怪人バッタ男 THE FIRST   作:トライアルドーパント

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二話連続投稿の二話目。

先日レンタルが開始された事で、ようやく劇場版『アマゾンズ』を観ることが出来ました。「仮面ライダーの“原点”に挑む」と言うコンセプトでしたが、作者的に悠の生き様は、小説版『仮面ライダー1971-1973』の本郷猛に近い感じがしました。
本郷猛の「ただ、生きたいと願う魂を守る。自分の使命はそれだけだ」と似た信念と、「戦いは続く……」と言った感じのラスト。確かに「原点回帰」と思える作品でした。

タイトルの元ネタは『ビルド』の「ローグと呼ばれた男」。最近、昭和ライダーのタイトルがしっくりこない所為か、平成ライダーのタイトルばっかり採用している様な気がする。

2018/10/11 誤字報告より誤字を修正しました。報告ありがとうございます。


第34話 サーと呼ばれた男

先程の作戦タイムで神谷には話さなかったが、実を言うと俺は仮想ヴィランの正体に関して、二つのパターンを想定していた。

 

一つは、神谷に言ったように「相手が非常に高い計算能力を備えている」場合。もう一つは、相手がこうなる事を事前に分かっている能力……例えば「予知の類いの“個性”を持っている」場合だ。

可能性としては前者の方が高いと踏んで、仮想ヴィランは校長だと思っていたが、脱出ゲートを背にして俺と相対しているのは、よりにもよって後者である予知の類いの“個性”を持っているプロヒーローであり、職場体験の際には俺に指名を入れたヒーローの一人である、サー・ナイトアイだった。

 

「……貴様がどんなものか期待していたのだがな。正規のソレではないとは言え“象徴たる力”を持っていても、まるで凡庸だな」

 

「!?」

 

「コンビを解消した今でも、私はオールマイトを敬愛している。だが、次の“平和の象徴”にせよ、新世代の“新しい象徴”にせよ……後継の件に関しては、どうしてもその意志を図りかねる」

 

神谷が気絶している所為か、サー・ナイトアイはかなり込み入った話題を俺に振ってきた。そして、話の内容から『ワン・フォー・オール』の事を詳しく知っているらしく、コンビを解消してからもオールマイトとはお互いに連絡を取っている関係であるらしい事が窺える。

 

「貴様の目指しているモノは確か、『超人社会の“希望の象徴”』だったか? 確かに象徴論は理解できる。だが、今の所ソレが貴様でなければならない理由が、私には見当たらない」

 

「……フッ!!」

 

腰を据えて話し合いたい話題ではあるものの、試験終了が迫っている今、長々と話し合う様な余裕は無い。何より、姿を見せなかったナイトアイが眼前に現われてくれたのは、此方としても好都合だ。速攻で決着をつけてくれよう。

 

「……超強力念力で形成した不可視の壁を足場にしての三次元的な高速移動。まるで若かりし日のグラントリノ。ある種の感動を覚えるが……」

 

「オラァッ!!」

 

「だが無意味だ」

 

ナイトアイは死角となる背後から放たれた俺の蹴りをかわしつつ、何か小さなモノを投擲した。一見するとソレは当たっても大した事はなさそうだったが、意外なことにナイトアイが投げたソレは、俺の体をその場から大きく吹き飛ばす程の威力を秘めていた。

 

「……少しカスったか。中々手強いな」

 

「ぐっ……! コレは……判子?」

 

「戦闘用サポートアイテム『超質量印』。重さが約5㎏の押印だ。サラリーマンの風体にこのアイテムは、中々ユーモアが効いているだろう?」

 

「……ハハ。確かに」

 

「そして、『予測を立てて先手を打つ』と言う対ヴィラン戦の基本戦術において、私は幾人もの未来を見てきたからか、それらが他人よりも少しだけ速い。体重の半分の重りを付けていても御覧の通りだ」

 

……やはり、一筋縄ではいかないか。

 

ナイトアイの『予知』が具体的にどう言った性能なのかは分からないが、此方の行動を先んじて知る事が出来るとなれば、確かに前もって対応する事など赤子の手をひねるが如く簡単だろう。それこそ、一番効果を発揮する場所に有効打となるトラップを仕掛け、一番効果的なタイミングで発動させる位には。

 

「このッ!!」

 

「ふむ……随分と不安そうな顔だな。オールマイトなら真っ先に教えそうな事なのに……」

 

地面に手を付けて緑色の電撃をナイトアイへ走らせるが、やはり『予知』によるものか、容易く避けられる。そして、仮面を付けている俺に対するジョークも欠かさないと来ていた。

 

「上に立つ人間は迷いや不安を表に出すべきではない。それが分かっている者は、常にヴィジョンを持って行動するものだ。迷っているならば……」

 

「オラオラオラオラオラッ!!」

 

だが、俺の攻撃はまだ終わらない。今度は拳で地面を粉砕し、砕けたアスファルトを材料にモーフィングパワーで大量のゴム玉を作って投げつける。そして、ナイトアイの周囲に超強力念力による不可視の壁を作り、ナイトアイの周りをピンボールの様にゴム玉が跳ね返る。

 

「むやみに行動するべきではない」

 

「……!」

 

しかし、それさえもナイトアイは最小限の動きで回避し、ゴム玉は服を掠めるのが精一杯だった。

 

「無様。その程度の浅知恵で、私の『予知』の上を行く事は無い。くぐり抜ける事も無い。どれだけ矮小な策だとしてもな」

 

「ッ!! なら、コレはどうだッ!」

 

ベルトの横に備えられたスイッチをひねると、ベルトの中央に位置する風車『タイフーン』が逆回転を起こし、強力な竜巻が猛烈な勢いでナイトアイに向かって発射される。もっとも、直線的な軌道なのでナイトアイは容易く避けている。だが、狙い通りに……

 

「ベルトから発射される風の攻撃……と見せかけて、本命はコレだろうッ!」

 

「ブベッ!!」

 

クソッ! 読まれていたか!

 

タイフーンから放たれる竜巻で気絶した神谷を吹っ飛ばし、神谷に脱出ゲートを通過させるつもりが、ナイトアイの投擲攻撃によって神谷が撃墜されてしまった。

 

この男、無敵か!?

 

此方の行動の全てを予め知る事で、どんな攻撃も事前に対処する事が出来る能力。相手からすれば「戦った時には既に対処されている状態」な訳だから、それはもはや何物をも超えた『無敵の能力』と言っても過言では無いだろう。

 

傍から見れば『詰んだ』と思える状況ではある――が、弱点と言うか攻略の糸口らしきモノは見えている。だが、ナイトアイは強い。出来るか……?

 

 

○○○

 

 

今回の演習試験において、サー・ナイトアイは“個性”を使っていなかった。

 

演習試験中に“個性”を使えば、その際に生じるエネルギーを元にして『仮面ライダー』が新しい能力を獲得する可能性を考慮し、ナイトアイは演習試験の数日前から、変装した状態で呉島新と神谷兼人の二人に接触。その時に『予知』を使い、得られた演習試験の成り行きを元にして、それに自身の分析と予測を加える事で、“個性”を使用していないにも関わらず優位に立っていたのだ。

 

「(試験の残り時間は僅か。予知によると私は呉島新に倒されていたが、コレまでに私が加えた余分な時間を考えれば……呉島新は敗北する)」

 

ナイトアイが『予知』で見た未来は変えられない。仮に、予知した光景と全く違う行動を起こしたとしても、長くて数分の余分な時間が発生するだけで、帳尻を合わせるように必ず最初に予知した光景になってしまう。そこから未来が分岐すると言う事は一度として無かった。

 

しかし、相手にとって時間切れが敗北条件となるこの試験において、本来よりも長く時間がかかれば、その結末が変わる可能性は決して低くはない。

 

「どうした? 長考する余裕があるのかね? 疲れたか? それとも策が無くなったか?」

 

「冗談……ッ!」

 

新がナイトアイへ再び何かを投げつけてくるが、今度のソレがゴム玉では無い事は『予知』で分かっている。ナイトアイは予知で見た軌道を元に前進し、投げつけられたソレを全て避けると、ナイトアイの背後で大量の煙幕が発生した。

 

「煙幕で此方の視界を塞ぎ、其方はヘルメットのサーモグラフィー機能で此方の居場所を特定。そこで生まれた一瞬の隙をついて、超強力念力で捕縛する……と言った所だろう?」

 

「まだ……まだぁッ!!」

 

新の背中からコスチュームを突き破り、6本の触手がナイトアイに殺到する。しかし、新が自分の何処を狙い、どの触手が囮で本命なのかを知るナイトアイにとって、対処は容易い。

もっとも、流石にハンデとして付けた重りによる体力の消耗は無視する事が出来ず、先程よりも動きは鈍く、触手がナイトアイの体を掠める回数が多くなっていく。

 

「ぬぅ……!」

 

「残り時間、約1分だ。この程度のピンチも乗り越えられないとなれば、超人社会の“希望の象徴”には――」

 

「そこだッ!!」

 

「無駄だ」

 

「がッ!?」

 

「ふっ……うごぉっ!?」

 

新がナイトアイに掌を向けた瞬間、ナイトアイは『超質量押印』を新の頭に投擲し、集中力を乱して攻撃をかわしたと確信した笑みを浮かべた刹那、ナイトアイの背後から正面へ強烈な衝撃が突き抜ける。

 

「!? 何が……ッ!」

 

「予測できるのは……ナイトアイ。俺の行動やその周りで起こる事だけか? 俺が何を考えていたのかは……予知できなかったみたいだな」

 

神谷では無い。神谷は視界の隅で気絶している。イナゴ怪人も有り得ない。彼等がこの試験で新に手を貸さない事は分かっている。ならば何が……と思ったナイトアイが、背後から攻撃を仕掛けてきた存在を確認すると、その表情が驚きに染まった。

 

「ナイトアイ、アンタが最初に言ったんだ。『視た通り』だと。視覚で未来を予知しているのなら、それは『視野や死角が存在する』って事なんじゃないか? だから、探っていたんだ。ゴム玉と触手で、予知の死角になっているだろう位置をな……」

 

先日の授業参観での一件から、新は常にヴィランの一歩先を行くことを考えていた。

 

ヒーローの活躍がメディアで報道される以上、自分の“個性”について対策を取られることは前提条件だと心の底から痛感し、ヴィラン戦における隠し球を欲した新に対し、父である真太郎博士はソレを既に一つ用意していると告げた。

 

それは『強化服・弐式』に搭載された、『S.M.R.』の中核を担う“『仮面ライダー』のもう一つの体”とでも言うべき自動二輪兵器。その名は――。

 

「自動二輪兵器『サイクロン』。コイツには人工知能が搭載されていて、俺の脳波を受信して自立起動する事が出来る。アンタの『予知』は人間相手には使えても、機械相手には使えない……だろう?」

 

「確かに私にも……機械の未来を見る機会はなかった……。しかし……ッ!」

 

この試験における勝利条件は「カフスボタンを掛ける」か「脱出ゲートくぐるか」の二つ。そして、相手が「脱出ゲートをくぐる」を選択しない事は『予知』で分かっている。

 

「オラァッ!!」

 

新が投げつけ、超強力念力によって変則的な起動を描くカフスボタンに対し、左手を狙っている事が『予知』で分かっているナイトアイは、冷静に『超質量押印』をカフスボタンと新の顔面に向かって投擲。『超質量押印』が命中し、集中を欠いた事でカフスボタンは狙いを外れ、ナイトアイの横を通過していく。

 

「私の勝ちだ……ッ!!」

 

「どうか……なッ!!」

 

この時点で、試験終了まで残り10秒を切った。半ば勝利を確信したナイトアイだったが、それとほぼ同時に左手に何かが当たった。ゴムボールだ。

 

「元に戻れッ!!」

 

すると、ゴムボールは新の声に合せてカフスボタンに変化し、ナイトアイの左手に嵌った。

 

「な、に……ッ!」

 

「俺が体育祭で腕のカッターを金棒に変えた後、金棒から手を放したら元のカッターに戻った。つまり、俺が『モーフィングパワー』で変えた物体は、時間経過で元の物体に戻す事も出来る。ゴム玉に変えた手錠が元に戻るタイミングは……ピッタリだった」

 

「……なるほど。私が視た未来と……同じではある……か……」

 

「ちなみに、さっき投げたカフスボタンは、地面を砕いた時にゴム玉と一緒に作ったダミーだ。バレない様に、巻き上がる土煙で見えないようにしてな。ちなみに狙いが反れたのもワザとだ」

 

『呉島・神谷チーム、条件達成!!』

 

「良し……」

 

「フッ。正に私の作戦通りだったな。さあ、引き上げるぞ」

 

「………フンッ!!」

 

「ブヒッ!」

 

サイクロンによるダメージで膝を突いたナイトアイが意識を失う前に見たのは、何事もなかったかの様に復活した神谷に対し、新が拳を振り下ろす光景だった。

 

 

●●●

 

 

神谷の脳天に一撃を加えた後、ハンソーロボによって出張保健所と書かれた野外テントへ運ばれたナイトアイに付き添った俺を待っていたのは、何時もよりも厳しい口調で俺を叱咤するリカバリーガールの説教だった。

 

「オールマイトもそうだけど、アンタも割と加減を知らないね。こりゃあ、結構かかりそうだよ」

 

「……申し訳ありません」

 

「私に謝ってどうするんだよ。謝るならナイトアイに謝りな」

 

他に策が思いつかなかったとは言え、冷静に考えたら「バイクを突っ込ませての轢き逃げアタック」など、ヒーローがやるべき所行ではない様な気がする。特に子供が真似したら駄目な行為と言う意味で。

 

「しかし、アンタの試験の合否はどうするかね……。あのバイクはサポートアイテムとして学校に申請している訳じゃないんだろう?」

 

「ええ、父さんの研究所に保管されている物です。俺がまだ免許を取ってないもんで」

 

「そうなると、コッチとしても合格と言って良いか悩む所なんだよねぇ。どうしたものか……」

 

「……いや、コレは私の失態。事前に提出された呉島のコスチュームの申請書には、『サイクロン誘導装置』と記載されていました。アレは恐らく、今後の対ヴィラン戦闘におけるアドバンテージとして。そして、いざという時の切り札として隠していたのではないかと」

 

サイクロンを使った奇襲が今回の試験において違反にあたる可能性を口にするリカバリーガールに、何時の間にか目覚めたのかナイトアイが俺を弁護する。正直助かるが、物凄く申し訳ない。

 

「その……すいません。せっかく試験に来ていただいたのに、こんな目に遭わせてしまって……」

 

「……何を勘違いしている?」

 

「はい?」

 

「そもそも、貴様の勝利は“決まっていた”。コレはそれに抗おうと、私が選択した結果にすぎん。貴様に非など有る訳が無い」

 

「………」

 

「そもそも、貴様が心を割くべきなのは私の事ではない。私は今回の試験中、貴様等に対して一切『予知』を使っていなかった。これがどう言う事か分かるか?」

 

「!? 予知を使わず……つまり、予測だけで戦っていたと?」

 

「違う。私は『試験中は使っていない』と言ったんだ。私は雄英から今回の依頼を受けた後、この演習試験の前に貴様等に接触していた。バレない様に変装してな。そして、その時にこの試験の全てを予知していたのだ。これには、貴様が“個性”で相手の“個性”のエネルギーを元に新しい能力を獲得する事を防ぐ意味合いもある」

 

「……つまり、普段の日常生活の中で、知らず知らずの内に対策を取られていたと?」

 

「真に賢しいヴィランは闇に潜む。敵は常に闇の中から、光の当たる場所を虎視眈々と見ているものと知れ」

 

「………」

 

「理解したか? 言いたい事はまだあるぞ。今回使った超強力念力、電撃、触手、モーフィングパワー……どれ一つとっても相当に強力な力だが、それ故か貴様はそれらを使うのに集中力を要する為に複数同時かつ十全に使用する事が出来ていない。

幾ら複数の能力を持っているとしても、個別に使ってくるならばそれは一つの力でしかないから対処しやすい。持て余す強力な力ほど見苦しいモノは無いぞ」

 

「………」

 

「それと貴様、私と戦っていた時、極力傷つけないように手加減していただろう。確かに、ヒーローはヴィランを可能な限り傷つけずに捕らえる必要があるが、今回の場合必要以上に傷つける事を恐れていた節がある。それは確かに美点と言えるが、それでヴィランの捕縛が長引き、周囲に被害が出るようでは本末転倒だ。エンデヴァーの様にとは言わんが、相手の力量次第では必要以上に傷つけざるを得ない事もある」

 

「………」

 

自分の怪我など些事だと言わんばかりに続く、ナイトアイによる演習試験の評価に心と耳が痛くなるが、その全てが自分にとって為になる事であり、この自分にも他人にも極めてストイックな言動は、何となく相澤先生に近いものが感じられる。そう考えるとナイトアイと相澤先生は同じタイプのヒーローだと言える。

 

「他には……そうだな。聞いたところによると、貴様は最近リカバリーガールの元で医療を勉強しているそうだな?」

 

「……ええ、モーフィングパワーを応用すれば、欠損した部位を再生させる事も理論上では可能だとの事で、主に外傷の治療について勉強しています」

 

まあ、正直言うとそれに関しては速攻で後悔したんだがな。

 

何せ、モーフィングパワーはあくまで「対象を分子・原子レベルで分解・再構築する能力」なのであって、それこそ魔法の様に傷を治す能力ではない。俺自身のイメージや知識による所が大きい能力である為、ちゃんとした知識がないと運用する事が出来ないのだ。

 

そして、治療に運用する為のトレーニングにあたって、手始めに練習として様々な動物。主に家畜を相手にモーフィングパワーを使う事になった訳だが、そう都合良く怪我をした家畜がいる訳が無い。

 

……つまり、自分で怪我をさせた家畜を自分で治すと言う、心を抉られる練習を繰り返す羽目になったのだ。

 

最終的には失血によって体力を消耗し、目に見えて弱っていく鶏や牛を手に掛け、その肉を美味しく頂くことになるのだが、動物好きな俺としては正直心が折れる、挫ける、砕け散ると言った感じの訓練だった(泣)。

しかも、リカバリーガールでも治せない四肢欠損の様な類いの怪我を治せる可能性があるとあってか、雄英側は練習用の家畜を毎日しっかりと用意してくれるのだから、有り難いことこの上ない(号)。

 

「それは本来なら修復する事が不可能な臓器なども、元の状態に修復する事が出来ると言うことか?」

 

「ええ。本人の細胞を元にして行うわけですので、移植手術なんかと違って拒絶反応と言った不具合も起こりません」

 

「……丁度良い。貴様、私の怪我を治してみろ」

 

「……はい?」

 

「貴様が本番で失敗しないように、怪我をした私が貴様の実験台になってやろうと言っているんだ。どうだ、私は優しいだろう?」

 

「……俺、まだ家畜くらいしか治してませんけど?」

 

「哺乳類が出来るなら人間だって出来るだろう。まさか貴様、ぶっつけ本番で怪我人の治療をするつもりなのではあるまいな?」

 

「……その、ハッキリさせておきたいんですが、モーフィングパワーによる治療は『治す』と言うより、体の部品を『作り替える』と言った方が正しいんです。損傷した組織や血管なんかを分解・再構築して、正常なそれに作り替えるんです。治す訳じゃ無いから、麻酔無しだとそれ相応に痛む事になるかと……」

 

「良いからやれ。これでも痛みには慣れている。それに、貴様の様な能力は、誰かが実験台になれねば上達しない」

 

「確かにね。この子には少し早いと思うが……丁度良いかも知れんね。ほら、私も傍で見てるからやってみな。針に糸を通すような感じで、何時もよりも『繊細さ』を意識して力を使うんだ。それと、患者の気持ちを考える事も忘れないことだよ」

 

「……後で文句を言うのは無しですよ」

 

かくして、俺はナイトアイに対してモーフィングパワーで治療を施す事と相成った。まあ、いずれは飯田や現在再起不能状態のインゲニウムにこの能力を使う必要がある訳なので、いずれ通らなければならない道である事には違いない。

 

「ぬぅう!! うあう!! うあああああああッ!!」

 

「ほら! もっと集中しな! 患者を長く苦しめるんじゃないよ!」

 

「すいませんッ!」

 

そして、俺はナイトアイの悲鳴に心を乱し、リカバリーガールに叱咤されながらも、モーフィングパワーによる治療をやりきった。肉体よりも精神の消耗が激しかったが、これでまた一歩インゲニウム復活に近づいたと思うと、少し心が晴れやかだった。

 

 

○○○

 

 

さて、新達が演習試験に臨んでいた時、ボイコットをかましていたイナゴ怪人達が一体何をしていたのかと言うと――。

 

「終わった、終わったー!」

 

「どっか遊びに行かない?」

 

「それじゃあ、マグロ解体ショーとかどうよ?」

 

「良いねぇ!」

 

「俺も!」

 

「っしゃあッ! 夜は焼き肉っしょぉおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」

 

「待てえええええええええええええええええええええええええええええいッ!!」

 

雄英高校で3クラスある普通科の生徒達が期末試験を終えた開放感に浸っている中、イナゴ怪人達は彼等の教室に堂々と乱入していた。その手には結構な枚数のプリントが握られている。

 

「貴様等がマグロ解体ショーや焼き肉屋に行くのは勝手だ! しかし、その前にこのイナゴ怪人ストロンガーによる、ヒーロー事務所『デルザー軍団(仮)』入団試験を受けて貰おうかッ!!」

 

「はぁ!? バカかテメェ! そんなモン、受けるわけねぇだろうが!」

 

「そうか……フンッ!!」

 

「む゛ぃ゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛ッ゛ッ゛!!」

 

速攻でいちゃもんをつけたケツアゴの生徒に対し、イナゴ怪人ストロンガーは問答無用で魔改造が施されたスタンガンを押しつけた。骨格が透けるレベルの電流が流れたことでケツアゴの生徒は一瞬で無力化され、その光景に他の面々が教室から逃げだそうと考えた刹那、イナゴ怪人ストロンガーの背後から現われた彼等の担任教師が、視線を床に向けて冷や汗をかきながらこう言った。

 

「『デルザー軍団(仮)』入団試験を受けなかった生徒は……留年ッ!!」

 

「「「「「「「「「「えーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!?」」」」」」」」」」

 

「やかましい! 生徒の如何は教師の自由ッ! そして、理不尽を凌駕してこそ雄英生だッ!! 雄英生を名乗るのであれば、我々の試験など片手間にクリアして見せよッ!!」

 

「「「「「「「「「「………」」」」」」」」」」

 

いや、それでなんでお前が仕切ってるんだ?

 

そんなツッコミを入れたくて仕方が無いが、イナゴ怪人が教師を味方に付けていることは明らかである為、恐らく何を言っても無駄である。それを悟った普通科の面々は、不満はあれども留年は嫌なので、大人しくイナゴ怪人の試験を受ける事にした。

 

ちなみに、現在上鳴と芦戸の二人の試験を担当しているネズミの校長の帰りを待っている校長室の机の上には『害虫・害獣センサーを回避する100の方法』と書かれた資料が鎮座している。

 

「では手始めに、貴様等のセンスを筆記試験にて図らせて貰う!! ヒーローは元より、ヴィランの気持ちも想像して問題に当たるのだ! ……開始めいッ!!」

 

何でこんな事を……と思いつつも真面目に取り組もうとした生徒達が、配布されたプリントに書かれた問題を見た瞬間、その問題の意味不明さ故に思わずペンが止まった。

 

そして、その問題の問題が此方。

 

Q1.下記の物を使った個性犯罪を想像せよ。

 

1.白米 2.レバー肉 3.ホウレンソウ

 

Q2.ある個性犯罪者は常に全裸で犯行に及ぶが、その理由を推理せよ。

 

Q3.血液で『タナカ以外』と書かれたダイイングメッセージの真実を解読せよ。

 

「ぬぅあんじゃ、こりゃぁああああああああああああああああああああッ!!」

 

「おい! イナゴ怪人ッ! コレは一体何だ!?」

 

「決まっておろう! 貴様等のような有象無象の中から、ヒーロー事務所『デルザー軍団(仮)』に相応しい怪人を選別する為に他ならんッ!!」

 

「何がしてぇんだお前は!?」

 

「貴様の様に、全てのエネルギーを顎に使ってしまった様な怪人に期待はしていない。精々『モアイ日本人説』でも証明して、学会にセンセーショナルを巻き起こすが良い」

 

「何だとぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

「ふん。悔しかったら100点の一つでも取ってみたらどうだ? そうしたら、土下座の一つでもしてやろう。まあ、無理な話だろうがな」

 

「……いいぜ、やってやるよぉ……! そのスカした面を吠え面に変えてやるぜぇ……!」

 

「ものの見事に乗せられてるじゃねぇか……」

 

多少のいざこざはあったものの、この後の『デルザー軍団(仮)』入団試験は滞りなく進んでいった。

そして、直ぐに答え合わせが行われたのだが、この筆記試験はあくまでもセンスを図る問題である為、ぶっちゃけこの問題に正解と言えるものは存在しない。

 

「第一問の模範解答は『ターゲットにレバニラやホウレンソウのおひたしと言った鉄分の豊富な食事を取らせ、血中の鉄分が多くなった所で磁力を操る“個性”で体内にカミソリやハサミを作り、おぞましい黄色の血液を流させて殺す』……と言った所だな」

 

「分かるかぁあああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

……よって、こうなる。そもそも、イナゴ怪人相手にまともな勝負など出来る訳がないのだ。

 

「以上で、筆記試験は終了だ!」

 

「お、終わった……」

 

「やっと帰れる……」

 

「ん? 貴様等、誰一人として気付いていないのか? 今の筆記試験は合計で50点満点だったと言う事に」

 

「……まさか」

 

「では引き続き、実技試験を開始するッ!」

 

「「「「「「「「「嫌だぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!」」」」」」」」」」

 

イナゴ怪人達の『デルザー軍団(仮)』入団試験はまだまだ続く……。

 

 

○○○

 

 

「さて、体の調子はどうだい? 一応、私の『治癒』もやっておいたが……」

 

「……悪くはありません」

 

「まあ、初めてにしては上出来だろう。有用な“個性”ほど悪用される傾向にあるこの超人社会で、あの子の力は現在の医療や“個性”では救えなかった多くの人間を救う事が出来る稀少な力だ。それこそ、オールマイトの体だって治せるかも知れない。だからアンタはあの子に自分を治療させたんだろう?」

 

「………」

 

リカバリーガールの指摘は的を射ていた。

 

喧嘩別れの形でコンビを解消したが、ナイトアイは今でもオールマイトの事を深く思っている。オールマイトが6年前の戦いで負った傷は深く、とてもじゃないがヴィランと戦えるような体ではない。

だが、あの力を借りれば、例えあの頃の体には戻れなかったとしても、事ある毎に吐血する様な事にはならないと思ったのは事実であり、今後の成長に期待している事も本心だった。

 

「……で、お前さんから見てどうなんだい? もう一人の『ワン・フォー・オール』。『仮面ライダー』は?」

 

「……未熟ではありますが、見所はあると思います。しかし……」

 

だが、今回も『予知』と言う形で出た未来を変える事は出来なかった。それ故に、6年前に予知したオールマイトを待ち受ける残酷な未来が、言い表せない程に凄惨なオールマイトの死が間も無く訪れる事を、ナイトアイは恐れていた。

 

――月光に照らされる白銀の鎧を纏い、妖しい輝きを放つ真紅の剣を持った、バッタとも髑髏とも見えるヴィランに斬り捨てられる“平和の象徴”――

 

禁じられていたオールマイトの未来を見たナイトアイは、6年経った今でもソレを鮮明に思い出す事が出来る。今でもたまにその時の光景を夢に見る。それ故に、オールマイトを葬るヴィランが、雄英体育祭で見た怪人……呉島新と酷似していた事がどうしても気がかりだった。

 

「? 何かあの子の事で気がかりな事があるのかい?」

 

「……いえ」

 

オールマイトの死を見て以降、ナイトアイは「自分が未来を“見る”事で、その人の未来が決定づけられているのではないか?」と疑い、他人の将来を予知する事を止めた。

 

しかし、もはや一刻の猶予もない。遠い未来ほど予知による時間に誤差が発生するが、オールマイトは今年か来年に死を迎える筈なのだから。

 

「………」

 

図らずも、『予知』を発動させる為の条件は満たしている。ナイトアイは新の今年から来年までの未来を、自身の嫌な予感が外れている事を願って、『予知』を発動させた。

 

「ッッ!?」

 

「!? どうしたんだい!?」

 

突然、ナイトアイが簡易ベッドから飛び起きた事にリカバリーガールは驚いたが、それ以上にナイトアイが尋常ならざる形相を浮かべている事に驚いた。

 

そう、コレは6年前にナイトアイがオールマイトと袂を分かつ事となったあの時と……。

 

「……“希望の象徴”はいずれ、“闇の帝王”と等しくなる……」

 

その日の夜、ナイトアイは幾度目かになる『悪夢』を見た。

 

その中で超人社会の“平和の象徴”を葬った銀色の亜人は、自らを『創世王』と高らかに名乗った。




キャラクタァ~紹介&解説

呉島新
 仮面ライダー1号と2号が持っている改造手術スキルの元となる、外科手術スキルを密かに学んでいる怪人。将来的に「何処でも良いから、好きな組織に取っ捕まって改造されてこい!」とか、「何なら、この俺が改造してやる!」とか、とんでもない事を言い出すのかも知れない。
 尚、彼等がリカバリーガールの出張保健所に訪れる少し前まで出久が居たのだが、上手い具合にすれ違いになっている。会ったら会ったで色々と面倒な事になっていただろうが。

サー・ナイトアイ
 雄英からの要請で期末試験編に登場する事と相成った、超ストイックな元オールマイトのサイドキック。原作を見ると矛盾する所や何か色々とややこしい部分がある“個性”だが、『ジョジョ』のディアボロやら『ONE PIECE』のカタクリやらを参考にして何とか形にしてみた次第。
 予知した未来を変えようと今も足掻いているが、一番変えたい未来のタイムリミットが刻一刻と迫っている為、ハッキリ言って気持ちに余裕がない。一応、シンさんにはオールマイトの治療において、ナイトアイ的にかなり期待をしていたのだが……。祝え、新たな王の誕生を……。

リカバリーガール
 モーフィングパワーを上手いこと成長させれば、今よりも多くの人間を救うことが出来るとあって、シンさんの教育に結構力を入れているお方。今回のナイトアイの治療は、シンさんのモーフィングパワーと『治癒』の“個性”の合わせ技で対応し、次からはヒーローの怪我の治療に付き合わせようかとか考えている。

根津
 イナゴ怪人に買収……もとい、説得されたネズミの校長。随分と間が空いたが、今回で第5話における伏線が回収された。当初は『すまっしゅ!!』ネタを入れるべきかどうか考えていたが、ぶっちゃけた話この辺の時間軸の『すまっしゅ!!』ネタはやり辛くて困るネタばかりなので、とてもじゃないがやれやしなかった。

イナゴ怪人(1号~スカイ)
 期末試験をボイコットして別の試験を実行していた怪人軍団。ネズミの校長に賄賂……もとい、平和的且つ合理的な説得で試験を取り付ける事に成功。真面目な話、実技では図れない部分を見る事が出来る事もあり、今回の入団テストの結果は雄英ヒーロー達も目を通す事になる。実際の内容はかなりアレだったが。

顎大和筒隆
 文化祭編でA組にいちゃもんつけてた普通科のモアイ男。文化祭で彼等がヒーロー科にいちゃもんを付けるそれなりの理由を求める作者によって、イナゴ怪人達が考案した『デルザー軍団(仮)』入団試験を受ける羽目に。ちなみに実技試験では、その顎を使って床に穴を掘っていたとか、いないとか……。



自動二輪兵器:サイクロン
 実は『強化服・弐式』と同時に完成していた専用マシン。バイク型のロボットと言うべき代物で、シンさんの脳波を探知して自立稼働するロマンの塊。但し、バトルモードへは変形しないし、ミサイルを乱射したりもしない。
 普段は研究所に保管されているが、シンさんの手によって雄英までやってきた。試験を突破する事は出来たものの、同時に雄英のセキュリティも突破している為、とんでもない騒ぎになっていたりする。
 ちなみに、ナイトアイは雄英からの資料で『サイクロン誘導装置』の事は知っていたが、ネットの映像で見た『サイクロン・バイシコー』の存在によって、「将来的に追加されるサポートアイテム(サイクロン)の為の装置」だと思っていた。尚、第25話で存在が明かされたのは、サー・ナイトアイ攻略の伏線だったりする。

ヒーロー事務所『デルザー軍団(仮)』入団試験
 イナゴ怪人達が考案した普通科用の試験であり、例え0点だろうと学校の成績には一切の影響がない試験。但し、受けなければ強制的に留年が決定すると言う理不尽。
 基本的には知能ではなくセンスを図る為、高学力であるよりも頭が柔らかい人間の方が好成績を残す傾向にあると思われる。ちなみに、怪人モアイ男は100点満点中3点と言う結果に。



後書き

 これにて今回の投稿は終了。次回で第二期アニメの分が終了する訳ですが、劇場版『2人の英雄』の話をやるか否か悩んでいます。話の内容的にシンさんの父親がサポートアイテムを開発している科学者ですので、絡ませようと思えば絡ませられますし……。

 まあ、やるとすれば『2人の英雄』の事件が起こったことにして林間合宿編へと話を進めておき、『2人の英雄』の話は番外編として後日投稿って感じになるかと思います。

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