怪人バッタ男 THE FIRST   作:トライアルドーパント

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一週間と続いた怪人バッタ男の『刃牙ネタ祭り』もコレにて一旦終了。作者としては今年中にあと一回は投稿したいところですが、仕事の問題でどうなるかチョット分かりません。何とか轟戦まで書きたい所!

そして今回のタイトルの元ネタは『ディケイド』の「超モモタロス、参上!」。「参上」ではなく「惨状」になっているのは誤字ではありません。悪しからず。


第19話 SECOND STAGE:超バッタ男、惨状!

一回戦が終わり、嵐の前の静けさと呼ぶには余りにも騒がしい小休憩を挟むと、イナゴ怪人V3の実況を皮切りに、第二回戦がいよいよ開始される。

 

『雄英体育祭ッッ!!! この世で最もシンプルでッッ、この世で最も明確なッッ、しかしそれ故に最も過酷なッッ、そんな闘いを勝ち上がった強者達による、好カードが目白押しの第二回戦ッ!! その全試合を改めて紹介致しますッッ!!!

 

第一試合「怪人バッタ男」呉島新VS「烈怒頼雄斗」切島鋭児郎!!!

 

第二試合「デク」緑谷出久VS「半分こ怪人W」轟焦凍!!!

 

第三試合「慈愛少女」塩崎茨VS「怪人トリップギア・ターボ」飯田天哉!!!

 

第四試合「溶解人間」芦戸三奈VS「爆発怪人ボンバー・ファッキュー」爆豪勝己!!!

 

……以上、四試合の勝者がッ、準決勝へと進出いたしますッッ!!!』

 

イナゴ怪人V3の実況によって、更なる盛り上がりと興奮をみせる観客達。俺はそんな観客達の熱狂を全身に受けながら、再び戦いのステージへと歩を進めていく。

 

『二回戦第一試合ッ!! 無類無敵の怪人魂ッ、呉島新!!! VS!! 見せて魅せるは漢の花道ッ、切島鋭児郎!!!』

 

「GUUUUUURRRRRR……!!」

 

「……ッッ!! シャァアッ!!」

 

『怪人バッタ男VS烈怒頼雄斗!! こんな言い方はしたくありません……ッッ!! したくはありませんがこの二人……ッ、格が違いすぎるッッ!!!

しかし、場内に溢れるこの期待感はどうでしょう!! この熱気と期待は、切島選手が一回戦で見せた、クソ根性に対するものであろう事は、察するに余りますッッ!!!』

 

うむ、中々上手い感じの実況だ。そんな感想をイナゴ怪人V3 に抱きながら、気合いの入った面構えをした切島を見て、俺はどうやって切島を倒すかを考えていた。

 

切島の“個性”は『硬化』。肉体を岩のように硬質化させる発動系の“個性”であり、完全な近距離戦闘に特化したタイプの“個性”だ。

今後の試合の事を考えて消耗を抑えると言うなら、超強力念力で場外に追いやり、一発で試合を終わらせる事が可能だが……個人的には真っ向勝負の殴り合いも悪くないと思っている。

 

はてさてどうしたモノか……と、悩んでいると、切島の方から耳を疑うような提案が俺に持ちかけられた。

 

「……なあ、呉島。一つ聞いて欲しいことがある」

 

「WUUA?」

 

「予選の『障害物競走」の時……地雷原で見せたアレな。アノ姿で戦ってくれねぇか?」

 

「……?」

 

「正直に言えば、確かに俺とお前とじゃ、戦力に差が有りすぎる。だけどよ……敵わねぇからって、それで立ち向かわないでいるヤツに、逃げる様なヤツに、「ヒーロー」を名乗る資格なんてねぇ。そうだろう?」

 

「………」

 

ふむ、一理あるな。ヒーローとは常に弱き善を背にし、強き悪を正面に見据えて立ち向かう存在。確かに相手との戦力差を正確に分析するのは大事な事だが、時と状況によっては自分を犠牲にしてでも、理不尽な暴力から他人を守らなければならない時がある。それはヒーローとして生きる上で、決して欠くことの出来ない物事だろう。

 

「だから遠慮は要らねぇ。お前の全力を、俺は全部受け切って見せるッ! 思いっきりキツいヤツをッッ、俺にブチ込んで来いッッッ!!!」

 

『こッ、これはたまげたッッ!!! 予選で敗北を喫した超筋肉からなる攻撃をッ、この場で全て受けきってみせると言う、この漢気ッッ!!! ハンパではないぞ、切島鋭児郎ォオオオーーーーーッ!! さァ、この申し出に、どう応える呉島新ッッ!!!』

 

う~む。言いたい事は分かるし、出来れば受けて立ちたいのだが、コレは参ったぞ。

切島の言う“アノ姿”とは『超マッスルフォーム』の事だろうが、アレは意図的に出したモノではなく、完全に偶発的な産物だ。出せと言われて、そう簡単に出せるモノでは無い。

 

……いや、待て、落ち着け。偶然生まれた形態とは言え、出来たことには変わりは無い。ここは一つ、あの時の状況を脳内シミュレーションによって可能な限り再現する事で『超マッスルフォーム』を引き出し、全力で切島の思いに応えようじゃないか。

 

想像せよ……。

 

「MUUUUUN……」

 

『俺はただ、どさくさに紛れてFカップのヤオヨロッパイを揉みたかっただけなんだーーーーー!! 麗日のうららかでむちむちなプリンをペロペロしたかっただけなんだーーーーーーーー! 蛙吹の意外おっぱいにまた顔を埋めたり、揉みしだきたかっただけなんだーーーーー!! 芦戸の……』

 

想像せよ……ッ。

 

「HUFUUUUUUUUUUUUUUUUUU……!」

 

『離して……離して下さいまし……ッ!』

 

『うひょひょひょひょ! 便乗させてもらうぜ八百万ぅ! オイラって天才ぃいいいいいっ!』

 

『最低……ッ、最低ですわ……ッ!』

 

想像せよ……ッ!!

 

「GURUUUUUU、BUHUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUU!!」

 

『女子高生サイコーーーーーーーー!! 巨乳大好きィイイーーーーーーーーーーッ!! レロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロォーーーーーッ!!』

 

来た……ッッ!!!

 

火山の如き憤怒と、受け入れ難い嫌悪と、溢れんばかりの憎悪によって、血流が加速しッ、血液が沸騰しッ、筋肉が肥大化しッ、骨格が変形するッ! これは正に『障害物競走』の時に感じた、忘れ得ぬ……あの感覚だッッ!!

こうして『超マッスルフォーム』への変身の予兆を明確に感じ取りながら、俺は腹の底からこみ上げてくるモノを、一気に解放するかの如く、飢えて乾いた野獣の様に吠えた。

 

『こッ、これはぁあーーーーーーーーーーーーッ!!』

 

「WOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!! UAVAZBONNN!!!」

 

次の瞬間、猛烈な熱波と衝撃波がスタジアムを駆け抜けた。

 

 

○○○

 

 

「二回戦の第一試合が終わるまでの時間? いや、ほんの5分かそこいらで……ああ、だからあの試合で起こった数々の不思議な現象も、ツッコミ所満載の試合展開も……その5分の間に起こった出来事だって事になるね」

 

雄英体育祭の観戦に来ていた、「スマイルヒーロー『Ms.ジョーク』」こと、福角笑(28)はこの時の様子をこう語っている。

 

「まず初めに、切島が呉島にある提案を持ちかけたんだよ。誰が聞いても無謀だと思える様な提案を……」

 

セミファイナルへの進出とベスト4の栄光が掛かった二回戦。その第一試合はコレまでダントツの戦績と抜群のインパクトを魅せてきた怪人が出るとあって、やはり注目度はありとあらゆる意味で高かった。

 

『……なあ、呉島。一つ聞いて欲しいことがある』

 

『WUUA?』

 

『予選の『障害物競走」の時……地雷原で見せたアレな。アノ姿で戦ってくれねぇか?』

 

「それを聞いた私は、初めに自分の耳を、次に切島の正気を疑ったね。『怪力無双』……正にそんな言葉でしか表現できない様な、圧倒的なフィジカル。そのパワーをその体で直に受けて知っているにもかかわらず、それを要求したんだからね」

 

切島の発言に観客達がどよめく中、切島は更に言葉を続けた。

 

『正直に言えば、確かに俺とお前とじゃ、戦力に差が有りすぎる。だけどよ……敵わねぇからって、それで立ち向かわないでいるヤツに、逃げる様なヤツに、「ヒーロー」を名乗る資格なんてねぇ。そうだろう?』

 

『………』

 

『だから遠慮は要らねぇ。お前の全力を、俺は全部受け切って見せるッ! 思いっきりキツいヤツをッッ、俺にブチ込んで来いッッッ!!!』

 

「まあ、あたしに言わせれば、切島の言う事はナンセンスだ。『雄英体育祭』は、ヒーローとしての気構え云々より、ヒーロー社会に出てからの生存競争をシミュレーションしてる。

そう考えると、このトーナメントがシミュレーションしているのは、ズバリ『対ヴィラン戦』。そして『対ヴィラン戦』に於いて最も理想的なのは、“ヴィランに全力を出させずに勝つ”って事。そうすれば周囲への被害も抑えられるし、“ヴィランに全力を出させた結果、一般市民に被害が出ました”何て事になれば、それこそヒーローとして話にならない。

……まあ、確かに“相手の全力を撥ね除けるのを見せつける事で、ヴィランを戦意喪失させる”ってやり方もあるし、一度負けたヤツにもう一度挑む“Plus Ultra【更に向こうへ】”の精神は評価するケドね。さて――ここからが本番だ」

 

体を硬化させてどっしりと構える切島。一方で切島の正面に立つ怪人はどうかと言うと、少しずつだが、明確な変化が起こり始めていた。

 

「最初は右のこめかみ、次に左のこめかみ。最後は顔面の血管が浮き出てピクピク動いていたんだ。それはもう、ブチギレてるって言うか、イッちゃってるって言うか……そうだね、『ドーピングのマックス反応でも起こったのか?』って感じの、物凄い形相だったよ」

 

新が只ならぬ表情を見せ、体から尋常ならざる闘気が発せられたのを感じ取ってか、スタジアムは静寂に包まれた。そして、その沈黙を破ったのは、怪人の凄まじい咆哮だった。

 

『こッ、これはぁあーーーーーーーーーーーーッ!!』

 

『WOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!! UAVAZBONNN!!!』

 

そして、意味不明な言葉を叫んだ新が、自分の体を抱きしめる様に両腕を動かすと、何かが破裂する音と衝撃、そして熱波が観客を襲った。

 

「ああ、確かにアレは『障害物競走』の時と同じ現象だった。だけど決定的に違う部分が有ったんだよ。あの時の呉島は着ていたジャージがほぼ全部弾け飛んだ。でもあの時は、ジャージが背中から破けて……そう、まるで蝉の抜け殻みたいになって、ジャージだけがその場に“立っていた”んだよ

……え? 中身はどうしたって? 跳んでたよ、その真上に。そしてその……アレだ。『スーパーヒーロー着地』ってヤツ? そうそう、見る分にはカッコいいケド、実際にやると膝に負担が掛かるアレ。アレをやったんだ」

 

『UUUUUHAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA……』

 

『出たぁーーーーーーーーーーッ!! 途轍もなく巨大でッ!! これ以上無く良く絞り込まれたッ、呉島新のエキサイティング・マッスルだぁああああああああああああああああああああああ!!』

 

『何だよ、アレ……』

 

『あ、あんな事が出来るヤツに、勝てるワケねぇッッ!!!』

 

この時の新の肉体は、身長約3m。まるでケツの様に極端に盛り上がった大胸筋と、頭より太く大きな腕を備え、全身からは絶えず水蒸気を発し、至る所から古傷らしきモノが浮かび上がっていた。

予選の『障害物競走』でこの姿を見た時、観客達はモニター越しでも凄い体格だと思ったが、実際にトランクス一枚の格好でいる姿を直に見てみると、その姿からは一段と凄い威圧感が感じられた。

 

『それでは両雄待った無しッッ!! もう我々は見守るしかありませんッッ!! 二回戦第一試合……開始めいッ!!』

 

こうして漸く始まった、二回戦第一試合。観客の多くが、一方的で圧倒的すぎるパワーアップを果たした怪人のワンサイド・ゲームを予想していたが、そんな観客の期待を裏切るように、新はその場から一歩も動かなかった。

 

「切島の要望に応えた呉島は、最初にこう……ガードを極端に上げた感じの……そう、両腕で力こぶを作るような構えを取ったんだよ。で、開始と同時に殴り合いを始めると思うだろ? ところがね……呉島は動かなかったんだよ。開始の合図があったのに、その場から全くね」

 

『………』

 

『お、おい。どうしたんだよ?』

 

『何だ? 切島はともかく、どうして呉島は動かない』

 

『まあ、見ていろイレイザー・ヘッド。今に面白いモノが出る』

 

『? 出る?』

 

『ああ、そして、それが今の王のレベルだ』

 

予想外の試合展開と、相澤とイナゴ怪人V3の実況の所為もあり、スタジアムには形容しがたい異様な緊張感が漂い、観客達も静まり返っていた。

そして、試合開始から1分が経過した頃、不思議なモノが観客達の目に飛び込んできた。

 

『!? な、何だあれ!?』

 

『なんだ? 幽霊かーーーーー!?』

 

『何かが見えるッッ!!』

 

新と切島の間に、突然現われた靄のようなモノ。それが徐々に明確な形を持った時、観客達は度肝を抜いた。

 

『『『『『『『『『『き、切島ッッ!?!?』』』』』』』』』』

 

『き、切島がもう一人!?』

 

『何だよあれ!? 幻覚かぁーーー!?』

 

『透けてるぜ……』

 

突然の事態にパニックに陥る観客達。それは、新と相対する切島や、二人をよく知るA組の面々も例外ではない。

 

『落ち着いて下さい! これは決して幻覚等ではありませんッ!! これは人間なら誰もが平等に持っている、想像力に訴える事によって見えるモノなのですッッ!!』

 

『どう言う事だ? 解説してくれ』

 

『うむ。例えば、高層ビルの屋上から下を見下ろすと、落ちた経験は無くとも怖いモノだろう? それは、人間の脳に想像力があるからだ。そして、火箸が熱いモノだと知っている子供に、大人がふざけて熱くない火箸を触れされると、火傷したと勘違いした子供の手に水ぶくれが出来る事がある。そうした人間の持つ想像する力、ひいては思い込みによる力とは、それだけ大きな力を持つのだ。

事実、ウェイトトレーニングを例に取っても、目標とする体型をイメージするのとしないのでは、全く同じトレーニングをしても結果に圧倒的な差が生じることは、実験データでも明らかになっている』

 

『確かに……』

 

『そんな風にイメージトレーニングを繰り返し、一人稽古……所謂「仮想格闘」を積み重ねていくと、いずれは本当に戦っているかの様に、肉体にダメージを再現する事が可能になる。そしてそれが更に極まり、桁外れの想像力を身に付ける事が出来るようになった時、他人の目にもそのイメージを見せる事が出来る様になる。パントマイムで見えない壁を表現するようにな』

 

『いや、まさかそんな……』

 

『お前達にソレが出来ないのは当然だ。そうした「思いが実現する事」を頭から否定し、「不可能である」と言う思いの方が遙かに強烈だからだ。

そして、極限まで高められた「仮想格闘」における仮想敵の動きは、現実に存在する敵の動きと完全に一致する』

 

『RUOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!』

 

そして、イナゴ怪人V3による「透明な切島」の正体に関する解説が終わった瞬間、待っていましたと言わんばかりの猛烈な勢いで、新は透明な切島にその巨拳を振るい始めた。

 

『SHYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!』

 

『闘っているッ! 呉島新が闘っているッ!! しかし、現実に闘っているのは、呉島新、只一人ッ!! しかし、一人のハズの呉島新の動きを見ていると、実体の無い切島鋭児郎がッ、まるで生き生きとッ、実体を持って其処に確かに存在しているかの様にッッ!! 拳で硬化した肉体を削られて、ドンドン小さくなっていくゥウ~~~~~~~~ッッ!!! 嵐の様に繰り出される拳を前に、反撃のタイミングもクソもないッッ!! もはや倒れ骸と化すまで連打は止まらないィイ~~~~~~~ッッ!!!』

 

実体の無い透明な切島に対し、筋肉ムキムキマッチョマンの怪人と化した新は、その体格に見合ったフィジカルに任せて、ひたすらに攻撃を続けていた。

透明な切島は防御の構えを取るが、一方的で圧倒的なパワーで繰り出される攻撃の全てが透明な切島に命中し、炸裂し、透明な切島は肉体をドンドン削られ、その身長はみるみる内に縮んでいき。最終的には一寸法師の様なサイズにまで縮小していた。

 

「それでも幻の切島は諦めてなかったよ。何と言うか、二人の声が聞こえたんだよ。幻聴みたいなモンだろうケド……」

 

『な……何じゃ、こりゃぁあ――――――ッ!!』

 

『まだ……やるかい?』

 

『バッキャロウッ!! まだ負けたワケじゃねェーーーーーッ!!』

 

『オッケイ……』

 

「そしたらさ、呉島は右腕に力こぶを作ったんだよ。それはもう、半端なく力を込めてたんだろうね。腕がまるで金属みたいになってたから。そんな力を地面に向けて叩き込むんだから、幻の切島は当然として、スタジアムも無事じゃあなかった。

……ああ。“バトルフィールド”が、じゃなくて“スタジアム”がね。バトルフィールドはまるで隕石でも落ちたのかって感じのクレーターが出来て崩壊したし、スタジアムの壁にも大きな亀裂が入ったんだよ。何も知らない外の連中は地震だと思ったらしい。兎に角、スゴいパワーだったよ。まるで、そう……オールマイトみたいにね」

 

『み……ッ、見えましたァアーーーーーーーッッ!! 呉島選手の振り下ろしによって、切島選手が完全に粉砕されるのがッ、確かに見えました~~~~~~~~~~ッッ!!

そしてこれ見よがしの逆三角形ッ!! 強さとは力だッッ!! 強さとは筋肉だと言わんばかりのッッ!! そして「次はお前がこうなるぞ」と言う、驚愕のデモンストレーションッッ!!!』

 

『GUUNMUUUUUUUUUU……』

 

かくして、観客全員の前で摩訶不思議な現象を引き起こし、一試合を終えた新だったが、まだまだ余力を残している様で、今度は現実に存在する切島の方を、唸り声を上げながら見下ろしていた。

 

「……え? 『ギブアップすると思ったか』って……切島がかい? ……………。

ん~~~~、やっぱりアンタはワカってない。切島鋭児郎って男の漢気をさ――」

 

もしも、新の対戦相手が並の相手だったならば、確かにこの時点で「勝負あり」だろう。即座にギブアップを宣言し、場合によっては命乞いを始めるかも知れない。

 

しかし、今回のコレは違う。何故なら、今回の新の相手は、漢気と言う一つの生き様に魂を賭けていると言っても過言では無い、切島鋭児郎と言う男の話である。

 

『来いやぁああああああああああああああああああああああああああああああッッ!!!』

 

自分の提案がどれほど恐ろしい絶望の未来を引き寄せる事になるのかを目の当たりにして尚、切島は一歩も退かず、一歩も逃げる事無く、あまつさえ「掛かって来い」と言い放った。

 

「それでな? 呉島が右手を握りながら切島に近づいて、さっき見た事が現実になる……とはならなかった。ハハハハ、ゴメンな? 兎に角、呉島の行動は先が読めなくってさ」

 

切島の叫びに応えるかの様に接近する新と、それに正々堂々と真っ正面から迎え撃つ構えの切島。

誰もが切島の惨たらしい敗北を予想する中、新の背後に出現したイナゴ怪人1号の生首が、予想だにしない一言を言い放った。

 

『ジャンケンだ。烈怒頼雄斗よ』

 

『……へ?』

 

『先攻と後攻を決めなければ不公平だろう』

 

『……お、おお……』

 

『それでは行くぞ。じゃーんけーん……』

 

『『ポンッ!』』

 

突如始まったジャンケンに、観客は困惑しながらも勝負の行方に注目していた。

 

ぶっちゃけ、切島が先攻になった所で、呉島の分厚い筋肉の鎧に生半可な攻撃が通用するとは思えず、寿命がほんの少し延びるだけの様な気もするが、それでも切島がチャンスをモノに出来るかどうかを誰もが、固唾を飲んで見守っていた。

 

「そして、ジャンケンは切島のグーに対して、呉島がチョキ。切島が勝ったと思った――その時さ」

 

『あ、勝っ……』

 

『SYU!!』

 

『へっ!?』

 

『MUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUU!!』

 

『いだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだッッ!!』

 

「呉島は二本の指で切島君の拳を挟むと、無理矢理切島君の拳を開かせたんだ。するとほら、あ~ら不思議、呉島のチョキに対して、切島はパー……と言う構図が出来上がったんだよ」

 

『……ほら……な?』

 

『『『『『『『『『『えええ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ッ!?』』』』』』』』』』

 

『覚えておくがいい。“この世には、岩をも断ち切る鋏がある”と言う事をッッ!!』

 

『『『『『『『『『『いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや!!』』』』』』』』』』

 

「ああ、もう観客全員一緒になって、全く同じリアクションをしたよ。シンクロってヤツだな。後からイレイザーを通して本人に聞いたら、『ユーモアのセンスがあるって事を見せたかった』ンだと。ハハハハハハ。ホント、ウケる話だよな?」

 

そしてこの理不尽ジャンケンの結果、先に攻撃するのは切島になり、呉島はその後に攻撃する事になった。

元々「勝った方が先攻」などとは決めていなかったし、新としては勝ったのは切島だと思っているので、切島に先手を譲るのは当然だと思っていたが故の配慮だった。

 

『VAA,DOGOB,ZOUBUMBAGUVURUAII』

 

『「さあ……何発でもその拳を叩き込むが良い」……と、王は言っている』

 

『何発もって……良いのかよ? それで?』

 

『DADAGUVAWAN』

 

『「私は、一向に構わんッッ!!」……と王は言っている』

 

『そ、そうか。それじゃあ……行くぜぇええええええッッ!!!』

 

切島は最大限に硬化した拳に体重を乗せ、渾身の力を込めた一撃を新の体に叩き込んだ。それは筋肉、骨格、呼吸、体重、“個性”……全機能をフル参加させた、正に『最強の打撃【ベストパンチ】』と言える一撃であったが、切島が拳から感じた手応えは超大型トレーラーの巨大なタイヤを連想させ、しかも攻撃を受けた皮膚には僅かな擦り傷だけが残されていた。

 

『ぜッ、全然効いてなーーーーーーーーーーいッ!! 全くダメージを負っていない、呉島新ぁああああああああッッ!!!』

 

『き、切れてねぇ……』

 

『フッ……当然だ。王は常日頃から、体中に粗塩をスリ込んでいるのだからな』

 

『あ、粗塩?』

 

『そうだ。古のベアナックルボクサー達は、そうやって切れにくい肌を完成させたものだ』

 

『ま、マジ……?』

 

『さて。それでは、攻守交替だ』

 

イナゴ怪人1号の言葉に空気が凍った。スタジアムをも破壊する腕力で繰り出される攻撃が、遂に生身の切島に対して向けられるからだ。

 

「ああ、散々長引いたケド、遂にこの時が来たかって思ったよ。でもね……呉島はココで、私達の予想の更に斜め上をぶっ飛んで行ったのさ」

 

誰もが即座に切島に思い切り殴りかかるモノと思っていた。

しかし、新はおもむろに左手首に付いているカッター状の棘をパキッと折ると、それを右手に持ったままで腕を下げた。一体何のつもりなのだろうかと観客達は不審に思ったが、その答えは実に驚くべきモノであった。

 

「折った棘からね、武器を創ったんだよ。それも巨体に見合った大きさの、角張って鋲が生えたゴッツい金棒をね。……ああ、アタシも思ったよ。つーか、誰だってきっと思っただろうさ。『鬼に金棒』って」

 

『か……金棒!?』

 

『振るのか……? あの剛力で……ッッ!?』

 

『へ……は、ハッタリだろ。あんなの』

 

『だ、だよな。元は小さな棘だもんな……』

 

掌の中に収まるほど小さなモノが3m近い金棒になったのは確かに驚きだが、その重量は変化する前と変わらない筈。彼等の知る常識的な物理法則で考えるなら、あの金棒は、見た目だけが立派な只のハリボテであると言う結論だったのだが……現実は理不尽で非情だった。

 

「うん。実はあたしも初めはそう思ったんだよ。だけどね。その直後に呉島が地面に金棒を落としたら、そこから地面に亀裂と振動が走ったんだよ。……ああ、そうさ。もう認めるしかなかったよ。呉島のアレに常識なんてモノは、それこそ物理法則さえも適用されないんだってね。

そして見た目通りの超重量武器を、マックスパワーで切島に向けて振ろうってんだ。そりゃあ、パニックの一つや二つ簡単に起きるってモンだよ」

 

『やべぇ……やべぇよ……ッ!!』

 

『おい! アレもう止めた方が良いって!』

 

『……いや、あの巨大ロボの下敷きになっても、ピンピンしてた切島なら或いは……ッ!!』

 

『んなワケねぇって! 死ぬって!』

 

只でさえ強いヤツが、更に強大な武器を手にする。そんな理不尽がこれでもかと極まった展開を目の当たりにして、観客達は大いに騒ぎ出した。

或る者は切島が金棒の一撃で粉微塵に砕かれる未来が訪れるのを恐れ、また或る者は巨大ロボに下敷きになっても平気だった切島の頑丈さなら耐えられるのでは無いかと言う期待を口にする。

 

それにしても恐るべきは、やはりこの時の新の姿である。

 

身長170㎝の切島が小人に見える程に巨大な金棒を片手で持ち上げ、切島に振り降ろそうとするその姿は、科人を打つ首斬り役人の如き威容を誇り、正に伝説に語り継がれる『鬼【オーガ】』そのものである。

 

『UUUUOORUYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!』

 

『ダヴァアーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーイッッ!!!』

 

そして、自身の予想を遙かに上回る戦慄と恐怖を与える一撃を前にした切島だったが、何が切島をそうさせるのか、切島は変わらずその場に留まり続けていた。

決して逃げぬ、避けぬ、退かぬと、全身を最大限に硬化させて、新の繰り出す金棒の一撃を受け止めようとしていた。

 

……しかし、この戦いは直後、実に呆気ない形で幕を閉じる事になる。

 

「勝負はその後、一瞬でついた。こう……呉島がゆっくりと左手で切島の頭を掴んで、そのままちょっと揺らしたんだ。それで決着。ホント、意外な位に呆気ない終わり方だったよ」

 

『………』

 

『へ?』

 

『……HUTTN!!』

 

そう。新がやった事は、頭を掴み、揺らす……ただそれだけの事である。

 

しかし、その無造作とも取れる行為が切島にもたらした効果は甚大であった。如何に全身を硬化しているとは言え、切島の頭蓋骨内部では、脳が繰り返し何度も叩きつけられ、まるでボクサーが強烈なショットを喰らうのと同じ様相を呈し、切島の意識を脳の外へ弾き出した。

 

「つまり……だ。あの右手に持った馬鹿みたいにデカい金棒は、切島の注意を引きつけるための囮で、本命は左手で脳震盪を起こす事だったんだよ。それに切島はまんまと嵌っちまったのさ。勿論、それを見ていたあたし達もね。もっとも、試合を止めなかった事を考えると、審判をやってたミッドナイトやセメントスは、その事に気づいていたのかも知れないケドね」

 

『FUUUU……』

 

『私としては貴様の取った選択は馬鹿だと思うが……嫌いでは無いし、間違ってもいない』

 

そして、イナゴ怪人1号が切島の行動を評価し、二人の試合の勝敗が決した時、バトルフィールドが崩壊しても立ったままだった新のジャージが、まるで「役目を追えた」と言わんばかりに、その場にくにゃっと崩れ落ちた。

 

 

●●●

 

 

切島が気絶したのを確認すると、俺はここで漸く肩の力を抜いた。

 

切島のリクエストに応えたのは良いものの、冷静に考えて本当に『超マッスルフォーム』の全力攻撃を叩き込んだ場合、流石に幾ら『硬化』の“個性”を持つ切島と言えど確実に死に至るだろう。

その事に思い至った俺は、実際にそのパワーを明確に見せ付ける事で、真っ向勝負を取り下げて貰おうと考えたのだが、切島は真っ向勝負を取り下げる所か、ますます受けて立つ気になってしまった。

 

……とは言えだ。それでもやっぱり『超マッスルフォーム』で殴りかかる訳にもいかないので、適当な理由で考える時間を稼ぎつつ、ユーモアのある所を観客に見せ付け、「もっと目に見えて強そうで怖そうなモノで動揺させ、真っ向勝負を降ろさせる」と言う策を思いつき、八百万戦で手に入れた能力で巨大な金棒を作った訳だが……切島は命が要らないのか、本気で俺の全力攻撃を受ける体勢を取っていた。

 

しかし、だからと言って本当に致命の一撃を切島にブチ込む訳にはいかない。そこで体格差を利用した脳震盪による気絶と言う形で決着した訳だが……この金棒、作っただけ無駄になったな。ぶっちゃけメッチャ邪魔。

そう思って金棒を地面に置いて手を離すと、金棒は元の手首に生えていたカッターに変化し、同時に俺の肉体も『超マッスルフォーム』から、通常の怪人バッタ男の姿に戻った。

 

「き、切島君、戦闘不能ッ! 呉島君、三回戦進出ッ!!」

 

『勝負ありッ!! 怪力乱神、呉島新ッッ!! 試合時間は実におよそ300秒! たった5分間の出来事でしたが、ありとあらゆる意味で強烈なインパクトを残す試合となりましたッッ!!!』

 

取り敢えず、破れたジャージを拾い上げて破れた部分を補修し、衆人環視の中で堂々とジャージを着込みながら、スタジアムを後にする。

俺が“個性”を使う度に、しょっちゅう服が破れて使い物にならなくなる実情を考えると、八百万戦で獲得したこの新しい能力は、実に使い勝手が良く非常に便利だ。

 

「やあ、呉島新君……だったね」

 

「NN……?」

 

我が家のお財布事情を考えながら、クラスの皆がいる応援席に戻ろうとする俺だったが、その途中で「№2ヒーロー」と称されるフレイムヒーロー……即ち、エンデヴァーが俺を待ち構えていた。




キャラクタァ~紹介&解説

呉島新
 今回の切島戦では『超マッスルフォーム』こと、『アナザーシンさん・エキサイトフォーム』のコントロールに開眼。更に「核兵器VS竹槍」と言わんばかりの圧倒的な戦力差を、リアルシャドーによる可視化で見せつける事でギブアップを狙ったが、むしろ対戦者の切島に火を付ける結果になってしまい、最終的には気絶させて倒す事になる。
 今回の試合ではユーモアのセンスを見せる事でイメージアップを狙ったが、この試合で新しく『鬼【オーガ】』の二つ名を頂戴する羽目になってしまった。

切島鋭児郎
 意図せずに瞬殺を免れた漢。流石に『すまっしゅ!!』ネタをやるのはちょっと無理があるかも……と思った結果、妥協案としてリアルシャドーを取り入れる事でそれらを再現。まあ、『すまっしゅ!!』を基準に考えれば、粉微塵になっても復活できる凄まじい生命力を持っているので、それこそジャガッた程度では全く問題無く復活できる様な気がする。
 原作と同じく二回戦敗退と言う結果に終わったが、この試合を切っ掛けに『ダヴァイ』と言う二つ名を頂戴し、A組では「バッチコイ」と言う意味で『ダヴァイ』が使われるようになる。

Ms.ジョーク/福門笑
 アニメ第二期に登場していたので、せっかくだからと登場させてみたプロヒーロー。作者の趣味により、第7話の拳藤に続く『バキ』的な解説を担当して貰う事に。
 原作12巻で分かるように、傑物高校で教鞭を執っている教師だが、知り合いである相澤の教え子に、世にも恐ろしい怪人がいる等とは夢にも思わなかった事だろう。



超マッスルフォーム・リターンズ
 作中で語られた様に偶発的に発生したモノなのだが、今回の話で峰田にクラスメイトが辱められる妄想……もとい想像をする事によって、「マッスル化」一つ分のエナジーを自己生産する事が出来るようになる。つまり、この姿は『エグゼイド』の「マッスル化✕3」を使った仮面ライダーパラドクスと同じ状態だと言っても過言では無い。俺の心を滾らせやがって……。
 ちなみに試合展開の元ネタは『刃牙』シリーズに登場する、“世界最自由”の肩書きを持つ囚人「ビスケット・オリバ」を筆頭に、『浦安鉄筋家族』から逆輸入された範馬勇次郎の理不尽ジャンケンと、やはりバキネタが多い。

リアルシャドー
 究極の『幻影戦闘【ファントムバトル】』。相手の行動を目に焼き付けることで、その動きから出来る事と出来ない事を正確に予測し、現実にダメージまで再現しながら行う独り稽古。だから切島は粉微塵になってもきちんと復活する。……多分。
 元ネタは勿論、『刃牙』シリーズで範馬刃牙が常日頃からやっている「リアルシャドー」。ちなみにシンさんは最近、脳無を相手にしたリアルシャドーを日課としている。

金棒
 シンさんがモーフィングパワーで創り出した武器。元ネタは、劇場版『超・仮面ライダー電王&ディケイド NEOジェネレーションズ 鬼ヶ島の戦艦』に登場する、シルバラの変身アイテムである「純銀の金棒」。ちなみにサイズは超マッスルフォームに合わせ、元ネタよりも巨大化している。
 採用した理由としては、「強化形態であるアナザーシンさんの専用武器が欲しい」と思ってネタを探していたところ、シルバラがアナザーアギトと同様に仮面ライダーV3の要素を組み込んでいる事と、「シルバラのスーツが『仮面ライダーTHE NEXT』の「ホッパーVersion3」を改造したもの」と言う疑惑が持ち上がっていた事が決め手になった。
もっとも、シルバラのスーツは新造品であり、「あくまでオマージュ元が共通しているだけ」との事だが、元ネタを大事にして『金色の錫杖』を持たせても、筋肉ムキムキマッチョマンのエキサイティングなアナザーシンさんには全然似合わないから、イメージと面白さの方を優先する結果に。



後書き

これにて、全ての予約投稿が終了しました。一週間に及ぶ『怪人バッタ男』の世界……如何だったでしょうか?

活動報告のアンケートは12月20日まで受け付けていますので、興味のある人は是非参加して下さい。

それでは読者の皆さん、良い週末を……。

11/25 感想の指摘により、番外編と外伝についてのアンケートを新設しました。此方のアンケートも12月20日までの受け付けとします。興味のある方は是非参加して下さい。

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