怪人バッタ男 THE FIRST   作:トライアルドーパント

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三話連続投稿の第二話。そして今話のタイトルの元ネタは『仮面ライダー(新)』の「コゴエンスキー 東京冷凍5秒前」。そして今回はジョジョネタやら何やらで非常にカオスな展開に。……まあ、今に始まったことではありませんが。

6/19 誤字報告より誤字を修正しました。ありがとうございます。

2018/5/21 誤字報告より誤字を修正しました。毎度報告ありがとうございます。

2018/10/13 誤字報告より誤字を修正しました。報告ありがとうございます。


第11話 半分こ怪人W バッタ冷凍5秒前

ここは『敵連合』が構えるアジトの一つ。その中にある死柄木に与えられた部屋は、外からの光が一切届かない作りになっている所為で非常に暗く、パソコンのディスプレイが発する光が、この部屋で唯一の光源だった。

 

「どうだい? 死柄木弔。彼の様子は?」

 

「……どう見てもヒーローには見えないな。完全にコッチ寄りの戦い方だぜ、先生」

 

「そうか、君にはそう見えるのか」

 

先生と呼ばれた男の顔には両目が無く、目が見えない事は一目瞭然である。しかし、モノを見る事が出来るのは目だけではない。例えそれがモニター越しであろうとも、先生は生徒である死柄木の将来において、宿敵となり得る存在の本質を確かに感じ取っていた。

 

「どう言う事だよ、先生?」

 

「何事もままならないこの世の中で、命ほどままならない存在はいない。自分が生き残る為に、或いは自分の掲げる信念の為に、或いは自分に与えられた義務の為に、時に人は凄まじく、猛々しく、堂々と心を狂わせる事が出来る。あのオールマイトがそうであるようにね」

 

「……ハッ、クソみたいな話だな」

 

「よく見て備えろ、死柄木弔。彼が私の思う通りの存在ならば、極限に足を踏み入れたその時、彼はその場の命の流れに任せて、最善の働きをやってのける筈だからね」

 

先生の何処か確信めいたその言葉の意味を、死柄木は数分後に知る事となる。先程の「脊髄ぶっこ抜き」に匹敵する、人生最大レベルのトラウマ映像と言う形で……

 

 

○○○

 

 

それは、物間チームが爆豪チームから鉢巻きを奪取した時間まで遡る。

 

「単純なんだよ、A組」

 

「やられた!」

 

「んだ、テメェ、コラァッ! 返せ、殺すぞ!!」

 

「ミッドナイトが“第一種目”と言った時点で、予選段階から極端に数を減らすとは考えにくいと思わない?」

 

「!?」

 

「だから、おおよその目安を仮定し、その順位以下にならないように予選を走ってさ、後方からライバルになる者達の性格や“個性”を把握させて貰った。その場限りの優位に執着したってしょうがないだろう?」

 

「! クラスぐるみか……!」

 

「まあ、全員の総意って訳じゃ無いけど、良い案だろ? 人参ぶら下げた馬みたいに仮初めの頂点を狙うよりさ」

 

「……!」

 

「「………」」

 

爆豪が物間の発言に頬をひくつかせる中、二人の会話はイナゴ怪人2号とV3の二人にも、しっかりと聞こえていた。

 

彼等は物間の発言に対して怒りを覚えていた。A組の面々が物間の言う仮初めの頂点を狙って第一種目に挑んでいたのは、一重にUSJにおける『敵連合』との遭遇によって得た経験により、目の前にある試練を全力で乗り越えようとする心構えからくる行動に他ならない。

 

自然災害、大事故、身勝手なヴィラン。かつて『“個性”把握テスト』で担任の相澤が言った様に、そんな理不尽は何時だって、予想さえしない時に突然現われる。それを覆すには、全力を持って事に望む他に道は無い。その事を肌で知ったからこそ、A組の面々は第一種目から本気だったのだ。物間の言うように、決して単純な思考回路で動いていた訳では無い。

 

そもそも、いかなる時でも全力でトップを狙い、本気になって事に望む事の一体何処が悪いと言うのだ。そんなA組の面々の心構えを否定し、侮辱する様な物間の台詞に、二人のイナゴ怪人は怒りを覚えた……

 

「この痴れ犬がぁ……我らの王を侮辱するとは、良い度胸だなぁ……!」

 

……訳では無い。イナゴ怪人は創造主であり王である、呉島新に身も心も捧げる忠実な僕である。そんな彼等にとって、今の物間の台詞は「王に対する侮辱」以外の何物でも無い。ちなみに、「王に対する侮辱」だとは思っていても、「A組の面々に対する侮辱」だとはこれっぽっちも思っていない。イナゴ怪人は何処までも、自分達の王を第一に考える怪人である。

 

「へぇ! 凄い! 良い“個性”だね!」

 

「チィ! クソがっ!!」

 

「(貴様だけは……)」

 

「(絶対に……)」

 

「「(ゆ゛る゛さ゛ん゛ッッ!!!)」」

 

怒りに任せて猛攻を仕掛ける爆豪と、それを体術と“個性”で上手くいなす物間のやり取りを見つつ、物間への死刑宣告を心の中で叫んだ二人のイナゴ怪人は、物間への復讐を超速で思考すると、即座に実行に移した。

 

イナゴ怪人は新の心の闇とトラウマより生まれ、心の闇をエネルギー源とする怪人であるが、それと同時に「友達(自分の味方になってくれる存在)が欲しい」と言う、新が出久と出会う前の一人ぼっちだった時代の願いが、彼等の行動の絶対的なルールとして定まっている。

 

そんな経緯で生まれた怪人が、自分の王を見下すような発言をした人間を果たして放っておくだろうか? そんな訳が無い。むしろ王の為に必ず復讐を遂げる様な連中である。しかも内容に沿った上に、何百倍にも増幅して。

 

「あ、怒らないでね。煽ったのは君だろ? ほら、宣誓で何て言ってたっけ、恥ずかしいやつ……えー……まあいいや、お疲れ!」

 

「きゃあ!!」

 

「むっ!? しまった!!」

 

爆豪チームを手玉に取り、悠々とその場を去ろうとする物間が前に視線を戻すと、「210P」と書かれた一本の鉢巻きが、此方に向かって飛んできていた。その先には拳藤チームとイナゴ怪人V3が争っており、彼等の元から鉢巻きが飛んできたと予想できる。

 

「お、ラッキーだね。やっぱり、出来る奴は運も持って……」

 

「DRYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYY!!!」

 

「!? な、何だ、このッ!!」

 

「「「うぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」」」

 

物間が空中の鉢巻きをキャッチしようとした瞬間、物間チームをこれでもかと言わんばかりに大量のミュータントバッタが襲った。物間は爆豪からコピーしたばかりの『爆破』で対応するものの、ミュータントバッタの数があまりにも多く、もはや焼け石に水。大した効果は無かった。

 

「うべぇえええええ!! 誰かぁああああ! 何とかしろおおおおおおおおおおお!!」

 

「何とかって言ったって、こんなのどうにか出来るかぁああああああああああああああああああああっ!!」

 

「他人の“個性”をコピーできる“個性”か。素敵だけど何てことはないね。“個性”を持たない存在の前では、つまりは只の“無個性”だもの」

 

「ッ!!」

 

モニター越しにこの光景を見ているであろう、どこぞのハンドマンの様な台詞をのたまいつつ、イナゴ怪人2号は物間から全ての鉢巻きを奪い取った。大量のミュータントバッタが離れたことで物間チームの面々は安堵するが、目の前の怪人が複数本の鉢巻きを持っている所為で、何が起こったのかは火を見るより明らかである。

 

「フハハハハハハハハハハハハ!! 掛かったなアホが!! 元から狙いは貴様よぉーーーーーーーーッ!!」

 

「ねえ、どんな気持ち? どんな気持ち? 人参ぶら下げた馬みたいに目先のポイントに目を奪われて、掌の上で弄ばれるってどんな気持ち?」

 

「おいおい余り煽ってやるな2号よ。可哀想じゃないか、同じ土俵だぞ?」

 

「そうだねぇ。ヒーローらしくないし、良く聞くモンねぇ。恨みを買ってしまったヒーローがヴィランに仕返しされるって話!!」

 

「「ギャ~ハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッ!!」」

 

器用にもローカスト・ホースの上に立って、人の気持ちを逆上させる珍妙なダンスを踊りながら、先程の物間が爆豪に言った台詞を、そっくりそのまま返すイナゴ怪人2号と、それをニヤニヤしながら諫めるイナゴ怪人V3。誰がどう見ても物間に対する完全な意趣返しである。

 

「ちゅーかさー。ぶっちゃけ、ヒーローやってりゃ、“個性”や性格が大勢の人間に把握されたり、分析されたりするなんて、そんなのヒーローの大前提だよねぇーー!?」

 

「そうだよねーーー。ヒーローやってりゃ、ヴィランに対策を取られるなんて普通だよねーーー? USJの時のオールマイトもそうだったしぃーーーー!? 」

 

「そうだね~~。ヴィランだって、よくやる事だよね~~~?」

 

「………」

 

「所で、さっきの話だけど、言い方から察するにそのクラスぐるみの作戦考えたのって、お前でいいのかな~~? 僕、頭悪いから言ってくれないと分かんな~~い?」

 

「……へぇ、そんな事も分からないなんて、ずいぶんと頭が悪いんだね。君達イナゴ怪人ってのは」

 

「ええーーー!? マジでそうなのーーー!?」

 

「相手の情報収集なんて普通、戦う前に済ませるのに、実戦で順位落としてまで情報収集して、その結果が0Pなのぉーーー!? キモーーーイ!!」

 

「そんな作戦が通用すると思ってるのは、実戦を知らない童貞野郎だけだよねぇーーー?」

 

「「ダ~ッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッ!!」」

 

「………(ギリギリ)」

 

「「「(ひ、酷い……)」」」

 

「………(ニヤニヤ)」

 

「「「(こ、こっちも酷い……ッ)」」」

 

実際、現実問題としてヒーロー側にしてもヴィラン側にしても、有名になればなるほど、まだ見ぬ相手に自分の“個性”への対策を、戦う前に考案される事は必然である。

そしてヴィラン側はともかくとして、ヒーロー側に限って言えば、そうしたピンチは“必ず”覆さなければならない。プロになれば“個性”を晒すのは前提条件なのだから。

 

もっとも、実戦で戦いながら相手の“個性”を分析する事だって、ヒーロー側もヴィラン側も普通はやる。そもそも、イナゴ怪人達も物間達と同じ様に、第一種目で情報収集をしていたのだから人のことは言えない。

だが、イナゴ怪人達は自分達の王が第一種目で1位を獲得している上に、その事を物間達に知られていないのを良い事に、自分達のやっていた事を完全に棚に上げて、そこから理論武装を用いて物間が気にしている事を容赦なく抉っていった。最低である。

 

大体そんなヒーローがどうだとか、ヴィランがどうだとか言う様な事は、他人の体を乗っ取ったり、放送テロに等しい事を起こしたりする様な怪人にだけは絶対に言われたくない。

そしてイナゴ怪人達は、それが分かっていて言葉を選び、物間を煽っていた。流石は「トラウマと心の闇から生まれた」と豪語する生粋の怪人。相手の心の隙間を見つけ、そこを基点に心を揺さぶる事にかけては、他の追随を許さない。

 

そんな光景を間近で見ていた爆豪チームの切島、瀬呂、芦戸の三人はイナゴ怪人達の容赦の無い言動に戦慄するが、その一方で自分達の大将である爆豪が、腸が煮えくりかえっているであろう物間を、どう見ても「悪事を働きご満悦な表情」でニヤニヤしながら見ている事に、それ以上の戦慄を禁じ得ない。どちらにしても、とてもヒーローには見えない構図である。

 

「あ、怒らないでね、煽ったのは君だろ? ほら、さっき何って言ったかな……あの、策士気取りのドヤ顔で言った恥ずかしいヤツ! え~~~っと……ま! いいや! お疲れぇーーーーーい!!」

 

「センキュー、ドゥえ~~~~~~~~~~~す!!」

 

「「ヴワァ~ッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッ!!」」

 

心底腹の立つ笑い声を勝鬨の如く上げ、イナゴ怪人2号とV3はローカスト・ホースに跨がってその場を去った。その場に残された物間チームと爆豪チームは、その後ろ姿を黙って見ていたが、再起動は爆豪チームの方が早かった。

 

「何やってんだ! 追え、切島ぁ! あいつらから俺等の持ち点と、その他も全部奪い取るぞ!」

 

「お、おう! 分かったぜ!」

 

「つーか、爆豪! お前も凄ぇイイ顔で、さっきのやり取り黙って見てただろうが!」

 

「うるせぇ、しょうゆ顔! それはそれだ!」

 

実際の所、爆豪としては彼等のやりとりを見ていたお陰で、物間によって活火山のように燃えたぎる憤怒で縮んだ寿命が、元に戻るどころか一気に延びる様な思いだったのだが、その事を他人に喋るつもりは一切ない。彼の沽券に関わるからだ。

いずれにせよ、自分達は現在0P。迅速にポイントを稼がなければ予選を通過する事は出来ないのだから、必死にならなければならない。幸い、イナゴ怪人に爆豪の『爆破』は有効なので、ある意味で物間よりは相手をしやすいと言えるだろう。

 

「………」

 

「も、物間、落ち着いて……」

 

「大丈夫だよ円場。僕は至って冷静さ。……作戦変更だ。あの怪人共の大本を叩くよ」

 

一方の物間だが、彼はイナゴ怪人の王である新に狙いを定めた。

 

何たることぞ。イナゴ怪人達の新を思う行動により、逆に新が標的として狙われてしまったのである。これにはイナゴ怪人達も予想外――と思いきや。

 

「「(計画通り!!)」」

 

そう、実はそれさえもイナゴ怪人達の策略であった。何とイナゴ怪人達は、物間にこれだけの事をやっておいて、あろう事か「まだやり足りない」と思っていたのである。絶対に敵に回してはいけない。

 

「恐らく奴は王の“個性”を使い、王を倒そうとするだろう。王の“個性”のデメリットを知らないにも関わらずな……」

 

「そして、あの様な軟弱な肉体と精神を持つ者に、王の“個性”の発動に伴う激痛を耐えられる訳が無い。仮に耐えられたとしても、王の“個性”を使うことさえままならん筈だ……」

 

「そして奴が暴走した所で我々イナゴ怪人が颯爽と介入する訳だ。全てはカリキュレーション。計算通りよ」

 

「うむ、『伊達にして帰すべし』とは、正にこの事。奴の姿は『イナゴ怪人、強し』を世に知らしめ、結果的に王の名声を高むるに至る訳だ」

 

「然り、全ては王の悲願成就の為ッ!!」

 

「「ヒャ~ハッハッハッハッハッハッハッハッハハッハッハッハッハッハッハッハッ!!」」

 

「待てゴラァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」

 

これから起こることに対して期待に胸を膨らませ、二人のイナゴ怪人はローカスト・ホースを鮮やかに操り、その時が来るまで爆豪チームの追撃を、追いかけっこ感覚で楽しんでいた。

 

 

○○○

 

 

こうしてイナゴ怪人2号とV3の計画はまんまと成功し、主の元を離れたイナゴ怪人1号は、「にせ怪人バッタ男」と化して暴走した物間をフィールドの隅に追いやり、周りへの被害を最小限に抑えながら、物間を徐々に追い詰めていた。

 

「ローカスト・キィーークッ!!」

 

「KUKYOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!」

 

イナゴ怪人1号の跳び蹴りが、物間の胸に正面から決まった。しかし、物間は吹き飛びこそしたものの、すぐに立ち上がって怯むこと無く、再び1号に向かっていく。

 

「RUOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!」

 

「……ふん、理性無き獣に成り下がったか。もはや『偽者』と呼ぶのも烏滸がましい」

 

現在、物間には意識が無く、無意識の状態で衝動の赴くままに戦っている。今の物間がオリジナルである新と共通するのは、強靱な外骨格と高い回復力。そして「スパイン・カッター」と「ハイバイブ・ネイル」、「ブレイク・トゥーサー」と言った各種武器に、「超強力念力」だ。

身体能力のスペックは、オールマイトの常軌を逸したトレーニングを耐えきった新に大きく劣る上に、新がこれまで積み上げてきた格闘技術は使えない。更に「超強力念力」の理性による繊細なコントロールは不可能。更に――。

 

「UGYOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!」

 

「やはりな……。貴様はあくまで王の“個性”をコピーしただけだ。王が戦いの中で獲得してきた力までは持っていない……違うか?」

 

理性を失った物間は、イナゴ怪人1号の問いに答える事は出来ない。だが、1号は自身の問いに対して確信を得ていた。

これまでの二人の攻防に於いて、物間がイナゴ怪人1号に対して有効打を与えた事は一度も無い。そんな追い詰められた状況にも関わらず、物間は「イナゴ怪人の生成」は元より、「放電攻撃」や「『アクセルフォーム』や『マッスルフォーム』への形態変化」を使用する気配が感じられない。故に「使わない」のでは無く、「使えない」と考えていい。

 

要するに目の前の敵は、異常なまでにタフで、攻撃の殺傷能力が無駄に高いだけだ。それ以上でも、それ以下でも無い。

 

「しかも『コピーした“個性”を使えるのは、触れてから5分間』と言う時間制限があるらしいな。このまま時間切れを待ってもいいが……それでは駄目なのだ」

 

「WUUUUUUU、CRUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUU!!」

 

そう静かに語るイナゴ怪人1号は、風車の様に両手を振り回し、「ハイバイブ・ネイル」を突き立てんとする物間の攻撃を、今度は無数のミュータントバッタに変化して回避し、更に全身に纏わり付いて翻弄する。

 

「さて、そろそろフィニッシュといこうか?」

 

「FYUSYOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!」

 

そして再度実体化し、物間の死角から攻撃するイナゴ怪人1号。しかし何度攻撃を貰っても立ち上がる物間を見て、1号は物間を倒す為に、爆豪チームから逃げ回る2号とV3にテレパシーを送った。

一方の物間だが、イナゴ怪人1号のKO宣言の直後、その意図を理解していたのか、咆哮と共に「超強力念力」を使い、破壊のエネルギーを1号に向けて真っ直ぐに解き放つ。

 

「トォオオオオオオウッ!!」

 

しかし、例え不可視の攻撃であろうとも、本能に任せて放った攻撃など見切ることは容易い。イナゴ怪人1号はその場から高く跳躍することで「超強力念力」を鮮やかに回避する。

 

「「1号!」」

 

「うむッ! 行くぞ、2号! V3!」

 

イナゴ怪人1号の落下地点には、ローカスト・ホースに跨がったイナゴ怪人2号とV3が、接触するかしないかと言う至近距離で併走していた。そして、イナゴ怪人1号は二人の跨がる二頭のローカスト・ホースの上に着地すると、2号の左肩とV3の右肩に手をかけた。

 

「「「ローカスト・トリプル・パワーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!」」」

 

三人のイナゴ怪人による、三位一体の必殺技の名前を叫ぶと、三人のイナゴ怪人から暗黒のオーラが立ち上る。そんな彼等は「超強力念力」を使い、隙が生まれた物間に正面から突撃し、跳ね飛ばされた物間は物凄い勢いで錐揉み回転をしながら、スタジアムの壁に激突する。それでも物間は、一度はふらふらと立ち上がったものの、すぐに仰向けになって倒れ、完全に動きを停止した。

 

『イナゴ怪人共が暴走した物間を一蹴ッ!! ってか、これって只の轢き逃げじゃねーか!? 何でもアリって言ったけど、本当に何でもやるなお前等!』

 

「フッ! 平和を脅かす者は、このイナゴ怪人が許さんッ!」

 

「覚えておけい! 優れた“個性”とは、軽々しく使う様なモノでは無いと言う事をな!」

 

物間を撃破したイナゴ怪人達は、ヒーローらしいカッコイイ台詞を述べて、ヒーローらしいカッコイイポーズをビシッと決めた。

ぶっちゃけた話、今回平和を脅かした原因は他ならぬコイツ等なのだが、そんな事は此方が暴露しない限り誰にも知られることは無い。最悪である。

 

「待てぇええええええええッ!! 俺と戦えぇええええええええええええええええッ!!」

 

「来たか、『ボンバー・ファッキュー』! よし、私は王の下へ戻る! 残りは頼んだぞ!」

 

「「応ッ!!」」

 

爆豪チームを筆頭にした他のチームを他のイナゴ怪人に任せ、イナゴ怪人1号は主の元へと帰還する。それを確認したイナゴ怪人2号は、どこからともなくラッパを取り出した。

 

「行くぞ! 『パカパンパンパン・パンパンパンパンパパーンッ!』」

 

イナゴ怪人2号によって、ファンファーレが鳴り響いた数十秒後、彼等はようやく思い知る。「“怪人”とは如何なる存在であるのか」と言う事を。

 

 

●●●

 

 

残り時間が半分になった所で轟チームと対峙してから、飯田の機動力に自前の脚力で対抗し、上鳴の放電や轟の氷結といった遠・中距離攻撃を「超強力念力」で防ぐ事、早4分。高い氷の壁にで閉ざされた空間の中で、俺達は膠着状態に陥っていた。

 

「GUUUUUUUUU……」

 

「大丈夫、落ち着いて。このまま1000万をキープし続ければ、僕達の勝ちだ」

 

俺達が対峙してすぐに他のチームが俺達に襲いかかってきた時、轟は上鳴の放電で動きを止め、そこを氷結によって足下を凍らせる事で動きを封じていた事から、俺達に対しても同じ作戦で来るだろう事は分かっていた。

だが、上鳴の放電も轟の氷結も、俺は「超強力念力」で防ぐ事が出来るし、この通常形態でも機動力は飯田に決して負けてはいない。『“個性”把握テスト』の時に使っていた「レシプロ」なる技を使われたら流石に不味いが、それでも来るタイミングが分かっていれば「超強力念力」で防ぐ事は可能だろう。

 

ここで問題となるのは、此方の中・遠距離の攻撃手段が少ない事。

 

現状で使えるのは「超強力念力」と「放電攻撃」だが、「超強力念力」の「目標を視認しなければならない事」と、「精密なコントロールには手を動かす必要がある」と言う二つの弱点が相手に露見しており、此方が「超強力念力」で鉢巻きを掠め取ろうとすると、タイミングを見計らったように飯田が機動力で狙いを定めさせない様に動き回ったり、更に八百万がブルーシートと言った遮蔽物を創り出して視界を遮ったりする為、まるで上手くいかない。「放電攻撃」も八百万が絶縁体のシートが作れる以上、防がれるのは明白だ。

 

つまり、お互いに決定打に至る為に必要な、「相手の動きを止める」と言う布石を打てないでいるのだ。まあ正直に言えば、轟が氷結のみで攻撃するこの状態は、ある意味非常に有り難い。

 

何故なら、俺の体は高熱に弱い。轟が左の炎による攻撃を繰り出してくれば、炎自体は「超強力念力」で防げるだろうが、温度までは防ぎきれない。それは氷結攻撃も同様なのだが、低温については、この体は零下10度までなら100%の能力を発揮でき、高温よりは幾分かマシだ。更に――。

 

「SYUUUUHAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

 

「……『シバリング』か。本当に色々と考えやがるな」

 

そう。轟の言う通り、俺は氷結の低温に『シバリング』で対抗している。『シバリング』とは身震い等による体温調節で、要するに骨格筋を動かして体温を上げていると言うだけなのだが、これで何とかなっているのだから問題は無い。

 

「……強いな。確かに強い。この中じゃお前は間違いなく一番の強敵だ」

 

「……?」

 

「接近戦に関しては、お前の『バッタ』の“個性”の方が、パワーもスピードも確かに上だ。だがな……そんな事は分かっていたさ。俺の“個性”は発動型で、中・遠距離戦で本領を発揮するタイプだからな」

 

「……轟君?」

 

「今の俺、息が白くなってるよな? さっきから氷結を使い続けた所為で、自分の体温が下がってんだ。上鳴も放電を使わせ続けた所為で、ちょっと頭が怪しくなってる。だがな、俺の氷結も上鳴の放電も、防がれるのは承知の上だ。その上で、俺達はずっとお前に氷結と放電を使い続けていた」

 

「………」

 

「俺が見る限り、お前は第一種目から全力で“個性”を使い続けていた。エネルギーを全力疾走の様に使ったもんで、お前は第一種目が終了した時点で、結構体力や精神力を消耗していた筈だ。それを理解した上で、俺は騎手になった」

 

「……CURUUUUU」

 

「前騎馬には機動力があるヤツが望ましい。だから、お前は前騎馬になったんだろう。だが、馬力のある車ほどボディは温まるモンだ。エネルギーを多く消費するからな。ここまで言えば、賢明なお前なら俺の言ってる事、分かるよな? エネルギーを消耗すれば、どうなるかよ……」

 

……ああ、分かったぜ。お前の言いたい事と、お前の狙っている事がハッキリと理解できたよ。少しずつ俺の手足が……かじかんできた事でなッ!

 

「あ、あっちゃん!! あ、暖かかった体が、冷たくなってきてるッ!?」

 

「お前の念力、段々と精度が低下して、効果範囲も狭まってきているぞ? 麗日やサポート科のジャージの裾が、少しだが凍ってきているので分かる。更に体の反応速度も落ちてる。……どうした? 腕が増えたんで、疲労で肩こりでも起こったか? それとも、頭に体がついていかなくなってきたのか?」

 

「UUUUU、MMMMUUU……」

 

不味いな。自慢じゃ無いが、俺のスタミナはクラスの中でも一番多く、それこそ馬鹿げたレベルの容量を誇っているが、それでも決して無限ではない。有限である以上、“必ず”ガス欠になる。轟は初めからソレを狙って攻撃し続けていたのだ。

しかも、俺が複数の能力を使っていれば、その分だけ精神力や体力の消耗が加速する事も見越していた。恐らく『半冷半熱』と言う、複数の能力を行使できる“個性”を持つからこそ、轟はその事に気づいたのだろう。

 

「上鳴ッ!!」

 

「オウェ!!」

 

轟の指示により、何度目かの上鳴の放電攻撃が襲いかかり、即座に「超強力念力」で防ぐが、今回は他の三人を感電させないのが限界だったようで、出久が背負っていたバックパックに電撃が命中した。

 

「!! バックパックがイカレた!?」

 

「ベイビー! 改善の余地アリッ!!」

 

「八百万ッ!!」

 

「はいッ!!」

 

それを確認すると轟は次に八百万に合図を送り、八百万は無数の人形(マトリョーシカ)を投げつけてきた。八百万が攻撃をしてきた事に意表を突かれたが、飛び道具を破壊するのは防ぐよりは楽だ。そう思って触覚からの「放電攻撃」でマトリョーシカを破壊した瞬間、激しい閃光が俺達の視界一杯に広がった。

 

「KUWAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

 

「コレはッ!?」

 

「わっ! 眩しいッ!!」

 

「飯田ッ!!」

 

「レシプロバーストッ!!!」

 

視力を奪われた事で、意識が途切れて生まれた一瞬の隙。その隙を轟は決して見逃さなかった。目を封じられた俺は、自分達の左横をナニカが通過するのを風圧によって肌で感じ取り、プレゼント・マイクの実況によって現状を知る事になる。

 

『おぉーーーっと! ライン際の攻防ッ! その果てを制したのは……逆転! 轟が1000万ッ!! そして緑谷チームは2位に転落! 第一種目ではトップクラスの力を見せつけた三人の戦いッ! このまま轟の勝利で決着なるかーー!?』

 

「GYUAAA、VAAAIJUJAA!?」

 

「だ、大丈夫! 何とか見えてる! それより、皆は!?」

 

「だ、大丈夫!」

 

「わ、私も何とか……」

 

……そうか。どうやら閃光弾の直撃を食らったのは俺だけらしいな。

 

しかし、視力は徐々に回復しつつあるし、所持しているポイントを考えれば、イナゴ怪人が獲得したポイントで予選の通過は何とかなるだろう。ここは退くのも選択肢としてはアリと言えばアリだ。だが……。

 

「おお、流石は№2の息子だな。もうそこらのプロ以上だぜ」

 

「ああ、“個性”の使い方だけじゃなくて、判断力や分析力も桁違いだ」

 

「だなぁ。でもあのチームは騎馬の連中も負けてないぜ。早速『【サイドキック】』の争奪戦になるな!」

 

「おお、惚れ惚れするような戦い方だったぜ。やっぱ、ヒーローはこうでなくっちゃな!」

 

「……WWHHHHH」

 

……駄目だ。やはり俺は退く訳には行かない。

 

幼い頃、出久達と通った幼稚園で、勝己が保母さんから「ヒーロー向きの“個性”だ」と賞賛されていたが、それはつまり「ヴィラン向きの“個性”もまた存在する」と言う事を、俺は逆説的に理解してしまった。そんな物の見方がある事を知ってしまった。

 

そして「ヴィラン向きの“個性”」を持って生まれた人間の多くは、自分の“個性”を『祝い』ではなく『呪い』と受け取る。

 

それは俺の様に「ヴィラン染みた見た目」であるとか、「“個性”の特性そのものが悪用に向いている」と言った事から、他人や世間に刻まれてしまう、決して消える事の無い超人社会の理不尽な烙印。そんな『呪い』を解くには、どうにかして『呪い』を『祝い』に変えるしかない。

 

そして、この騎馬戦における今の俺達と轟達の状況は、正に「強大な力を持つヴィランに勝利する、カッコイイヒーロー軍団」ッ!!

 

ならば、俺はコイツ等に背を向ける訳には……負ける訳にはいかないッ!! 何故なら俺がここでコイツ等から退いたら……『誇り』が消えるッ!

 

俺が目指すものは『“個性”で苦しむ人々の希望』だ。ここで俺が退く事は、俺の異形系“個性”持ちとしての『生き様』が。すなわち、怪人としての『誇り』が消える事を意味するッ!

そしてそれは、コレを見ている全国の異形と異端の“個性”を持つ者達の、小さな『希望』が消える事に繋がってしまうッ!! 次は無いッ!!

 

『残り一分弱ッ!! 轟がガン逃げヤロー緑谷から1位の座をもぎ取ったぁ!! このまま上位4チーム、出揃っちまうかーーーーー!?』

 

……残り一分弱。こうなれば、アレをやるしか無い。

 

轟よ。お前が何故戦闘に炎を使わないのかは知らん。だがな……その判断こそが、そのこだわりこそが、実戦では取り返しのつかない命取りに繋がるのよ!

 

更に、お前は一つだけ勘違いをしている。俺だって承知の上だったんだ。“個性”を使えば使う程、エネルギーを大量に消耗していく事位はな。

 

そして……あるんだよ。この状況を覆す方法が、一つだけな……。

 

「! やるのか王よ!? 今ッ! この場でッ!!」

 

そうだ、覚悟を決めろ、イナゴ怪人ッ!! 真の覚悟はここからだッ!!




キャラクタ~紹介&解説

轟チーム
 轟の氷結がイナゴ怪人を「攻略」できる“個性”である上に、シンさんとしては相性的に最も厄介と言えるチーム。更に轟自身が「凍結の“個性”のみで、如何にしてシンさんを攻略するか」をガチで考えて騎馬戦に望んでいた為、かなりの強敵に仕上げてみた次第。尚、作中で描写されていない原作との相違点として、シンさんの脚力を警戒して、展開した氷の壁が非常に高くなっている事が上げられる。
 轟のシンさんの“個性”の分析に関しては、『ジョジョ』第5部のプロシュート兄貴の台詞をベースにしている。そして「プロ並みの実力を持つ轟焦凍」、略して「プロショート」と言うネタも思いついていたが、コイツが「このマンモーニがッ!」と言うとなんか物凄い皮肉や嫌みに思えたので止めたと言う経緯がある。

???「兄貴ィッ! プロショート兄貴ィッ! やっぱり兄貴ィはスゲーやッ!!」
轟「……?」

死柄木弔&オール・フォー・ワン
 怪人軍団の戦いをしっかりと見ていたヴィランの師弟。手加減をされていた事実に腹が立つ一方で、こんなトンデモナイ化物と相対していたのかと思うと冷や汗が出るといった、結構複雑な心境にある。そして、彼の言うトラウマ映像は次回に持ち越し。まあ、この後すぐに投稿するけど。



イナゴ怪人(2号&V3)VS物間寧人
 鉢巻きの奪い合いよりも、お互いの煽りスキルをぶつけ合う事の方に重点が置かれた対決。物間チームは原作で鉢巻きを4本持っていたが、葉隠チームと爆豪チーム以外の残り1本は描写が無いので、計算して算出するのが面倒……もとい、ここぞとばかりにオリジナル展開を入れさせて貰った次第。
 そしてキモイ見た目の怪人二人に「キモーイガールズ」の台詞を言わせるという暴挙。そりゃあ誰だってキレる。俺だってキレる。

イナゴ怪人(1号~V3)VSにせ怪人バッタ男
 鬼塚変身体=「改造兵士レベル3(プロトタイプ)」と化した物間と、イナゴ怪人の戦い。当初物間はシンさんと戦わせる予定だったが、上記の物間とイナゴ怪人の絡みを思いついたので、此方に変更したと言う経緯を持つ。
 作品で初の偽ライダーと言うことで、ここは「ライダー車輪」で倒そうかとも思ったが相手は一人だし、せっかくの騎馬戦だからローカスト・ホースを使った必殺技が必要だと思ったので、最終的に「ライダートリプルパワー」のパクリ……もとい、オマージュした轢き逃げアタックで撃破。そしてそれぞれの配置が元ネタと違うのは気にしないで頂きたい。

覚悟を決めたシンさん
 次回、更なるトラウマ映像が解禁。しかし、そこに至るまでの台詞の元ネタが『ジョジョ』第5部のディアボロだったり、ミスタだったりと結構忙しい。

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