怪人バッタ男 THE FIRST   作:トライアルドーパント

7 / 70
このお話は作者が今年のエイプリルフール企画として書いていた二次小説です。しかし、引っ越しやら何やら忙しくて、結局4月1日に投稿する事が出来ませんでした。

その為、何時も通りに番外編的な扱いで本編のおまけとして投稿するつもりだったのですが、連日報道されるコロナウィルスの猛威を目にし、今は少しでも多く室内で楽しめるモノがあった方が良いと判断し、この話を投稿する事にしました。

そんな訳で、「人間の姿が呉島貴虎とクリソツな見た目と言う設定の、この世界の怪人主人公が、もしも『鎧武の世界』に介入したら……」と言う、IFのお話をお楽しみ下さい。


元2020年エイプリルフール企画 ~鎧武の世界のシンさん~

その日、多国籍総合医薬品メーカー『ユグドラシル・コーポレーション』が誇る天才科学者の戦極凌馬は、上司である呉島貴虎が弟である呉島光実に命じた「葛葉紘汰の戦極ドライバーの奪還」と言う任務の経過を面白そうに観測していた。

生粋の研究者である彼としては、『ジンバーアームズ』と言う一度は封印した試作品のシステムを使う葛葉紘汰のデータは可能な限り多く欲しいので、出来ればもう少し葛葉紘汰を泳がせたい所なのだが、上司の命令とあっては仕方が無い。本当に。いや、本当に。

 

「………」

 

「ああ、どうしたんだい貴虎? 光実君の様子が気になったかい?」

 

「………」

 

何時の間に研究室に入ってきたのか、貴虎の姿を見た凌馬は笑顔で声を掛けるが、視線をすぐにモニターに戻した。モニターの中では彼の可愛い弟が自らの手を汚すこと無く、葛葉紘汰から戦極ドライバーを奪還しようとしている真っ最中だ。

 

「あ、そうだ。コレ! 君が無くしたスイカのロックシードの代わりだよ。プロトタイプの試作品だけどね」

 

「………」

 

そして、事のついでとばかりに、凌馬は机の引き出しからロックシードを取り出すと、机の上にソレに置いた。当の貴虎はずっと無言だが、貴虎が無反応なのは何時もの事だ。

 

「……馬鹿か、コイツは」

 

「は……?」

 

「……変声機を使っていると言う事は、相手に『声で正体がバレる』と自分から言っている様なモノだ。『正体がバレたら困る立場に居る』ともな。相手が余程の間抜けかお人好しでもなければ、自ずとその可能性に行き着く」

 

「…………ほ、ほほう。た、確かにね……」

 

凌馬は予想外の評価に驚き、思わず振り返ったものの、貴虎の言う事に納得と理解を示し、肩を振わせながら口に手を当てつつ、モニターの中の光実を眺めていた。

もはや凌馬の目に光実は「自分では頭の良いつもりでいる馬鹿」としか映っていない。その表情は愉快痛快な心情をこれでもかと物語っている。

 

そして、弟の作戦行動に呆れたのか、貴虎はロックシードを手に取ると、無言で凌馬の研究室を出て行った……と、思ったらすぐに戻ってきた。

 

「なあ、凌馬」

 

「何だい? 今、良い所なんだけど……」

 

「このロックシードのカラーリングを変えてくれ。具体的には黒と黄色を基調とした爆弾スイカをイメージした感じだ」

 

「はいはい…………え?」

 

「あと、音声も爆弾スイカっぽく『爆弾・チュドドドン!』って感じにして欲しい」

 

「!?!?!?」

 

凌馬の想像を遙かに超えた貴虎の発言に、凌馬の思考回路は混乱の坩堝に叩き込まれた。あの人類救済だけに固執し、ドライバーの性能よりも数量を優先するつまらない男が、ロックシードのカラーリングや音声に拘る様な事を宣ったのだから、それは無理も無い事だろう。

 

「じゃあ、頼んだぞ」

 

「え!? は!? ちょ、貴虎!?」

 

そして、言う事を言ったら、コッチの返事も聞かずに貴虎は退室していく。何時も通りじゃ無い貴虎の様子に戸惑いつつ、その背中を追いかけた凌馬だったが、既に貴虎の姿は何処にもなかった。

 

「……と、取り敢えず、やっておくべきか……な……?」

 

未だかつて無い凄まじいショックからまだ立ち直れていない凌馬だが、言われたからにはやっておこうと思い、ロックシードのカラーリングと音声を変更するのだった。

 

 

○○○

 

 

それから幾ばくかの時が流れ、ヘルヘイムにまつわるユグドラシルと呉島家の闇を育んできた場所で、二人の男女が対峙していた。

 

「やはり、気付いてしまったのですね」

 

「………」

 

「何故です? 何故貴方は呉島の人間なのです?」

 

「………」

 

女の名前は朱月藤果。かつては、呉島家で使用人をしていた呉島貴虎の幼馴染みであり、ユグドラシルと呉島家に憎悪を燃やす復讐者――アーマードライダーイドゥンの変身者である。

 

「私は貴方を殺さなければならない」

 

「………」

 

「この施設は、将来ユグドラシルを担う人材を育てる為の教育機関でした。ある者は指導者として。ある者は研究者として、そしてまたある者は、世界の闇で暗躍する工作員として……でも、誰もがユグドラシルの眼鏡に適うわけじゃありません。選ばれなかった者の末路は悲惨でした」

 

「………」

 

「天樹様はヘルヘイムに侵されていたのですよ。その為に皆犠牲になった……!」

 

「………」

 

「天樹様の最期は、それはそれは惨めでしたよ」

 

「………」

 

彼女と相対する貴虎は、身内の悍ましい裏の顔とその末路を、被害者であり加害者でもある藤果の口から聞かされているにも関わらず、彼女の如何なる言葉にも表情にも反応を示す事無く、無言で聞き手に徹していた。彼女の知る貴虎の性格からすれば不自然な程に。

 

「でも、貴方と呉島光実が生きている。ユグドラシルも残っている。呉島天樹に関わる物は全て、この世から消し去ってやる!」

 

「………」

 

「変身」

 

『リンゴ!』

 

復讐への決意を宣戦布告とし、女は怨敵の所から持ち出した、全ての始まりにして禁断のロックシードを開錠し、異世界より血塗られた鎧を呼び出した。

 

『カモン! リンゴアームズ! デザイア・フォビドゥン・フルーツ!』

 

「ヤァアアアアアアアッ!!」

 

リンゴを模した鎧を纏う魔剣士が、鞘の役割を併せ持つ盾から諸刃の長剣「ソードブリンガー」を抜くと、相対する男の命を奪う為に凶刃を振う。その太刀筋は相手の急所を狙って放たれ、振りにも一切迷いが無い。

 

「天樹様はよく仰ってました。腐った果実は取り除くべきだと。この世界にとっての腐った果実は……貴方達『呉島』だッ!!」

 

「………」

 

男は未だに幼馴染みとの戦いを迷っているのか、命の危機であるにも関わらず未だに生身のままだ。それでもアーマードライダーの攻撃を捌く素の身体能力の高さと、入り組んだ室内より戦い易い屋外に向かう判断力は流石と言うべきか。

 

「貴方は死ぬべき運命なのです」

 

「……悪いな。俺は不死身だ」

 

『フレッシュメロン!』

 

そして、遂に戦う覚悟を決めたのか、男は戦極ドライバーを腰に巻き、ロックシードの力を解放すると、キラキラと輝くメロンを模した鎧を異空間より召喚する。

 

「変身!」

 

『ソイヤッ! フレッシュメロンアームズ! 天・下・御・免!』

 

女を倒すべき敵として定めた男は、闇夜の様に黒いライドウェアと、やけに輝くメタリックな緑色のアーマーを身に纏うと、両手に現われた2枚の盾「メロンディフェンダー」を構えた。

その姿は『白いアーマードライダー』と呼ばれる貴虎が纏う鎧を――アーマードライダー斬月の姿を知る者が見れば、アーマードライダー斬月の影法師の様に見えるだろう。

 

「ハアアアアアッ!」

 

「むうううんっ!」

 

リンゴを模した盾「アップルリフレクター」とソードブリンガーを持つ魔剣士が、2枚のメロンディフェンダーを構えた影法師と遂に激突する。

剣と盾を用いた攻防一体の戦闘スタイルを持つ魔剣士に対し、影法師は盾で攻撃を防ぎつつも、積極的に盾を攻撃に使用しており、それは盾と言うより籠手の様な印象を受ける使い方だった。

 

「シィッ!!」

 

「くッ!」

 

「セイッ!」

 

メロンディフェンダーに備えられた槍の穂先のような突起を用いた刺突を、魔剣士がアップルリフレクターで防いだ瞬間、メロンディフェンダーの両サイドに月牙状の刃が鋏の様に展開してアップルリフレクターを挟み込み、影法師が強引にアップルリフレクターを奪い取る。

 

そして、右手に持った自分の盾と一緒に相手の盾を放り投げた影法師は、両腰に一本ずつマウントされた銃剣「無双セイバー」の内、右腰のソレを右手で逆手に持つと、バレットスライドが独りでに動き出してエネルギーがチャージされ、小指で引いた引き金の数だけエネルギー弾が発射された。

 

「んっ!! ぐぅう!!」

 

「む!?」

 

「ハァッ!!」

 

「ガッ! 何!?」

 

無双セイバーのエネルギー弾を浴び、その場から大きくのけぞった魔剣士は、背後に異空間に通じる穴を――クラックを展開するとそこに飛び込んで姿を消し、影法師の背後や頭上など様々な場所にクラックを呼び出す事で、その場から現われては消えてを繰り返し、影法師を翻弄した。

 

「そう来るか……なら」

 

それに対し、影法師は左手に持っていたメロンディフェンダーを捨てると、二本の無双セイバーを順手に持ち、周囲の違和に神経を集中させた。

 

「ハァアアアアアア!!」

 

「ぬぅん!」

 

頭上から繰り出された魔剣士の一閃。それを二本の無双セイバーを頭上に掲げて防ぐと、二枚のメロンディフェンダーがひとりでに動き出し、魔剣士を挟撃した。

 

「これは……!?」

 

『ソイヤッ! フレッシュメロン・スカッシュ!』

 

「セイヤァアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

「キャアアアアアアアアアアアアアアアア!?」

 

魔剣士の身動きが取れなくなった所を見逃す事無く、影法師が繰り出した一閃は魔剣士を吹き飛ばし、戦闘不能に追い込んだ。

ダメージによる変身解除に伴い、藤果が先日貴虎から奪ったメロンエナジーロックシードが影法師の足元に転がり、藤果の戦極ドライバーからリンゴロックシードが影法師の手元に向かって飛び出していく。

 

「あ……ぐ……!」

 

「ふむ……」

 

影法師はリンゴロックシードを難なくキャッチし、足元のメロンエナジーロックシードを拾うと、変身を解除して仰向けに倒れる藤果の元へと近づいた。

 

「……私を生かせば、また必ず貴方の命を狙います」

 

「さっきから勘違いしているが……俺はお前の言う貴虎じゃない」

 

「? それは、どう言う――」

 

藤果が男の発言に訝しむと、男は籐果の目の前で人間からバッタに酷似した怪物に変じた。予想外の事に絶句する藤果だったが、怪物が藤果に触れると藤果の体が輝き、藤果を苦しめていた体の不調が瞬く間に消えた。

 

「これは……貴方は一体……」

 

「藤果ぁああああああああああああああああああああああああッ!!」

 

「!?」

 

そして、自分の名前を叫ぶ男の声に籐果が視線を向けると、そこには鬼の様な形相の貴虎の姿があった。何がどうなっているんだと困惑する籐果を余所に、バッタの怪物は貴虎と瓜二つの男の姿へと戻っていく。

 

「な……ッ!!」

 

「……なるほど、貴方が貴虎か」

 

まるで鏡合わせの様に対峙する二人の男。見比べると先程まで戦っていた方が少し若い様に見えるが、一見してどちらが貴虎か分かる者はそうは居ないだろうと断言できる程、二人の容姿は酷似していた。

 

「貴様……何者だ!!」

 

「……呉島新。それ以上でも、それ以下でもない」

 

男の右手に持つリンゴロックシードが七色に輝き、配色がより鮮やかなモノに変化する。それはヘルヘイムの果実がロックシードに変化する時に見せる反応と酷似していた。

 

「……使ってみるか」

 

『フレッシュリンゴ!』

 

「変身」

 

「! 変身!」

 

『ウォーターメロン!』

 

『ロックオン! ソイヤッ! フレッシュリンゴアームズ! デザイア・フォビドゥン・フルーツ!』

 

『ロックオン! ソイヤッ! ウォーターメロンアームズ! 爆弾・チュドドドン!』

 

そして、果実を模した鎧を纏った二人の姿は、それぞれのライドウェアが白と黒を基調とする事も相俟って、便宜上戦極凌馬が『斬月』と呼称したアーマードライダーの光と影を現している様だった。

それは『白いアーマードライダー』である斬月がガトリングガンを下部に備えた盾「ウォーターメロンガトリング」を左手に持ち、左腰にマウントされた無双セイバーを右手に構えると、黒い斬月が両手に現われた二つのアップルリフレクターの内、右手に持った方を捨てて無双セイバーを手にした事で、より強調されている。

 

「ハァッ!!」

 

「シィッ!!」

 

かくして、二人の斬月が刃を振い、激しく火花を散らせるが、お互いの持つ戦闘能力の高さと、剣と盾による共通した戦闘スタイルにより、拮抗状態が続いていた。

自身と同じ顔をしている人物との戦いで、まるで自分自身と戦っている様な感覚を覚える貴虎だが、このままでは埒があかないと判断して距離を取ると、戦況の突破口とするべくガトリング砲を乱射する。

 

「ハァアアアアアアアアアアアアアッ!!」

 

「チィッ!!」

 

しかし、驚くべき事に黒い斬月は、左手に持ったアップルリフレクターと、先程手放したアップルリフレクターが動き出して右手に戻り、堅牢な2枚の盾を用いて砲撃を防いだ。

摩訶不思議な現象を目にし、一体どんな絡繰りがあるのかと思った貴虎だが、そこで盾に収められていた筈の剣が無い事に気付いた。

 

「隙あり」

 

「ガッ!!」

 

そして、貴虎の背後に展開されたクラックから、両刃の長剣が飛び出して貴虎を襲った。如何にアーマードライダーとして高い戦闘力を持つ貴虎と雖も、反動の大きいウォーターメロンガトリングを使っている間は、しっかりと踏ん張って足を止めるしかなく、機敏に動く事は出来ない。

 

「決めるか」

 

『ソイヤッ! フレッシュリンゴ・スカッシュ!』

 

「ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!?」

 

想定外の攻撃によって怯んだ貴虎を、周囲に展開される無数のクラックを出入りするエネルギーを纏った二本のソードブリンガーが襲い、斬月の装甲を何度も斬り刻む。

必殺技によるダメージで斬月への変身が解除され、戦極ドライバーからロックシードが黒い斬月の元へと飛んでいくと、黒い斬月はそれをキャッチした。

 

「ぐ……ッ!」

 

「……なるほど。今日の所は此処までにしよう」

 

「ま、待て!」

 

「待たない」

 

貴虎の声に返答こそしたものの、黒い斬月は自身が倒した二人の男女を振り返る事もなく、呉島天樹の罪の証である孤児院を立ち去って行くのだった。

 

 

○○○

 

 

「一体、コレはどう言う事だ?」

 

「さてねぇ……どう見ても君に見えるけど、コッチの彼の方が少し若い様に思える。実に興味深い」

 

「そうじゃない。俺が言いたいのは、この男がインベスでありながら人間の姿と自我を保っている事と、我々の知らない未知のアーマードライダーであると言う事だ」

 

「そうだねぇ……それで、件の襲撃者の正体は朱月藤果君だった訳だけど……君は彼女をどうするつもりだい? 彼女は天樹氏を殺害しているんだろう?」

 

「……彼女はこれから然るべき場所へと送る。幸いな事に、彼女の体に異変は何も見られなかったからな」

 

「! ほう……そうなると、それはそれで奇妙な話だね……」

 

「? どう言う意味だ?」

 

「彼女が使っていたロックシードだけど、アレは私が天樹氏の元で初めて完成させた最初のロックシードでね。尤も、試作品の失敗作で、ロックシードの起動実験の際に暴走した後、天樹氏の元へと送られたんだ」

 

「………」

 

「恐らく、彼女が天樹氏を殺害した際、保管されていたあのロックシードも回収したんだろうが、さっきも言った様にあのロックシードは失敗作だ。まともに運用なんて出来ない筈なんだが……」

 

「しかし、彼女は実際にあのロックシードを使い、アーマードライダーになっている。その上、ロックビークルも無しにクラックを操る等、尋常では無い」

 

「そこだ。私があのロックシードを失敗作だと言ったのは、ヘルヘイムの果実の浄化が不完全だと言う意味でもある。どれだけ強力な能力を持っていたとしても、使えばヘルヘイムの果実の様に使用者の肉体を蝕む筈だ」

 

「………」

 

「にも関わらず、それを使用した藤果君の体に何の問題も無いと言うのは有り得ない。有り得るとすれば、インベスと人間の姿を行き来できるこの男が、彼女に何かしたと考えるべきだろう」

 

「………」

 

「いずれにせよ、彼は間違いなくヘルヘイムに関係する極めて重要なサンプルだ。何が何でも生け捕りにする必要がある。個人的にも、彼とは色々と話がしてみたい所だ」

 

「……この男については私が責任を持って対処する。お前はヘルヘイムの果実とインベスについての研究を進めてくれ」

 

「分かったよ。貴虎(しかし、あのロックシードで限定的とは言えヘルヘイムを操る事が出来たと言う事は、私の理論は正しかったと言う訳で……つまり、『黄金の果実』は存在する)」

 

苦虫を噛み潰した様な顔をした貴虎とは対照的に、何事か企んでいる様子の笑顔を浮かべる凌馬は、パソコンの画面に映るニセ貴虎の戦う様子を観察しつつ、その目的を考えていた。

 

仮にこのニセ貴虎がユグドラシルへの復讐を考えているのなら、朱月藤果と一緒に貴虎を襲撃し、貴虎に成り代わる事でユグドラシルを内部から崩壊させる事だって出来た筈だ。それこそ口調や仕草に気をつければ、誰だって騙されるだろう。

つまり、お互いの目的が一致しているのであれば、彼等が争う理由は全く無い。二人が戦っていたと言う事実は、ニセ貴虎の目的がユグドラシルへの復讐では無いと言う何よりの証拠と言えよう。

 

――ならば、このニセ貴虎は一体、何が目的なのか?

 

以前、貴虎が紛失したスイカロックシードの代わりのプロトタイプのロックシードを渡した時、貴虎は普段の貴虎らしかぬ要望を口にしていた。

あの後、貴虎の要望通りにプロトタイプのロックシードの音声とカラーリングを変更したが、それを渡した時の貴虎は何時も通りのつまらない反応を返していた。

 

今にして思えば、あの時の貴虎はこのニセ貴虎で、貴虎になりすましてユグドラシルに潜入していたと考えるのが自然だ。その目的が何だったのかは分からないし、自分の造ったドライバー以外の方法で人間を超えている事や、ロックシードを加工する得体の知れない力など、実に気に入らない点も多々あるが、観察対象としてはかなり興味深いし、自分と趣味が合うと言う点は、ある意味で誰よりも貴重な見所と言える。

 

「(中々面白い展開になってきたじゃないか。色々な意味でね……)」

 

 

●●●

 

 

眼下に広がるのは“合戦”の光景だった。

 

そう、“戦争”ではなく“合戦”。鎧武者の様な姿をしている戦士達が、互いの正義をぶつけ合い、生き残る為に血で血を洗う戦いを繰り広げていた。

 

「此処はあらゆる可能性の世界……所謂、平行世界ってヤツだ。可能性と可能性が交差する時、稀にこの様な世界が生まれる事がある。まぁ、幻みたいなモンだ」

 

背後から聞こえた男の声に振り返ると、何処かの民族衣装の様な服装をした男がゆっくりと歩いてきた。何となくノリの良さそうな笑顔を浮かべているが、本能はこの男が「人間ではないナニカだ」と訴えている。

 

「……貴方は?」

 

「さてね。此処で名を問われても、大した意味は無い。俺は観客であり、運命の運び手。ただの時計の針に過ぎない。それより問題なのは、お前が此処に居るって事だ……呉島新」

 

俺の事を知っているのか。男の何でも見透かしている様な雰囲気も相俟って、ちょっと油断出来ないな。

 

「お前はオーバーロードにも等しい力を手にしている。お前がその気にさえなれば、世界を思うがままに自分の色に染め上げる事が出来る。それは人類と言う種の進化による破滅と再生……その果てにいずれは辿り着く為のものだ。それはある意味、アイツらが辿るだろう一つの未来そのものでもある」

 

「………」

 

「人類の進化の果てを目指すべく、肉体をより強靱な物に造り替えられたお前の生き様は、その人生における選択は、アイツらにとっても特別な意味をもたらすだろう。だからこそ、俺はお前にも可能性を示そうと思っている」

 

そう言って男が差し出した物は、メロンの装飾が施された南京錠と、刀の様な物が付属した黒一色の奇妙な装置だった。

 

「さあ、受け取れ。これは『ロックシード』と『戦極ドライバー』と言って「要らない」……ほう?」

 

何か色々と言っているが、この男ハッキリ言ってかなり胡散臭い。何と言うか、自分の都合で物事を推し進める為に俺に何かさせようとしている臭いがプンプンする。その上で相手が用意した道具を受け取って使うとかまず有り得ない。

 

「そうだな……確かに俺は俺の都合で動いている。お前の言いたい事も分からないではない。だったら、自力で新しい力を手に入れるなら良いって事だな?」

 

「え?」

 

男が何やら不穏な事を言った瞬間、気がつくと今度は何処かのガレージの様な場所に俺は立っていた。

 

『オケオケ~~~~~イ! お兄ちゃあ~~~~~~ん! DJサガラの生配信へぇ~~~ッ、ようこそ~~~~~~ッ!!』

 

「!?」

 

『これからお前は4つの試練を乗り越え、ロックシードをフレッシュにする力を手に入れなければならない! “フレッシュの力”を手に入れるまで、お前が此処から出る事は出来ないZE!!』

 

そして突如始まる謎の放送。テレビの中では先程の男が自らをDJサガラと名乗り、先程とはまた違ったノリと軽さを爆発させ、ふざけた事を抜かしている。

厄介な事に、ガレージのドアも窓も固く閉ざされており、壁や扉を破壊した所でガレージに戻ってしまう為、どうやら本当に“フレッシュの力”とやらを手に入れるまで、俺が此処から出る事は叶わないらしい。

 

『おいおいおい~~~、さっきまでの勢いはどうしてしまったんだ? おい、どうしてしまったんだ~~~~?』

 

「………」

 

かくして、何が何でも力を押しつけるつもり満々のDJサガラによって、『フレッシュなお部屋』『フレッシュなスイーツ』『フレッシュなファッション』『フレッシュな笑顔』と言う、筆舌に尽くし難い4つ試練を押しつけられる羽目になった。

ちなみに4つの試練を受ける上で一番の難関となったのは『フレッシュなファッション』と、上手くいかなかった時のDJサガラの煽りだったりする。

 

「さぁ、受け取れ。コレはお前が勝ち取った“運命を決める力”だ」

 

「………」

 

苦労の末に4つの試練を踏破し、此処でごねて力を受け取らないと更に面倒な事になると判断した俺は、諦めてDJサガラを名乗る胡散臭い笑顔を浮かべる男から、改めて渡された『ロックシード』と『戦極ドライバー』なるアイテムを大人しく受け取った。

すると、メロンのロックシードが七色に輝き、配色がクリアでキラキラとした鮮やかなモノに変わった。何と言うか……そう、例えるなら“フレッシュな感じ”だ。

 

「お前が俺を楽しませてくれるなら……俺は何時でも見守っているぜ」

 

「所で、この『ロックシード』と『戦極ドライバー』って、アンタが造ったモノなのか?」

 

「いや、コレは戦極凌馬って科学者が造った物だ。……そうだな、奴とお前を遭わせてみるのも面白いかもな」

 

また変なことを言い出したなと思ったら、今度は何処かの研究室のような所に俺は居た。そして、部屋の主らしき白衣を着た男は、俺の姿を見ると親しげに「貴虎」と呼んでおり、俺を誰かと勘違いしていた。

しかし、ロックシードを渡してきた事と、試作品と言う単語から、この男がロックシードと戦極ドライバーを造った戦極凌馬なる人物なのだろう。思わずモニターに映っている人物のアホな行動にツッコミを入れてしまったが、どうやらそれが彼のツボに入ったらしく、ちょっとウケている。

 

『ウォーターメロン!』

 

「ふむ……」

 

そして、研究室を出た後、近くのトイレで先程の研究室のモニターに映っていたゴツいオカマがやっていた通りにロックシードのスイッチを押し、開錠されたロックシードを戦極ドライバーの凹んだ部分に嵌め込むと、ロックシードのロックを掛けて刀の部分を動かしてみた。

 

『ソイヤッ! ウォーターメロンアームズ! 乱れ玉・ババババン!』

 

「……ん~~~~……」

 

そして、空間に出来たチャックの向こうから現われるスイカを模した鎧を装着し、鎧武者への変身が完了する。

しかし、どっかでコレとよく似た物を見た様な気がする上に、思わず腰と首をさすってしまうのは何故だろう。何となく、忘却の彼方にその答えが有るような気がするが……。

 

兎にも角にも、試しに変身した自分の姿を鏡で確認してみたが、装着される鎧のカラーリングが可愛過ぎると言うか……気にくわない。つーか、ガトリング砲と言う攻撃的なイメージの武器を使うなら、モチーフは爆弾スイカの方が良いと思う。

……試しにちょっとリクエストしてみるか。俺を誰かと勘違いしている今なら、上手くすれば要望通りの変更も出来るかも知れない。まあ、リクエストしたら滅茶苦茶に驚かれて、これ以上ボロが出る前に警備が異様にザルなこの建物から難なく脱出させて貰ったが……。

 

そして、此処が何処なのかを調べるべく、俺は近くのネットカフェに直行した。ふむ、『ビートライダーズ』に『インベスゲーム』に『アーマードライダー』……。

 

見た事も聞いたことも無い地名や名称等から考慮し、少なくとも此処が俺の知る日本では無い事は分かった。

そして、人体から植物が生える謎の奇病が世間を騒がせていると言うなら、まずは其方を対処するべきだろう。但し、治療に怪人としての能力を使う関係上、行動は極秘に済ませなければならない。

 

かくして、闇夜に紛れて病院に潜り込み、カルテを盗み見ては病人の治療を秘密裏に行う活動に精を出していたある夜、俺は謎のアーマードライダーによる襲撃を受けた。しかも、やはりと言うか何と言うか、俺を「貴虎」なる人物と勘違いしていた。

 

一体、「貴虎」とは何者なのだろう? その正体を知る意味もあり、襲撃者を適当にあしらって逃走を果たすと同時に、ミュータントバッタを発信器代わりに取り付けておいた。

 

「天樹様はよく仰ってました。腐った果実は取り除くべきだと。この世界にとっての腐った果実は……貴方達『呉島』だッ!!」

 

「………」

 

後日、襲撃者のアジトに足を運び、その話をずっと聞いていたのだが、どうやらユグドラシルはブラックどころではない恐るべき企業で、呉島天樹はとんでもない人でなしらしいが、この女性は貴虎なる人物にはかなり複雑な思いを抱いているようだ。。

 

しかし、勘違いで殺されてやる筋合いは一つも無い。そして、「郷に入っては郷に従え」と言うことわざがある通り、アーマードライダーとの戦いはインベスかアーマードライダーでなければならない様なので、此方もアーマードライダーに変身して戦う事にした。

 

結果、相手は中々の強敵だったが見事に勝利を収めると、手元にリンゴのロックシードが飛んできた。やはりネットの動画で見た通り、メンコやベーゴマみたいに、バトルの勝者は相手のロックシードを戦利品として手に入れる事が出来るようだ。

 

問題は、足元に転がってきたこの青いロックシードだ。これはこの間のビートライダーズの動画で鎧武なるアーマードライダーが使っていたレモンエナジーとか言うロックシードとよく似ている。

つまり、これは所謂『強化アイテム』に相当する物で、彼女はいざと言う時の切り札を隠し持っていたのである。彼女が真の力を発揮する前に倒し、無力化する事が出来たのは良い事だ。取り敢えず、これらのロックシードは回収しておこう。

 

最後の仕上げに、彼女の体を治しておく。例え相手が犯罪者だとしても、ヒーローは人の命を救わなければならないのだ。

 

「これは……貴方は一体……」

 

「藤果ぁああああああああああああああああああああああああッ!!」

 

かくして、彼女の治療が無事に終わったと思えば、何たる事ぞ。俺とそっくりな見た目の男が、絶叫しながら此方に向かって爆走しているではないか!

 

「な……ッ!!」

 

「……なるほど、貴方が貴虎か」

 

「貴様……何者だ!!」

 

「……呉島新。それ以上でも、それ以下でもない」

 

籐果と呼ばれた下手人が、やってきた男と俺の素顔と見比べて驚く様を見るに、やはりこの男が「貴虎」らしい。何者かと問われて自己紹介したが、その最中に握っていたリンゴロックシードがフレッシュになった。

……このままおめおめと逃がしてくれそうも無いし、試しにコレを使ってみるか。このロックシードの力なら、最低でもこの場から逃げる事は出来るだろうし。

 

『ソイヤッ! フレッシュリンゴアームズ! デザイア・フォビドゥン・フルーツ!』

 

『ソイヤッ! ウォーターメロンアームズ! 爆弾・チュドドドン!』

 

そんな、俺を逃がすつもりの無い雰囲気の貴虎が使っているのは、先日俺が音声とカラーリングの変更をリクエストしたスイカ……もとい、ウォーターメロンのロックシードだった。

スイカはスイカでちゃんとロックシードがある事を考えると、戦極凌馬としてはスイカよりもウォーターメロンの方が好みだったのではないかと邪推させるネーミングだ。

 

「ぐ……ッ!」

 

「……なるほど。今日の所は此処までにしよう」

 

「ま、待て!」

 

「待たない」

 

そして、貴虎との戦いだが、初見殺しの技で上手いこと勝てたので、藤果なる犯罪者は貴虎に任せ、俺はこの場を立ち去るとしよう。

この曰く付きの場所に足を運んだ以上、貴虎の目的もまた彼女だっただろうし、自首の方が罪は軽いからな。

 

……さて、籐果と貴虎の二人との戦闘で、上手い具合にロックシードが三つも手に入った訳だが、リンゴとウォーターメロンは兎も角、メロンエナジーのロックシードが使えないのは由々しき問題だ。

 

ネットの動画を見る限り、戦極ドライバーの左側にあるアーマードライダーの横顔が印刷されたプレートを外し、そこに拡張装置を付けて使うらしいが、その拡張装置を俺は持っていない。

通常のロックシードと戦極ドライバーは、錠前ディーラーとか言う怪しい行商人から買ったり貰ったりするらしいが、拡張装置と青いロックシードはその限りではないらしく、そもそもその錠前ディーラーは少し前から姿を消しているらしい。

 

そうなると、あの鎧武なるアーマードライダーが、何処であの青いロックシードと拡張装置を手に入れたのかが気になる。いっその事、本人に直接聞いてみるのが一番良いかも知れない。

単純な考えだがやってみる価値はあると思い、アーマードライダー鎧武の変身者を探して街を彷徨っていたら、何たることぞ。白昼堂々と行われる謎のアーマードライダーによる暴行の現場に遭遇してしまった。

 

被害者は「チームバロン」とか言うダンスチームのメンバーで、ナックルとか言うアーマードライダーが所属しているのだが、地面に転がっている所を見る限り、どうやら謎のアーマードライダーに力及ばず敗北してしまったようだ。

 

「ぐぁあああああああ……!」

 

「全く、この私に余計な手間をかけさせるとは……」

 

「変身!」

 

『フレッシュウォーターメロン!』

 

いずれにしても、見て見ぬ振りをするつもりは毛頭無い。フレッシュになったウォーターメロンロックシードを開錠し、腰に巻いた戦極ドライバーに装填すると、俺は絶大な力を秘めた果実の鎧を身に纏った。

 

『ソイヤッ! フレッシュウォーターメロンアームズ! 爆弾・チュドドドン!』

 

「ウォオオオオオオオオオオオオオオ!!」

 

「!? 新しいアーマードライダー!?」

 

「うん? 誰ですか? この私の邪魔をするのは?」

 

「喰らえぇえええええええええええええ!!」

 

何やら余裕をぶっこいている謎のアーマードライダーに向けて、両手に持った盾の下部に備え付けられたガトリング砲を容赦なく発射する。此方が持つまな板の様な構造の戦極ドライバーではなく、ジューサーの様な構造をしたドライバーを腰に巻いているのが少々気になるが、それはコイツを倒してから考えよう。

 

「ぐわあああああああああああああああああああああああ!?」

 

……と、思ったら謎のアーマードライダーは盛大に吹っ飛び、割とあっさり倒せてしまった。しかし、どう言う訳かロックシードがコッチに飛んでこない。ドライバーが違うから倒されてもロックシードが飛んでこないとか、そう言う事だろうか?

 

「もしかして、俺達を助けてくれたのか?」

 

「うむ。それより早くソイツを連れて病院に行け。後は俺がなんとかする」

 

「わ、分かった」

 

一方、チームバロンの面々は戸惑いながらも、ボロボロの体を奮い立たせ、自分達の為に戦った勇敢なリーダーを連れて逃げていった。ちなみにアーマードライダーと言う戦う力を持っている所為か、リーダーが一番酷くやられている様に見える。

 

「貴様ぁ……よくも、この私の邪魔をぉ……!」

 

「いや、むしろ邪魔をしない訳が無いだろ」

 

アーマードライダーが生身の人間を襲うなど、幼稚園児の群れに2m級巨人が突っ込むようなモノだ。どう考えてもアウトな案件である。

しかし、この眼鏡をかけた何となく執事っぽい服装の男の道徳と倫理においてそれは違うらしく、怒りに顔を歪ませながら立ち上がり、赤いクリアパーツのロックシードを握りしめている。

 

「許さん……! 許さんぞ!!」

 

『ドラゴンフルーツエナジー!』

 

まだやる気か。しかし、男が再度変身しようとしたその時、何と男の右手が怪物のソレに変化したのだ。これは流石に男にとっても想定外の事態だったらしく、すぐに人間の腕に戻ったものの、驚きは隠せないようである。

 

「………」

 

「止めておけ。そのロックシードは何かヤバイ」

 

「ッ……変身ッ!!」

 

『ドラゴンフルーツエナジー!』

 

しかし、紳士の皮を被った鬼畜眼鏡は人の忠告を聞かなかった。ドラゴンフルーツと言う名前的にカッコイイモチーフのロックシードを起動し、ジューサーの様なドライバーに装填する。

 

『ロックオン! ソーダァー!!』

 

そして、此処で俺はある事に気付いた。コイツは通常とは異なるエナジーなロックシードを使っている。そして、あのドライバーの中央部分にあるのは、アーマードライダー鎧武が使っていた拡張装置と酷似している。

 

……なるほど、謎は全て解けた。恐らく、アーマードライダー鎧武はこのジューサーなドライバーを持つアーマードライダーに勝利し、エナジーなロックシードや拡張装置を入手したのだろう。

しかし、俺はエナジーなロックシードを既に入手しているが、それは正規の方法では無い。だから今のはノーカンと判定され、エナジーなロックシードが手元に飛んでこなかったと考えられる。

 

ならば、此処でもう一度ジューサーなドライバー持つアーマードライダーを倒せば、拡張装置を手に入れる権利が得られる筈だ。あの赤いエナジーなロックシードは何かヤバそうだから要らんが。

 

『ドラゴンエナジーアームズ!』

 

「此処からは第二ラウンドってトコだが……とっとと片付ける!」

 

「舐めるな! ハァアアアアア!」

 

しかし、手早く倒さなければ鬼畜眼鏡の体が危ない。例え相手が外道なのだとしても、ヒーローならばその命を救わなければならないのだ。

 

その為、俺は超強力念力によって2枚のウォーターメロンガトリングをファンネルの如く動かし、突っ込んで来る鬼畜眼鏡にガトリング砲による十字砲火と、両手に握る無双セイバーによってエネルギー弾の嵐を浴びせ、事態の早期解決を図った。

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!! 私は! 私はこんな所で倒れる男ではない筈だ! 私はいずれ……財団の全てをぉおおおおおお……ッ!!」

 

「ハッ……そんな事、俺が知るかッ!!」

 

『ソイヤッ! フレッシュウォーターメロン・スカッシュ!』

 

「セイヤァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

 

さっきよりも気合いが入っている所為か、思ったよりもしぶとい鬼畜眼鏡に対し、俺が二振りの無双セイバーから十字の太刀風を繰り出すと、鬼畜眼鏡は大爆発を起こし、変身が解除された。

しかし、実に呆気ない。てゆーか、何でコイツは弓を持っているのに、矢を打とうとしなかったのだろうか? 荒事に慣れていなさそうな立ち振る舞いもそうだが、もしかしたらコイツは「凄い玩具を持ってイキっていただけ」と言うタイプの犯罪者だったのかも知れん。

 

「うあああああ……こんな……筈ではあああ……」

 

おっと、それよりもこの男の体を迅速に治さないとな。ドライバーからふっ飛んだ赤いロックシードは後で破壊するとして、アーマードライダーの変身解除と共に怪人へと変身し、俺は貴様の命を救わせて貰う。代価は貴様のジューサーなドライバーにくっついている拡張装置だ。

 

「コレで良し。後は……」

 

「変身!」

 

『バナナ!』

 

「うん?」

 

鬼畜眼鏡の体を治し、ジューサーなドライバーをガチャガチャいじって拡張装置と外すと、残る仕事はコイツを縄でふん縛って、警察に引き渡すだけだ。

そう思ったのも束の間、どう言う訳かバナナのロックシードを構えた男が、此方に向かって勢いよく突っ込んで来た。はて、つい最近コレと同じ様な展開があった様な……。

 

『カモンッ! バナナアームズ! ナイト・オブ・スピアー!』

 

「ハァアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

 

「おっと」

 

そして、案の定そのまま変身して俺に襲いかかるバナナの戦士。どう言うつもりかは分からないが……いや、普通に怪人に襲われそうになっている人間を助けようとしたんだろう。

 

だが、勘違いでむざむざ倒されてやる謂われは何処にも無い。折角だから、手に入れた拡張装置を早速使ってみるか。

 

「変身!」

 

『フレッシュメロン!』

 

『メロンエナジー!』

 

二種類のメロンのロックシードを拡張した戦極ドライバーに装填すると、頭上に現われた二つのメロンを模した鎧が合体し、黒い四角柱の鎧に変化した。

 

『ソイヤッ! ミックス! フレッシュメロンアームズ! 天・下・御・免! ジンバーメロン! ハハーッ!』

 

そして、動画で見た通りに黒い四角柱の鎧が展開されると、さっきの鬼畜眼鏡やアーマードライダー鎧武が使っていたのと同じ武器が右手に召喚される。なるほど、この形態の武器は青いロックシードの種類に限らず共通している……と言う訳か。

 

「ほう……噂通り、手強い相手のようだな。面白い!」

 

「? どう言う事だ?」

 

「決まっているだろう。力とは己の強さを示すもの! 貴様を倒し、俺は俺の『強さ』を証明する! それが、俺が求める『強さ』だ!」

 

「………」

 

何だコイツは。思考回路が完全に弱肉強食の掟の元に生きる蛮族のソレじゃねぇか。本当に現代人か? しかし、コイツのバナナな鎧は何か何処かで見た様な気がする……。

 

いずれにせよ、この蛮族は人助けではなく、俺と戦う事を目的として変身したらしい。取り敢えず、適当に相手をすれば、この蛮族は満足するだろう。

とは言え、ワザと負けるつもりは毛頭無い。此処で負けてエナジーなロックシードや拡張装置を取られるのは癪だからな。

 

 

○○○

 

 

一方その頃、戦極凌馬は研究室のモニターに囓りつき、考察を続けていた。

 

「ふむ。試作品のエナジーロックシードに手を付けないのは当然として、ゲネシスドライバーからゲネシスコアだけを奪ったのは意外な展開だ。ゲネシスドライバーを使ってくれれば色々と都合が良かったんだが……いや、待てよ。そうなると彼は『黒の菩提樹』とは無関係と言う事か? 狗道供界ならアレが造れない訳が無いし……」

 

まあ、データが取れればそれで良いか。戦極凌馬は最終的にそう結論付けると、意図的にぶつけたバロンと黒い斬月の戦いを観戦し、そのデータ解析に勤しむのだった。




キャラクタァ~紹介&解説

戦極凌馬
 鎧武の世界における、最低最悪にして天才の科学者。かなりゲスい性格をした男だが、流石に自分の知っている貴虎なら絶対に言わない要望を平然と口にしたニセ貴虎には精神を翻弄されてしまう。色々と思う所はあるが、趣味と審美眼が合うニセ貴虎の事が色んな意味で気になる模様。

朱月藤果
 『鎧武外伝』の「斬月編」に登場したメロン兄貴の嫁。メロン兄貴にクリソツなニセ貴虎を勘違いで襲撃し、居場所を特定されて返り討ちに遭ってしまう。この世界線では生き残ったので、信じていた仲間に裏切られてボコボコにされたメロン兄貴を献身的に看病して、オーバーロードの王に王妃様との蜜月の日々を思い出させれば良いと思う。

呉島貴虎
 みんな大好き、メロン兄貴。『鎧武外伝』の「斬月編」と余り変わらない展開で父親の造った孤児院に辿り着くが、そこで幼馴染みがバッタの怪人に襲われている(様に見える)現場に遭遇した。ニセ貴虎の事は父親が非人道的な方法で造りだした自分の影武者と言う、呉島家の負の遺産だと思っている。

呉島光実
 メロン兄貴の腹黒いブドウな弟。作者としては『紘汰さんの戦極ドライバー奪取作戦』において、「一人称を僕から俺に変えない」等、どうにも物事の詰めが甘く、『頭の良い馬鹿』と言った印象が強い。ニセ貴虎はコイツの所為で、「ブドウに関係するヤツには、碌なのがいねぇ」と思っている。

駆紋戒斗
 ムッシュ・バナーヌ。この頃はオーバーロードの存在を知らされ、凌馬のパシリをやっていた。ニセ貴虎の事も凌馬から知らされており、戦闘力の高い人柱としての役割を存分に全うしている。この世界ではニセ貴虎にリンゴロックシードを奪われた上、鬼畜眼鏡も倒されてしまったので、ある意味ではニセ貴虎による最大の被害者と言える。

アルフレッド
 執事の皮を被った鬼畜眼鏡。ゲネシスドライバーでアーマードライダーに変身するが、素の戦闘力が低い所為か、原作における戦績はパッとしない。当然、この世界でも戦績はパッとしないが、オーバーロードにならなかっただけ、原作よりは遙かにマシな展開を迎えたのではなかろうか。

DJサガラ
 事ある毎に『鎧武の世界』の住人に多大なトラブルをもたらす、非常に傍迷惑なヘルヘイムの森の化身にして、作者というメタ的な視点で見れば割と都合が良い存在。「人類を進化させる」事を目的とする彼としては、超人と言う新しい人類のステージに立ったヒロアカの世界は、果たしてどんな風に映っているのだろうか?

ニセ貴虎/呉島新
 別の平行世界に紛れ込んでしまった怪人バッタ男。『鎧武外伝』のバロン編の様なそっくりさんネタにより、人間の時は貴虎に、怪人の時はオーバーロード的な存在だと勘違いされている。
 尚、この時点で既に改造済みであり、アーマードライダーになるより怪人になった方が強い。それでも変身してアーマードライダーとして戦うのは、怪人になって戦うのはルール違反だと考えているから。そして、この世界での一番の不満点は、大っぴらに医療施設での活動が出来ない事だったりする。



アーマードライダー斬月・影
 ニセ貴虎が戦極ドライバーを用いて変身する、主要キャラの2Pカラーみたいな、本作オリジナルのアーマードライダー。作者としては『鎧武外伝』の「ナックル編」に登場したブラックバロンとか、舞台『仮面ライダー斬月』に登場したプロト鎧武みたいな感じだが、作中の立ち位置的には『カブト』のダークカブトが一番近いだろうか。
 通常のアーマードライダー斬月との相違点は、ライドウェアが黒い事と、両腰に一本ずつ無双セイバーがマウントされている事の二点。後者に関してはフレッシュになったロックシードを使っている事が原因。

フレッシュメロンアームズ
 アームズウェポンはメロンディフェンダー×2。最大の特徴は『HERO SAGA』のメロンディフェンダーみたいに、半月状の刃が鋏の様に展開する事。ソレを初めて見た時、ゾイドのジェノブレイカーを想像したのは、果たして作者だけだろうか?

フレッシュウォーターメロンアームズ
 アームズウェポンはウォーターメロンガトリング×2。此方にも半月状の刃が鋏の様に展開する機能が実装されている。しかし、最大の特徴はシンさんの要望によってモチーフが爆弾スイカに変更され、音声とカラーリングも変わってしまった事。

フレッシュリンゴアームズ
 アームズウェポンはアップルリフレクター×2とソードブリンガー×2。最大の特徴はフレッシュロックシード化に伴って、安全面が向上した事。必殺技はゲート・オブ・ヘルヘイム(偽)。まあ、コレはニセ貴虎だからこそ使える技だが……。
 元々、斬月はリンゴがモチーフのライダーだったらしいので、作者としては「ボツになったリンゴがモチーフのアームズを斬月に使わせて見たい」と言う欲望があった為に、この話で採用されたと言う経緯がある。

ジンバーメロンアームズ
 小説『仮面ライダー鎧武』でメロン兄さんも使ったジンバーアームズ。固有能力は「電磁シールドの展開」で、アームズウェポンにソニックアローが追加される。小説の描写を見る限り、ジンバーアームズでもメロンディフェンダーが使える様なのだが、コレは同じメロン系統のロックシードを使っている所為なのか、それとも他のジンバーアームズでもベースのロックシードのアームズウェポンが使えるのかが気になる所である。

フレッシュの力
 錆付いたロックシードをフレッシュロックシードに変換すると言う、超バトルDVD限定の謎の力。シンさんは不思議な空間でDJサガラから『フレッシュな部屋』、『フレッシュなスイーツ』、『フレッシュなファッション』、『フレッシュな笑顔』と言う4つの難解な試練を乗り越えた事で手に入れた。元ネタにおける状況と経緯を鑑みるに、見方によってはコレも「オーバーロードの力の一端」と言えるかも知れない。
 超バトルDVDのラストでパインロックシードがパインフレッシュロックシードに変わった事を鑑みるに、どんなロックシードもフレッシュロックシードに出来る様なので、作者の趣味も含めて今回採用される運びとなった。
 超バトルDVDでは、終始テレマガ特有のギャグ要素が付いて回っていたが、強いほどヤバい代物が多い『鎧武』の世界観を考慮すると、「比較的まともな方法で入手する事が出来、その使用に伴う後遺症が無い」と言う点はかなりデカい気がする。

フレッシュロックシード
 通常のロックシードがフレッシュの力で変化したモノ。共通して装甲がキラキラメッキバージョンになり、専用武器のアームズウェポンが二つに増える。しかし、クルミロックシードがフレッシュロックシード化した場合、アームズウェポンはどうなるのだろうか?



後書き

以上、元2020年エイプリルフール企画でした。コウガネが復活する頃には、ニセ貴虎ことシンさんが作りだしたイナゴ怪人と、コウガネの配下であるイナゴ怪人の戦いが見られると思いますが、現状ではそこまで話を進められないので、今回はこの辺で失礼します。

コロナウィルスに負けないよう、読者の皆さんも体に気をつけて頑張って下さい。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。