怪人バッタ男 THE FIRST   作:トライアルドーパント

28 / 70
今回からいよいよ本戦開始。そして、またもやタイトルによって展開をネタバレすると言う暴挙。タイトルの元ネタは『仮面戦隊ゴライダー』から。

そして『仮面戦隊ゴライダー』のレンタルが開始されたので早速見ましたが、本編『アギト』以来16年ぶりとなる本人の客演。そしてライダーパンチの他にエレクトロファイヤー染みた技も使える様になっているアナザーアギトの活躍に、作者は興奮を禁じ得ない。

そして、今回も『アマゾンズ』要素を取り入れた結果、かなり残酷でショッキングな描写がありますので、閲覧の際はご注意下さい。……いや、八百万が目玉くりぬかれて食われたりはしませんよ? ただ、シンさんがエラい目に遭うだけです。

それでは、二話連続投稿の二話目をお楽しみ下さい。

9/17 誤字報告より誤字を修正しました。報告ありがとうございます。

9/21 ゴランドさんから支援絵を戴きました。内容は「ミドライダーと化したシンさん」で、自由に使って良いとの事なので、『キャラクタ~紹介&解説』に、書いて戴いた支援絵を、挿絵として公開します。ゴランドさん、本当にありがとうございました。

2018/3/4 誤字報告より誤字を修正しました。毎度報告ありがとうございます。

2018/5/21 誤字報告より誤字を修正しました。毎度報告ありがとうございます。


第15話 FIRST STAGE:ミドライダーよ永遠に

歌の一つでも歌いたいような絶好調を維持しつつ、俺は決戦の時を迎えていた。

 

『それではいよいよ、選りすぐられた16名の1年生による最終種目が開始されますッ! 最終種目は、ズバリ一対一のガチバトルッ! 勝利条件は「相手を場外に落とす」、「相手を行動不能にする」、「相手のギブアップ」のいずれかを満たせばOKッ!! また、致命傷となるような攻撃は一発退場となりますッ!! 何故ならヒーローの対ヴィランにおける勝利条件は一つ! 「相手を殺さずに捕まえる」だけだからだッ!!』

 

『つーか、お前はここで実況して大丈夫なのか?』

 

『フッ。我々イナゴ怪人の力は予選で存分にアピールする事が出来たからな。我々はここに宣言するッ! 本戦において、我々7人のイナゴ怪人は誰一人として参戦しないッ! ここから先は王がその偉大な力を存分にアピールする時間なのだッ!!』

 

煽るなこの馬鹿野郎。しかし、少し考えてみるとイナゴ怪人V3は不参加に足る理由があると言ってはいるが、要するに奴等はこの本戦において高みの見物を決め込んでいると言う訳だ。俺としてはある意味助かる展開だが、何かムカつくのは何故だろう。

 

『それでは、白虎の方角ッ! ヒーロー科、呉島新ッ!!』

 

「SHYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

 

『青龍の方角ッ! ヒーロー科、八百万百ッ!!』

 

「………」

 

イナゴ怪人V3のアナウンスを聞きながらセメントス先生が造ったバトルフィールドに足を踏み入れると、俺と八百万に観客からの歓声の雨が降り注ぐ。八百万は無言ながらも表情は闘志に満ちあふれているが、若干の不安からか目尻が少々険しい。

 

『それでは激闘の狼煙となる、注目の一回戦・第一試合ッ! 開始めぃッ!!』

 

「ゴワァァア~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ンッ!!」

 

試合開始の合図と共に、イナゴ怪人2号の手によって闘いを告げる銅鑼が鳴らされる。正直、一体何処からそんなモノを持ってきたんだと問い詰めたい所だが、今は目の前の事に集中しよう。

 

「SYAAAAAAAAA!!」

 

「ッ!! 甘いですわ!」

 

俺は勝利条件の一つである「相手を場外に落とす」を狙い、「超強力念力」を八百万に向けて発動させる……が、流石にコレは読まれていた。八百万は試合開始と同時にブルーシートと無数のマトリョーシカを生成すると、マトリョーシカを全て此方に投げつけてきた。

しかし、此方も同じ手は食らわん。左手で左目を隠す事で閃光弾に対応し、触覚から放たれる緑色の電撃で全てのマトリョーシカを破壊する。

 

「? DUAMGA?」

 

すると、マトリョーシカの中身は全て白い顆粒状の物体であり、閃光弾は一つも入っていなかった。パッと見た感じコレが何なのかさっぱり分からないが、触れても特に何も起こらないので、取り敢えずこの白い粉は無視して、再び八百万本人を狙う。

 

その後も、八百万は俺に近づくこと無く、一定の距離を保ちながら“個性”で生成した道具を駆使して立ち回った。基本的には俺との間にブルーシートや盾等の遮蔽物を作ることで視界を遮り、八百万は自身に「超強力念力」をかけられない様にしていた。

 

そして攻撃は『創造』で創り出したマトリョーシカの投擲と、様々な武器……所謂、非致死性兵器による遠距離攻撃に終始していた。流石にグレネードランチャーを創り出した時はビビったが、弾は暴徒鎮圧用のゴム弾であり、当たってもそんなに痛くは無い。

地味に厄介なのがマトリョーシカの投擲で、マトリョーシカの中身は先程の白い粉以外にも閃光弾や捕縛用ネット等多岐に渡り、これらはマトリョーシカを破壊するまで一切分からない。

 

『遠距離戦だぁーーーーーッ! 八百万選手、呉島選手との接近戦を嫌がってか、距離を取っての中・遠距離攻撃に専念し、呉島選手に近づかない、そして近づけさせないィイーーーーーーーーッ!!』

 

『まあ、異形型は近接戦闘で旨味を発揮するタイプが殆どで、呉島もそのタイプだからな。攻撃手段の少ない中・遠距離で戦うのは良い選択だとは思うが……一気に距離をつめられるレベルの身体能力を持つ呉島が、それに付き合っているのは意外だな』

 

……すみません、相澤先生。これは「付き合っている」んじゃなくて、「攻めあぐねている」んです。

 

何せ戦う相手が男子であるなら、これまで何人もこの拳で殴り倒してきたから勝手が分かるのだが、タイマンで戦う相手が女子と言うのはこれまでの俺の歴史で前例が無い。

従って、どう戦えば良いのかイマイチ勝手が分からない俺は、かつての『屋内戦闘訓練』で麗日にやった時と同じ様に、「超強力念力」による場外のみを狙い、八百万自身に「超強力念力」をかけるチャンスを待っていた。

 

八百万の『創造』が「体から物を創り出す」“個性”である以上、恐らく八百万は“個性”で創造する度に体の中の何かを消耗している筈だ。つまり、無から有を創り出す事は出来ないのだから、持久戦に持ち込めば良い訳だ。幸い、本戦に時間制限は無い為、八百万が疲れるのをじっくりと待つことが出来る。

 

「ま、まだまだですわッ!!」

 

「WRUYAAA!!」

 

そして、投げつけられたマトリョーシカから飛び出した捕縛用ネットを「ハイバイブ・ネイル」と「スパイン・カッター」で切り裂き、八百万の姿を隠すブルーシートを「超強力念力」で触れずして場外へ放り投げる。

そこから間髪入れずに放たれたゴム弾を「超強力念力」の不可視の壁で防ぎ、ゴム弾を八百万に向けて跳ね返すが、八百万はソレを創造した盾を斜めに構える事で受け流した。

 

そんな千日手の様な試合展開から早くも10分が経過しようとしていた時、息が荒い八百万が突然俺に話しかけてきた。

 

「……呉島さんの『超強力念力』による“見えない攻撃”を完全にかわし続けるのが難しい事は分かっていました。しかも、『超強力念力』は攻防に長けていて、呉島さん自体の頑丈さも並外れている。普通の攻撃で倒すのはまず不可能でしょう」

 

「MUUUUUUU……?」

 

「ですから、私なりに必死に、呉島さんを無力化できる作戦を考えましたの。確実に効果があり、避けられない。そんなとっておきの作戦を!」

 

何? 俺に確実に効果があり、尚且つ避けられない様な作戦だと!? 一体どんな作戦だ!?

 

「私の“個性”の容量限界を狙って消耗戦を挑んだつもりなのでしょうが、それは私にとっても好都合でしたわ。大きく複雑な機構を持つ物を複数作るとなると、相当な時間が掛かってしまいますから……」

 

そう語る八百万の背中から出てきたのは、四つのプロペラが付いたタイプのドローンが合計四機。それらが約3m程度の高さを飛行し、俺の周りで円を描きながら大量の液体をまき散らした。

 

すると、謎の液体はバトルフィールドに散乱した謎の白い粉と反応し、白い煙を上げ始めたではないか。

 

「『トラロック』をご存じですか!? 日本最大級の製薬会社『野座間製薬』が開発した、人体に無害かつ80~90%の駆除率を誇る、水と混ぜることによって気化する害虫駆除を目的とした……殺虫剤ですわ!!」

 

何……だと……ッ! この謎の白い粉の正体は、「水ではじめるバルサン」的な殺虫剤だったのかッ!! 不味い! コレは非常に不味いぞ!!

 

そう思ったが時既に遅し、俺の周囲に大量に発生したトラロックは、瞬く間に巨大な白い壁となって四方八方から迫っていた。しかも、八百万はドローンを操作する事で四方から風を起こし、発生したトラロックを俺の周辺に留める事で、死の雨神による抱擁からの脱出を完全に防いでいた。

 

「SHIGYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

 

そして始まるトラロックの侵食によって、俺の体は見る見るうちに無残な姿に変貌していった。

 

八百万はトラロックが人間には無害である事から、「俺を無力化できる程度の効果を発揮する」と思い、コレの使用に踏み切ったのだろうが、このトラロックによる面の攻撃はそんな八百万の想像に反し、俺に対して無力化以上の絶大な効果を発揮していた。

肌はまるで沸騰したトマトソースの様に、ぐちゃぐちゃ且つドロドロしたモノとなり、その色彩は赤と緑のマーブル状でグロテスク以外の何物でも無い。視界を埋め尽くすモノがトラロックの白から鮮血の赤に変わり、更にトラロックを吸い込んだ肺はまるで燃えているかの様に熱く、鉄の味がする液体が幾度となく喉にこみ上げてくる。

 

「SYYYYYYYYYYYYYYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAHHHHHHHHHH!!」

 

相手が毒物故か『超回復能力』も発動せず、ハッキリ言えば絶体絶命の大ピンチ。だが大量に発生したトラロックは俺の姿を完全に隠しているらしく、俺の惨状は全く周囲に認知されていない。それに、よく分からない叫び声を上げるのも何時もの事なので、事の緊急性がまるで理解されていない。

この程度の煙、『マッスルフォーム』になれば吹き飛ばす事も可能だが、フォームチェンジは相当の集中力を必要とし、トラロックによる激痛を受けている間にソレをやるのは不可能だ。

 

それでも……畜生……負けたくない……ッ!!

 

ほんの少し、ほんの少しでもこのトラロックから身を守る事が出来れば……ッ! そう、例えるなら、俺のコスチューム……『強化服・一式』の様に……。そうすれば……オールマイトみたいに……吹き飛ばして……。

 

「GUUU……MUOOOOOO……」

 

意識が朦朧とする中、俺は遂にその場に膝をついた。そして俺が激痛から左手で胸を押さえたその時、不思議な事が起こった。

 

 

○○○

 

 

解説として試合を観戦していた相澤の包帯の隙間から見えるバトルフィールドは、その大部分が八百万の策によって大量に発生したトラロックによって、白一色に染め上げられていた。

 

「……血迷ったか?」

 

「何と?」

 

相澤が隣に座っているイナゴ怪人V3に、そんな事を言うのも無理は無い。何故ならV3の肉体は半分以上が崩壊し、もはや胸から下は中身であるプレゼント・マイクの体が剥き出しの状態だった。

本体のダメージがイナゴ怪人達にキックバックする性質を知る相澤からすると、新が相当なダメージを受けている事は簡単に予測する事が出来た。

 

「生物型の“個性”を持ってる奴は、良くも悪くもその生物の能力や特徴を持っている。長所や短所は勿論、弱点もまた然りだ。幾ら人体に無害なガスだと言っても、『バッタ』の“個性”を持つ呉島は少なからずトラロックの影響を必ず受ける。ならこの勝負はもう……」

 

「否ッ!!」

 

「……?」

 

「見られい、イレイザー・ヘッドッ!!」

 

現在進行形で肉体が崩壊しているイナゴ怪人V3に言われて、相澤が再びバトルフィールドに目を向けると、トラロックの煙の中で緑色の光がぼんやりと見えた。

 

「あの光は……」

 

「不屈の精神を持った戦士にあっては、自己に与えられた過酷な試練こそ、かえってその若い『闘魂【たましい】』を揺さぶり、遂には……ッ!!」

 

そんなイナゴ怪人V3の言葉を「待っていました」とでも言う様な絶妙なタイミングで、バトルフィールドに充満していた白煙が緑色の竜巻によって吹き飛ばされ、それに巻き込まれる形で滞空していたドローンが全機破壊される。

 

そして、八百万の策を打ち破った新の姿が白日の下に晒されるが、トラロックを吹き飛ばした新の姿は一変していた。

 

その姿は、赤い複眼と胸部装甲を備え、緑色のマントと緑色の風車を備えたベルト。そして黒いグローブとブーツを身に付けており、それは呉島が普段授業で身に付けているコスチュームに類似していた。

 

「……何だアレは? 何時も呉島が使っているコスチュームに似ているが……」

 

「うむ。あれはコスチュームに似ているがコスチュームでは無い。アレは身に纏っていたジャージを作り変えた紛い物だ」

 

「作り変えた? どう言う意味だ?」

 

「……無知な人間には決して辿り着けぬ境地がある」

 

「何?」

 

「薬物と滅びゆく肉体とのせめぎ合いの果てッ! 幾千幾万と言う夥しい犠牲の向こうに存在する、薬物を凌駕する例外の存在ッ!! 『自らが勝利し続ける事で、新たな希望が生まれる』と言う狂気を孕んだ信仰が数々の暴挙を生みッ!! 数々の暴挙のみが……一つの奇跡を生むッッ!!!」

 

相澤の質問に対し、よく分からない事を語り始めたイナゴ怪人V3。その言葉の意味を、相澤は自分なりに咀嚼し、そこから新の身に起こったことを推測する。

 

「……つまり、こう言う事か? 呉島は土壇場で新しい能力を発現させて復活した?」

 

「然り! 王はこの戦いで身に纏っていたジャージを分子・原子レベルで分解・再構成し、あのコスチュームもどきに作り変える能力を得たッ! 薄きジャージは厚き装甲と化し、死の雨神を食い止めたのだッ!!」

 

「……チョット待て。それじゃあやっぱり、呉島にトラロックは滅茶苦茶効いてたって事じゃねぇか」

 

「細かい事は気にするな。結果オーライ、結果オールマイトだ」

 

イナゴ怪人V3と相澤の解説が進む中、八百万と対峙した新は、体の右側にゆっくりと両腕を動かすと、右腕を斜め上に、左腕を斜め下へ向けて真っ直ぐに伸ばした。

 

―ゴリ……ゴリゴリゴリゴリゴリゴリ……―

 

それはおよそ一切の流派に、聞いたことも見たこともない奇怪な構えであった。その形はただ見れば、大昔にテレビで放送された特撮ヒーローが行う変身ポーズの如くだが、闘気全身に満ち、微塵の隙も無いのだ。

それを見た相澤は、新のこの不可思議な、しかも恐るべき闘気の迸る構えに、呆然と息を呑んだ。

 

「……怪物め」

 

「褒め言葉として受け取っておこう」

 

怪物。王である呉島新が幾度となく言われ続けてきた侮辱の言葉を、イナゴ怪人が褒め言葉として受け取ったのは、コレが初めてである。

 

 

●●●

 

 

白から赤。そして一瞬だけ着ていたジャージが震えた様に見えた次の瞬間、俺の視界は完全なる闇に閉ざされた。もしや失明したのかと思ったが、顔が何かに覆われており、触ってみるとヘルメットらしきものを被っているらしく、頭以外は全身がスウェットか何かで覆われている様な感触がした。

更に、先程まで全身に走っていた激痛が収まっており、トラロックによる侵食が止まっている事に気がついた。その代わりと言っては何だが、今の俺はかなり息苦しく、俺が今身に付けているモノは、どうやら完全に気密性を保つ事が出来るらしい。

 

いずれにせよコレはチャンスだ。俺は肉体を『マッスルフォーム』に変化させると、この二週間で体得した二つの新技を使う準備に取りかかった。

 

まず一つ目はイナゴ怪人との感覚共有。父さんが言うには、バッタが有する『テレパシー能力』とは、「同族の記憶・感情・意識に反応する共通の疑似体験」であり、俺はイナゴ怪人と思考を送受信するに留まらず、イナゴ怪人と五感を共有する事も可能であるとの事。

 

そう言われて『テレパシー能力』を重点的に鍛えた結果、俺は一人だけだがイナゴ怪人と感覚を共有することが出来るようになり、現在辛うじて生き残っている事が感じられるイナゴ怪人V3とのリンクを繋げるべく精神を集中させる。

すると、イナゴ怪人V3の目を通して、バトルフィールドを上から見下ろす形で把握する事が出来た。端の方に八百万が立っているのが見え、あの白煙の中には俺がいるのだろう。

 

「MUNNNNN………」

 

そして二つ目の新技だが、これはこの二週間で『マッスルフォーム』について色々と試してみたが、その力を俺は「弱い」と感じた事から生まれた。

 

それと言うのも、確かにパワーは上がっているが、この程度の力で『敵連合』のマッチョメンこと脳無を倒せるとは思えなかったのだ。

オールマイトや出久の話では、『マッスルフォーム』を発現させた時の俺は拳を砕きながらも脳無を殴り、最後には全身から血を噴き出しながら戦っていたらしく、姿も二本角で歯はむき出しの状態であり、羽根も背中から生えていなかったらしい。

 

その事から考えられるのは、恐らく発現した時は肉体を自壊させる程のパワーを発揮して脳無を圧倒する事が出来たが、その後で俺の“個性”が肉体を自壊させない様に、そして発揮するパワーに対応できる様に肉体へ再進化を促し、結果としてマッチョメンとの戦闘を行った時程の力を発揮する事が出来なくなっていると結論づけた。

 

つまり、俺がマッチョメンの時と同じ力を発揮する事が出来ない以上、俺には足りない力をフォローする為の工夫が、言わば+αの技が必要になると言う訳だ。

 

「FUUUUUUU……」

 

俺が右腕を右斜め上に、左腕を右斜め下に伸ばすと、ヘルメットらしきモノの下で、俺の口に蓋をしていた部分が上へスライドする。足元から体の中に圧倒的なエネルギーが送り込まれ、ソレを両手に貯めながらイメージするのは、1年前にオールマイトが海浜公園で起こした人工渦潮。そして、USJで俺がマッチョメンこと脳無を相手に繰り出したと言う竜巻。

 

つまりは……“捻り”だ。

 

「SHYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

 

そして、両腕を同時に左へ勢いよく薙ぐ事で放たれるのは、緑色のエネルギーを纏った竜巻。その暴風はトラロックを一瞬で吹き飛ばし、隠された俺の姿がイナゴ怪人V3の目を通して明らかになる。

 

しかし、明らかになったのは良いのだが、何というか思っていたのと見た目が違う。『強化服・一式』に似てはいるが細部が所々で違うと言うか……もしかして、朦朧とする意識の中で発動した所為でイメージが定まらず、こんな感じになったのだろうか?

 

「そ、そんな……!」

 

「MUNNNNN………」

 

そして始まるイナゴ怪人V3と相澤先生の解説及び実況。勝手に俺の新しい能力を把握して全国に暴露すると言う暴挙をやってのけるV3に殺意が湧くが、今は作戦を破られて呆然としている八百万を先になんとかしよう。

 

そう考えた俺は、再び右腕を右斜め上に、左腕を右斜め下に伸ばして、新技の発動準備に取りかかる。今度は姿が完全に見えているお陰で、足元に展開される六本の角が描かれた不思議なマークもハッキリと見える。

 

―ゴリ……ゴリゴリゴリゴリゴリゴリ……―

 

『目ある者は見よッ! 可視化されるほどの高純度を持つエネルギーからなる緑の紋章をッ!! 耳ある者は聞けッ! 万力の如く全身を締め上げる筋肉の悲鳴をッ!! アレこそは王の必勝の構えッ!! 「真空きりもみシュート」のお姿ッッ!!!』

 

あの野郎、この新技に勝手に名前を付けやがった。一応、「ライダーサイクロン」とか、「アサルトサイクロン」とか色々考えていたのに、これで台無しじゃあ無いか。

 

「SUUUUUUU……」

 

「……落ち着きなさい。トラロックは確かに効果がある……それならッ!!」

 

足下の六本の角のマークが両足に吸収され、そのエネルギーが体を通って両腕に集中する中、八百万が何か新しい策を思いついたのか、複数のマトリョーシカを生成するが、俺はそれを投擲される前に、再び両腕を右から左へと勢いよく薙いだ。

 

「SHYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

 

「きゃああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!」

 

両腕と上半身の捻りから繰り出された緑色の竜巻は、強烈な風圧と猛烈な螺旋回転を以て八百万と無数のマトリョーシカを飲み込み、そのまま八百万を場外へと吹き飛ばした。

 

「八百万さん場外ッ! 呉島君、二回戦進出ッ!!」

 

『勝負ありッッ!!! 無念、八百万選手!! “個性”発動アリの本戦において、他の追随を許さない汎用性を誇る『創造』を持つ八百万選手が、たった一撃ッ! たった一撃で文字通り、宙を舞う結果となったのですッッ!!』

 

……勝った。しかし、初戦にしてこの有様とは情けない。何にせよ、取り敢えず今は……猛烈に酸素が欲しいッッ!!!

 

「WRYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYY!!」

 

『ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!』

 

新しい能力でジャージが変化したと言うコスチュームもどきを、『超強力念力』の頭から真っ二つに割れるイメージと力技で破壊すると、観客席から物凄い悲鳴が上がった。

 

『落ち着いて下さい! これはコスチュームもどきを脱いだだけです! 決して生皮を剥がした訳ではありませんッ!! そして「バイオハザード」や「サイレントヒル」に登場するクリーチャーでもありませんッッ!! 呉島新ッ、呉島新なのですッ!!』

 

『アイツ、あんな状態で戦ってたのか……』

 

そう。仮にこのコスチュームもどきから『普通のマッスルフォーム』である俺が出てきたならば、問題は無かった。しかし、今の俺はトラロックによって全身の皮膚が溶けており、言うなれば『マッスルフォーム・生』と言える状態だったのだ。

イナゴ怪人V3の感覚共有によって、その姿を俺も客観的に見る事が出来るが、全身が血塗れで筋繊維が剥き出しになっており、その姿は完全にホラー映画に出てくる化物以外の何物でも無い。

 

そして悲鳴と絶叫がスタジアムを支配する中、俺が酸素を思いっきり体内に取り込みながら、ふと場外に倒れている八百万の方に目を向けると……何たることぞ、八百万の服が溶け出しているではないか!

一体何が起こったのかと思って良く見ると、八百万の近くにはマトリョーシカの残骸が大量に散らばっており、その中身である液体が八百万の服を溶かしていた。

 

……そうか! 分かったぞ!

 

八百万が最後に俺に投げようとしたのは、このコスチュームもどきを溶かす為の薬品だったのだ! それが俺の「真空きりもみシュート」で一緒に飛ばされて壊れてしまい、八百万の体に掛かってしまったのかッ!

しかし、謎は解けたが、八百万の服も現在進行形で溶けている。このまま放っておけば、八百万の裸体が全国のお茶の間に流されてしまう事を危惧した俺は、『超強力念力』でマントを飛ばして八百万の体を隠すと、気絶している八百万目がけて猛然と走り出した。

 

「GUWASHYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

 

そして、意識を失っている八百万をマントにくるんで抱き上げると、俺は一足飛びに出入り口へ向かい、スタジアムから姿を消した。

 

スタジアムの観客席から「ヤベェ! 化物が気絶した女の子を攫って行ったぞ!」とか、「きっと巣に持ち帰って、卵を産ませるつもりに違いねぇ!」とか、実に不愉快な単語が聞こえてきたが、俺は無視を決め込むと、八百万を抱えてリカバリーガールの元へと急いだ。

 

 

○○○

 

 

新に敗れた八百万は現実と幻想の狭間にいた。そんな朧気な意識の中、八百万は自分が何処かに運ばれている浮遊感と、奇妙な安心感に包まれていた。

 

「(……なんでしょう? 妙に心が落ち着きます。まるで……そう、まるで何か、雄大な強者の腕に抱かれている様な……)」

 

そして意識を取り戻し、目を覚ました八百万の目に最初に飛び込んできたものは……。

 

「BEVOGACACIRADA、GYUUVAIDOO!」

 

「………」

 

髑髏を思わせる死神の様な風貌の、全身が血塗れで筋繊維が剥き出しな怪人の笑顔を見て、八百万は白目を剥いて気絶した。




キャラクタァ~紹介&解説

呉島新
 この後、試合中の姿が「コスチュームの使用」に抵触するのではと言われたが、脱ぎ捨てられたコスチュームもどきの残骸を調べた結果、“見てくれだけのハリボテ”だと分かりお咎め無し。むしろ「こんなのを着たら、目が見えない上に耳も聞こえない状態だった筈なのに、どうやって正確に相手の居場所を特定して攻撃を当てたのか」が議論の対象になった。

八百万百
 シンさんとの戦いでは中・遠距離攻撃に専念し、下記のトラロックによってシンさんを追い詰めるが、それが原因で新しい力を獲得する機会を与えてしまい、結果として初戦敗退。『すまっしゅ!!』ネタを採用した所為で服がエラい事になったが、誰もが『アナザーシンさん・生』の方に目が行っていた上に、マントで隠されたので、彼女の尊厳は守られている。

イナゴ怪人(1号~ストロンガー)
 本戦であるトーナメントではV3が実況を務め、残りが交代で試合開始の銅鑼を鳴らす以外、特に出番は無い。そして銅鑼を鳴らしたイナゴ怪人は、すぐに何処かに消える。
 肉体が崩壊しているのにも関わらず、叫び声一つ上げなかった事で弱点を露呈させなかったV3は正に怪人の鑑。ちなみにV3はこの試合が終わった後、ミュータントバッタを補充して完全復活している。





トラロック
 野座間製薬が作った人体に無害な殺虫剤。決して人食い怪人用に作られた毒ガスでは無い。八百万がシンさんを無力化する目的で創造して使用したが、実際に使ってみたら八百万の想像以上に効果は抜群だった。
 元ネタはご存じ『アマゾンズ』の改良型対アマゾンガス。そして漫画版『Black』のバッタ男が人間用の毒には強いが昆虫用の毒には弱い事や、『クウガ』のバダー兄弟が排煙やガス弾に弱い事も元ネタである。

モーフィングパワー
 シンさんが八百万の「脂質を様々な原子に変換する」エネルギーをトラロックごと吸収した結果、「触れたモノを分子・原子レベルで分解・再構成する事が出来る」能力として昇華させた、シンさんの新たな能力。
 元ネタは『クウガ』のバダー兄貴こと「ゴ・バダー・バ」。これでシンさんも自転車をバギブソン(手動)に変えて乗ることが出来る様になる。まあ、モーフィングパワーはバッタ怪人に限らず、グロンギなら誰でも持ってる能力らしいんだけど。
 ちなみに、以前感想欄で「シンさんは夏の“個性”強化合宿の時どうするの?」みたいな事が書かれたが、仮にこのモーフィングパワーを強化した場合、最終的には「何も持っていない状態から武器を創り出す事」が出来るようになったり、「触れる事無く周囲にある物体を分子・原子レベルで分解・再構成する事」が出来るようになったりする。つまり、“個性”強化合宿の目的である必殺技の習得が、文字通り“必ず殺す技”を習得する事になりかねない訳で……。

塩崎「彼はやがて、“究極の闇をもたらす者”と等しくなるでしょう」
出久「究極の……闇?」
オールマイト「まさか……奴と同じ“闇の帝王”に……!?」

コスチュームもどき(ミドライダースーツ)
 シンさんが上記のモーフィングパワーで創り出した、完全気密性のハリボテ。見た目は完全に『仮面戦隊ゴライダー』のミドライダー。マントについては、オールマイトの事を考えた結果、オールマイトのコスチュームのイメージから生成された。
 実は元々はネオ生命体1号である『仮面ライダーZO』の姿に変身する予定だったのだが、作者が『仮面戦隊ゴライダー』のDVDを見た結果、アナザーアギトの中身がミドライダーである事から、ミドライダーに急遽変更したと言う経緯がある。

ZO「………」

そして、まさかの二次元化が、ゴランドさんからの支援絵と言う形で実現。


【挿絵表示】


余りの感動に作者の気分は、正に「謝りたいと感じるから感謝ッッ!!」状態。ゴランドさん、しつこいようですが、今回は本当にありがとうございました。

アナザーシンさん・生
 上記のトラロックで全身の皮膚がエラい事になって、真っ赤になったアナザーシンさんの姿。元々は『ZO』で「赤ドラスからZOが出てきた」のとは逆で、「ZOから赤ドラスが出てくる」と言う逆パターン的な事をやってみようと言うアイディアがあり、その結果生まれたのが、この「アナザーシンさん・生」である。実際に採用したのはZOではなくミドライダーになったけど。

ZO「………」

感覚共有
 シンさんの新技その1。元々持っていた「テレパシー能力」の強化によるものであり、鍛えていけば『NARUTO』のペイン六道の様な事も可能になる。元ネタは『真・仮面ライダー 序章(プロローグ)』における、シンさんと鬼塚の精神リンク。まあ、コッチはシンさんが眠っている間に一方的に行われていて、シンさんを苦しめる結果になっている訳ですが。

真空きりもみシュート。
 シンさんの新技その2。元ネタは『仮面ライダーSPIRITS』で、仮面ライダーZXが「ZX穿孔キック」の際に放つ「空のきりもみシュート」。
今回は上記のミドライダーの姿で放っているため、その姿は完全にヒーローのソレ。そして、その光景を見た某ヒーローマニアのヴィランは大・大・大・大・大興奮。

試合後のシンさんと八百万
 元ネタは『すまっしゅ!!』の八百万VS常闇戦。やっていることは常闇と殆ど同じなのに、見た目が完全にアレだと言うだけで、紳士的な振る舞いも凶行に見えるという理不尽。まあ、シンさんの場合、何時もの事だが。
 ちなみに作者としては、劇場版『アギト』の『PROJECT G4』における、翔一君の真名ちゃん救出のシーンをイメージ。“赤いアギト”と言う点では共通しているが、流石に見た目が悪過ぎた。



後書き

これにて今回の投稿は終了です。また、近況報告の方に、これまでの体育祭における予選の順位や、ポイントなどの設定を上げておきますので、興味のある方は其方もご覧下さい。

それでは読者の皆様、よい一時を……。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。