怪人バッタ男 THE FIRST   作:トライアルドーパント

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連続投稿の二話目。第44話でイナゴ怪人4号が登場。丁度イイ感じに、原作コミックスの第11巻っぽい事が出来ました。

今回は本編の他にも、劇場版『2人のヒーロー』の番外編(取り敢えず一話分)や、アンケートにあった『ゴールデンカムイ』と『アカメが斬る!』の二次小説も短編で投稿しておりますので、よろしければ其方もお楽しみ下さい。


第44話 イナゴ怪人4号

上空から降り注ぐ無数の針を、咄嗟に展開した超強力念力の障壁で弾き、即座に狙撃手の位置を確認する。オーラを通して森の上空を見上げれば、俺を中心にして幾つもの小さな人の形をした炎の様な揺らぎが、高速でせわしなく動いている。

相手はかなり遠距離から数十人程の数で狙撃しているようだが、最大の問題はその全てが“同じオーラ”だと言う事。幸い、コレと同じ現象を俺は既に見ているが、そうなると少々厄介だ。

 

「GUUUURRRRR……」

 

先程と同じく見えてはいる……が、流石に相手との距離が遠過ぎる。距離が遠ければ遠いほど、超強力念力のパワーは減退し、エネルギーも多く消耗する事を考えれば、超強力念力は使わない方が良いだろう。

そこで適当に石を拾い、モーフィングパワーでゴム玉に変えると、上空を飛び回る狙撃手の一人に狙いを定め、思いっきりゴム玉を投げた。まるで大砲の様に放たれたゴム玉は狙撃手を掠め、狙撃手は錐揉み回転しながら地面に向かって落下していく。

 

「KIYEEEEEEEAAAAAAAAAAAAA!!」

 

徐々に地表へと近づき、露になった狙撃手の全貌は、女性的な外見をしたハチの怪人だった。よく見ると片方の羽根が無くなっているが、恐らくゴム玉が掠めた時に破壊されたのだろう。

少し前に『I・アイランド』でも、ハチっぽい見た目をした異形系の“個性”のヒーローと出会ったが、目の前で落下するソレは明らかに俺やイナゴ怪人よりだ。即ち、画風が別ベクトルで違う。

 

「GEVOOOOO!!」

 

そして、ハチ怪人は為す術無く地面に激突。しかし、その落下地点に人の姿は無く、代わりに大量の巨大なハチの死骸が周囲に降り注いだ。

 

「MUUUU……」

 

やはり、な。コイツ等はイナゴ怪人やマタンゴと同じタイプの怪人。つまり、本体が“個性”で作り出した「無数の生物の集合体」、或いは「分身」だ。だからこそ、全員が“全て同じオーラ”をしている。そして、それはコイツ等を操る本体が、何処かに潜伏していると言う事でもある。

それを探る意味でもイナゴ怪人を何体か呼びたい所だが、イナゴ怪人は「危険を考慮すること無く現場に向かわせる事が出来る」貴重な存在だ。奴等にはクラスメイトの救出とサポートに専念して貰いたい。

 

一方で、仲間がやられた事で警戒心を強めたのか、不規則な飛行を始めるハチ怪人達を視界に収めつつ、針による狙撃の合間を縫って、モーフィングパワーで造ったゴム玉をハチ怪人に投げつける。

幸いな事に、相手の肉体の耐久値はイナゴ怪人よりも低く、ほんの少し掠めるだけでも有効打になるし、狙撃の瞬間は動きが止まるから狙いやすい。

 

「KUWAAAAAAAAAAAAAA!!」

 

「WUUUOOOOOOAAAAAA!!」

 

「FOOOHHHHHHHHHHHH!!」

 

流石に一網打尽とはいかない。だが、一向にハチ怪人が補充される様子が無い事を考えると、初めから最大数を投入してきたか、補充するにしても少数。おおよそで1~2体程度だと予想出来る。

ゴム玉を一つ投げる度に、夜空から人型の揺らぎが一つずつ消えていき、遂に夜空から完全にそれらが消えるが、ハチ怪人が全滅しても尚、ハチ怪人達を操る本体の姿が見えない。

 

その事に怪訝に思った俺の真上から、凄まじい速さで近づく何かを二本の触角が探知した。

 

「CCCULLRYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

 

それは、飛行ではなく落下だった。ハチ怪人が羽根を折りたたみ、体で風を切りながら、まるで一本の矢の様に、真っ直ぐ俺を目がけて落下している。

これまでと同じく狙いを付け、ゴム玉を投げる様な時間はない。しかし、突っ込んで来るなら来るで、やりようはある。

 

「GGOOOOHHHH!!」

 

「FUU……VUNN!?」

 

超強力念力を盾とし、不可視の壁に激突してハチ怪人は自滅した。その直後、俺が右脇腹に鋭い痛みを感じると、一本の大きな針が右脇腹に刺さっていた。

すぐに刺さった針を引き抜くが、即効性の毒か薬が塗ってあったのか、下半身はもたつき、頭は妙にクラクラする。

 

「NUUUUU……」

 

一体何を打たれたのか分からんが、敵の狙いはコレか。しかし、俺の体は毒や薬に対して強力な耐性を持つ。時間さえあればすぐに回復する筈だ。

だが、まんまと敵の作戦に嵌ってしまったのは非常に不味い。徐々に周囲がぼやけ、ミルクでも流された様に視界が白濁していく。

 

「我々はお前を必要としている。さあ、我々と共に来るのだ……」

 

「!?」

 

――いや、違う。毒か薬の効果で視界がぼやけているとか、そんなモノでは無い。何時の間にか周囲にミルクの様に濃い霧が充満し、その中から妖艶な面持ちをした美女が俺を手招いている。その仕草に思わず従いそうになったが、第六感が「近づくのはヤバイ」と警鐘を鳴らしている。

 

「GGGGG……」

 

「HAHAHAHAHAHAHA……」

 

「WWWWUUUUUUUU……!」

 

誘いに応じない俺に痺れを切らしたのか、美女が一瞬で近づいて俺の首に手を掛けると、その姿は徐々に先程のハチ怪人とは異なる容姿の、しかし俺と同じベクトルで画風が違う、ハチの異形に変貌した。

コイツがハチ怪人達を操っていた本体か。シンプルにハチ女と仮称するが、オーラを通してこのハチ女を視ると、非常に特徴的な胸部のグルグル模様から、ハチ女のオーラが俺に向かって発せられている事が分かる。

 

「DURRR! SHJYAAAAA!!」

 

「WUQQUUU!!」

 

女とは思えぬ怪力で俺の首を握るハチ女の腹を殴りつけ、ハチ女をその場から大きく後退させる。すると、胸から発せられていたオーラが途切れ、周囲を満たしていた乳白色の霧が綺麗に無くなると同時に、下半身の不調と気分の悪さも無くなった。

 

「FUUUUUUUU……」

 

どう言う理屈かは分からんが、ハチ女は胸から怪しい力を放つ事で、相手に精神攻撃を加える事が出来るらしい。毒針と精神攻撃のコンボ……成る程、恐ろしい組み合わせだ。

そして、“個性”とは身体機能の一つ。それを使用するには、当然ながら体力や精神力と言った生命のエネルギーを使う訳だから、オーラを通して“個性”を視る事が出来れば、“個性”にもよるだろうが「自分のオーラを相手にぶつけている」様に見えると言う訳か。

 

「KYUUUIIIIIIIIIIIIIIII!!」

 

精神攻撃を破られた事に腹を立てたのか、ハチ女は掌からレイピアの様な恐ろしく長い針を取り出すと、頭から生えた巨大な二枚の羽根を震わせて飛行し、俺の周囲を残像が見える程の高速で小刻みに飛び回る。

そのスピードはハチ怪人達より遙かに速く、動きもより複雑だ。ゴム玉の他に超強力念力や触覚からの電撃と言った、中・遠距離攻撃を警戒しつつも誘っているのか、その間合いは近いとも遠いとも言えない微妙な距離にある。

 

「GGRRRRR……!」

 

狙っているのは恐らく、中・遠距離攻撃で出来る一瞬の隙。つまりは、俺がハチ怪人達にやった事と同じだ。だが、ハチ女が此方を惑わせるような動きで獲物を手にしている以上、それは幻覚の様な特殊攻撃から、武器を使った直接攻撃に切り替えた事を意味している。

 

「SUUUUUU……」

 

「CURYYYYYYYYYYYYYYYYYYY!!」

 

「SYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

 

憤怒や屈辱と言った感情からか、顔を歪ませたハチ女が鋭い突きを放ってくる。右手で左腕に生えたスパイン・カッターの一本をへし折り、モーフィングパワーで一本の剣を精製すると、円の動きでハチ女が繰り出す必殺の突きを払いのけ、左拳をカウンターの要領でハチ女の横っ面に叩き込む。

 

「HIGYQAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

 

トラックにでも撥ねられた様な勢いでハチ女は吹っ飛び、木々をへし折りながら森の奥へと消えていく。配下であるハチ怪人程では無いが、本体であるハチ女もかなり打たれ弱い様で、先程の一発でハチ女は完全にのびている。

 

「VUUUUUU……」

 

「MMM……」

 

イナゴ怪人3号と言う難敵も控える以上、体力の消耗は極力避けたい所だが、すぐに新手のヴィランが現われ、明確な敵意が籠った眼差しを俺に向けている。

それは光沢を放つ金属質な肉体を持ち、その顔はコブラに酷似している屈強な男で、例によってシンプルにコブラマンと仮称する。

 

「WOOOOOOHHHHHHHHHHHHHHH!!」

 

「UUUUUUURRYYYYAAAAAAAAAAAAA!!」

 

コブラマンはその体躯に見合ったスピードとパワーで拳を振るい、それを受け止めた俺の体を後退させる。

流石に通常形態ではキツイ相手だ。余り使いたくは無いが、マッスルフォームの使用を決意し、真っ向からの格闘戦にもつれ込む。

 

「NUWWWARYAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

 

「MUOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!」

 

攻撃・防御・スピード……全体的にバランスが取れているが、ハチ怪人を率いるハチ女の様にコレと言った特徴がある訳でも無い。この程度ならマッスルフォームで十分押し切れるだろう。

 

「SHIIIII……UUUSYAA!」

 

「NNM!?」

 

「WWWWSYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

 

しかし、コブラマンの方も自らの劣勢を感じていたらしく、コブラマンは何と右手からライトセイバーの様な武器を取り出したのだ。

急所を目がけて振り下ろす光剣をかわし、その刀身が岩に触れると火花が散り、岩がバターの様に切断される。相当な熱量と破壊力を誇る必殺の武器を手にしたコブラマンは、「このまま押し切ってやる」と言わんばかりの勢いで俺を攻め立てている。

 

「ZIIIHT!」

 

しかし、武器精製能力なら俺も負けてはいない。モーフィングパワーで巨大な金棒を作り出すと、光剣を使うコブラマンとのリーチの差を補った。

 

「HOOOOOORYYYYYYYYN!!」

 

「NUUUUUOAAAAAAAAAA!!」

 

片や、超高温高出力の光剣。片や、超重量高威力の金棒。

 

通常ならばコブラマンの獲物の方が小回りは効き、重量武器と言う隙のデカい攻撃の合間に、光剣による必殺の一撃を加える事が出来るだろう。

だが、俺はマッスルフォームによる非常に発達した筋肉にモノを言わせ、金棒を小枝の様に片手で振り回す事で隙を無くしている。そして、当たれば致命的なのは相手も同じなので、コブラマンの方も攻撃をかわすのに必死だ。

 

「WOOOOOKYAAAAAHHHHHH!!」

 

「NUU!?」

 

金棒の一振りがコブラマンの頭を掠め、その顔にガラスの様なひび割れが走ると、そこから血が滴り落ちる。コブラマンが傷口を左手で覆う姿を見て、思わずヤバいと動揺したのが不味かった。

コブラマンは俺が動揺している隙にバックステップで距離を取り、右手の光剣を横薙ぎに振るうと、光剣の刀身が鞭と化して俺の右手に絡みつき、そこから流れる高圧電流が俺の動きを止める。すると、コブラマンは口から灼熱の炎を吐き出したのだ。

 

「UUUUWWWWHOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!」

 

「GUUUUAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

 

ヴィランがあと何人控えているのかは知らない。だが、最低でもあと一人は残っている。それもかなり得体の知れない相手が。

ソイツと戦う為にも出来るだけ体力は温存しておきたかったが、このまま出し惜しみしていても命取りになる。

 

「HAAAAAAAA……VEMVINNN!!」

 

やむを得まいと判断し、マッスルフォームからバーニングマッスルフォームへの強化変身に踏み切ると、それに伴う爆発を利用してコブラマンの炎と鞭を吹き飛ばす。しかし、コブラマンは爆発の衝撃に耐えながら、ずっと紅蓮の炎を吐き出し続けている。

 

「KWHAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

 

「WUUUUUUUUUURYYYYYYYYYYYYYYY!!」

 

勢いの衰えない紅蓮の炎が死地を作り出すのに対し、体から噴き出す紫の炎で活路を開き、一気にコブラマンの懐に踏み込むと、コブラマンの顎に向けて渾身のアッパーを叩き込む。

 

「MMGYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

 

「SAYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

 

超マッスルフォームほどではないものの、マッスルフォームから更に増強された一撃がコブラマンの顎を砕き、炎が吐き出される事無く口の中に留まった事で、俺を苦しめた炎が今度はコブラマン自身を苦しめる。

そこに紫の炎と爆破の力が込められた左のストレートパンチが、コブラマンの腹部に突き刺さる。殴られたコブラマンは豪快に吹っ飛び、倒れた先で淡い光を放った直後に爆発する。

 

「MUUUUUU、HAAAAAAAAA……」

 

体力を節約する為、バーニングマッスルフォームからマッスルフォームに戻りながら、倒したコブラマンの状態を確認する。

完全に顎が砕けているので、しばらくはモノが食えなくなるだろうが、徐々に再生している所をみると、命に別状は無さそうだ。

 

「!! VIBBB……」

 

しかし、出久が向かった方角から断続的に聞こえてくる、この地鳴りの様な破壊音。どう考えても出久がヴィランと激しい戦闘に入り、限界を超えた無茶な“個性”の使い方している事は明白だ。

イナゴ怪人3号に加え、イナゴ怪人からのテレパシーが「断続的に一瞬だけ繋がって、すぐに途切れる」のを繰り返している事も気になるが、今は出久と洸汰君の方を優先しなければなるまい。

 

しかし、現実は非情だ。ハチ女、コブラマンに続く、更なるヴィランが俺の行く手に待ち構えていたのだ。それも、無数の爆発物を伴って。

 

「NUUUUU! ZIGGAVI……」

 

「ハァッ!!」

 

地面を転がりながら爆撃を回避すると、巨大なムササビの様なモノが頭上を滑空し、下手人らしきヴィランが俺の前に姿を現したが、ソイツを見た時俺は心底仰天した。

 

モスグリーンの体色をベースに、プロテクターの様な金属質の光沢を放つ鈍い銅色の外骨格。頭部は鈍い胴と金色のカラーリングで、背中に羽は無いがムササビの様な滑空翼が左右の手首から足首の間に展開されている。

 

全体的にスッキリしている事も含めて、色々と異質な印象を受けるが、その顔は紛れも無くイナゴ怪人のソレだ。

しかし、特筆すべきは姿形よりコイツが内包するオーラ。それは10人のイナゴ怪人のどれもが足元に及ばない程莫大であり、その禍々しさはイナゴ怪人3号以上に異様だった。

 

「俺の名はイナゴ怪人4号。さぁ、地獄を楽しみな……!」

 

「GAVIRY!?」

 

イナゴ怪人4号!? 3号だけではなかったのか!?

 

驚く俺を他所に、ゆっくりとサムズアップした親指を下に向け、首を掻っ切る動作をしながら決め台詞らしきものを呟くと、イナゴ怪人4号は猛然と襲い掛かった。

 

「シャアアアアアアアアアッ!!」

 

「DRYAAAAAAAAAAAAAA!!」

 

イナゴ怪人4号の右拳に合わせて此方も右拳を繰り出すが、コブラマンよりも遥かに重い一撃は俺の体を宙に浮かせ、一方のイナゴ怪人4号は微動だにしていない。受けた場所が生身と金属質の違いはあるかも知れないが、それにしたってイナゴ怪人とは思えない膂力だ。

 

「フン……シィッ!!」

 

「MMMUU! FUSYAAA!!」

 

……いや、違う。コイツは自分を「イナゴ怪人」と名乗っているが、コイツはイナゴ怪人とは全く別のナニカだ。

 

内包するオーラエネルギーもそうだが、自身の防御力を誇示する為か「攻撃に対して避けるそぶりすら見せない」事も、攻撃の一つ一つが「マッスルフォームを上回る威力と重さを持つ」事も。何より「肉体のスペックに頼った戦い方」をする事が、俺の知るイナゴ怪人とは全く違う。俺が知るイナゴ怪人では、まず有り得ない行動だ。

 

「GAHFAA! UUUMMNNNN……!!」

 

「……弱い。弱過ぎる。オリジナルとは思えん弱さだ。だが、感謝はしているぞ? お前が自分が相手より弱いと知りながら、『人を守りたい』と言う思いによって行動を起こしたからこそ、俺達はこの世界に誕生する事が出来たと言っても過言ではないのだからな」

 

イナゴ怪人4号は何か不気味な事を言っているが、このままでは不味い。イナゴ怪人3号もそうだが、下手すればイナゴ怪人5号や6号も居るかも知れん。

既にマッスルフォームでは攻撃力も防御力も負けている上に、コイツが他にどんな隠し球を持っているか分からん以上、舐めて掛かっている今がチャンスか……ッ!

 

「……VEMVINNN!!」

 

「無駄だ。その程度の爆発では――」

 

予想通り、バーニングマッスルフォームの発動と同時に発生する炎と爆発に平気で耐えるイナゴ怪人4号だが、俺の目的は少しでもヤツの視界を遮る事。

その間に左肘のカッターを右手で掴んでへし折ると、それはモーフィングパワーによって、刀身に炎を纏う必殺の武器へと姿を変える。

 

「SHYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

 

首を狙って繰り出した一閃に、俺は確かな手応えを覚えたが、それは明らかに喜ぶべきものではない。剣を握る右手に感じるのは、何かを斬った感触ではなく、何か固い物に刃を止められた感触だ。

 

「残念だったなぁ」

 

事実、爆炎が収まった時に俺が見たのは、イナゴ怪人4号が右手にコンバットナイフの様な武器を逆手で握り、すんでの所で炎の剣を受け止めた姿であり、その顔は心底愉しそうに笑っていた。

 

「無駄だ。如何に一つの“個性”を成長させ、その力を極めようと、26の“個性”を持つ俺との差は埋まらん。こんな風になッ!!」

 

イナゴ怪人4号が左手からミサイルを精製し、そのまま俺に殴りかかる。至近距離で派手な爆発が起こり、爆発の勢いで吹っ飛ばされると、そこへ容赦なく追撃のミサイルが発射された。

 

「GUWOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!」

 

ミサイルの雨霰を受け続け、地面に背を着けた俺を見下ろすイナゴ怪人4号の表情からは、強者が格下を相手にする様な余裕しか感じとれない。

 

「NUU、GGM……!」

 

「決めるか。我が力、思い知れ……ッ! トォオオオウッ!!」

 

右腕に高密度かつ高出力のエネルギーが蓄積し、禍々しい緑色のオーラの輝きが最高潮に達した時、イナゴ怪人4号は天高く跳躍した。……待て、まさかコレは――!

 

「ローカストパァーーーーーーーーーーーーーーーーーーンチッ!!」

 

やはり、ローカストパンチか。俺の知るイナゴ怪人達のソレとは、破壊力に雲泥の差があるだろうが、モーションは完全に同じだ。如何に破滅的な威力を誇ろうと、動きさえ分かれば対応する事は容易い。

 

「WURRRRUUUUAAAAAAAAAAA!!」

 

落下しながら必殺拳を繰り出そうとするイナゴ怪人4号に向けて、紫の炎を纏った右足を真っ直ぐに突き出す。相手の倒れ込む力を利用するカウンターは、イナゴ怪人4号のローカストパンチが俺に当たる前に、イナゴ怪人4号の胴体に命中した。

 

「……フッ、思ったよりはやるな」

 

「GGVVBGG!」

 

――訳では無かった。

 

起死回生を狙った返し技はイナゴ怪人4号の左手に阻まれ、狙っていた胴体には届いていなかった。

防御の意識が最も薄くなるだろう「必殺技を放つ瞬間」を狙ったにも関わらず、此方の攻撃に反応する反射神経は、ますますコイツを倒す事が困難である事を自覚させる。

 

「貴様に一つ良い事を教えてやろう。我が主は貴様がかつてUSJの戦いで失った右腕を元に造られた貴様のクローン体であり、我が主がイナゴ怪人を参考にして自らの肉体を材料に造ったのが、このイナゴ怪人4号とイナゴ怪人3号だ。俺が使う“26の個性”も、元はと言えば我が主に与えられたモノだ」

 

……コイツは今、何と言った?

 

USJで切断された右腕から造られたクローン? それに与えられた複数の“個性”?

 

とても信じられない様な話だが、仮に嘘をつくとしても、もう少しマシな嘘をつくだろう。例えば、父さんの隠し子とか……いや、それこそ有り得ないか。

 

しかし、それが真実だとすれば、コイツの裏で糸を引いているのは、恐らく脳無を造ったヤツと同一人物。「他人に“個性”を与える事が出来る“個性”」を持つ者。――即ち、オール・フォー・ワンに他ならない。

 

「故に、改造されていないナチュラルな貴様が、改造を施されたスペシャルな俺達に敵う訳が無い。貴様等に勝利は決して訪れない。この俺と、我が相棒イナゴ怪人3号がいる限りな……」

 

「………」

 

確かに、これまでのイナゴ怪人4号との戦闘において、俺は全く良い所が無い。普通なら逃げるべきなんだろうが、単純に俺より強いコイツに背を向けるなど自殺行為だ。そもそも、コイツに対応できるヤツが、プロを含めてこの場にいるのか? 26の“個性”を持つと豪語するコイツに。

 

「FUUUU、SHYII!」

 

「まだ俺に勝つ気でいるのか。……しかし、貴様のその誰かを思うが故の行動が、更なる絶望を生む事になる。そんな悲劇に、貴様は耐えられるかな?」

 

闘志を奮い立たせ、起き上がりながら体勢を整える俺を見て、イナゴ怪人4号は何やら予言めいた事を言っているが、そんな事は俺が知った事ではない。

悲劇? 確かに此処でお前達に負ければ、間違いなく悲劇は訪れるだろう。だから、何が何でもハッピーエンドに変えてやるよ。それが、“ヒーローの仕事”ってヤツだからなッ!!

 

「AAABBBGEVOI、WUUGIBOVEZIGEGARR」

 

「……良いだろう。もう少し、この地獄で遊んでやるッ!!」

 

挑発に乗ったイナゴ怪人4号を正面に捉え、俺は紫の炎を握り、拳を作った。

 

 

○○○

 

 

今回集まった『敵連合』“開闢行動隊”の中には、直接的な殺傷能力の高い“個性”を持つ者も居れば、殺傷力こそ持たないが相手にすると厄介な“個性”を持つ者も居る。

 

「……変だな。全体的にさっきよりガスの範囲が狭まっている様な……いや、ガスが押し返されてるのか? でも、そんな事が出来る“個性”持ちなんて向こうに居たかな?」

 

そうした見方で区別するとすれば、『ガス』の“個性”を持つマスタードは「厄介な“個性”を持つ者」に分類されるヴィランと言える。

 

事実、催眠ガスを自在に操るこの男によって、肝試しに参加したB組の大半が戦闘不能状態に陥っており、催眠ガスが拡散する事なく留まり続けている事で、被害者の救出も困難にしている。たまたまその場に『創造』の“個性”でガスマスクを作れる八百万が居合わせなければ、被害は更に甚大なモノとなっていただろう。

 

「(! まっすぐコッチに向かってきてるのが2……いや3人かな? やっぱり気付くヤツも居れば、切り抜けるヤツも居るんだね。流石は名門校だよなぁ……)」

 

しかし、確かに厄介な“個性”ではあるが、殺傷能力に乏しい事は事実である。そこでマスタードは今回の襲撃の為に、闇ルートで拳銃と弾丸を融通して貰っていた。その目的は勿論、確実に人間を殺害する為である。

 

「でも哀しいね。どれだけ優秀な“個性”があっても所詮は人げ「「「フォーーーーーーーーーーーーーーーーー-ッ!!」」」ぶるぁああああああああああッ!?」

 

まさか、自分が拳銃を隠し持っているとは思うまいと、完全に慢心しきっていたマスタードを襲ったのは、三方向から繰り出された六位一体の巨大な男性器……もとい、マランゴが繰り出したロケットパンチ技「マラバゴーン」だ。

 

そもそも、マスタードの“個性”『ガス』は本体であるマスタードにも有効で、勇学園の藤見と同様に何の対策もなく使用すれば、本人も危険にさらされるタイプの“個性”である。

 

その為、マスタードはガスマスクを被っているのだが、そんなモノを被ると当然だが視野は狭まり、死角も増える。

だが、マスタードは自身から発せられる催眠ガスの揺らぎを察知する事が出来る為、それで死角から迫るヒーローや雄英生を素早く察知し、そこを狙い撃ちするつもりだったのだ。

 

「ま、不味い! マスクが……」

 

「フォッフォッフォッフォッフォッフォッフォッフォッフォ」

 

問題は、そこには一つの致命的な落とし穴があった事。それは、ガスの揺らぎで「何処からどれだけの数の敵が迫ってくるのか」は分かっても、「迫ってくる相手が何者なのかまでは分からない」と言う事。

そして、彼の前に現われたのは人間ではなかった。いや、人間ではない存在が自分の前に現われる可能性は考慮していたし、対策もちゃんとしていたのだが、少なくともソレは巨大な男性器の化物ではない。

 

「うわぁああああああああああああああああああああああああああああッ!?」

 

「フォッフォッフォッフォッフォッフォッフォッフォッフォ」

 

巨大な男性器(を模したキノコの塊)に吹っ飛ばされたガスマスクを踏んづけ、笑いながら此方を見下ろす怪物にマスタードはたまらず拳銃を乱射するが、彼が相対しているのは突然変異を起こしたキノコの集合体である。

拳銃の弾丸はマランゴの体を通過して小さな穴を開けるに留まり、マランゴを行動不能にする程の大きな損傷を与える事は出来なかった。

 

「「フォッフォッフォッフォッフォッフォッフォッフォッフォフォッ」」

 

「ヒィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッ!?」

 

また、相手は一体ではない。ヤケクソになって用意しておいたイナゴ怪人用の殺虫剤を浴びせてみるが、薬剤に強力な耐性を誇るマタンゴの奇形であるマランゴには全く効果が無い。

 

「や、ヤバイ……! 息が……ッ!!」

 

用意していた攻め手は足止めにさえならず、更には自分の“個性”で意識が朦朧とし始める。単純な身体能力では『敵連合』“開闢行動隊”の中でも最弱と言えるマスタードに、もはや勝ち目など微塵も無い。

 

「フォオーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!」

 

「ぷぎゃぁあああああああああああああああああああああああああッ!!」

 

「フォフォフォフォーーーーーーーーーーーーーーウ!!」

 

「ほげぇええええええええええええええええええええええええええええええええッ!!」

 

だが、相手が如何に弱っていようと、ヴィランである以上マランゴ達は容赦しない。9つの巨大な男根の如き頭と両手から繰り出される、肉体的ダメージよりも精神的ダメージが遙かにデカい嫌な攻撃を食らい続け、マスタードは体以上に心がボロボロ……いや、ボドボドだ。

 

「(チクショウ……こんな、筈では……ッ!)」

 

マスタードは雄英を襲撃する事で、学歴だけで判断される今の世の中を変えるつもりでいた。確かに、社会において高学歴の人間は何においても他者から尊敬され、称賛される傾向にある事は間違いない。

しかし、そもそもヒーローとヴィランが相対する戦場は、学歴などクソの役にも立たない世界である事は、少なくともA組の面々からすれば分かりきった事であり、戦場でヒーローに求められるのはソコに飛び込む“勇気”と、状況を打破する事が出来る何らかの“力”である事も、彼等は身を以て知っている。

 

仮にマランゴと戦わなかったとしても、自身の思想を証明する手段として、理不尽を凌駕する事を前提とする「ヒーロー」を相手に、理不尽の権化である「ヴィラン」として戦う事を選んだ時点で、マスタードの敗北は決定していた。

 

「フォオオウ!! フォフォフォフォフォオオオオオウ!!」

 

「ウゴッ! ブゥググググーーーーーーーッ!!」

 

「フォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」

 

「ヴグゲェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエッ!!」

 

「………」

 

そんなマスタードの最後は、マランゴ達に身動きを封じられた上で、巨大な男性器の如き手を無理矢理口に突っ込まれた挙げ句、体の中にこれでもかとマランゴの胞子をぶち込まれてマランゴの苗床となる事であり、そんな想像を絶する狂気に満ちたヴィラン退治を偶然目撃した拳藤一佳は、「マランゴとヴィランのどっちを助けるべきか」真剣に悩んだと言う。

 

 

●●●

 

 

一挙手一投足の度に体力がごっそり削られ、紫の炎を繰り出す度に高熱が体の中に蓄積されていくのを感じる。肉体の冷却機能を上回る熱量は身体機能の低下を招き、まるで真綿で首を絞められるかの様に、俺は確実に敗北へと追い詰められていた。

 

「BUUUU……NAAAAAA……」

 

「どうやら、消耗が激しいのが弱点の様だな。その点、俺達はタフだぞ?」

 

一方で「攻撃力が高い」と言うよりは、「殺傷力が高い」と言った方がいい攻撃を何度も受けているにも関わらず、イナゴ怪人4号から余裕が消える事はない。正に「未だかつてない強敵」と呼ぶに相応しいヴィランだ。

 

――だが、突破口は見つけた。覚悟さえあれば切り拓けるだろう、お前の弱点を。

 

「MUUUUUUUUU……」

 

「ほう、一撃に賭けるか。面白いッ!!」

 

足元の地面に紫色の六本角の紋章が展開され、力を両足に溜めるべく腰を落とすと、イナゴ怪人4号も同様に腰を落とし、両足にエネルギーを溜め始める。

 

「SUUUUUUUUU……VOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!」

 

「トォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオウッ!!」

 

「GAIVUAAAAAAAAAAAAAAAADIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIG!!」

 

「ローカストキィイーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーックッ!!」

 

示し合わせた様に同じタイミングでジャンプし、高出力のエネルギーを纏った蹴りが空中で激突する。これまでの事を考えれば、パワーも出力もイナゴ怪人4号に劣る俺が、必殺技の打ち合いに勝てる道理はない。だが――!

 

「WRUWOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!」

 

「!? なんだ……この、力は……ッ!?」

 

必殺キックの鍔迫り合いは拮抗し、お互いがその場から大きく弾き飛ばされた。自分が勝つに決まっていると高をくくっていたのか、その事実にイナゴ怪人4号は面食らっている。

 

「GNNNNNNNNNN!!」

 

「! なるほど、ソレが理由……グッ!!」

 

俺が木を蹴ってすぐに反転したのに対し、イナゴ怪人4号が着地して踏み出そうとした瞬間、右足に大きな亀裂と火花が走る。

 

そして、その時にイナゴ怪人4号は気付いたのだ。俺の背中に生えているマフラーのような羽根が、根元から千切れている事を。

肉体の自壊を防ぐ為の器官を破壊し、余剰エネルギーを攻撃に転用する事で、限界を超えた出力を引き出したのだと。

 

「UWRYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

 

「チィイイッ!!」

 

千載一遇のチャンスを逃すまいと、空中に紫色のエネルギーで構成された六本角の紋章を展開し、右足を突き出した跳び蹴りの体勢でソレを通過すると、右足に紫の炎を纏ってイナゴ怪人4号に迫る。

 

「GAIVUAAAAAAAAAAADIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIG!!」

 

「ローカストパァーーーーーーーーーーーーーーーーーンチッ!!」

 

右足を負傷した為、ローカストパンチで迎撃する事を選択したイナゴ怪人4号を見て、俺は此処が勝負処と悟り、最後の賭けに打って出る。

 

コレまでの傾向から察するに、イナゴ怪人4号に攻撃を「避ける」と言う選択肢は無い。自分の防御力に絶対的な信頼を置いているからか、此方の攻撃は全て「受ける」事で防いでいたし、必殺技に対しては「必殺技をぶつける」と言う選択を取っている。

 

――つまり、「攻撃を当てる」事自体は容易い。問題は、相手の防御力を突破するだけの力を、どうにかして調達する事だけだ。

 

「GGGGGGGGGNNNNNN……!!」

 

「これしきの……ッ、力ぁ……ッ!!」

 

紫の炎を全身から発して押し切ろうとする俺と、緑色のオーラを全身に纏って押し返そうとするイナゴ怪人4号。

徐々に押し返されるイナゴ怪人4号の底力をねじ伏せる為、俺はもう一つの余剰エネルギーを排出する器官である六本の角を握りしめると、その握力で角を粉砕した。

 

「何ぃッ!?」

 

「WUUOOOONNDRYYYYYYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

 

二つある逃げ場を失った余剰エネルギーが体内に留まり、自分が引き出す事が出来る力が劇的に増していくのを感じる。しかし、それはUSJで初めてマッスルフォームが発現した時と同じく、エネルギーの器である自分の肉体をも破壊する危険な行為だ。

それも、マッスルフォームよりも強力なバーニングマッスルフォームで行ったなら、その危険度はUSJの時よりも遥かに上だ。現に血液が沸騰して吹き出し、肉体は溶岩の様にドロドロになって溶け始めている。

 

「馬鹿な! それ以上は貴様の命も……ッ!!」

 

……ああ、言われなくても分かってるさ。だがな、これでお前は倒せるッ!!

 

「VABOGEGOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!」

 

再生能力よりもエネルギーの暴走による肉体の破壊の方が上回っている為、角と羽根が再生する事は無い。その代わり、角と羽根の付け根から紫の炎が噴き出し、まるで触角と羽根の様に広がると、捨て身の一撃に更なるパワーを与えてくれる。

 

有難い。あともう一押し、何か欲しかったトコだったからなあッ!!

 

「WWWUUUUUAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

 

「限界か……! だが、お前は一つ勘違いをしているッ!! お前が強ければ強い程、我々はむしろ勝利に近づくッ!! そして、お前もいずれ思い知る! 人間は皆、“悪魔”なのだとッ!!」

 

そして、犠牲を払うだけのリターンはあった。全身の至る所から亀裂が走り、そこから光が漏れ出した事で最期を悟ったのか、イナゴ怪人4号がまたもや予言の如き奇妙な台詞を叫ぶと、次の瞬間には大爆発が巻き起こる。

それは天まで届かんばかりの巨大な一本の火柱となり、その光は夜の山林をひと際明るく照らすと同時に、俺の現状を伝える狼煙となるだろう。

 

「…………A……GGG……HHAAA……」

 

取り敢えず、辛うじてだが生きている。

 

バーニングマッスルフォームから一気に通常形態に戻り、全身がボロボロで自慢の再生能力は殆ど働いていない。それでも、本当にイナゴ怪人4号が倒されたのか確認するべく、足を引きずりながら爆心地に向かって歩いていく。

周囲の木々が完全に消滅し、爆発によって出来たクレーターの中心で、黒焦げになった一匹の大きなバッタが“原形を留めた状態”で動いていた。……もしかして、これがイナゴ怪人4号の正体か?

 

「よし、頃合いだ」

 

「GAAA……!」

 

イナゴ怪人4号らしき黒焦げのバッタを拾おうとした刹那、イナゴ怪人3号の声が聞こえたと思ったと同時に、首に針で刺した様な激痛が走った。

すぐさま腕を後ろに振るうが、そこにイナゴ怪人3号の姿は無く、イナゴ怪人4号らしき黒焦げのバッタも消えていた。

 

『ふむ。より多くの“個性”を投与した分、細胞が持つエネルギーが其方の方に回され、細胞が元々持っている高い再生能力等が軒並み低下する。それに継戦能力の低さも、由々しき問題じゃな』

 

『60個の“個性”を有するドラスに至っては、定期的に水槽に浸からないと生命を維持する事もままならないからね。今後を考えれば、やはり此処で確実に捕獲するのがベストだ』

 

「!?」

 

どう言う訳か、体から一気に力が抜けていく。疲労や怪我によるものだけではない。何か、決定的なモノが体から無くなってしまったかの様な、そんな絶望的な喪失感が体と心を支配している。

 

『無理に動かない事をオススメするよ、呉島新君。イナゴ怪人3号が君に投与したのは、体内の“個性因子”を傷つけ、一時的に“個性”を使用不能にさせる薬だ。つまり、今の君は正真正銘の死に損ないだよ』

 

『特製の麻酔も混ぜてあるから、ミュータントハリガネムシとやらも役には立たん。まあ、潔く諦めるんじゃな』

 

「悪いな。しかし、我々は何が何でも勝たなければならない。貴様だって分かるだろう? 勝てば正義。負ければ悪。人類の歴史とは常にそう言うモノなのだから」

 

禄に動かない体と、朦朧とする意識。正直、指一本動かす事さえままならない。

 

……それがどうした。例え“個性”が使えなくても、「やらなければならない事」が、ヒーローにはあるじゃないか。

 

「UU……AAA……」

 

「………」

 

『ほう! なかなかどうして、大した精神力じゃ! いや、コレは本当に期待できるのう! ドラスをも超える“更なる男”! 来たるべき“個性特異点”との戦いに備える剣! そして、超人を苗床として生まれる“新たな人類”へ至る道に相応しい!』

 

『いやはや、これだから手負いのヒーローは恐ろしい。オールマイトが君を選んだ理由も分かるよ。尤も、そんな君だからこそ、僕は君に目を付けたんだけどねぇ』

 

吐き気を催す臭気に包まれ、視界がまるでインクをこぼした様に黒に染まる。残された力を振り絞り、魂さえも削って繰り出した拳が、倒すべき敵に届く事はなかった。




キャラクタァ~紹介&解説

呉島新
 原作の“開闢行動隊”が相手なら無双出来ただろうが、それだとつまらないので例によって改造人間軍団と戦って貰った。イナゴ怪人4号とは持っている“個性”の数の差もあって圧倒されるが、自爆覚悟の捨て身な超必殺技で勝利した……様に見える。そして、敵対組織に取っ捕まったナチュラルボーンにスゲーイ主人公がどうなるかなど、仮面ライダー(特に昭和)においては一つしかあるまい。
 作中では、モーフィングパワーによる「炎を纏う剣の精製」など、地味に「“個性”伸ばし」の成果が現われている。決め技の「角をへし折って余剰エネルギーを攻撃に転用する」アイディアは前々から考えていたのだが、流石にデク君の様に100万%の破壊力は無い……と思ったら100万%以上の破壊力がありそうだぞ、コレ。

マスタード
 前作『序章』のヘドロヴィランや『USJ編』の電気ヴィランと同様、シンさんが居る事によって原作よりも悲惨な最期を遂げたヴィラン。原作では鉄哲と拳藤のコンビに成敗されたが、この世界では鉄哲が補習組に入っている為、薬物に高い耐性を持ったマタンゴの奇形であるマランゴ×3によって倒された。
 実際、マスタード自身の格闘能力が低く、“個性”である催眠ガスも拳銃も薬品も効かないマランゴとの相性は最悪の一言で、更には勇学園の藤見と同様に「本体にも効くタイプの“個性”」だと思われる事から、初手必殺技でガスマスクが外れた時点で詰んでいたと言わざるを得ない。

マランゴ×3
 鉄哲と拳藤に代わってマスタードを退治したキノコ怪人。スピナーから聞いた森に潜伏するヴィランの脅威度と、能力の相性を考慮したイナゴ怪人の指示でマスタードの元へ送り込まれ、見事に勝利を収める。もっとも、その光景を目撃した拳藤曰く、「悪を懲らしめ成敗するとは、到底思えない絵面だった」らしいが……。
 ちなみに、最初の方でマスタードが「ガスの拡散範囲が縮小している」と言っていたが、コレはマタンゴの「霧の様なエネルギー(或いは特殊な気体)を発して、コントロールする能力」によるもの。この能力は小説『マタンゴ~最後の逆襲~』で明かされたもので、マタンゴ化した村井研二はこの能力を使ってマタンゴの胞子を押しとどめ、作田直之を守っている。

ハチ女
 ハチ怪人を従える女王バチな女怪人。保須市の後で造られた『第2期』のガイボーグの一人で、精神攻撃や飛行能力を交えた剣による戦闘を得意とするが、その為に体を軽量化している分、非常に打たれ弱い。ぶっちゃけ、攻撃が当たりさえすればシンさんでなくとも勝てるレベル。
 元ネタは『J』に登場した「ハチ女ズー」。他にも『仮面ライダー(初代)』の「ハチ女」の要素が含まれ、“個性”で造られた配下であるハチ怪人は、小説『仮面ライダー1971-1973』の「蜂女」が元ネタ。

コブラマン
 ゴツい体を持ち、口から火を吐くなど、結構正統派な見た目と能力を持った怪人。授業参観で登場した、ブラッドスタークでエボルトなコブラ男とは何の関係も無い。そして、作中で使用した光剣は「リポルケイン」ではない。触れればアウトな破壊力ではあるが。
 元ネタは『J』に登場した「コブラ男ガライ」。他にも『仮面ライダー(初代)』の「強化改造されたコブラ男」の要素が含まれている。尚、コイツとハチ女は倒された後も放置されており、事件終結後は敗北したマスタード達と同様、警察に逮捕されている。

イナゴ怪人4号
 予告の段階で読者の皆さんから「エターナル克己」呼ばわりされていた怪人。確かに声は松岡充さんだし、台詞も参考にしているし、そう言われてもおかしくはない部分は多々あるが、流石に元ネタの『仮面ライダー4号』の台詞だけじゃ足りないから、エターナル克己のネタも使わざるを得ないのが作者の本音。
 ドラスを通して「メタル」、「ジョーカー」、「ロケット」と言った合計26個の“個性”を分け与えられているが、増強系をメインに肉弾戦を想定した“個性”を選んで投与されている為、「ゾーン」や「エターナル」と言った“個性”は無い。イナゴ怪人4号にとってEは「エッジ」なのだ。
 作者としては、この世界のエリちゃんがヒーローを目指した場合、彼女が『仮面ライダーエターナル』を名乗ってヴィラン共の“個性”を手当たり次第に破壊しまくり、永久的に使用不能な状態にして活躍する様な気がしないでもない。

エリちゃん「さあ、じごくをたのしみな!」
ニート死柄木「………」



ドラス製イナゴ怪人
 ドラスがミュータントバッタの残骸を取り込み、そのデータを元に自らの細胞を使って作り出したイナゴ怪人。シンさん製イナゴ怪人とは、誕生の経緯も肉体の構造も異なり、ドラスから与えられた“個性”を使う事も出来る。また、『NARUTO』の影分身修行法の様に、自分の“個性”をコイツ等に与えて“個性”を使わせた後、回収して経験値を本体に還元すると言う、独自の「“個性”伸ばし」も可能。
 戦闘力はシンさん製イナゴ怪人を大きく上回るが、その代わり「肉体の破損をミュータントバッタの補充により補う」、「ミュータントバッタが有る限り何度でも復活出来る」と言った、シンさん製イナゴ怪人が持つ特徴は無い。
 また、ドラスと共通する弱点として、シンさんの様に「“個性”を成長させて新しい能力を獲得する」のではなく、「“個性”を投与される事で新しい能力を獲得する」為、“個性”を投与されればされるほど、細胞が持つエネルギーが投与された“個性”の方に使われてしまい、元々持っている高い再生能力等が低下する。要はドーピングによる肉体への効果と副作用。或いは超高性能だがバッテリーの容量は少ないハイテク機器と言った所か。
 立ち位置としては、完全に『ZO』でドラスが造った「クモ女」と「コウモリ男」のソレ。メタ的に言うなら、シンさんが「能力を自力で獲得していく」のに対し、ドラスは「能力を他者から与えられている」ので、獲得した能力の使い方も差別化しようと思い、「シンさんがディケイド的だから、ドラスはディエンド的にしよう」と考えた結果こうなった。



あとがき

今回はここまで。次回でアギト化したスピナーとか、デク君の視点とか補足を入れて、いよいよ『THE FIRST』の最終章へと入っていきます。まあ、大方の予想通り……。

シンさん「悪墜ちしたわー」
デクくん「友情パワーで甦ってぇーッ!」

……みたいな感じですけどね。BLACK的な。


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