怪人バッタ男 THE FIRST   作:トライアルドーパント

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今月で『怪人バッタ男』シリーズが始まって2年と言う事で、以前にアンケートをとった「シンさんに行って欲しい世界」のクロスオーバー作品を、短編という形でこの後に投稿します。
アンケートを参考にして、試しに幾つか書いてみたのですが、今回はリアルな時間の問題もあって「プリキュアの世界」だけになります。予定ではもっと投稿する予定でしたが、とても8月中に間に合わない事から、一つだけになってしまった事をお詫び申し上げます。内容としてはギャグ一辺倒ですので、気軽にお楽しみ頂ければ幸いです。

そして、今回は小説版の授業参観編ですが、思ったよりも字数が増えなかったので、二話にするつもりだった話を削って継ぎ足して……とやって一話にまとめると言う今までに無い事態に。それなりに長く書いていると、こんな事もあるようです。

今回のタイトルの元ネタは『スカイライダー』の「来たれ城茂! 月給百万円のアリコマンド養成所」から。久し振りに昭和ライダーのタイトルを採用したケド、中身は『ビルド』ネタばっかりだったりします。

何はともあれ、『怪人バッタ男』の物語を今後とも宜しくお願いします。

2018/8/27 誤字報告より誤字を修正しました。報告ありがとうございます。


第32話 来たれ保護者! 月給百万円(?)のヒーロー養成所

勇学園との合同実習が終わってから約一週間後。出久から「超常黎明期のヒーローの回顧展を一緒に見に行こう」と誘われ、二人で行ってみると異様な盛況を見せる回顧展の一角に、超常黎明期の『仮面ライダー』を紹介するコーナーがあり、そこに何故かコスチュームを着た俺の写真が混ざっていた。

 

その光景はまるで「生きた化石」。近代で発見されたシーラカンスの様な扱われ方を見て、いっその事父さんの研究所からスペアの強化服を強奪し、それを装着した状態で回顧展を巡って現場を混乱させてやろうかと言う、心の底から湧き上がるドス黒い衝動を抑えつつ、最終的に幾つかの『仮面ライダー』の関連グッズを買って、何も問題を起こすことなく帰宅した。

 

ちなみに出久は『オールマイトのミニミニフィギュアつきジュース』やら、オールマイトの特集&ヒーロー活動の未公開写真が載っている『月刊ヒーロー』やら、月末発売の『ヒーロー大全集改訂版』やらを買う為に小遣いをやりくりしているらしく、回顧展ではグッズはそんなに買っていなかったし、昼飯も相当に切り詰めているのかプロテインゼリー1個だった。

 

そして、遂に訪れた授業参観当日。麗日の創作餅料理や、常闇ロリコン説で盛り上がる中、ショートホームルーム開始のチャイムが鳴ったにも関わらず、合理主義が人の形をして歩いている様な相澤先生が教室に現われないと言う非常事態にクラスが先程とは違う意味でざわつき、ショートホームルーム終了のチャイムが鳴って間も無く、相澤先生から『今すぐ模擬市街地に来い』と言うメールが、全員のスマホやケータイに一括送信されてきた。

この事に関しては、上鳴が「手紙の朗読と施設案内を兼ねて合理的に授業をするつもりなのではないか?」と言って、クラスの皆も一応は上鳴の意見に納得していたのだが……。

 

「……出久。どう思う?」

 

「そうだね……僕は、相澤先生がそんな二度手間な事するかなぁって思うんだケド……」

 

「確かに相澤先生らしくはないな。だが、何か先生なりの考えがあるのではないか?」

 

「例えば?」

 

「例えば、ヒーローが呼ばれるときは何時も突然だ。だから、その咄嗟の対応を今から訓練しているとか」

 

「……それなら、ショートホームルームが終わってから、クラス全員のケータイにメールが一括送信されているのはどう説明する? 多くても委員長と副委員長の二人に送信すれば事足りるメールを、わざわざクラス全員に送るとは思えない」

 

「言われてみりゃ、確かにそうだな。相澤先生らしくねぇ」

 

徹底的に無駄を嫌う相澤先生らしくない行動に疑問を持ち、俺、出久、飯田、轟の四人でメールの意図を考えていたが、他の面々は大して気にしていないようで、峰田に至っては「うっかりしてたんだよ、うっかり相澤だよ」と、相澤先生の逆鱗に触れそうな発言をしている。

 

しかし、いざ模擬市街地に到着してみれば、想像を絶する展開が俺達を待ち構えていた。

 

まず、到着して直ぐにガソリンの臭いを嗅ぎつけた障子の言葉に俺達が不安を覚えた直後、模擬市街地の奥から聞こえる小さな悲鳴を聞いて、全員が悲鳴の元へ駆けつけてみれば、何たることぞ。

市街地はビルが倒壊して空き地と化し、ビルが建っていた場所には巨大な穴が空いており、中央には大きな四角形の檻が、丸かじりして残されたリンゴの芯の様に削り取られた地面の上に立っていた。穴の中には大量のガソリンが流し込まれており、これが臭いの発生源である事は明らかだった。

 

しかし、それよりも何よりも俺達の心を混乱させたのは、檻の中に出久のおばちゃんや勝己のおばちゃんを筆頭とした、授業参観に来たであろう保護者の方々が入っている事だった。

 

「何だよコレ!? 何で親があんなとこに……」

 

「つーか、相澤先生は?」

 

「イレイザー・ヘッドなら、とっくの昔に土の中さ。来年の春になったら綺麗な花が咲くんだろうねぇ」

 

聞いたことの無い男の声に、思わず全員がその場で身構える。緊急事態に陥る事は『敵連合』の事件で既に経験済みである為、こうした場面に遭遇した時の切り替えは、既にクラスの全員が自然と身に付けていた。

 

「土の中って……」

 

「相澤先生がやられちゃたって事?」

 

「嘘だよ! 何かの冗談だろ!? もうエイプリルフールは過ぎてんだぞ! つーか、お前は誰だよ! 姿を見せろ!」

 

「俺か? 俺は『ゲームメイカー』だ。あらゆる情報を鑑みて、最上の戦術を考える。全ては計画通りだ」

 

「計画……?」

 

ゲームメイカーを名乗る男の発言に訝しく思う俺だったが、何処からか俺達の動向を見ている事は確かだ。しかし、周囲には俺達以外に人の気配はない為、カメラか何かを使っているのではないかと思い始めた時、障子は声の主の所在を突き止めた。

 

「違う。この周りじゃない。声はあの檻の中から聞こえる」

 

「檻の中?」

 

「ビンゴォ! 中々やるじゃねぇか!」

 

そう言って姿を現したのは、コブラを模したフルフェイスのヘルメットを被り、紫を基調としたスーツを身に纏った男だった。右手にはサーベルの様な武器が握られている。

 

「おっと、先に言っておくが外部への連絡は出来ない様にしてある。勿論、そこのナンパ小僧の“個性”でも不可能だ。当然、ここから逃げて助けを呼ぶとか、誰かに助けに来て貰うのも無しだ。その瞬間、此処にいる保護者を始末する」

 

「マジか……くそっ!」

 

やはり雄英体育祭の関係からか、俺達の“個性”は完全に割れているらしい。先手を打たれて外部に連絡を取る事は出来ず、更には親を人質を取られていると言う未だかつてない危機的状況に加え、檻の中にいる麗日のお父さんや、八百万のお母さんの悲鳴。そして、梅雨ちゃんのお父さんの蛙の“個性”に由来する危険音によって、皆は急速に冷静さを失っていった。

 

しかし、檻の中に俺の父さんの姿が見えないのは何でだ? 今日の授業参観には来るって言っていたのに。それに、あのヴィラン……此処はコブラ男と仮称するが、奴のコスチュームがどことなく俺の強化服と似ているのも非常に気になる。

 

「何で……何でこんな事を……!」

 

「聞きたいのはそんな事か? まあ、簡単に言えば俺の望みは『お前達の成長』だ。そして、お前達が強いヒーローになるかどうか試してるんだよ。真にヒーローに相応しいかどうかをな」

 

「ごちゃごちゃ言ってんじゃねぇ! 要は今すぐブッ倒されてぇってこったろうが!!」

 

「ほう……それじゃあ、まずはお前からかぁ?」

 

「キャア!」

 

「!! チッ! 勝手に捕まってんじゃねえよ、クソババア!!」

 

「クソババアって言うなって何時も言ってるでしょうが!!」

 

「「「「「「「「「「………」」」」」」」」」」

 

人質になっているにも関わらず、勝己のおばちゃんは相変わらずだった。その場の空気が一変する程の怒号は俺達にある種の安心感を与え、少しばかりの冷静さを取り戻してくれた。

 

「空気を読んで欲しいねぇ。だが、面白い。お前を殺すのは最後にしよう。そうなると……誰から逝くか?」

 

「! ま、待って下さい! 貴方の目的は何なんですか?」

 

「言った筈だ。俺の目的は『お前達の成長』だ。大切な者を失うまいとする刹那、人は何よりも強くなる。そして、実際に大切な者を失い、絶望から這い上がった者は、以前とは見違えるように強くなる! 今日この場で、目の前で愛する者を救えず、その命が無残に散っていく様を眼に焼き付ける事で、お前達はヒーローとして本当の意味で強くなれる!!」

 

「そんな事の為にかッ!?」

 

「俺達を強くしたいなら、俺達に来いよ! 家族巻き込むんじゃねぇ!!」

 

「いやいや、あながち間違いでもないだろう? 今でも子供の頃に災害に遭った事で救助を専門に活躍するヒーローになったとか、ヴィランに親を殺された子供がヒーローになってそのヴィランを捕まえたとか、そんなお涙頂戴のドキュメンタリーがあるじゃねえか。実際に復讐心ってヤツは、中々馬鹿に出来ないモンだ。それこそ復讐を果たす為に、形振り構わず強さを欲するからなぁ」

 

「「………」」

 

出久の質問にコブラ男は飄々とした言動で答え、コブラ男の答えに尾白と切島が憤慨するも、コブラ男は全く意に介していない。むしろ、コブラ男の言葉に轟や飯田が当てられており、事態はむしろ悪化していると言える。

 

「それとなぁ、お前ら。何でお前らの家族がこんな危険に晒されているか、分かってるのか?」

 

「ああ!? んなもん、テメェのせいに決まってんだろうが!!」

 

「違うな。答えはお前達が『ヒーローだから』だ。ヒーローや警察と言った正義を執行する類いの人種は、常に自分の大切な者を危険に晒すリスクを負っている。それはヒーローを志した以上、遅かれ早かれ味わう事だ。それとも、本気で『自分の大切な者がヴィランに狙われない』とでも思ってたのか? だとしたら……能天気にも程がある」

 

「………」

 

ムカつく事だが、コブラ男の言う事は正論だ。実際にオールマイトのお師匠さんは家族をヴィランに殺されているし、『敵連合』がオールマイトを狙って雄英を襲撃した際には、ついでとばかりに俺達も命を狙われた。

そういう意味では、家族を作らないオールマイトよりも、子だくさんのエンデヴァーの方が凄いと言う見方も出来るかも知れない。

 

「かつての俺もそうだった。そして失った……愛する妻と娘をなあッ!」

 

「! 貴方も正義を成す人間だったのなら、こんなバカな事は今すぐ止めなさい!」

 

「そうだよ! こんな事して奥さんと娘さんが喜ぶと思ってんの!」

 

「さあな。だが、少なくとも俺はそんな覚悟も無しにヒーローになり、家族を持った事を後悔している。だからこそ、俺はそれを知らしめる為にここに居る。大切な者を失う覚悟も無い人間は、ヒーローになるべきじゃあない。そして、お前達も失う。俺も今はヴィランだからなぁ」

 

……不味いな。話を聞く限り、どうやらコブラ男はどうあっても檻の中の保護者を皆殺しにするつもりだ。つまり、交渉の余地が全く無い相手だと言う事であり、解決するにはコブラ男を捕まえる他ないのである。

 

「おっと! それからもう一つ良いことを教えてやろう! 俺が着ているこのコスチュームだが、コレは今噂のバッタ男の父親の研究所から盗んだ物だ。そして、研究所には俺の仲間がいて、バッタ男の父親を人質に取っている。もしも、俺を攻撃したらバッタ男の父親は死ぬ。因みに7体のイナゴ怪人は全滅して、助けにはこれないぞ?」

 

「!!」

 

何だと!? それで父さんが檻の中に居ないのか! 最近では正規のサポート会社がヒーローのライセンスを持っていない人間にコスチュームを横流ししていると聞くから、コブラ男のコスチュームもその関係で手に入れた物ではないかと思っていたが、まさか研究所を襲撃していたとは!

 

「これが証拠だ。ホレ」

 

「!! これは……ッ!!」

 

コブラ男が投げて寄こしたスマホを見ると、画面にはコブラ男と同じく紫を基調とした強化服を纏い、ヘビを模したヘルメットを被った女が、鞭を父さんの首に巻き付けていた。コブラ男のそれと違って女性用だからか、ヘルメットは顔の下半分が露出しており、女の口が愉悦に歪んでいる。

 

「それじゃあ、僕達がお母さん達を助ければ、あっちゃんのお父さんが殺されて。あっちゃんのお父さんを助ければ、僕たちのお母さんが殺されるって事!?」

 

「そんな……!」

 

「く……ッ!!」

 

突如突きつけられた究極の選択。どちらを取っても確実に犠牲が出る二者択一の難題を前に、俺達は迂闊に動くことが出来なくなってしまった。その上、イナゴ怪人達が全滅したのであれば、奴等を使った二正面作戦を実行する事も不可能だ。

 

「どうしたぁ! 何を躊躇っているッ! お前達には守るモノがあるんじゃないのかッ!? 自分が信じた正義の為に戦うと決めたんじゃないのかッ!? それとも全部嘘だったのかあッ!?」

 

「ッ!! 言うに事欠いて、このマッチポンプ野郎……ッ!!」

 

もっともらしい事を言いながらも、その実「ヒーローになる為に親を殺せ」と言っているコブラ男に脳細胞が沸騰しそうな程の怒りを覚えると、憤慨する轟を筆頭とした俺の周りにいる皆も同じ気持ちなのか、コブラ男に刃物の様な鋭い視線を向けている。

 

「……あ、あのさ、そう言う美しくない犯罪は良くないと思うんだよね☆ それより、僕の美しい顔を見ていれば犯罪を起こそうと言う気持ちにならないと思うんだ。ねえ、君もそう思うよね? 口田君!」

 

「あ、あの、その……うん」

 

「何で無口な口田君に振った!?」

 

「口田困ってるじゃねぇか!!」

 

そんな中、膝が若干笑っている青山が前に出た事で、俺達の周りに流れていた空気が変わった。常日頃から何を考えているか分からない男であるが、今回ばかりは誰もが青山の行動の意図を理解した。

 

即ち、コブラ男の注意を引いての時間稼ぎ。

 

消極的な策だが、時間を稼ぐことで事態が好転する可能性も無くはない。そして、上手くすれば誰も犠牲になる事の無い逆転の一手を、俺やこの中の誰かが思いつくかも知れない。

 

「残念だが、俺は誰の指図も受けない。そろそろ始めるとしようか?」

 

しかし、現実は非情であった。コブラ男は青山の目的を察したのか、此方を無視して檻の中の保護者を物色しだしたのだ。

 

多くを助ける為の小さな犠牲。そんな、俺が最も嫌う現実を選ばざるを得ない事を理解した俺が変身を決意した瞬間、出久が俺の手を握って止めた。

 

「待って! 止めてあっちゃん!」

 

「だが……!」

 

「此処であっちゃんが戦ったら、今度は僕達が絶望するッ!!」

 

「~~ッ!!」

 

出久の言葉に周りを見渡すと、誰もが俺に「止めてくれ」と言わんばかりの視線を向けており、中には瞳に涙を溜めている者さえ居た。

 

……ああ、そうだな。俺が戦えば確実に父さんは殺される。そうなれば、コイツ等はずっと俺に対して負い目を感じて生きていくに決まっている。下手をすれば雄英を自主退学する奴だって出てくるかも知れない。

しかし、それは逆もまた然りだ。結局、一切の犠牲を出すことなく事件を解決しなければ、俺達は必ず心の奥底から絶望する事になるのだ。

 

「どうやらアテが外れたらしいなぁ。残念だ。そうやってお前達は、大切な者を見殺しにしていくんだなぁ……。それじゃ、手始めにコイツから始末するか」

 

「ひっ!」

 

「止め……ッ!」

 

そして、コブラ男が出久のおばさんの首に手を掛けたその時、不思議な事が起こった。

 

『フハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!』

 

『きゃぁああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!』

 

「!?」

 

突如、聞き覚えのある高笑いと女の悲鳴がコブラ男から渡されたスマホから聞こえてきた事にギョッとした俺がスマホを見ると、ミュータントバッタの大群が画面を覆いつくしており、ミュータントバッタが去った後には、気絶して倒れているコブラ男の仲間の女の姿があるだけで、拘束されていた筈の父さんが居なくなっていた。

 

「えッ!?」

 

「消えた!?」

 

画面の中で起こった出来事に俺と出久が驚く中、俺達の前にミュータントバッタの大群が空を飛んで現れた。そして、何たることぞ。ミュータントバッタの大群の中から父さんが姿を現したのだ。

 

「父さん!?」

 

「新……?」

 

「!? 馬鹿な! イナゴ怪人は7体全部斃した筈ッ!!」

 

そうだ。イナゴ怪人は全滅していた筈だ。実際に俺の放ったテレパシーにも、イナゴ怪人2号からスカイまで“7体のイナゴ怪人”からは何の反応もなかったのだから。

 

「7体? それは違う。貴様は知らんのだろうが、イナゴ怪人は全部で8体だ」

 

しかし、コブラ男は知らなかったのだ。イナゴ怪人が全部で8体居る事を。そして俺も知らなかった。ヨーロッパに旅立った最古のイナゴ怪人が、日本に戻ってきていたと言う事を。

 

「お、お前はッ!?」

 

「そう! 私はヨーロッパから桜島を経由し、更なるパワーアップを果たして帰ってきたッ! イナゴ怪人1号ッ!! 行くぞ、コブラ男よ!! トォオオオオオオオオオウッ!!」

 

高らかに名乗りを上げた後、帰ってきたイナゴ怪人1号は再びミュータントバッタの大群に変化すると、そのまま人質とコブラ男が入っている檻を通過する。

すると、檻の中はコブラ男だけを残し、人質となっていた保護者達が一人残らず消えていた。そして、イナゴ怪人1号が俺達の元へ戻ると、先程まで檻に入っていた保護者達が無傷で俺達の傍に勢揃いしていたのだ。

 

「お母様!」

 

「父ちゃん!」

 

「コレは……!」

 

「フハハハハハハ! 見たか王よ! これこそ私がヨーロッパで体得した新たな力! その名も『ローカスト・エスケープ』だッ!!」

 

地味に凄い能力を引っ提げて帰ってきたイナゴ怪人1号によって、人質は全員無事に救出された。こうなれば、もはや俺達に怖いモノはない。心配の種が無くなった事で、思う存分戦う事が出来るのだ。

 

……おのれ、コブラ男ッ!! 貴様だけはッ!! 絶対にッ!!

 

ゆ゛る゛さ゛ん゛ッ゛ッ゛!!!

 

「WRYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYY!!」

 

「グボォオッ!!」

 

マグマの如き灼熱の憤怒により、一瞬にして超マッスルフォームへと変身する。制服と下着が全て弾け飛んで全裸になるが、そんな事は全く気にしない。誰よりも早く一足飛びに檻までジャンプし、渾身の力で檻を蹴っ飛ばすと、コブラ男はひしゃげた檻諸共、瓦礫の山に勢いよく突っ込んだ。

しかし、コブラ男が父さんの造った強化服を纏っている事を考慮すれば、この程度の攻撃では中身はビクともしない筈だ。コブラ男に反撃の機会を与えないように、このまま一気に勝負を決めなければならない。

 

「DYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

 

「あばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばぁあああああああああッ!!」

 

檻を手首についたカッターで切断しつつ、コブラ男に全力で拳のラッシュを叩き込む。拳に込められた怒りのパワーはヘルメットの耐久力を上回り、見る見る内にヘルメットが砕け散っていく。

 

そして、ヘルメットの下から出てきたコブラ男の素顔は――。

 

「ま、待て……そ、そんな、気合いの入ったヤツ、ばっかり叩き込まれたら……死ぬって……」

 

「!?」

 

意外ッ! それは、プレゼント・マイクッ!!

 

「心配するな、バナーヌ・テットゥ。その強化服を着ているお陰で、貴様は死んだ方がマシになるだけで、絶対に死ぬ事はない」

 

「………」

 

それはもう、殺した方が相手にとって慈悲になるレベルではないかと思うが、ボコボコにしたのは他ならぬ俺なので何一つとして文句は言えない。

 

しかし、犯人がプレゼント・マイク先生なのはどう言う事だ? そして、研究所で父さんを人質に取っていた、あのスネーク女(仮称)は一体誰だ? 

 

「はい。授業はこれでおしまい。そして先生は此処です」

 

「!?」

 

取り敢えず、迅速に研究所へ向かい気絶したスネーク女を捕まえなければと思った矢先。倒壊したビルの陰から相澤先生が普段通りの恰好と声色で、困惑する俺達の方に近づいていた。

 

 

●●●

 

 

結論から言うなら、今回の事件は雄英と保護者が仕掛け人になった盛大なドッキリだった。そして、コブラ男とスネーク女が着ていたコスチュームは父さんが用意した物であって、別に盗まれた訳でも何でも無かったのだ。

 

ちなみに、コブラ男とスネーク女の人選に関してだが、元々はエクトプラズム先生の分身を使う予定だったのを、プレゼント・マイク先生が「声の仕事は得意なんだYO!」と言う理由から立候補し、それに釣られる形でミッドナイト先生がスネーク女に立候補したのだとか。

ちなみに、コスチュームには変声機能が組み込まれていたので、正体がプレゼント・マイク先生とミッドナイト先生だとは、俺を含めてクラスの誰一人として分からなかった訳なのだが。

 

「もっとも、本来ならガソリンに火を点けた上で、檻が乗ってる土台を爆破する予定だったんだがな」

 

「なっ! 幾ら何でもそれは流石にやり過ぎなのでは!? 一歩間違えば怪我では済みません!!」

 

「万が一には備えてある。それにやり過ぎって事は無い。プロのヒーローは常に危険と隣り合わせだ。それに身近な家族の大切さや、ヒーローをやっていくリスクは口で言っても分からない。今にも失いそうな状況で初めて気付くことが出来るんだ。今回はソレを実感して欲しかった」

 

「「「「「「「「「「………」」」」」」」」」」

 

「で、結果的に全員無事に助ける事は出来たが……こーゆーイレギュラーは、正直タメにならんな」

 

「何をぬかすか、イレイザー・ヘッドよ! ヒーローに“個性”不明のアドバンテージが無い以上、ヒーローは常に進化し進歩しなければいずれヴィランに追いつかれ、追い詰められるは必然ッ!! そう! 私はお前達で言うところの『Plus Ultra』を実践しているに他ならないのだッ!!」

 

「「「「「「「「「「………」」」」」」」」」」

 

うむむ……悔しいが、イナゴ怪人1号の言う事はもっともだ。実際問題、メディアに露出していない隠し球の一つでも常に用意しておかなければ、対ヴィラン戦においてヒーローが非常に不利となる事は今回のドッキリで証明されている訳なので、俺達はおろか相澤先生も言い返す事が出来ないでいる。

 

「……まあ、それは別としてだ。人を助けるには力、技術、知識、そして判断力が不可欠だ。しかし、判断力は感情に左右される。お前達がヒーローになれたとして、自分の大切な家族が危険な目に遭っていても変に取り乱さず、助ける事が出来るかを学ぶための授業だったんだよ。

冷静なだけじゃヒーローってヤツは勤まらない。助けようとする誰かは“只の命”じゃない。大切な家族が待っている誰かなんだ。それを肝に銘じておけ」

 

「「「「「「「「「「――はいッ!!」」」」」」」」」」

 

「それじゃ、今日の反省点をまとめて、明日提出な」

 

「「「「「「「「「「ええ~~!?」」」」」」」」」」

 

やはり、相澤先生だ。教育に対する厳しさは他の追随を許さない。ちなみに、保護者に対する感謝の手紙は、「普段より家族の事を考えるためのもの」だったらしい。

 

そして、授業終了のチャイムが鳴り、今日はこのまま解散する事となった為、皆それぞれ自分の家族の元へ向かっていった。かく言う俺も父さんの元へ向かっているのだが、それ以上に帰ってきたイナゴ怪人1号が気になるのは何でだろうか?

 

「……もしかして、何時もこんな感じなのか?」

 

「うん。割と……」

 

「そうか……でも、安心したよ。ずっと出久君としか遊んでいなかったお前が、ここで沢山友達を作っていてな」

 

そう言われて考えてみれば、この間八百万を紹介しただけで、対人関係に関しては全くと言っていい程、父さんを安心させてやれていなかった様な気がする。そう考えると、今回の授業参観で俺の事を心配するクラスメイトを見せる事が出来たのは、父さんを安心させる事に繋がったと言えるだろう。

 

「うむ! それでは我が能力を使い、研究所に戻るとしようではないか!」

 

「いや、“個性”の使用は禁止されてるんだが……」

 

「問題ない! 我々イナゴ怪人は人間ではないし、我々が備えている能力は“個性”ではないからな! ……うん?」

 

屁理屈をこねるイナゴ怪人1号が『ローカスト・エスケープ』を使い、俺達を父さんの研究所に移動させようとした時、イナゴ怪人1号は轟とその隣にいる女の人に注目していた。

 

「王よ。半分こ怪人Wの近くに居る、あの女は誰だ?」

 

「ん? ああ、あの人は轟のお姉さんだ」

 

「……妙だな。此処に来る途中、エンデヴァーが必死な形相で此処に向かっているのが確かに見えた筈なのだが」

 

「え……?」

 

最後の最後で、轟家における家族間の情報伝達と意思疎通に不安を覚えるような情報が浮上したが、嬉しそうな顔で姉と会話を交わす轟を見て、俺は触れてはいけない事実に、黙ってそっと蓋をした。

 

 

●●●

 

 

心臓に悪かった授業参観が終わり、残す一学期のイベントは一週間後の期末テストを残すのみ。しかし、この期末テストで赤点を取ったが最後、夏休みに行われる林間合宿に参加する事が出来ず、学校で補習地獄を受ける羽目になる。

 

当然、誰だって学校での補習地獄よりは林間合宿の方が良いため、各々でちゃんと勉強しているだろう……と思っていたのだが――。

 

「全く勉強してねーーーー!! 体育祭やら職場体験やら全く勉強してねーーー!!」

 

「あっはっはっはっは!」

 

「確かに。行事続きではあったが……」

 

我らがA組の誇る二大巨頭(笑)である上鳴と芦戸は兎も角として、常闇もあまり勉強は出来ていないらしい。まあ、俺もトレーニングの時間を含めると、平日は予習復習に当てる時間は少ないので、人のことはあまり言えないのだが。

 

「中間はまぁ、入学したてで範囲狭いし、特に苦労も無かったんだけどなー。行事が重なったのもあるケド、やっぱ期末は中間と違って……」

 

「演習試験もあるのが辛ぇトコだよな」

 

砂藤や峰田の言う通り、確かに期末試験の最大の懸念材料はソコだ。ヒーロー科ならではと言う感じではあるものの、何をやるのか分からなければ対策を練ることもままならない。

もっとも、上鳴と芦戸に関しては単純に中間で9位を取った峰田の学力と、それに裏打ちされた余裕ぶっこいた態度が気に入らないようなのだが……。

 

「アンタは同族だと思ってた!」

 

「お前みたいな奴は馬鹿ではじめて愛嬌出るんだろうが……! 何処に需要あんだよ……!」

 

「“世界”……かな?」

 

調子に乗っている所で悪いが峰田、ハッキリ言ってその言動と態度は大変よろしくない。

 

何故ならば、そう言う「独学で勉強が出来る」みたいな事を言うのは、勉強会という男女で仲良くキャッキャウフフな展開へ至るためのフラグを自らへし折る愚行に他ならないからだ。

しかし、残念ながら峰田は二人よりも優れた知力を持っている優越感に浸っているせいか、その事に全く気付いていない。

 

「芦戸さん、上鳴君! が、頑張ろうよ! やっぱ全員で林間合宿行きたいもん! ね!」

 

「うむ! 俺もクラス委員長として、皆の奮起を期待しているッ!」

 

「普通に授業受けてりゃ赤点は出ねぇだろ」

 

「言葉には気をつけろ!!」

 

おぉーっと! 此処にきて中間テストで4位、2位、5位を記録した、出久、飯田、轟の三人による精神攻撃だ!! 上鳴は思わず心臓を抑えているッ!! ちなみに俺は中間では6位で、総合点で梅雨ちゃんと同点だった。

 

「お二人とも。座学なら私、お力添え出来るかも知れません」

 

「「ヤオモモーーーッ!!」」

 

「まあ、演習の方は不安が残りますが……」

 

「!!」

 

来たか! 男女で仲良くワイワイやるフラグがッ!! そして、今までの俺ならば決してこうした会話には介入する事が出来なかったが、雄英に来て大幅に成長した今の俺は、これまでとは一味も二味も違うぜ!!

 

「実技に不安があるなら相手するが……どうだ? やるか?」

 

「え!?」

 

「お二人じゃないケド、ウチも良いかな? 二次関数の応用ちょっと躓いちゃってて……」

 

「悪ぃ俺も! 八百万、古文分かる?」

 

「俺も良いかな? 幾つか分からない部分あってさ……」

 

「「「お願いッ!」」」

 

「………」

 

アレ? おかしいな? 会話の流れが何か思っていたのと違うぞ? でもその事を指摘するのは何かアレだから黙っているのだが、何か俺だけ蚊帳の外の様な気が……。

 

「皆さん……良いデストモッ!!」

 

「この人徳の差よ」

 

「俺もあるわ! テメェ、教え殺したろか!?」

 

「おお! 頼む!」

 

「………」

 

切島の言葉が人知れず俺の心にクリティカルヒットし、今だけは勝己の心臓に生える剛毛を少しでも分けて貰いたいと本気で思った。

 

 

●●●

 

 

魂に刻まれた根深い心の闇が刺激され、俺の中からナニカ禄でも無いモノが生まれそうになる感覚を耐えきると、俺は出久達と一緒に食堂で昼食を取りながら、期末の演習試験について話し合っていた。

 

「演習試験か……筆記試験は授業範囲内から出るからまだなんとかなるケド、演習試験が内容不透明で怖いね……」

 

「突飛なことはしないと思うがなぁ」

 

「筆記試験は何とかなるんやな……」

 

「演習試験……本当になにやるんだろ?」

 

「一学期でやった事の総合的内容――」

 

「……とだけしか教えてくれないんだもの、相澤先生」

 

「戦闘訓練と救助訓練。あとは、ほぼ基礎トレだよね?」

 

「……いや、あくまで『一学期でやった事』だから、『一学期でやった授業』だとは限らない。この間の職場体験や勇学園との合同演習に加え、USJでのヴィランとの戦闘なんかも『一学期でやった事』ではある」

 

「何にしても、試験勉強に加えて体力面でも万全に……あイタッ!」

 

「ああ、ゴメン。大きいから当たってしまったよ」

 

「B組の! えっと……「振朕」振朕君!! よくも!!」

 

「誰がフル○ンだ!! 僕は物間だッ!!」

 

明らかに故意に絡んできたと思われるB組の物間に対して、何時の間にか出久の傍に出現していたイナゴ怪人ストロンガーが、出久に物凄い超大嘘を教えていた。一方で、流石にイナゴ怪人ストロンガーの介入は予想外だったのか、物間は完全に出鼻をくじかれている。

 

「何? 貴様は体育祭での活躍からヒーロー名を“ストリーキングヒーロー『全裸マン』”にして、名前を『寧人』から『振朕』に改名したのではなかったのか?」

 

「そんな訳あるかッ!!」

 

だろうな。そもそも、“ストリーキングヒーロー『全裸マン』”とは、イナゴ怪人ストロンガーが物間の為に考えたヒーロー名である。

 

もっとも、B組はA組と同時にヒーロー名を考えていた為、イナゴ怪人ストロンガーがその名をB組で披露する事は出来なかったことから、これまでその名が日の目を見る事は無かったのである。

とは言え、そんなヴィランみたいな名前と言うか、犯罪行為そのものをヒーロー名にするなど、教師陣がNGを出すに決まっているだろうが。

 

「オホン。所で君らヒーロー殺しに遭遇したんだってね?」

 

「ああ。その上、公然猥褻と猥褻物陳列罪の前科を持つ者に遭遇している。今」

 

「……体育祭に続いて注目を浴びる要素ばかり増えてくよね、A組って」

 

「いやいや、公共の電波で世界中のお茶の間に、剥けていない粗末なブツをモザイク無しで晒すのに比べれば、そんなに大した事じゃあない」

 

「……ただ、その注目って決して期待値とかじゃなくて、トラブルを引きつける的なモノだよね?」

 

「貴様はToLOVEるを引きつけるイチモツを持っているようだがな」

 

「いい加減、下半身から離れろッ!! あー怖い、怖い! 何時か君達が呼ぶトラブルに巻き込まれて、僕らにまで被害が及ぶかも知れないなぁ! 疫病神に祟られたみたいに! ああ、怖……」

 

「こんの痴れ者がぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!」

 

「※○〒◎△☆%◆▼♀♂〆&*@□#!?」

 

イナゴ怪人ストロンガーの手厳しいツッコミを受けながらも、物間は決して食い下がらずに俺達にいちゃもんをつけていたが、そこで何時の間にか物間のバックを取っていたイナゴ怪人1号が、物間の尻に渾身のカンチョーを叩き込み、その勢いで物間は空を飛んで天井に激突し、無事(?)に地上に戻ってきた。ちなみに、物間が持っていた料理はイナゴ怪人ストロンガーがキャッチしていて無事だ。

 

「良く聞けぃッ!! “ストリーキングヒーロー『全裸マン』”よッ!! 貴様はヒーローと言うモノを何も分かっていないッ!! ヒーローとは大前提として、“常にヴィラン達に命を狙われる存在”ッ!! つまり、ヒーローとは生きているだけで周囲の人間をトラブルに巻き込む事を、半ば宿命づけられた存在なのだ!! むしろ、自分や自分の周りの人間の命を脅かすヴィランが現われて、初めて一人前のヒーローと言えるだろう!! それが分かっていないなら、とっと雄英を立ち去るが良いッ!!」

 

「「「「「「「………」」」」」」」

 

現実問題として、№1ヒーローのオールマイトが数多くのヴィランに命を狙われている事を考えると、イナゴ怪人1号の言う事もあながち間違いとは言えないだろう。

しかし、当の物間は出目金の様に白目を剥きながら、砂浜のカニの様に口から泡を吐いており、更には尻を押さえながら釣り上げられたサバの様に激しい痙攣まで起こしている。確実にイナゴ怪人1号の話は聞こえていないだろう。

 

「……あー、うん。ゴメンなA組。コイツ、ちょっと心がアレなんだよ」

 

「拳藤くん!」

 

「心が……」

 

「全く! 好き勝手に乱入しては、思うがままに暴れて此方のペースを散々かき回しおってからに!! コッチは貴様の傍若無人な行動と言動の数々に、何時も迷惑しているのだぞ!! 恥を知れいッ!!」

 

「「「「「「「「「「鏡に向かって言えやッ!!」」」」」」」」」」

 

自分の事をこれでもかと棚に上げた発言をするイナゴ怪人1号に食堂全体から突っ込みが入る中、意外なことに拳藤が俺達に有益な情報をもたらしてくれた。

 

「まー、お詫びって言ったら何だけど、アンタ等さっき演習試験が不透明だって言ってたよね? 私、先輩に知り合いが居て聞いたんだけど、入試ん時みたいな『対ロボットの実戦演習』らしいよ?」

 

「! そうか、先輩に聞けばいいのか! そうだ、きっと前情報の収集も試験の一環に織り込まれていたんだ。何で気付かなかったんだ……」

 

「……!?」

 

「ああ、気にするな。何時もの癖だ」

 

「そ、そう……。じゃあ、私はコレで……」

 

出久のブツブツを見てドン引きしつつ、拳藤は未だに人語を話す事が出来ない物間を引きずりながら、食堂の喧噪の中に消えていった。

そして、残された物間の昼飯は、イナゴ怪人1号とストロンガーの二人がパセリも残さず、貪るように美味しく平らげていた。振朕……もとい、物間には後で金を払っておこう。

 

 

●●●

 

 

放課後。B組の拳藤から得られた貴重な情報を早速クラスの皆に伝えると、誰もが分かりやすいくらいに安堵の表情を浮かべていた。

 

「んだよ。ロボなら楽ちんだぜ!!」

 

「ほんと、ほんと!!」

 

特に、二大巨頭(笑)たる上鳴と芦戸の二人はそれが顕著に現われている。そして、対戦相手がロボだとするならば、基本的に対人を得意とする俺は完全に『御・役・御・免!』だ。

 

「人でもロボでもぶっ飛ばすのは同じだろ。何がラクチンだアホが」

 

「アホとは何だ、アホとは!!」

 

「いや、ボンバー・ファッキューの言う通り貴様はアホだ」

 

上鳴が勝己の言う事に食って掛かるも、勝己の言葉にイナゴ怪人1号が教室の扉を開けながら肯定する。その赤い複眼から放たれる視線はいやに鋭い。

 

「リビドー・スパーキングよ、よく考えてみろ。そもそも入試や体育祭で、我々が戦闘用ロボを倒せる事は教師陣も充分に分かっている。この学校の教育方針を考えるなら、仮に対ロボ戦が演習試験の内容なのだとしても、体育祭の時の様に入試の時に使ったロボをそのまま使ってくるとは思えん」

 

「ふむ……言われてみれば確かに、『上を行く者には更なる受難を』と言うスタンスを取る雄英が、入試と同じ対ロボット戦闘を演習試験に採用すると言うのは違和感があるな」

 

「だろう? 現に今年の体育祭の本戦は、限りなく実戦に近い形式を取っていた訳だしな。前年がそうだからと言って今年もそうなるとは限らん。そもそも、この学校はそう言う所だ。もっとも、我々にもそれなりの対応策はある」

 

飯田との会話で「我が意を得たり」と言わんばかりの怪人スマイルを浮かべたイナゴ怪人1号が取り出したのは、凝った装飾が施された銀色の腕輪の様なモノだった。内側には鋭いハリが何十本もびっしりとついていて、腕に着けたらとても痛そうだ。

 

「それは?」

 

「勇学園との合同実習の際に変異したゾンビウィルスを元に造り出された、イナゴ怪人専用の強化アイテム。その名も『ハザードレジスター』だ」

 

「「「「「「「「「「ハザードレジスター?」」」」」」」」」」

 

「コイツを腕に装着してスイッチを入れると、変異したゾンビウィルスが注入されてイナゴ怪人の肉体は一瞬でゾンビ化し、完全なる戦闘マシーンへと変わる事が出来る。コイツを使った我々と戦う事で、対ロボット戦闘はもとより、対人戦闘のスキルも強化する事が出来る。つまり、コレを使った我々に勝つことが出来れば、期末の演習試験は問題なく通過できると言う訳だ」

 

「あ……いや、別にそこまでしなくても……」

 

「遠慮は要らんぞ」

 

「いや、マシーン相手ならブッパで楽勝だって」

 

「……まだ分かってないようだな。いいか? 世間に出れば戦闘ロボの相手をする事などまず無い。幾ら誤魔化しても、ヒーローになれば遅かれ早かれ、貴様が抱えている苦労は決して避ける事は出来ない。それとも、本気で『今のままでも、これからも大丈夫だ』と思っているのか? だとしたら……脳天気にも程がある」

 

「何か最近、似たような事を聞いた気がするんだけど……」

 

「貴様が対人用に“個性”のコントロールをしないのは勝手だ。しかし、そうなった場合、誰がその被害を受けると思う? 貴様以外の全員だ。仮に貴様だけが林間学校に行けなくなったが最後、此処に居る全員が林間学校の間、ずっと貴様の事を負い目に感じて林間学校を過ごす事になる筈だ。

つまり、貴様が合格しなければこの場にいる誰もが林間学校を楽しむことは出来ない。しかし、今の貴様では演習試験に合格できない。そうなれば、合格した連中はよってたかって貴様を責める」

 

「「「「「「「「「「いや、そんな事しないよ/しねぇよ/しませんよ!?」」」」」」」」」」

 

「つーか、試験が対人戦だって決まったわけでもないし!」

 

「そうだぜ! ロボが相手ならやるだけ無駄だろ! その分の時間を勉強にあてた方が良いに決まってるじゃねぇか!」

 

「……何を躊躇っているッ! お前にはヒーローになって守りたいモノがあるんじゃないのかッ!? 自分が信じた正義の為に戦いたいんじゃないのかッ!? それとも全部嘘だったのかぁあッ!!」

 

「「「「「「「「「「ちゃんと話を聞けッ!!」」」」」」」」」」

 

先日のコブラ男の台詞をパクリ、その場の勢いと正論で誤魔化そうとしているイナゴ怪人1号だったが、イナゴ怪人達に耐性のあるA組の面々にソレは通用しなかった。

俺としては、もしかしたらイナゴ怪人1号はさっきの勉強会の話でハブられた感のある俺の為に頑張ってくれているのかも知れないと思うと、どうにも口を挟みづらいと言うのが本音である。

 

そんな混沌とした空気の中、誰もが予想しない人物が空気も読まずにA組に乱入した。

 

「それでは私の新作ベイビーはいかがでしょうか!?」

 

「む!? 貴様は、発目明ッ!!」

 

「はい! 体育祭以来、絶好調を維持しているサポート科の発目明です! 今回紹介するベイビーは『試作型戦闘ロボ・タイプG3』!! 私が造った初の人型ロボットで、体育祭でも宣伝しました『ライトニングソード』を改造した仕込み杖を武器に立ち回る優れものです! お値段は税込み46万円!!」

 

「タイプG3……タイプジーサン!?」

 

「美少女タイプならまだしも、爺さんの戦闘ロボなんて誰も買わねーよ!!」

 

「カッ、買ッテクレェエエエエエエエエイ!! 冥土ノ土産ニわしヲ買ッテクレェエエエエエエエエイ!! 一緒ニ三途ノ川ヲ渡ルノジャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

「ぐわぁああああああああああ!! 苦しぃいいいいいいいいいいいいいいいい!!」

 

発目が製作したジーサン型戦闘ロボに文句をつけた峰田に対し、ロボ爺は峰田の首を絞める事で峰田の購買意欲を引き出そうとしていた。ロボット三原則を完全に無視している様な気がするが、発目が造ったと思えば何ら不思議とは思えないのが不思議である。

 

「しかし、発目明よ。ジジイの戦闘ロボなど、果たして需要が有るのか?」

 

「何を言っているんですか! この現代において、老人を見たら激動の時代を生き抜いた“生き残り”だと思うべきじゃないですか!!」

 

「なるほど、一理あるな。しかし、過去にイナゴ怪人2号に手傷を負わせた武器を使っているからと言って、今の我々を超えている思っているなら大間違いだ。……王よ! オーダーを! オーダーを寄こせッ!!」

 

「……あー。やるなら、被害が少ない様に外で……」

 

「貰ッテクレェエエエエエエエエエイ!! めいヲ今スグ貰ってクレェエエエエエエエエエイ! コノ場デめいニ種ヲ植エ付ケ、わしニヒ孫ノ顔ヲ見セルノジャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

 

「……二度と復活できない様に念入りに破壊しろ」

 

「了解した、我が王よ! ぬぅんッ!」

 

『HAZARD・ON!』

 

「「「「「「「「「「ヤベェーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーイッ!!」」」」」」」」」」

 

その後、ハザードレジスターを起動させて外へ飛び出したイナゴ怪人1号と、仕込み杖を使って強化されたイナゴ怪人1号を倒そうとするロボ爺の戦いは、騒ぎを聞きつけたプレゼント・マイクの実況も相俟って、結果的に日常のちょっとしたイベントと化してしまった。

 

「次の期末なら個人成績で否が応にも優劣が付く……! 今度こそ完膚なきまでに差ァつけて、テメェ等全員ぶち殺してやるッ!!」

 

「………」

 

「おい、シン! 聞いてんのか!?」

 

「ああ、ゴメン。ハザードフォームのイナゴ怪人を操れるかどうか試してた」

 

尚、この最中に勝己が出久や轟に宣戦布告し、俺に体育祭での下克上を宣言していたのだが、クラスメイトの殆どがイナゴ怪人・ハザードフォームとロボ爺の戦闘に注目していた為、体育祭の時と違ってギャラリーが壊滅的に激減しており、注目されて追い込まれたい系男子の勝己に対して、ちょっと悪かったと思ったのは俺だけの秘密だ。




キャラクタァ~紹介&解説

コブラ男
 ニセヴィランその1。中の人はプレゼント・マイク。万丈構文によってヒロアカ世界でも五本の指に入る突き抜けた外道ぶりを見せたが、勿論演技なので心配しないで欲しい。まあ、その所為で怒り狂ってバーサーカーと化したシンさんによってボッコボコにされた訳だが。
 姿は『仮面ライダー THE FIRST』の「コブラ」だが、言動に関しては9割が『ビルド』の「ブラッドスターク」が元ネタ……てゆーか、まんまそれ。そして、コスチュームに組み込まれた変声機能による声もエボルトと同じ。そして、サーベルは王蛇のソードベントがモチーフと言うコブラづくし。

スネーク女
 ニセヴィランその2。中の人はミッドナイト。実は体育祭以降、イナゴ怪人が1体増えていたとは知らなかった為、丁度ヨーロッパから帰還したイナゴ怪人1号の襲撃を許してしまう。流石の18禁ヒーローも昆虫を用いたプレイには耐えきれず気絶に追い込まれてしまった模様。
 姿は『仮面ライダー THE FIRST』の「スネーク」で、武器として使っていた鞭もそれに準ずる。その為、上記のコブラ男のヘルメットには鞭がついていなかったりする。

イナゴ怪人1号
 何時の間にかヨーロッパに旅立ち、どう言う訳か桜島に寄り道してから帰ってきた怪人。ヨーロッパではイカでビールな怪人と死闘を繰り広げていたらしい。新しい能力を獲得した上に身体能力も上がっているが、性格はまるで変わっていない。
 尚、イナゴ怪人1号は「突然帰ってきて驚かせてやろう」と思っていたので、今回の帰還は本体であるシンさんは元より、他のイナゴ怪人達にもテレパシーで事前に知らされていなかった。つまり、彼の目には帰ってきたら研究所がヴィランに襲われている様にしか見えていなかった訳で……。

発目明
 作中屈指の自重しない女。先日行われたデザインコンペで自分のモノが採用された事で調子に乗り、テンションの赴くままに野望を乗せた人型戦闘ロボ・タイプG3(ジーサン)を造るに至る。ロボ爺はイナゴ怪人・ハザードフォームを相手にかなり善戦するが、流石に倒すには至らなかった。
 そして、この作品の終着点が「オールマイトVSオール・フォー・ワン」である事を考えると、恐らく今回が『THE FIRST』における彼女の最後の出番となるだろう。



ローカスト・エスケープ
 大量のミュータントバッタに包まれる事によって、本来なら通れない場所でも移動する事が出来る能力。元ネタは『鎧武』の最終回で登場したイナゴ怪人が行った撤退方法。要はコウガネ(に乗っ取られた少女)が「イナゴの群れ」を使って転移している様に見えるアレ。
 本作に限って言うなら、「USJでシンさんが黒霧から受けた“個性”のエネルギーを元にして、イナゴ怪人1号が開発した能力」と言う事で再現している。それにしても、USJでシンさんが黒霧に腕を切断されたのは、イナゴ怪人の新能力の伏線だと気付いた読者は一体何人いたのだろうか?

ハザードレジスター
 前話で入手した「変異したゾンビウィルス」から造られた、イナゴ怪人専用の強化アイテム。コレを使ったイナゴ怪人は、ゾンビ化する直前の命令を忠実に実行する様になる為、命令を出す時はそれなりの注意が必要になる。
 能力の元ネタは『ビルド』の「ハザードトリガー」だが、見た目は劇場版『アマゾンズ』の「アマゾンズレジスター」そのものである。だからと言って、イナゴ怪人アマゾン専用アイテムと言う訳ではない。

万丈構文✕2
 今話を執筆中、「遂に『ビルド』も終わるので、この際『万丈構文』を一話の中で二回使おう」という斬新なアイディアを思いついた作者の暴走の産物。授業参観でコブラ男に言わせたのは兎も角、イナゴ怪人がコレを言うと何か物凄く胡散臭さが増している様な気がする。

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