怪人バッタ男 THE FIRST   作:トライアルドーパント

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前回の投稿の後、何時の間にか本作の推薦が書かれている事に気付いて度肝を抜かれました。ハーメルンで活動してから今月で3年目に突入しましたが、推薦は感想と違ってマイページに表示されない事を初めて知って、まだまだ分からない事があるんだなぁと思い知らされました。

本作の推薦を書いて下さった「グリムロックダー」様。本当にありがとうございます。

今回のタイトルは『響鬼』から。次話からアニメ第三期に入っていく訳ですが、色々と趣味を加えた結果、アニメ第四期で大活躍するだろうヤクザがドエライ事に……。まあ、折角の二次小説なんだから、これ位の遊びが無いと……ね?

それでは、アニメ第二期分最後のお話を、19000字の大増量でお楽しみ下さい。

2019/1/4 誤字報告より誤字を修正しました。報告ありがとうございます。


第35話 絶えぬ悪意

草木も眠る丑三つ時。暗闇を生きる者達が跋扈する中、人知れず悪意の炎を滾らせていた悪の華が、それを遙かに超える力を持った悪の魔王によって、その全てを奪われようとしていた。

 

「素晴らしい! 流石は『死穢八斎會』の若頭!! オーバーホール!! 僕はもっと早く決着がつくと思っていたんだ! 相当な知識量と実戦経験によって得ただろう強さ! 判断力と技術力! とても一介のヤクザとは思えないな!」

 

「……お前……は……」

 

「しかし、詰めが甘かった。確かに普通なら“個性”由来の武器なんて誰にも真似する事なんて出来ない。だが、武器である以上、複製されるリスクは必ず付いて回るものだ。君の失敗は『自分達に出来る事は他人には出来ない』と思い込んだ事だ」

 

真に賢しいヴィランは闇に潜む。

 

その言葉が示す通りに、両手両足を潰され、腹に穴を開けられて倒れ伏す『オーバーホール』と呼ばれた男――指定敵団体『死穢八斎會』の若頭である治崎廻は、秘密裏にある薬品を精製していた。

それは「“個性”を破壊する薬」。“個性”で成り立つ超人社会を根底から覆すだろうソレは、シノギの一つとして売買していた認可されていない違法薬物と共に、手始めに未完成品をプレゼンの意味でばらまき、これから計画的に少しずつ、少しずつ全国にその根を張り巡らせるつもりだった。

 

だが、そのプレゼンの第一弾としてばらまいた未完成品が、よりにもよって都市伝説としてまことしやかに語られる闇の帝王……オール・フォー・ワンの手に渡り、容易く複製された事は完全に想定外だった。

 

「それで……参考までに教えてくれないか? 自分達の血と汗の結晶を他人に使われると言うのは、どんな気分なんだい?」

 

「ぐ……」

 

治崎が潰れた指で“個性”を使おうとするが、「触れた対象を分解・修復する」治崎の“個性”は一切発動しなかった。傲慢な王がその慢心故に毒酒を煽る様に、治崎もまた慢心故に受けた一発の弾丸によって最大の力を奪われ、更には切り札と言える完成品の『個性破壊弾』と血清は相手の手の内にある。

 

「無駄だよ。未完成品とは言え、その弾丸の効果は他ならぬ君が一番よく知っているだろう? 所で……君は知っているかな? この世界に溢れる“超常”が一体何処から来たモノなのか? そのルーツは未だに解明されておらず、その推論と仮説は無数に存在するが、一説によると未知のウイルスがネズミを介して世界中に広がったモノだと言われている」

 

「……そうだ。病気だよ。だからこそ俺は、人間を変異が起こる前の形へ……個性因子を消滅させ、人間を正常な状態に戻す為の研究を重ねた……。英雄気取りの病人共を駆逐し、“個性”で成り立つこの世界の理を壊す……! そしてヤクザが再びこの日本を……俺達が支配者に返り咲く……ッ!!」

 

「……フフ……」

 

「?」

 

「フフフフフ……フハハハハハハハハハハ!! これは愉快だ!! いや、長生きはしてみるものだな! こんな喜劇はそうそう無いぞ!!」

 

「何……?」

 

「いや、君の野心は痛いほど理解できる。異能を得た多くの人間が正義のヒーローに憧れたように、君は悪の魔王に憧れたんだろう? 理想を抱いた君には、ソレを体現できる力があったんだろう? 何より、理想を生きるための努力を惜しまなかったんだろう?

しかし、悲しい事に君は自分自身の矛盾に気付いていない。まあ、そこが堪らなく愉快で滑稽なのだが……君のその思想と信念は、君が最も嫌悪している『英雄気取りの病人』のソレと全く同質のモノなんだぜ?」

 

「!!」

 

「しかし、超常が日常となった現代で“個性”を病気扱いする人間が、ヤクザの中から出てくるとはね。むしろ“無個性”が先天性の病気として扱われるこの時代で……アハハハハハハハハハハハハハハハ! 笑いが止まらないとはこの事だ!!」

 

心底愉快な様子で、闇の帝王は治崎を嗤っていた。事実、この闇の帝王はずっと“超常”による世界の推移を見てきた生き証人であり、その言葉には類を見ない説得力があった。

 

「違う……違う! 俺は! 俺はッ!!」

 

「違うと言うなら教えてくれ、オーバーホール。他人の“個性”を自分の力として使い魔王になったこの僕に。君が『正義のヒーローになろうとする病人』と何処が違うのかを」

 

愉悦に満ちた声で投げかけられる質問に、治崎は答えようにも答えられなかった。何故なら、どれだけ頭の中で否定しようとも、既に治崎の魂は答えを出してしまっている。

 

つまり、この男の言う通り、自分もまた「何者かになれると勘違いした病人」なのだと。

 

「やはり、楽しいな! がむしゃらに築き上げてきたモノを、ひたすらに守ってきたモノを壊すのはとても楽しい! それが矛盾を抱えている相手なら尚更だ!

しかし……君の言う通り、かつて“個性”が病気として認識されていた事は紛れも無い事実だ。病人は治療しなければならない。何、心配する必要は無い。この手の治療において、僕はこの世界で誰よりも深く精通している。君を治す位、手慣れたものさ」

 

そして、先程受けた未完成の『個性破壊弾』とは比べものにならない喪失感と、自分自身が抜け殻になっていくかのような虚脱感が治崎を襲い、治崎は『完治』した。

 

「おめでとう。これで君の体から異能は消えた。君は晴れて『正常な人間』に戻ったと言う訳だ。ほら、昔からよく言うだろう? 『風邪は人に移すと治る』と」

 

「……………………返せ」

 

「うん?」

 

「返せ……ッ!!」

 

「ハハハ……それは無理だ。僕の悪い癖でね。良い“個性”を見るとつい欲しくなる。それに、返してしまったら君はまた病気になってしまうじゃないか。完治した人間を病人に戻すなんて、そんな可哀想な事は僕にはとても出来ないよ」

 

微塵も奪った“個性”を戻す気のない台詞を聞き、治崎は理解する。

 

この男に『個性破壊弾』は必要ない。手にした未完成品を複製する手間も不要な筈だ。それがなくとも、この男には容易く『死穢八斎會』を壊滅させ、自分の“個性”を奪う事が出来るだけの力がある。

しかし、この男は自分が一番嫌がる事が何かを、自分がどうすれば絶望するのかを心底理解していたから、ワザと未完成の『個性破壊弾』を複製すると言う手間をかけたのだ……と。

 

「ああ、安心し給え。君の積み上げてきた全ては、決して無駄ではない。全ては、この僕の為にある」

 

「終わったよ。パパ……」

 

そして、今回この男と一緒に襲撃をかけたもう一人が、全身に返り血を浴びた状態で闇の帝王の元に戻ってきた。その姿は最近話題の『雄英最凶の怪人』によく似ている。

 

「ソイツは……」

 

「実は今回の襲撃は、この子の試運転を兼ねていたんだ。素質は充分なんだが、生まれたばかりでまだまだ教育が必要でね。だから僕が一緒に付いてきた訳なんだが……中々どうして素晴らしい仕上がりだ。

さて、それじゃあ“個性”を奪った人間のDNAを取り込む事で、君の成長と進化がもたらされるか否か……実験を開始しよう」

 

「うん。CWAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA……」

 

怪人は父と呼ぶ男の言葉に従い、抵抗する術も力も奪われた治崎にゆっくり近づくと、口を大きく開いて、その中に生える無数の牙を治崎に突き立てた。

 

「さよならだ、オーバーホール。素晴らしい喜劇をありがとう」

 

過去の栄光を求め、極道の復権を夢見た男の断末魔の叫びは、誰の耳にも届く事無く、闇の中に消えた。

 

 

●●●

 

 

演習試験の翌日。A組の教室の中で、天国と地獄が混在していた。

 

「皆……土産話っひぐ。楽しみに……うう、してるっ……がら!」

 

「まっ、まだ分からないよ。どんでん返しがあるかも知れないよ……!」

 

「止めろ、出久。フォローどころか、傷口に塩を塗りたくってる。いや、岩塩かな?」

 

「つーか、それって口にしたらなくなるってパターンだし……」

 

目は口ほどに物を言うと言うが、演習試験をクリアする事が出来なかった面々はあからさまに意気消沈しており、まるで処刑される寸前の罪人のようだ。まあ、今回場合は試験なので「弱い事そのものが罪」と言えるのだが。

 

「試験で赤点取ったら、林間合宿行けずに補習地獄ッ! そして俺等は実技クリアならずッ! これでまだ分からんなら貴様等の偏差値は猿以下だッ!!」

 

「我々が猿以下なら、貴様等は良くて単細胞生物だな。だから口酸っぱく言ったのだ。『怪人先生の真剣ゼミ』を受講すれば演習試験は万全だとなッ!」

 

「……え? 何ソレ、聞いてない」

 

「聞いて分からんか? 我々イナゴ怪人が真剣を用いて真剣に超実戦的な対人戦闘を、葬儀屋並みの丁寧さでレクチャーする素晴らしいゼミだ! 我々が真剣を用いるが故に、受講者も戦場にいるかの如き真剣さで効率よく学ぶことが出来、一日30分程度の短時間で済むのが売りだ!」

 

「「「「「「「FUUUUUU……」」」」」」」」

 

どっかで聞いたような売り文句だが、「真剣ゼミ高校講座申込書」と書かれた用紙を持つイナゴ怪人1号の背後で、槍に鎌に剣と様々な凶器を手にしたイナゴ怪人達を見ると、どうやら真面目に教えるつもりではあるらしい。

訓練の内容は危険極まりない代物だろうが、ガチの対ヴィラン戦闘を考えれば順当と言える武器のチョイスではある。最終的にはチェーンソーやネイルガンなんかを持ち出すかも知れんが……。

 

「まあ、落ち着けよ。結果が分からねぇのは俺も同じだ。峰田のお陰でクリアしたけど、寝てただけだ」

 

「確かに、試験官や教員の裁量で合否が分かれる所はあるだろうな。俺も試験をクリアしたが、試験を見たリカバリーガールが合格にするべきかどうか悩んでいたし、下手すると『クリアしても不合格』って場合もあるかもな」

 

考えてみれば、最初に演習試験の説明が行われた際、相澤先生もブラドキング先生も校長先生も「試験をクリアしたら合格」とは一言も言っていない。

試験が“限りなく実戦に近い演習”である事を考えれば、情報にない未知の武器を用意しておくのも戦術としてアリだと言う事で、試験官のナイトアイは合格と判断したが、雄英側が最終的にどう判断するか分からない。

 

「兎に角、採点基準が明かされていない以上は……」

 

「同情するなら、もうなんか色々くれッ!!」

 

「良かろう。ならば貴様等に応援歌を歌ってやる! 聞いて下さい。ZARDの『負けないで』ッ!!」

 

「キェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエッ!!」

 

イナゴ怪人1号の煽りに逆上した上鳴は奇声を上げ、正面から突撃した。敗者に対して「負けないで」と言うなど、死者に「死なないで」と言う様な事だと考えれば、上鳴の行動も共感できるが、現実は非情である。

大して体を鍛えていない上鳴が高い身体能力を持つイナゴ怪人1号に敵う筈もなく、呆気なく返り討ちにされて地べたに転がされている。

 

「オホン。では、始めるとしよう。『ま――」

 

「予鈴が鳴ったら席に着け」

 

「「「「「「「「トォオオオオオウッ!!」」」」」」」」

 

そして、イナゴ怪人1号のアカペラ熱唱が始まる刹那、相澤先生が教室に入った事で、イナゴ怪人達は教室から風の様に脱出。先程の騒動が嘘の様に教室は静寂に包まれるが、今日のソレは裁判におけるソレと何処か似ている様な気がするのは気の所為ではあるまい。

 

「おはよう。今回の期末テストだが、残念ながら赤点が出た。従って……」

 

そして、公正なる裁判官と化した相澤先生より判決が宣告される。切島、芦戸、砂藤の三人はその無念を隠すこと無く表情に出しており、上鳴に至っては悟りを開いた修行僧の様なアルカイックスマイルを浮かべている。

 

「林間合宿は全員行きます」

 

「「「どんでん返しだぁああああああああああああああああああああッッ!!!」」」

 

予想外の判決に、演習試験不合格組が歓喜の雄叫びを上げた。唯一、森羅万象の全てを受け入れる体勢が整っていた上鳴だけ、相澤先生何を言っているのか理解できなかった様なリアクションをしている。

 

「筆記の方はゼロ。実技の方は切島・上鳴・芦戸・砂藤。あと、瀬呂と峰田が赤点だ」

 

「行って良いんすか、俺等らああああああああッ!!」

 

「……だよな……確かに『クリアしたら合格』って言ってなかったし……」

 

「ちょ、ちょっと!! 何でオイラが赤点なんすか!!」

 

「お前は正確に言うと、赤点じゃなくて失格だ。自分がミッドナイトに何やったか分かってんのか?」

 

「異議あり! ミッドナイトは確かに『自分をヴィランだと仮定して試験に臨め』と言いました! そして、確かに一般人女子が相手なら問題ある方法でしょうが、犯罪者女子なら成敗も兼ねて一石二鳥! 誰も文句を言ったりしないッ!!」

 

「犯罪者が相手でもやって良い事と悪い事がある」

 

「変態仮面だって同じ事してるじゃないですか!!」

 

「あの人は同性相手にしかやらん。だから今まで活動していられるんだ」

 

そして、試験を途中でリタイアした瀬呂は羞恥心から顔を覆い隠し、試験をクリアした筈の峰田は問題行動から失格と言う、前代未聞の評価を貰っていた。

まあ、相澤先生との問答から、峰田がミッドナイト先生に何をしたのかは簡単に予想できる。大方、変態ブドウに変身して変態奥義をミッドナイト先生に炸裂させたのだろう。

 

そして、相澤先生の言う通り、変態仮面は変態ではあるが紳士なヒーローなので、例えヴィランであろうとも女性相手に変態奥義を使う事は絶対にしない。だからこそ、彼は変態であるにも関わらず女性人気を獲得し、男性ヴィランからはオールマイトやエンデヴァー以上に恐れられているのだ。

 

「今回の試験。我々ヴィラン側は生徒に勝ち筋を残しつつ、どう課題と向きあうかを見るよう動いた。でなければ課題云々の前に詰む奴ばかりだったろうからな。まあ、裁量は各試験官によるが」

 

「………」

 

確かに、試験後にナイトアイが言っていた様に、俺に関しては手加減しなければ『撃破』そのものは容易だっただろう。だが、それでヴィランに対してやりすぎた場合、世間による非難の対象となってしまう事は避けられない。しかし、だからといって「手加減していたせいで、被害が拡大しました」では済まされないのもまた事実だ。

隠し球で勝ちは拾ったものの、ナイトアイが試験後に俺に話した事を含めて考えれば、俺の演習試験における課題は「『市民の安全』と『自分の風評』を天秤に掛けて、『市民の安全』を選ぶことを出来るか」と言う事だったのかも知れない。

 

「試験中に『本気で叩き潰す』と仰っていたのは?」

 

「追い込むためさ。そもそも林間合宿は強化合宿だ。赤点取った奴ほど、ここで力を付けて貰わなきゃならん。『合理的虚偽』って奴さ」

 

「「「「「ゴーリテキ、キョギィイーーーーーーーーッ!!」」」」」

 

地獄に垂らされた一本の蜘蛛の糸の如く、相澤先生から林間合宿への許可を得られた事で、居残りを覚悟していた面々は狂喜乱舞している。

しかし、決定的な敗北を喫したにも関わらず、勝利の雄叫びを上げると言うこの状況。一見してクラス全員で林間合宿に行ける喜ばしい事である筈なのに、何か相澤先生らしくない違和感を覚えるのは俺だけか?

 

「またしてやられた……! 流石雄英だ! しかしッ! 二度も虚偽を重ねられると信頼に揺らぎが生じるかとッ!!」

 

「わぁ、水差す飯田君」

 

「確かにな。省みるよ。ただ、全部嘘って訳じゃない。赤点は赤点だ。お前らには別途に補習時間を設けてある。ぶっちゃけ、学校に残っての補習よりキツイからな。特に峰田。お前はヒーロー云々以前に人として色々と学び直してもらう」

 

「「「「「「………」」」」」」

 

なるほど。謎は全て解けた。

 

要するに場所が変わっただけで、補習地獄そのものは無くなっていないと言う事か。天国へのチケットが、実は地獄への片道切符だと判明した事で、祭りの様に騒がしかった赤点組のバカ騒ぎは完全に収まっていた。

しかし、流石は相澤先生だ。上げて落とす事によって、無軌道な若者の不安定な感情を完全にコントロールしている。

 

まあ、意気消沈する赤点組には悪いが、A組全員で林間合宿に行けるのは、全員に共通した理想的で喜ばしい事である為、一日を通して教室内の空気は朗らかだった。

 

「まあ、何はともあれ。全員で行けて良かったね」

 

「一週間の強化合宿か!」

 

「結構な大荷物になるね」

 

「暗視ゴーグル」

 

「水着とか持ってねーや。色々買わねぇとな」

 

「あ! じゃあさ! 明日休みだし、テスト明けだし……って事で! A組みんなで買い物行こうよ!」

 

「おお、良い! 何気にそう言うの初じゃね!?」

 

「おい爆豪! お前も来い!」

 

「行ってたまるか、かったりィ」

 

「轟君も行かない?」

 

「休日は見舞いだ」

 

「ノリが悪いよ! 空気読めや、KY男共ォ!!」

 

「………」

 

いや、峰田的にはイケメンはむしろ居ない方が良いんじゃないのか? いや、確かに勝己と轟が一緒の方が、人の集まりが良い様な気もするケド。

 

勿論、俺は皆と一緒に行く。こんなイベント、この先一体どれだけあるか分かったもんじゃありませんからねぇ……。

 

 

●●●

 

 

翌日。我々A組は県内最多の店舗数を誇る、木椰区ショッピングモールへと集結した。勝己と轟を筆頭に青山などこの場に来てない面子も居るが、クラスの半数以上が集まっており、皆結構ノリと集まりが良いようで何よりだ。

 

「人、凄ッ!!」

 

「これ一人一人に、語り尽くせぬ人生ドラマがあると思うと目が回るよ!」

 

「“個性”の差による多様な形態を、数でカバーするだけじゃないんだよね。ティーンからシニアまで幅広い世代にフィットするデザインが集まっているから、この集客力……」

 

「よせ、緑谷。幼子が怖がる」

 

「て言うか、人多過ぎ!!」

 

「タイムセールだって!!」

 

「身動きがとれねぇ……」

 

しかし、俺達は予想外の来客数により、人で出来た激しい潮流に飲み込まれていた。初めは皆で一箇所に集まっていたものの、各々が徐々に離ればなれになっていく。

 

「くっ……! 皆! まずは生き延びろ!! 目指すはこのオブジェ!! タイムセールが終わった二時間後に……必ずこの場所で会おう!!」

 

まるで嵐の大海原で散り散りになる海賊団の船長の様な台詞を宣った切島が見えなくなったのを最後に、俺が人混みから解放されて周りを見渡した時には、俺の周りに知り合いは誰一人としておらず、クラスの皆と完全にはぐれていた。

 

「……アレ?」

 

おかしいな。さっきまで10人以上の大所帯で此処に来た筈なのに、それがたった数分で今や俺一人?

 

「………」

 

いや、分かっていた筈だ。俺は嫌と言うほど、自分の呪われた運命を分かっていた筈だ。

 

これまで、幾度となく非リアの現実を超えようと努力を重ねてきた。そして、それが重なっていく度に痛感してきた。リア充との差を……! ソコへ向かっている筈なのに、むしろますます遠くなっていく、リア充達の背中を……ッ!!

 

絶望がッ!! 俺を……ッ!!

 

「なんだ、貴様。その煤けた背中は」

 

「……へ?」

 

忌々しいトラウマがフラッシュバックし、若干トリップしていた俺の背後に、何故かナイトアイが立っていた。意外な場所で意外な人物に会ったものだが、こんな俺に一体何の用だろうか?

 

「あの……何か御用で?」

 

「……いや、貴様を見かけたから声をかけただけだ。そう言う貴様は買い物か?」

 

「ええ、林間合宿に向けた買い出しです」

 

「一人でか?」

 

「いえ……」

 

「なるほど、迷子か。それなら此処のヒーローショップに行くが良い。先程、デクとウラビティを見かけた」

 

「……ありがとうございます」

 

「うむ。良き週末を」

 

高校生に向かって迷子とか、ナイトアイの割と容赦ない言動に一言文句を言いたかったが、お陰で二人と合流できそうなので、お礼を言って早速ヒーローショップに行ってみた。

しかし、むしろ俺が合流しない方が出久と麗日にとっては良い事なのではないかと思い至り、二人に見つからないようにヒーローショップの中をそっと観察してみることにした。すると……。

 

「ここのフィギュア、何時もカラーリングが甘いんだよな……」

 

「………」

 

何と言う事でしょう。

 

那加野ブロードウェイ(ちょっとコア目のヒーローショップ群でサブカルの聖地)に行った時と同じ様に、ブツブツと独り言を言いながらヒーローのフィギュアを物色する出久と、そんな出久を失望と絶望が無い混ぜになった瞳で凝視する麗日がそこに居た。

ハッキリ言って、疑似おデートと言える場面においてあってはならない展開だが、一度スイッチが入った出久は気が済むまで何があっても絶対に動かない事を、よくプライベートで行動を共にする俺は嫌と言うほどよく知っている。てゆーか、明らかに出久の視界に麗日が入っていない。

 

よって、同じ非リアの同志である出久の数少ないチャンスを奪うようで気は進まないものの、今後の為に俺がやるべき事は一つしかない。

 

「……麗日」

 

「あ……シン君……」

 

「買いたい物、買った?」

 

「……まだ」

 

「……俺もまだだから、一緒に行くか?」

 

「え……でも……」

 

「店長さん。今コレ倍くらいの値段付いてますよ」

 

「……コレ、後どれ位掛かると思う?」

 

「少なく見積もって一時間位……かな?」

 

「………」

 

セーラー服な上にパンチラしているMt.レディのフィギュアの適正価格を店長に告げる出久の姿が決定打になったのか、はたまた幼馴染みの俺の発言が異様な説得力を生んだのか、麗日はスッとヒーローショップから立ち去る形で、俺の提案に肯定の意を示した。

 

しかし、無意識とは言えリア充へと至る為の貴重なフラグを自らへし折るとは……。そして、その事に気づいてないのが、ある意味で救いか。

 

「麗日は何買うんだ」

 

「む、虫除けとか……」

 

「虫除けかぁ……」

 

取り敢えず、俺は体育祭の前とは別ベクトルで闇堕ちしそうな麗日のメンタルを、可能な限り元に戻す事に専念するとしよう。買いたい物が虫除けなのはきっと偶然だ。麗日に悪意は無い筈。多分。

 

「救急キットとかは? 俺はあまり医薬品の世話になった事ないんだケド」

 

「シン君は直ぐに治っちゃうもんね。そう言えば、リカバリーガールとの勉強はどうなん?」

 

「この間、リカバリーガールの見てる前で実際に怪我を治してみた。二学期になったら、健康な血管や臓器を造る練習もするって」

 

「へぇ……色々、大変やね」

 

「その内『最上の医龍によろしくなDr.コトーX』とか言われる様になるかも知れん」

 

「ブフゥッ!! 混ぜすぎやッ!!」

 

思ったよりも俺のジョークが受けたお陰か、落ち込んでいた麗日の機嫌も次第に何時もの明るい調子に戻ってきた。

それから麗日と一緒に必要な物を買った後、時間つぶしも兼ねて何か食べようと言う事になってクレープ屋へ向かう途中、俺達は予期せぬ人物を目撃した。

 

「あれ、爆豪君だよね? 確か、行かないって言ってたような……」

 

「……まあ、『一緒に行かない』だけで、『買い物に行かない』とは言っていないからな。そもそも勝己は大勢と一緒に行動するのが苦手だし」

 

「確かに、そんな感じするけど……」

 

「おーい!! 爆豪、来てたのか!!」

 

一人で買い物をする勝己を見て、俺は勝己の性格から声を掛けるのを控えようと思ったのだが、俺達と同じように勝己を見つけたらしい切島が勝己に声を掛けていた。

切島は勝己に一緒に買い物をする事を提案している様だが、勝己は切島の誘いを断って一人で買い物をしようとしている素振りを見せる。そんな勝己に、面倒見の良い切島は食い下がる事無く、スタスタと歩いて行く勝己の後を着いて行って、二人は人混みの中に消えたのだが……。

 

「し、シン君。アレ……」

 

「ん? おぉう……」

 

「………」

 

麗日の指さす先には、まるで一切合切の慈悲を捨て去った雪女の如く、冷酷で鋭い刃の様な絶対零度の眼差しを、切島が歩いて行った方向に向ける耳郎が立っていた。

 

「……耳郎も誘おうか?」

 

「うん……」

 

状況から鑑みて、目で怨み節を語っている耳郎の気持ちが痛いほど分かるのか、麗日は俺の提案を快く受け入れてくれた。

まあ、友情に厚い切島としては、全く悪気はないのだろうが、だからと言って行動を共にする女子にしてみれば「悪気がない」では済まされない案件であろう。「私よりもその男の方が良いのねッ!!」みたいな。

 

うわ……ウチのクラスの男子、自らフラグ折る奴多過ぎ……?

 

しかし、このまま何も手を打たなければ、かつて職場体験において指名が0票だった絶望から、勝己と轟のやりとりを悪意ある編集を加えたゴシップ動画として校内にばらまこうとした耳郎オルタが再び降臨する事は間違いない。

ぶっちゃけ、今の耳郎の機嫌を直すのは、永きに渡って非リアを邁進してきた俺には少々難易度が高そうだが、幸いな事に麗日も一緒だから大丈夫だろう。多分。

 

「じ、耳郎。マニキュア塗ったのか? よく似合ってるぞ?」

 

「……呉島と……麗日?」

 

「う、うん! 耳郎ちゃんって、爪の形キレイだもんね!」

 

「お、おお、言われてみれば確かにキレイだな! マニキュア塗った所為か、ますます耳郎の魅力が増している気がするぞ!」

 

「え……? そ、そうかな?」

 

結果的に「案ずるより産むが易し」と言うべきか、思ったよりも耳郎は簡単に機嫌を直してくれた。八百万の事を「かなりチョロい」と言っていた耳郎だが、何だかんだで耳郎自身も八百万に負けず劣らずチョロい気がする。

 

その後、オルタ化を阻止する事に成功した耳郎を加え、三人でクレープを食べてまったりしてから集合場所へと向かったのだが、その時になってふと「コレは所謂『両手に花』と言う奴だったのでは?」と気づいた時には既に遅く、二時間の買い物は幕を閉じた。

 

やだ……俺も貴重なチャンスをドブに捨て過ぎ……?

 

まあ、ここはメンタルケアを怠って精神が暗黒面に堕ちた二人が『雄英のアヴェンジャー』とならなくて良かったと思うべきか。

 

「おう!! 皆、再び此処に集ったな!! 目的を果たし、一回り成長したか!?」

 

「「「「おーーーーーーう!!」」」」

 

「「おう……」」

 

そして、切島が忍び寄っていた魔の手の存在を知らないのは兎も角として、上鳴と峰田は一体どうしたのだろうか? 二人の性格を考えると、人混みで疲れたとは考えづらい。後、珍しく出久の姿が見当たらないが……。

 

「? 緑谷君はどうしたんだ?」

 

「何かあったのかな?」

 

「……心配するな。俺に心当たりがある。恐らく、ヒーローショップで店員とオールマイトの販促パネルを貰う交渉が難航しているんだろう」

 

「え? 何ソレ?」

 

「でも、何か分かる……」

 

「うむ! しかし、呉島君だけに緑谷君を探させるのはいけない! ここは皆で手分けして、緑谷君を探そう!」

 

「……まあ、ヒーローショップに居なくても、オールマイトの販促パネルを抱えているだろうから、嫌でも目立つだろう」

 

「販促パネル貰ってるの確定なの!?」

 

結局、人の良いクラスメイト達全員で出久を探す事となったのだが、予想していたヒーローショップに出久の姿は無く、麗日を見た時にあった「オールマイトの匂い完全再現」と書かれていたオールマイトの販促パネルも無くなっていた。

 

ヤベェ。よりによって、あのパネルを選ぶとは。

 

これは誰よりも先に出久を発見して、二人で密かに撤退しなければ……と思った矢先、スマホに麗日から着信が来た事で思わず「終わった」と思ったのだが、麗日から語られた予想外の内容によって事態は一変する。

 

出久があの死柄木弔と接触した……と。

 

 

○○○

 

 

それは死柄木弔にとって意図したモノではなく、全くの偶然による出会いだった。

 

『正さねば――……、誰かが血に染まらねば……! “ヒーロー”を取り戻さねば!!』

 

『例え、戦う俺の姿を見て、誰もが俺を恐れたとしても、俺が人を愛する限り、俺は人を守る為に戦う』

 

『ヒーロー殺し』と『仮面ライダー』。打倒された者と打倒した者が信念を語るその姿は、動画サイトで今もアップと削除を繰り返しているが、世間一般の日常に生きる者達にとっては、良くて「対岸の火事」。大概は自分とは特に接点も、大きな関わりもない事象でしかない。

 

『ヒーロー殺しの意志は、俺が全うする』

 

『怪人になりたいです! 怪人を殺したいです! だから入れてよ、弔君!』

 

その一方で、二人の思想や信念とは程遠い場所で、二人のシンパたる者達が生まれていると言う現実。そして、彼等が『敵連合』に入る理由が「オールマイトを打倒する」と言う、自分が掲げた目的ではないと言う想定外。

誰も彼もが『ヒーロー殺し』と『仮面ライダー』に当てられているに過ぎず、自分達が起こした行動による帰結ではない。それが死柄木をどうしようもなく苛立たせていた。

 

しかし、『仮面ライダー』が死線を越えて『ヒーロー殺し』から与えられた疑問の「答え」を得た様に、死柄木もまた自分と対極に位置する緑谷出久との問答によって疑問の「答え」を得た。

 

「全部。オールマイトだ」

 

自分の全てはそこから始まっている。自分の全てはそこに終結する。如何に納得も理解も及ばない過程を進んだとしても、その始まりと終わりが変わる事は絶対に無い。

故に、死柄木はもはや迷わない。自分は只ひたすらに、「オールマイトの居ない世界」を作り、「正義がどれだけ脆弱なモノか」を暴けば良いのだと悟ったから。

 

しかし、運命の女神は時に残酷である。

 

死柄木が上着のポケットからトレードマークである手のマスクを取り出そうとした時、迂闊にも一緒に入っていた財布を落とし、あろうことかそれが排水溝の中に入ってしまったのだ。

 

「俺の全財産がッ!!」

 

ニートである死柄木の収入源は、自分を養ってくれる先生からのお小遣いのみ。それ故か死柄木に貯金という概念は存在しない。常に「財布の中身=全財産」である為、財布を無くした死柄木は新しくお小遣いを貰わない限り、コンビニでアイス一つ買う事も出来ないのだ。

 

「……仕方ない。また先生に――」

 

「はぁい、ジョージィ?」

 

「!?」

 

財布の回収を諦めてその場を立ち去ろうとした時、排水溝から自分に呼びかけているらしい軽快な声に、死柄木が思わず振り返ると、排水溝の中から大きな赤い複眼が此方を覗いていた。

 

「スマホで何かソシャゲとかやってたりするぅ?」

 

「……は?」

 

それは顔面を真っ白に塗りたくり、赤いアイメイクを施したイナゴ怪人だった。ピエロを意識した不気味なメイクは、暗い排水溝の中にいる所為もあって、白い顔面と赤い複眼がやたらと際立っている。

 

初めはショッピングモールから密かに尾行してきたのかと思ったが、それならこんな回りくどいことはしないし、ノコノコと正体を現すような事もしないだろう。それこそ保須市の時の様に奇襲を掛ける筈だ。

取り敢えず、自分の正体がバレていなさそうなので、イナゴ怪人の質問に答えつつ、何かしらの有益な情報を引き出そうと考えた死柄木は、最近本で学んだ『THE・交渉術』を試してみることにした。

 

「……いや……」

 

「Oh……最近だと無料で遊べる面白い名作が沢山あるのに……。『ふぇいと/グランドガーチャー』とかどう?」

 

「……てゆーか、お前はソコで何やってるんだ?」

 

「うむ。実は都市部の下水道と言うのは絶え間なく供給される温排水によって適度な湿度と温度が保たれていて、熱帯生物にとっては理想的なジャングルと言える環境でな。

ペットショップから流出した卵や、予想を超える成長を果たした事で家庭から逃げ出した、或いは無責任な飼い主によって逃がされたペット達が、暖かい上に様々な滋養分が豊富な暗黒の下水道の中で生き存え、そこで孵化し、或いは異種交配を繰り返す内に、全く別種のミュータントが生まれる事があるのだ」

 

「……それってお前の事じゃないのか?」

 

「断じて違う。私はソレを探し求める、サブカルとロマンが好きな、歌って踊れる一介のピエロ(偽)さ。ちなみにこの間は真っ白な巨大サンショウウオと、真っ白な巨大クロコダイルを捕獲した」

 

「へぇ……」

 

「……で、どうだい? 君も一つ人類の救世主ってヤツになってみないかぁい?」

 

「……そのゲームって一応無課金でやれるけど、キャラのコンプに必要なガチャの排出率が厳しすぎて、レアキャラ手に入れるのに課金しないとやってられないクソゲーだって、この間ネットの記事で読んだぞ。騙されんぞ」

 

「確かに、キャラをコンプしてグランドガーチャーになるのも目的の一つだが、それはポ○モン図鑑を全部埋める様なもので、ストーリークリアには全く影響しない。それに運営からのログインボーナスとか、メンテの詫び石なんかを使った無課金プレイでも、ガチャでそれなりの数のレアキャラは出せる。実際に三ヶ月ばかり無課金でやってみたが、ちゃんと最高レアのキャラも出たしな。今なら3周年記念で新規プレイヤーには特典が山ほど付いてくる! やるなら今がチャンスだ!」

 

「なるほど、それは面白そうだな」

 

目論見通りにイナゴ怪人から有益な情報を引き出せた事に満足した死柄木は、ソシャゲをオススメするイナゴ怪人に対して興味のありそうな返事をしつつ、彼の怪人スマイルに負けず劣らずの笑顔でこう答えた。

 

「帰ったら『リーマンストライク』やるわ」

 

「待てやッ!!」

 

死柄木にしてみれば、ゲームとは言えヴィランがヒーローの真似事をするなど、それこそ世界が滅んでも絶対に有り得ない。

それ故に、一介のサラリーマンが体当たりで上司をボコる、ここ数年で不動の1位を誇るスマホゲームをやる事を宣言して颯爽と立ち去ろうとした訳だが、上げて落とした事に腹を立てたのか、イナゴ怪人が声を荒げた。

 

それでも死柄木はイナゴ怪人を無視してアジトに向かおうとしたが、そこでイナゴ怪人は死柄木をこの場に留める会心の一手を繰り出した。

 

「ところで……コレを落としたのは君か?」

 

「あん? !! 俺の全財産ッ!!」

 

「Exactly! コレを返してやるから、俺の目の前で『FGG』をインストールするんだ。そして、欲しいレアキャラが出るまでリセマラしろ」

 

「………」

 

「Oh……マジで俺の言う事を『罠なんじゃないか』って疑ってる目だな」

 

「………」

 

「そして、『リセマラとかマジでメンドクセェ』って顔の合わせ技だな。まあ、聞け。確かに『マンスト』は面白い。会社の上司とか社長とか現実世界なら絶対に歯向かえない相手をフルボッコにする事が出来るんだからな。だが、ソレを言うなら『FGG』だって負けちゃいないぜ? 例えばコレだ……」

 

自身がオススメするソシャゲの魅力を伝える為か、イナゴ怪人がどこからともなくタブレットを取り出すと、そこには半魚人の様な顔をした気持ち悪い男が映っていた。

 

「何だそいつ。キモイな」

 

「コイツはプレイヤーキャラの一人の『COOL元帥』。その正体はロリペドでショタコンで鬼畜リョナでドSの殺人鬼のド変態の青髭ボーボーの犯罪者の性倒錯者だ。ちなみにレアリティは星1~5の中で真ん中の星3だ」

 

「何だその少年誌じゃ絶対に採用されない設定のキャラは」

 

「今のご時世だと青年誌でも正直ギリギリだな。そして、こんなペドでショタでリョナで鬼畜な性癖四重苦を育てて、清廉潔白の名だたるヒーロー達をバッタバッタとなぎ倒し、ソイツ等を差し置いて人類の未来を取り戻す事が出来るんだ! どうだ? 『マンスト』に負けず劣らずの倒錯した愉悦と、最高のCOOOOOOOLを味わえると思わないかぁい?」

 

「……他にもこう言う悪党のキャラっているのか?」

 

「Oh, yes……ロンドンを震撼させた殺人鬼に、ドリカムスマイルの奴隷王……他にも色々な悪党キャラが君を待っている。『FGG』は良いぞぉ、ジョージィ……。今なら福袋で最高レアが一体確定だ……。始め時だぞぉ……」

 

「……さっきから言ってる、そのジョージってのは一体何だ?」

 

「排水溝に落とし物をした人間は、誰もが皆ジョージなのさぁ……」

 

「………(ちょっとやって、つまらなかったら止めよう)」

 

「だから好きなキャラを引く事が出来たなら……」

 

質問を繰り返した結果、安全だと判断した死柄木は差し出された自分の財布にゆっくりと手を伸ばすが、その瞬間イナゴ怪人の纏う雰囲気が変わった。そして、一瞬の不意を突いて死柄木の手首を掴むと、ひた隠しにしていた恐るべき本性を曝け出したのだ。

 

「宝具レベル5になるまでガチャを回し続けるんだッッ!!!」

 

「KYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

 

「KUWAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

 

イナゴ怪人は死んだ。死柄木が“個性”で排水溝の付近を崩壊させ、排水溝に侵入して普通に“個性”で肉体を崩壊させて殺したのだ。

 

そして、ニート死柄木の精神も死んだ。COOL元帥を引く事に躍起になった彼はストーリーガチャと言う名の底なし沼に肩までどっぷりと浸かり、瞬く間にお小遣いを使い果たして先生からお小遣いの前借りを断られた為に、新入社員のヤンデレJKと交渉の末に借金した挙句の大爆死。

しかも、その後に行われた復刻イベに伴うピックアップガチャでCOOL元帥がピックアップされたにも関わらず、ガチャを引けない事によるストレスが原因で、引き継ぎ設定をしていない状態のスマホをうっかり“個性”で破壊し、精神が死んだのだ。

 

引き継ぎ設定は大事。皆もスマホの機種変更の時は注意しよう。

 

 

○○

 

 

「嫌に嬉しそうじゃないか、先生。その体を治す目星が付いたからかね?」

 

「フフフ……違うよドクター。呉島新の他にもう一人、超人を超える可能性を秘めた存在が見つかった事にさ。

この地球に生きる全ての生命の歴史は、『破滅』と『再誕』の繰り返しだった。海中に芽吹いた小さな単細胞生物は、『破滅』と呼ばれる偉大な力を借りて魚へ進化した。魚は陸へ上がり、恐竜となり、恐竜もまた破滅の力により次の支配者に席を譲った。哺乳類は人を生み、人もまた再誕した。『再誕』……即ち『進化』だ」

 

「ふむ……所で、やはり『オーバーホール』でその体を治す事は出来ないのかね?」

 

「ああ。あの子の腕に無数の傷痕が残っていた事から悪い予感はしていたが、この“個性”で僕を治すことは出来ない。『修復』と言うより『再構築』に近い能力だ。この体になってからでは遅いハズレ“個性”だったね。回収したあの子の『巻き戻し』なら僕を元の体に戻す事も可能だろうが、コッチは自分自身には使えない」

 

「その上、本人は“個性”の使い方が全く分かっておらんしな。アレでは加減など出来んじゃろう。そうでなくとも『突然変異(ミューテーション)』は扱いが難しい。前途洋々とは言えんな」

 

「まあね。『両親の家系と類似しない、全く新しい“個性”を発現する』と言う成り立ち故に、『突然変異(ミューテーション)』は一般的な意味での『個性特異点』に最も近い“個性”の一つだ。あの子の血肉を用いた『個性破壊弾』なんて物が作れたのもその為だ」

 

「その点は呉島新と同じじゃな。右腕から人型まで培養するのに大分時間が掛かったが、アレは既に脳無達を超えておる。その代わり、教育を必要とするのがネックじゃが……」

 

「何、その分脳無よりも、ずっとやり甲斐があるってものさ。しかし、皮肉なものだ。誰よりも人類の未来へ進んだ者に天が与えた異能が、よりにもよって『人類を退化させる事が出来る力』だとはね」

 

「確かに皮肉じゃな。しかし、あの若頭はあの子を分解して『巻き戻し』を止めていたのじゃろ? 先生なら適当な所で『巻き戻し』を止める事も出来るんじゃないか?」

 

「いや。それじゃ駄目なんだよ、ドクター」

 

「何?」

 

「それでは彼女から忠誠心を得る事が出来ない。今後の為を考えれば、あの子が僕の為にその力を完全にコントロール出来る様に成長してくれた方が良いじゃないか。だからこそ、今は信頼関係を築く事を優先するべきだ。

それに、あの子が父親を『一瞬で消し去る程のスピードで巻き戻した』事を考えると、“個性”の強制発動の後に分解して止めるのも、それはそれでリスクが大きいやり方だろう?」

 

「……なるほど。時間はかかるが、確かにその方が都合が良いか」

 

「もっとも、感受性の強い子みたいだから、それも容易ではなさそうだ。その辺は様子を見て臨機応変にやろう。『突然変異(ミューテーション)』の“個性”は、通常の“個性”と比べて出力も桁違いだから、それを内包している体も通常の“個性”持ちよりずっと大きな器であると言える。これまでの素体になった者達と比べても、遙かに高い素質を持っている事は間違いない」

 

「ねえ、パパ。そろそろお勉強の時間だよ?」

 

「おっと、済まないね。楽しくて、ついつい話し込んでしまった。それでは、今日の勉強を始めようか。『ガイボーグ:SEVEN』――いや、『ドラス』よ」




キャラクタ~紹介&解説

呉島新
 着実にドクターライダーの道を歩きつつある怪人主人公。彼の最期の言葉は「コーヒーを頼む……」なのかも知れない。尚、本人はメンタルケアに集中するあまりチャンスをドブに捨てたと思っているが、ずっと飯田に張り付かれていた峰田が聞けば、血涙を流す程のシチュエーションだったりする。

緑谷出久&切島鋭児郎&麗日お茶子&耳郎響香
 久方ぶりの『すまっしゅ!!』ネタの犠牲者。しかし、元ネタと違って麗日と耳郎に精神的ダメージはない……と思いきや、デク君が本当にオールマイトの販促パネルを持っていた上に、那加野ブロードウェイにあるヒーローの匂い専門店の常連である事を、心配して集まってきたクラスメイト達に自ら暴露していたりする。

出久「え? 大丈夫だよ。匂いって皆好きだし……。え? 皆も一緒に見る?」
峰田「同志よッ!!」
その他「………」

峰田実
 原作と異なり、無駄に強大な力を得たが故に失敗した変態。ちなみにVSミッドナイト戦では、変態ブドウに変身した事によるパンティ越しの呼吸によってミッドナイトの『眠り香』を無効化しつつ、大幅なパワーアップを果たしていた。……何? 訳が分からん? 大丈夫。変態とはそう言う生物だ。

オール・フォー・ワン
 久し振りに実戦に出るか……とばかりに外出した闇の帝王。ヤクザの屋敷にカチコミをかけたら予想外の掘り出し物が見つかって、かなりご機嫌なご様子。最近はショタな怪人の教育が楽しい模様。
 現在60個の“個性”を集めようとしているのだが、その理由は「60個の“個性”を一つに集約させれば、地球を滅ぼす程のエネルギーが得られる様な気がする」と言っているとか、いないとか。

治崎廻/オーバーホール
 自分もまた『超人社会の病人』である事を自覚させられたヤクザ。その姿はビットコインで一山当てようとして失敗し、尻の毛まで抜かれてしまった様に見えなくもない。ロリの血肉を利用していた彼が、他者に自身の血肉を利用されると言う因果応報な最期は、ある意味原作や『序章』のIFルートより豪華な死に様だと思うの。

死柄木弔
 最近、「ペニーワイズのオススメするシリーズ」がハーメルンでもちょっと流行っている様なので、物は試しと流行(?)に乗ってみた作者の犠牲者。シリアスパートからギャグパートに急転直下した結果、新入社員達から『ニートの駄目人間』の烙印を押されている。まあ、実際にその通りなんだけど。
 尚、ヤンデレJKとは「優先的に怪人を好きに出来る権利」と引き替えに金の無心に成功。何でも「幾ら刺して血塗れになっても、絶対に死なない感じで何度でも楽しめそうなのが良い」らしい。

イナゴ怪人(1号~スカイ)
 怪しいカルト宗教の様なゼミを創設して資金を集めつつ、新手のミュータントを見つけて自分達の手駒にしようと目論む怪人軍団。現在、『怪人先生の真剣ゼミ』に入会すればゼミと無関係な事でも上手く事が進み、入会しなければ万事が暗転し人生ハードモードな末路を辿るマンガを製作している。尚、死柄木との出会いはデク君と同様完全に偶然。

ガイボーグ:SEVEN/ドラス
 オール・フォー・ワンとドクターの手によって造られた、新型の改造人間『ガイボーグ』の完成品。その正体はシンさんの切断された右腕を培養して造られた「シンさんのクローン」と言える存在で、その精神構造は幼児のソレと大差ない。そして、複数の“個性”を投与された影響で会話による意思疎通が可能。尚、『ドラス』とは自我が芽生え自分だけの名前を欲した彼に、オール・フォー・ワンが与えたもの。
 戦闘能力は現時点で『敵連合』が造った従来の改造人間を超えている上に、成長と進化の余地さえ残している。しかし、今回“個性”を失った治崎のDNAを取り込んでみたが、新しい能力の獲得や進化が起こる事は無かった。
 元ネタは『ZO』の「ドラス」と、小説『仮面ライダーEVE』の「ガイボーグ」。そして、本体から切り離された右腕から派生した怪人と言う点は、『オーズ』の「アンク」と「ロストアンク」のオマージュ。

ZO「………」

???
 オール・フォー・ワンによって、ヤクザの地下室から回収された幼女。両親のどちらの家系にも全く類似しない“個性”を発現した彼女こそが、原作で言う所の『個性特異点』なのではないか……と、作者は思っている。
 そして、これまで治崎に利用されてきた彼女は、オール・フォー・ワンが自分を手元に置いている理由が「自分自身の為に利用する事」だと感覚的に理解している。つまり、彼女がオール・フォー・ワンを信頼する事は無い訳で……。



オール・フォー・ワンVSオーバーホール
 作者の趣味で対決する事になった二人の巨悪。ちなみに作者は「相手が“個性”の複数持ちだった場合、完成品の『個性破壊弾』を撃ち込んでも、破壊できるのは複数ある“個性”の内の一つだけなのではないか?」と言う疑問がある。
 尚、前作『序章』のIFルートにおけるシャドーシンさんの場合、「オール・フォー・ワンに投与された“個性”が一つに統合されていた為、未完成の『個性破壊弾』によって無力化された」と言う裏設定がある。

ふぇいと/グランドガーチャー
 ストーリークリアは兎も角として、ガチャによるプレイヤーキャラのコンプが無課金ではかなり難しい上に、プレイヤーキャラの持つ必殺技のレベル上げが地獄だと評判のスマホゲーム。
 元ネタはご存じ『FGO』。しかし、今度貰える星四鯖交換チケットでは一体誰を選べばいいのやら……。

原作ハイエンド戦後

荼毘「ハハ……考えすぎてイカれたよ(キリッ)」
イナゴ怪人「ハァイ、ダァビィ。『FGG』の1500万突破DLキャンペーン知ってるぅ?」
荼毘「……は?」

リーマンストライク
 どう考えても某スマホゲームのパク……インスパイアと思しき『すまっしゅ!!』に登場するスマホゲーム。上鳴・瀬呂・麗日の三人から薦められた飯田が瞬く間にガチ勢と化し、タップ猿と成り果てたが……。オールマイトコラボがあるかどうかは不明。



次回予告

鳥も獣も寄りつかぬ謎の山林!

そこでB組の生徒21人が見たモノは何か!?

戦慄! 恐怖! 怪奇!

動物か!? 植物か!?

喰うか!? 喰われるか!?

魔性の怪物! 人類の恐怖!

その名は『第三の怪人マタンゴ』!!

突然変異が生んだ、巨大で残虐無残な吸血マタンゴ!!

次回、『怪人征する森~マタンゴの逆襲~』にご期待下さい!!

近日公開 <キャーッ!

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