Fate/Grand Mahabharata 幕間 作:ましまし
クリスマス。
本来はイエス・キリストの生誕祭だが、いまではそれに便乗したただのお祭りだ。このカルデアで真剣に祈るのはおそらくジャンヌと天草四朗くらいだろうか。
その幾日か前。
「プレゼント……プレゼント……何を渡せば……」
食堂でうんうん悩んでいる私ははたから見たら異常だと思う。
だが勘弁してほしい。何も思いつかない。
せめて前々から準備しておけば何とかなったのだろうが、生憎クリスマスのことを思い出したのは今日だった。
なんで忘れてたかって? 私がクリスマスを祝うの何年ぶりだと思ってるんだ。古代インドにクリスマスなんてイベントあるわけも無し。
聖杯の知識があれば話は別だったんだろう。しかし聖杯知識のない私は遠い前世の知識で現代のソレを補っている状態だ。
しかも座で数千年も経っている。忘れたって仕方ないだろう。
「むう……」
「ん? そこにいるのはスラクシャか?」
「? あ、エミヤ」
顔をあげると、そこには赤い外套に褐色肌の英霊エミヤ。
「何を悩んでいるのかね」
「ああ……実は、クリスマスのプレゼントが思いつかなくて……」
「……あの2人か」
そう、カルナとアルジュナ。
色んな意味で難しいあの2人の顔を思い浮かべたのか苦笑いを浮かべるエミヤに、ため息を吐く。
「……何も物に限定せずとも、例えば手料理などを振る舞えば喜ぶのでは?」
「手料理……因みに、クリスマス当日の夕飯の予定は?」
「緑茶やダビデ王とオケアノスの海に繰り出して魚を確保するつもりだ。無論、他にもチキンは勿論、クリームシチューやケーキを」
「却下で」
「何故だ!?」
「そんなバカ高いハードル飛び越えられませんよ! プロ並みの実力を持つご自分と、あくまで一般的な腕しか持たない私を一緒にしないでください!!」
「買い被ってくれるのは嬉しいのだが……君が作った方が彼らは喜ぶ……いや、むしろ狂喜乱舞するのでは(特に弟の方が)」
「? 最後に何か言いましたか?」
「いや。……しかし、言われてみれば御馳走が2回続きというのは少々無理があるか」
腕を組み、考え込むエミヤに申し訳ない気持ちになる。
しかし本気で思いつかないのだ。正直、ネコの手も借りたいくらいだ。
「そうだな……普段の様子から、なにか思いつく事などはないのかね」
「思いつく事……」
兄と弟、2人の様子を脳裏に思い浮かべる。
そこからなにか思いつく事……。
あ。
「寒そう」
「は?」
「いや、兄はホラ、最終再臨にもなってあのモフモフもなくなりましたし。アルジュナは腕出してますし」
「(モフモフ……)な、なるほど。それでは少々ベタだが……」
ごにょごにょごにょ
「なるほど……でも重すぎやしませんか?」
「いや。むしろそうすべきだ。その方が彼らも喜ぶだろう」
「そういうものですか……ありがとうございます! お礼はいつか必ず!」
「いや、例には及ばんさ。だが急いだ方が良いぞ。クリスマスまであまり時間がないからな」
「はい!!」
クリスマス当日。
「……っ! 出来た!」
顔が輝くのが自分でもわかった。
間に合って本当に良かった…………! 生前の家事スキルがこんなところで役に立つとはさすがに思わなかった。エミヤにアドバイスしてもらってからずーっと部屋にこもって作ったかいがあった。
「あとは渡すだけですが……あの2人はどこに」
「エクスカリバー、モルガーン!!」
ドォオオン……
「!!??」
突如聞こえてきた宝具名と、崩れる、いや、ぶっ飛んだ壁に唖然としつつも体は反射で臨戦態勢を取る。
土煙の中、出てきたのは……
「……え。せ、セイバーオルタ? 何ですかその格好は。それに、マスター!? 何ですかそのカチューシャ!」
「アハハハハ……。ごめん、スラクシャ」
ロマンが泡吹きそうだなあ、と遠い目をするマスターには何の非もないと判断し、何故かミニスカサンタ衣装のセイバーオルタに向き直る。
「今の私はセイバーではない。ライダーだ。そして、子供たちに夢とプレゼントを届けるサンタオルタだ!」
「あっ、はい」
文句を言おうとしたが勢いに押されて何も言えなくなった。良くわからないは彼女はサンタクロースらしい。そういえば後ろにソリがある。
「……それで、私の部屋を破壊した理由は」
「む、そうだったな。来てもらうぞ!」
「答えになってないです! ちょ、力強っ……」
腕を掴まれ、簡単にソリの上に放り投げられる。咄嗟に先ほど完成したそれを掴むことができたのは僥倖だった。
「……マスターはトナカイとして連れまわされてると」
「うん……」
「トナカイがサンタと共にいるのは当然のことだろう」
「はあ……。それで、何で私は連れてこられたんでしょうか?」
しかも部屋まで壊されたんですけど。
「プレゼントだ」
「は?」
「プレゼントを届けるのがサンタの仕事だ」
「……スラクシャがプレゼントって事?」
「は!?」
どういうことなの!?
「その通りだ。今回の「お願いサンタさん」レターは……雪原からだな。P.N 作家同盟会員、アンデルセン君からだ」
何してんのあの童話作家。
「それからウィリアム・シェイクスピア君」
何してんのあの劇作家!
「お願いはこうだ。『どこぞの昼ドラ兄弟が妹(姉)の姿が見えないとうるさい。執筆のジャマだ、なんとかしろ!』……だそうだ」
「………………………………………」
「…………がんばって」
探してたしある意味丁度いいんだろうけど、なんでだろう、胃がすごく痛くなってきた……。
「ふっ!」
「せえっ!」
「さあ、到着だ!」
「……なんかすでに凄いことになってるんだけど」
「………………」
顔を覆ったまま何も言えなかった。
ねえ、何やってんのあの2人。何でクリスマスまで喧嘩してるの? そろそろ私の胃は限界が来そうだよ??
「ふむ、ようやくご登場か! まったく、危うく座に強制帰還させられるところだった!」
「あと5分遅かったら『
セェーーフ!! 私の勘があの2人に対して、この劇作家(愉快犯)の宝具を使わせたらダメだと言っている!
やったら最後、今以上に拗れると言っている(特にアルジュナが)!! そして被害がすべて私に来るとも!!
「……ようは、あの2人を止めたらよいのですね」
「そうだ! インスピレーションを得ようとわざわざここまで来たというのにあの始末! 初めは関係ないだろうと放っておいたがもう我慢ならん!!」
「インスピレーションを得るためにわざわざかまくらを作ったの?」
マスターの目線の先にはそこそこの広さを持ったかまくら。中にはストーブとこたつ(線はない)、さらにみかんまである。
何だこの快適空間。
「これ、2人が作ったの?」
「酷いですなマスター! 無論、あちらで争っている施しの英雄殿にやっていただきました」
「なに人の兄パシってんですかぶっ飛ばしますよ」
「……え? じゃあ、何であの2人はあんなことに」
曰く。
カルナに頼んでかまくらを作ってもらい、中で執筆作業をしているとアルジュナが強襲してきた。…………私を探しに。
兄が私の居場所を把握してないことがわかると「なんで知らないんだ!!」と言って戦闘になったらしい。
結論:私のせい。
「なんか……なんかすいません……」
「ははは……。まあ、とにかくあの2人を止めよう。」
「そうですね……。あの2人は私がとめますので、そこでターキー食べているサンタクロースはもう行っても大丈夫です」
飽きてターキー食べるなよ、チキンの匂いが届いてお腹すいてきたじゃん。
「む、そうか。プレゼントは届けたし、ここで私の役目は無いようだな。では行くぞ、トナカイ!」
「ええ!? ちょ、がんばってね、スラクシャー!!」
マスター、体が半分そりから出てたけど大丈夫かなアレ。
「……はぁ。オレはカルデアに戻るとするが、あの2人はなんとかしておけ」
「あのまま放っておけば、この辺り一帯が更地となりかねないですなあ。なにより、インドが誇る最強の英霊3体のぶつかり合いに巻き込まれて生きていられる自信がありません!」
「気を付けてくださいね。今晩はエミヤが御馳走を作るそうですから」
作家×2が雪原から去り、後に残ったのは私と、いまだに喧嘩している兄弟のみだ。
アンデルセンが言うには、ケンカの原因は私らしいが……たった数日姿が見えないくらいで大げさな。別に仲良く喧嘩とか羨ましいって思ってないからな。
「さて……『
愛用の戦車を呼び出し、丁度あの2人にぶつからない真ん中あたりに狙いを定める。
「喧嘩……両成敗ィイイイ!!」
「「!!??」」
2人を引かないように注意しながら全力で間に割り込む。まあ、万が一撥ねたとしても魔力放出はしてないしブラフマーストラもしてないし、たぶん大丈夫だろう。
「! 戦車で突っ込んでくるなど、何を考えている。危険だろう」
「あね、っ、スラクシャ! 辺りを更地にするつもりですか!」
「その台詞、そのままそっくりバットで打ち返しますよ」
つい数秒前の自分たちを振り返ってから言えと。
「カルナの施しは、まあ、いつものことですから後で言わせてもらうとして。……アルジュナは私を探していたようですが、何か用事でも?」
「………………………で」
「?」
「………………数日前から、姿が、見当たらなかったので…………」
「……………えー、と。心配、してくれた、と?」
「…………………………」
何だこの可愛い生きもの(弟)。
え、ちょっと可愛すぎないですかねこの子。目を逸らして、拗ねてるのか恥ずかしがっているのか目元と耳を赤くさせて……なんだこの可愛い生きもの(2回目)。
チラチラこっちを見てくる子猫を撫で回したいような衝動に駆られたが、グッと我慢する。
「ふぅ……。折角のクリスマスですし説教はやめにしましょう。今度からは私が見つからなくても暴れないでくださいね。ドクターの胃が死にますから」
セプテムのSA☆MU☆RA☆I騒動は凄かった。そして酷かった。祭りで調子に乗って歴史に残るとか笑えない。
「「…………」」
「返事は!?」
何不満そうな顔してるんだ!
思わず声を上げれば渋々と言った様子で2人は返事をした。
なんなんだ。
「スラクシャ、それはなんだ」
「え? ……あ」
カルナの視線の先には2人にプレゼントしようとした……手作りのカーディガン(赤&黒、青&白)だ。
ベタとかいうな! これ以外に思いつかなかったんだ!!
「クリスマス……ということは……」
「スラクシャ。それを誰にあげる気ですか今すぐに教えなさい」
「近い近い! 近いですアルジュナ離れて!」
怖いんだけど!?
「誰にって、2人にですよ。こっちが兄上です」
「……作ったのか」
「はい」
「……無駄なことに時間を使うな」
「はいはい。兄上の為に時間を使うことは全く無駄じゃないので、いらないなら捨て」
「貰う」
捨ててもらって~の「捨て」の時点で奪われた。いや最後まで言わせて。
「これはアルジュナに」
「! ……いいのですか?」
「はい。……あ、やっぱり私からのなんていら」
「貰います」
貰ってくれるのは嬉しいけど最後まで言わせろよ! 実は仲良しだろお前ら!?
「まあ、レイシフトの時に着けていくわけにもいかないでしょうし、寝る時とかにどうぞ」
「……そうか」
「……ありがとうございます」
喜んでるのかは分からないけど、ちゃんと受け取ってもらえたので大変満足である。
12秒後、自分たちは何も用意してないと落ち込む2人を宥めるのに時間がかかった。