ヴィランは盛大に吹っ飛び、呆気なく気絶した。

 

さあ、これでもう大丈夫だ! クラスメイトの命と貞操を守った満足感と達成感は実に心地いい。しかし、そんな気分は人質となっていた上鳴の様子を見た瞬間、一気に霧散した。

 

「ウェ~~~~~~~~~~~~イ」

 

「GUWAA!?」

 

上鳴の様子は明らかに異常だった。垂れ下がった両眼は焦点が全く合っておらず、口はだらしなく開いた状態を常にキープし、鼻水と涎を延々と垂らしながらも、サムズアップした両手をひたすら前後に動かし続けている。

 

上鳴の身に一体、何が起こったと言うのか? それを考えた時、俺の頭に閃きという名の電流が走った。

 

かつて父さんが「人間の思考は電気信号であるため、電気や電波を操るタイプの“個性”持ちの中には、時として人間の思考回路を狂わせる事ができる奴がいる」と言っていた事を思い出したのだ。

そして、それによって完全に狂わされた人間は人格が完全に崩壊し、二度と元に戻らない「魂が無くなった抜け殻」と成り果てると言う事も。

 

恐らく上鳴はソレに嵌ってしまったのだ。この電気ヴィランが通信障害を起こしていた事は会話から間違いない。そして電気ヴィランは、自分の能力が効き辛いだろう、同じ電気系の“個性”を持つ上鳴を真っ先に狙い、その“個性”によって上鳴の魂を抜き取ったのだ。

 

それは上鳴の輝かしい未来が奪われたと同時に、俺の望む未来のために学ぶべき上鳴のコミュ力が、この世界から永遠に失われてしまったと言う事でもある。

 

……おのれ、電気ヴィランッ!! 貴様だけはッ!! 絶対にッッ!!!

 

ゆ゛る゛さ゛ん゛ッ゛ッ゛!!!!!

 

「GUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUU!!!」

 

「ちょ、く、呉島さん!? 一体どうしたのですか!?」

 

「な、何か、上鳴を見て凄く怒ってるみたいだけど……」

 

八百万と耳郎が何やら戸惑っているが、もはや俺の頭の中には上鳴を元に戻す事しかない。取り敢えず先程殴り飛ばした電気ヴィランを叩き起こし、駄目元で上鳴を元に戻せるのかどうかを聞くことにする。

 

「GUWAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!」

 

「あ、が、おお? ……ううっ、な、何が……」

 

「JYAAGYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!」

 

「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!! 分かった! お前が先で良い! 何ならその二人はくれてやるから――」

 

「BUURUAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

 

「ひぃいいいいいいいいいいいいいいっっ!! 一体何だってんだよぉおおおおおおおおおおおおおおおっっ!!」

 

俺をお前と一緒にするんじゃあないッ! 相変わらずふざけた事を抜かす電気ヴィランの胸倉を掴んでガクガク揺らし、俺は怒りの赴くままに叫びまくった。

 

「こ、この、クソッタレがぁああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!」

 

「SHIGYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!」

 

追い詰められた電気ヴィランは、全身から強烈な電撃を放ってきた。バチバチと体中を走る電流のダメージによって体が悲鳴を上げているが、俺は何としてでも上鳴を「明るい狂人」から「善いチャラ男」に戻さなければならないのだ!

そして、人質を取って卑劣な犯罪に手を染める事を躊躇しない、こんなヴィラン如きに負ける訳には行かないッッ!! 悪い奴等は……許さないッッ!!!

 

俺がそんな事を思った時、不思議な事が起こった。

 

「UGAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

 

「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

腹の底から力を込めて気合を入れると同時に、俺の触角から緑色の電撃が放たれ、電気ヴィランに予想外のダメージを与えたのだ。そして再び胸倉を掴んでガクガク揺すり、怒りのままに叫びまくった

 

「GWAAAGUJYAGYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!」

 

「ひぃぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいッッ!! た、助けてくれぇえええええええええええええええええええええええええええッッ!!」

 

遂に助けを求めた電気ヴィランだが、コイツを乗船させる助け舟などある筈が無い……と思いきや、実に意外な人物がココで電気ヴィランに助け舟を出した。

 

「呉島! ヘルメット被ってなきゃ、何喋ってるのか分からないって!」

 

「え!? 尾白!?」

 

「尾白さん!? 何時の間に!?」

 

俺と電気ヴィランのやり取りを見て埒が明かないと思ったのか、尾白がヘルメットを俺に投げ渡した。耳郎と八百万は尾白が居る事に驚いているが、実は尾白は俺が電気ヴィランを殴り倒した時からその場所に居た。

そして怒りによって我を忘れていた俺は、尾白から受け取ったヘルメットを被り、電気ヴィランに人間の言葉で話しかけた。

 

「貴様! この男、上鳴電気を明るい狂人にしたのは、ズバリ貴様の“個性”の仕業だな!」

 

「へっ!? ち、違――」

 

「貴様だなッッ!!」

 

「ち、ち、違う! 俺が人質に取った時には、ソイツは既に狂っていたんだ!」

 

「嘘をつけぇえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええッッ!!!」

 

この期に及んで白を切る電気ヴィランに、俺の怒りは頂点に達した!

 

電気ヴィランの顔面に、怒りの暴力「ホッパー・バイオレンス」が炸裂する! しかし必殺の「ハイバイブ・ネイル」や「スパイン・カッター」は決して使わない! ヒーローはヴィランを殺す為に拳を振るわないからだ! 今回はソレが逆にキツイかも知れないがな!

心の中で燃え盛る地獄の炎の様な怒りを込めつつ、相手が死なない程度に手加減したパンチよって、電気ヴィランは行きのバスで女子組にリンチされた峰田の様に、みるみるズタボロになっていった。

 

「貴様がッ! 治すまでッ! 殴るのをッ! 止めないッッ!!」

 

「く、呉島! ストップ! ストップ! それ以上やったら死んじゃうって!」

 

「殺しやしねぇよ! 峰田と同じ程度に辛い目に遭うだけだ!」

 

「いや、傍から見たら殺そうとしてる様にしか見えないんだけど! てゆーか! 上鳴はコイツの所為でこうなったんじゃないし!」

 

「やかましい! コイツには上鳴をとっとと治して……何ぃッ!?」

 

耳郎の言葉に俺は耳を疑い、改めて上鳴の姿を見た。

 

「ウェイ、ウェイ、ウェエ~~~~~~~~~~~~~イ☆」

 

……とても信じられんな。上鳴のこの目を背けたくなる様な姿が、この電気ヴィランの仕業ではないだとッ!?

 

「……本当にコイツは、上鳴のアレとは無関係なのか?」

 

「ほ、本当ですわ。上鳴さんは自分の“個性”を使った後で、反動で自然にそうなってしまったんですわ」

 

「う、うん。この間のオールマイトの授業でウチと一緒になった時も『まだウィける』とか言ってて、ちょっと怪しかったし」

 

どうやら上鳴がああなったのは、本当にコイツの所為では無いらしい。

 

しかし、上鳴を人質に取り、八百万と耳郎で欲望を満たした上で殺そうとした事を考えれば、この電気ヴィランが有罪である事には変わりない。よって……。

 

「ふぁ、ふぁふぁっふぇふへ……」

 

「フンッ!!」

 

「ぐぶふぉっ!!」

 

鳩尾に一撃を入れて気絶させ、八百万に頼んで作って貰ったカードに『この男、殺人及び強姦未遂犯人』と書いて貼り付けた。これにて一件落着ッ!

 

「成敗ッ!!」

 

「……助けてもらってなんだけど、ウチにはむしろ呉島の方がヴィランに見えたな……」

 

「私もですわ。助けてもらってなんですけど……」

 

「ウェ~~~~~~~~~~~イ☆」

 

「それじゃあ、他の皆と合流しようか」

 

「その前にちゃんとコスチュームを着て下さいまし! 私達はプロヒーローを目指す身なのですよ!」

 

相変わらず頭だけがヒーローの俺を見て、流石に見過ごす事が出来なかったらしい八百万が苦言を呈した。

……まあ、確かにヒーローの卵としてではなく、似非ヴィランの怪人として戦うのは不味い様な気がするな。合理的ではあると思うんだけど。

 

 

●●●

 

 

今度はちゃんと全身をコスチュームで覆い、ヒーローの卵として行動する。現在俺を含めた5人の内、戦闘不能になっているのは上鳴だけだ。

 

このまま反時計回りに『USJ』の各訓練ゾーンを回ろうと思っていたのだが、ゲート付近の13号先生が倒れ、中央広場の相澤先生が脳味噌丸出しの黒いマッチョメンによって腕をぐしゃぐしゃにされていた。相澤先生の近くにはマッチョメンの他に、ハンドマンとミストマンが居る。

 

「……ヤバイ。相澤先生と13号先生がやられた。それで、飯田が脱出に成功したらしい」

 

「? 飯田さんが脱出したなら、間も無くココに先生方が救援に向かってくると言う事でしょう? 何か悪い事でもありますの?」

 

「ああ、かなり不味い。この手の連中は目的が達成出来ないと判断したら、その時点で目的を変更する。“オールマイト打倒”から、“嫌がらせ”にな。具体的には、相手を殺せないにしても、後遺症が残るような怪我を負わせるとか」

 

「……なあ、さっきから思ってたんだけど、呉島って何か手馴れてないか?」

 

「中学時代はこーゆー輩によく絡まれたからな。『怪人を倒せば名が上がる』とか言う訳の分からない理由で」

 

「そ、そうか……」

 

こうしている間にも聞こえてくるハンドマンとミストマンとの会話から、ハンドマンが連中の首魁である事が確定した。そして更に悪い事に、相澤先生と13号先生がやられた事で、ゲート付近の麗日達にヴィランが迫っている。

 

「……俺が中央広場の相澤先生を奪還した上で、ヴィラン達を無力化する。皆は他のゾーンに居るだろうクラスの奴等を頼む」

 

「一人で行く気か!? 幾らなんでも無茶だろ!?」

 

「いや、可能だ。10秒もあればな」

 

「……“個性”把握テストの時のアレですわね」

 

「そうだ。アレを使う」

 

八百万は俺が何をしようとしているのか分かっているらしい。まあ、あの時の事は嫌でも記憶に残るよな、俺とお前は。そして、“個性”把握テストの時を思い出したのか、尾白と耳郎も納得の表情を見せた。

 

「確かにアレなら出来るかも……」

 

「ああ、出来そうな気がする」

 

「……それでしたら、終わったら麗日さん達を連れてココに戻ってきて下さい。その後で手分けをして各ゾーンを回りましょう」

 

「分かった」

 

俺は三人に上鳴を任せ、「アクセルフォーム」の使用に踏み切った。中央広場に向かって走りながらベルトの左横のダイヤルスイッチを捻ると、「タイフーン」が勢いよく回転し、コスチュームの中に空気を取り込み始める。それに伴ってコスチュームが、一回り程大きく膨張する。

 

「キャストオフ」

 

新しく追加された機能の名前を呼ぶと同時に、ベルトの右横のプッシュスイッチを叩くと、まるで風船が破裂したかの様にコスチュームは弾け飛んだ。それと同時に“脱皮”によってかつての“個性”把握テストで体験したときと同じ感覚が体を貫き、全てが停止していると錯覚するほど、周りがゆっくりとしたヴィジョンの世界に突入した俺は、手始めに中央から水難ゾーンに移動して梅雨ちゃんの頭に触れようとしていた、ハンドマンのがら空きになった左脇腹を蹴っ飛ばした。

 

続いて相澤先生を組み敷いているマッチョメンをどけようと殴りかかるが……びくともしない上に、手ごたえが明らかにおかしい。まるで巨大なタイヤを殴っている様な感じだ。

仕方無しに俺は、出久と梅雨ちゃんと峰田を抱えながら階段を駆け上がり、入り口のゲート付近まで移動して三人を降ろしてから、今度は麗日達に迫るヴィラン達とミストマンを殴り飛ばし、再び相澤先生を救出すべくマッチョメンへと迫った。

 

 

○○○

 

 

それは、蛙吹さんが主犯と思われるヴィランに襲われようとしていた、ほんの一瞬の間に起こった出来事だった。

 

「平和の象徴の矜持を少しでも、圧しお――」

 

相澤先生の肘を崩壊させた“個性”を、ヴィランが蛙吹さんに使おうとした刹那、いきなりヴィランが吹き飛んだと思ったら、脳味噌ヴィランから何かを激しく叩く音が聞こえた。

そして次の瞬間には僕の体が凄い力で引っ張られて、水難ゾーンに居た筈の僕達は何故かゲート付近にいた。

 

「わっ!? デク君達、何時の間に!?」

 

「うおっ!? な、何か今通ったか!?」

 

「え? な、何だ!?」

 

「分からないわ。気付いたら――」

 

峰田君達は混乱していたけど、僕には何となく予想がついていた。

 

そして言葉が続かなかった蛙吹さんが見つめる先にあったのは、階段を駆け上がっていたヴィラン達が宙を舞い、ワープの“個性”を持つ黒いもやのヴィランが吹き飛ばされる光景だった。

視界の中にいるヴィラン達が次々と吹き飛ばされる中で、例外なのは脳味噌ヴィランただ一人。何度も激しい衝撃音がしているのに微動だにしていない。そんな脳味噌ヴィランが右腕を払うように動かした時、何かに投げ飛ばされる様な体勢で脳味噌ヴィランが空中に飛び出して、相澤先生がゲート付近に現れた。

 

「相澤先……うおっ!? また何か通った!!」

 

「な、何だよコレ!? 一体、何が起こってんだよ!?」

 

「……あっちゃん」

 

「呉島!? 呉島がコレをやってるって言うのか!?」

 

僕の発言に皆が驚く一方で、脳味噌ヴィランは不自然な体勢で空中に停滞していた。脳味噌ヴィランの周りに巻き上がる土埃と、木や壁の破壊跡から、そこを足場にして移動している事が分かる。脳味噌ヴィランから聞こえる断続的に続く衝撃音は、脳味噌ヴィランが水難ゾーンへと猛烈な勢いで吹っ飛ぶまで続いた。

 

「す、すげぇ……」

 

「FUUUUUUU……」

 

「み、皆、アレ!」

 

麗日さんの声で、水難ゾーンから中央広場の方に目を向けると、“個性”把握テストで見せたシャープな姿から、何時もの見慣れた姿に戻ったあっちゃんがいた。手には風車のついたベルトを持っている。

 

「ああああ……駄目だ、駄目だ。ごめんなさい……」

 

「……一体、何のつもりだ? 貴様、我々を裏切るつもりか?」

 

肩で息をしているあっちゃんに対して、もやのヴィランがあっちゃんを見て仲間だと思ったのか、的外れな事を言っている。

そんなもやのヴィランの言葉を無視して、あっちゃんはベルトを腰に装着してから、左手でスイッチを捻った。ベルトの中央に備えられた風車が取り込む空気は、ドームで閉ざされた『USJ』の中に渦巻く風を……いや、“嵐”を巻き起こした。

 

あっちゃんの体は、ベルトを中心にして腹から胸へ、胸から肩へ、そして肩から手足へ……と、徐々に段階を踏んでライダースーツの様なコスチュームに包まれていく。そしてその嵐に巻き込まれる様な動きで、何処からともなく胸部装甲とヘルメットが、あっちゃんの元へと飛んでいった。でも良く見るとあっちゃんの指が動いているから、アレは『超強力念力』で引き寄せているんだと思った。

 

「……お前、俺達が集めた手駒じゃないのか? 何なんだ、お前?」

 

あっちゃんの胸に胸部装甲がくっつき、頭に被ったヘルメットにクラッシャーが嵌め込まれると同時に、顔から吹き飛んだ手を元に戻して落ち着きを取り戻したヴィランが、あっちゃんが何者なのか尋ねた。

 

「……仮面、ライダー」

 

あっちゃんは自分の目指すヒーロー像を表したヒーロー名を堂々と告げると、ヘルメットの複眼を赤く輝かせた。




キャラクタァ~紹介&解説

尾白
 尻尾の生えた“個性”を持つ男だが、『すまっしゅ!!』では主人公とは別ベクトルでかっちゃんにヴィランだと勘違いされた悲劇の男。しかし、この世界では圧倒的な存在感を誇るシンさんのお蔭で、切島にフォローになっていないフォローをされる未来は回避された。合体技も出来たことだし、やったね尾白君! 

八百万百
 説明不要のエロイン。シンさんとは「強力な“個性”を持っていて、衣服を着る事が“個性”使用時に弊害となる」と言う共通した問題を抱えている。ちなみに彼女と絡む時、基本的にシンさんは全裸。ある意味似た者同士なのだが、ケツ丸出し(『序章』の3/3話)だったり、怪人がヴィランを襲っていたりと、どうにも絡ませる場面が問題となっている。

耳朗響香
 峰田に合体技を言及されなかったジロイン。多分、他のクラスメイトと比べて控えめな胸が原因だと思われる。可哀想なやっちゃで。
 最近『新・仮面ライダーSPIRITS』の大ボスである大首領JUDOが、ドラゴンアームを装備したライダーマンを“心臓の鼓動”で撃破した所為で、作者のこの子に対する印象が大きく変わってしまった。どうしてくれようか。

13号
 ダイソン的な“個性”を持つアポロなスペースヒーロー。そう言えば、デク君がかっちゃんに爆破されたノートは“№13”で、シンさんは昭和ライダー“13号”だった。別に狙った訳でも無いし、だからなんだと言われればそれまでだが。



シンさんのコスチューム(脱皮型)
 コスチュームの見た目は大差ないが、色が『仮面ライダー THE NEXT』の、桜島1号を髣髴とさせるカラーリングに変化している。決して現場にあった黒色のスプレーを塗ったわけでは無い。
 基本性能は以前と特に大差ないが、コスチュームの着用に基づく「シンさん・アクセルフォーム」の使用制限を解決する為に「必要に応じて瞬時にコスチュームを着脱出来るシステム」が搭載されている。名称は勿論『キャストオフ』。
 元ネタはご存知『仮面ライダーカブト』の二段階変身システムだが、小説『仮面ライダー 1971-1973』に登場する強化服の設定を考えると、「あの世界で唯一の仮面ライダーである本郷猛は、2006年代に『キャストオフ』の機能がついた強化服を着てワームやネイティブと戦っていたのではないか?」と作者が思った事が、このコスチュームの元となっている。もっとも、作中で既に『超感覚』と言う『クロックアップ』紛いの事が出来ていた本郷にとって、それは特に必要の無い機能なのかも知れないが。

変身ベルト
 シンさんのコスチュームの中枢である、真紅の風車が着いたベルト。左側に風車を起動させるダイヤルスイッチが、右側に『キャストオフ』を起動させるプッシュスイッチがある。今回お披露目した“逆タイフーンもどき”に関しては、TV版で新1号が敵の火炎放射を弾き返した描写を作者なりにアレンジしたもの。
 設定としてはこれから登場するだろう強化服「ホッパー・Version3」の「逆ダブルタイフーン」の試作品として搭載されている。完成したならば『仮面ライダーSPIRITS』のV3の様に、砂に埋もれたピラミッドを掘り返す程のパワーを発揮するだろう。

合体技
 峰田の台詞は作中には無いが、多分これ位の事は言っていないとあそこまでボコボコにはされないと思う。そして「怒りの暴力」と「発育の暴力」の合体技を期待した読者には悪いが、ソレを書くつもりは無い。

触覚から放たれる緑色の電撃
 電気ヴィランの電撃攻撃を受けたシンさんが獲得した能力。元ネタは仮面ライダーヤミーこと『オーズ』のバッタヤミーに加え、仮面ライダー2号の相手の放った電撃を受けた後に相手に送り返したり、指先から放電したりする「ライダー放電」と言う技。

ホッパー・バイオレンス
 前作の『序章』でチラッと説明した、シンさんがユルサンとなった時に繰り出される“怒りの暴力”。傍から見れば割りと容赦無く見えるが、不本意にも実戦を積んできたシンさんは、ちゃんと手加減をしている。それはそれでキツイが。
 電気ヴィランとのやりとりは、さすらいのヒーローこと『怪傑ズバット』が元ネタ。しかし、科学者であるシンさんの父親はピンピンしているし、どこぞのドッ可愛いさんとはまだ面識さえ無かったりする。

怪人バッタ男から仮面ライダーへ
 変身シークエンスの元ネタは、当初は変身ポーズが無かったTV版の旧1号と、『THE FIRST』や『THE NEXT』に登場するホッパー1の変身シーン。小説版『仮面ライダー1971-1973』で、本郷猛が「一瞬で強化服を着て変身するなんて、そんな便利な事は出来ない」みたいな事を言っていたので、コレをアレンジするかしないかで作者は大分悩んだが、結局『THE FIRST』や『THE NEXT』の要素を少しでも取り入れたかったで採用した。
 ついでに「“怪人”を“仮面ライダー”と言う次元へ引き上げるには、どうしても変身ベルトが必要である」と言う、『アマゾンズ』的なメタ要素も取り入れてみた次第。もっとも、「怪人バッタ男」から「仮面ライダー」への変化に関しては、『仮面ライダーBLACK』の第1話を見れば事足りるかも知れないが。



後書き

これにて、原作第二巻に相当する時間軸が終了です。年内に投稿する事を目標に、次の話でUSJ編を終わらせて、来年からはザギバス・ゲゲル……じゃなかった。雄英体育祭編に行きたいと思います。

???「今だ! ライジングになりなさ~い! ラ・イ・ジ・ン・グ!」

なりません。『クウガ』のバッタ兄貴はライジングになれないし。

ライジングになれる怪人は、ガドル閣下だけでいい……。

次回「死斗! 怪人バッタ男VS改造人間脳無」をご期待下さい。

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