怪人バッタ男 THE FIRST   作:トライアルドーパント

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前回の投稿から約2週間。活動報告で劇場版に関するアイディアを募集した所、予想以上に多くのアイディアが集まりました。アイディアを投稿してくださった読者の皆様、本当にありがとうございます。

しかし、投稿されたアイディアの中には、作者が本編でやろうと暖めていたネタも幾つかあったので、それに関しては申し訳ありませんが、劇場版ではなく本編で……と言うか次回からやっていく事になります。作者が何をやろうとしていたのかは、後書きの次回予告を御覧下さい。

今回のタイトルは『クウガ』から採用。これから全体的に重苦しくなっていく事も考えると、丁度良いタイトルかと思います。

2019/3/19 誤字報告より誤字を修正しました。報告ありがとうございます。


第42話 傷心

林間合宿三日目。本日も“個性”を伸ばす為の訓練と、スタント顔負けのバイクコントロールを死に物狂いでこなさねばならない訳だが、“個性”伸ばしの訓練は流石に疲れが抜けきっていないのか、誰も彼もが昨日より動きにキレが無い。

 

「どうしたぁ!! ジジイのファックの方が気合い入ってるぞぉ!!」

 

「「ウオォオオッスッ!!」」

 

「なんであの二人はあんなに元気なんだよ」

 

「熊の血が効いてるんだろ……多分……」

 

もっとも、切島と鉄哲に関しては、補習組だったにも関わらず周りと比べて数倍は元気で、体にエネルギーに満ちあふれている事が手に取るように分かる。そんな彼等は今日こそ熊の肉を食ってやろうと、一心不乱に岩を破壊し続けていた。

 

「切島と鉄哲以外の補習組! 動き止まってるぞ!」

 

「すいません……ちょっと、眠くて……」

 

「昨日の補習が……」

 

「夜中の2時までやるとは……」

 

「朝は7時だし……」

 

「だから言ったろ、キツイって。砂藤と上鳴は容量が直接死活に関わる。容量を増やすには反復して使い続けるのが基本。瀬呂は容量に加えてテープの強度と射出速度の強化。芦戸も溶解液の長時間使用によって皮膚に限度がある。その耐久度の強化。峰田は……」

 

「「「フォモフォモフォモフォモフォモフォモフォモフォモフォモフォモ……」」」

 

「ああああああああ……オイラはホモォ……」

 

「……相手が何者でも安定して高い能力を発揮できる様にする精神面の強化」

 

相澤先生が言うと何かまともな訓練の様に聞こえるが、実際に峰田に施されているのは、三体に増えたマランゴによる洗脳まがいの強制的矯正である。もっとも、マランゴが三体に増えたのは峰田(と神谷)の犯罪行為が原因なので、自業自得としか言いようがない。

 

「“個性”の強化だけじゃ無い。何より期末で露呈した立ち回りの脆弱さ!! お前等が何故他よりも疲れているか、その意味を考えて動け!!」

 

「「「「は、はい……」」」」

 

「麗日! 青山! お前等もだ! 赤点こそ逃れたがギリギリだったぞ。30点が合格ラインだとして、35点くらいだ」

 

「ゲッ!? ギリギリ!!」

 

「心外☆」

 

衝撃の事実に、吐き気や腹痛とは別の意味で顔を青くする麗日と青山。この二人は期末試験において13号先生と戦ったのだが、青山は“個性”の『ネビルレーザー』を13号先生の“個性”『ブラックホール』で無効化され、麗日は体育祭で披露した「気体成分の無重力化」と言う対人特効の必殺技を、13号先生が宇宙服を着ている関係から防がれており、内容としては試験だからこそ勝利できたモノの、仮に13号先生が「殺す気マンマンのヴィラン」だったなら、殺されていた可能性が高かったらしい。

 

「気を抜くなよ。皆もダラダラやるな。何をするにも常に“原点”を意識しとけ。向上ってのはそういうもんだ。何の為に汗かいて、何の為にこうしてグチグチ言われるか。常に頭に置いておけ」

 

原点……か。元々は父さんの諦めた夢の続きだった。それから自分が目指すべきゴールを掲げるヒーローと出会った。そして、ヒーローとしての生き様を教えてくれたヒーローに、出久共々鍛えられた。思えば随分と遠くまで来たような気がする。16年位しか生きてないけど。

 

「アニマよ。獣の奏者たる貴様の“個性”で、我々イナゴ怪人は栄えある雄英体育祭で醜態を晒す事となった。そこで、貴様の“個性”を克服する為に我々が考え出したのが……コレだッ!!」

 

「KOLOLOLOOOOOOO……」

 

「………」

 

「フッ。余りの出来映えに絶句している様だな。そう、コレは『乗っ取りローカスト』を強化し、蝉の成虫を手当たり次第に取り込んで辿り着いた、強力な音波攻撃を可能とするイナゴ怪人の強化形態! その名も『イナゴ怪人マカモウフォーム』だッ!!」

 

「………」

 

「と、言う訳で、実際に音波攻撃で貴様の“個性”を無効化できるか試したいのだが……」

 

「………」

 

「……何だ。絶句しているのでは無く、気絶しているだけか」

 

一方で、友人がいない孤独とは無縁の生活を送る事が出来ているにも関わらず、今年になってからガンガン増えているイナゴ怪人達もまた、ある意味では俺の原点と言える存在だ。主に超人社会の不条理と負の側面的な意味で。

 

「FUUUUUUUU……」

 

さて、イナゴ怪人達が何やら新しくも怪しい試みを行っているようだが、俺も密かに新たな試み……と言うより新しく開花した能力を密かに試していた。

 

変身して人間の視覚から怪人バッタ男の視覚に切り替わると、どうした訳か昨日の夕方と同じく、自分や皆の体から炎の様な“揺らぎ”が見えていた。

何も無い場所に人型のソレが浮かび上がっているのを見た時はギョッとしたが、そこに葉隠が居た事と、体力の消耗に伴って自分の体の“揺らぎ”が変化している事を考えると、俺が見ているコレは“生命エネルギー”や“オーラ”と呼ばれる類いのモノだと推測できる。

 

ある意味ではコレも“個性”伸ばしの、或いは大自然のエネルギーを取り込む修行の成果と言えるが、そんなモノが見えるからと言って、具体的にこれをどうすれば良いのか、まるで見当がつかない。

まあ、隠れた相手をオーラで視認する事ができるのだから、使う際に視認する必要がある『超強力念力』は間違いなく強化されていると思うが……。

 

「そう言えば相澤先生、もう三日目ですが……」

 

「言った傍からフラッとくるな。で、何だ?」

 

「今回オールマイト……あ、いや、他の先生方って来ないんですか?」

 

「……合宿前に言った通り、ヴィランに動向を悟られないよう、人員は必要最低限」

 

「よって、あちしら四人の合宿先ね!」

 

「そして特にオールマイトは、ヴィラン側の目的の一つと推測されている以上、来て貰う訳にはいかん。良くも悪くも目立つからこうなるんだあの人は……ケッ」

 

相澤先生が何やらオールマイトについて愚痴っているが、オールマイトが目指した自身のヒーロー像が“平和の象徴”である以上、目立つのは必然であるし、そもそも目立たなければ“象徴”とはなり得ない。

相澤先生が定めた自身のヒーロー像がどんなものなのかは知らないが、少なくともオールマイトのヒーロー像とは違う事が分かる台詞だ。……いや、そもそも相澤先生のヒーローの原点とはなんなのだろうか? 地味に気になる所だが、性格的に相澤先生がそれをベラベラ話すとは思えない。

 

「ねこねこねこ……それより皆! 今日の晩はねぇ……クラス対抗肝試しを決行するよ! しっかり訓練した後は、しっかり楽しい事がある! ザ・飴と鞭!」

 

「ああ……忘れてた!」

 

「怖いのマジやだぁ……」

 

「何を言うのだ、イヤホン=ジャックよ。むしろ、貴様の脆弱な心臓に剛毛を生やし、攻撃力を強化する実に良い機会ではないか!」

 

「いや、心臓に毛ぇ生やすって言うか、心肺機能を鍛えるのは分かるけど、それなら普通に走った方が良くない……?」

 

「闇の狂宴……」

 

「イベントらしい事もやってくれるんだ」

 

「対抗って所が気に入った」

 

「と言う訳で、今は全力で励むのだぁ!!」

 

「「「「「「「「「「イエッサァ!!」」」」」」」」

 

「………」

 

肝試し……か。まあ、此処に居る連中は全員、俺やイナゴ怪人にある程度の耐性があるから、失禁する醜態を晒した挙げ句、復讐を企ててヴィランになる様な事は無いだろう。多分。

 

 

●●●

 

 

さて、本日も訓練は夕方4時で終了し、夕食は昨日と同様にヒーロー科全員で自炊する事になっている。各々の消耗具合は昨日とどっこいどっこいであるが、何となく手際そのものは昨日よりも良くなっている様な気がする。

尚、詳細は良くは分からんが、我らA組が豚肉を手に入れる為、轟や勝己が大きな犠牲を払ったらしい。轟と勝己が支払った犠牲については非常に気になるが、聞かない方が色んな意味でお互いの為だろう。

 

……え? 何時の間にかスマホに入っていた、我が目を疑う動画について言う事はないのかって?

 

いやいや、流石に轟が奇妙奇天烈な格好で珍妙な歌と踊りを熱狂的に披露したり、勝己が無駄に爽やかなイケメンスマイルで「俺が触れるモノは全て俺色に染まっちまうのさ!」とか言ったりする訳無いだろ。いい加減にしろ。きっとアレは誰かが作った悪意あるMAD動画に違いない。いや、そうだと決めた。

 

「………」

 

「浮かない顔だな、出久。何か悩み事か?」

 

「オールマイトに何か用でもあったのか? 相澤先生に聞いてただろ?」

 

「ああっと……うん。洸汰君の事で」

 

「洸汰? 誰だ?」

 

「アレだ。初日に出久に金的食らわせた子」

 

「……ああ、あいつか」

 

「うん。それでその子がさ、ヒーローって言うか、“個性”ありきの超人社会そのものを嫌ってて、僕は何もその子の為になる様な事言ってあげられなくてさ。オールマイトなら、何て返したんだろうって思って……。あっちゃんなら、何て言う?」

 

「そうだな……その子が超人社会を嫌う理由について何か知ってるか?」

 

「……洸汰君のご両親って、二人ともプロヒーローだったんだけど、二年前にヴィランと戦って殉職しちゃったんだって……」

 

「……なるほど」

 

明らかにあの年頃の少年がするには不釣り合いな嫌悪に満ちた目。いや、俺に関しては別段珍しい事では無いが、初対面の出久に対する金的にせよ、その後の捨て台詞にせよ、ヒーロー関係の何かがあったと思わせるには充分な行動と発言だった。

ヒーロー飽和社会と呼ばれる現代において、ヒーローには常に華やかなイメージが付いて回るが、ヒーローが警察官や消防官以上に「敗北や失敗が死に直結する機会」に遭遇する職業である以上、そうした悲劇もまた必ずついて回る。それは言うなれば、決して無視する事の出来ない“因果”だ。

 

「しかし、そうなると少し妙だな」

 

「? 何が?」

 

「親をヴィランに殺されたなら、普通はヴィランを憎むもんだろ。“個性”ありきの超人社会を嫌うのはまだ納得出来るとして……ヒーローになってない俺達まで嫌う理由としては弱いと言うか、少し違和感がある」

 

「……確かに妙だな。むしろ、ヴィランを駆逐する為にヒーローを目指してもいい様なもんだが……」

 

「王よ。それについてですが、耳寄りな情報が」

 

「何だ」

 

「あのクソガキ……もとい少年ですが、どうやら隠れて“個性”を鍛えている様です。此処から離れた洞窟のある場所で」

 

「秘密基地で? でも何で……」

 

「……出久。その洸汰君の両親を手に掛けたヴィランは?」

 

「………」

 

俺の質問に対し、出久は沈痛な面持ちで首を振る事で答えた。これは幼馴染み故の長い付き合いによって理解できる事だが、それはヒーロー飽和社会と呼ばれる現代日本において、とても信じられない事実であった。

 

「……なるほど。大体分かった」

 

「何がだ?」

 

「あの子がヒーローを嫌う理由だ。問題のヴィランはまだ捕まっていない。今も野放しの状態だ。そうなれば『世の中にはヒーローが沢山居るのに、誰も自分の両親の仇を取ってくれない』って思っても不思議じゃ無いとは思わないか? そう考えれば、ヒーローを極端に嫌うのも、自分の“個性”を鍛えている事も納得出来る」

 

「……復讐か」

 

「多分な。捻くれた態度をとっているが、腹の中では『ヒーローがやってくれないなら、いずれ自分の手で……』って思っているかも知れん」

 

「そんな……」

 

「それでさっきの質問だが、正直その子に何て言えば良いのかは、俺にも分からん。俺は母親こそいないが、父さんはしっかり生きてるし、そもそも母さんの事はよく知らん。

それに今から二年前って言ったら、あの子は当時四つかそこらだろ? 物心ついてからとなれば……初めから『居ないもの』と認識していた俺とは、親がいない事に対する喪失感の質が違うだろう。もっと言えば『奪われている』訳だし」

 

「「………」」

 

「それに俺は自分の“個性”を嫌った事は無い。コレは父さんと母さんから貰った体だ。多少生きづらいと思う世の中ではあるが、そんなのはこの超人社会じゃ特に珍しい事じゃない。そりゃあ、“個性”が生きる上でメリットになる場合もあれば、大きなハンディになる場合もある。それでも、生まれ方を選べない以上、持って生まれたモンはどうしようもない。どれだけ嫌でも、何とか折り合い付けて、抱えたまま生きていくしか無いんだよ」

 

「……いや、十分言えてると思うが?」

 

「そうか?」

 

「うん。……轟君は?」

 

「……正直、言葉でどうこう出来る問題だとは思えないな。どうこう出来るとすれば言葉よりも行動……両親の仇のヴィランを捕まえて、法の裁きを受けさせるしかない……と俺は思う」

 

「それは……それが一番だと思うケド……」

 

「まあな。いずれにせよ、焦ってもしょうがねーって事だ。捕まえるにしても俺等はまだ仮免さえ無いし、相手は天下の警察やヒーローからずっと逃げ続けてる様な奴だ。それこそ町中でタクシーを捕まえるみてーに、バッタリ出会えるって訳でもないだろうし……」

 

「で、でも僕らはヒーロー志望なんだよ?」

 

「分かってるよ。だから、今すぐに言葉で解決しようとか慌てないで、じっくり腰を据えて解決に当たろうって言ってるんだよ。あの子と同じ境遇の子は、きっと他にも沢山いるだろうし」

 

「そうだな……そいつにしてみれば、俺達は素性の知れねぇ通りすがりだ。そんな何も知らねぇ奴に正論吐かれても、正直煩わしいだけだろう。

言葉で誰かを救う場合、大事なのは“何をしたか・何をしてる人間が言ったのか”って所で、言葉に行動が伴っているからこそ、口にする言葉に重みや深みが生まれて、相手の心に響くんだと俺は思う……『言葉で人を救う』ってのは、つまりはそう言う事なんじゃねぇか?」

 

ううむ、流石は轟だ。物事の本質や心の機微と言ったモノを、的確に捕らえている。……いや、実感が籠った言い方から察するに、これは轟自身の経験則かも知れない。

 

「……そうだね。確かに、通りすがりが何言ってんだ……って感じだ」

 

「ただ、デリケートな話にズケズケ首つっこむのもアレだぞ? そう言うの気にせずぶっ壊してくるからな。お前、意外と」

 

「……何か、すいません……」

 

「……まあ、そう落ち込むなよ。此処はヒーローになる理由が一つ増えたと思って、やる気と元気を出せ。それに、何もしなきゃ何も変わらないが、何かすれば少なくとも事態は動く。少なくとも、お前がその子を思って行動した事は間違ってないさ」

 

「……うん、ありがとう」

 

「君達、手が止まっているぞ! 最高の肉じゃがを作るんだ!!」

 

思いの他、結構深く話しこんでいた俺達三人に対して、目にも止まらぬ早さでジャガイモの皮を剥きながら注意する飯田。残像さえ見える異様かつ素早い動作を見て、俺は不謹慎にもちょっと笑ってしまった。

 

 

●●●

 

 

我々A組が豚肉の、B組が牛肉の肉じゃがを平らげ、使った食器を全て洗った事で、いよいよ待望のお楽しみタイムがやってきた。

 

「さて! 腹は膨れた! 皿も洗った! お次はぁ~~~?」

 

「「「「肝を試す時間だーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!」」」」

 

「「「「試すぞぉおーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!」」」」

 

「と、その前に……大変心苦しいが、補習連中はこれから俺と補習授業だ」

 

「ウッ! ソッ! だッ! ろぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!?」

 

「すまんな。日中の訓練が思ったよりも疎かになってたので、コッチを削る」

 

「「うわあああああああああああああああああ!!」」

 

「「堪忍してくれぇええええええええええええ!!」」

 

「「試させてくれぇええええええええええええ!!」」

 

これは、ヒドイ。補習のキツさ故に、A組の中でも特に肝試しを楽しみにしていただろう補習組の六人が相澤先生にふん縛られ、絶望の涙を流しながら天国から地獄へと引きずられていった。この分だと、B組の物間・鉄哲・神谷の三人も既に、ブラドキング先生によって地獄に送り込まれている事だろう。

 

「……はい。と言う訳で、脅かす側の先攻はB組。A組は二人一組で3分置きに出発。ルートの真ん中に名前を書いたお札があるから、それを持って帰る事!」

 

「闇の狂宴……」

 

「(また言ってる)」

 

「(もしかして、ツッコミ待ちか?)」

 

「(賑やかしメンバーが全員居ないから、空気が神妙になってる……)」

 

「脅かす側は直接接触禁止で、“個性”を使った脅かしネタを披露してくるよ!」

 

「創意工夫でより多くの人数を失禁させたクラスが勝者だッ!!」

 

「止めて下さい。B組からアヴェンジャーなヴィランが生まれます」

 

「アヴェンジャーなヴィラン?」

 

「うむ。我が王は職場体験の際、5年前のサマーキャンプにおいて、我々の所為で肝試しの折に醜態をさらしたと逆恨みし、ヴィランとなって復讐にやってきた男と交戦したのだ」

 

「……マジ?」

 

「マジ」

 

「……まあ、大丈夫じゃね?」

 

「でも暗闇から呉島が出てきたら誰だってビビると思う」

 

だろうな。自慢では無いが、俺は存在する世界を間違えているのではないかと思える程にグロくて恐ろしい見た目をした怪人だ。例え見慣れていようとも、暗い森の中から出てくるだけで幼子は失禁し、生涯に渡って消える事の無いトラウマを脳みそに刻むだろう。

 

「まあ、アレだ。コッチが脅かす側になった時は、俺は超強力念力で青い火の玉を浮かべる位に留めておくさ」

 

「なるほど! 競争させる事でアイディアを推敲させ、その結果“個性”に更なる幅が生まれると言う訳か! 流石雄英ッ!!」

 

「さあ! くじ引きでパートナーを決めるよ!」

 

かくして、5年前のサマーキャンプ以来、自主的に参加を自粛していた肝試しに参加する事と相成ったわけだが、全員がくじを引き終わった所で出久がある重大な事に気付いた。

 

「二人一組……アレ? 21人で6人補習だから――」

 

1組目:常闇&障子ペア

 

2組目:爆豪&轟ペア

 

3組目:耳郎&葉隠ペア

 

4組目:八百万&青山ペア

 

5組目:麗日&蛙吹ペア

 

6組目:尾白&呉島ペア

 

7組目:飯田&口田ペア

 

8組目:緑谷……

 

「……21人で6人補習だから――」

 

1組目:常闇&障子ペア

 

2組目:爆豪&轟ペア

 

3組目:耳郎&葉隠ペア

 

4組目:八百万&青山ペア

 

5組目:麗日&蛙吹ペア

 

6組目:尾白&呉島ペア

 

7組目:飯田&口田ペア

 

8組目:緑谷……

 

「一人余る……ッ!!」

 

気付いてしまったか。しかし、気付いた所でもう遅い。そして、A組には決して孤独を許さない、こんな状況下では無駄に行動力のある怪人が存在する事を忘れてはならない。

 

そう、イナゴ怪人だッ!!

 

「案ずるなデクよ!! 我らイナゴ怪人の強化形態の中でも、何故かキャラが異様に濃くなってしまった、この『イナゴ怪人ネタキャラ三銃士』の中から、好きなイナゴ怪人をパートナーに選ぶが良いッ!!」

 

「イナゴ怪人ネタキャラ三銃士!?」

 

「心に剣と輝く勇気を閉じ込めた最後の切り札。イナゴ怪人ストロンガーがカブトムシを取り込んだ『イナゴ怪人オンドゥルフォーム』」

 

「オンドゥルルラギッタンディスカー!?」

 

「パーフェクトとかハーモニーとか、そんなのもうどうでもいい。イナゴ怪人スーパー1がスズメバチを取り込んだ『イナゴ怪人ヘルブラザーフォーム』」

 

「おい。今俺の事、笑ったか……?」

 

「見た目はカッコイイが、言動も行動も何かやたらと小物臭い。イナゴ怪人V3がクワガタとカマキリを取り込んだ『イナゴ怪人ウヴァフォーム』」

 

「フッ! コレが俺の実力だッ!!」

 

「さあ、遠慮は要らん! この三人の中から一人を選び、冒険の旅に出るが良いッ!!」

 

「………」

 

更なるパワーアップを目論見、様々な昆虫を取り込んだ結果、ネタキャラと言うか色物感が半端ない悪魔合体を果たしたイナゴ怪人達を紹介され、出久は言葉を失っていた。

まあ、気持ちは分かる。肝試しなのにどう考えても肝を試す必要性を感じない凶悪なヴィジュアルの怪人が、自分の隣を歩く訳だからな。……うん、よく考えたら俺にも当て嵌まるわ、ソレ。

 

「おい、シン。代われ」

 

「む? それなら貴様もあの中から一人を選ぶが良い。無論、デクが選んだ残りからな」

 

「デクが選んだ残りモンなんざ要るか、ボケェ!!」

 

「俺は何なの……?」

 

一方で、勝己は轟とペアなのが不満なのか、俺の相方である尾白をパートナーにしようとしていたが、イナゴ怪人の介入によってうやむやになり、出久が三体の中からイナゴ怪人オンドゥルフォームをパートナーに選んだ事で、ようやく肝試しはスタートした。

 

 

○○○

 

 

「そろそろ始まるな、先生」

 

「ああ、そろそろ始まるな。弔が自分で考え、自分で導き始めた『敵連合』の新しい形。『敵連合』“開闢行動隊”。ようやく、自分の足で歩き始めたと言った所かな」

 

「しかし、良いのかね? 連中の何人かは呉島新を狙っておるのだろう? 我々としては奴に死んで貰っては困るのだが……」

 

「何、そうなったらそうなったで、やりようは幾らでもある。その為に我々はガイボーグを造り、ドラスを教育しているんじゃないか」

 

「確かにそうじゃが……」

 

「いや、ドクターの言いたい事も分かる。僕だって出来れば彼を生かして回収したいし、弔の狙いも悪くないからね。『単純なスペック差で、強化される前に仕留める』……これは USJで弔が実際に目にした、呉島新を攻略する方法の一つだ。

結果的に弔は負けたが、実質的には呉島新に勝っていた。もしもあの時、オールマイトがやってこなかったとしたら、確実に呉島新の命を奪う事が出来ていた筈だ」

 

「そこで『血狂いマスキュラー』か。あの子供も、中々どうして良いカードを手に入れたもんじゃ。もっとも、戦ったならどちらも只では済まんじゃろうが……」

 

「ああ、彼等が戦えば確実にそうなるし、下手をすれば本当に呉島新は死ぬ。だからこそ、そうならない様に別働隊を派遣してある。呉島新を生きた状態で、確実に僕の元に連れてくる様にね」

 

「その事はちゃんと奴等に伝えているのかね?」

 

「ハハハ、彼等のやる気を削ぐ様な真似はしないさ。それに、せっかくの機会だ。呉島新以外にも、使えそうな“個性”は出来るだけ回収しておきたいだろう?」

 

「ふむ……所で、あの少女は結局どうするのかね? 我々に対して一向に心を開く様子が無いのじゃが?」

 

「それなんだが……実は面白い事を思いついてね。少々計画を変更しようと思うんだ」

 

「変更……? 具体的には?」

 

「うん。質問を質問で返すようで悪いが、あの子は我々の様な存在には決して心を開かない。命令に従いこそするが、忠誠を捧げる事は無い。我々がヴィランである限りね。なら、どうすれば良いと思う?」

 

「はて……?」

 

「簡単さ。なれば良いんだよ。“ヒーロー”にね」




キャラクタァ~紹介&解説

呉島新
 大自然のエネルギーを取り込もうとしたら、萬画版『Black』の光太郎みたいにオーラエネルギーを感知出来るようになり、未来世界の『魔王』にまた一歩近づいてしまった怪人主人公。デク君の相談に関しては「洸汰君一人だけの問題ではないと考えていた為、協力してじっくり事に当たるべきだと思って話していたが、まさかあんな事になろうとは……」と、言った感じの事を、全てが終わった後でバキ的な語りで話す事になるだろう。
 自分の持って生まれた“個性”については、とっくの昔に諦観している。実際の所、シンさんと未来世界の『魔王』との差は「社会のルールに沿って理想を叶える」か「社会のルールを破壊して理想を叶える」位の違いしかない。

緑谷出久
 シンさんや轟に悩みを相談した結果、これからマスキュラーと戦う理由がより強固になってしまった感のある原作主人公。肝試しにおいてはクラスの人数が奇数で、補習組が偶数になった結果、原作と同じくペアを作る上で余ってしまったが、この世界ではちゃんと肝試しのパートナーが居るぞ! やったね!
 尚、三体のイナゴ怪人の中からイナゴ怪人オンドゥルフォームを選んだのは、肝試しが終わった後で虫相撲を提案され、一番活きの良いカブトムシを融通して貰う取引をした事が理由だったり。

轟焦凍
 原作ではデク君の相談に対して「場合による」と言っていたが、シンさんの介入で相手側の事情がおおよそ分かったので、救われた側の視点を元に色々と話している感じになった半分こ男子。しかし、シンさん共々自分の意見によって、デク君が無茶をする理由を作ってしまったと、全てが終わってから「やっぱ、俺ってハンドクラッシャーじゃん……」と後悔する事に。まあ、ある意味ではそれ以上の事が起こる訳ですが……。
 そもそも、数時間後に話題になったヴィランが自分達を襲いにやってくるとか、そんな展開を予想できる方がおかしい。それもこれも全部、B組の神谷って言う豚野郎の仕業なんだ!

神谷「え……?」

出水洸汰
 色んな意味で難しいシリアス要素の塊たる少年。作者的にどうにも違和感が拭えない部分を考察した結果、彼のヒーローに対する嫌悪の原因は『ヒーローである両親の死』でも、『両親の死に対する世間の報道と評価』でもなく、『世間にはヒーローが腐るほど居るのに、マスキュラーが野放しになっている事』だと、作者は思う。仮に誰かがマスキュラーを退治していたなら、彼がここまでヒーローを嫌悪する事は無かったかも知れない。

イナゴ怪人(1号~ZX)
 珍しく真面目に試行錯誤を繰り返していた怪人軍団。強化形態の中には明らかにヤバイと思われる代物もあるが、コレは対脳無を想定している為。恐らくは『THE FIRST』本編における最後のギャグパートを飾る事となったが、本編でギャグが書けない代わりに、劇場版や番外編でギャグを書いていくので、作者のモチベーションは維持されるハズ。多分。
 尚、かっちゃんが『すまっしゅ!!』のイケメン化ネタをやったのも、シンさんのスマホにそれらの爆笑動画が入っていたのも、全部こいつらの仕業である。



オーラエネルギー
 生物なら誰もが持っている生命エネルギーそのもの。この能力によって萬画版『Black』ではドラゴンボールばりの超戦闘が度々起こっている。光太郎と信彦がコレを用いた技を使っているが、未来世界の『魔王』のソレは桁違いの威力を誇る。
 シンさんは今の所、相手の居場所やコンディションを見抜く程度しか使えない。もっとも、このまま成長を続ければオーラエネルギーの放出も可能となり、「オーラエネルギー&超自然発火能力」と言った鬼畜コンボも可能となる。

Black「何か……悪いね」
ZO「………」

イナゴ怪人マカモウフォーム
 イナゴ怪人が『乗っ取りローカスト』を強化した事で生まれた、フォームチェンジ的な何か。素体となったのはイナゴ怪人アマゾン。あくまでセミの成虫を乗っ取って取り込んでいるだけなので、取り込まれたセミがミュータント化する事は無い。
 元ネタは『響鬼』の「魔化魍ウワン(成虫)」。蝉の成虫を取り込んだ事で音波攻撃が可能となり、口がストロー状になったことで口から吐くイナゴジュースの射程と威力も増した。プレゼント・マイクは色んな意味で泣いていい。
 下記のボツネタを含めて、最もキャラが薄いと言わざるを得ない強化フォームだが、「夏だから『響鬼』の魔化魍ネタを使いたい」と言う作者の欲望によって採用されている。

イナゴ怪人ネタキャラ三銃士
 三銃士とあるが、下記の通り初期案ではもっといた。メタ的に言えば、感想欄に書かれていたイナゴ怪人クウガ~イナゴ怪人エグゼイドと言った、平成ライダーの名前を冠するイナゴ怪人の登場を望む声に対する一種の読者サービス。

イナゴ怪人オンドゥルフォーム
 元ネタは『剣』のオンドゥル王子こと剣崎。素体はイナゴ怪人ストロンガーで、全体的にゴツくなっている。ブレイドがローカストアンデッドの力を使う関係から採用したが、どうにも無理矢理感が否めない。攻撃力と防御力が上がっている反面、妙に滑舌が悪くなっているのが特徴。一応、『フロート!』しなくても空は飛べる。
 最終的には12種類の動物を取り込んだ『オンドゥルキングフォーム』が目標だが、そうなると「ゴキブリ怪人の群れを率いて人類を滅ぼし、地球をリセットする様な気がする」と言っているとか、いないとか。
 
イナゴ怪人ヘルブラザーフォーム
 元ネタは『カブト』の地獄兄弟。素体はイナゴ怪人スーパー1。顔がより凶悪になり、両腕に巨大な針状の武器を形成している。やたらと柄が悪く、自分や身内を笑った奴には容赦しない。但し、毒攻撃は脳無にしか使わないし、人間に対する制裁は蹴りだけに留める程度の優しさはある。
 蜂に選ばれた男達が、最終的にバッタになった事から考案された形態だが、それ以上にネタキャラとして使いたかったが為に採用されたと言っても過言では無い。ここから更にサソリを取り込む事で、『地獄三兄弟』的な強化も可能らしい。

イナゴ怪人ウヴァフォーム
 元ネタは『オーズ』のウヴァさん。素体はイナゴ怪人V3で、総合的な戦闘能力が上昇し、頭に生えた角や、腕から生えた鎌で攻撃する。「一円玉も集まれば五百円玉に匹敵する」と言う理論を展開し、コツコツ小銭を集める習性を備える。
 三銃士の中では、唯一2種類の昆虫を取り込んでおり、その分他の三銃士よりも単純な素の戦闘能力は高いが、他の形態に比べてやや安定性に欠けるのか、妙に仕草が小物臭い。角から電撃を放つ事は出来ないし、50体には増える事も不可能。


ここから先はボツネタ。異論は認める。


イナゴ怪人ネコジタックンフォーム
 作者が「バッタがモチーフのアークオルフェノクを模して造られたなら、ファイズ系ライダーも設定的にはモチーフはバッタと言えるんじゃね?」と、こじつけた事で思いついた形態。後付けの裏モチーフであるサメを取り込む必要があった為にボツとなったが、林間合宿ではなく臨海合宿だったらイナゴ怪人Xを素体として実現できただろう。

「あの時笑って死んだ自分に……嘘はつきたくない(数え切れない位死んでいるが)」

イナゴ怪人カガワフォーム
 オルタナティブ・ゼロに仮面ライダー1号の意匠が組み込まれている事と、魔法石の世界でバッタモチーフの怪人として出てきた事から考案された、コオロギを取り込んだイナゴ怪人。感想でもサイコローグの登場を望む声があったし、ネタ的にも使いたい台詞はあったものの、丁度良い感じのイナゴ怪人が居なかったのでボツになった。0号的な意味合いで、イナゴ怪人Blackが居たならやったかも知れない。

「多くを助ける為に一つを犠牲にする勇気を持つ者が、真の英雄なんです」

イナゴ怪人ダイヤモンド✡フォーム
 ショッカー首領三世こと、大蜘蛛大首領に仮面ライダー1号の意匠がある事から考案された、クモを取り込んだイナゴ怪人。第1号の怪人繋がりと言う事で、イナゴ怪人1号を素体として登場する予定だったが、地獄兄弟を筆頭に平成屈指のネタキャラをモチーフとした他のフォームと比べると、「キャラが薄い」と判断してボツになった。
 名前の由来は中の人である、ダイヤモンド✡ユカイさんから採用。つまり、この形態そのものにダイヤモンド要素は皆無。『輝きのデストロイヤー』なんて知らん。

「俺の本当の姿を見せてやるッ! ショッカー……変身ッ!!」



次回予告

1号がいた。2号がいた。そして――。

「俺は1号と2号を斃す為に生まれた……イナゴ怪人3号だ」

超人社会の闇から生まれた、最強最速のイナゴ怪人!

「勝てば正義。負ければ悪。歴史とはそう言うモノだ」

この怪人は正義か!? それとも悪か!?

「子供達の夢を守り、希望の光を照らし続ける。それが、貴様が目指す“最高のヒーロー”だろう?」

<デーセー♪ フー、ザーツガーイ♪

目覚めよ! そして戦え! ヒーローの魂を賭けて!

次回『スーパー怪人大戦:イナゴ怪人3号』!

「そいつに勝てたら、俺と勝負してやる」

近日公開!

更に――。

「さあ……地獄を楽しみな!」

イナゴ怪人4号!

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