怪人バッタ男 THE FIRST   作:トライアルドーパント

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前回行った二つのアンケートの結果、まず投稿形式は今まで通りに「出来た作品を一気に投稿するスタイル」でやっていきたいと思います。予約投稿による時間差も結構需要があったのですが、そこは「民主主義の掟」と言う事でご了承下さい。
そして、今回より番外編と外伝の場所を上段に変更し、最新話が分かりやすくなるようにしました。取り敢えずはコレでしばらくやっていこうと思いますが、「むしろ分かりにくいし、読みづらい」と言った意見があれば、他の方法を探していこうと思いますので、遠慮無く活動報告に申しつけて下さい。

後、ポケモンの最新作と、newニンテンドー2DSを買いました。でも、ポケリフレばっかりやってて、ぜんぜん冒険が進んでません。それもこれも、ニャビーやイワンコが可愛いくて、ピカチュウがアニメ声なのがいけないんや……。

そして今話は連続投稿の一話目。次話の「シンさんVS轟」の前振り的な回と言う事で話数は少なめですが、その分次話は今話の倍に近いので、読み応えはあると思います。

今回のタイトルの元ネタは『クウガ』……と言うかそのまんまなのですが、ぶっちゃけ今回は全然良いタイトルが思いつかなかったので、かなり適当に決めました。元々は1話で、分割する予定じゃ無かったし。


第20話 臨戦

フレイムヒーロー『エンデヴァー』。オールマイトに次ぐ「№2ヒーロー」にして、「事件解決数史上最多」と言う実績と実力を持つ燃焼系ヒーロー。

 

人気では万人受けしているオールマイトとは違い若い男性層に偏りがあるものの、その名は世に広く知られており、『グレイトフル・ヒーロー』に名の連ねる一人として有名だ。そして『グレイトフル・ヒーロー』の例に漏れず、オールマイトやベストジーニストと同様に、ここ雄英高校の卒業生でもある。

もっとも、轟の話を聞いた今となっては、俺のエンデヴァーに対する認識は「目的の為なら手段を選ばないヤベー奴」であり、正直あまり関わり合いになりたくないタイプの人種であると言わざるを得ない。

 

「見せて貰ったが、実に素晴らしい“個性”だ。異形系の特徴である高い身体能力に加え、一つ一つが“個性”に匹敵するであろう数々の特殊能力。そして何よりも目を見張るのは、他を寄せ付けぬ圧倒的なパワー……! 総合的に見て『オールマイトの上位互換』と言っても過言では無い“個性”だ」

 

「………」

 

しかし、悪魔の仕業か、それとも神の悪戯か。何の因果かそのエンデヴァーが試合を終えた俺を待ち構えており、不敵な笑みを浮かべながら話しかけていると言う現実から目を背け続ける訳にもいかず、取り敢えずは黙ってエンデヴァーの話を聞くことに徹している。

 

「君達の事は聞いている。何でもオールマイトに随分と目を掛けられているらしいね。ウチの焦凍には、オールマイトを超える義務が……ん?」

 

エンデヴァーの言葉を遮るように、エンデヴァーのズボンのポケットから流れる着信音が通路に鳴り響く。

№2ヒーローと言う肩書きからして、エンデヴァーが多忙な毎日を送っている事は容易に予想できる。恐らく今の電話はそんなエンデヴァーへの救援要請か何かだろう。

 

「チッ。今日は出られんと言ってあるのに。全く……」

 

「!?」

 

一方、誰かしらに呼び出されているエンデヴァーはと言うと、険しい表情で舌打ちをしながら、ズボンのポケットからスマホを取り出している……のだが、エンデヴァーのスマホの待ち受け画面がチラリと見えた瞬間、俺は我が目を疑った。

 

え!? 何で!? 何でこのおっさん、轟の風呂上がりの様子を写メして、しかも待ち受けにしてるんだ!?

 

「話の続きだが、君と焦凍の試合は、焦凍がオールマイトを超える過程で、極めて重要な意味を持つものになると思っている。くれぐれも、先程の試合の様に手を抜くような真似はしないでくれ給え」

 

「………」

 

ぶっちゃけ、俺としてはそんな事よりも、アンタのスマホの待ち受けの方が気になるんだが……要するに俺に「轟に手加減するな」と言いたいが為に、このおっさんはわざわざ此処で待っていたと言う事か?

それにしても、轟の口から語られたエンデヴァーのイメージと、今俺の目の前にいるエンデヴァーのイメージが、俺の中で全くと言って良い程に合致しない。どうにも違和感が有り過ぎる。

 

もしかしてこの人、本当は只の親馬鹿なんじゃ……。

 

「言いたいのはそれだけだ。準決勝での君と焦凍の試合、楽しみにさせて貰う」

 

俺の精神を混乱のどん底に叩き落し、言いたい事は言ったと言わんばかりに、すっきりした様子で立ち去るエンデヴァー。

エンデヴァーとしては意図したモノではないだろうが、何か癪に障る上に、準決勝の俺の相手が轟だと決めつけている事に不満があった俺は、エンデヴァーの背中に怪人ボイスで言いたい事を言ってやった。

 

「BIGOLIGAVIBBO、RAWEQUMA」

 

「? 何だ?」

 

「『半分こ怪人Wの対戦者を侮るな。緑谷出久は、決して並の雄英生ではない』……と王は言っている」

 

「………」

 

イナゴ怪人1号の通訳を聞いたエンデヴァーは、その言葉に何か反応するでも無く再び歩き出し、そのまま通路の奥へと消えていった。

 

 

○○○

 

 

リカバリーガールの出張保健所で目を覚ました切島は、ベッドの上で二回戦における新との戦いを思い出していた。

 

「………」

 

こちらの攻撃は一切通じず、無造作な所作で一気に昏倒に追い込まれた。正に惨敗と言える結果に終わり、二回戦敗退と相成ったが、切島の思考を占めていたのは、試合の結果では無かった。

 

「(済まねぇッッ!! 言葉を違えたッッ!! 全力を全て受け切るッッ、俺は確かにそう言ったじゃねぇかッッ!! 実際はどうだ……ッッ。そもそも俺は本気だったのか!? 心の底では……手加減される事を、どっかで期待してたんじゃねぇのか!? 現に今、俺が大したダメージを受けて無い事に、何事も無かった事に……ホッとしてるんじゃねぇのか俺はッッ!!!)」

 

この時、確かに切島は後悔していた。しかし、その後悔は「ああすれば良かった」とか、「これを使ったら勝てた」とか……そんな勝負の結果や過程に対するものでは無い。切島は勝負に対する自身の心の在り方に後悔していた。

 

「(何も変わってねぇ……あの頃から、何も……ッッ!!)」

 

「目が覚めたかい?」

 

「……ッ」

 

「丁度良いタイミングだったね。お前さんにお見舞いだよ」

 

「お見舞い?」

 

「よう……」

 

「!!」

 

リカバリーガールの言葉を怪訝に思った切島の前に現われたのは、ある意味で今一番会いたくない男だった。

 

「体は?」

 

「……問題ねぇ」

 

「……そんな風には見えないが……」

 

「……」

 

教室での普段のやりとりとは全く異なる空気が二人の間に立ちこめ、居心地の悪さと沈黙がその場を支配する。そんな気まずい空気の中、切島は心の内に秘めていた一つの事実を新に対して打ち明けた。

 

「俺さぁ……本当はお前の事、雄英で会う前から知ってたんだ」

 

「あん?」

 

「去年の春……強力なヴィランに抵抗し続けた、タメの中学生が話題になってた。爆豪の事だ。だけど俺は、オールマイト登場の直前に飛び出した、友達らしい中学生二人の方が気になってた。その内の一人は、『凶悪なヴィランにしか見えねぇ怪人だった』って事で、ちょっとした噂になってた」

 

「………」

 

「実は俺も同じ頃に似たような事があったんだけどよ。同じ中学のヤツがアブネー目に遭ってるって時に、俺はその場から一歩も、動く事が出来なかったんだ」

 

「………」

 

「人間の本性ってヤツはよ、本当に怖ェ時、本当に命を賭けて動かなきゃいけねェ時に現われる。『命と向き合って、その上で一歩を踏み出せる』。そんな人間だけがヒーローになれるんだと俺は思う。

その点で言えば、俺はただ上っ面だけそれらしく振る舞ってただけだ。ありもしない覚悟をあるみてぇに言って、出来もしねぇ勇気を出来るみてぇに言った。『決死の覚悟で』、『死んだ気になって』、『ブッ殺す気で』……人ってヤツは、本当はそうする気も無ぇのに、そんな言葉をよく口にする。『決意の無ぇ言葉』……漢なら、そんな事は絶対に口にしちゃいけねぇ」

 

「同感だな」

 

「俺自身……その事は痛いほどよく分かってる。分かってるつもりだった。なのに……本当にそう思っていたのかも怪しいまま、そんな決意があったのか分からねぇままで、俺はお前にお前の全力を提案した。漢がやる事じゃねぇ……」

 

「………」

 

先の試合において、自身の心の有り様がヒーローとして、そして漢としてまるでなっていないと吐露する切島。そんな切島を前にして、新はあるヒーローの事を、切島にゆっくりと言い聞かせるように話し始めた。

 

「……俺は出久と違ってヒーローにはあんまり詳しくなくてな。お前が『紅頼雄斗に憧れてる』って言った時も、紅頼雄斗ってヒーローが、どんなヒーローなのか全然分からなかった。

それで出久に紅頼雄斗について聞いたり、自分でも紅頼雄斗についてネットで調べたりして、それで紅頼雄斗の事を知ったんだが……素直に良いヒーローだと思った。自分が守れなかった命を想い、その事をずっと後悔している。それでも“次の誰か”を助ける為に、ヒーローとして戦い続ける……オールマイトに少し似ている」

 

――新人時代、俺ァ救える命を救えなかった事があるのよ。一瞬、躊躇しちまったのさ。テメェの心が弱い所為で助けられなかった。ヴィランも死ぬ事も怖ェ! ただ、ソレよりも恐ろしい事を知ってるのさ。亡くなった方の最後の表情。救えない辛さ。ソイツを知ってるから、俺は飛び込んで行くのさ――

 

――どんなに特別な力を持ったヒーローでも! 救いを求める誰かを! 救えない事があるッ! 私にもあったッ! 守れなかった命を想い! 自分の無力さを呪い! 心が張り裂けそうになる時があった! それでも『ヒーロー』は決して! 昨日の失敗を理由に! 自分の仕事を投げ出し! 助けを求める人を見失ったりはしない! 明日何処かで救いを求める誰かの為に! 誰もが昨日よりも強くなろうと足掻き続けている!――

 

「『一度心に決めたならソレに殉じる』。『“漢気”とは“後悔の無い生き方”』……紅頼雄斗の言葉だ」

 

「……ああ、俺はその言葉に救われた。それで『もう繰り返さねぇ』って心に決めた。それなのに、俺は……」

 

「……お前のヒーローネームの『烈怒頼雄斗』だけど、『烈』って言葉にどんな意味があるか、お前知ってるか?」

 

「? いや……」

 

「『激しい』。『甚だしい』。そして――『道に外れない』だ」

 

「!!」

 

「お前は只の当て字のつもりで決めたのかも知れないけどさ……俺はお前らしい、“お前のそのもの”って感じのヒーローネームだって思ったよ」

 

「……ありがてぇ。……ありがとう」

 

目を閉じて感謝の言葉を口にする切島。その目には光るモノが浮かび、二人の間にあった気まずさは完全に消滅していた。

 

 

●●●

 

 

正直、切島の反応は俺にとって意外だった。

 

切島の「超マッスルフォームの全力攻撃を全て受けきる」と言う、蛮勇と言うにはあまりにも無謀過ぎる提案を、リアルシャドーという形で誤魔化した俺に対して文句の一つや二つはあるだろうと覚悟していたのだが、切島としても無謀だと思うところが少なからずあったのか、むしろ自分の発言とその本心について深く恥じていた。

未練は時として人生を暗くし、後悔は時として心を一生に渡って曇らせる。その事を知っている俺は励ましと後押しの意味を込めて、切島が憧れていると言う『紅頼雄斗』の事を話題として出してみたのだが、どうやら上手くいった様だ。

 

そして、俺が超マッスルフォームの腕力に任せて破壊したステージが修復し終わり、いよいよ出久と轟の対戦が始まる。

果たして出久は轟とどんな戦いを繰り広げるのか……と思った矢先、ここで予想外の人物が俺の行く手を阻んでいた。

 

「お願い! このとーり!」

 

「……って言われてもなぁ」

 

俺に対して両手を合わせながら頼み事をするのは、青山を倒して二回戦に進出した芦戸。

 

芦戸がこんな行動を取っている理由は一つ。芦戸の次の対戦相手が勝己であり、今のままではまず勝己に勝てない。そこで、麗日が勝己を敗北寸前まで追い込んだ秘策を伝授した俺に、何か対勝己戦の良策を授けて貰おう……と言う魂胆なのである。

 

「そこを何とか! 今なら膝枕もつけるよ!」

 

「止めろ。それだと別に無償で良いのに、膝枕に釣られて引き受けたみたいになる」

 

「じゃあ、一つ聞くけどヤオモモの膝枕どうだった? 結構、気持ちよかったんじゃない?」

 

「………」

 

何と言う返答に困る質問だ。糞真面目に言うなら八百万の膝枕は「極上」の一言だが、女子の間で噂になりそうなので絶対に言いたくない。ここは一つ、質問に答える事無く、俺が考える策を教える形で有耶無耶にするとしよう。

 

「しかし、ハッキリ言ってしまうと、お前が勝己に勝つ事はおろか、善戦する事さえも困難極まると俺は思うぞ」

 

「幾ら何でもハッキリ言い過ぎじゃない!?」

 

「言うさ。勝己はああ見えて、こんな超短時間で思いついた付け焼き刃が通用する様な相手じゃないし、その場のヒラメキで臨機応変に対応できるタイプの人間だ。つまり想定外の事態に強い。

何よりお前は『騎馬戦』で勝己とチームを組んでる。あのみみっちい……もとい、妙な所で冷静な部分がある勝己の事だ。お前の『溶解液』の射程距離や、酸の強弱と言った手の内は全部バレてる。何か隠し球の一つでもあれば、それが突破口になり得るが、そんなモノがあったらそもそも俺にこうして相談したりしないだろ?」

 

「……うん」

 

「つまり、お前には勝己に勝つ為に必要な“意外性”が、致命的なレベルで欠けてる。それこそ麗日の『気体成分の無重力化』みたいな、相手が思いもよらない様な、『意識の外側からの攻撃』ってヤツが無い」

 

「意識の外側?」

 

「そう。どんな攻撃も分かっていれば事前に対策が立てられるって言うか、準備する事が出来る。心も体もな。だが、そうでない攻撃は準備のしようがない。分からないんだからな。そして、心も体も何の準備も出来ていないから、その攻撃は相手にあっさりと通るって訳だ」

 

「な、なるほど」

 

「まあ、仮に俺がお前だったら『溶解液を霧状にして放出して避けにくくする』とか、『高圧洗浄機みたいに回転を加えて攻撃力と射程距離を伸ばす』とか、『溶解液を鞭状に形作って操作する』とか……。

ぱっと思いつくのはそんな感じだが、どれも言われてすぐに出来る様な芸当じゃない。せめて二週間前に相談してくれれば何とかなっただろうが……」

 

「ちょ、ちょっと待って! 最初の二つはまだ分かるケド、『鞭にして操る』ってのは無理があるんじゃ無い!?」

 

「いや、可能な筈だ。例えば、炎を体から放出する“個性”を持つエンデヴァーは、炎を球体状にしたり、槍状にしたりして投げつける遠距離攻撃が出来るし、炎が手元から離れてもその形を崩す事無く、球や槍の形を維持する事が出来る。

つまり、体から何かを放出するタイプの“個性”は、放出した物に好きな形を持たせる事が出来る筈なんだよ。それこそ、お前の『溶解液』だって、鞭の形にして操る事が出来てもおかしくは無い」

 

「………」

 

俺の出した数々のアイディアやそれに基づく考察は、芦戸にとって思いもよらない事だったのか、芦戸は黒いお目々を丸くして、食い入るように俺の話を聞いていた。

 

実際の所、芦戸は「全身から溶解液を出すことが出来る」と言う結構危険な“個性”を、これまで持ち前の勘の良さによってコントロールしており、現在多用している手足から溶解液を放出するやり方もそれに由来している。

そんな芦戸からすれば、新の言う方法は正に目から鱗。細かいことは気にしない性格の芦戸をして、「今まで随分と勿体ない事をしていたんだなぁ」と思わずにはいられなかった。

 

「ほ、他には!? 他には無いの!? 出来れば今すぐ出来そうなお手軽なヤツ!!」

 

「お手軽ってお前……まあ、確かにそのレベルの付け焼き刃しか出来る事は無さそうだが……。そうだな~、それなら『溶かしたモノを投げつける』とかどうだ? 今回の場合はセメントだな。固体よりは液体の方が避けづらいし、セメントが加わった液体なら、上手くすれば服を溶かさずに重くしていって、勝己の動きを鈍らせる事位は出来るかも知れん」

 

「おお! 他には?」

 

「他? ん~~~~、水鉄砲とか?」

 

「水鉄砲?」

 

「そう。こんな感じで、両手で鉄砲の形を作るだろ? それで溶解液の発射口……つまり両手の人差し指と中指で出来た隙間から、今までと同じ要領で掌から溶解液を発射する。ただそれだけの事だが、出力が同じでも発射口が小さくなった事で飛び出す力が一点に集中し、溶解液はより遠くまで飛ぶ様になる」

 

「ん! 大体分かった! 確かにそれなら出来そうだね!」

 

「ただ、二つばかり忠告しておくが、俺が今言ったことをやる時は、第一に『早さより落ち着くこと』を考えろ。そして『一発目は絶対に外すな』。勝己なら一度それを見たら、すぐさま有効射程や継続時間、次弾の準備にかかる時間なんかを全部計算して、お前に襲いかかってくる。つまり一発目が最大のチャンスだ。別にプレッシャーをかけるワケじゃ無いが……兎に角、使う時は慎重にな」

 

「……いや、十分かかったよ。プレッシャー」

 

こうして、その他にも色々と芦戸にアドバイスと付け焼き刃を施している間に、第二試合の「出久VS轟」戦と、第三試合の「塩崎VS飯田」戦が終了し、二回戦最後の試合である「芦戸VS勝己」戦のみ観戦すると言う想定外の事態に陥った。

 

芦戸は授けた策を用いて、勝己を相手に予想以上に善戦したとは思うが、やっぱりと言うか予想通りと言うか、予想以上に粘る芦戸にイライラしていた勝己の猛烈な爆破を喰らって吹っ飛び、ものの見事に敗北した。……うん。やはり相手が悪過ぎた上に、準備する時間がなさ過ぎたな。

ちなみに試合中、A組の応援席では、爆破によって格闘ゲームみたいに芦戸の服が消し飛ぶのを期待し、勝己に熱烈的且つ熱狂的な応援をしていた峰田の両目を、耳郎が『イヤホンジャック』で突き刺し、物理的に黙らせていた。

 

「芦戸さん戦闘不能! 爆豪君の勝利ッ!!」

 

『勝負ありッ!! そして遂にベスト4が決定ッッ!!! 空前絶後の16名から勝ち上がった4名ッッ!! この雄英体育祭も、いよいよ残り3試合と相成りましたーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!

 

準決勝第一試合ッッ!! 怪人バッタ男VSッッ、半分こ怪人W!!!

 

準決勝第二試合ッッ!! 怪人トリップギア・ターボVSッッ、爆発怪人ボンバー・ファッキュー!!!

 

奇しくも「エリートVS雑草」と言った生い立ちからなる二試合の勝者がッッ、決勝戦にて雌雄を決する事になるのですッッ!!!』

 

さて、いよいよ轟とのタイマンか。体力はそれなりに消耗しているが、軽くエネルギー補給はしておいたし、体も不調と言える様な部分は無い。

そもそも実戦に於いて、ベストコンディションなど望むべくもないのだ。ヒーローを志す以上、「常時、臨戦態勢であるべし」と言う心構えであるべきだろう。

 

「いよいよ半分こ怪人Wとの決戦だが、氷に加えて炎を使い出したとなると厄介であるな」

 

「うむ、そしてエンデヴァーにとっては、この上なく好ましい展開になったと言えるであろうが……それは此方にとっても同じ事よ。正直、半分こ怪人Wとは何処かで当たってくれればと思っていたが……実に運が良い」

 

「運が良い……?」

 

はて? イナゴ怪人1号の言っている事がよく分からんぞ。炎熱による高温と、氷結による低温。生物型の“個性”持ちにとっては、どちらか一方だけでも厄介なのに、その両方を操る事が出来る轟は、俺の天敵と言える様な存在なのだが……一体、何処をどう見ればそう言う結論に至るのだろうか?

 

「どう言う事だ1号。半分こ怪人Wは、エンデヴァーが『完璧な俺の上位互換』と言って憚らない様な男だぞ? それでいて運が良いとは一体……」

 

「我らが王。呉島新の『魂の目覚め』に賭ける」

 

「『魂の目覚め』?」

 

「………」

 

うん。やっぱりよく分からん。イナゴ怪人1号には何か考えがある事だけは何となく分かるが、戦闘において不確定要素に頼るほど恐ろしいモノは無い。……よし、何時も通りで行こう! 相手が誰であろうと、負けられないのには変わらないし!

 

「そうであるな。確かに負けられん」

 

「うむ! そして今回の作戦名は『成り行き任せ大作戦』だッッ!!」

 

……それは果たして作戦と言えるのだろうか?

 

 

○○○

 

 

エンデヴァーは歓喜していた。

 

若かりし頃、そして今も不断の努力と非凡な才能によって、№2ヒーローという地位を築いてきた。しかし、鍛練を重ね、実績を重ね、年月を重ねる度に痛感しているモノがあった。

 

それは、№1ヒーローであるオールマイトと自分との差。

 

単純な実力、ヒーローとしての魅力、他を圧倒するカリスマ性……その全てにおいて、エンデヴァーとオールマイトには、常に大きな開きがあった。それを知る度に絶望してきたエンデヴァーは、ある日『自分の野望を成し遂げる為の仔』を創る事を思いついた。

 

それを思いつき、実行に移して数十年の歳月が経った今日。妻が『自分の上位互換』を産み、自分が手塩に掛けて育ててきた仔が、頑なに否定し続けてきた『自分から受け継いだ力【左の炎】』を解き放った事で、遂に待ち焦がれていたその時がやって来た。

 

「(待っていたぞ……この瞬間を……ッ!!)」

 

娘を介して聞いた、息子と同じクラスに在籍する「オールマイトの弟子」と言える二人の少年。息子をオールマイトさえも超えるヒーローにする以上、その存在は決して無視する事は出来ない。

如何せん息子との不仲故に情報を事前に集める事が出来なかったが、雄英体育祭を見て誰がそうなのかは、すぐに分かった。片方は“個性”を使いこなせているとは言えずまだまだ未熟だが、もう片方の実力は現段階でも充分過ぎるレベルに達しており、明らかに他とは一線を画していた。それこそ、自分とオールマイトの様に。

 

そう考えれば、もはやこの準決勝第一試合は、「オールマイトを超える過程」所の話では無い。『自分の上位互換』と、『オールマイトの上位互換』による、「自分とオールマイトの代理戦争」と言っても過言では無い一戦へと昇華したのだ。

そうなったのは紛れもなく、テストベッド程度に見ていた緑谷出久の功績だ。本命である呉島新の言う通り、確かに緑谷出久は只者では無かった。

 

「(そう、あの小僧は本当に良くやってくれた……この俺の為にッッ!!)」

 

『それではいよいよ、準決勝第一試合を行いますッ!! 出たぞッ、青龍の方角ッ! 呉島新ッ!!』

 

「GURRRRRR……」

 

『白虎の方角ッ! 轟焦凍ッ!!』

 

「………」

 

『ここまで生まれ持った力を極限まで生かしきり、勝ち上がってきた両雄ッ!! 決勝へ進み出るのは一体どっちだぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!』

 

永きに渡るオールマイトとの確執、執着、因縁……それらが今日この場で、一つの明確な形となって決着がつくのだと、この時のエンデヴァーは心から思っていた。




キャラクタァ~紹介&解説

呉島新
 割と頼まれた事は断れないタイプの怪人。正直、芦戸に対して入れ知恵はしたものの、勝敗に関してはあまり期待していなかった。勝己相手に思いの外頑張っていたので、芦戸に協力して良かったなと思う一方、「出久VS轟」戦や「塩崎VS飯田」戦もちゃんと見ておきたかったと思っている。

切島鋭児郎
 ヒーロー名に「烈」の字が入っていると言う理由だけで、『範馬刃牙』の「野人戦争【ピクルウォーズ】編」における烈海王のネタを入れる事が確定していた漢。原作の『死穢八斎會編』で判明した過去の話により、尚更その欲望が強くなった作者としては、今回の話でその欲望が満たされて満足した次第である。

芦戸三奈
 基本的に細かい事は気にしないアシッドガール。一回戦における麗日の善戦の原因がシンさんであると知って、恥を忍んで(?)シンさんにアドバイスを貰う事に。対戦相手が原作よりも精神的に不安定だった事もあって、アニメ第二期における「芦戸VS常闇」戦よりは長く保ったが、原作通りに二回戦敗退という結果に。
 元々は作者が「考えてみれば、梅雨ちゃん、葉隠、麗日、耳郎、八百万はそれなりにシンさんと絡みがあったけど、コイツとの絡みってフォークダンス以外無くね?」と思い至った結果、今回の絡みを思いついたのが発端である。

緑谷出久VS轟焦凍&塩崎茨VS飯田天哉
 上記の芦戸の相談に時間を割かれた結果、割愛される事になった二試合。展開としては二試合とも、原作及び第二期アニメと同じである上に、以前の様な伏線やら対比の様な部分が次話に存在しないので、元も子もないメタ的な言い方をすると、「特に書く必要が全くと言って良い程に無い」と言うのが、割愛の理由である。

エンデヴァー
 通称:個体値厳選おじさん。出久が頑張ってくれたお陰で轟の『封印されし左手の炎』が解禁され、「長年の悲願が思いもよらぬ形で達成されそう」と言う予想外の展開に、心の中ではもう超ウハウハなのだが……。
 ちなみに、轟の姉である冬美を介して、息子の同級生に「オールマイトの弟子」的な存在がいる事を知ったと言うのは、『すまっしゅ!!』で「冬美を介して轟の生存確認をしている」と言う話を元にしたもの。幾ら心の底から憎悪しているとは言え、LINEを半年も未読スルーするのは、流石に轟の方が悪いと思うのは俺だけだろうか。



放出系“個性”の形態変化について
 作中でシンさんが語った、エンデヴァーの「炎に形を持たせる」二つの技は、アニメ第二期の『職場体験編』で、保須市における対脳無戦で使用した技の事。炎と言う「形を持たない物に形を与える事が出来る」のならば、他の放出するタイプの“個性”もまた、そうした事が可能であると思われ、息子の轟は元より芦戸や上鳴も同じ様な事が出来ると作者は考察している。
 ちなみに、原作12巻での『必殺技習得の為の圧縮訓練』の際、上鳴が「電気で剣を作る『電撃ソード』とか考えてた」と語っているが、上記の実例を踏まえて考えれば、恐らくそうした芸当は可能。しかし、『仮免試験編』で上鳴がそうした必殺技を使用していないことを考えると、実際に上鳴が『電撃ソード』を習得できたのかどうかは定かではない。使う必要が無かったとも考えられるが、果たして……。

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