怪人バッタ男 THE FIRST   作:トライアルドーパント

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読者の皆様のお陰で、4月9日の日刊ランキングで16位を記録する事が出来ました。ご愛読、誠にありがとうございます。

前回の投稿で貰った感想から「起承転結」と「簡潔な表現」を意識して……と思っているのですが、どうにも伏線やら作者の趣味を加えると、中々難しいです。二次小説なのでそう難しく考えないで書く方が筆のノリも良い気がするのですが、それなりの数のGoodが入っている事も、見逃すことの出来ない確かな事実。

そこで、次回予告だけで進む某アニメみたいに、前書きだけで進んでいく「起承転結がはっきりした簡潔なお話」を用意してみました。

不評ならもうやらないって事で……オナシャス!



峰田「エイサァアアアアアアアイッ!! ハラマスコォオオオオオオオオオイッ!!」
シンさん「……何やってんの?」

峰田「英才孕ます行為踊り。どうかな?」
シンさん「……それは――」
イナゴ怪人「種無しブドウがどうやって英才を孕ませると言うのだ?」

峰田「ウェエエエエエエエエエエエエエエエエエエン!!」
イナゴ怪人「(あ! ちょ! 待ってぇええええええ!!)」
シンさん「思うだけか……」

発目「エイサ~イ♪ ハラマスコォ~イ♪(チラッチラッ)」
シンさん「………」
イナゴ怪人「………」

2018/5/21 誤字報告より誤字を修正しました。毎度報告ありがとうございます。

2020/12/14 誤字報告より誤字を修正しました。報告ありがとうございます。


第27話 ヒーロー殺しの仮面ライダー教室

あれから体の方には特に異常が認められず、続いて警察の簡単な事情聴取を受けた後、損傷した『強化服・弐式』を父さんの研究所の方に持って行った。

すると、「こんな事もあろうかと……」と言いながら、父さんは『強化服・弐式』のスペアを取り出し、それを受け取ってMt.レディの事務所に戻ると、事務所の電話が絶えず鳴り響き、異様に慌ただしかった。

 

何かあったのだろうかと思ってMt.レディのサイドキックに話しかけると、この騒動の原因は他ならぬ俺の所為なのだと言う。

 

そもそも「巨大化」を筆頭とした身体が大きくなるタイプの“個性”は、派手であると同時に身バレもしやすいと言うデメリットがある。

その上、俺は先日の雄英体育祭で優勝しているし、俺が着ているコスチュームが本戦・一回戦で見せたハリボテスーツとデザインが酷似している点から、速攻で『仮面ライダー』の中の人が『怪人バッタ男』であり、更にMt.レディの元にいる事が目撃情報からバレてしまったらしく、事務所の方に確認の電話がひっきりなしに来ているのだとか。

 

「まあ、派手にやりましたからねー……」

 

「お陰で町は大騒ぎだよ。『仮面ライダー【MASKED RIDER】』、新世代のニューヒーローってね。まあ、君がヒーローの免許を持ってない事もあって、一部は『無免ライダー』なんて呼んでるみたいだけど……」

 

「一文字違うだけで全然印象が違いますね。でも、俺って仮免も取得してない高校一年生ですよ? 何でそんなに電話が来るんですか?」

 

「……君、自分が何をやったのか分かってるかい? 一般に超大型と呼ばれるヴィランでも精々15~20mなのに、君は50m以上あるヴィランを最小限の被害で仕留めたんだよ? しかも君は雄英体育祭の優勝者だ。コレが注目を集めない訳がないじゃないか」

 

「……なるほど」

 

ちなみに夕方には、巨大怪獣との戦いで巨人と化した俺の姿がヤフーニュースに載っていて、それを見たクラスの皆からのメールやら電話やらに対応していたら、結構寝るのが遅くなってしまった。

 

そして職場体験二日目。今朝の新聞を広げて見ると、そこには他に載せるものが無かったのか、俺が巨大化して巨大怪獣と戦う様子を写した写真が、デカデカと掲載されていた。

まあ、やってしまった事は仕方が無い。気を取り直して、今日も元気に頑張るZOY! ……と言いたい所なのだが、肝心のMt.レディが入院しているこの状況。果たして、職場体験を続けられるモノなのだろうか?

 

「それに関しては、昨日の内に此処では職場体験を継続する事ができない旨を、雄英高校に申告してある。それで何人かのプロヒーローが、君達の職場体験の引き継ぎを申し出ている状態なんだけど……」

 

「……して、そのヒーロー達はどんな方達で?」

 

「これがそのリストだよ。それぞれが今担当している仕事についても書かれているから、よく考えてくれ。ちなみに、二人とも同じ所に行って貰う事になるよ」

 

ふむ……。リストに書かれているヒーローは全部で7人。見た感じでは、俺に指名を入れていたヒーロー達が再び名乗りを上げた……って感じだが、この中に第二志望だったサー・ナイトアイはいない。となると……。

 

「……エンデヴァーヒーロー事務所。保須市に出張……?」

 

「ああ、それか……どのヒーローも口には出さないケド、エンデヴァーの目的は多分『ヒーロー殺し』だよ」

 

「『ヒーロー殺し』……ですか」

 

「そう。オールマイトの登場以降、単独で最も多くのヒーローを殺害してきた凶悪なヴィラン。そしてヒーローの間では、これまで『ヒーロー殺し』が出現した7ヶ所の町全てで、必ず4人以上のヒーローが殺傷されている事は周知の事実だ。ある意味、暗黙の了解と言い換えてもいい。

そして、この間『ヒーロー殺し』が現われた保須市では、まだインゲニウム一人しかやられてない。つまり、『ヒーロー殺し』がまた保須市に出現する確率は極めて高い。お陰で今、保須市はヒーロー達による厳戒態勢が敷かれている筈だよ」

 

「4人以上のヒーローを殺傷……思想犯なんかがやる『ルーティーン』ってヤツですかね?」

 

「多分ね。正直な話、並のヒーローが束になっても敵うような相手じゃ無いから、普通はオススメしないけど、相手は№2ヒーローだし、それに君のイナゴ怪人みたいに分身の様なモノを作れる“個性”なら……」

 

「安全な索敵に、ステインの足止めが可能になる」

 

「そうだね。しかも本体に分身のダメージがフィードバックする訳じゃないし、ほぼ無尽蔵に復活する事ができる訳だから、君を安全圏においてイナゴ怪人を使う事に専念すれば、ノーリスクで『ヒーロー殺し』に対応する事も不可能じゃない……だろう?」

 

「ふむ……して、『ヒーロー殺し』を捕らえた場合、その報酬は?」

 

「相手はヒーロー社会を根本から揺るがす様な大物だ。仮に『ヒーロー殺し』を捕らえたとなれば、その報酬も相当な額になる筈……」

 

「よっしゃ! 今すぐ我々の手で、『ヒーロー殺し』を捕らえよう! ヒーロー社会の平和を守れるのは我々しかいないのだッ!!」

 

「「………」」

 

神谷は拳を握り締め、正義の目的を熱く語った。しかし俺とMt.レディのサイドキックの目には、その薄汚い金銭欲をご立派な建前で隠しているのがバレバレだった。

 

「……まあ、ぶりぶりざえもんの言う事は兎も角、今回はエンデヴァーの所に行った方が良いかも知れませんね」

 

「その理由は?」

 

「エンデヴァーの息子の轟から聞いた話なんですけど、エンデヴァーって昔№2ヒーローの実績と金の力で“個性婚”をやってのけたらしいんですよ」

 

「……へ?」

 

「だから、今回の申し出を下手に断ると、将来的にこの業界から干されるとか、そーゆー事があるのでは無かろうかと……」

 

「「………」」

 

俺の言葉に絶句する二人だが、あながち有り得ないとは言い切れない。№2ヒーローの肩書きと実績は、それを可能にするだけの力を持っているのだ。

 

「兎に角、エンデヴァーの所に行くと連絡して貰えますか?」

 

「……ああ、分かった」

 

かくして、俺と神谷は急遽、西東京・保須市へ向かう事と相成った。

 

正直な話、最近の検索エンジンの候補に「エンデヴァー ヒーロー」、「エンデヴァー 嫌い」、「エンデヴァー 恐い」、「エンデヴァー 事件解決」等の他に、「エンデヴァー おのれオールマイト」が新しく加わっている様な男の所になど行きたくないと言うのが本音なのだが、将来プロとしてこの業界でやっていくには、流石に少しは機嫌をとっておいた方が賢明だろう。

一応、職場体験の際の指名で俺に一票入れた事を考えると、思ったほどは悪い様にはならない……と信じたい。

 

そして、俺と神谷はあっという間に保須市に着いてしまい、駅のホームで俺達を迎えに来たらしいエンデヴァーと轟の二人と対面した。

 

「来たか……ニュースは見させて貰った。随分と大活躍したそうじゃないか」

 

「いやいや、そう大した事じゃありませんよ」

 

「貴様の事ではないッッ!!!」

 

「ひぃいいッ!!」

 

「「………」」

 

うむむ。今回ばかりは神谷が一緒で良かったかも知れん。何せ激情家の節があるエンデヴァーに、基本的に良く言えばクール、悪く言えば無愛想な轟が一緒なのだ。俺一人でこの親子の相手をするのは、下手するとストレスで胃に穴があく。

この状況下において、神谷の存在はちょっとした清涼剤として機能し、俺の精神を上手い具合に浄化してくれるだろう。今はエンデヴァーに怒られて俺の後ろでビクビクしてるケド。

 

「……まあいい。この俺がヒーローの何たるかを教えてやる。コスチュームに着替えたら、俺達と共にパトロールだ」

 

「はい」

 

「は、はい……」

 

こうして、エンデヴァーにビビりまくる神谷を引き連れ、間借りしたと思われる保須市のビル内の事務所に向かい、そこでコスチュームに着替えると、エンデヴァーと轟。そして俺と神谷の4人で保須市をパトロールする。

……とは言うものの、Mt.レディのサイドキックが言った通り、現在の保須市は『ヒーロー殺し』が出現した事で、元々保須市を縄張りにしているヒーロー達による厳戒態勢が敷かれており、飯田とは遭遇しなかったものの、俺達以外にも結構な数のヒーローがパトロールをしていた。

 

そんな中、ターゲットの『ヒーロー殺し』が現われない為か、妙にそわそわしながらも無言を貫いていたエンデヴァーが轟に話しかけた。

 

「そ、そう言えば焦凍。お前は確か蕎麦が好きだったよな」

 

「ああ、まあ……」

 

「ゲフン。そう言えばこの先に、結構有名な蕎麦屋があるらしいんだが……昼飯どうする?」

 

……前言撤回。どうやらこのおっさんは、単に息子を昼飯に誘うタイミングを見計らっていただけらしい。しかし、そんな不器用な父親の不器用な提案に対する轟の返答は……。

 

「いらない」

 

「!?」

 

まさかの拒絶ッ!! いやいや、ここは素直に「蕎麦屋に行く」が正解だろ!? 俺から見てもこのおっさん、これが精一杯だと分かる位の勇気を出してお前を誘ってるよ!?

 

「パトロール中だ。呑気に休憩してる場合じゃないだろ」

 

「そう言う事だ! 俺もソレが言いたかった!!」

 

嘘だぁああああああああああああああああああああああッ!! 絶対に嘘だぁああああああああああああああああああああああああッ!!

 

やはり、一度徹底的に深くなった親子の溝と言うモノは、そう簡単には埋まらないモノらしい。……クソッ、仕方ない。ここは一つ、この不器用なおっさんの為に、俺が一肌脱いでやるか。主に俺の未来の為に。

 

「……いや、ここは4人もいるんだし、交代しながら休憩しても良いんじゃないか? 『腹が減っては戦は出来ぬ』とも言うし」

 

「……そうか。そう言う見方もアリか」

 

「! で、では、昼飯はその蕎麦屋にするか! うん、それが良い! ではまずは俺と……」

 

「いや、俺は別にコンビニのおにぎりで良い。蕎麦屋には行きたいヤツが行けばいいだろ」

 

「そうだな! 俺もコンビニのおにぎりで良いぞ!」

 

……このおっさん、本当は轟が言う様なヤベー奴なのではなく、只のポンコツ親父の様な気がしてきた。てゆーか、さっきから「何としてでも、息子と二人きりになってくれるわ!」って思惑が、言動と雰囲気からひしひしと感じ取れるのに、どうして当の轟はその事に気付かないのか?

俺としてはいい加減にエンデヴァーの熱意に気付いて欲しいのだが、見る限り轟がその事に気付く様子は全く無い。

 

「ふむ。私としては蕎麦屋の方が良いのだが」

 

「俺はどっちで……あ、いや、蕎麦屋が良いです」

 

「そうか! ならば、お前達は蕎麦屋で休憩を取ってこい! 店に俺の名前を出せば金は払わずに済む筈だ! それから交代で俺と焦凍が休憩だ!」

 

「……はい」

 

俺が「どっちでも良い」と言おうとした瞬間、目力を強めて俺を睨んだエンデヴァーに気圧され、ついつい「蕎麦屋が良い」と言ってしまった為、俺は神谷と共にエンデヴァーの言う有名な蕎麦屋に行くことになった。

そして、息子と二人きりになった事で、エンデヴァーが若干嬉しそうだったのは、多分俺の気のせいではあるまい。

 

「本日貸し切り? なるほど、エンデヴァーめ。私の実力を知って、今の内にゴマをすろうという魂胆か」

 

「絶対違うと思うぞ」

 

そして件の蕎麦屋に着いてみれば、店自体が貸し切りになっていた上、出てくる料理がそれはもう豪華なモノであり、明らかにエンデヴァーが轟と一緒に此処で昼飯を食べる事を画策していたとしか思えない有様だった。

神谷は豪華な料理にがっついていたが、俺の方は味がよく分からなかった。やはり、精神的に余裕が無いと、どんなに美味い料理も美味く感じられないモノらしい。

 

「ふぅ~。喰った喰った。それでは今日の所はもう帰るか。救いのヒーローは三時間しか働けない」

 

「フルタイムであと五時間だよ……ッ!!」

 

豪華な料理に満足し、午後の職務を放棄しようとする神谷を引きずり、俺はエンデヴァーと轟の元へ戻った。そして俺達と交代で休憩に入り、コンビニのイートスペースで手早く食事を済ませようとする轟に対し、エンデヴァーは息子と一緒に飯を食うことに感動を覚えているのか、どうにもおにぎりを食うペースが遅かった。

 

「……何か、スイマセンね。今日の為に色々準備してたでしょう?」

 

「気にするな。あの程度の出費など屁でもない」

 

「………」

 

予定とは違うものの、息子と昼飯を食うことに成功したエンデヴァーの横顔は、妙に満足げだった。どうやらこのポンコツ親父は、基本的に息子と一緒に何かしら出来るなら何でも良いらしい。

 

その後、再開されたパトロールでは特に何も起こらず、そのまま四人で事務所に戻った後、俺はミュータントバッタを用いた探索方法をエンデヴァーに進言してみることにした。

 

「バッタは『精神感応能力』……俗に言うテレパシー能力を持っていて、一人一人が国民であると同時に兵士であり、その群れは一つの国家として機能している生物です。そして、『バッタ』の“個性”を持つ俺も、テレパシーによってイナゴ怪人達を呼び寄せたりする事が出来るわけですが、ミュータントバッタの状態でもコレは使えます。

もっとも、イナゴ怪人と違って複雑な情報を伝えたり、視界を共有するなんて事は出来ませんし、発信された簡単な信号を受信するのが精一杯ですが……」

 

「ふむ……と言う事は、無数のミュータントバッタを保須市に放ち、ヴィランが発生したらその信号を発信したミュータントバッタの所にイナゴ怪人を派遣。そして、精神感応によるイナゴ怪人の視界共有を用いれば、リアルタイムで詳しい情報が手に入ると言う訳か」

 

「その通りです」

 

流石は№2ヒーロー。俺が話した情報から言いたい事を完全に理解している当たり、やはり№2になるだけの理解力と判断力はあると言う事か。息子が絡むと途端にポンコツになるケド。

 

「……と、言う訳で“個性”の使用許可を頂きたいのですが」

 

「良かろう。確かにその方が、効率が良さそうだからな。しかし、事件が起こった場合は極力、この俺に回すようにしろ! サイドキックに回したりして、勝手に解決するな! それと俺の功績は積極的に焦凍に聞かせていい! 第三者からの情報は説得力が増すと本にあったからな!!」

 

「……はい」

 

そこまでして息子に自分の良い所を見せたいのかと思いつつ、俺はエンデヴァーの必死な様子からそのポンコツっぷりと器の小ささに辟易し、小さく返事をするのが精一杯だった。

 

 

○○○

 

 

同時刻。ヒーロー科の面々が大なり小なり職場体験先で四苦八苦している中、雄英高校でオールマイトは塚内と仮眠室で密談を交わしていた。

 

「突然、お邪魔して悪かったね。オールマイト」

 

「いや、構わんさ。塚内君。……で、何か分かったのかい?」

 

「ああ、以前にUSJを襲撃したヴィランの中に、呉島君が撃退した『脳無』と呼ばれたヤツが居ただろう?」

 

「……あの脳味噌が剥き出しになってたヤツか」

 

「ああ、その脳無のDNAを検査してみたんだ」

 

「DNA検査? 脳無の?」

 

「捜査協力を依頼しているでもないし、情報漏洩になるが……君には伝えなくちゃと思ってね。黒幕への手掛かりだ」

 

「!!」

 

黒幕。その言葉でオールマイトが思いついたのは、USJの事件の後に行った『敵連合』の事後調査報告において、根津校長が可能性として上げていた、主犯である死柄木とは別の「優秀な指導者」の存在だった。

 

「アレから専門施設で色々試して分かったんだが、ヤツは『口がきけない』とかじゃない。何をしても無反応……文字通りの『思考停止状態』だ。そこで素性を調べる為にDNA検査をした所……正体は傷害・恐喝の前科持ち。まぁ、ただのチンピラである事がわかった」

 

「それが黒幕への手掛かりだと?」

 

「……よく聞いてくれ。詳しく調べた所、このチンピラの体には、全く別人のDNAが少なくとも4つ以上混在している事が分かったんだ」

 

「DNAが4つ以上混在……? 人間か、それ?」

 

「まあ、体にDNAが複数存在するのは、そう珍しい事じゃない。例えば輸血や臓器移植を受けた人や、妊娠した女性なんかは、複数のDNAを体に持っているからね。でも、コイツの場合はその数が通常では考えられない程に多い事に加え、全身を薬物などでいじくり回されているそうだ。安っぽい言い方をすれば、『複数の“個性”に見合う身体に調整された改造人間』。脳の著しい機能低下はその負荷によるものだそうだが……本題は体の件よりも『“個性”の複数持ち』の方。

仮にDNAを取り入れたって、それで馴染み浸透する特性でも無い限り、『“個性”の複数持ち』なんて事になりはしない。ワン・フォー・オールを持った君なら分かるだろ? 恐らく……『“個性”を与える“個性”』を持つ者がいる」

 

「!! まさか……!!」

 

「状況から鑑みて、そう考えるのが妥当だと思う。だからこそ、君に伝えなくちゃと思ったのさ」

 

おもむろ立ち上がり、窓の方へと歩き出したオールマイト。その身体からは蒸気が吹き出し、貧相なトゥルーフォームから筋骨隆々としたマッスルフォームへと変化すると、力強く拳を握りしめた。

 

「再び動き出したのか……あの男が……ッ!!」

 

彼等は知っていた。『“個性”を与える“個性”』を持つ者を。かつて、オールマイトが自分の肉体と引き替えにして倒した筈の、悪の支配者たるその男を。

 

「それともう一つ。USJの事件で、呉島君が『黒霧』と言うヴィランに右腕を切断されただろう? 呉島君の右腕が無事に再生した事もあって、切断された腕は黒霧の“個性”について調べる目的で科捜研に保管されていたんだが……ソレが先日、何者かの手によって盗まれた事が分かった」

 

「!?」

 

「誰が持ち去ったのかは現在調査中だが……超常黎明期から悪の支配者としてこの日本に君臨していたあの男は、あらゆる所に自分の協力者や支援者を作っていた。今ほど超常の力が一般化していなかった時代、『人知を超えた力』と言う誘惑に耐え、勝てる人間などそうはいなかったのだろう。

政府、警察、経済界、宗教……。恐らく、あの男の協力者は今も“あらゆる所”に蔓延っている。それこそ、日本中の至る場所に。もしかすると、ヒーローの中にも。最悪、ここ雄英高校の中にも……」

 

「……あまり、考えたくはないな」

 

「もっとも、あの男の手の者による犯行かどうかはまだ分からない。だが、もしも呉島君の腕が奴の手に渡ったのだとしたら……」

 

「例えば、呉島少年のDNAを使った改造人間を造るかも知れない……か?」

 

「あまり、考えたくないけどね……」

 

オールマイトにとって宿敵たる悪の支配者。それに協力する内通者の存在と、何者かに奪われた新の腕。自身が気に掛ける少年達に、狡猾な暗い影が忍び寄っている事を、オールマイトと塚内は焦燥と共に明確に感じとっていた。

 

 

○○○

 

 

一昔前、オールマイトのデビューに深い感銘を受け、ヒーローを志した一人の少年がいた。

 

彼は正義感の強い少年だったが、私立のヒーロー科高校に進学した際、周囲のヒーローに対する思想や、周囲が考えるヒーローとしての在り方が、自分の考えるヒーロー像とまるで異なる事に失望し、一年生の夏に高校を中退した。

 

その後、正義を見失い、金儲けや人気を得る為の手段に成り下がった現代ヒーローの現状を正そうと、10代終盤まで街頭演説を精力的に行ったものの、彼が吐き出す思想について認める者は誰一人としていなかった。

 

“ヒーローとは見返りを求めてはならない”。

 

“ヒーローとは自己犠牲の果てに得る称号でなければならない”。

 

それが彼の実現させたい唯一の思想であったが、協力しようとする者は出てこなかった。

 

その結果、言葉に力は無く、信念を貫くには力が要る事を悟った彼は素顔を仮面で隠し、『断罪者・スタンダール』を名乗り、所謂ヴィジランテとして活動を開始。

何人ものヴィラン及び、ヴィラン予備軍を一刀の元に殺害していたが、あるヴィジランテとの戦いを境に、自分が真に許せざる相手は「覚悟も無く上辺を飾る“英雄紛い”」である事を自覚した。

 

この一件により、彼の計画は急激に加速し始めた。

 

彼は、自分の理想を叶える為の努力を惜しまなかった。その結果、彼は英雄紛いを斃す力を、常人の感覚を凌駕する速さを、自分の“個性”に適した武装を、そして“個性”を最大限に生かす為の戦術を手に入れた。

そしてその魂には「『偽物の英雄』と『徒に力を振りまく犯罪者』の双方を狩る」と言う信念が宿る事となった。

 

民衆を狩るヴィラン。ヴィランを狩るヒーロー。そして、その双方を狩る者となった彼を、世間は『ヒーロー殺し・ステイン』と呼び、“ダークヒーロー”とでも言うべき第三の存在として恐れた。

 

「ハァ……此処が、保須……。インゲニウムがいる町か……」

 

そんなステインは、雄英体育祭当日。コンビニのアルバイトの休みを利用し、保須市を訪れていた。

 

今年の雄英体育祭は全国からプロヒーローが招集され、例年の約5倍の数のヒーローが警備に導入された訳だが、それは裏を返せば「雄英高校以外の場所が手薄になる」と言う事でもある。

更にそれとは別に、将来有望な雄英生のスカウトに勤しみたいプロヒーロー達もこぞって雄英高校に集まるので、必然的にこの日は全国的にプロヒーローによる警備が手薄になっていた。

 

流石に『ヒーロー飽和社会』と言われるだけあって、町にヒーローが全くいないと言う訳では無いのだが、それでも何時もよりはその数は少なく、それはこの保須市も例外では無かった。

 

「名声……金……そんなモノを求める奴は、ヒーローじゃねぇ……」

 

インゲニウムが立ち上げたヒーロー事務所『チームIDATEN』は、「ワンポイントの“個性”を拾い上げて適材適所に配置し、チームの総合力で勝負する」と言う方針をとっている。

ソレに伴い、前衛だけでなく、パトロールやナビと言ったサポートの動きも重視する為、ヒーローの免許を持っていない人間でもサポート要員として雇っている。

 

日の目を見る事の無かった有用な“個性”を持った人材を発掘し、世の中の為に役立てているのだから、傍目から見ればインゲニウムはとても立派なヒーローであるが、そんな彼が何故、今回ステインのターゲットに選ばれてしまったのか? それは、インゲニウムがステインの掲げる英雄の概念に反していたからだ。

 

まず、ステインにとって、英雄とは“破格の存在”。逸脱し、超越し、一線を越える者でなければならない。そう言う点で言うならば、インゲニウムは“破格の存在”とは言い難く、そのスタンスは「破格ではないが為に、他人の力に頼っている」という風に見えていた。

 

また、インゲニウムがかつて、ヒーローインタビューを受けた際に「ヒーロー活動をする理由」を訪ねられて、冗談半分で言った言葉がステインの逆鱗に触れた。

それは「モテたい」。それは、ステインがヒーロー科に在籍する高校生だった頃、ヒーローを目指すクラスメイトや先輩達から飽きるほど聞いて心底失望し、同時に激しい怒りを覚えた、「儲かりたい」に並ぶ禁断の地雷ワードである。

 

かくして、それらの理由からインゲニウムを次のターゲットに選んだステインは行動を開始した。

 

現代ではちょっとネットで調べれば、どんなヒーローでもその動向や活動は目撃情報等から簡単に分かるし、ファンへのサービス精神が旺盛なヒーローに至っては、自分の奥の手とも言える必殺技を、自身のホームページや市販されている名鑑等で余すこと無く紹介していたりする。

そもそも、ヒーローは有名になればなる程、その動きは多くの一般市民の注目を集める事になる上、インゲニウムも真面目な性格をしているヒーローなので、ステインがインゲニウムの活動を予測するのに、さほど労力は掛からなかった。

 

そして、いざ保須市に着いてインゲニウムを襲撃する犯行現場となる路地裏や、その後の逃走ルート等の下見を済ませ、あとは専用のコスチュームと装備に着替えて、インゲニウムのパトロールの時間に合せて待ち伏せするだけ……なのだが、何時もよりもヒーローが少なく監視の目が緩い所為か、思ったよりも下見が早く終わってしまい、ステインは予想以上に時間を持て余していた。

そこで、近くのネットカフェに足を運んだステインは、大好きなテレビ番組である『それいけマイトくん(キッズアニメ)』でも見て時間を潰そうと、テレビの電源を入れたのだが、そこで彼はオールマイトが雄英高校で教師をしている事を思い出した。

 

正直な話、ステインとしては自分が高校生だった時でさえアレだったし、雄英高校出身者でもオールマイト以外に『英雄』と言えるようなプロヒーローが一人としていない以上、今の雄英生も「モテたい、目立ちたい、儲かりたい」しか言わない様な連中だろうと思っていた。

しかし、大のオールマイトファンであるステインは、「もしかしたら、チラッとでもオールマイトがテレビに映るかも知れない」と言う淡い希望を抱き、あくまでオールマイトが目当てで、雄英体育祭をチョットだけ観戦しようと言う気分になり、テレビのチャンネルを雄英体育祭に合せた。

 

すると、液晶画面に映しだされたのはオールマイトでは無く、所狭しと大暴れする怪人バッタ男と、その下僕たるイナゴ怪人達による、前代未聞の怪人体育祭だった。

 

『URYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!』

 

「な、何だ、コレは……!」

 

これまで数多くのヴィランとヒーローを殺傷してきたステインだが、流石にここまでグロテスクで恐ろしい見た目をした怪人は見たことが無い。

しかし、何よりもステインの目を引いたのは、そのオゾマシイ外見では無く、他を圧倒する驚異的な身体能力と、オールマイトの必殺技を模倣……いや、ソレそのものと思える程の再現度を誇る筋肉技の数々であった。

 

『ZOVAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAASHYA!!!』

 

「デ、デトロイト・スマッシュ……ッ!!」

 

『GYUVAMBUJYAA・ZOVAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAJUU!!』

 

「ニュ、ニュー・ハンプシャー・スマッシュ……ッ!!」

 

そして、その圧倒的な存在感を全身から放つ怪人バッタ男が、それに見合う圧倒的な結果を伴って、予選の第一種目を通過した頃。怪人バッタ男にオールマイトの面影を見たステインは、急いでパソコンを操作し、ネットサーフィンを開始した。

 

「ハァ……! ネ、ネットの反応は……ッ! ……ムッ、『ヒーローの卵の中に怪人がいる件について語るスレ』……か」

 

そのスレを発見した瞬間、10年間に渡って殺人術を極めると共に、ネットの世界を荒らし回ったステインの本能が疼いた。

そして、雄英体育祭の観戦と掲示板への書き込みをマルチタスクで行い、ありとあらゆる意味で超越し、逸脱し、一線を越えている怪人バッタ男に夢中になっていたステインは、何時の間にかインゲニウム襲撃の予定時刻を大幅に過ぎている事に気がついた。

 

「(しまったぁあああああああああああああああああああああああッ!!)」

 

正直な話、ステインはインゲニウムの事を一時的とは言えすっかり忘れていた。

 

しかし、インゲニウムにはまだ午後のパトロールが残っている。保須市の警備が通常よりも手薄になっている事を考えると、どうしても今日の内にインゲニウムを襲撃する必要があるステインは、そのままネットカフェでランチを食べた後、後ろ髪を引かれる思いでインゲニウム襲撃の準備を始め、彼の待ち伏せをしていたのだが……。

 

「むう……中々来ないな……。コレなら、もう少しだけイケる……か?」

 

正直な話、とっととインゲニウムを仕留めて雄英体育祭の本戦を観戦したいのだが、時間が少し早かったのか、インゲニウムは中々現われなかった。

そこで「ほんの少しだけ……」と、自分に言い聞かせつつ、欲望に負けてスマホのワンセグ機能を使い、ステインは雄英体育祭の本戦をその場で観戦。

 

そこで、ステインは「オールマイトのデビュー動画」以来の、衝撃的なシーンを目撃する事となる。

 

『不屈の精神を持った戦士にあっては、自己に与えられた過酷な試練こそ、かえってその若い「闘魂【たましい】」を揺さぶり、遂には……ッ!!』

 

「……ッ! こ、コレは、まさか……ッッ!!」

 

イナゴ怪人による実況の後、バトルフィールドの白煙を吹き飛ばす緑色の竜巻が発生。その中から現われた怪人バッタ男の姿を見た時、ステインは驚愕に顔を歪めた。

 

ステインが求める『本物の英雄』。現実に活躍するプロヒーローの中でソレに該当するのはオールマイトだけだが、ソレを体現したモノとして彼は、超常黎明期に活躍した、“個性”が発現する遙か昔、当時の子供達を虜にし、一世を風靡した数々の特撮のヒーロー達を模した過去のヒーロー達。今で言う、ヴィジランテ達を一つの理想像としていた。

そして、超常が日常となり、架空が現実となった事で、実像を持たない多くの『架空のヒーロー』が、実像を持つ『現実のヒーロー』によって淘汰され、彼等は人々の記憶から忘れ去られてしまったが、『現実のヒーロー』の大半が失望の対象でしかないステインにとって『架空のヒーロー』は、正に彼の理想そのものと言えた。

 

古くは紙芝居の『黄金バット』から始まった架空の和製等身大ヒーロー達。その中でもステインは「萬画家」を自称する一人の男が紡ぎ出した、“自分の為”では無く“誰かの為”に無償で人知れず戦うヒーロー達の、神話に等しい寓話が好きだった。

 

――「時代が望む時、『仮面ライダー』は必ず蘇る――。」――

 

ここで言う『仮面ライダー』とは、人間の自由の為に戦う異形のヒーローの名前にして、そのヒーローを主人公とした寓話のタイトルである。

その寓話の作者である「萬画家」は生前、『仮面ライダー』についてその様に語っていたと言うが、それは今のステインにとって正に、今この瞬間を予言していたと思える言葉だった。

 

「かっ、『仮面ライダー』……ッ!! いや、この姿は『ゴレンジャー』のミドレンジャーの様にも……。さしずめ『ミドライダー』と言った所か……ッ!?」

 

そして、この「萬画家」が手がけた寓話の一つに『秘密戦隊ゴレンジャー』と言うヒーローが存在する。これは元々「仮面ライダーが複数出てくる」をコンセプトとして作られたとも言われている為、この二つを混ぜるというアイディアも有りと言えば有りだろうが、そんな事は今時の人間ならまず知らない。若者ならば尚更だ。

 

しかし、ステインはその事を知っている。そんなステインに、今の怪人バッタ男がどんな風に映ったかと言うと……。

 

「ハァ……ッ! ハァ……ッ! ま、まさか、俺以外にも『仮面ライダー』を……、『ゴレンジャー』を知る者が、この時代に存在しようとは……ッ!!」

 

断じて違う。怪人バッタ男は『仮面ライダー』も『ゴレンジャー』も知らない。ただ、怪人バッタ男の父が『仮面ライダー』を知っていて、ソレを参考にしてコスチュームをデザインし、そのデザインとオールマイトのイメージが怪人バッタ男の頭の中で融合。

更に、不完全なイメージのままモーフィングパワーが発現した結果、着ていたジャージがたまたま『ミドライダー』とでも言うべきヒーローっぽい姿になっただけの話である。

 

しかし、そんな事をステインが知るよしも無い。ステインの中で怪人バッタ男は、「異形系オールマイトと言える力を持った、オールマイトのフォロワー」から、「自分と同じく“旧時代の遺物”と言える『架空のヒーロー』を理想像として掲げる同志」に昇格していた。

 

『目ある者は見よッ! 可視化されるほどの高純度を持つエネルギーからなる緑の紋章をッ!! 耳ある者は聞けッ! 万力の如く全身を締め上げる筋肉の悲鳴をッ!! アレこそは王の必勝の構えッ!! 「真空きりもみシュート」のお姿ッッ!!!』

 

「ハァアアーーッ!! ハァアアーーッ!! ハァアアーーッ!!」

 

傍から見て、今のステインは別の意味でかなり危なかった。もっとも、興奮の余り周りが全く見えていないステインに、ツッコミを入れる者等この場に存在しない。しかし、そんなステインに予期せぬトラブルが発生する。

 

「!? な、何だいきなりッ!? バ、バッテリー切れ……ッ!?」

 

そう、よりによってスマホの電池が切れたのである。

 

それによって、ミドライダー(仮)が必殺技を放つ瞬間、ワンセグは強制終了を余儀なくされ、一瞬にして画面が暗転。ステインの心に多大な喪失感と、「スマホの充電器を持ってくれば良かった」と言う後悔の念が押し寄せてくるが、時既に遅しである。

 

そんな絶望するステインの耳に、何かを噴射して加速する様な音が、段々と近づいてくるのが聞こえてきた。

 

「ハァア……やっと来たかぁああ……ッ、偽物ぉおおおおおおおおおおッ!!」

 

明らかに私怨が混じった怨嗟の声を出しつつ、本日のターゲットであるインゲニウムの接近を確認すると、ステインはインゲニウムを人気のない路地裏の奥へ誘い込む様に、そして一対一戦いに持ち込む様に行動を開始する。

 

「見つけたぞ! ヒーロー殺しッ!!」

 

「………」

 

そして、刀を抜いてインゲニウムと対峙したステインは、数分後にインゲニウムの白いコスチュームを真紅に染め上げると、即座に現場から撤退してビルの屋上にある給水タンクから自身の犯行の顛末を見届けていた。

 

「探しましたよ。『ヒーロー殺し』……“ステイン”」

 

「!!」

 

そして、その場を立ち去ろうとした刹那、背後から聞こえてきた声に反応して瞬時に抜刀。しかし、得物からは全く手応えが感じられず、攻撃が失敗した事を悟ったステインは、背後に佇む黒い靄の様な異形……『敵連合』の黒霧を睨みつけた。

 

「落ち着いて下さい……。我々は同類。悪名高い貴方に、是非とも会いたかった。お時間少々よろしいでしょうか?」

 

「………」

 

よろしくない。全然よろしくない。自分にはミドライダー(仮)の活躍を視聴すると言う、重大な使命があるのだ。

 

「ハァ……。断る」

 

「まあ、そう仰らずに……」

 

その後、しつこく自分を追いかける黒霧に切り傷を与え、“個性”を使って身動きを封じることで、何とか黒霧の追跡を振り切る事に成功。

そして、人気の無い場所でスタンダール時代から続く釣り人スタイルに着替えたものの、この調子では家電量販店のテレビや、街頭に設置された巨大なモニターでの観戦は元より、再びネカフェを利用するのも乱入の可能性が少なからずある為に断念せざるを得ない。

 

そこで、追跡に細心の注意を払いつつ、大急ぎで自宅に戻ったステインが、テレビの電源を入れてチャンネルを操作すると……。

 

『てな感じで最後に一言ッ!! 皆さんご唱和下さい!! せーのッ!!!』

 

「Plus Ult『おつかれさまでしたッッッ!!!』」

 

ちょうど、雄英体育祭が終わっていた。

 

「……見逃したッッ!!!」

 

裏をかかれた。してやられた。正直、最近の高校生など所詮「モテたい、目立ちたい、儲かりたい」の俗物三原則に則った偽物ばかりだと決めつけていたのが仇になった。

 

幸い、怪人バッタ男の活躍は動画サイトに超速でアップされていたので、怪人バッタ男の全ての試合を見ることは出来たものの、やはりリアルタイムで見る興奮や臨場感には遠く及ばない。是非とも生のライブ映像で観戦したかったと言うのがステインの本音であったのは言うまでもあるまい。

 

 

○○○

 

 

そして今、ステインは再び訪れた保須市で二人目の犠牲者となるプロヒーローを探していた際、またもや現われた『敵連合』の黒霧の手によって、今度こそ隠れ家的なバーに偽装したアジトの中で、『敵連合』の首魁である死柄木と対面していた。

 

「なるほどなぁ……。お前達が雄英襲撃犯……。その一団に俺も加われと」

 

「ああ、頼むよ。悪党の大先輩」

 

「……目的は何だ?」

 

「取り敢えずは、オールマイト。そして……『仮面ライダー』をぶっ殺したい」

 

「!! 『仮面ライダー』……ッ!!」

 

雄英体育祭が終わってからと言うもの、ステインは毎日の様にミドライダー(仮)の動画を一日30回は視聴していた。

そんな彼だから、当然先日の身長50mを超える超々大型ヴィランを退治した緑の巨人についても知っており、彼が『怪人バッタ男』であり、更に『仮面ライダー』を名乗っている事も知っている。

 

身に纏っているコスチュームは流石に現代向けにアレンジされていたものの、ネットにアップされていたサイクロン号を模した自転車を駆る姿は、まさしく古き良き時代の『仮面ライダー』そのもの。

そうなるとステインとしては、この男がかつての自分の様に「仮面を付けて無敵の超人になったと思い込んでいるタイプなのかも知れない」と言う不安が頭をよぎるが、「もしかしたら自分と同じヒーロー観を持った本物なのかも知れない」と言う期待もある。

 

その為、それを確かめる前に殺されては、正直元も子もない。そんなステインの心情を察しているのかいないのか、死柄木はステインを見ながら言葉を続けた。

 

「ああ、やっぱ知ってるよな? 今、ちょっとした有名人だもんなぁ……」

 

「……ああ、知っている。ハァ……。そもそも『仮面ライダー』とは……」

 

内心、知ったか振った感じの態度を見せる死柄木に、ステインはかなりムカついたのだが、『仮面ライダー』と言う存在がどんなヒーローであるのかを、懇切丁寧に時間を掛けて説明した。

 

「悪の秘密結社の改造人間で、大自然の使者……? つまりは裏切り者の脳無か。つまらない設定だな」

 

「……それで、他には?」

 

「他? そうだな……気に入らないモノは全部ぶっ壊したいと思ってるよ。特にこう言う糞餓鬼とかもさ……全部」

 

「……興味を持った俺が浅はかだった。お前は……、ハァ……、俺が最も嫌悪する人種だ」

 

「……はぁ?」

 

「要するに、子供の癇癪に付き合え……と言う訳だろう? ハ……、ハァ……。信念無き殺意に、何の意義がある?」

 

「……先生、止めなくて良いのですか!?」

 

『これで良い! 答えを教えるだけじゃ意味が無い。至らぬ点を自身に考えさせる! 成長を促す! 「教育」とはそう言うモノだ』

 

明確な殺意を持って得物を手にするステインと、そんなステインに不快感を露にする死柄木。そして、何時でも乱入できる様に備える黒霧と、事の顛末を見守る先生。

 

ヒーローが絶対に介入することが無い空間で、ダークヒーローと子供大人は衝突した。

 

 

○○○

 

 

「しかし、そうか……『仮面ライダー』。何処かで聞いた覚えがあると思ったが、思い出したよ。確か昔、そんな名前を名乗り、悪と戦っていた者達が居たな」

 

「ほう……先生が覚えているとなると、かなり凄いヒーローだったので?」

 

「いや、ヒーローではなくヴィジランテだ。何せ、ヒーローに関する制度が無かった時代の話だからね。何より面白いのは、全員が異形系。それも生物型の“個性”を持っていたと言う共通点があった事だ」

 

「なるほど……。それよりも先生。例のモノが漸く届いたぞ」

 

「そうか。それでは早速……実験を始めようか」




キャラクタァ~紹介&解説

呉島新&神谷兼人
 前回の戦闘でMt.レディが入院した所為で、二日目にして天国から地獄に向かうことになった二人。片や自分の将来の為。片や巨額の報酬の為に頑張るが、下記のポンコツ親父と空気の読めない無愛想な息子の所為で、まともな神経をしている方が辛い思いをする羽目になっている。
 原作を見た感じでは、前線で体を張って戦うヒーローの方が割合としては多そうなので、実際に雄英の方も「プロヒーローが負傷し、職場体験が続行不可能になる」と言ったトラブルに対しては、ちゃんと対応策を考えているのではないか……と作者は思っている。

エンデヴァー&轟焦凍
 すれ違う親子。『すまっしゅ!!』ネタが入っている所為で、親父の方はポンコツな上に器が小さく、もはや息子に良い所を見せるためなら手段を選ばない。息子は息子で、親の心を知らなければ、友人の心も知らない。てゆーか、察する事が出来ない。
 恐らく、轟が幼い頃からエンデヴァーによる徹底した英才教育を受けた事によって、対人関係が希薄になっていた事が原因。つまり、エンデヴァーにとって今回の件は「身から出た錆」。子育てって難しい。

ステイン
 この作品に『ヴィジランテ』タグを入れる事になった最大の原因。『ヴィジランテ』第二巻の巻末を見る限りスタンダールと同一人物らしいので、この作品では同一人物として扱う事に。その所為で原作とは現在に至るまでの経緯が少々異なる。
 雄英体育祭が行われていた頃、古き良き時代の石ノ森ヒーローが現代に顕現した事に興奮しつつ、インゲニウム襲撃も同時にこなしていた。そして今年の雄英体育祭を録画しなかった事を死ぬほど後悔している。
 原作と『ヴィジランテ』に加えて『すまっしゅ!!』の要素が入っている所為で、何か原作と違って色々と愉快な部分がある人物になってしまったが、作者的にはこの方が面白いからコレで話を進めていこうと思います。



インゲニウム襲撃事件
 これに関しては原作と『ヴィジランテ』を見て、「どうしてインゲニウムはステインに襲われたのか?」と言う疑問があったのだが、最終的に作者はステインが「超人大好き人間」である上に、「ヒーローになる動機が『モテたい』とか言う人間が嫌い」と言う二点が理由なのでは無いかと結論。『すまっしゅ!!』でも「モテてー」「金持ちになりてー」とか言ってる奴(同級生?)にスゲェ顔してたし。
 ちなみにインゲニウムの「モテたい」発言だが、元々は原作で飯田に対して言った言葉である。インゲニウムとしては冗談半分だったのだが、それがまさかこんな事態を引き起こすとは思ってもいなかっただろう。でも、この世界ではシンさんによる復活フラグが立ってるから、まだマシな方かも知れない。

超常黎明期の仮面ライダー
 所謂ヴィジランテに相当する……と言うかヴィジランテしか居なかった時代のヒーロー達。複数人が存在しており、全員が異形系で生物型の“個性”持ち。そして先生ことオール・フォー・ワンは、彼等と対戦した過去がある……と言う設定。彼等の持っていた“個性”はそれぞれ『クワガタ』、『ドラゴン』、『カミキリムシ』、『コウモリ』、『オオカミ』、『カブトムシ』、『トカゲ』、『ピラニア』、『トンボ』、『スズメバチ』、『カマキリ』、『オーガ』、……って感じだったとか。
 ……え? ドラゴンやオーガは生物型なのかって? 悪魔の実にはゾオン系で幻獣種というものがあるじゃないか。だからドラゴンや鬼は生物型だ。異論は認める。

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