タイトルの元ネタは『新・仮面ライダーSPIRITS』の「魔人征する町」と小説『マタンゴ~最後の逆襲~』。それでは読者の皆様、良いお年を。
2019/1/1 誤字報告より誤字を修正しました。報告ありがとうございます。
2019/3/2 誤字報告より誤字を修正しました。毎度報告ありがとうございます。
この世界で最大の生物はキノコ――そんな話を、聞いたことはないだろうか?
この話を聞いた者は大抵の場合、それこそ天に向かって雄々しく屹立した、一本の巨大なキノコを想像すると思うが、そもそも我々が普段から目にするキノコは「子実体」と呼ばれる繁殖に必要な胞子を製造する為のもので、動物で言うところの生殖器である。
では、それ以外の……キノコの「本体」と言える部分は何かと言うと、それは「菌糸」と呼ばれる糸状の細胞が土中や樹木の中に隠れた、所謂「菌床」がソレに当たる。
実際の所、「世界最大の生物はキノコ」と言う話も、アメリカのオレゴン州において、「オニナラタケと言うキノコが約8.8平方㎞に渡る広大な菌床を持つ事が判明した」と言う事であり、それこそ目に見えて分かるような超巨大なキノコが発見されたと言う話では無い。
「……え? 何コレ?」
だが、目の前に広がる光景は、その話を聞いた大多数の人間が頭に思い描いたヴィジョンそのものと言える「菌糸類の森」だった。
「来たか! さあ、説明して貰おう! これは一体どう言う事か!」
「……まあ、俺も大体の想像はつきますが、一応聞いておく。どうしてこうなった?」
「全てはあの女の仕業だ。そう! ローカスト・レイパー『孕ませマッシュ』のな!!」
「「誰だそれはッ!?」」
そして、B組を担当していたらしい、プッシーキャッツの残り二人。ラグドールと虎の二人と合流すると、イナゴ怪人1号は声を荒くして元凶らしき人物の名を告げた。
しかし、ローカスト・レイパー『孕ませマッシュ』とか見た事も聞いたこともないぞ。察するに、B組の女子の誰かなんだろうが、B組に変態ブドウ並みに物騒な女子が居たとは正直考えづらい。
「聞いて分からんか!? あのキノコみたいな頭をした女だ!! 今にして思えば、ヤツは最初から我々に警告を発していたのだ! 近づけば問答無用で孕ませてやるとなッ!!」
「いや、絶対に違う!」
「違わない!! 現に我々はヤツに細胞単位で犯され、あの化物キノコを生み出す羽目になったのだからなッ!!」
「「「!?」」」
怒りに燃えるイナゴ怪人1号だが、コイツの言う「キノコみたいな頭をした女」とは、多分ロングボブで目元を隠した女子の事だろう。朝に見た時はかなり大人しそうな印象だったが、本性はイナゴ怪人でもホイホイ喰ってしまう様な超肉食系女子……な、訳ないよな。むしろ、あってたまるか。
だが、イナゴ怪人1号の口ぶりから察するに、彼女がこの異常事態に関与している事はまず間違いない。恐らくは勇学園の時と同じ様な現象が起こったと思われるが……。
「……取り敢えず、一から十までしっかりと説明して貰おう」
「うむ! 情景描写たっぷりに話してくれよう!! あの女のせいで我々が味わった陵辱の全てをなッ!!」
そして、イナゴ怪人1号は怒りのゼスチャーを加えながら、一部始終を語り始めた。
事の発端は、イナゴ怪人1号が相澤先生に課題を申しつけられ、B組の面々が到着するのを今か今かと待ち構えていた所から始まる。B組の生徒が乗るバスがA組とは異なる場所で停車し、B組の面々がラグドールと虎の二人と挨拶を交わした後、イナゴ怪人1号は呼び寄せた仲間達と共にミュータントバッタの大群に変化し、彼等に襲いかかったと言う。
「この時は特に何も無かったのか?」
「うむ。そして、この時の混乱に乗じ、我々はストリーキングヒーロー『全裸マン』を誘拐し、袋だたきにした後に木に吊してやったのだ! 『愚か者』と書いた張り紙を添えて!」
「お前等、相変わらず物間を目の敵にしてんのな」
「断じて違う。コレは所謂、『相手チームの中で一番弱いヤツを徹底的にボコボコにして、他のメンバーの戦意を喪失させる』と言う極めて合理的な戦法だ。その上、ヤツはB組の中心人物でもあるから注目を集めやすい。つまり、囮と言う点では、正に理想的なカモであるとは思わぬか?」
「言い方は悪いが、まあ確かにそうだな」
「うむ。そして、奴等がボロ雑巾と化した全裸マンと、この私の達筆に注目している隙を突き、我々は奴等を強襲したのだ!!」
イナゴ怪人が幾ら不死身だとしても、9人VS21人と言う数の差は単純に脅威である。しかも、此方は基本的に全員の能力が同一であるが、相手は21個の多種多様な特殊能力を持った集団だ。
ならば、対戦相手の弱い所を突いたり、隙を作る工夫をしたりしなければ、イナゴ怪人達が勝利をもぎ取る事は難しいだろう。体育祭の時に対処法はある程度割れている訳だし。
そして、一瞬の内にプレデターに襲われたかの様に森の中に吊された同級生の姿に、彼等が動揺しない訳が無い。それによってイナゴ怪人の事が一瞬とは言え意識から外れ、無防備となった彼等はイナゴ怪人の攻撃を許してしまったのだ。
「我々は奴等をありとあらゆる手段で攻撃した。イナゴ怪人ストロンガーの電ショック。イナゴ怪人アマゾンのアマゾンサイズ。イナゴ怪人スカイのスカイドリル。イナゴ怪人2号のムシムシのギガントバズーカ。イナゴ怪人スーパー1のムシムシのガトリング……」
「ちょっと待て、何か途中からおかしくなってないか?」
「我々の肉体の特性上、掌を大きくしたり、体を回転させると言った事は造作も無い事だ。ならば、意趣返しの意味としても丁度良い」
「いや、そうじゃなくて技の名前が」
「まあ、確かに正しくはない。実際、ムシムシのガトリングは、スーパー1の特技『ファイブハンド』で腕を5本に増やして殴っていた訳だからな。技の原理としてはゴムゴムよりモチモチだ」
「………」
そう言う意味で聞いたんじゃねぇよ。まあ、コイツ等は悪魔の実の能力者と言うよりは、もはや悪魔そのものと言える様な存在だが。
「しかし、奴等も雄英高校ヒーロー科。最初は蜘蛛の子を散らした様に混乱していたが、徐々に我々に対応してきたのだ。或る者は接着剤で肉体を縛り、或る者は互いの“個性”を組み合わせ、そして或る者は油断を誘った……そう、あの女は正にそれだった」
「“個性”の組み合わせと言うと、具体的にはどんな?」
「例えば、鱗を飛ばす“個性”と、物の大きさを変える“個性”の合わせ技だ。後者の“個性”は生体には使えないらしいのだが、本体から切り離した鱗はただの物質だ。つまり、その瞬間から能力が適用される」
「なるほど」
「そして、ローカスト・レイパー『孕ませマッシュ』は、気絶したフリをして油断を誘い、私がその肉体を乗っ取ろうとした瞬間を狙って“個性”を発動させたのだ!! 『コレを狙ってたノコ。周りに胞子が極力分散されない、この取り込む瞬間を狙ってたノコ。完璧ノコ! この作戦!!』と言って私の体内に胞子を欲望のままに無責任にぶちまけ、私を全身キノコ塗れにしたのだ!!」
「ただの正当防衛じゃねぇか」
てゆーか、話を聞く限り、襲ったのはむしろお前の方だよな? 被害者面してるけど、むしろお前は加害者だよな? まあ、予想通りではあるのだけど。
「そして、何体かのイナゴ怪人を倒して調子を取り戻した奴等は、バトルフィストを中心として包囲網を突破し、進軍を開始した。そこで我々は作戦を変更し、相手を極力消耗させる事を目的としてゲリラ戦を展開した。相手には水も食料も無く、姿の見えぬ敵のプレッシャーによって、心と体はあっと言う間に疲労のピークを迎えると考えてな」
「……ちょっと待て。そうなると、その時は森もこうなってなかったって事か?」
「うむ。この森がこうなったのは、それから少し後だ。上空から機を伺っていた我々は、円を描くように色とりどりの何かが奴等を取り囲むように展開されている事に気付いた。それは見る見る内に成長し、巨大なキノコとなった所で付近を調査してみた」
「それって今からどれ位前だ?」
「およそ一時間前だな」
「マジか」
「本当だよ。あちきも外からずっと見てたけど、確かにそれ位前だよ」
ラグドールの裏付けもあって、一時間かそこらでよく言えば幻想的。悪く言えば現実離れしたキノコの森が誕生した事は間違いないらしい。しかし、たった一時間でコレなら、一日もあればこの山は完全に化物キノコに支配されるだろう。
「化物キノコもそうだが、それ以上に問題なのはキノコの化物だ」
「? キノコの化物?」
「我々が化物キノコを調査した際に出現した、得体の知れぬ怪物だ。周辺環境に擬態し、音も無く襲ってくる待ち伏せ型のハンターだ。そして、襲った相手を胞子によって感染させ、どんどん仲間を増やす。それは人間も例外ではない」
「……は?」
今コイツは何と言った? 襲う相手は人間も例外ではない?
「我々がキノコの化物に襲われた際、我々は身動きが取れない状態で生かされていた。そして、しばらく経ってから我々は意志に反し、B組の連中への特攻を余儀なくされた。恐らく、感染したキノコの意志だろう」
「……つまり、お前等はB組を化物キノコに感染させる為の爆弾にさせられたと?」
「うむ。その時には既に大半が襲われていたがな。しかし、このイナゴ怪人1号を舐めて貰っては困る。一人だけだがローカスト・エスケープで救出し、そこの二人に預けてある。まあ、能力の相性もあっての事だったが」
「一人? 誰を救出したんだ?」
「バスに乗る前に『仲良くしよう』と言ってきた女だ。あの女は肉体を分裂させ、再生する“個性”を持っていたからな。ローカスト・エスケープで感染部分を切り離してやったのだ」
「その女子から話を聞く事は?」
「無理だ。我々も彼女から事情を聞こうと思っていたのだが、上の空と言うか何と言うか、とても話を聞ける様な状態ではない」
「……様子を見ても?」
「ああ、そこの車の後部座席にいる」
虎の許可を得て、助け出された唯一のB組の様子を覗き見ると、確かに「仲良くしよう」と言っていた女子が後部座席に座っている。
「ん~~~? えへへへへぇ……」
しかし、明らかに朝と雰囲気が違う。目がとろんとしていて、朝に見たようなきりっとした印象がまるで無い。てゆーか、どこか色っぽい。いや艶っぽい。此方に気付いて、笑いながら手を振っているが、それだけでも妙に妖しい魅力が感じられる。
「……これは、キノコの毒にやられたと見るべきか?」
「どちらかと言えば、マジックマッシュルーム的なトリップ状態と見るべきだろうな。恐らく、他のB組もこれの所為で自力脱出が出来ないのだろう」
「感染すると同時に、麻薬の様に神経をイカレさせる訳か。想像以上に厄介な相手のようだな。彼女以外の他のB組は?」
「一人だけ頑張ってる子が居るよ。だけど、身動きがとれないみたい」
「そう言えば一人だけ耐えていたヤツがいたな。体育祭の騎馬戦で『全裸マン』と組んでいた男だ」
「しかし、今の話を聞くと化物キノコにせよ、キノコの化物にせよ、お前が生み出したと言うのは何かおかしくないか? 根拠は?」
「実は私がキノコの化物に襲われた際、反撃を試みた時に体が削れ、中からミュータントバッタの残骸がこぼれたのだ。恐らく『孕ませマッシュ』が倒した私の残骸から発生したのだろう」
「……って事はアレか。順序としては化物キノコよりもキノコの化物の方が先って事か」
「うむ。恐らくああやって自分に有利なフィールドを作り出すのだろう。いや、むしろあれこそが本来の姿なのかも知れんが……」
いずれにせよ、厄介な事態である事は間違いない。しかも今回は人間にまで被害が及んでいる。此処が南の小さい無人島の様な閉鎖環境ならまだしも、此処は一時間も車を走らせれば人間がうじゃうじゃいる都会に辿り着く本州の山林だ。勇学園の時の様なゾンビ騒ぎとは訳が違う。それこそ桁外れのバイオハザードが起こるだろう。
「差し当たって、ブラドキング達にも連絡を取って応援に来て貰うつもりだが、救助も駆除も簡単ではない。現在、警察を通してここに繋がる道路の閉鎖。そして対バイオハザード用の装備とエキスパートを要請している所だ」
「しかし、キノコは菌床が有る限り何度でも生えてきますから、それこそナパーム弾を撃ち込んでも駆除しきれるかどうか分かりませんよ? 実際、駆除はほぼ不可能かと」
「ならば、研究所からアレを持ってくるのはどうだ?」
「アレって?」
「『強化服・零式』だ。人類が生み出した黒き太陽の力を借りることで、奴等をこの世から殲滅するのだ!!」
「却下だ」
核エネルギーを使って化物キノコを駆除しようとか、この野郎正気か? いや、元々イナゴ怪人はまともじゃない沙汰の外にいる連中だが、流石に核電池で動く『零式』を使うのはどう考えても不味い。
あくまで勘だが、それをやったら最後、今よりももっと不味い事が起こるような気がする。具体的には、ある意味で放射能以上の恐ろしい事が。
しかし、あの森の中に生存者がいると言うなら、無視する事は出来ない。助けを求める人間は常に「早く助けて欲しい」と願う。今も病院で治療中のインゲニウムが語った、心理と真理を的確に突いた言葉である。
ならば、俺はあの極彩色の地獄へ踏み込まねばなるまい。
幸いな事に、俺は無呼吸状態でも30分程度は活動できる。そして、俺は体育祭で一切合切を遮断し、全身を守る事が出来るスーツを作ったことがある。ならば、救出も不可能ではない筈だ。
その事を説明し、生存者の救出計画をラグドールと虎に提案しようとした所で、俺のスマホが鳴った。父さんからだ。
「もしもし?」
『新か。イナゴ怪人達が「人類を守る為に、今こそ核の力が必要なのだ」とか何とか言って「零式」を持ち出そうとしていたが……何があった?』
「……実は――」
何食わぬ顔で俺が却下した核の力を使おうとしていたイナゴ怪人を横目に見つつ、俺は目の前で起こっているバイオハザードの経緯。生まれた突然変異の怪物の特徴。生存者の有無や状態。そしてラグドールから聞いた原因と言える“個性”の詳細など、様々な情報を余すこと無く教えた。
『周辺環境を自分達の繁殖に適した形に変化させ、テリトリーに入った生物を待ち伏せして襲う人型のキノコ……か。まるで「マタンゴ」だな』
「マタンゴ?」
『知らないか? 1963年に公開された映画で、キノコを食べた人間がキノコになると言う映画だ。石ノ森章太郎の手で読み切り漫画にもなっている』
「へぇ……」
『取り敢えず、襲われたB組の生徒に命の危険はないだろう。マジックマッシュルーム的な効果も、後遺症の心配も無く自然に抜けるだろうな』
「その理由は?」
『前例からの推測だ。そして結論から言えば、そのバイオハザードの原因はイナゴ怪人でもキノコの“個性”でも無い。原因となったのは新、お前だ。以前に起こった「ゾンビウィルス」の変異もな』
「……どう言う事?」
『まず、生物型の“個性”とは、言い換えれば「“個性”由来の生物」だ。しかし、それがぶつかりあったとしても、お前の様に簡単に変異は起こらない。仮に勇学園の生徒達がB組の生徒と合同演習を行い、ゾンビウィルスとキノコがぶつかったとしても、お前の時の様な事態は起こらないだろう』
「……それなら、ミュータントバッタが変異の原因なのでは?」
『そのミュータントバッタにこそ、大きな問題がある。ミュータントバッタがどうやって生まれたのかと言えば、元々は普通のバッタだったものが、お前の超能力によって突然変異を起こしたものだと分かっている。ならば、そもそもミュータントバッタが生まれる事になった原因は何だ?』
「……俺に友達が居なかった事」
『そうだ。そしてこれはゾンビウィルスが変異した「シグマウィルス」のサンプルと、勇学園との合同実習の戦闘データを確認した時から思っていた事なのだが……それは「ゾンビウィルスの変異は、普通のバッタがミュータントバッタに変異したのと同じ事なのではないか?」と言う事だ』
「………」
つまり、父さんは何かしらの思いや感情。或いは心の闇が『シグマウィルス』を生み出したのでは無いかと思っている訳か。てか、シグマウィルスって名称、初めて聞いたんだけど。
しかし、幼い時と違って今の俺には沢山の友人がいる。同じ様な理由で変異が起こったとは考えづらいのだが……。
『お前の考えている事は大体分かるぞ。だが、何も同じ理由だとは私も思っていない。そう、例えば……仲良くしたい相手と仲良くする事が出来ないとか』
「え……」
……そう言われてみれば、俺は合同実習の時、勇学園の4人とチームを組んだが、その中でも藤見とは友好的な関係を築く事が出来なかった。それどころか、コミュニケーションさえまともにとれていなかった。その事に対して、思う事が無かったとは確かに言い難い。
『そして今回のキノコの変異だが、お前にサイクロンを使った訓練をさせたいと学校側から連絡があった事を含めて察するに、自分だけがクラスメイトと違うカリキュラムを行う事について、何か疎外感みたいなモノを感じていなかったか?』
「………」
心当たりが有り過ぎる。しかし、父さんは何故こうも俺の心情を的確に言い当てる事が出来るのか? もしかして、学生時代に似たような経験があるとか?
……いや、待てよ。そう言えば父さんの“個性”も俺と同じ『バッタ』だ。……まさか、同族同士のテレパシーによる精神感応で俺の心が分かったのか? かく言う俺はテレパシーで父さんの心が分かった事は一度も無いが。
『そして、これらの仮説を証明しているのは、彼等の存在そのものだ。ミュータントバッタと同じ様な理由で変異を起こした彼等は、イナゴ怪人と同様にお前の心を反映した存在であると言える。例えば、シグマウィルスはお前の“個性”と、藤見君の“個性”の合体技と見る事も出来るんじゃないか?』
「………」
確かにそんな感じではある。そう考えるとアマゾンシグマはある意味、俺が心の中で求めていた、藤見とお互いの“個性”を用いた共闘ではなかったか? お互いの“個性”の合体技と言う友情っぽいモノに、憧れが無いと果たして言い切れるか?
いや、そもそも彼等のチームワークを優先して自分の“個性”を基本的に使わず、あくまで強化服の性能による補佐に回っていた事に、何の不満も無かったのか?
そう考えると、今回のキノコの変異も似たようなものだ。この光景は俺の心の内にあった「皆と一緒に訓練したい」と言う欲望が、「俺もイナゴ怪人と一緒にB組の連中と訓練したっていいじゃないか」と言う願望が形になったモノなのではないか?
先程、イナゴ怪人1号の話を聞いて、お互いの“個性”を組み合わせた攻撃を聞いた時、俺の心に羨ましいという感情があったんじゃないのか?
……ハハッ!! 何て事だ!! 全部、俺の所為だ(泣)!! B組の皆、全部俺の所為だ(号)!!
「なるほど。つまりはこのバイオハザードが起こったのは、我々イナゴ怪人が孕ませマッシュと戦ったからであり、それを指示したのは担任であるイレイザーヘッド。そして、この強化合宿のカリキュラムを作ったのは雄英の教師陣だから……ハハッ!! 全部雄英の所為だッ!! プッシーキャッツ、全部イレイザーヘッドとブラドキングの所為だッ!!」
「何ッ!! それは本当かッ!?」
「「……え?」」
何言ってんの、コイツ等。てゆーか、イナゴ怪人1号は俺の考えてる事が分かってる筈だよな? いや、むしろ嫌と言うほど分かっているからこその発言か? ちなみにラグドールは俺と同じ心境なのか、虎の発言に戸惑っているのか、俺と顔を見合わせている。
「……しかし、原因は分かったが、それが分かった所で、このバイオハザードはどうすればいい? 勿論、核の力以外で」
『例えば、アマゾンシグマは事前にお前から命令権を譲った八百万君の言葉を遵守していた。それと同じ様に、マタンゴも感染する前の命令を守っているとすれば?』
「それじゃあ、B組が襲われる前にイナゴ怪人達が襲われているのは?」
『飛行能力を持った足が欲しかったのだろう。恐らく、最初にイナゴ怪人達が見たマタンゴのフェアリーリングも、マタンゴが昆虫等に胞子を感染させて胞子を運ばせた可能性が高い』
「……救出された女子が今も襲われていない理由は?」
『それは彼女が一度感染して、戦闘不能の状態になっているだからだ。与えられた課題は、あくまで“足止め”だからな。逆に生存者はマタンゴに感染していないから、今もマタンゴの脅威に晒されている。マタンゴが円の内側に向かって繁殖し、外側に向かっていないのもその所為だ。
つまり、仮にお前がマタンゴの森から生存者をマタンゴに感染させずに救助した場合、マタンゴは助け出された生存者を感染させる為に胞子をばらまき、あの手この手で感染させようとするだろう』
「……つまり、生存者を救助すれば、更に被害が広がる。被害を広げない為には、生存者を見捨てるか、マタンゴに感染するのを待つしか無い。多くの名も知らぬ人間を助ける為に、助けを求める同級生を見捨てろ。そう言う事か?」
『怒るな、怒るな。お前がそう言う事が嫌いだと言う事はよく分かっている。そこで、一つの解決策を示そうと思う。
マタンゴの行動目的である、イナゴ怪人に与えられた課題は「B組の生徒全員と戦闘を行い、可能な限り足止めをする」事。そして、一人を除いて全員がマタンゴ感染し、その残り一人もマタンゴの森で身動きが取れない状態にあると言う事は、この課題は半ば達成されていると言える』
「確かに」
『そして、マタンゴの領域がそれ以上拡大していないと言う事は、アマゾンシグマの時と同様の現象がマタンゴに起こっている可能性が高い』
「……つまり、今はやる事が無くて動きを止めている訳か」
『そう。先程言ったように、生存者をマタンゴの森から連れ出そうとしない限りは、マタンゴは大人しくしているだろう。では、明日になったらどうなると思う?』
「……いや、今日が終わる前に、確実にマタンゴに感染するだろ」
『違う、違う。時間切れを狙う訳じゃない。例えばイナゴ怪人だが、アレはお前の“個性”によって「絶対的な味方」として生まれたミュータントだが、イナゴ怪人が誕生した理由を考えれば、お前が出久君と友達になった時点でイナゴ怪人の存在理由は失われている訳だろう?
しかし、イナゴ怪人達はその後も存在し、以降はお前が二人組を組むことが出来ず、一人になる可能性がある時を狙って現われるようになった』
「まあね……」
『つまり、このまま放っておけばマタンゴも今とは違う行動目的を持つ様になると言う事だ。そして、イナゴ怪人やシグマウィルスがそうである様に、マタンゴもお前の言う事を聞く特性を備えている可能性が高い。ならば、次の行動目的を与える事で、彼等の支配権を得られるとは思わないか?』
「アマゾンシグマの時は、言う事を聞かなかったと思うんだけど?」
『それは、シグマウィルスが「思考能力の低下」や「身体機能の向上」と言ったゾンビウィルスの特性を受け継いでいたからだろう。先程“後遺症の心配も無く自然に抜ける”と言ったのも、「2~3時間で後腐れなく効果は消える」と言う、キノコの特性をマタンゴが受け継いでいると思っての発言だ』
なるほど。確かに、マタンゴの支配権を手に入れられれば、生存者をマタンゴに感染させること無く救出し、マタンゴの感染拡大も防げるだろう。
しかし、イナゴ怪人に続き、今度はキノコ怪人が仲間に加わるのか。俺はヒーローになろうとしている筈なのに、ますます怪物の度合いが強くなっていると言うか、ヴィラン的になってきている様な気がする。具体的には「存在する事が罪」みたいな。
「……って、事はアレか。俺がそのままマタンゴの森に行けば解決するのか」
『いや、いずれにせよ救出が目的だから、マタンゴに襲われる可能性は否定できない。そこで一つ試して欲しい事がある。行動目的のすり替えだ』
「? どういう事?」
『マタンゴはイナゴ怪人と同じく、お前の心が生みだした存在。つまり、お前の心と繋がっている訳だ。ならば、生まれた原因よりも強力な心の闇……トラウマと言うべき、最も心が傷ついた何かに関する行動を起こせばマタンゴもそれに刺激され、マタンゴの行動目的をすり替える事を出来るのではないか……と言う事だ』
「なるほど!! つまり、“パンツについた黄色いシミを、茶色いシミで打ち消せ!!”と言う訳だなッ!!」
「「「………」」」
『……まあ、確かに「目的を上書きする」と言う見方も出来るだろうな。小泉八雲の「かけひき」みたいに』
「それって、確か怪談話じゃなかったっけ? 怨霊系の」
『お前の未練が形になったモノなんだから、似たようなモノだろう。それで、何かないか? 特にB組に関連する未練なら効果があると思うんだが』
未練て……。何か、自分自身を成仏させるみたいで嫌な感じだなぁ……。
しかし、B組に関連する、俺が最も傷ついた事であり、未練と言えるものは無いかと言われても、そもそもB組とは体育祭以外では禄に絡みが無い。神谷とはそこそこ絡む事も多かったが、ヤツには殺意こそ沸けど、心が傷ついた事は一度も無い。
……いや、待て。確かにあるな。トラウマ級の未練が、一つだけ。
「……あのさ」
『何だ?』
「思い当たったんだけど、笑わないで聞いてくれる?」
『……心配するな、新。お前の痛みは私の痛みだ』
俺は周りに聞こえない様に、小声で父さんに思い当たる事を正直に告げた。
『……そうか。ならば、こう言うのはどうだろう?』
○○○
「アレは間違いなく、林間合宿において最大と言える事件でした。ええ、ある意味で『敵連合』の襲撃以上にショッキングな……。知ってますか? あの事件以降、B組のほぼ全員がキノコを食べられなくなってるんですよ。もちろん、俺もですが」
林間合宿初日に起こった事件の様子を、唯一未感染で生還した円場硬成(16)は、後にこう供述している。
「体育祭の騎馬戦で、全身に巨大な虫が無数にひっついて這いずり回る感覚を味わってから、ずっと“個性”で身を守れる様になろうと地道に努力を重ねていました。それが、あんな形で功を奏するとは思いませんでしたがね……兎に角そのお陰で俺はB組の中で、唯一マタンゴに感染する事が無かったんです」
当時、彼等はイナゴ怪人軍団と言う仮想ヴィランを相手に戦いながら、ゴールである合宿所に向かっていた。何人かがイナゴ怪人によって戦闘不能になる中、各々が“個性”を使って互いに弱点を補い、或いは協力する事でより大きな力とし、イナゴ怪人達を倒しながら慣れない山林を進んでいったと言う。
『ウヴ……ガァア……』
『どうだ、イナゴ怪人! 確かに俺にはお前達を破壊しきる力はない! だが、破壊が無理なら動きを封じればいい!』
『ぐわぁああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!』
『小大の“個性”は生物には使えない。でも、体から離れた鱗は物質だ。生物じゃない。それなら小大の“個性”『サイズ』は……発動するッ!!』
『おのれ……例えこの場を逃れても……貴様等には絶望しか待っておらん! 貴様等に未来は無いッ!! 我がデストロンに、栄光あれぇえええええええええええええええッ!!』
『今だ! 倒れた奴を担いで突破するぞ!』
『黙示録の獣よ! アポリオン達の位置は分かりますか!?』
『勿論! 私は鼻が効きますからなぁ! あと、黙示録はやめて頂きたく!』
「それからしばらくして、お昼前辺りですかね……やたらとキノコが多いなって思ったんですよ。ええ、その時点でおかしいと思うべきでした。その前から、イナゴ怪人が俺達の前に全然現われなかったし、キノコに詳しい小森が『見た事も無いキノコ』だって言っていたんですから」
初めは普通の大きさのキノコだった。しかし、森を進むにつれて段々キノコの数は増え、更にサイズも大きくなり、もはや樹木と遜色ない大きさのキノコが所狭しと乱立している場所に辿り着いた時にはもう遅かった。
「その時、不意に角取が角を飛ばしたんです。『キノコが動いた』って言ってね。初めは誰もが目の錯覚だと思いました。でも、錯覚なんかじゃなかったんです。だってあの時にはもう、4人もやられていたんですから」
この時、彼らは物間、神谷、黒色、泡瀬の四人が忽然と消えた事に気づいた。この内、物間と神谷はイナゴ怪人との戦闘で負傷し、黒色と泡瀬に担がれていたのだが、音も無く消えた4人を不審に思い、手分けして付近を捜索した所、彼等は恐るべき現象と直面することとなる。
「消えた4人は簡単に見つかりました。でも、彼等に近づいてゾッとしましたよ。顔や腕に何か青いモノが出来てたんです。初めは痣か何かだと思いました。でも、それが見る見る内に大きくなって、それがキノコだと分かる大きさになったら、それが全身を覆い尽くして、キノコに手足が生えた様な怪物になったんです。そして、後ろにいる小森に意見を聞こうと思って振り返ったら、思わず悲鳴を上げました。小森達の後ろから2m近いキノコの怪物が何十体と押し寄せて、俺達を包囲していたんですから」
それは初めから居たのか? それとも音も無く近づいて出現したのか? 森の匂いを纏う事によって宍田の五感をかいくぐり、襲いかかってきたキノコの怪物達に、彼等は戸惑いつつも反撃を開始した。
「最初にやられたのは、鉄哲を筆頭とした近接主体の奴等でした。奴等は脆くて弱かったけど、触れるだけでアウトって類いの連中だったからです。殴った場所からキノコがニョキニョキと生えてきて、あっという間に奴等の仲間入りをしていました」
戦闘力は高くないものの、仲間達が次々とキノコ怪人にやられる中、彼等の意見は二つに割れた。「逃げて救援を求める」と言う意見と、「彼等と戦い仲間を取り戻す」と言う意見に。但し、スマホ等の通信機は訓練前に回収されている為、救援に関してはキノコ怪人の包囲網を突破できる人間でなければならない。
「話し合いの結果、角取と取蔭の二人に助けを呼んで貰い、俺達はその場に残る事になりました。二人は空を飛べるから、奴等から安全に逃れられると思ったんです。でも甘かった。奴等は俺達よりも一枚上手だったんです」
角取が“個性”である『角砲』を足場にし、取蔭が“個性”である『とかげのしっぽ切り』で肉体を分割させて空を飛んだ瞬間、それはミサイルの様に彼女達に、そして地上で待機する彼等に向かって突っ込んだ。
「それは、キノコに感染していたイナゴ怪人でした。体の半分くらいがキノコになっていて、それはそれはアンバランスでオゾマシイ姿をしていました。それが合計9体。俺はとっさに“個性”でシェルターを作ってガードしましたが、他の皆はそれで感染してしまったんです。俺以外の全員。……でも、取蔭だけは脱出しました。イナゴ怪人のお陰で」
『ANGYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!』
『うわああああああああ!! か、感染して突っ込んで来たぁああああああああッ!!』
『SIGYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!』
『う、うおおあああああああーーーーッ!! 畜生ッ!! 俺にも感染してやがるぅうううううううううッ!!』
『UKAKAKAKA~~。おのれぇ、キノコ如きがぁ……このイナゴ怪人1号の体を乗っ取るとはなぁ……だが、まだ遅くないッ!! この様な形で勝利するなど、断じて認めないッ!!』
『な、何を言って……』
『ローカスト・エスケープッ!! 外に待機するミュータントバッタで、キノコに侵された半身を形成しッ!! このトカゲ娘の脱出を許可するッ!!』
「え!?」
『しかしッ!! キノコは許可しないぃィィィーーーーーーッ!! 感染した部分が出る事は許可しないィィィィィィーーーーーーーーーッ!!』
「うわぁああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
こうして、円場以外の全員がキノコに感染し、取蔭が感染部分を残してその場から消えた後に残ったのは、『空気凝固』の“個性”で作った壁の中に閉じこもった彼を取り囲む、数えきれないほどのキノコ怪人の群れだった。
「日頃からヒーローになる為に勉強している訳ですから、自分の置かれた状況の不味さは嫌って言うほど分かりました。そもそも『閉じ込められる』って状況は、短時間で肉体的にも精神的にも激しく消耗するんです。“個性”を解けば即座にキノコ怪人が襲いかかってくる事は分かりきってるし、中の酸素だって無限じゃない。その上、身動き一つ取る事が出来ないとなれば、助けを待つ以外に道はありませんでした。生き残る為の手段だったのに、まるで棺桶に入っている様な気分でしたよ……」
こうして、円場は周囲を完全にキノコによって包囲された中、ひたすらに空気凝固の“個性”で作った壁によって感染を防ぎ、一人で助けを待っていた。
『フォッフォッフォッフォッフォッフォッ……』
しかし、感染することなく一人だけ生き残った人間を、キノコ怪人達が見逃すワケは無い。不気味な笑い声を上げながら、小さく縮こまっていた円場を感染させようと、ひたすらに見えない壁を破壊しようと攻撃を加えていた。
もっとも、キノコ怪人達に不可視の壁を破壊するだけの力は無く、しばらくして破壊は無理だと悟ったのか、円場を取り囲んで静かにじっと見つめていた。まるで倒れるのを待っているかの様に。
「それからどれだけ時間が経ったでしょうか……酸素が足りなくなって意識が朦朧とする中、突然キノコ怪人達が一斉に同じ方向を向いたんです」
この時、円場は防音されたシェルターの中に居た為に聞こえなかったが、実はこの時スマホの着信音が流れていた。『オープニング』と言う名前の木琴の着信音である。
そして、キノコ怪人達が見つめる方向から現れた者達を確認した時、円場は思わず我が目を疑った。
「それは呉島とイナゴ怪人。そして、脱出した取蔭でした。彼らは一糸乱れぬ動きで踊っていて、キノコ怪人達がそれを黙ってみていたと思ったら、呉島達が動きを止めた瞬間、キノコ怪人達が一斉に踊り始めたんです。訳が分かりませんでした。理解不能でした。それは決して酸欠の所為なんかじゃありません」
それは正に、一人の人間を生贄とし、邪神に歌と踊りを捧げる悪魔の宴。恐怖で彩られた極彩色の地獄。
それを最後に意識を失った円場が次に目を覚ました時、彼は合宿所のB組の男子に宛がわれた部屋で知らない天井を眺め、自分が助かったことを自覚して心底安堵した。
――翌日、そのキノコ怪人と会うとも知らずに。
●●●
突然だが、俺は「この世で最も嫌悪するものは何か?」と人に問われれば、「それはオクラホマミキサーである」と迷わずに答えるだろう。
いや、昔よりは大分マシにはなった。しかし、それでも好きとは到底言えないと言うのが本心だ。
つまり、何が言いたいかと言えば……正直、体育祭のオクラホマミキサーで向けられたB組の態度と視線が、俺にとって「B組に関係する最も心が傷ついた出来事である」と言う事だ。女子はおろか、男子からも同じ様なリアクションされたし。
それを父さんに正直に伝えた所、怪人バッタ男に変身した俺が救出された取蔭と楽しく歌い踊れば、俺の心の闇を知るマタンゴは諸手を挙げて歓喜し、俺に頭を垂れるだろう。即ち、この戦い、我々の勝利だ……との事。
「馬鹿な。それは天使に選ばれし天上人だけに許された神々の遊び。我らが王にとってそれは、夜空に燦然と輝く星に手を伸ばすが如き、些末な泡沫に等しい儚き夢物語よ」
作戦を聞いてこの様な発言をしたイナゴ怪人1号に猛烈な殺意が沸いたが、手を出したら負けた様な気がしたから無視した。
そして、作戦の概要をラグドールと虎に話し、切り離した肉体が再生した取蔭に協力を申し出たのだが……。
「協力して、くれるかな?」
「いいよぉ~。うへへへへぇ……」
何か色々とヤバかった。頬っぺたは赤く染まり、ツリ目が垂れ下がっている上に焦点は合っておらず、ねっとりとした声色で妖艶な笑みを浮かべると言う、只ならぬ仕上がりを見て、流石にコレはヤベェと思ったが、試しにスマホの着信に合わせて一緒に踊ってみたら、全く問題のないキレッキレの踊りを披露したので、そのまま採用の運びとなった。
「動物じゃない、マタンゴ♪」
「「「「「「「「マタンゴ♪」」」」」」」」
「植物じゃない、マタンゴ♪」
「「「「「「「「マタンゴ♪」」」」」」」」
「ミュータントだ、マタンゴ♪」
「「「「「「「「マタンゴ♪」」」」」」」」
「「「「「「「「「第三の生物♪」」」」」」」」」
「「「「「「「「「「フォ~フォッ!!」」」」」」」」」」
「………」
「きゃはははははははははははははは!!」
結果から言うと作戦は成功した。手始めに入り口から音楽をかけ、壊れたように笑う取蔭と踊りながら目的地まで進む事15分。マタンゴは皆、スマホから流れる音楽に合わせて愉快に踊るキノコ怪人と化し、昔懐かしいメロディーに合わせて歌を口ずさむイナゴ怪人達と仲良くタンゴを踊っている。
「マタンゴ♪」
「マタンゴ♪」
「マタンゴ♪」
「マタンゴ♪」
「第三の生物♪」
「第三の生物♪」
「第三の生物♪」
「「「「「「「「「マタァアンゴッ!!」」」」」」」」」
「「「………」」」
そして、無駄にスタイリッシュでセクシーなポーズを決めると、何時の間に来ていたのか、ラグドールと虎。それにブラドキング先生がこちらを見ながら絶句し、円場は何時の間にか気絶していた。
「「「「「「「「メス猫とマタンゴ♪ マタンゴ♪ マタンゴ♪ マタンゴ♪」」」」」」」」
「え!? あちきも!?」
「むぅ、我はオス猫なのだが……」
「お、俺もか!?」
すると、それに気づいたマタンゴ達は三人を巻き込んで再びタンゴを踊り始め、イナゴ怪人達は別の曲を流して合唱を開始する。
「祝え! 全ての怪人の力を糧とし、過去と未来にその名を刻む怪人の王! 呉島新の忠実にして、新たな下僕の誕生を! その名も“第三の生物”マタンゴ!! また一つ、偉大な異能が開花した瞬間である!」
そして、何となく将来的に俺が『最低最悪の魔王』になりそうな気がする口上を、ジャポニカ学習帳を広げながら述べるイナゴ怪人1号を見て、この悪魔の宴がいつ終わるのかと思いつつ、俺も彼等とタンゴを踊り続けた。
●●●
その後、マタンゴ達は体内に取り込んでいたB組の生徒を残らず解放し、彼らを合宿所まで運ぶと再び森の中へと帰っていった。サンプルとして体の一部を削ったが、特に感染する事もなく普通に採取する事が出来た。
「いや、この森で暮らされても普通に困るから、ちゃんと何とかしてね」
「はい。……ところで、B組の様子はどうですか?」
「特に問題はないわ。取蔭って子も疲れて寝ちゃったみたいだけど、大丈夫よ。貴方のお父さんが言った通り、マタンゴの影響は2~3時間で消えるみたいね」
「それは何よりです」
マンダレイの言う通り、マタンゴのマジックマッシュルーム的なトリップ効果は自然と抜けた。父さんの推測は見事に当たっていた訳だが、当たっていなかったらかなり困るので正直助かる。同級生21人をキノコでラリらせたとかマジで洒落にならん。
「やっーーーっと、来たにゃん」
そして、現在の時刻は午後5:20。色々と想定外の事態が起こったものの、俺はA組の皆とようやく合流した。
キャラクタァ~紹介&解説
呉島新
今回の事件は「全部、私の所為だ!」と思っている怪人。心の闇から無意識にミュータントを創り出すと言う、『アマゾンズ』の千翼並みかそれ以上に危険な特性を持っているが、ドクター真木から橘局長へと進化したナイトアイに凍結処分されたりはしない。まあ、ネズミのミュータントが高校の校長をやっている様な世界だから、人食いの化物が生まれない限りは大丈夫だろう。多分。ちなみに昼飯は食っていない。
イナゴ怪人(1号~スーパー1)
今回の事件は「全部、お前達の所為だ!」と思っている怪人。そして、ムシムシの実の昆虫人間ではない。尚、イナゴ怪人スーパー1は、作者の都合でキング・クリムゾンした『I・エキスポ』で増えたと言う設定。ちなみに「ファイブハンドって腕を5本に増やすって言う意味じゃないだろ」って言う、至極当然のツッコミは認める。
小森希乃子
アイドルヒーローを目指すキノコ女子。そして、イナゴ怪人の風評被害者。今回、イナゴ怪人と彼女のキノコが混ざった結果、マタンゴと言うとんでもない怪物が生まれてしまったが、果たして彼女はマタンゴを認知するのだろうか?
作者としては、スエヒロタケを使ったアレルギー性気管支肺真菌症を起こせるなら、マジックマッシュルームによる精神攻撃も可能だと思う……のだが、そこらへんはやはり少年誌だからNGなのだろう。でも、二次小説の世界なら問題はないだろうから使っちゃう。マタンゴが。
取蔭切奈
作者のジョジョネタを使いたい欲望によって、イナゴ怪人1号に救出されたトカゲ女子。ぶっちゃけ、此処まで投稿が遅くなった理由の一つは、原作でB組の“個性”の詳細がようやく判明したので、ネタになるかどうか全部の“個性”を見ておきたかったと言う点がデカい。
マタンゴによって、今にもアヘ顔Wピースしそうな雰囲気と表情でニヘラニヘラしており、いやらしさ(物間談)が倍増。シンさんは彼女と踊っていて内心「これってもしかしてダンスパーティ的なモノじゃなくて、ドラッグパーティ的なモノなのでは……?」と思い至り、そのうちシンさんは考えるのを止めた。怖いから。
円場硬成
最新刊のおまけで、実は特撮が好きと判明したウルトラ男子。この世界では体育祭でミュータントバッタの大群に襲われた経験から、地味に実力が原作よりも上。そのおかげで唯一マタンゴに感染せず、今話の『バキ』的な語り部も担当。しかし、自分達の周りで歌い踊る怪人達の姿は、さぞ恐ろしかった事だろう。想像せよ……。『けものフレンズ』のOPでノリノリのダンスを踊る怪人達を……。
呉島真太郎
禁断の強化服を持ち出そうとしたイナゴ怪人達を、単独で撃破できる程度の戦闘力を持った科学者。実はミュータントバッタが生まれた頃から、シンさんの精神状態によって新たなミュータントが生まれる可能性と危険性を懸念しており、今回の件も「恐れていた事が現実になった」と思っていた。ミュータントバッタの研究も、今回の様に新たなミュータントが発生した際の判断材料とする面が大きかったりする。
ブラドキング
イナゴ怪人恐るるに足らずと信じて送り出した俺の生徒達が、キノコ怪人に骨抜きにされて快楽堕ちしたトロ顔をみせるなんて……。まあ、アニメでも初日の描写が全く無かったから、どうにでも出来る状態だった事は認める。恨むなら原作を恨むのだな。
ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ
私有地の中に得体の知れない怪人の巣が出来て、混乱と困惑の最中にある4人組。4人中3人は「駆除して欲しい」と思っているが、一人だけ「楽しそうだし、迷惑にはならなそうだから、別に森に居てもいいんじゃにゃい?」と言っているとかいないとか。
第三の生物“マタンゴ”
小森の“個性”によってイナゴ怪人に感染したキノコが、変異を起こして生まれた新生物。イナゴ怪人と比べて戦闘力は著しく低いが、極めて強い感染力と増殖能力を持ち、滅菌剤等の薬品に対しても高い抵抗力を持っている。そして、駆除に核の力は厳禁。
小森の“個性”と同様、胞子に触れたり吸ったりしたあらゆる生物・無生物を苗床として、瞬く間に増殖する。動物の場合は元が何であろうと最終的に人型の怪人へ成長し、植物の場合は樹木の様に巨大なキノコとなって、周囲を「マタンゴの林」へと変えてしまう。動物に感染した場合、麻薬の様な高揚感に襲われる為、自力での脱出はほぼ不可能。ただし、その効果は2~3時間で後腐れなく消える。
しかし、攻撃と繁殖が同義である関係から、防護服などの感染しない為の対策を取られれば只の弱いキノコ怪人でしかなく、炎にも滅法弱いが、菌糸類の特性からイナゴ怪人以上にしぶとい。
また、今回の一件で歌と踊りに目がない存在になった為、一緒に歌って踊れば気を良くして感染の危険は無くなる。尚、普段は動きが遅いが、何故か踊っている時は動きが異様に機敏になり、キレッキレのダンスを披露してくれる。
元ネタは映画版『マタンゴ』と、石ノ森御大(当時は「石森章太郎」)が執筆した萬画版『マタンゴ』。続編である小説のマタンゴのネタはどうするか考え中。
他生物のミュータント化
今回明らかになった、シンさんのヤベーイ能力。コレは『アマゾンズ』の千翼……ではなく、『555』のオルフェノクならデュフォルトで備える「使途再生」と、アークオルフェノクの「完全オルフェノク化能力」のオマージュ。作中でシグマウィルスやマタンゴがイナゴ怪人の死体から発生し、不死身に近い特性を備えるのは、これを意識しての事。ある意味で亡霊怪人的な要素もあるが。
踊るマタンゴ
マタンゴみたいな特性を持つ『鎧武』の「インベス」が、合同ダンスパーティで踊っていたのが元ネタ。まあ、イナゴ怪人もいるしね。作中で最初に披露したのは、AUのCMでお馴染みの「三太郎ダンス」。残り二つは替え歌。だから問題ない。ちなみに次話でも歌って踊る。