……まあ、「知性が原始時代まで退化してるンじゃないのか?」と思わずにはいられない様な、下品で低俗で放禁バリバリな会話も所々で聞こえていたのですが……。渋谷、コワーイ! 田舎に帰るゥー!!
今回のタイトルの元ネタは、『仮面ライダー(初代)』の「毒ガス怪人トリカブトのG作戦」。原作とは異なる裏羅禍……もとい、麗日の活躍をお楽しみ下さい。
2020/4/22 誤字報告より誤字を修正しました。報告ありがとうございます。
一回戦最後の試合。俺から見て仲がよろしくない方の幼馴染みである勝己と、雄英に来てから仲良くなった女子の一人である麗日の対戦を前にして、クラスの面々は試合の内容と結果について予想しあっていた。
聞いた感じでは、やはり『爆破』の“個性”を持つ上に、計り知れないバトルセンスを兼ね備えた勝己の方が有利だと思っているヤツが多く、麗日の勝利を予想する者は皆無と言って良い。
「そう言えば、緑谷君。先程言っていた『爆豪君対策』とは、何だったんだい?」
「ん! 本当に大した事じゃないんだけど……。かっちゃんは強い……! 本気の近接戦闘は殆ど隙無しで、動けば動くほど強力になっていく“個性”だ。それに加えて空中移動があるけど……兎に角、浮かしちゃえば主導権を握れる。だから最善策は『速攻』ッ!!」
「CURRRRRR……」
確かにな~と思いながら、出久と飯田の会話に耳を傾けていると、隣の常闇が俺に話しかけてきた。
「呉島、お前はこの一戦をどう思う?」
「……WYIIA、BOREVADDUGOOBUCUUWEMO、ROPOYACIBAIVOWUO」
「『確かに戦闘向けの“個性”を持ち、闘争心が服を着て歩いている様なボンバー・ファッキューに対し、好戦的とは言い難く、中・遠距離の攻撃手段を持っていないウラビティが圧倒的に不利……そう思っていた時期が、俺にもありました』……と、王は言っている」
「ほう……。つまり麗日には、『中・遠距離の攻撃手段がある』……と?」
「XIICA、DUUBAIRITTEGA、QUUBAHAFABAGERUVADOU」
「『うむ。上手くいくかどうかは全てウラビティ次第だが、ともすればあっさりとボンバー・ファッキューは敗れるだろう』……と、王は言っている。まあ、ソレを仕込んだのは他ならぬ我々だが」
「……え? チョット待って? あっちゃん、麗日さんに一体、何を教えたの?」
「落ち着けデクよ。此処でネタバレしては、試合が面白くないだろう。まあ、見ていれば分かる。……いや、分からないか。傍から見る分には」
「? それってどう言う……」
『開始めいッッ!!』
かくして、俺達が応援席でがやがやと話している内に、イナゴ怪人V3の合図によって試合開始の銅鑼が鳴らされる。
そして遂に始まった「麗日VS勝己」戦は、試合開始直後に麗日が勝己に向かって真っ直ぐに急接近し、勝己がそれを迎え撃つと言う展開から始まった。
「うわっ! モロじゃん!」
「マジか爆豪……」
ううむ。麗日の動きを見る限り、直前で攻撃を回避するつもりだった様だが、やはり麗日の身体能力では爆破を避ける事は出来ないか。
考えてみれば、勝己は中3の春までは頻繁に俺に絡んで戦いを挑んでいた男。人並み外れた身体能力が売りの異形系の“個性”に対応できる身体能力を持つ勝己を相手に、真っ向勝負ではまず勝ち目は無い。
もっとも、麗日もソレが分かっているのか、それとも今ので分かったのか。爆破によって発生した煙を利用し、『無重力』で浮かせた上着を囮に勝己の背後を取るが、勝己は囮に引っかかって尚、背後の麗日を容易く攻撃した。
「見てから動いてる……!?」
「あの反応速度なら、煙幕はもう関係無ぇな」
「触れなきゃ発動できねぇ麗日の“個性”。あの反応速度にはちょっと分が悪いぞ……」
「いや、そうとも限らん。見ろ」
イナゴ怪人1号の視線の先には、爆破を受けて転がりながらも、爆破で砕けたセメントの破片を握りしめた麗日の姿。
そして、麗日が勝己に向かって投げたセメントの破片は、変則的な軌道を描いて、追撃を試みる勝己の脇腹に命中した。
「!? 何だ、今の!? 全然、軌道が読めなかったぞ!?」
「うむ。貴様等は知らんだろうが、ウラビティは野球が好きでな。中でも“個性”の使用が認められている新野球において、ヤツは『マウンドの魔術師』の異名を取る程の腕前を持つ大した女なのだ。
だが、この大会ではルール上、武器の類いを持ち込む事は出来ない。故に、今回はボンバー・ファッキューの『爆破』を利用し、フィールドを破壊させる事で武器を確保したのだ。“環境利用”と今風に言うと、ワカりやすいか」
「なるほど……これが麗日の中・遠距離攻撃か」
「いや、コレは麗日の特技から“指摘した”モノであって、我々が“提案した”モノではない。我々が提案したモノは、あんなにワカりやすいモノでは無い」
麗日の隠れた特技にクラスの皆が驚く中、麗日と相対している勝己の表情からは苛立ちが見え始めていた。まあ、勝己にしてみれば、麗日が自分の能力を利用して自分に攻撃を仕掛けてきているのだから、面白くはないだろう。
「ッ!! 丸顔、テメェ……ッ!」
「まだまだぁ!!」
そして始まったのは、爆撃と投石による遠距離戦。
乱雑に見えて妙な所でみみっちい……もとい、冷静な性格をしている勝己は、低姿勢でフィールドを移動する麗日に対して、体勢を低くして垂直になる様に爆破し、麗日に極力武器となる瓦礫を与えない様にしている。
しかし、幾ら戦闘向けの“個性”とは言え、爆破の威力をそれなりに高めにして使わなければ有効打にならない為、どうしても爆破する度にフィールドの一部が抉れてしまい、勝己は攻撃する度に麗日に武器を与える結果になっていた。
「ちぃいいいッ!! うっぜぇな、それッッッ!!!」
「もう、いっぱぁああああああああああああああああああああああああつッッ!!!」
『爆豪選手ッ、「コレが俺のやり方だッ! 文句あっかッ!!」と言わんばかりにッ、麗日選手に向けてひたすら爆破しッ、爆破しッ、爆破するッッ!!
対する麗日選手ッ、爆豪選手の“個性”を利用し、自分の“個性”を上乗せした独自の闘法で必死に食らいつくッ!! しかし、ダメージは明らかに麗日選手が上だッ!! ここからどーするッ! ウラビティ、麗日お茶子ッッ!!』
イナゴ怪人V3の言う通り、誰がどう見ても麗日の方がダメージは大きい。だが、麗日の目は死んでいない。アレは勝利と言う結果を得る為に、自分の持ち得る全てを賭けている人間の目だ。
しかし、だからこそ、対戦者の勝己は油断しないし、手加減もしないだろう。
「死ねぇええええッッ!!!」
「ぶわッッ!!!」
ここで遂に麗日に良いのが一発入ってしまった。しかし、麗日は爆発をまともに受けたものの、二本の足でしっかりと立ち、倒すべき相手である勝己を鋭く見つめている。どうやら、まだ闘う力は残っている様だ。
「そろそろ……か……な……。ありがとう、爆豪君。油断してくれなくて」
「あ……?」
勝己を見ながら両手の指を合わせ、“個性”を解除する麗日。つまり、麗日は今まで何かを浮かせていたワケだが、その浮かせていたモノが何処にあるのかと言うと、それは二人が立っているフィールドの上空。
そこには、コレまでの爆破で勝己が破壊したバトルフィールドの破片が、所狭しと無数に浮いていた。
『一発逆転を狙う麗日選手ッ! 爆豪選手の“個性”を利用して蓄えた、瓦礫のシャワーを繰り出したぁ~~~~~~~~~~~ッッ!!!』
「そんな捨て身の策を……麗日さん!!」
「いや、防がれる」
うむ。イナゴ怪人1号の言う通りだ。
勝己は『騎馬戦』の時、巨大怪獣と化したローカスト・ホースの頭を爆破で完全に吹き飛ばしている。あの威力の攻撃をコスチューム無しで繰り出せるなら、麗日が用意したこの攻撃も通用しないだろう。
「甘ぇッッ!!!」
そして予想通りに繰り出された最大出力の爆撃が、降り注ぐ瓦礫を一つ残らず破壊する。上空から襲い来る面の攻撃に対して、即座に対処した勝己の行動に観客席から歓声が上がる。
「デクやシンとつるんでっからな、テメェ。何か企んでるとは思ってたが……」
「………! やっぱり、“コレ”は通用せん……ッ!」
『なんと言うッ! なんと言う男だ、爆豪勝己ッ!! 麗日選手が蓄えた全ての武器を用いた正に最大限の攻撃をッ、一撃で打ち破ってしまったァーーーッ!! しかしッ、だがしかしッ! 麗日選手の瞳には、まだ諦めの色が見えませんッ!!』
そう、麗日はまだ諦めていない。そんな麗日は勝己に向けて左手を伸ばし、右手で口を押さえている。
「! キャパオーバー……ッッ!!」
「いや、そうではない。お前達、瞬きをせずに、良く見ておけ。そろそろだ」
「「「「「「「「「「え!?」」」」」」」」」」
そう、この戦いは間もなく、実に意外な形で決着するだろう。
一見するとボロボロで、限界を迎えた末の悪足掻きに見える姿を晒す麗日だが、アレこそが俺達が麗日に授けた「最後の技」を使う体勢なのだ。
「いいぜ、こっから本番だ……麗日ッ!!」
「長い箱を作る……イメージッ!」
そして、勝己が麗日に止めを刺すべく走り出したその瞬間、不可解な事が起こった。
「……!?」
勝己が突然前のめりに倒れ、ピクリとも動かなくなったのだ。
「……は?」
「えっ?」
「ど、どう言う事?」
「何で? 何で、イキナリ爆豪が倒れてんだ?」
「単に転んだってだけなんじゃ……」
「じゃあ、何でずっと倒れたままなんだよ!?」
その光景にA組だけでなく、観戦していた生徒、教師、観客の全てが混乱していた。
明らかに優勢だった勝己が突然のダウン。これは紛れもなく、麗日が繰り出した「最後の技」の効果なのだが、これはとても一見して解明できる様な術理ではない。
「! や、った。かっ……」
それを見た麗日は勝利を確信した表情を見せたが、右手を口から離して体勢を正そうとした瞬間、麗日もまた前のめりに倒れた。
傍から見れば相打ちの光景なのだが、ボロボロだった麗日は兎も角として、勝己がどうして倒れたのか。その原因を知る者は、俺とイナゴ怪人達だけだろう。
『何だ……一体、何が起こった?』
『まあ、傍目にはワカらんだろうな』
『知っているのか? イナゴ怪人V3』
『うむ。では解説するとしよう。しかし、その前に一つ質問をしたい。「この地球上で最も強力な毒ガス」とは――――何かワカるか?』
『?』
『答えは「酸素」だ。生物が常に吸い続け、そして吸わずにはいられないモノ。我々を取り巻く大気――酸素の比率は21%。この比率を下回るにつれ、身体機能の低下もそれに比例する。目眩、悪寒、吐き気、嘔吐、そして昏倒。15%を下回っただけでも今言った様な諸症状が現れる。しかし、その程度の影響力では、一瞬で勝負が決する闘争の場では使いものにならない……』
『待て。それは分かったが、それとこれと一体、何の関係が……って、まさか……!』
『フッ。どうやら、気づいたようだな。話の続きだが、空気中の酸素の比率が6%を下回った時、たった一度の吸気で人は意識を失ってしまうのだ。そして、空気というモノは、天体が重力によって気体成分を地表に引き止められているからこそ、成り立っている代物。
そこで我らが王、呉島新はこう考えた。ウラビティは何も持っていなくても、“常に大気に触れている”。ならば「空気に触れて“個性”を使う事で、空気中の酸素を重力から解放し、地表付近に存在する酸素を飛ばす事が出来るのでは無いか」……とな』
イナゴ怪人V3のネタばらしによって、麗日が使った「最後の技」の詳細が白日の下に晒される。そして、その内容に最も驚いているのは、勝己と麗日の双方をよく知る、A組の面々である事は言うまでもあるまい。
「(成る程ッッ。その手があったかァァ~~~~ッッ!!)」
その中でも、特に出久の表情がスゴイ事になっている。具体的にはオールマイトとはまた違った感じに画風が変わっている。……まあ、無理も無いか。何せあの勝己をあっさりと倒してのけた技だからな。
「麗日さんの“個性”を聞いて、その事に気づくなんてッッ!!!(僕は何故ッ、何故『屋内対人戦闘訓練』の時ッ! この事に気づかなかったんだ~~~~~~ッ!!)」
「お、おい、緑谷?」
「やっぱり、あっちゃんは天才だッッ!!!(やっぱり、あっちゃんは天才だッッ!!!)」
うん。俺を褒めてくれるのは嬉しいが、そろそろ元に戻ってくれ。てゆーか、コッチの世界に帰って来てくれ。頼むから。皆がお前の顔と反応を見て、何時もの“ブツブツ状態”の時以上に、ドン引きしているんだ。
『例え超人ではない“無個性”の人間であろうとも、5分余りも呼吸を止めていられる様に設計されている肉体が、ただ一度の呼吸で全ての機能を失うと言う現実ッ! 言うなれば「神の意表を衝く技」ッッ!! ウラビティは、それをモノにしたのだッッ!!!
(そしてここからは聞こえない心の声だが、貴様らの様な取るに足らぬ愚かな人間共に、我が王の恐るべき知力をさりげなくアピールする事に、まんまと成功したと言う訳だ……)』
『……なるほど、それで爆豪はあっさりと倒れたワケか』
『うむ。もっとも、コントロールとツメが甘かった所為で、ウラビティ自身もその猛毒ガスを喰らってしまったようだがな。一口に気絶と言っても、ボクシングのKOとはワケが違う。ああなると、半日は起き上がる事は――』
イナゴ怪人V3と相澤先生の解説が進む中、二人の意識を確認する為か、主審のミッドナイト先生が勝己に触れた瞬間、凄まじい爆発が起こり、ミッドナイト先生の悲鳴が上がった。
「きゃぁああああああああああああああああああああああッッ!!」
『何ィッ!?』
『? ミッドナイトが触った事で、目を覚ましたのか?』
『……いや、そうではなさそうだ』
爆発の反動によるものか、勝己は空中に舞い上がった後、重力によってバトルフィールドに叩きつけられたが、この時勝己は受け身を一切取っていなかった。勝己が目を覚ましていたのならば、空中移動で華麗に着地できるし、少なくとも受け身を取る事位は出来るハズだ。
それに、ミッドナイト先生が爆破をモロに喰らった事も奇妙だ。勝己は確かに攻撃的な性格ではあるが、あの妙な部分でみみっちい……もとい小賢しい部分を考えると、この雄英体育祭で主審を攻撃すると言う蛮行を行う様な男ではない。
それらの事から、少なくともミッドナイト先生が意識を確認した時点で、勝己にまともな意識があったかと言われれば、首を傾げざるを得ない。そうなると考えられるのは……。
『……なるほど。そう言う事か……。実に“らしい”ではないか……』
『何だ? 何か知っているのか?』
『……イレイザー・ヘッド。お前ならば知っているのではないか?』
『? 何を?』
『人間は意識が無くとも……否、更に言うなら、例え絶命したとしても――人は行動する事ができる。コレは戦時中という特殊な状況下での話だが……実話だ。
某国の兵士が、敵国の兵士数人を捕らえた。戦時中と言う事もあり、捕虜は即刻処刑される事となったが、捕虜側の隊長からとんでもない提案が出された。「首を斬られた後、自分はその首を抱えて、並んだ部下の前を走る。一人なら一人。二人までなら二人。全員なら全員を助けて欲しい」……と。この言葉に盛り上がった某国の兵士達は、冗談半分で「やれるものならやってみろ」と、その話に乗った。すると隊長は……いや、隊長の死体は、部下全員の前を、首を抱えたままで走り抜けたのだ』
『………』
『繰り返して言う。実話だ。そして、コレが実話である以上、爆豪勝己がソレと同等の事をやってのけたとしても、何ら不思議ではない。
常住坐臥――全てを“強さ”に向けて生き、徹頭徹尾“勝利”を追求する爆豪勝己なら、「倒された後、倒されたその先で、如何にして闘うか」を考えていたハズ。そのプランを五体に……細胞の隅々にまで刻み込んでいたハズ。爆豪勝己なら……それをやるだろう』
イナゴ怪人V3の解説と推測に、否定の言葉を口にする者は一人も居なかった。現実にそれをやってのけた場面を目にしているのだから当然だろう。
意識を失っても尚、戦い続ける男――爆豪勝己。
勝己がこれまでの人生で積み上げ、勝己を勝己たらしめているモノが、意識のない勝己の肉体を突き動かしたのだ。
「……ガハッ! ゴハッ……」
そして当の勝己だが、無意識下で発動させた爆発によって危険地帯を脱出し、落下の衝撃によって意識を取り戻すと、比較的ゆっくりとした動作で立ち上がった。しかし、その立ち姿を見る限り、完全に回復しているとは言い難い。それも体力面よりも精神面が。
如何なる存在にも屈する事を良しとしなかった勝己の肉体は、俺ほどではないが爆発的なタフネスを誇る。それにも関わらず、勝己からすれば何をされたのかも分からない内に、一瞬で意識を奪われたのだ。
それこそ、喧嘩だって禄にした事がなさそうな女の子である麗日が、“個性”によって成し得た「酸素を猛毒と化す」と言う空前の技術を体験した勝己の精神は今、混乱の極みに達しているだろう。
「……何だ……俺に何しやがったッッ!!」
「………」
動揺を隠せない勝己の絶叫に、麗日が答える事はなかった。そんな勝己の瞳には、未だに酸欠による気絶からの回復を図れず、地面に倒れてピクリとも動かない麗日の姿が――相手に触れること無く、その意識を自在に刈り取る魔技を操る、“無敵の妖術使い”へと変身しているに違いない。
倒れ伏した麗日を見ながら、戦慄と警戒の表情を浮かべる勝己を見て、俺はそんな風に勝己の心情を分析していた。
しかし、勝己のそんな態度も、俺のこんな推測も、もはや無意味な事だろう。何故なら、一方が立ち上がり、一方が倒れているこの光景は――。
「麗日さん戦闘不能ッ!! 二回戦進出、爆豪君ッ!!」
――明らかに決着の光景なのだから。
『決ッッ、ちゃ~~~~~~~~~~~~~~~~~~く!!! 「ウラビティ」麗日お茶子ッ、此処に力尽きましたッ!! しかしッッ!! 戦闘向けとは言い難い「無重力」と言う“個性”を持って生まれたこの少女ッッッ!!! 戦闘に特化した“個性”である「爆破」を相手に、一体幾度窮地に追い込んだことでしょう!!! 心なしか勝者である爆豪選手の顔色も冴えませんッッ!!!』
ミッドナイト先生が麗日の意識を確認し、戦闘不能である事が確認されると、勝己の勝利がミッドナイト先生とイナゴ怪人V3の双方から宣告される。
酸欠状態に陥り、意識不明となった麗日の状態が心配だが……今の状況でビジュアル的に一番ヤバいのは、爆破で所々が焼け焦げてボロボロな麗日ではなく、勝己の爆発をモロに喰らって極薄タイツが消し飛び、素肌を晒した胸元を片手で隠しているミッドナイト先生だった。
「「「「「「「「「「キタァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッッ!!!!!」」」」」」」」」」
そしてスタジアムに巻き起こる、男性陣からの野獣の様な凄まじい咆哮。上鳴や瀬呂の他にも、B組の豚も歓喜の雄叫びを上げている。正直、会場内の歓声が、勝己が勝った事に対するモノなのか、ミッドナイト先生に降りかかったハプニングに対するモノなのか、ちょっとどっちなのか分からないレベルの騒がしさである。
そして、懺悔によって煩悩を捨てたハズの変態ブドウが、瞬く間に『淫獣【セクシャル・ビースト】』への変身を完了している様を見て、俺はもはや峰田に悔い改めさせる事は不可能だと言う事を悟った。
しかし、そんな突然のハプニングに湧く会場の空気を一変させる、一人のヒーローが現われた。
「フォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」
そのヒーローとは「究極ヒーロー『変態仮面』」。巷では“男版18禁ヒーロー”とも称される、デンジャラスコスチュームに身を包んだ変態スーパーヒーローは、観客席から颯爽と飛び出すと、“18禁ヒーロー”であるミッドナイト先生を庇うかのようにスタジアムに降り立ち、実に堂々とした声でこう言った。
「そんなにオッパイが見たいなら……私の雄っぱいを見るが良いッッ!!!」
「「「「「「「「「「ふざけんなぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッ!!!!!」」」」」」」」」」
「いいぞぉーーー! 変態仮面ーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!」
「ウホッ!! いい男ぉおーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!」
変態仮面の行動によって、観客は抗議と賞賛と言う両極端の意見で真っ二つに割れた。一部からは別の意見も聞こえるが、それはあまり気にしない方が良いだろう。
そして、変態仮面が観客の注意を引きつけている中、俺は自分のジャージを緑色のマントに変化させると、超強力念力を使いつつミッドナイト先生に向けてソレを投げた。投げたマントは真っ直ぐにミッドナイト先生の元に届き、無事にミッドナイト先生の体を包み隠すことに成功した。
「テメェェエエエエエエエエエエ!! 呉島ぁあああああああああああああああああッ!! せっかくのラッキースケベを台無しにしやがってぇええええええええええええええええええッッ!!!」
「分かった、峰田? こーゆー所よ。アンタと呉島の差は」
「強いし」
「「「うんうん」」」
俺の行動を肯定しつつ、峰田を煽るA組の女子一同。峰田はそれでも抗議し続けていたが、もはや峰田の言葉など、俺を含めて誰も聞いていなかった。
「………」
そんな騒動の中、スタジアムを自分の足で立ち去る勝己だったが、その表情は勝利者のソレでは無く、まるで敗北者の様であった。
●●●
予備のジャージを取りに行く傍ら、事のついでとばかりに、リカバリーガールの元へ運ばれた麗日の様子を見に行こうと思ったら、その途中で目的である麗日とばったり遭遇してしまった。
「あ……シン君」
「VOO……」
「……ははは、負けてしまった」
「………」
「最後、『やった!!』って思って、油断してしまったよ。くっそ――……」
「………」
麗日はあっけらかんとした態度で話してはいるが……俺にはワカる。
それは今から二週間前。俺が4㎏の砂糖をスーパーから購入して家に帰る途中の事。只ならぬ様子の麗日に声を掛けたのが始まりだった。
「う……麗日?」
「……ああ、シン君……」
まるで、決して覆すことの出来ない不条理を目の当たりにし、「悪魔に魂を売り渡した」と言っても即座に信じられるだろう、奈落の底の様な目をした麗日を見て、俺は生まれて初めて女子に対して戦慄を覚えた。取り敢えず、それとなく、そんな風になった理由を聞き出そうとしたのだが……。
「シン君……」
「な、何だ?」
「あたし、トレーニングジムで株主優待受けられる様な人には負けたくない……」
「は……? 株主優待?」
「うん。株主優待……」
予想外の台詞に思わず呆けてしまったが、麗日の台詞からトレーニングジムで株主優待を受ける事が出来る様な金持ちから耐えがたい屈辱を受けたのだろうと推測した俺は、麗日の事を気遣って、ちょっとしたアドバイスをする事にした。
「……もしかして、体育祭までに地力をつけようとか思ったのか?」
「うん……」
「それなら、良いトレーニング法が幾つかある。俺という実証例があるから、効果はお墨付きだ」
「! あ、ありがとう……ッ!」
こうして、無事に麗日の瞳から闇が取り払われ、眩い光が戻った。
そして、主に体力向上を目的としたトレーニングを教えるついでに、麗日に中・遠距離技が乏しい事を指摘し、麗日の隠れた特技に加えて、俺が前から考えていた麗日の“個性”による「対人において最も効果を発揮するだろう技」を伝授したワケだが……それでも、勝己から勝利をもぎ取るには、まだ足りなかった。
麗日がこの二週間で流した汗と、空気中の酸素に『無重力』をかける技術をモノにした努力は、相当なものだっただろう。だが、勝利の栄光は最後の一瞬に見せた気の緩みで、彼女の手をすり抜けてしまった。
もしもの話をしても意味は無いが、もしも勝己が倒れた場面で麗日が気を緩めずにいたのなら、麗日が勝己に勝利する未来も充分に有り得た。これが悔しくないワケが無い。
「それにしても、いやぁー、やっぱ強いねぇ、爆豪君は。完膚無かったよ。もっと頑張らんとイカんな、私も!」
「……麗日には悪いが、正直驚いた。勝己相手に、あんなに食い下がるとはな……」
「……え?」
空元気を出している様にしか見えない、麗日の言動と行動を見ていられなかった俺は、一度“個性”を解いて怪人から人間の姿に戻り、麗日に人間の言葉で勝己戦の感想を伝える事にした。
「今年の一年生全員を見ても、あの勝己からダウンを奪える人間なんて、一体何人居ることか……」
「………」
「自分が使える武器をフルに使い、瓦礫の雨を爆破して油断した勝己に、必殺の一撃をしっかりと決めた試合展開……ファンタスティックだったぜ」
「……アレしか、思いつかなかったんだよ」
「アレで良かった」
『……さて、会場もミッドナイトのコスチュームも修復完了ッ!! ベスト8による二回戦がいよいよ開始されますッ!!』
「……行ってくる」
「し、シン君!」
「?」
「……見とるね。頑張ってね」
「……ああ」
応援の言葉を掛けてくれた麗日に背を向けた俺は、歩きながら“個性”を発動させ、人間から怪人バッタ男に姿を変えると、対戦者である切島が待っている場所に向かって歩き始めた。
キャラクタァ~紹介&解説
麗日お茶子
無敵の妖術使いと化したゲロイン。何時もの様に『すまっしゅ!!』ネタを入れた結果、原作と異なり2週間前に飯田とバッタリ遭遇して深淵なる闇に呑まれ、シンさんからアドバイスを貰う事に。お陰で原作よりも善戦し、かっちゃんからダウンを取る事には成功したが、その直後に自爆。持たざる庶民の意地を見せたが、原作通り一回戦敗退と言う結果に。
作中で使用した、空気に触れて酸素を無重力にする戦法は、『ジョジョ』第六部に登場するスタンド「ジャンピン・ジャック・フラッシュ」と、『バキ』の柳龍光が使う「空掌」が元ネタ。その内、『ウラビティ』の名前に『猛毒』の二つ名が冠せられたり、空間に触れるイメージで無重力空間を創り出せたりするかも知れない。
爆豪勝己
シンさんの入れ知恵によって、麗日が繰り出した「猛毒ガスを作り出す攻撃」であっさりとダウンを取られ、自身の人生において最大とも言える醜態を晒す羽目になる。「試合に勝ったが、勝負に負けた」と言う認識である為、勝ちは拾ったものの、心の中は敗北感に満ちている。
昏倒からの爆発で復活する流れは、『範馬刃牙』の「野人戦争【ピクルウォーズ】」におけるジャック・ハンマーが元ネタ。実際、コイツなら原作でも「人の一刺し」をやってのけそうな気がするのが怖い所である。
緑谷出久
シンさんがお茶子に仕込んだ技の詳細を聞いて、烈海王と化した原作主人公。しかし、爆豪にしろ、コイツにしろ、ようやく他作品のネタをぶち込むことに成功したは良いのだが、それが良かったのかどうかと言われれば、作者としてもイマイチよく分からない感じになってしまった感がある。
ちなみに原作と同じく、試合前のお茶子はデク君からのアドバイスを貰っていないが、この世界での麗日は、シンさんの入れ知恵で対人特効過ぎる必殺技を獲得している所為で、「サムズアップした手が震えていない」と言う差異がある。
イナゴ怪人
実はシンさんがミイラと横綱を行ったり来たりしていたり、梅雨ちゃんと二人で特訓していたりしている影で、密かに麗日の必殺技の実験台(交代制)になっていたと言う裏設定がある怪人軍団。酸欠になって動かなくなった結果、肉体が崩壊して生まれた大量のミュータントバッタの残骸は、全て麗日の貴重なタンパク質になった。
ちなみに、イナゴ怪人達は食材として活用できるように、きちんと「おんこ出し」をしたミュータントバッタを使って肉体を構成しており、イナゴが食える麗日としても、必殺技の獲得と同時に、高タンパク且つ低カロリーな食材が入手できたので、実に助かった事だろう……多分。
ミッドナイト&変態仮面
夢の共演と言う名の禁断のコラボ。二人の18禁ヒーローが並ぶ姿はある意味壮観と言えるが、単体でヒーローに見えない人間が二人に増えているので、ぶっちゃけ手の施しようが無い感じの光景になった様な気がしないでもない。
無重力【ゼログラビティ】
麗日の項目でも少し触れたが、『ジョジョ』第六部なんかを見ると、かなり恐ろしい事が出来る様に思える“個性”。原作を見る限り、「形あるモノ」だけを無重力化しているが、能力を発動させる条件が「対象に触れること」である為、今回の様に「見えないがソコにある」と言った“不可視の物体”でも、恐らくこの能力は有効であると考えられる。
もっとも、通常使用とはかなり勝手が違う為に多大な集中力を必要とし、コントロールもまだまだ未熟。最初の速攻で使わなかった理由も、最悪自爆する可能性があった為である。
ちなみにシンさんの場合、手の内が割れている事に加え、ハイパーセンサーで異変を察知し、更に30分間の水中活動が可能な心肺機能にモノを言わせた「無呼吸連打」を麗日に叩き込む事で、このガス攻撃を容易く攻略する事ができる。……え? 超強力念力? ああ、あったね、そんなの……。
後書き
これにて、予約投稿の3話目が終了です。最後となる4話目は11月25日(土)の正午12時に投稿される予定です。
活動報告で投稿方法について、以前のような「出来た話を一気に投稿するパターン」と、今回の様な「出来た話を予約投稿で時間をおいて投稿するパターン」のどちらが良いのかで、アンケートを取っていますので、興味のある方はアンケートの方も宜しくお願いします。
それでは、次回「SECOND STAGE:超バッタ男、惨状!」をご期待下さい。