怪人バッタ男 THE FIRST   作:トライアルドーパント

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連続投稿の2話目にして、2017年最後の投稿です。去年も大晦日が最後の投稿だったし、来年も年明けから県外に長期出張が決まったし、この調子でいくと来年の初投稿も2月頃になりそうな予感がします。

そして、今回のタイトルの元ネタは『響鬼』。当初は『アギト』風に「目覚める魂」にしようかと思っていましたが、後々の展開を考えてコッチにしました。

それでは、2017年最後の『怪人バッタ男』を存分にお楽しみ下さい。

12/31 誤字報告より誤字を修正しました。報告ありがとうございます。

2018/2/11 誤字報告より誤字を修正しました。報告ありがとうございます。

2018/5/21 誤字報告より誤字を修正しました。毎度報告ありがとうございます。

2020/4/22 誤字報告より誤字を修正しました。報告ありがとうございます。


第21話 THIRD STAGE:轟く鬼火

三度目となる戦いの舞台。そこに立って見えた景色は、試合の相手が相手だけに、先程とは何かが違って見えた。

 

『此処にロマンをかき立てずにはおけない、奇跡の様な一戦が実現しましたッ!! 怪人VS超人ッ!! 異形系VS発動系ッ!! その代表者が二人ッ、今雌雄を決しようとしていますッッ!!』

 

「「………」」

 

『いよいよ始まりますッ、準決勝第一試合ッ!! 開始めいッッ!!』

 

イナゴ怪人1号曰く、ネット上では「異形系最強VS発動系最強」と言うキャッチフレーズが付けられているらしいこの一戦。その始まりは予想通りと言うか、ワンパターンと言うか、開幕直後に繰り出される轟の大規模な広範囲氷結攻撃から始まった。

 

「MUUUUUUUNNYAA!!」

 

迫り来る氷の津波を前にして、俺は焦らず騒がず超強力念力でバリアを作り、難無く轟の氷結攻撃を防ぐ。そして、上空に出来た氷山の隙間から持ち前の高い跳躍力で脱出すると、地上で警戒している轟に向かって、触覚から緑色の電撃を放つ。

 

「SYAAAAAAAAAAAAA!!」

 

「ッ!!」

 

降り注ぐ電撃を氷の壁で防ぐ轟。一方の俺は轟がいるだろう場所に向かって真っ直ぐに落下し、上空から思い切り蹴りを叩き込む。重力と落下の加速によって力を増した蹴りは氷壁を粉砕し、中に居た轟をその衝撃により吹き飛ばしたが、吹き飛ばされた轟は新しく氷壁を作る事で場外を防いでいた。

 

「FUUUUUUUUUUUU……」

 

「………」

 

……ふむ、やはり轟は一対一の戦いにおいては、基本的にゴリ押しの傾向にあるな。細かいコントロールも出来るのだろうが、戦い方と言うか攻め方が“個性”の強さに任せた感じだ。まあ、実際にそれで今まで何とか出来ていたのが、轟の恐ろしい所なのだが。

 

しかし、『騎馬戦』でも有効だった轟対策は、タイマンにおいてもちゃんと成功している。右の氷結攻撃は触覚からの電撃で砕けるし、左の火炎放射なら超強力念力で恐らく防げる。そして攻撃の隙を突いて距離を詰め、バッタの怪力による一撃を叩き込んで、確実に仕留める。コレで俺に関しては、轟対策は完璧だ。

この戦法において重要なのは、相手の攻撃が氷か炎かを見極める力と、自分の使う能力の切り替えだが、それも「ハイパーセンサー」による僅かな温度変化で事前に察知する事ができる。

 

「JYAAAAAAAAAAAAAAA!!」

 

「ッ! チィッ!!」

 

そして、次の攻撃も氷結だと察知した俺は触覚から電撃を放ち、氷が俺を捉える前に電撃で氷を砕きながら轟に接近。そして距離を詰めた所で電撃の放出を止め、何時でも超強力念力を使えるようにしながら、轟の左脇腹目がけて右フックを繰り出した。

 

「SHYURAA!!」

 

「グゥッ!!」

 

それに対して轟は、咄嗟に右手を左側に置いて氷の盾を作った上で、自分から飛んで攻撃の威力をできる限り逃がした。氷の盾はぶち抜いたものの、クリーンヒットとは言い難い。仕留められずとも、ボディに思いっきりキツイのをお見舞いして機動力を奪うつもりだったのだが、流石にやるな。相変わらず、良い勘してる。

 

しかし、先程の攻防では、氷の防御より炎の攻撃だって選択肢としてはアリだった筈。いや、そもそも『騎馬戦』での一件を考えれば、これまでの攻撃も氷より炎を使った方が断然良いに決まっている。

それにも関わらず、轟の攻撃は氷結に終始している。明らかに何かがオカシイ。そう思って轟の表情に集中して見てみると、そこから感じ取れる感情はどこか不安定なモノで、心のバランスを崩している様に思えた。

 

「………」

 

「MUUUUUU……」

 

そして観客席に見えるエンデヴァーの顔も、決してよろしいものでは無かった。オールマイトに吐き気を催すほどの執念を燃やしているらしい、このおっさんからすれば、息子が漸く念願の炎を解禁したと思ったら、また氷結しか使わなくなったのだから、この表情も仕方あるまい。

……いや、コレは俺が『マッスルフォーム』を使わないで轟に対応していると言うのもあるのか? さっきのイナゴ怪人達の情報から察するに、「『オールマイトの上位互換(誤解)』を『自分の上位互換(確信)』で倒したい」とか、思っていてもおかしくなさそうだし……。

 

しかし、本当にどうしたものか。エンデヴァーの本性が「目的の為なら手段を選ばないヤベー奴」なのか、はたまた「只の親馬鹿」なのかは定かでは無いが、相手は腐っても№2ヒーロー。少なくともこの現代日本に於いて、実績と金の力で“個性婚”をやってのけた様な男の怨みなど、正直これっぽっちも買いたくない。

 

「……NUUUUN、HAAAAAAAA!!」

 

……ええい、ままよ。もうこの際、轟の方は仕方ないとして、此方は此方でエンデヴァーにとって望む様な展開をやるとしよう。

そう考えた俺は空手の型を参考にした独特のポーズを取り、肉体を瞬時に通常形態から『マッスルフォーム』に変化させる。

 

しかし、此処で一つ問題がある。実は「超強力念力」や「電撃」と言った遠距離攻撃は、『マッスルフォーム』になると一切使えない。触覚を筆頭とした肉体の各器官が変化してしまっている所為なのか、通常形態で使えたこれらの能力が、『マッスルフォーム』ではどうやっても使う事が出来ないのだ。

 

つまり、この『マッスルフォーム』で出来る、対轟戦における戦法は……。

 

「WRYYYYYYYYYYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!」

 

「ッ!! そう来るか!!」

 

轟の攻撃が氷結にせよ炎熱にせよ、圧倒的なパワーから繰り出される動作によって巻き起こる拳圧や風圧によって、氷や炎を打ち消す。これしかない。ぶっちゃけ、近距離からの氷や炎には、対処が出来ているようで出来ていない戦法だが、そこは自前の回復力と力技で無理矢理なんとかしよう。

ぶっちゃけ、通常形態のままで戦いたかったと言うのが本音だが、エンデヴァーの怨みを買わないためにはやむを得まい。

 

『作戦を変えたか。俺としてはさっきまでの方が作戦としては合理的だった様な気がするが……いずれにせよ、おっかない作戦を選んだモンだ』

 

『然り、破壊力重視。受けるダメージは度外視しての一発勝負と言うヤツだ』

 

『破壊力がなけりゃ出来ない芸当だな。一発で勝負が決まると思えば、轟としては全く気が休まらんだろうな』

 

「DOWRYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYY!!」

 

俺を捕らえようと迫る氷の津波を、オールマイトの「TEXAS SMASH」を模した拳圧の連打によって砕き、俺に近づく事を許させない。だがやはり、『障害物競走』の時の『超マッスルフォーム』で使った「TEXAS SMASH」に比べると、やはり一発一発のパワーが低い。

ならばその足りないパワーは手数で補えば良いと、俺はハンドスピードを更に上げる。もはやボクサーの目でなければ見切れないだろう、拳から繰り出されるバルカン砲の様な拳圧の弾幕は氷を見る見る内に粉砕するが、それでも轟には届かない。

 

力みが……足りねぇか……。ならば、想像せよ……ッ!!

 

『行けぇーーーーーーッ!! 爆豪ぉーーーーーーーーーッ!! 格闘ゲームみたいに芦戸の服を吹っ飛ばせぇええええええええええええええええええええええッッ!!!』

 

……良しッ!! 体の奥底から怒りと共に力が湧いてくるこの感覚。それを全身ではなく右腕一本に集中し、右手のみに『超マッスルフォーム』を発現させる。

 

「ZOVAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAJUU!!」

 

「ッッ!!!」

 

シオマネキのように右腕だけが巨大化した歪な姿から放たれた一撃は、轟の氷結攻撃を容易く凌駕し、その勢いが衰えぬまま轟に直撃した。拳圧によって吹き飛ばされ、地面を転がる轟だが、背面に氷壁を展開する事で場外を防ぐ。

俺は即座にそんな轟の背後に回り込むと、轟の背中に向かって右の後ろ回し蹴りを氷壁越しに叩き込んだ。

 

「GOVVBAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

 

「ガハァッ!!」

 

轟は俺の姿を見失ったことで反応が遅れ、今度は避けることも防ぐ事も出来ず、まともに攻撃を受けた。砕け散る氷の破片と共に、轟はステージを転げ回りながらも再び氷壁を展開し、辛うじて場外負けを防いでいた。

 

……ふむ、背中の耐久力は正面の約7倍で、しかも氷が緩衝材の役割を果たしている事を考えれば、これはまあ予想通りだ。

だが、手応えから察するに轟に十分なダメージを与え、動きを止めることは出来ただろう。このチャンスを逃す手はない。

 

『強い強い強~~~~~いッ!! 準決勝にして、未だに底が見えませんッッ!! 「怪人バッタ男」呉島新ァ~~~~ッッ!!! こんな怪人、何処にも居なぁ~~~~~~~~~~いッ!!』

 

『異形系は基本的に高い身体能力にモノを言わせる戦い方が殆どだが……呉島の場合、戦い方が轟を意識したモノになっているな。轟も動きは良いが、どうも調子が崩れてるな……』

 

「~~~~~~ッ! ~~~~~~ッ!」

 

地面にうずくまりながらも、此方を鋭く睨み付ける轟を見て、回復しきっていない今の内に、止めとなる一撃を叩き込むべく、俺はイナゴ怪人V3が命名した「真空きりもみシュート」の構えを取った。

 

「MUNNNNN………」

 

『おおッ!! 呉島選手が構えたッ!! 決着を狙っているゾーーーーーーーッ!!』

 

そして足元に展開される、緑色をしたオーラからなる六本角の紋章。それが両足に収束されると、両膝、股関節、脊髄、両肩……と言った具合にエネルギーが体内を経由し、それらは最終的に俺の両腕に蓄積された。

 

「SHYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

 

そして両腕と上半身の捻りから放たれた、螺旋回転する緑色の竜巻は、轟に向かって真っ直ぐにその牙を剥いた。

 

 

○○○

 

 

自動車に突っ込まれたらこんな感じなんだろうか……と思えるほどに、衝撃が背中から反対側にまで突き抜ける様な、強烈な蹴りだった。

 

横隔膜が限界までせり上がって肺を押し潰し、新しい酸素の供給を妨げている。内臓が蹴りのインパクトをまともに受けて大混乱を起こしている。

ガキの頃、クソ親父に叩き込まれた訓練で、何度も受けたあの感覚に似てるが、それよりも遙かにキツイ。氷壁越しでこの威力なら、まともに喰らえば確実に一発で終わる。

 

「MUNNNNN………」

 

『おおッ!! 呉島選手が構えたッ!! 決着を狙っているゾーーーーーーーッ!!』

 

何とか場外は防いだが、まともに身動きが取れないこの絶好の機会を呉島が見逃す筈もなく、呉島は俺と距離を取ったまま、八百万戦で見せた妙なポーズを取っていた。アレは確か「真空きりもみシュート」とか言う、強烈な竜巻を起こす技だ。

 

不味い。全然体が言う事を聞かねぇ。立ち上がるのもままならねぇ。八百万戦の威力を見る限り、アレは氷結を使ってもソレごと俺を巻き込んで場外に追いやるだろう。

 

駄目だ。勝てねぇ。

 

確かに強いとは思っていたが、ここまでとは思わなかった。初めて意識する明確な敗北。それを何故か冷静な心ですんなりと受け入れられた。氷の様に冷たく、圧倒的な力に屈する自分を見つめる事が出来ていた。

 

だけど……どうしてだ?

 

どうして、この目は呉島を見ている?

 

どうして、この足は立ち上がろうとする?

 

どうして、この手は“個性”を使おうとしている?

 

どうして、この頭は呉島を倒す為の策を考え続けている?

 

『焦凍……、焦凍よ……』

 

「?」

 

……何だ? とうとう、幻聴まで聞こえてきたか?

 

『この……薄情者め……。そう冷たくするな……』

 

「……ッッ!!」

 

!? 何だ!? 何だコレはッ!? 呉島と俺の間に、透明で巨大で、コスチュームを着ている……俺がいるッッ!!!

 

『フフフ……俺が分からないか? 俺はお前だよ、焦凍』

 

何ッ!? お前が俺だとッ!?

 

『そうだ。「お前が目指すお前」、「お前がなりたいお前」つまりは……「轟焦凍そのもの」だ』

 

俺がなりたい俺……? つまりは俺の……『完成形』……!?

 

『生憎だったな……。父への憎悪から、母の思い出と共に封印してきたお前の思い……だが、お前が例え何を目指そうと、ソレは決してお前を離してはくれないぞ?』

 

そう語るソイツは、未だに状況が飲み込めずに混乱する俺を抱きしめ、俺の耳元で静かに、まるで幼い子供に言い聞かせるように囁いた。

 

『試されているぞ、焦凍。委ねてみろ……。「№1ヒーローになる」などと構えずに……。「自分のやっている事が正しいのか」などと気負わずに……。ただ「自分の心に身を任せる」……。そうでもしなけりゃ……、「なりたい自分になる」など、とてもとても……』

 

……委ねる? 自分の心に……身を任せる?

 

『そうだ。お前があの日、母に抱かれて生まれた思いを、何処までも疑わず。何処までも信じ切れ。何処までも……。何処までも……。何処までも……。何処までも……。何処までも……。何処までも……』

 

「SHYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

 

轟音と共に迫り来る緑色の竜巻。それを前にして俺は、無意識に左手を前に突き出した。左手から放たれた灼熱の炎が緑色の竜巻と激突し、炎の熱によってその軌道は上方に大きく反れた。

 

「VARYH!?」

 

その光景に驚愕の感情を見せる呉島。それを確認するのとほぼ同時に、俺は足元に氷を重ねる高速移動で、技を出し終わった直後の呉島の元へと一気に迫る。

 

「WURYAAAAAA!!」

 

「ッッ!!! ラァアッ!!!」

 

呉島の左フックを、両足の力を抜いた脱力によってかわして懐へ潜り込んだ後、俺は渾身の力を込めて、呉島の顎に左の炎を纏ったアッパーを叩き込んだ。

 

「オオオオオオオオオオオオオオッ!!」

 

「BAAAAHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHH!!」

 

ガキの頃からずっと言われてきた。「オールマイトを超えて、№1ヒーローになれ」と。そんなクソ親父に課せられてきた様々な訓練の中でも、特に力を入れて叩き込まれたのは、もはや虐待レベルの近接戦闘。『坊主憎けりゃ袈裟まで憎い』とはよく言ったもので、俺は左の炎と同時に、親父のバトルスタイルも心底嫌悪していた。

 

「オラァッ!!」

 

「OHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHH!!」

 

だが、今の俺が呉島を相手に繰り出し、追い詰めているのは、その嫌悪した左の炎と近接格闘術。それに、右の氷結による妨害と高速移動が加わった『“個性”と体術の融合』。

そんな、これまでに俺が見せてきた“個性”に頼った中・遠距離攻撃主体のバトルスタイルとはまるで異なる攻撃に、呉島は苦悶の声を上げていた。

 

「SYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

 

「焦凍ォ~~~~~~!! そこだッ!! 焦凍ッ!! そうだ!! 良いぞッ!! 俺の全てを持って、俺を超えてゆけェエエエエエエエッ!! 焦凍ォオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!」

 

呉島の奇声と、繰り出すパンチの風切り音。それに前髪が拳圧で焼けている音に混じって、クソ親父の声が聞こえる。少し前までは心底煩わしかったソレが、不思議と全く気にならなかった。

 

――君のッ!! 力じゃないかッッ!!!――

 

……そうだ。例え、自分が望まない形で手に入れた力なのだとしても、それは紛れもなく……俺自身の力だったッッ!!!

 

「ラァアアアッ!!」

 

「ABAAAAAVWWWWWHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHH!!」

 

緑谷の言葉を心で理解した刹那、反撃を試みる呉島の水月に左拳を叩き込むと同時に、紅蓮の炎が呉島の全身を包み込んだ

 

 

○○○

 

 

新の蹴りで大きく吹き飛ばされ、絶体絶命だった轟が見せる驚異の逆転劇に、スタジアムは大歓声に震えていた。その中でも特に轟の行動に驚いていたのは、普段の轟のバトルスタイルを知るA組の面々に他ならない。

普段から感情を表に出さず、常に冷静な態度をとっているあの轟が声を荒げ、感情を剥き出しにして戦うその姿は、彼らの知らない轟だった。

 

「轟が『接近戦【インファイト】』……!?」

 

「轟のヤツ、あんな事も出来たのか!?」

 

「……出来てもおかしくないと思うよ。エンデヴァーは近接格闘がメインのヒーローだから、轟君にそれを教えていたとしても、全然おかしい事は無いよ」

 

「確かにそうだな。しかし盲点だったぜ。懐に飛び込んでの超接近戦が、呉島の弱点とはな……」

 

「圧倒的なパワーや、それに伴うプレッシャーに屈すること無く、勇敢に前に出た者だけが勝利に近づける……その典型的な例ですわね」

 

彼等の言う通り、轟の“個性”と格闘術のコンビネーションは、確実に新を追い込んでいた。もっとも新もやられてばかりではない。全身に纏わり付く炎を、渾身の踏みつけによって生まれる風圧で吹き飛ばし、轟に一発逆転の威力を誇る拳を迷い無く振るっている。

だが、その体は至る所が火傷による水ぶくれや焦げがあり、明らかに重大なダメージを負っている事が目に見えていた。

 

「CWULAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

 

「オオオオオオッ!!」

 

「GUWOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!」

 

そして、再び行われる新と轟の超接近戦。そう何度もやられるかと、新は懐に潜り込んだ轟にアッパーを繰り出そうとするが、轟は新の二の腕に触れて氷結を発動。アッパーが放たれる前に氷で腕と体をくっつけて身動きを封じ、そこから体を縦に回転させ、炎を纏った左拳で新の顎をかち上げる。

 

「流石……流石、轟だな……」

 

「うむ。確かに予想外ではあるな。まさか半分こ怪人Wが、王を相手にここまで“食い下がる”とは……」

 

「「「「「「「「「「……は?」」」」」」」」」」

 

ちゃっかりと一緒に試合を観戦しつつ、そう語るイナゴ怪人ストロンガーの声色は自信に満ちていた。だが、その言葉に同意する者は皆無だった。

 

「いや、言葉の使い方が間違ってねぇか? そりゃあ、確かに打撃は効いてねぇかも知れねぇが、どう見たって圧勝だろ?」

 

「……アレがか?」

 

「そうッ!」

 

「……いや、それは無い」

 

「嘘をつけ、嘘を!!」

 

「お前、今の自分の体見てみ!? ボロッボロじゃねーか!! 説得力の欠片も無ぇよ!!」

 

そう。上鳴や瀬呂の言う通り、イナゴ怪人ストロンガーの肉体は既に所々が崩壊しており、下半身に至っては完全に消滅する一歩手前だ。イナゴ怪人の特性を知る彼等からすれば、どう見ても虚勢以外の何物でも無い。

 

「呉島の“個性”は『バッタ』で、高温や低温や弱点なんだろ!? あの炎で一体、どんだけデカいダメージを喰らってるか、本当は分かってんだろ!? その体ならよぉ!!」

 

「……お前達がそう思うのも無理はない。お前達は王の“個性”の真価を知らないのだから」

 

「呉島さんの“個性”の真価……ですか?」

 

「そうだ。例えば、卵は何故その身を殻に包んだのか? それは言わずもがな、『脆弱な身を守るために、強力な殻を願ったから』に他ならぬ。『遙か頭上に茂る木の葉を食べたい』と願ったキリンが首を伸ばし、象が鼻を伸ばした様に。

彼等生物達が生まれ持つ恐るべき執念と、それによってもたらされる驚くべき進化の数々。それと同等の力を……『限りなく進化する力』を王はその身に秘めている。“個性”を含めた様々なエネルギーを吸収し、その上で『今よりも強くなりたい』、『絶対に負けられない』と言った強い願いを持つ事がトリガーとなってな。

此処で問題となるのは、進化し進歩すればコレまでに無い新しい能力を獲得する事が出来るが、それと同時に何らかのデメリットもまた発生する……と言う事だ」

 

「デメリット?」

 

「例えば、王が怪人トリップギア・ターボの『エンジン』のエネルギーを吸収して獲得した『アクセルフォーム』。この時、王は約10秒の間、音を置き去りにする程の加速を可能とするが、この時当然空気の抵抗を受けながら、前へ前へと突き進んでいる。加速に比例して空気の抵抗は強まり、時速1225㎞を超える瞬間、王の肉体は空気の壁を突破する。

この時の現象は『ソニックブーム』と呼ばれ、肉眼でも目撃でき、写真撮影にも成功しているが、この空気の壁を越える際の負担は凄まじく、金属製の航空機でも耐え切れずに、悲惨な結果を迎えたケースも数多く報告されている。

それでも王が音速を超えた超高速移動を可能にしているのは、一重に王の肉体が持つ驚異的な耐久力と、『超回復能力』による自己回復が、空気の壁によって起こる破壊を上回っているからに他ならん。つまり約10秒と言う活動限界は、王の肉体が負担に耐えられるギリギリのラインであり、それ以上は王の肉体が耐えきれず死んでしまう……と言う事だ」

 

「死ぬ!?」

 

「ケロ……」

 

「……それほどのモノなのか。空気の壁とは」

 

「うむ。もっとも、正気とは思えぬ訓練を経て、ダイヤモンドの様に鍛え上げられた王の肉体ならば、大抵の負担に耐える事が出来る。しかし、それでも王が克服する事が出来ない、超える事が出来ないとされる領域がある。『温度』だ」

 

「「「「「「「「「「温度?」」」」」」」」」」

 

「言い換えるならば『炎』や『氷』。王の“個性”は『バッタ』であり、高温ならば700-800度の火炎に約5分間しか耐えることが出来ず、低温においては、100%の力を発揮できる下限が零下10度であると言う、二つの弱点を抱えている。

理論上では『炎』や『氷』に関する能力も、王は獲得する事が出来る。しかし、そうなった場合、王の肉体は能力の副作用に耐えきれずに自壊してしまう事を、他ならぬ王の肉体が知っているのだ。半分こ怪人Wが、氷結を使い続けると体温が低下していき、次第にその威力が減退していく様に、『炎』ならばソレに伴う高熱で、『氷』ならばソレに伴う低温で、王は死んでしまうだろう」

 

「また死ぬ話ッ!!」

 

「ちょ、ちょっと待ってよ。それじゃあ、やっぱり轟は呉島の天敵って言えるんじゃないの?」

 

「そうだぜ。普通に戦っても、進化しても無理だってんなら、どう足掻いたって呉島に勝ち目は無いぜ?」

 

「確かに、一見すれば『炎』と『氷』の二つの能力を操る半分こ怪人Wの“個性”は、王を必ず倒すことが出来る無敵の能力だと思われるが……私は言った筈だ。王は『炎や氷も獲得する事は出来る』と」

 

A組の面々の多くは、イナゴ怪人ストロンガー言いたい事がまるで分からなかった。まともに戦っても勝ち目は薄く、仮に進化してそれらの能力を獲得しても、その能力に体が耐えきれず自滅する。だとするならば、やはり新の敗北は確定しているとしか思えなかった。

 

しかし、この中で新の幼馴染みであり、実際に轟と戦った出久。そして新に対して挑戦し続け、轟の“個性”を冷静に分析していた勝己の二人は気づいてしまった。イナゴ怪人ストロンガーの言わんとする事を。

 

「………」

 

「も、もしかして、あっちゃんは……」

 

「そうだ! ガキ大将も! 不良も! チンピラも! ヴィランも! ヒーローも! ロボも! エリートも! 天才も! 改人も! そのどれも!! 王の魂を目覚めさせるには至らなかった!!

だが……ッ、あの男なら出来るッ!! 相反する力を備えた、弱点無き能力を持つあの男ならッ!!  決して至れぬと諦めた領域へッ!! 『全てを持って生まれた』あの男とならばッッ、超えられるッッ!!!」

 

その言葉を最後に、大量のミュータントバッタの死骸を遺して、イナゴ怪人ストロンガーは消滅した。

 

「……結局、アイツは一体、何が言いたかったんだ?」

 

「察しろ、アホ。まあ、面白ぇモンが見れそうだってのは確かだ」

 

イナゴ怪人ストロンガーの言う事が全く理解できなかった切島に対し、凶悪な笑みを浮かべながら答えた勝己を見て、A組の面々は思いっきり引いた。

 

 

○○○

 

 

新と轟による戦いの天秤は、轟が封印していた左の炎を再び解放した事で、新から轟の方へと一気に傾いていた。

 

「シィッ!!」

 

「AAAAAAOHHHHYHHWAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

 

炎を纏った左足の金的。そこから水月へ右足をめり込ませると同時に氷結を発動、そして水月を踏み台にして肩へ駆け上がり、右の膝蹴りを顎に叩き込んだ後、跳び上がって炎を纏った左の肘を重力と体重を乗せて顔面に叩き込み、新からダウンを取る。

このSFチックな離れ業を使用した轟を見て、観客席ではエンデヴァーが周囲の事など完全に無視し、物凄い興奮状態で絶叫していた。

 

「焦凍ォオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!! 良いぞッ、焦凍ォオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!! そうだッ!! 左の“力”を使えばッ、お前は必ず№1になれるのだぁああああああああああああああああああああああああああッッ!!」

 

「「「「「「「「「「………」」」」」」」」」

 

ハッキリ言って、エンデヴァーの声援はかなり五月蠅かった。しかし、相手が相手なので、周囲にいる観客達は何も言えず、唯々黙ってそれを聞いていた。

 

「WAKAKA~~~!! NUAHHAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

 

「シィヤァアッッ!!」

 

一方、轟にダウンを取られるも、すぐに炎を振り払って立ち上がる新。しかし、炎によって既に背中のマフラー状の羽根は完全に燃え尽き、体にも決して無視することの出来ないダメージが蓄積されている。

しかし、それでも戦いを止めない新に、正中線を走る四点へ高速の連撃が炸裂し、更に止めと言わんばかりに炎が襲った。

 

「せ……ッ、正中線四連突ッ!!」

 

「あんなモン、ゲームでしか見た事ねぇ!!」

 

「(勝ったッッ!!!)」

 

「GUGWAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

 

エンデヴァーが轟の勝利を確信した瞬間、その身を燃やしながら新が轟の右足を両手で掴むと、何かが破裂する様な音が聞こえた。その破裂音は轟の右足から発せられ、轟の右足を見るとジャージが破れており、更に夥しい量の出血が見られた。

 

『いッッ、痛ッた~~~~~~~~~~~~~~~~~ッッ!! 呉島選手ッ、轟選手の右足を上下から握りッ、逃げ場を失った血液を圧縮して内側から破壊ッ!! 単純にして強力ッ!! 束ねたトランプの一部を引き千切る超握力をして、初めて為し得る絶技「握撃」だ~~~~~~~~~~ッッ!!』

 

『「技」って呼べるような代物じゃないな。正に「力技」か』

 

「~~~~ッッ!! 痛ッてぇ……ッ!!」

 

「UUUUUUUU!! VUUUU、AAAAAAAAAA……」

 

『ああッ!! しかし、呉島選手のダメージも深刻だッ!! そうですッ!! 急所に攻撃を食らい続け、超高温の炎をまともに浴び続けていたのだから、当然と言えましょう!!』

 

「……ミッドナイト。これ以上は流石に不味いのでは? 二人とも戦闘の続行が可能とは思えませんし、幾らリカバリーガールがいるとは言えこのまま続ければ、場合によっては二人とも再起不能になりかねないのでは?」

 

「………」

 

轟がジャージの上着を脱いで、右足に巻きつける事で止血を施し、新は身を焼く炎を踏みつけによる風圧で掻き消すが、全身がもはや黒焦げの状態だった。

そんな二人を見て、判断に困っていたのはミッドナイトとセメントスの二人。お互いに片膝を突いて対峙する両者に、それぞれ限界が近づいている事は明らかであり、確かに試合を止めるなら今だろう。

 

「……両者ダウンと見なし、カウントを取りますッ!! 10カウントの内に、立ち上がった方が、この試合の勝者ですッ!! 1! 2!」

 

「チャンスだ!! 此処で決めろ、轟ぃい~~~~~~~~~ッ!!」

 

「轟ィ~~~!! 根性見せろぉお~~~~~~~~~!!」

 

「轟ィ~~~~ッ!! 正義は勝ぁあ~~~~~~~~~つッ!!!」

 

「焦凍ォオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!! 立てッ、立つんだ焦凍ォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!」

 

『………(合理的に見れば、攻撃動作が「握るだけ」の呉島の攻撃は、相手にとってかなり厄介で有効なモノだ。だが、世間は元よりヒーローだって、あんな風に相手が凄惨な状態になる技は好まんし、好まれん。観客のこの反応も無理はないが……少しは呉島を応援する声があっても良いと思うんだがな……)』

 

「ぐ……ッ、つぅうう……」

 

「XEUUU……」

 

「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!! そうだッ!! 焦凍ォオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!! 今こそ俺の野望をッ、お前が果たすのだぁああああああああああああああああああああああああああああッッ!! 焦凍ォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!」

 

轟の勝利を期待して会場のボルテージが際限なく上がっていき、相澤がその様子を冷ややかな眼差しで見つめる中、轟はゆっくりと立ち上がろうとしていた。それと同時に、片膝を突いて立ち上がる様子のない新を見て、自身の野望と悲願が息子の手によって成就される事を確信し、歓喜の雄叫びを上げるエンデヴァー。

 

実際、幾度となく炎熱に晒され、蝕まれた新の肉体の損傷は激しく、体がまるで言う事を聞かなかった。

会場の全てが轟の勝利を願い、自分の敗北を願っているのではないかと思われる程の大声援の中で、右足を破壊されても立ち上がろうとする轟を見て、「やれるだけの事はやった」と新が半ば試合を諦め、心が折れようとした……その時である。

 

「立てやッッ!!」

 

「負けるなッ!! 頑張れッ!!」

 

「「あっちゃんッ/シンッ!!!」」

 

「!! AAAAAAAAAAAA……!!」

 

地鳴りのような轟コールの中、新は確かに幼馴染み二人が自分に向けた応援の声を聞いた。そのたった二つの声援を糧にして、新は気力を振り絞り、両足にありったけの力を入れた。

 

「ぐぅう……」

 

「QUAAAA……」

 

「8! ……試合、続行ッ!!」

 

『終わらないッ!! まだ二人の戦いはッ、二人の夢は終わらないッ!! それらを終わらせる事が出来るのは、たった二人ッ!! 呉島新と轟焦凍ッ!! どちらかが敗北を認めた時ッッ!! そしてどちらかがッッ、動けなくなった時のみだァアーーーーーーーーーーーーーーーーッッ!!』

 

『いや、場外や審判の止めがあるだろ』

 

再び相対する新と轟。流石に次の攻撃でどちらかが、最悪の場合は両者が倒れるだろうと、ミッドナイトとセメントスが予想し、何時でも試合を止める事が出来る様にそれぞれが準備をしたその時、不思議な事が起こった。

 

「AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA、GIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIII、TOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!」

 

新の謎の雄叫びに呼応するかの様に、新の臍に存在する宝玉のような部分と、赤い複眼が黄色く輝きだした次の瞬間、新の全身から紫色の炎が噴き出し、その身を余す事無く包み込んだ。

 

「!? な、何だ!?」

 

「ククク……エンデヴァーよ。貴様の息子が……強くしてしまったぞ?」

 

「!? どう言う事だ!?」

 

新に起こった謎の現象に困惑するエンデヴァー。そこに一人の怪人が背後からゆっくりと近づいて、不敵な笑みを浮かべながら話しかけた。

その怪人の名は、イナゴ怪人1号。彼は「エンデヴァーの怨みを買いたくない」と言う、主の願いを叶える為、この場に馳せ参上したのだ。

 

「『爆破』、『蛙』、『透明』、『硬化』、『エンジン』、『無重力』……この世には様々な“個性”が存在するが、“個性”が身体能力の一つである以上、“個性”には必ず上限……つまりは弱点が存在する。その点で言えば半分こ怪人Wは、氷と炎と言う真逆の性質を持った“個性”故に、『“個性”の連続使用に伴う、体温の変化による威力低下』と言う弱点を、自らの“個性”によって克服している。正に、『陰陽相まった完全なる“個性”』。メデタシ、メデタシ……と締めたい所だが、この『半冷半熱』の“体温調整が出来る”と言う能力の特性がミソだ。

王は“個性”を含めた、様々なエネルギーを吸収して進化する事が出来る。しかし、王が『炎』や『氷』の能力を獲得すれば、その副作用によって肉体の崩壊による死は免れない。それ故に、王はその力を手に入れる事が出来なかった。しかし、『“肉体の崩壊を防ぐ事が出来る特性”が能力そのものに組み込まれている』。そんな“個性”のエネルギーを吸収したならば、王は――」

 

「WOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!」

 

「更なる段階の扉を開く事になるだろう」

 

「……HAAAAA!!!」

 

気合いと共に紫炎を振り払い、再び観客達の前に現われた新の姿は、先程までの筋骨隆々とした姿の面影を残しつつも、明らかに先程とは異なっていた。

上半身の筋肉が一回りばかり大きくなり、濃い緑色だった体色は赤みを帯びた紫へと変わり、胸部と両肩にはひび割れた鎧の様な白銀の外骨格を纏い、その鎧を走る亀裂からは紫色の炎が絶えず噴出していた。

 

「何だ貴様……その姿は一体何だ、呉島新ぁあああああああああああああああッ!!」

 

『アレは……』

 

『フフフフフ、ハハハハハハハハハハッ!! 「究極の怪人」とはッ! あらゆる怪人の力を吸収し、全ての怪人の力を超越するッ!! そして遂に王はッ! あのッ! あの忌々しい! 遂に……ッ、遂に『温度』を克服したッッ!!

王は今、正に無敵になったッ!! もはや王に弱点は存在しないッ!! 地獄の様な灼熱の業火もッ、空気をも凍らせる絶対零度も通用しないッ!! 「究極の怪人【アルティミット・クリーチャー】」呉島新の誕生だぁああーーーーーーーーーーーーーッッ!!!』

 

「ククク……皮肉なモノだな、エンデヴァー。確かに貴様の息子は、貴様の上位互換と言える力の持ち主だ。だが、貴様の上位互換であるが故に、王を強くしてしまったのだ。

仮にヤツの“個性”が『炎』、或いは『氷』だけであったならば、少なくともこうはならなかっただろう」

 

「なん……だと……ッッ!!」

 

エンデヴァーはイナゴ怪人1号の言葉に耳を疑いながらも、目の前で起こった出来事を純然たる事実として受け入れざるを得なかった。

息子が左の炎と格闘術を使い始めた時、確かに息子の方に分があった。だが、新は息子のその力を余すこと無く吸収し、進化と呼ぶべきレベルアップを恐るべき速度でやってのけた。息子が持つ『自分の完全なる上位互換』たる能力が、新に宿っていた潜在能力を引き出し、全てを覚醒させてしまったのだ。

 

その覚醒した姿は、正に『怪物』と言う言葉以外に形容できるモノは無く、それを目の当たりにしたエンデヴァーの胸中に飛来したのは、オールマイトの背中を見る度に幾度となく感じてきた「もはや手は届くまい」と言う絶望。

そして自分が野望を果たすために費やし、数十年という歳月によって築き上げて来た「見えない何か」が、無残にも崩れ去る音が、耳ではなく心から聞こえていた。

 

「~~~~~~~~~~ッッッ!!! おのれ、オールマイトォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!」

 

「エンデヴァー。絶叫するのは勝手だが、まだ試合は終わっていない。見ろ」

 

イナゴ怪人1号が指を指す先には、後方に大きくジャンプして轟から距離を取った新が、場外ギリギリのラインまで下がり、地に伏せて轟を真っ直ぐに睨み付けていた。

 

「!! あの構えは……」

 

「無論覚えていよう。脚部の変形こそ見られないが、予選の『障害物競走』において妨害された……前へ進む以外の全てを排除したッ、あの突進体勢だッ!!」

 

モニター越しではなく、実際に目にした新のソレは、やはり見たことも無い程の前傾姿勢。その体勢は「短距離走のクラウチングスタート」と言うより、「猛獣の戦闘態勢」と言ったイメージを、エンデヴァーのみならず、観客全員に抱かせた。

 

「空手、ボクシング、ムエタイ、中国拳法、柔術……様々な土地と文化により発展し、連綿と受け継がれてきた様々な格闘技。その体系は唯々見事と言うしかないが、それらの技術の矛先は詰まるところ――対ッ、人間ッ! 対ッッ、二足歩行ッッッ!!!」

 

「ッッ!!」

 

「踏み出せるか、半分こ怪人……ッッ、更に向こうへッッッ!!!」

 

イナゴ怪人1号の言葉を聞きながら、ステージ上で新と対峙する息子をこれでもかと凝視するエンデヴァー。その額からは一筋の汗が流れ、髭の炎に触れて蒸発した。

 

 

○○○

 

 

新の更なる進化と、異様なファイティングポーズに場内が騒然とする中、それらを見たA組の面々は全く同じ事を思っていた。「この戦いは此処で決着を見る」と……。

 

「もう……格闘技は通用しねぇな」

 

「それは……、轟も分かってるとは思うケド……」

 

「……いや、チョット待て! オイラ今、スゲェ事に気づいたぞ! 呉島のヤツ負けるぜ!」

 

「どう言う事、峰田ちゃん?」

 

「避けりゃ良いんだよ! あのスピードで突っ込んだら急には止まれねぇから、呉島のヤツ、場外に吹っ飛ぶぜ!」

 

峰田の発言に、クラスの半数以上が「その手が有ったか」と言う顔をした。確かにあの弾丸の様な速度で繰り出されるタックルは驚異だが、その強大な力こそが逆に弱点となっているのである。

 

――しかし、この発言に異を唱える者達がいた。

 

「避ける訳ねぇだろボケが」

 

「ああ、避ける訳がねぇ」

 

「ハアッ!? 何でだよ!?」

 

「轟の野郎は仮にもシンに『勝つ』って宣戦布告しやがった。そんなヤツが自爆の場外なんて勝ち方を選ぶ訳がねぇ。必ず、シンを正面から迎え撃つ筈だ」

 

「だな。そんなのプライドが許さねぇよ。漢としてのプライドがな」

 

「……デク君はどう思う?」

 

「……多分、かっちゃんや切島君の言う通り、轟君はあっちゃんと正面からぶつかると思う。それに避ければ良いって言うけど、今の轟君があっちゃんのアレをかわすのは多分無理だ。轟君は右足を負傷して機敏には動けないし、あっちゃんの性格を考えると、轟君の攻撃……氷か炎のどちらが来ても、攻撃の瞬間には必ず一瞬の隙が出来るから、それを狙って突っ込んでいくと思う」

 

「なるほど。つまり、呉島君の狙いはカウンターか……」

 

「真っ正面から突撃するのは、カウンターって言うのかしら?」

 

出久や勝己達の予想通り、轟は新に対して回避では無く迎撃を選択していた。全身全霊の氷と炎。この二つを持って、新を正面から打ち砕くと。

 

「GUUUUU……」

 

「……フッ!!」

 

そして、遂に轟が最大威力の氷結攻撃を、右手を大きく振り上げながら繰り出した刹那、新の肉体は文字通り発火。

紫炎を全身に纏い、その五体が一筋の閃光と化した新は、入学時の『“個性”把握テスト』で見せたあの時の――。予選の『障害物競走』で使ったあの時の――。

 

あの時の『全力【マックス】』を超えた『全力【マックス】』を――。

 

「E――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――!!!」

 

運命に選ばれた稀代の天才、轟焦凍にぶつけていた。

 

「……ッ!!」

 

際限なく生み出され、押し寄せる氷を容易く砕きながら、凄まじい勢いで真っ直ぐに突っ込んで来る新の存在を、轟は氷が砕ける音でその距離を察知し、左の炎を使うタイミングを見計らう。

 

「ハアッッ!!!」

 

そして左手より繰り出される、後先を顧みない炎熱攻撃。それによって二回戦における出久との戦い以上の猛烈な爆風が、スタジアムに巻き起こった。

セメントスの判断により幾重もの防御壁が展開されたものの、爆風の破壊力はセメントスの想像を超えており、爆風は防御壁の全てを完全に粉砕した。

 

「またコレかよォオオオオオオオオオオオ!!」

 

「いや、コレさっきより凄くない!?」

 

「どっちだ!? 轟か!? 呉島か!?」

 

セメントの粉塵と水蒸気が混ざり合い、二人の戦いの結末がどうなったのか、第三者からはまるで分からない。しかし、ステージの中央付近にぼんやりと浮かび上がる一人分の人影が、この戦いの勝利者が決まった事を教えていた。

 

この戦いの結末をその目に焼き付けようと、観客達が必死に目をこらす中、視界は徐々に晴れていき、戦いのステージに立っていたのは――。

 

「FUUUUUUUUUU……」

 

紫炎を操る能力を獲得した、『怪人バッタ男』と言う名の怪物。その視線の先には、轟が壁にめり込む形で場外に吹き飛ばされており、その決着の光景はまるで「緑谷VS轟」戦を逆転させた様であった。

 

「と、轟君場外! 呉島君の勝利ッ!!」

 

『勝負ありッッ!!! 轟焦凍、敗れるッ!!! 栄光と! 才能と! 奇跡によって彩られたエリートがッ!! 呉島新の持つ、恐るべき潜在能力の前に敗れ去ったのですッッ!!!』

 

かくして、新は轟に勝利した。しかし、それは一人のヒーローにとって、更なる混乱の時代の幕開けでもあった。

 

「おのれ、オールマイトォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!! お前は一体、何なんだぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッ!!!」

 

スタジアムに響き渡るエンデヴァーの魂の叫びに、誰もがこう思った。

 

――「いや、お前は一体、何を言っているんだ?」……と。




キャラクタァ~紹介&解説

呉島新
 強大な力を持つ人間の脅迫は、確定した未来だと言う事がワカッている怪人。取り敢えず割と板挟みだった準決勝に勝利し、決勝戦の切符をゲット。相変わらず体育祭で活躍しまくってる(意味深)割には、全然ファンがついていない。
 今回の轟戦によって、唯一絶対の弱点である「温度」を遂に克服。もはや『究極生物【アルティミット・シイング】』並に手に負えないレベルの強化を果たしたものの、下記に紹介する通り実は弱点だらけなので、『究極の生命体』には正直言って程遠い。

轟焦凍
 養子ではなく実子である、№2ヒーローの『最終兵器【リーサルウェポン】』。原作における『雄英体育祭』では終始シリアスなキャラだが、この世界では彼も立派な刃牙ネタの犠牲者となり、烈海王の不思議体験をする事となる。
 シンさんの天敵……と思いきや、実は『エイジャの赤石を嵌め込んだ石仮面』的な存在でもあり、彼のお陰でシンさんは弱点を克服。最終的には強化された炎の弾丸タックルによって準決勝敗退。それでも人気と評価はシンさんより遙かに上である。

エンデヴァー
 人生の絶頂から、一気に奈落の底に叩き落された№2ヒーロー。「信じて送り出した『自分の上位互換』が、『オールマイトの上位互換』の弱点を克服させた挙げ句、大幅に強化させる事になってしまった」と言う皮肉な結末(勘違い)によって、元からヤバイ精神状態が更にヤバい事に……。
 そして、『ディケイド』のプリキュア大好きおじさんの様に、「おのれ、オールマイト」が口癖になってしまったが、別にヒーローから(自称)予言者にジョブチェンジした訳では無いので、「オールマイトは世界を破壊する」と言った、ネガティブキャンペーンをやったりはしない。

緑谷出久&爆豪勝己
 シンさんの幼馴染みーズ。それぞれのシンさんに対する思惑は違うものの、その恐るべき強さが憧れである事は共通している。彼等の声援がなければ、シンさんは立ち上がることが出来なかっただろう。
 ちなみに、シンさんはそんな二人に対して感謝の気持ちを叫んでいたのだが、シンさんの言葉が理解出来ない人間の耳には「アァーギィートォー!!」と叫んでいる様にしか聞こない。まあ、この二人はちゃんと理解出来ていたから問題は無いだろう

オールマイト
 何が何だか知らない内に、エンデヴァーとの確執が更に根深いモノになってしまった№1ヒーロー。しかし、シンさんに対して行った昭和ライダー的トレーニングによって、シンさんはフォームチェンジを可能とする肉体を手に入れ、瀕死のシンさんに血を与えた事で『ワン・フォー・オール』の“残り火”を吸収したシンさんが「マッスルフォーム」を獲得した事を考えると、無意識ながらも狙い澄ました様にピンポイントでエンデヴァーの精神を攻撃していた……とも言える。本人にそうした意図も悪気も一切無いんだけど、そこが逆に厄介な所である。

イナゴ怪人(1号・ストロンガー)
 今回はシンさんの「エンデヴァーの怨みを買いたくない」と言う欲望を察知し、シンさんの能力の解説と、エンデヴァーのヘイトコントロールを担当。進化したシンさんを見たイナゴ怪人1号は、某新世界の神を彷彿とさせる怪人スマイルで「計画通り」と思っていたりする。しかし、流石にオールマイトにエンデヴァーの怨みの矛先が向けられた事については、内心ほんの少しだけ「悪かった」と思っている。




エキサイトフォームの部分使用
 マッスル化一つ分相当の、怒りのエネルギーによって使用。元ネタは原作11巻の「対オール・フォー・ワン戦」におけるオールマイトだが、使用者がアナザーシンさんである所為か、オールマイトよりもむしろオール・フォー・ワンみたいに見える。

轟の戦闘スタイル
 幼少時の回想や「オールマイトを超える」と言うエンデヴァーの目的を考えると、恐らくエンデヴァーから近接格闘も叩き込まれていると予想され、エンデヴァーが目的とした轟の戦闘スタイルは、『全局面に対応できるオールマイティな万能型』であると思われる。
 この推測を元にして今回の「シンさんVS轟」戦を書いた訳だが、そう考えると原作において轟が語った「親父を完全否定する」と言う言葉に、別の意味でトンデモナイ説得力が生まれる事になる訳で……ちょっと悲しい気もするなぁ。

握撃
 桁外れの握力にモノを言わせて、相手の四肢を挟み潰すと言う、文字通りの力技。元々は死柄木を「殺すこと無く再起不能にする」目的で開発した。威力はある程度まで調節可能で、今回の轟戦は皮膚が弾け飛ぶレベルだったが、フルパワーでやれば相手の手足を骨だけにする事も出来る。
 元ネタは『刃牙シリーズ』に登場する純正喧嘩師こと花山薫の必殺技。此方も威力の調節が出来るのか、相手の肉体や技を掛ける箇所によって威力が変動するのか、「対スペック戦」では腕の骨が見える程のダメージを与えたのに対し、「対克己戦」では試合の大局には特に影響していなかった。
 今回の話は「対克己戦」の方を参考にしたが、やはり見た目が凄惨な事になる上、相手がアイドル級のイケメンと言う事で、シンさんに対して観客達は非難轟々。「自分も割と凄い怪我をしているのに、この差は一体……」と、シンさんは「イケメンは何をしても許される」と言う、社会のルールを身をもって知る。

アナザーシンさん・バーニングフォーム
 アナザーシンさんの強化形態。燃焼と冷却を備える轟が相手だからこそ獲得出来た代物であり、「左で燃やし、右で冷やす」という『半冷半熱』は、「体の外側を燃やし、内側を冷やす」と言う形に変質している。弱点を克服し、一見すると無敵の様に見えるが、只でさえ消耗が激しいマッスルフォームから更なる進化を遂げた所為で、燃費の悪さが更に悪化している。
 そして、原作でオールマイトが語った、「半冷半熱の上に超パワーを持ったスーパーヒーロー」を一つの形として登場させる事となったが、その見た目はやはりヒーローと言うより怪人である。
 元ネタは『HERO SAGA』に登場する「アナザーアギト・バーニングフォーム」だが、変身時は『響鬼』のヒビキ変身を参考にしている。

究極怪人【アルティミット・クリーチャー】
 シンさんが「半冷半熱」のエネルギーによって強化変身した『究極怪人』とはッ!?
 
 ひとつ 無敵なり!

 ふたつ 決して衰えず!
 
 みっつ 決して進化が止まる事は無い!
 
 よっつ あらゆる怪人のエネルギーを吸収し、しかもその能力を上回る!
 
 そしてその形は、古来より日本に伝わる妖怪の様な、恐ろしさを基本形とする!!

 筋肉……人間体でも異形と化すまでに鍛え上げられた『打撃筋【ヒッティング・マッスル】』を持つ。

 骨格……怒りのエネルギーによって、瞬時に骨格を組み替え、2m級巨人から3m級巨人に変形可能。

 握力……握力計では計れない。その気になれば握力で石炭から人工ダイヤを作り出す事が出来るかも。

 ジャンプ力……垂直跳びなら最大114m。幅跳びなら最大232m。これだけは確実に『究極生物』を上回る。

 触覚……超高感度センサー。形態によって役目が異なり、緑色の電撃が出たり、余剰エネルギーを放出したりする。

 好きな食べ物……美味くて栄養の有るモノ。美味い物を食うのは正義である(下手をうつと数時間で餓死する)。

 SEX……必要あり。子供の数は多いにこしたことはない。ひとりぼっちは寂しいからだ。従って、究極怪人に子孫や仲間は要る。

黒霧「も、もう為す術は無いのかッ!? 我々ヴィランは、怪人の、怪人による、怪人社会の供物として、滅びるしかないのかッ!?」
死柄木「逃げるんだよォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!」



後書き

これにて2017年の投稿は終了です。こんな作品ですが、読者の皆様の年末年始の暇つぶしにでもなれば幸いです。

それでは読者の皆様、良いお年を……。

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