怪人バッタ男 THE FIRST   作:トライアルドーパント

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二話連続投稿の二話目です。しかも、前話に輪をかけて不穏極まりないタイトル。元ネタは『仮面ライダーストロンガー』からで、採用の理由はこの話で“第7のイナゴ怪人”が出現するから。

今回は『アマゾンズ』のネタを入れたので、残酷な描写があります。「シンさんを主人公にしておいて何を今更」と思うかも知れませんが、くれぐれもお気をつけ下さい。

そして作者としては、段々と一話ごとの文字数が多くなるのと、誤字脱字を何とかしたい所。後は作業スピード。

2018/5/21 誤字報告より誤字を修正しました。報告ありがとうございます。


第7話 恐怖のミュータントバッタ! 超人を狙う!!

1年A組入場ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!! 

 

期待と興奮に顔を綻ばせていた観客の表情がッ!! 一瞬にして凍りついたッ!!

 

「GUUUUUUFUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUU!!」

 

雄英史上最恐の一年生……呉島新ッ、15歳ッ!!

 

「な、何だアイツは!?」

 

「アレ!? 一人だけ怪人がいる!!」

 

明らかに画風の異なる恐るべき怪人の登場に、ビビリまくる観客達ッ! 将来の『相棒【サイドキック】』候補となる、ヒーローの卵達を見に来たプロヒーローを含め、雄英高校の怪童・呉島新、観客の意識と視線を早くも、完・全・独・占ッッ!!

 

そんな会場の空気の異様な変化は、A組の後に入場するB組の生徒達にしっかりと伝わっており、怪訝な様子で会場入りした彼等はA組を見た瞬間、その理由を嫌でも理解させられた。

 

――その時の様子を、ヒーロー科1年B組の拳藤一佳はこう語る。

 

「正直な話『USJ』の事件以降、私達も同じヒーロー科なのにA組だけが注目されて、ちょっと悔しかったんですよ。偵察に行った鉄哲が、『A組の連中は凄く調子に乗ってる』って言ってた事もあって、体育祭ではB組がA組よりも活躍して、B組の方が凄いんだって認めて貰おうって、皆でクラスぐるみの作戦なんかも考えていました」

 

――上に行けば問題ない――

 

そんな爆豪の台詞や態度は、受け手によっては「自分の実力の方が上なのだから、どんな横暴な態度や言動も許されると思っている」と言った風に受け取られかねない。

事実、鉄哲から事の顛末を聞いたB組の何人かはそう思っており、更に爆豪の台詞に共感したA組の生徒がいた事もあり、「爆豪の台詞=A組の総意である」と歪んだ形でB組の面々は受け取ってしまい、B組は「如何にしてA組の面々に吠え面をかかせてやろうか」と躍起になっていた。

 

「自画自賛する訳ではありませんが、私達の準備は万端でした。……いえ、万端の筈でした。A組が入場した後、会場から漂う奇妙な雰囲気を不思議に思いながら私達が会場に入ると、A組の中に一人だけ、怪人としか言いようのない奴がいて、こめかみをピクピクさせながら此方を睨んでいたんです」

 

ソレは、異形系の“個性”と言うには、余りにもグロテスクで、余りにも怖過ぎた。

 

『HUUUUSYUUUUUUUUU……!』

 

『(……な、何、アレ?)』

 

実を言うと、一佳も一応A組の偵察を独自に行っていたのだが、あんな奴は見た覚えが無い……と言うか、確実にいなかったと断言出来る。あんなありとあらゆる意味で圧倒的な見た目をした怪人が教室に居ようものなら、一目見るだけで絶対に忘れない自信がある。むしろ脳裏に焼きついて、脳が忘れる事を絶対に許さない。

 

『おい、何か凄ぇコッチ見てるぞ……』

 

『心なしか、鉄哲を見ている様な気がしないか?』

 

『ははは、そんな馬鹿な……』

 

『WUUUUUUUUUUUUUUUUUU!!』

 

『(……ヤベェ。バッチリ目が合った)』

 

ちなみに当の怪人バッタ男はと言うと、B組を恐怖のドン底に叩き落としているものの、爆豪の台詞に対して威勢よく啖呵を切った鉄哲に、別に恨みや憎しみを抱いている訳ではない。ただ、緊張から“個性”を発動させてしまい、金属質になった鉄哲の体を注意深く観察していただけである。

しかし、そんな怪人バッタ男の心境など、鉄哲達は知る由も無い。鉄哲は全身から嫌な汗を滝の様に垂れ流していた。気に入らない態度だった爆豪に対して啖呵を切った結果、あんな化物染みた奴に目を付けられるなど、一体誰が想像できようか。

 

『……ど、どうする?』

 

『どうしよう……』

 

『私にこの状況を打開する良い考えがある』

 

『『『『『何ッ!?』』』』』

 

混乱の極みにあるB組の中で、冷静に対抗手段がある事を告げたのは、怪人バッタ男とは別ベクトルで画風が違う、妖怪ブタ男こと神谷兼人。

屋内対人戦闘訓練ではトンでもない行動を起こした前科持ちであるものの、この緊急事態では縋れるものなら藁でも縋りたい心境であるB組の面々は、全員が神谷に期待と不安の混ざった眼差しを向けつつ、神谷の言葉に耳を傾けた。

 

『いいか? 私一人では駄目だ。クラス全員が一丸となって……』

 

『『『『『一丸となって?』』』』』

 

『鉄哲を生贄として差出し、A組の軍門に下る』

 

『『『『『………』』』』』

 

藁ではなく屑に期待した自分達が馬鹿だった。神谷の策を聞いたB組の面々は、本気の殺意を乗せた蹴りと踏みつけを、容赦なく神谷の体に叩き込んだ。

 

『『『『『このこのこのこのこのこのこのこのこのこのこのこのこのこのこのこのこのこのこのこのこのこのこのこのこのこのこのこのこのこのこのこのッ!!』』』』』

 

『ジョーク! ジョーーク! アメリカンジョーーークッ!』

 

『おいいいいいいいッ!? B組の連中は一体何をやってんだーーーーー!? ポーク100%のハンバーグでも作るつもりかーーーーーー!?』

 

プレゼント・マイクの言葉でB組は我に返った。会場の特大スクリーンには自分達が映し出されており、ヒーローの卵にあるまじき集団リンチが、公共の電波を通じて全国のお茶の間に中継されてしまった。

これは不味い……と思う一方、怪人バッタ男の注意はB組から普通科C組に移った様で、内心B組はその事にホッとした。

 

もっとも、怪人バッタ男の眼球は単眼を複眼と併せ持つ器官である為、C組の方を見ている間もしっかりとB組の動向を観察していると言う事に、彼等は全く気付いていない。

 

『さあ続いて、ここからは普通科! C・D・E組の入場だーーーーーーーーーーー!!』

 

そしてヒーロー科に続いて入場した普通科の生徒達だが、やはりと言うか何と言うか、誰もが同じ様なリアクションをしていた。

 

『GUUUUWUUUUUUUUUUUFUUUUUUUUUUUUUUUUUU!!』

 

『ハハハ……。お、俺達って引き立て役だよな……』

 

『あいつ等もな……』

 

『『『………』』』

 

今にも問答無用で片っ端から人間をふん捕まえ、頭からバリボリと貪り喰らいそうな恐ろしい怪人に凝視されている。

 

そんな今までに体験した事の無い未曾有の恐怖を味わっている現実から一時でも目を反らしたい一心で、一人の生徒が自虐的な台詞を吐き出すが、それに対する返答を否定出来る者は一人もいなかった。

 

事実、その言葉は正しい。そもそもA組以外のヒーロー科や普通科、サポート科や経営科と言った他のクラスの面々は、自分達がA組の引き立て役となる事を、マスメディアでの取り上げ方等から予想していた。

 

しかし、現実はどうだ? A組以外のクラスはA組の引き立て役であり、そのA組の面々はたった一人の怪人の引き立て役と成り果てているではないか!

 

「はい。正に会場内の視線を独り占めって感じでした。観客も生徒も、もしかしたら全国の視聴者も、たった一人の怪人に意識を向けていたと思います。ただ、ごく一部の普通科やサポート科の生徒にとって、怪人の存在は不幸以外の何物でも無かったらしいのです」

 

一佳の言う「極一部の普通科やサポート科の生徒」とは、只の普通科やサポート科の生徒ではない。雄英高校の入試の際、新と同じ試験会場でヒーロー科の実技試験を受け、試験に落ちて普通科やサポート科に入学した生徒達だ。

 

事前に説明されていた4種類の仮想ヴィランとは別に出現した、裏ボス的仮想ヴィランと思われた一人の怪人。彼等の脳内フォルダには、未だに0Pの巨大ロボを真っ二つにし、異様な動きでビルの間を駆け抜けた怪人の姿が、色々な記憶を上書きした形で鮮明に保存されている。

 

正直、怪人に集中していたお蔭で敵Pを稼ぐ事が出来ず、更に他の会場で試験を受けていた同校の受験生から「こっちにそんな仮想ヴィランはいなかった」と知って、落ちた受験生の中には、「あの時に怪人を倒していれば特別点が入ったかも」とか、「あんな怪人に構っていなければもっとポイントが取れた」とか、そんなIFを想像しつつ普通科やサポート科に入学した者も多い。

そんな面々からすれば、この雄英体育祭は一発逆転、或いは下克上の数少ないチャンスである。入学間も無い今なら、その可能性は充分にあると踏んでいたのだ。

 

……その怪人をヒーロー科A組の生徒の中で見かけるまでは。

 

『う、ウソだ! 有り得ないッ!』

 

『もう駄目よ。おしまいよぉ……』

 

『か、帰りてぇ~~~~~~~ッッ』

 

その姿を見た瞬間、少年少女達の計算は完全に狂った。仮想ヴィランだと思っていた怪人が、実は自分達と同じ受験生で、しかもヒーロー科に合格していたなど、全く知らなかったし、想定さえもしていなかったのだ。

 

まだ体育祭の開会式さえ始まっていないにも関らず、あまりにも予想外過ぎる展開に心がポッキリと折れてしまい、既にして敗北者の様な雰囲気を醸し出している生徒がいる中、主審である18禁ヒーロー『ミッドナイト』が、雄英体育祭一年ステージの開会を宣言しようとした――その時である。

 

「雲ひとつ無い青空の中、会場に燦燦と降り注ぐ太陽の光が、突然遮られたんです。それこそカーテンでもかけたみたいに。

初めは雲かと思ったんですが、空を見上げると雲みたいに大きくて、真っ黒なモノが蠢いていたんです。そしてそれは段々と大きくなる羽音と共に、ゆっくりと此方に近づいてきました」

 

アレは一体何だ!? 鳥か!? 飛行機か!? いや……ミュータントバッタだッ!!

 

それも半端な数では無い。それこそ空を覆い尽くさんばかりに膨大な数だ。しかもとてつもなくデカイ! そんなバッタの大群が、会場の上空で不気味に渦を巻いて飛翔している。その光景を見て、A組の口田は泡を吹いて気絶した。

 

『フハハハハハハハハハハハハハハ! 小さな親切! 大きなお世話! それでも必ずやって来る! 愛と正義の名の元に! トォオオオオオオオオオオオオウッ!!』

 

バッタの大群の中から、得体の知れぬ笑い声と口上が聞こえたと思うと、バッタの群れが7つに分離し、それぞれが人型を形成して会場に降り立った。

 

『あ、貴方達は!!』

 

『そう! 私は、イナゴ怪人1号ッ!』

 

『イナゴ怪人2号ッ!』

 

『イナゴ怪人ブイスリャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!』

 

『イナゴマン!』

 

『イナゴ怪人エェーーーーーーーーーーックスッ!!』

 

『アァーーーーーマァーーーーーーーーゾォオオーーーーーーーーーーーーンッ!!』

 

『天が呼ぶ、地が呼ぶ、人が呼ぶ! 悪を倒せと俺を呼ぶ! 聞けい、悪人共ッ! 俺は正義の戦士!! イナゴ怪人ッ!! ストロンガァアア

アァーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!』

 

突如現れた7人の怪人軍団。そして背後で何故か大爆発が巻き起こる。まるでヒーローショーを見ているようだが、イナゴ怪人の登場は会場の空気を更なる混乱へと導いた。

 

ミッドナイトは『USJ』の事件でイナゴ怪人が警察に連行される姿を目撃しているし、事前にオールマイトや相澤から、イナゴ怪人の持つ性質や性格と言った事を含めて充分な説明がされており、イナゴ怪人が体育祭に乱入する可能性が高い事も予測していた。

 

しかし、そんな事情を知らない生徒や観客は違う。……いや、明らかに立っている場所がおかしい怪人が既に居るので、何らかの関係はあるのでは無いかと予想している者もいるが、どう考えても人間では無いし、どう見ても化物以外の何者でもない。

 

『ヴィランが出たぞ! 雄英ヒーローは何やってるんだ!?』

 

『誰がヴィランだ馬鹿者! 我々は断じてヴィランなどでは無いッ!』

 

『何処からどう見ても、正義の味方に立ち向かう、悪の怪人軍団だろうが!』

 

『そーだ! そーだ!』

 

観客席からイナゴ怪人達に降り注ぐ、絶え間ないブーイングの嵐。自分の言葉を信じてもらえず、存在さえも否定される。そうして蓄積したイライラが遂に頂点に達し、イナゴ怪人1号がブチ切れた。

 

『……ええいッ! ならば此方も“正義の味方”をすればよいのだろう!?』

 

しかし、予想の斜め上をぶっ飛んでいくイナゴ怪人1号の発言に、観客が「は?」となった瞬間、何処からともなく軽快なミュージックが会場内に流れ出した。

 

『マッハ全壊ッ(誤字に非ず)!! ローカス・ワンッ!』

 

『ズバリ制海ッ(誤字に非ず)!! ローカス・エェーーーーーーーーークスッ!!』

 

『スマイルまんか~い♪ ブイスリャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!』

 

『怒気怒気、ユカイッ(誤字に非ず)!! アァーーーーマァアーーーーーーゾォオオオーーーーーン!!』

 

『奪取豪快ッ(誤字に非ず)!! ローカス・トゥウーーッ!!』

 

『無礼苦限界ッ(只の当て字)!! ストロンガァアアーーーーーーーーーーーーッ!!』

 

『キラキラ世界ッ!! ローカス・メェエエエエエエエエエンッ!!』

 

先程の名乗りと異なる口上とポーズを、音楽に合わせた無駄に華麗な動きで次々と決めていくイナゴ怪人達。そして――。

 

『正義のロードを突き進むッ! 怪人戦隊ッ!!』

 

『『『『『『『バッタモンジャーーーーッッ!!』』』』』』』

 

またもや、何故か背後で大爆発&カラースモーク。しかも今回は紙吹雪まで舞っている。その光景に唖然とする生徒と観客。一方の『怪人戦隊バッタモンジャー』は「これで文句は無いだろう!」と言わんばかりの表情(多分)と態度(明白)を見せている。

 

「その後でイナゴ怪人達は、自分達の正体が、A組の怪人の“個性”によって創り出された存在だと暴露しました。ええ、それはもう堂々と。ぶっちゃけ『初めからそう言え』って思いましたね。でも言えませんでした。

……何で言わなかったかって? 言えませんよ。だって、A組の怪人が唸ってて、怒っているみたいで怖かったんですもん」

 

何はともあれ、イナゴ怪人の誤解は解け、騒がしかった会場が『怪人戦隊バッタモンジャー』のお蔭で静かになった。そこで頃合を見計らっていたミッドナイトによって、止まっていた開会式が再開される。

 

『それじゃあ、改めて……選手宣誓! 1-A爆豪勝己!!』

 

『はいッ!!』

 

爆豪ではない別の誰かが返事をすると言うアクシデントがあったものの、選手宣誓を任された爆豪は、動揺する事無く壇上に上がった。

 

『せんせー。俺が一位になる』

 

傲岸不遜にして大胆不敵。それは実に彼らしい言葉であるのだが、その所為で「先程返事をしたのは一体誰だ?」と、ヒソヒソ話をしていた生徒達は、水を打った様に静まり返る事になった。

 

「あの時、もしも怪人達がいなかったら、一年生全員に対する宣戦布告だと皆が思い、ブーイングの嵐が巻き起こったでしょう。本来なら。

しかし、8人の怪人がいたあの状況下では、怪人軍団に対する宣戦布告にしか見えませんでした。多分、大半がこう思ったんじゃないでしょうか? 『超スゲェ!!』って」

 

ある生徒は爆豪に英雄を見るような視線を送り、ある生徒は自殺志願者に向けるような視線を送った。ちなみに、観戦に来ていたプロヒーローの多くはそんな爆豪の台詞を聞いて「何と言う素晴らしいガッツだ」と好印象を持っていたりする。

 

しかし、爆豪としては何の反応も無いのは面白くない。そこで――。

 

『精々跳ねのいい踏み台になってくれ』

 

敢えて挑発的な台詞を更に投げかけた。この発言によって生徒たちは更にヒヤヒヤさせられたが、イナゴ怪人達が反応した事がきっかけで、悲劇が起こる事となる。

 

『面白い。望むところだぁ……』

 

『『『『『『SYAAAAAAAAAAAAA……』』』』』』

 

『ちょっと待って! 貴方達、その手に持ってる物を捨てなさい! 武器……いえ、凶器の持ち込みはルール違反よ!』

 

BBQの金串を舐めるX。石で出来た器を取り出すアマゾン。魔改造されたスタンガンをバチバチと放電させるストロンガー。

この三人を見たミッドナイトは流石に凶器の持込みは認められないと警告したが、三人のイナゴ怪人は聞き入れる所かミッドナイトに詰め寄り、真っ向から反論した。

 

『我々イナゴ怪人は、ミュータントバッタの集合体に過ぎん! 故に我々は人間では無い! 従って人間のルールに縛られる事も無い! 人間のルールに守られた覚えも無いしな!』

 

『BAAA! VIUIBUDOOGIGE!』

 

『止めるな王よ! コレは我々一人一人のアイデンティティの問題だ!』

 

『VEE!? MUUUU………』

 

どうやら「ミッドナイトの言う事を聞く様に」と、怪人バッタ男はイナゴ怪人に言った様だが、イナゴ怪人はそれを聞き入れなかった。すると怪人バッタ男は一人の女子生徒に協力を仰いだ。

 

「ええ、怪人は掌に文字を書く様な動きをしていました。そして、A組の生徒一人である、八百万さんの腕から槍を引き抜いたんです。

ええ、槍です。丁度、槍投げに使う感じの形をした。長さは2m位でしょうか。それを手にした怪人はA組の列を抜けると、壇上のイナゴ怪人に槍を思いっきり投げつけたんです」

 

『DRYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!』

 

『『『GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!』』』

 

レーザービームの様に飛んでいった一本の槍は、貫通した生々しい水音を置き去りにして、三人のイナゴ怪人を壇上から消した。

 

「こう……イナゴ怪人の脇腹を、左から右へ貫いたんですよ。それも“三人全員”を一度に。しかも、槍は三人のイナゴ怪人を貫いても勢いが止まらなくて、そのまま壁に突き刺さって、イナゴ怪人を磔にしたんです。

ええ、開会式で早くも大惨事ですよ。それこそ深夜じゃなきゃ流せない様な内容が、全国のお茶の間に生放送で流れたんですから」

 

怪人バッタ男の突然の行動に誰もが呆然とする中、磔になった三体のイナゴ怪人は無数の巨大なイナゴの死骸へと変化する。それを見届けた怪人バッタ男は、他のイナゴ怪人達に目を向けた。

 

『MUUUGWAAAA……』

 

『お、落ち着いて、落ち着いてくれ王よ。何も我々は――』

 

怪人バッタ男を諌めようとしたのか、弁護を始めたイナゴマンの後ろから、鍵爪の付いたロープがドサッと落ちた。

 

『………』

 

『いや、この、コレは、その……』

 

『JYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!』

 

それは、怪人バッタ男の次のターゲットが、イナゴマンに決まった瞬間だった。

 

「怪人が手を向けた瞬間、落ちたロープがひとりでに動き出したんですよ。まるでヘビみたいに。そしてロープが怪人の左腕に収まったと思ったら、巧みなロープ捌きでイナゴマンをグルグル巻きにして、思いっきり手繰り寄せました。

それから無数の棘を生やした……いや、棘を伸ばした右腕を、逆水平チョップの要領でイナゴマンに叩き込んだんです。イメージとしては、鎖鎌が一番しっくりするでしょうか? もっとも、鎖鎌ではああはならないですけどね。……え? “ああはならない”ってどう言う意味かって? 真っ二つになったんですよ。上半身と下半身が。緑色の血も凄かったし、もう滅茶苦茶ですよ」

 

それは初め、失敗した様に見えた。だがそうではなかった。その余りにも鋭すぎる切れ味故に、すぐには分からなかっただけだったのだ。

 

『グッハァアア……』

 

『FUUUUUU……』

 

上半身と下半身が泣き別れになったイナゴマン。その肉体は瞬く間にイナゴの死骸へと変化していく。

 

「ええ、震えていました。それでも、誰もその場を逃げずに立っていた事は確かです。余りにも怖すぎて『逃げる』と言う選択肢が頭に無かったとも言えますが……。それが呉島新って怪人なんでしょうねぇ……」

 

突如行なわれた怪人同士の残虐ファイト。それはこれまでの雄英体育祭では、まずお目にかかったことの無い光景だった。

 

しかし、こんなのはまだまだ序の口。むしろ、ココからが『シンさん伝説』の始まりなのだ。

 

 

●●●

 

 

正直言って、イナゴ怪人が反抗した時はマジでヤバイと思った。

 

ヒーローにとって「自分の“個性”に責任を持つ」のは、絶対に満たしていなければならない前提条件。俺が自分の“個性”によって生まれたイナゴ怪人を制御出来ないとなれば、それはヒーローになる上で致命的な弱点となる事は明白。

それが全国に流れてしまうのは、何としてでも避けたかった。いや、それ以前に相澤先生が俺を除籍処分にするかも知れない

 

……ならば、ちゃんと責任を取れる所を見せる為に、俺が自らコイツ等を殺るしかあるまい。

 

俺は「制御出来ないと思われるよりはずっとマシだ」と何度も自分に言い聞かせ、四人のイナゴ怪人に対して制裁を行った。

もっとも、イナゴ怪人は俺が存在する限り不滅である為、始末したイナゴマン、X、アマゾン、ストロンガーの4人はあっさりと復活し、周囲を大いに驚かせた。

 

「おぃいいいい!? コイツ等、さっき死んだんじゃねーのかよぉおおおおッ!?」

 

「フハハハハハハハ! この世にヴィランがいる限り! イナゴ怪人は不滅だッ!!」

 

この野郎……お前等の所為で俺の「怪人バッタ男のクリーンファイト大作戦」が台無しになったのを、ちゃんと反省しているのだろうか?

 

ちなみにイナゴ怪人達はこの日の為に、その気になれば日本に大飢饉を齎す事ができるレベルの数のミュータントバッタを用意したらしい。助かるといえば助かるのだが、相変わらず言葉選びが最悪だ。イナゴ怪人は俺を最悪のヴィランにでもするつもりなのだろうか?

そしてイナゴ怪人1号曰く、イナゴ怪人ストロンガーは「本体である俺の『Plus Ultra』の精神によって誕生した第7のイナゴ怪人」らしく、それにちなんで『ストロンガー【より強く】』と言う名前なのだとか。……何か聞かなければ良かったと思うのは俺だけだろうか?

 

「さーて、それじゃあ、早速第一種目行きましょう!」

 

この調子でいくと、最終的に俺は一体何人のイナゴ怪人を従える事になるのだろうかと、50人位のイナゴ怪人が一堂に会する戦慄の未来想像図を頭の片隅に追いやり、俺はミッドナイト先生とモニターに注目する。

 

「運命の第一種目!! 今年は……コレ!! 『障害物競走』!! 計11クラスでの総当りレースよ! コースさえ守れば基本的に何をしても構わないわ!! “基本的には”ねッ!! それを理解したら位置につきまくりなさい!!」

 

何故ミッドナイト先生は俺を見て言うんだ。まあ、分かるけど。

 

そんな俺とイナゴ怪人達は、スタートゲートから最も遠い最後尾に立っていた。何故なら一番後ろからゴボウ抜きした方が目立つと思ったから。

 

『スターーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーート!!』

 

「URYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

 

『ヒィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッッ!!!』

 

かくして、戦いの火蓋は切って落とされた! だが何たる事ぞ。競技開始の合図と共に駆け出した瞬間、俺の前にいる生徒達は俺から逃げる様に横に避けていった。それはまるで、紅海を割ったと言う『十戒』のモーゼの如く、ゲートに向かって真っ直ぐな一本道となり、その所為で将棋倒しが至る所で起こっている。

 

「来たぞぉおおおおおおおおお! 早くしろぉおおおおおおおおおお!  前に進めえええええええええええええッ!!」

 

「逃げろおおおおおおお! 早く逃げるんだぁああああああああああああああッ!!」

 

……前言撤回。コレは「紅海を割ったモーゼ」の構図では無い。「ビーチに出現した人食い鮫から、必死に逃げ惑う観光客」の構図だ。或いは「キャンプ場に出現した殺人鬼」か? どっちにしても碌なモンじゃない。

 

取り敢えず、見る限りスタートゲートはぎゅうぎゅう詰めで下はまず通れない。そこで、俺はスタートゲートの上部に出来た隙間に狙いを定め、悲鳴を上げる学友達の頭上を、壁を蹴りながら高速で移動する。

 

そうやってゲート内の混雑に関係なく順調に進んでいくと、ハイパーセンサーが空気の温度変化を感じ取った。何となく展開が予想できた俺はスタートゲートを出た瞬間、地面に降りる事無く背中から羽根を生やし、空中を飛行する事を選択する。

実際にその選択は正しく、空中から下に目を向ければ、地面を氷が走っていた。やはり轟の仕業か。しかし、A組の面々は轟の“個性”も、行動パターンもある程度知っている為、全員が轟の氷結攻撃を独自の方法で回避、或いはやり過ごしている。

 

さて、地面の状況に関係なく空中を進む俺だが、俺の飛行距離は蹴った時の踏ん張りによって左右される。ここらで一度勢いをつけたい所だが、下手に地上へは降りられない。そこで……。

 

「GURAT!!」

 

「うむっ!!」

 

空中にイナゴ怪人を配置し、その背中を“跳ねの良い踏み台”として利用する。

 

コースを下手に無視して失格になる訳にはいかないので、地上を進む面々を眼下にコース上空を飛行して進んでいく。すると、意外にも轟に肉薄していた峰田が、見覚えのあるロボに殴られて転がっていくのが見えた。

 

『さあ、いきなり障害物だ! 第一関門ロボ・インフェルノ!!』

 

実況のプレゼント・マイクの言葉通り、入試の時に仮想ヴィランとして用意された大量のロボが所狭しと配置され、俺達の行く手を遮っている。お蔭で轟を含めて、先頭を走っていた多くのライバルが足を止めている。

 

チャンスだ。これは巨大ロボとの初遭遇と言う、轟が特待生で一般入試を受けていないからこそ生まれた一瞬の隙。それを見逃す程、今の俺は甘ちゃんじゃあない。

まだ見ぬ強敵相手に手の内を晒す事になるが、むしろターゲットにするべきは、液晶越しにこの光景を見ているプロヒーロー達だ。アピール出来る所では、しっかりとアピールしなければな!

 

「NUUUUN!! HAAAAAAAA!!」

 

マッスルフォーム時に出現する背中の羽根は、通常と異なり柔らかすぎて飛行能力が皆無だから、まずはジャンプして距離を稼ぐ。そして巨大ロボの頭上、入学試験時よりも高い位置に移動すると、臍の部分の黄色い玉が光り輝き、緑色の光に包まれた事で、俺の体は一瞬で筋骨隆々としたマッスルフォームへと変化する。

 

「SUUUUU……」

 

巨大ロボ目掛けて落下していく中、俺が頭の中でイメージするのは、今まで出会ってきたヒーローの中で最も強大な腕力を振るう、決して折れも砕けもしない“平和の象徴”が使う必殺技の一つ。『DETROIT……』。

 

「ZOVAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAASHYA!!!」

 

渾身の力を右腕に溜め、抑圧されたモノを一気に解放する。巨大ロボは叩き潰された虫ケラの様にひしゃげ、周囲には突風が吹き荒れる。

うむ。大分コントロール出来る様になってきたが、雨が降り出す様子は無い。やはり右手一本で天候を変える程の力を持つ、本家の『DETROIT・SMASH』にはまだ遠く及ばないか。

 

先頭集団が突如発生した突風に耐える中、俺は地上に降り立ち、通常形態に戻って走り出す。アクセルフォーム然り、マッスルフォーム然り、スピードやパワーと言った面では通常形態を遥かに上回るが、体力の消耗が激しいのが欠点だ。

 

だから、基本的には通常形態で、これら二つのフォームは必要な時に、ほんの少しだけ使用して戦うのがベスト。アピール出来る時にアピールすればソレでいいのだ。

 

『ここで早くも先頭が変わったーーー!! 1-A呉島! トップに躍り出たーー!!』

 

「ターゲット……確認!」

 

「! 王よ! ここは我等に任せて先に行くのだ!」

 

俺をターゲットとしてロックオンしたらしい、1Pだったロボが何体か此方に向かってきた。俺はイナゴ怪人1号の言葉を信じ、一人ゴールを目指して爆走する。

 

ぶっちぎるぜぇ……ッ!!

 

 

○○○

 

 

『呉島に続いて、1-A轟が攻略と妨害を一度にこなして、第一関門を抜けた!! こいつぁシヴィーーー!! 凄ぇな!! もうアレだな!! もう何かズリィな!!』

 

色々な意味で要注目な怪人バッタ男に続き、A組の轟焦凍が氷結の能力で強大ロボを攻略する。奇しくも両者共に右手一本で第一関門を突破し、プレゼント・マイクの実況にも自然と熱が篭る。

 

そんな混戦の最中、怪人バッタ男の為に第一関門に残ったイナゴ怪人達はと言うと……。

 

「ローカストジャンプ!! トォオウッ!!」

 

イナゴ怪人1号が1Pだったロボの攻撃を空中回転で回避し、ロボに向かってカウンター気味に鋭く右足を繰り出す。

 

「ローカストキィイイイック!!」

 

イナゴ怪人1号の飛び蹴りがロボの頭部を吹き飛ばすと、イナゴ怪人1号はその反動を利用し、近くにいた別のロボの頭部を蹴り飛ばす。そして更に別のロボの頭部を……と言った具合に、次々とロボを沈めていき、最終的に7体のロボを撃破した。

 

「むぅん! ローカストジャンプ!!」

 

それとは対照的に、イナゴ怪人2号は2Pだったロボの下に潜り込むと、両足をロボの腹に添え、そこから全身のバネを使って、ロボを逃げ場の無い空中に押し上げる。

 

「ローカストパァアアアアンチッ!」

 

ニュートンの法則に従って落下するロボを、イナゴ怪人2号の硬く握り締めた拳が貫き粉砕する。その近くでは、イナゴ怪人Xが3Pだったロボに後ろから組み付いている。

 

「真空……地獄車ぁあああああああああああああああああッ!!」

 

ロボを抱えた状態で空中高く飛び上がると、車輪上に高速回転して移動しながら、抱えたロボを他のロボに次々と叩きつけて撃破していく。

 

『……あ~、やっぱアレだな! 一足先を行く連中はA組が多いな!』

 

『……ちょっと待て、マイク。イナゴ怪人達を見てみろ』

 

『いや、悪りぃんだけど、俺っちあーゆーモゾモゾした虫とか苦手……じゃなくて、ここは生徒の活躍を見るべきだろぉ? アァユゥ、オーケー!?』

 

『違う。6人しか居ない。もう一人は何処に行った?』

 

相澤が一人足りない事を懸念した直後、二人の背後の扉が勢いよく開かれた。扉を開けたのは、会場から姿を消したイナゴ怪人。イナゴ怪人V3だ。

 

『覚悟しろ! プレゼント・マイクゥウウッ!! 全ては王の悲願成就の為ッ!! バッチリミイヤーーー!!』

 

『ギィヤァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!』

 

会場内に満遍なく響き渡るプレゼント・マイクの絶叫。明らかにイナゴ怪人の仕業だろうが、実況席で一体何が起こっていると言うのか? その疑問は直ぐに解ける事となる。

 

「な、何が起こってるんだ!?」

 

「そ、それよりも今はコッチだ! とりあえず一時協力して――」

 

「力が欲しいか?」

 

「……へ?」

 

「力が欲しければ……くれてやるッ!!」

 

その言葉と共に、今まで沈黙を守っていたイナゴマンと、イナゴ怪人ストロンガーが無数のミュータントバッタに変化し、それぞれが瀬呂と上鳴に一斉に群がった。

 

「ウゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!?」

 

「ウェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエイ!?」

 

「な、何だぁあああああああああああああああああああああああああ!?」

 

『ヒウィゴー! 覚悟! 乗っ取りローカスト!』

 

イナゴ怪人V3のノリノリなラップ口調が、マイクを通して会場内に広く放送される。そんなイナゴ怪人V3のアナウンスに合わせて、無数のミュータントバッタ達は肉体を再構成させていく。

そして彼等の前に姿を現したのは、両肘にセロハンテープの様な機構を持つイナゴマンと、稲妻の様なメッシュが入った金髪のイナゴ怪人ストロンガーだった。

 

「さて……やるか」

 

「ああ、そうだな」

 

「な、何ぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!?」

 

「か、体を乗っ取りやがったぞーーーーーーーーーーーーーーーーー!?」

 

『フハハハハハ! その通り! コレこそが我等イナゴ怪人の真の能力「乗っ取りローカスト」! この事は我等を操る、呉島新さえもまだ知らない!!』

 

嬉々としてそう語るのは、トンガリヘアーと指向性スピーカーが追加されたイナゴ怪人V3。彼等は上鳴と瀬呂はおろか、プロヒーローのプレゼント・マイクさえも乗っ取ったのだ。

 

実を言うとイナゴ怪人。彼等は彼等でこの二週間、自分達を強化する傍ら、王である新と自分達を存分にアピールする方法を様々な角度から独自に考えていた。

そこで1号、2号、Xはイナゴ怪人の持つ純粋な戦闘能力を。残りのV3、イナゴマン、アマゾン、ストロンガーは、イナゴ怪人の『他者の肉体を乗っ取る能力』を。それぞれが役割分担をして披露すると事前に決めていたのだ。

 

『……お前等、何のつもりだ?』

 

『黙れ! 俺は本来なら轟焦凍を狙うつもりだったのだが、我々を無視して実況を進めるコイツが悪い! これでは我々の存在を全く世間にアピール出来ないでは無いか!!』

 

『だからって、実況や主のクラスメイトを乗っ取ろうとするか?』

 

『フッ! ミッドナイトは言った筈だ! 「コースを守りさえすれば、何をしてもOKだ」と! よって、王がコースを守る限り、我々は何をしても許されるッ!

そしてイレイザーヘッド。お前は、本当は気付いている筈だ。電気系の“個性”は当たりではあるが、それ故にメジャーで目立ちにくい。そしてテープの“個性”もあの程度の演出では、誰の記憶にも刻まれないとな……』

 

『………』

 

『イケてないんだよ。モテないんだ、奴等は』

 

『……怪人に体を乗っ取られて、モテるようになるとは到底思えないんだが?』

 

『何を言う。実際に爆豪勝己はヘドロのヴィランに乗っ取られて有名になったではないか。ならば、奴等も我々に乗っ取られる事で有名になれる。つまり、これはWIN-WINの関係と言うヤツだ!!』

 

「ふッ、ざッ、けんなぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッ!!!」

 

会場に流れるV3の実況に、A組の爆殺王が過剰に反応するのを無視し、相澤はふと疑問に思った事をV3に聞いた。

 

『……アソコにいるイナゴ怪人は何で動かない?』

 

『まだ決めかねているのだろう』

 

決めかねている? 一体何を? その答えはもはや、言わずとも分かる。そんな少々優柔不断な、イナゴ怪人アマゾンが最終的に目を付けたのは……。

 

「離して……離して下さいまし……ッ!」

 

「うひょひょひょひょ! 便乗させてもらうぜ八百万ぅ! オイラって天才ぃいいいいいっ!」

 

「最低……ッ、最低ですわ……ッ!」

 

「………」

 

イナゴ怪人アマゾンは八百万と、八百万の尻に引っ付いている峰田を見ながら、二人に向けて交互に指差しをしていた。その仕草は正に、どちらにしようか迷っている様に見える。

 

そして、動いていた指がピタリと止まった時、イナゴ怪人アマゾンが遂に動いた。

 

「ケケーーーーーッ!!」

 

「へ!?」

 

「ん!?」

 

イナゴ怪人アマゾンの鋭い爪が、二人を繋いでいたもぎもぎを切り裂く。峰田はあっさりと八百万から剥がされ、地べたに尻餅をついた。

 

「あ、ありがとうございますわ……」

 

「アマゾン、王ノトモダチ、困ル、助ケル」

 

「!!」

 

「イソゲ」

 

「は、はい!」

 

イナゴ怪人アマゾンに感謝の念を送る八百万。一方で作戦を台無しにされた峰田が、アマゾンに詰め寄った。

 

「おいおい、どうしてくれんだよ!? オイラの天才的な一石二鳥の――」

 

「GUUUUUUUUUUUUUUUUUU……」

 

「作せ……ん……?」

 

明らかに様子がおかしいイナゴ怪人アマゾンに、流石の峰田もヤバイと感じたがもう遅い。アマゾンは峰田を捕らえると、まるで高い高いでもするかのように持ち上げた。

 

「……アマゾン、王ノトモダチ、守ル」

 

「お、俺達、トモダチだよな? そ、それじゃあ……」

 

「デモ、オマエ、えろスギル」

 

そう言い終わるや否や、ガバァっと大きく口を開けたイナゴ怪人アマゾンは、峰田を頭から丸呑みにした。それの光景もはや、人食い怪人の食事シーン以外の何物でもない。

 

「ひぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいッッ!!!」

 

「あ、あのアマゾンとか言う奴は、人を食うのかぁああああああああああああああああああああああああああああッ!?」

 

周囲の生徒がその光景に戦慄する中、小柄な峰田はあっと言う間にイナゴ怪人アマゾンの腹の中に消えた。すると、イナゴ怪人の鳩尾にあたる部分から、何と峰田の顔が出現した。

 

そう、峰田はちゃんと生きていた。……いや、生かされていたと言うべきか。

 

「た、助けてくれぇえええええええええええ!! 何か、体中がドロドロしてるんだぁああああああああああああ!!」

 

「い、生きたまま消化されてるって事!?」

 

断じて違う。峰田は消化されている訳では無い。峰田が体感しているドロドロの正体は胃液などではなく、イナゴ怪人アマゾンが体内で生成している「イナゴジュース」だ。

 

『グレープ・スカッシュ!!』

 

「オボロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロォッ!!」

 

イナゴ怪人V3の謎のアナウンスの直後、イナゴ怪人アマゾンの口から放たれたのは、緑色の液体に塗れた無数の紫色の球体。峰田の“個性”である『もぎもぎ』は、本人は「何にでもくっつける事が出来る」と言っていたが、くっつける事が出来るのは固体だけで、液体や気体をくっつける事は出来ない。

そこで、アマゾンは大量のイナゴジュースで満たした腹腔内に峰田を格納し、腹腔内の圧力を操作して強制的に峰田の『もぎもぎ』をもぎ取り、口から銃弾の如き勢いで連射するかの様に吐き出しているのだ。

 

「テープアーーーーーームッ!!」

 

「電キィイイイイイイイクッ!!」

 

こうしてイナゴ怪人アマゾンによって足を止められたロボ達に、イナゴマンのテープによる拘束と、イナゴ怪人ストロンガーの電撃を纏ったキックが次々と決まっていく。

巨大ロボは先程峰田から解放された八百万によって倒された為、コレで全てのロボが戦闘不能に追い込まれた。

 

――となれば、次にイナゴ怪人達が狙うのは……。

 

「さて……次はコッチか」

 

「! お、おい! アイツ等、コッチに狙いを変えたぞ!?」

 

「だ、大丈夫。あの手の“個性”は発動系だから、取り込んだ奴のキャパを超えれば――」

 

「フンッ!!」

 

「終わ……る……?」

 

持久戦に持ち込めば何とかなる。そんな彼等の淡い希望は一瞬で打ち砕かれた。

 

何と、イナゴ怪人ストロンガーは、先程1号、2号、Xによって倒されたロボに片っ端から手を突っ込み、電気を充電し始めたのだ!

 

そう。なまじ大量にロボを用意していた所為で、上鳴を取り込んだイナゴ怪人ストロンガーは、幾らでも何度でも充電する事が可能となり、むしろ事前に持ち込んだスタンガンを持たせていた方が、生徒達にとってよっぽど対処しやすかったのだ!

 

『さて、安全な場所からこの光景を液晶越しに眺めているヴィランの諸君。少しはこの現実が理解出来ただろうか? これが三年後には雄英高校からヒーロー社会へ解き放たれ、君達に牙を剥く……イナゴ怪人だッッ!!!』

 

「(……なるほど。コレがコイツ等の狙いか)」

 

確かにヴィランにとって、ある意味これはかなり効果的で合理的な能力だ。何せヴィランが徒党を組んで数が多くなれば多くなる程、イナゴ怪人にとっては自身の戦力を強化する材料が増えるのだ。更に乗っ取った相手によっては、人質としても使えるだろう。

 

「(とは言え、それを理解しているプロヒーローが一体どれだけいるか……)」

 

「流石に体を乗っ取るとか、人を食うとか反則だろぉおおおおおおッ!?」

 

相澤がイナゴ怪人の行動の意味を考える傍ら、イナゴ怪人達の行動に異議を唱える生徒に対し、無情なる一言を投げかける。

 

『認める』

 

「そんなぁああああああああああああああああああああああああ!?」

 

何故なら“個性”は『十人十色』所か『万人万色』。ヴィランがどんなに理不尽な“個性”を持っていようとも、立ち向かわなければならないのが“ヒーロー”と言う職業だからだ。

 

「……スゲェな。アレ」

 

「あの人達、凄いですねェ……」

 

ヴィラン染みた見た目と“個性”を存分に発揮し、その上で全く手段を選ばないアピール作戦。そのぶっ飛んだ思考回路に、普通科の男子生徒一人と、サポート科の女子生徒一人が素直に感心する。

 

「フゥーーー……行くぜ?」

 

そして、ロボから充分に電気を補給したストロンガーと、遠距離の拘束技を獲得したイナゴマンとアマゾンが、遂にその強大な力を、生徒達を妨害する為に振るい始める!

 

学校が用意した数々の障害以上に強力な、この怪人達を如何にして攻略するのか!?

 

どうする、一年生!? どうなる、雄英体育祭!?




キャラクタァ~紹介&解説

拳藤一佳
 本編では第2話以来の登場となる、番外編『B組のぶりぶりアカデミア』の主人公。今回の話では『バキ』的な語り部を担当。相変わらず神谷こと、ぶりぶりざえもんの扱いには難儀している模様。

ミッドナイト
 シンさんがグロい方向の18禁ヒーローなら、こっちはエロい方向の18禁ヒーロー。ある意味でシンさんとは対の存在であり、目の前で怪人同士の残虐ファイトに巻き込まれても司会進行を続けるタフな女性……だと思う。多分。

イナゴ怪人(ストロンガー)
 シンさんの「より強くなりたい」と言う思いが生んだ、第7のイナゴ怪人。時折理不尽な活躍を見せるストロンガーが元ネタである為、本家とはベクトルが違うものの、彼にも理不尽な活躍をさせたい所である。
 体に仕込んだスタンガンを用いて相手を無力化させると言う、傍目から見てかなりヤバイ絵面が本来展開されるはずだったが、今回はスタンガンが使用不能になった為、『奇械人スパーク』こと上鳴を取り込む事で電気技を使用する。これによって倒したロボを片っ端から電池として活用できるようになった為、厄介度が数倍に跳ね上がっている。ナンテコッタイ。



第一関門 ロボ・インフェルノ
 流石に『すまっしゅ!!』ネタは出さなかったが、見る限り0Pと1Pのロボしかいない事が不服だった作者の手によって、他の2Pと3Pのロボも出現させた次第。まあ、話の流れとしては、イナゴ怪人達の生贄でしかないのだが。

シンさんに制裁されるイナゴ怪人
 元ネタは『アマゾンズ』のアマゾンオメガVSアリアマゾン戦。今年になってシーズン2が配信されるので、せっかくだから色々と『アマゾンズ』のネタを出してみたかったのだが、流石に人間相手に使う訳にはいかないので、イナゴ怪人を相手にやってもらった。
 今配信中のシーズン2では、「イナゴアマゾン」や「バッタアマゾン」が出て欲しいと思っているのは、作者だけでは無いと思う。

乗っ取りローカスト
 元ネタは『鎧武』の最終話で、コウガネがイナゴを使って少女の肉体を乗っ取っていた事と、『ゴースト』のネクロムスペクター。ただし、見た目はこれら二つの元ネタを遥かに超えてグロい。しかし、相手がヴィランであるなら、自軍の戦力強化と敵軍の弱体化を一度に行える為、確かに非常に有効な能力であるだろう。ちなみにイナゴ(怪人)アマゾンに食われた峰田以外の三人は、イナゴ怪人に乗っ取られた間の意識は無い。更に作中でイナゴ怪人V3が語っているように、イナゴ怪人達に全く悪気は無い。
 他にも麗日と言う天然の「重力低減装置」を取り込んだイナゴ怪人スカイや、轟と言う天然の「冷熱ハンド」を取り込んだイナゴ怪人スーパー1等も考えていたが、轟はイナゴ怪人を普通に返り討ちにしそうだし、作者の技量では9人も捌ききれないと思ったので7人で止めたと言う経緯が有る。

イナゴ怪人V3「これで王は彼等と本当の友になれた」
シンさん「………」

怪人戦隊バッタモンジャー
 元ネタは『まっかっか城の王』の怪人軍団ことイマジンズ。丁度7人なので完全版でやってみたが、これから最終的に13人に増えるので、多分今回が最後になる。
 感想でGKB50みたいに、イナゴ怪人が50人に増えるのを期待する様な声もありましたが、平成仮面ライダーシリーズに突入すると、サブライダーを含めて確実に収集が付かなくなるのでやるつもりは無い。あと決め台詞が酷くなるし。

イナゴ怪人王蛇「ここか? 祭りの場所は……」
イナゴ怪人カイザ「邪魔なんだよ……俺を好きになら無い奴は全て!」
イナゴ怪人ダークキバ「絶滅タイムだ!」
イナゴ怪人エターナル「さあ、地獄を楽しみな!」
イナゴ怪人ビースト「さあ、ランチタイムだ!」
イナゴ怪人鎧武「イナゴジュースにしてやるぜ!」
イナゴ怪人ブラーボ「さあ、始めるわよ! 破壊と暴力のパジェントを!」
シンさん「………(絶句)」

イナゴ怪人ゼロノス「胸の顔は……飾りだッ!」
峰田「た、助けてくれぇ……」
シンさん「………(ちょっと悩む)」

イナゴ怪人ゾルダ「『英雄』ってのはさ。『英雄』になろうとした瞬間、失格なのよ」
ステイン「ハァ……お前は話が分かる奴だな……」



あとがき
 これにて、今回の投稿は終了です。せっかく第二期アニメが始まったので、それを見ながら話を進めていきたいと思います。

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