怪人バッタ男 THE FIRST   作:トライアルドーパント

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二話連続投稿の二話目。

そして今回で遂に「雄英体育祭編」が完結。漸く原作5巻分が終了しましたが、この調子だと一体何時になったら『THE FIRST』の最終章である「オールマイトVSオール・フォー・ワン戦」まで行けるのだろうか……?

今回のタイトルの元ネタは、萬画版『仮面ライダーBlack』のコミックスのタイトル「魔王降臨」と、『フォーゼ』の「勝・者・決・定」から。そのままでも良かったのですが、二人の戦いの結末を考えるとこの方がしっくりくると思ったので、こんな感じにしました。

それでは、『怪人バッタ男』の世界の「雄英体育祭編」の結末をお楽しみ下さい。

2018/2/11 誤字報告より誤字を修正しました。報告ありがとうございます。

2018/2/12 誤字報告より誤字を修正しました。報告ありがとうございます。

2018/5/21 誤字報告より誤字を修正しました。毎度報告ありがとうございます。


第23話 FINAL STAGE:魔・王・決・定

酷く……混乱していた。

 

正直言ってやられたと思った。もう駄目だと思った。これは負けたと思った。ここで終わったと思った。

 

そう思っていたにも関わらず、俺はまだ負けていないし、終わってもいない。突然背中から得体の知れない触手が飛び出して、それらがセメントで出来たステージに突き刺さり、船のアンカーのように俺の体を空中で固定して場外負けを防いでいたからだ。

そして、巻き尺か電動リールの様に、触手によって俺の体はステージへ戻り、俺は再び戦いの舞台に立っている。

 

しかし、この背中の触手は一体何なんだ? 全く身に覚えが無い能力に困惑していると、相澤先生とイナゴ怪人V3の会話が聞こえてきた。

 

『何だ? 呉島にあんなモンがあるなんて聞いていないぞ?』

 

『当然だ。アレは我々が用意した秘密兵器なのだからな』

 

『秘密兵器……だと?』

 

『うむ。先日の『敵連合』襲撃事件で、我々イナゴ怪人は王の危機に馳せ参じる事が出来なかった。その点を反省し、我々はこう考えたのだ。「我々以外にも王を守護する僕が必要だ」とな。それこそ常に王に侍り、その御身を守る忠実な僕が――。そう考えた我々は様々な文献を調べ上げ、最終的にハリガネムシという寄生生物に目を付けた』

 

『ハリガネムシ? 確か、カマキリに寄生する虫だったか?』

 

『うむ。確かにハリガネムシに代表される寄生昆虫はカマキリだが、ハリガネムシはバッタ類にも寄生する。その点に注目した我々は、ミュータントバッタを用いてハリガネムシの改造……もとい、改良に着手したのだ』

 

『……おい、チョット待て、お前等まさか……』

 

『そのまさかよ。夥しい数の実験と失敗を繰り返し、我々は遂に完成させたのだ。文字通り、常に王の御身に寄り添い、王が危機に瀕した際には我が身を犠牲にしてでも立ち向かう忠実なる僕――「ミュータントハリガネムシ」をッ!!』

 

『……つまり、呉島はソレを喰ったって訳か』

 

『うむ。一回戦が終わった後に、イナゴジュースの中にミュータントハリガネムシの卵を6個混ぜて飲ませたのだ。正直に話したら絶対に飲まんからな』

 

『おい』

 

『問題ない。貴様がよく言う「合理的虚偽」と言うヤツだ。もっとも、本来ならば王の口や肛門からミュータントハリガネムシが飛び出す事になる筈なのだが……どうやら体内で孵化したミュータントハリガネムシの幼体は、王の血肉を喰らった事でDNAが超反応によりスパーク。それによって染色体構造が変化する程の進化と変異がもたらされ、最終的に「体表面に寄生する生体鎧」とでも言うべき寄生生物に落ち着いたようだな』

 

『……お前等、本当に呉島の事、大事に思ってんのか?』

 

『当然であろう! 実際に我々がミュータントハリガネムシの卵を飲ませなければ、王はここで敗北していたのだからな! 何はともあれ、爆発怪人は王に勝利する最大にして最後のチャンスを失っ――』

 

「RUWOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!」

 

俺の怒りのボルテージは、一気に頂点に達した!

 

確かに場外負けが無くなった事は助かったが、だからと言って得体の知れない寄生虫の卵を6個も飲まされた挙げ句、本来ならば「口や尻の穴から寄生虫が飛び出してくる筈だった」と言われて怒らない訳がない。

幸い、俺の血肉を喰らった事で、ミュータントハリガネムシとやらは「背中から6本の触手として飛び出る」と言う、ヴィジュアル的に何とかならないでも無い仕様の寄生生物に進化した事が不幸中の幸いと言えるが、それもあくまで結果論。イナゴ怪人共を死刑にしない理由にはならないのだ。

 

「DRYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYY!!!」

 

「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

 

「FUUUU……SYUUUAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!」

 

『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!?』

 

『ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああッッ!!!』

 

手始めに右腕のスパインカッターを伸ばし、通訳として背後に浮いていたイナゴ怪人1号の生首を真っ二つに両断すると、不本意ながらも手に入れてしまった『触手✕6』を使って実況席を襲撃。

6本の触手は強化ガラスをぶち破り、中にいるイナゴ怪人V3を一本釣りの如く引きずり出すと、俺はそのままイナゴ怪人V3を手元に引き寄せながら、二本腕から四本腕の状態に肉体を変化させ、中身のプレゼント・マイク先生に傷が付かない程度の力と、全身全霊の殺意を拳に込める。

 

そして、一発一発に腰が入った殺人……もとい殺虫パンチを、マシンガンの様に繰り出したッ!

 

「DDDDWWWWWWWRRRRYYYYYYYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!」

 

「ヒロッ!! アカッ!! すまっ!! しゅッ!! 完ッ!!」

 

俺はイナゴ怪人V3を殴った!! 容赦なく殴ったッ!! 今此処でコイツを殺さなければ、俺はイナゴ怪人達を許す事が出来ないッッ!!!

そして感じる確かな手応えに、イナゴ怪人の処刑が完了したことを確信した俺の目の前に飛び込んできたのは……意外ッ!! 重機によって破壊された大自然の如く、顔面とグラサンが滅茶苦茶になった……プレゼント・マイク先生ッ!!

 

『おぉ~~~~~~っと!! 呉島選手、「騎馬戦」においてその所行を「ヒーローに非ず」と称した、無礼で見る目の無いプレゼント・マイクを、自らの手で処刑してしまったぁ~~~~~~!!』

 

『いや、呉島が処刑しようとしたのはお前だろ。つーか、無礼な事ならお前等もしてる』

 

『何を言うかイレイザー・ヘッドよ。我らイナゴ怪人の行動に一点の曇り無し! 全てが正義だッ!!』

 

『改造した寄生虫を騙して飲ませる正義なんてあってたまるか』

 

「………」

 

ヤベェ。イナゴ怪人V3は、攻撃を受ける瞬間に取り込んでいたプレゼント・マイク先生を解放し、変わり身の術の如く身代わりにして難を逃れていた。そんな離れ業をやってのけたイナゴ怪人V3と相澤先生の会話を聞きながら、俺は全身から脂汗をかいている。

当然だろう。なにせ全国ネットで放送されているこの大舞台で、あろうことか雄英教師たるプロヒーローを半殺しにしてしまったのだ。しかも、四本腕で六本の触手が背中から生えていると言う、『バイオハザード』や『サイレントヒル』のラスボスみたいな姿で……。

 

しかし、殺って……もといやってしまった以上、もはやどうしようもない。触手を操ってプレゼント・マイク先生を場外に待機するハンソーロボの元へと送り、イナゴ怪人V3の方に目を向けると、ヤツはプレゼント・マイク先生の商売道具である指向性スピーカーを奪った挙げ句、実況席に戻ってミイラと化している相澤先生を盾にしていた。もはやこうなると、人質を取られたも同義である。

 

「MUUUUUU、GUUUURRRRUUUUUU……」

 

仕方なく四本腕から二本腕に戻し、背中の触手を全部引っ込めて、今まで静かに待っていた勝己と対峙する。……もっとも、コレが終わったらイナゴ怪人1号からストロンガーまで、少なくとも一人当たり10回は殺す。そうしておかなければ気が済まん。

 

それにしても、勝己には悪い事をした。

 

先程の攻防で、勝己は俺の弾丸タックルを真っ正面から撥ね除け、確実に俺に勝っていた。あのまま勝己の勝ちで試合を終えても俺は良かった。だがそれは、イナゴ怪人の所為で無くなってしまった。そう思うと勝己に対して申し訳ない気持ちが止まらない。

 

「もう良いか? イイよなぁ? そろそろ再開してもよぉ……」

 

「GURRRRRRR……」

 

もっとも、当の勝己は「惜しいところで優勝を逃した」と言った感じの表情をしておらず、まだまだ俺と戦う事が出来る事に歓喜しているのか、非常に好戦的で凶悪な笑みを浮かべていた。……正直、俺の憂いは全く無用のモノだったらしい。

 

「……NUUUUN、HAAAAAAAA!!」

 

気を取り直して空手の型の様な独特のポーズを取り、通常形態から「マッスルフォーム」に変化すると、即座に「真空きりもみシュート」の構えをとった。

 

「今度はソイツか……」

 

「MUNNNNN………」

 

「そうだ……そうこなくっちゃあなぁああああああっ!!」

 

歓喜の雄叫びを上げた勝己は、両掌の爆破による空中移動を使って飛び上がり、俺の真上に位置取ると、上空から俺を見下ろしながら両掌を突き出した。その両腕は肘から掌に向かって連鎖的に爆発しており、俺はそれによって勝己が何をするつもりなのかを理解した。

 

なるほど。控え室での言葉通り、「全部を上からねじ伏せる」つもり“しか”ない……と言う訳か。

 

「死ねぇえええええええええええええええええええええええええええええええッッ!!!」

 

「SHYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!」

 

ほぼ同時に、絶叫と共に放たれた勝己の最大出力の爆撃と、俺の「真空きりもみシュート」が空中で激突する。その破壊力は俺から見る限り拮抗している。……いや、拮抗していたと言うべきだった。

 

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!」

 

なんと、勝己は此処で更に絶え間なく爆破を繰り返す事によって威力を底上げし、それによって徐々に「真空きりもみシュート」が押されていくではないか。

一方で、俺には勝己の様な真似は出来ない。『騎馬戦』や『VS麗日戦』を超える爆炎と爆発の奔流を前に、「真空きりもみシュート」が破られる事を予感した俺は、この状況の打開策を考える。

 

超強力念力で防ぐ? いや、このレベルの爆炎と衝撃は防ぎきれるかどうか分からない。

 

超マッスルフォームの拳圧で突破する? 駄目だ、準備する時間が足りない。

 

アクセルフォームで逃げる? それも駄目だ、爆破の範囲が広過ぎてステージ内に逃げ場が無い。

 

……いや、待て。逃げる?

 

今も――、今までも――、そしてきっとこれからも――。

 

ずっと、俺と「真っ向勝負しかしていない」この勝己から逃げる?

 

……冗談ッッッ!!!!!

 

「WOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!」

 

勝己は俺から決して逃げない。決して逃げる事はない。これは勝己がこれまで行動で証明し続けてきた絶対的な有言実行であり、俺が勝己に対して信用し、信頼する事が出来る唯一無二の事実。

 

ならば、俺も逃げない。避けない。退かない。

 

お前と真っ向から勝負してッ、そして制してみせるッッ!!!

 

俺が不退転の覚悟を決めたその時、遂に「真空きりもみシュート」をねじ伏せて、俺に迫り来る爆炎と爆発の奔流。それに対抗するべく、現時点で最強の形態と言える「バーニングマッスルフォーム」への強化変身を決意する。

 

「HAAAAAAAA……VEMVINNN!!」

 

ソレに伴って、赤い複眼は黄色く光り輝き、全身を紫色の炎が包んだ後、複数回に渡って周囲に爆炎と衝撃波が撒き散らされる。それによって俺に迫っていた勝己の攻撃は、ものの見事に相殺されていた。

 

『出たぁあああああああああああああッッ!!! 紫炎の究極怪人だぁあああああああああああああああああああッッ!!!』

 

「ッッ!! そうだッッ!! 俺の前に立つ以上ッ!! 俺に勝つ為だけにッ、頭ぁ回してやがれぇえええええええええええええええええええええッッ!!!」

 

最大出力を超えた一撃を防がれて尚、獰猛な笑みを絶やすこと無く、上空から此方に向かって高速回転しながら落下する勝己。

それに対して、俺は脇を締めながら右手を胸に引き寄せ、右拳に燃え盛る火炎の力を収束させる。それと同時に、ある疑問の答えを考えていた。

 

俺が先程『バーニングマッスルフォーム』に強化変身した際、全身から紫の炎が出たのは良い。だが、その後で“複数回の爆炎と衝撃波”が発生していたのはどう言う事か? その答えは恐らく……。

 

「『榴弾砲着弾【ハウザー・インパクト】』ッッ!!!」

 

「りゅう……だん……?」

 

「FUUUUUUUU……」

 

「『りゅうだんほう・ちゃくだん』だとォーーーーーーーッ!!」

 

「WOOORYYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!」

 

最大火力の『爆破』に回転と勢いを加え、更に至近距離から放たれたソレは、俺の背後に首だけの状態で復活したイナゴ怪人1号を一瞬で葬ったが、俺はそれを真っ正面から受け止め、紫炎を纏った右拳をカウンターぎみに勝己の腹に叩き込んだ。

最大奥義を使った直後で隙だらけになった一瞬を狙った事が功を奏し、無防備な所で良いのを貰った勝己は盛大に吹っ飛び、ステージを転がっていく。

 

「ッッ!! まだだ……。まだまだぁ……ッ!!」

 

恐らく勝己が現時点で使える最大最強の攻撃。それを受けきられて尚、勝己の目は爛々と輝いており、全く諦めていないのが手に取る様に分かる。そして、勝己が口元を拭って立ち上がろうとしたその時、不思議な事が起こった

勝己の腹部……具体的には俺が拳を叩き込んだ部分が青紫色に発光したかと思うと、次の瞬間その部分が爆発を起こしたのだ。

 

「ガハァ……ッッ!! コレ……ッ、は……ッッ!!!」

 

「そぉおおおおおおおおおおおおだッ!! 『爆破』だよォオオオオオオッ、このマヌケがァアアアアアアアアアアアアアアアッ!!

弱点を克服し、『究極怪人』となった王に出来ないと思ったのか、このウスノロめがァアアアアアアッ!! しかもその破壊力から鑑みて、フルパワーならば貴様の数百倍の強さの『爆破』を繰り出す事が出来そうだなッ!! そして、どうだ? 自分で『爆破』を受けた気分は?」

 

「グッ……、ガァアアアアアアアアアアア……ッッ!!」

 

「んん~~~~~~、実にナイスな返事だッ!!」

 

「MUUUUUUUUN……」

 

そうか……やはり正体は『爆破』だったか。

 

自分の推測が確信に変わり、白煙が上がる拳を見て、俺は新しく獲得した能力を実感しながら、ある事を考えていた。

 

強さとは「自己の意を貫き通す力」であり、「我儘を押し通す力」。

 

この世に「ヒーロー向きの“個性”」や「ヴィラン向きの“個性”」なんてモノが存在しない事を証明する為に、ヴィラン向きと揶揄された自分の“個性”を鍛え上げ、ここまで戦い、勝ち残り続けてきた。

しかし、思い起こせばソレは、そんな“個性”を持って生まれた者に対する憧れや羨望の裏返しだったのではないだろうか? 現に俺が手にしてきた能力は、その全てが「ヒーロー向き」と呼ばれるだろう“個性”に起因するモノではなかったか?

 

何と言う皮肉だ。何と言う喜劇だ。

 

強くなればなるほどに、「ヒーロー向きの“個性”」を取り込み続ける「ヴィラン向きの“個性”」。それはまるで、そうしていけば何時の日か、「ヒーロー向きの“個性”」を持って生まれた者の様に、「君はヒーローになれる」と誰かに言われたがっているかの様で……

 

「UUUUU、AAAAAA……」

 

「おい、どうした……。来いよ……チャンス、だぜ……?」

 

こうして自分の“個性”。或いは自分の奥底に眠る本質を理解した俺の視線の先には、命を浴びせるような必殺技を使い続けて疲弊し、更に大きなダメージを負っていながらも、未だに戦意が衰えておらず、更には挑発さえしている勝己がいた。

 

そしてソレに匹敵、或いは上回る技を使い続け、受け続けた俺の方も、戦闘可能時間は残り少ないと言わざるを得ない。多く見積もっても、残り100秒が限界と言った所だろう。

 

「SUUUUUUUUUUUUUUU……」

 

「この……エネルギーだ。貴様を『敗北』と言う暗黒の淵に突き落とし、究極の怪人へと進化した王の新しい誕生の祝いとする儀式には、やはりこの『爆破』こそが……ふさわしいぃーーーーーーーーーーーーーーーッ!!」

 

左拳を突き出し、右拳を腰の近くに置き、腰を深く落として構えた俺の足元に展開されるのは、緑色から赤紫色に変色したオーラからなる六本角の紋章。そしてその紋章が二つの渦を巻いて両足に吸収されると、莫大なエネルギーが体の中を通って右腕に集約されていった。右腕は赤紫色のオーラによって光り輝き、紫色の炎が絶えず噴出している。俺はそんな渾身の一撃を――。

 

「CUOOOOOOOOOOOOOOOOOO……!!」

 

「さあ、旅立つが良いッ!! 終わりの来ない……無限の彼方へッッ!!!」

 

「DDDDWUUUUURRRRRRRIIIYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!」

 

――自分の足元に向けて叩き込んだ。

 

 

○○○

 

 

それは、彼らの関係を全く知らない者達にとって、決して分からない。或いは理解しがたい事だろう。

 

先程から繰り出される、高火力を誇る必殺技の応酬。それは備え続けた力と、積み上げ続けた技術を、思う存分に発揮できる幸せと、思う様に解き放つことが出来る喜びに満ちていた。

 

呉島新と爆豪勝己。この二人には、幼馴染みだからこそ出来る勝負があった。

 

人を死に至らしめ得るレベルの技。繰り出す攻撃がもはや兵器並と言っても過言では無い力。人間相手には到底使えない、そんな必殺の超人技を繰り出す事が許される。

 

呉島新にとって爆豪勝己とは。爆豪勝己にとって呉島新とは。そんな我儘が許される、唯一無二の存在であった。

 

「……は?」

 

「………」

 

だからこそ、勝己は新の行動に目が点になり、その目が血走る事となった。

 

勝己の心は一瞬だけ困惑した後、猛烈な勢いで怒りがマグマの如く沸き上がっていた。控え室で「全てを上からねじ伏せる」と宣言した勝己からすれば、新の行動は「この攻撃はお前にはどうすることも出来ない」と言われたも同じ。ここ10年に渡って交わしてきた無言の不文律を否定し、勝己の有言実行の決意に対する侮辱以外の何物でも無い。

そして、そんな勝己の心に渦巻く激情は、新が「紫炎を操る姿」から見慣れた何時もの姿に戻った事で、更に激しさを増した。

 

「ふざ……け、んな……ッッ!!!」

 

「………」

 

「クソが……ッ!! わざと外しやがって……ッ!! 下らねぇ情けかけてんじゃねぇッッ!!!」

 

「………」

 

「俺が取るのは完膚なきまでの1位なんだよッ!! テメェ等より上に行かねぇと意味ねぇんだよッ!! テメェは俺をキズつけねぇでイイ奴気分かも知れねぇが、勝つつもりが無ぇなら――!?」

 

その時、常闇のスタンド……もとい、『黒影【ダーク・シャドウ】』も月まで吹っ飛ぶ様なドエライ事が起こった。

 

それは最初、とても小さな地鳴りだった。だがソレは徐々に大きくなっていき、新に自分の激情を言葉にしてぶつけ続ける勝己が異変を察した瞬間、ステージの真下から巨大な火柱が上がり、ステージごと二人がスタジアムの上空へと押し上げられたのだ。

 

『オオオオオオオオオオオオッッ!! これは何と言う事だッ!! 半分こ怪人Wが氷山を作った逸話を残すならッ、究極怪人の俺は火山を作って伝説を打ち立ててやると言わんばかりのッ!! 最終決戦に相応しい超特大の噴火活動だぁああああああああああああああああああああああああああッッ!!!』

 

『……もはや歩く天変地異だな』

 

「な……がッ!?」

 

「WOOOOOOOOOO!!」

 

「情け? 情けだと? そんなモノを王が貴様にかける訳がなかろう」

 

凄まじいGが空中のステージに立つ二人を襲い、二本足でソレに耐える新と、困惑しながら四つん這いで堪える勝己。

そんな勝己に対して、何時の間にか復活したイナゴ怪人1号が新の気持ちを代弁する。その腕には予選の『障害物競走』の中継に使用されていた、カメラロボが一機抱えられている。

 

「QUUUUUBE、DAVUVIBADDDGARUURA……WOOPGOLUFUNDALOXIMOO」

 

「『もう良いだろう。手品はおしまいだ。竜巻、爆発、噴火……流石にチョットやり過ぎた。原点回帰。最後はホモサピエンス同士……“人間”として戦おう』と王は言っている」

 

カメラロボを通じてスタジアムの巨大モニターでこの様子を見ていた観客。そしてテレビの前の視聴者達は全く同じ事を思った。

 

これの何処が“チョットやり過ぎた”なんだ……とか。

 

とても手品で済まされる様な事じゃないだろ……とか。

 

そもそも、“ホモサピエンス同士”とか“人間として”とか言っているが、お前は何処からどう見てもホモサピエンスでも人間じゃないだろう……とか。

 

兎に角、ツッコミたい所はそれこそ山ほどある発言だったのだが……勝己にとってそんな事はどうでも良かった。

 

「~~~~~~~~~ッッ!!! ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!」

 

「WRYYYYYYYYYYYYYYYYYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAHHHHH!!!」

 

地上より数百メートル上空で繰り広げられる、剣劇ならぬ拳劇の嵐。

 

防御の一切を忘れ、重心を前足・拇指球へと集める。自分の全存在を乗せた“拳”を打ち込むことだけに集中し、その他一切を濁りとする。

人体前面という急所が集まる箇所を隠すこと無く、防御をかなぐり捨てて“拳”と言う人類最古にして最良の武器で殴り合う。

 

もはやソレは、武術では無く――、格闘技ですらなく――、「果たして、どちらが強いのか?」と言う果てしなくシンプルで――、果てしなくディープなテーマを追求した――力比べッッッ!!

 

……否ッ!! 『男雄漢比較【おとこくらべ】』ッッ!!!

 

「ダッッラアァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!」

 

「DOOOORIIIIYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYY!!!」

 

不安定な足場の中、両雄の足が可能な限り有効な着地点を選択し、両雄の拳が可能な限り有効な角度を探り求め続ける。そんな絶え間ない無呼吸連打の応酬の最中、二人の足場となっているステージが最高高度に達し、地上に向けて降下していく。

その高度からの落下は、明らかに人類の耐久限界を超えている事が容易く予想でき、如何に強靱な肉体を誇る怪人であっても只では済まない事は明白。それはステージに立つ二人が十分に自覚し、決して無視する事の出来ない事実であったが、それでも二人の拳は止まらない。

 

「「「「「「「「「「………」」」」」」」」」」

 

本来ならばここはもう、二人の戦いに介入して試合を止めるべきだろう。

 

――しかし、この目で見てみたい。

 

スタジアムを埋め尽くす人……、人……、人……。雄英ヒーローを含めたプロヒーロー達が。そしてヒーロー以外の生き方を選択した観客達が。彼等が自己の肉体から、自己の人生から何時しか忘れ去っていった、目の前にある確かな『野生』を、かつて見た確かな『夢』を、此処で目の当たりにしたいと思っていた。

 

№1ヒーローを諦め、それぞれが自分なりに自分の道を歩いてきた。その結果、学歴を――、地位を――、人望を――、そこそこの収入を手に入れた。その結果、それらと引き換えに、自分達は一体何を失ったのか――。

 

「「「「「「「「「「………」」」」」」」」」」

 

それは、応援席で戦いを観戦する生徒達も同じだった。

 

ヒーロー科であろうと――、普通科であろうと――、サポート科であろうと――、経営科であろうと――、雄英高校に入学した人間が『№1ヒーロー』を、つまりは『最強のヒーロー』を意識しないなどと言う事は、その存在に胸を焦がさないと言う事は絶対に有り得ない。

 

彼等は今、自分達が目の当たりにしている肉の削り合いが、『強さの獲得』と言う一点のみに向けられた、ダイヤモンドの様に高密度な生き様のぶつかり合いであると言う事を――、高純度に濃縮されたエネルギーのぶつかり合いであると言う事を――、誰もが心で理解していた。

 

だからこそ見届けたい。脳裏に刻みつけておきたい。

 

この二つの『強さの結晶体』が迎える、戦いの結末を――!!

 

「クッ、ソッ、がァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!」

 

「ZURURYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!」

 

そして、終わりが近づいていた。

 

血飛沫が火花の様に飛び散り、刻一刻とタイムリミットが迫る中、遂に地上から約10mと言う所で、新は突如体勢を低くして勝己に抱きつき、背中から羽を生やして飛行した。

足場となっていたステージが二人を空中に残して地面に落下し、轟音と衝撃と土砂の雨がスタジアムを襲う。観客達が大惨事に見舞われるのをセメントスが防ぐ中、空中戦に移行した二人の戦いは、遂に佳境を迎えていた。

 

『ベアハァ~~~~~~~~~~~~グッッ!!! 力が入っているッッッ!! 力が入っているッッッ!!』

 

「は、離しッ、やがれぇええええええええええええええええええええええええッッ!!」

 

「MUUUGUUGAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!」

 

『オオオオオオッ!!! 手当たり次第に攻撃し抵抗する爆豪ッッ!! それに耐えながら絞める呉島ッッ!! 雄英高校一年生の頂点に立つ怪人はッッ!! ボンバー・ファッキューかッッ!! それともバッタ男かッッ!!!』

 

残された力を全て攻撃に回し、万力の様な締め付けから必死に抗う勝己。頭部とその付近を絨毯爆撃の様な爆発と膝蹴りに晒されながらも、締め付ける事を止めない新。

それによって最初は向き合うような体勢で新が勝己に抱きついていたが、次第に二人の体が移動し、新が頭のてっぺんを勝己のみぞおちの部分に押し付け、勝己の体を首の筋力だけで持ち上げて地面と水平にしたその瞬間、新はその体勢を維持したまま羽根を背中にしまって落下した。

 

「テ、テメエェ……ッッ!!」

 

ここにきて勝己は新の意図に気づいたが、流石にもう遅かった。攻撃に使っていた『爆破』を今度は滞空し、ダメージを軽減する為に使うものの、もはや掌からは爆竹程度の爆発しか起こらず、勝己には自分一人分の体重を僅かでも空中に浮かせる様な力さえ残っていなかった。

 

「~~~~~~ッッ!! チッ、クショウ、ガァアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

「SYIIIIIIIIYYYYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

 

そして、新が着地と同時に渾身の力で地面を両足で蹴り込むと、頭頂部が勝己のみぞおちに深くめり込み、その衝撃は勝己の体を貫いて、勝己の肺に残っていた空気と一緒に、勝己の意識を一気に体外へと排出させた。

 

「ぐぶぉお……ほぉ……ッッ!!」

 

「………」

 

新の頭上でうめき声を上げた後、力なくうなだれる勝己。そんな勝己を新がゆっくりと地面に寝かせると、主審ミッドナイトが最後の審判を下した。

 

「……爆豪君、戦闘不能ッ!! よって――、呉島君の勝利ッッ!!!」

 

『決ッッッ、ちゃ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~くッッッ!!!!!

弱冠15歳ッッ、呉島新がッッ、今年度雄英体育祭ッッ、1年生ステージのチャンピオンだぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ッッッ!!!!!』

 

「「「「「「「「「「ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!!!」」」」」」」」」」

 

そして先程、新がやって見せた噴火に負けずとも劣らない大歓声。観客達が送る万雷の拍手と喝采。それはこの雄英体育祭で、初めて新に対して向けられたモノだった。

 

『2度とッ!! 2度とこんな体育祭は見られないでしょうッッ!! 予選から続き、本選に亘る全ての種目ッ、全ての試合はッ! 唯の一試合とて凡庸な内容はありませんッッ!! 全ての勝負が大勝負ッ! 全ての試合が名試合ッ! そして全ての選手が……ッッ、イカしてたアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!

このヒーロー飽和社会において、ただ「強い」と言うだけのヒーローは――或いは無価値との声もあるでしょうッ!! しかし、覚悟を決めて入場する選手の表情の――。己の力が通じず敗北を受け入れる選手の表情の――。傷つき勝利を手にした選手の表情の――。そのどれもが我々の心を突き動かさずにはおきませんッッ!!!

誰よりも、何よりも強くあろうとする姿は――かくも美しいッッ!!! 「強い」と言う事は美しいッ!! 「強い」と言う事はスバラシイッ!! ストロング・イズ・ビューティフルッッッ!!!!! アリガトウ、呉島新ァアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!』

 

「……AAAAAA……」

 

イナゴ怪人V3の最後の実況を聞きながら、自分を讃える観客達に応える様に、新は憔悴しきった体に鞭打ち、右拳を天に掲げて勝ち名乗りを上げた。

 

 

●●●

 

 

全ての競技が終了し、いよいよ雄英体育祭も閉会を迎える。そして雄英体育祭の閉会式とは表彰式とイコールである。

 

「それではこれより、表彰式に移ります!」

 

ミッドナイトの声に合せて表彰台が奈落からせり上がる……が、表彰台の1位に立つ俺の姿を見た瞬間、スタジアムの時が止まった。

 

「うわぁあああああ……」

 

「……何、アレ?」

 

「ああ、イナゴ怪人が呉島に寄生虫を騙して飲ませたって言ってただろ? それで、テレビを見たガキが絶対に真似しねぇ様に見せしめが必要だってんで、ああしてんだと。言いてぇ事は分かっけど……おっかねぇ1位だな」

 

「もはや悪鬼羅刹」

 

「「「「「VUUUUU~~~~~~!! VUUUUUU~~~~~~~~~~!!」」」」」

 

「GURRRRRRRRRRR………!!!」

 

彼等が戦慄し、言葉を失うのも無理は無い。新のジャージはイナゴ怪人の返り血に染まっており、さっきまでイナゴ怪人を何体も虐殺していた事を容易く想像することができる格好をしていた。

これだけでも既にアレなのに、四本腕の状態で首が曲がってはイケない方向に曲がっているイナゴ怪人1号とV3をふん捕まえ、背中から生やした触手で残り5人のイナゴ怪人を貫いて、全員が消滅しない程度のダメージを与えられたまま実体化させられていた。

 

これは雄英体育祭で新が大きく成長し、その副作用としてイナゴ怪人の耐久力もまた大きく上がっているからこそ出来る芸当である。

 

「テ、テレビの前のちびっ子諸君……良かれと思って行動すれば、何でも許されると言う訳では無い……このイナゴ怪人1号との約束だ……」

 

「よ……良いか人間共よ。“個性”とは即ち、『限りなく進化する力』! 代を重ねるだけでなく、絶望に追い込まれる度に、敗北を喫する度に、その肉体は学習し成長する!!

虐げられし者達よ!! 多くの困難をッ、挫折をッ、差別をッ、理不尽を糧として強者をなぎ倒してきた、この呉島新を見よッッ!! その偉業は決して、お前達に出来ない事などでは無いッ!! 次はお前達だッ!! 力に溺れる卑劣な強者達よッ!! お前達に未来は無いのだッッ!!!」

 

「MUUNN!!」

 

「「VURYAAAA!!」」

 

ここでイナゴ怪人1号とV3の首を更に一回転。首が千切れるんじゃないかと思わせる行動に誰もが絶句するが、二人のイナゴ怪人はそれでもまだ実体を保ち、不気味なうめき声を上げていた。

 

「さ、3位には轟君の他に飯田君が居るんだけど、ちょっとお家の事情で早退になっちゃったので、ご了承下さいな♪」

 

「………」

 

そんな現場の空気を変えるべく、ミッドナイト先生がカメラ目線でウィンクを飛ばすが、俺としては飯田の事がとても心配になる発言だった。

 

『呉島君、優勝おめでとう。そして突然だが、僕は早退させて貰う、兄がヴィランにやられた』

 

準決勝での怪我が治った飯田はただそれだけを告げると、インゲニウムの元へと行ってしまった。しかし、あのインゲニウムを倒すとなると、まず並のヴィランではあるまい。一体、何者なのであろうか……。

 

「メダル授与よ!! 今年メダルを贈呈するのは勿論この人!!」

 

「私がッ!! メダルを持って来「我らがヒーロー、オールマイトォオオオオオオ!!」……」

 

被った。予想外の展開にオールマイトは硬直し、ミッドナイト先生は手を合わせてオールマイトに謝っている。とは言え、アクシデントにも柔軟に対応するのが、プロヒーローのプロたる所以。三位の轟から粛々とメダルが贈呈されていく。

 

「轟少年、おめでとう。準決勝で見せた“個性”と格闘術の併用は見事だったぞ。強いな、君は!」

 

「……ありがとうございます」

 

「ただ! 相性差を覆してくる様な相手の場合、正面から全力でぶつかり合うより、何かしらの工夫を加えた絡め手が有効だ。より繊細なコントロールを身に着ければ、取れる択も増すだろう」

 

「はい。ただ……」

 

「?」

 

「緑谷戦でキッカケを貰って、呉島戦で『自分がなりたかった自分』を、『自分の思い描いた完成形』を思い出しました。……俺も貴方の様なヒーローになりたかった。だから、正面から全力で来る呉島に、俺も正面から全力をぶつけなきゃ駄目だと思ったんです」

 

「……そうか。顔が以前と全然違う。今の君ならきっと『なりたい自分』になれるよ」

 

「………」

 

穏やかにオールマイトと語らう轟の表情は、体育祭前の控え室で宣戦布告した時と違い、まるで憑き物が取れた様な顔をしていた。準決勝で死闘を演じた俺としては、轟の葛藤が吹っ切れた様で何よりだ。

 

「爆豪少年。開会式での伏線回収、残念だったな」

 

「………」

 

「しかし! 言っとくケド、自尊心ってヤツは大事なもんだ!! 優勝こそ逃したが、君は間違いなくプロになれる能力を持っている!! 君はまだまだこれから――」

 

「だからなんだッッ!!!」

 

「!!」

 

「俺は今日……コイツに負けたッ!! ただ……ただ、そんだけだろうがッッ!!!」

 

「………」

 

「こっからだッ!! 俺は……!! 俺はこっから1番になるッ!! 必ずコイツを超えてッ!! 此処で1番になってッ!! 必ず俺はアンタをも超えるヒーローになってやるッッ!!!」

 

「(思ったよりも、立ち直り早ッ!!) ああ……うん。それならコレは……傷として受け取っておきな! 忘れぬように!!」

 

「……言われなくても……ッ!!」

 

そして涙を拭った勝己がオールマイトからメダルを受け取った瞬間、会場を万雷の拍手が包み込んだ。どうやら勝己の不屈の闘志による再起を誓う宣言が観客の琴線に触れ、その心を鷲掴みにしたのだろう。

……だが、勝己に対して恍惚の笑みを浮かべ、口からよだれを滝のように垂れ流すミッドナイト先生については触れない方が良いだろうな。

 

「さて、呉島少年……っと、その前に、ソレを何とかしてくれないか?」

 

「………」

 

「GUGYAAA!!」

 

「BUGYAAAAA!!」

 

「「「「「HIDUBUUUUUUU!!」」」」」

 

うむ。オールマイトの言いたいことは分かる。確かにこの姿はどう見ても残虐なクリーチャーか、凶悪な魔王にしか見えないからな。とりあえず、半死半生状態のイナゴ怪人達に止めを刺して放り投げると、四本腕を二本腕に戻し、触手も全て背中にひっこめることにした。

 

「うん。終わってみればこの体育祭、君は最初から最後まで、ありとあらゆる意味で圧倒的だったね」

 

「GUUUUUU……」

 

「だが、体育祭の最中に君が感じていた通り、君の活躍を見た世間は称賛と非難の二つの評価に分かれる事となるだろう。……しかし、だからこそ君には、そのまま真っ直ぐに進んで欲しい。誰もが納得する答えが存在しない、この“個性”が溢れる超人社会で、自分が正しいと信じる道を、そのまま真っ直ぐ突き進んで欲しい」

 

「AI……」

 

そして俺は、オールマイトから優勝を示す金色のメダルを受け取った。首にかかるメダルの重さは、不思議な位に心地よかった。

 

「さァ!! 今回は彼等だったッ!! しかし皆さん! この場の誰にも此処に立つ可能性はあった!! ご覧頂いた通りだ!

競い! 高め合い! 更にその先へと登っていくその姿ッ!! 次代のヒーローは確実にその芽を伸ばしているッ!!

てな感じで最後に一言ッ!! 皆さんご唱和下さい!! せーのッ!!!」

 

「「「「「「「「「「プルス……「おつかれさまでしたッッッ!!!」……ええええええええええええええええええええええ!?」」」」」」」」」」

 

「………」

 

そして即座に巻き起こる、大観衆のオールマイトに対するブーイングの嵐。しかし、こんなちょっとズレている所もお茶目な魅力になってしまうのが、オールマイトと言うヒーローの特徴なのである。

 

ちなみに今年の『雄英体育祭』の後、学校や職場でのいじめ。特に異形系の“個性”持ちに対するいじめが激減し、ある評論家が「呉島新の活躍がいじめの抑止力として働き、異形系に対する意識の変化に繋がっている」と分析するのだが、それはまた別のお話である。

 

 

○○○

 

 

同時刻。とある研究所で一人の科学者が先程まで見ていたテレビを消し、ここ数日の間ずっと点けっぱなしになっているパソコンのモニターに目を向けると、目にも止まらぬ速さでキーボードを叩き始めた。

 

呉島真太郎。

 

一年生の雄英体育祭を優勝した呉島新の父にして、IQ600と言う馬鹿げた知能レベルを叩き出す頭脳と、息子と同じ『バッタ』の“個性”を持って生まれた男である。

 

「さて、職場体験が始まるまでには、新の能力に合わせて『弐式』をバージョン・アップさせておきたいと思っていたが……どうやら、あと一つ位は新しい機能を増やしておく必要がありそうだ。

……そうだな、今回獲得した『爆破』を使える様にしてみるか。しかし、この分だと『参式』の改良も必要になるだろうし……『八式』を造っている途中だと言うのに全く、科学者泣かせの息子を持ったものだ」

 

実に困った……と言いながらも喜色の笑みを浮かべ、呉島慎太郎は『強化服・弐式』に更なる強化と改良を施していく。

 

HOPPER-VersionⅡ

 

Chou-Shokkaku Antenna ; Cat Eye ; Chou-Auditory Argan ; O Signal ; Converter Lung; Typhoon ; Aqua Lung ; Enegy Converter ; Cyclone Guidance System ; Shock Absorber

 

Finisher

 

Rider Jump ; Rider Punch ; Rider Kick ; Rider HOUDEN

 

父から息子へ。世代を超えて受け継がれる、『怪人バッタ男』を『仮面ライダー』と言う次元に、『ヒーロー』と言う存在に引き上げる為のバトルスーツは、間もなく新生の時を迎えようとしていた。




キャラクタァ~紹介&解説

呉島新
 見事に雄英体育祭優勝。良くも悪くも最初から最後までそのインパクトは絶大であり、『雄英最凶の生物』を筆頭とした様々な二つ名と、後世に語り継がれる数々の伝説を打ち立てる事に成功した。
 最終的に体育祭では「超マッスルフォーム」、「モーフィングパワー」、「バーニングマッスルフォーム」、「爆破」の四つの能力を体得。そして下記の「ミュータントハリガネムシ」によって「触手✕6」と「ラスボスフォーム」を知らず知らずのうちに獲得。出自が似ている『アマゾンズ』の千翼みたいになったが、歩くバイオハザードと化すことは無いのでご安心を。

千翼「AAAAAAAAAAMMAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」
シンさん「WRYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYY!!」
ヒロキ「どうなるんだよ……コレ?」
志藤「勝った方が、俺達の敵になるだけだ」
シンさん「GUGAH!?」

爆豪勝己
 伏線回収ならず、惜しくも準優勝。しかし、この世界ではシンさんのお陰で、原作のヒール要素が完全に無くなってしまい、最終的な評価は原作より無駄に上がっている。ある意味では、シンさんの恩恵をこれでもかと受けた結果となり、「雄英体育祭1のラッキーマン」と言えるだろう。

プレゼント・マイク
 イナゴ怪人達に「ぶっちゃけ、『騎馬戦』の時の実況とか気に入らないから、ドサクサに紛れて殺っちまおう」と思われたのが運の尽き。イナゴ怪人V3に体を乗っ取られた挙げ句、ミガワリボウギョによってシンさんの攻撃に喰らう羽目に陥った。
 体育祭の後でシンさんは謝りに行ったが、この時のプレゼント・マイクは負傷前後の記憶が完全に抜け落ちていた所為か、ちょっと強めの注意だけで特に気にされる事はなかったが、彼の深層心理で昆虫に対する嫌悪感が更に凄まじい事になっていたりする。
 元ネタは『鎧武』最終回で、復活したコウガネがイナゴを使って乗っ取った少女を「VS龍玄戦」で盾にしていた事。もっとも、此方の場合は脅すのでは無く、物理的に盾にしていたので、イナゴ怪人ストロンガーが物間にやった「王蛇式ガードベント」の方が近いか。

イナゴ怪人(1号~ストロンガー)
 復活した途端、創造主の手によって皆殺しにされた怪人軍団。公共の電波を通じて、日本全国はおろか世界中の“虐げられし者達による逆襲”を警鐘すると同時に、今年の『雄英体育祭』最後のグロシーンを飾った。



ミュータントハリガネムシ
 シンさんの背中から生えた「6本の触手」の正体。作中で語られた通りシンさんの血肉を摂取した結果、「仮面ライダーギルス」のギルスフィーラーのような「体表面に寄生する独立した生物」に変異した。
 この能力に関しては、『555』のアークオルフェノクの能力を獲得する上で、「何か都合の良い解釈が出来るモノは無いか?」と調べた結果、バッタに寄生するハリガネムシに行き着いた結果なのだが……最終的には『バイオハザード4』のプラーガに近くなった様な気がする。

爆豪の『爆破』獲得について
 これによって『アギト』における「バーニングフォーム」の必殺技を完全再現。しかし、作者は以前「シンさんの獲得する能力は『様々な作品のバッタ怪人』と言う縛りの元で執筆している」と公言している為、今回の話で「『爆破』の能力を持ったバッタ怪人なんていないだろ」と、思った読者は多いと予想される……が、『仮面ライダー』と言う作品をよく考えて欲しい。仮面ライダー(特に昭和ライダー)がライダーキック等の必殺技を怪人に決めた場合、大抵怪人は地面を転げ回ったり、空を吹っ飛んだり、崖から真っ逆さまに落ちたりした後で、「爆発している」と言う事を。
 平成ライダーでは、大抵ライダーが必殺技を決めた直後に爆死。爆発せずに灰化、もしくは液状化と言った例外も散見されるが、『仮面ライダー』と言うカテゴリーにおいて「爆発」と言う要素は、ライダーサイドであろうが、怪人サイドであろうが、デュフォルトで備えている“標準装備”である。つまり、「シンさんが相手を爆破する能力を体得しても、何もおかしくは無い」……と言う考えの元、今回かっちゃんの『爆破』を採用。しかもオリジナルと異なり「時間差での爆破」が可能となっている為……。

強化服・弐式
 次から始まる『職場体験編』でシンさんに与えられるコスチューム。コスチューム自体は完成していたが、そこに『USJ編』で入手した『一式改』の戦闘データと、『雄英体育祭』でシンさんが新しく獲得した能力等を考慮してバージョン・アップが施されている。
 基本性能は『強化服・一式改』とあまり変わっていないが、ライダースーツの伸縮性を強化する事で「マッスルフォーム」に対応し、触覚から放つ「緑色の電撃」が両手から放てる様になった。そして現在進行形で「爆破」の能力を両手・両足で使用する事が出来る様に改造中。これによって全体的に攻撃能力が大幅に強化され、『仮面ライダー』の再現率も大幅に上昇。具体的な使用例を挙げるなら……。

シンさん「ライダーキィイイイイイクッ!!」

ライダーキックを食らって、地面を転げ回るヴィラン。

ヴィランが立ち上がった所で、時間差の爆発攻撃。

ヴィラン「ギャアアアアアアアアアアッ!!」

……こんな感じに「正に昭和ライダー」な活躍が可能となる。中身がシンさんなので強化されても平成ライダーっぽくない所がミソ。
 元ネタは『仮面ライダー1971-1973』に登場する「強化服・弐式」。そして作中で表記した横文字は、『仮面ライダーSPIRITS』において、風見志郎改造時に表記された横文字が元ネタ。ちなみに放電を「HOUDEN」と表記したのは、火柱が「HIBASHIRA」、空気が「Kuuki」と表記されている事に対するオマージュ。つまりはわざとである。

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