Fate/Grand Mahabharata 幕間 作:ましまし
【予選】
痛みで、立っていられない。怖い。消失が怖い、ここで何もわからず消えるのが怖い。
だから。諦めたくない。諦めない。
だってこの手はまだ一度も、自らの意志で戦ってすらいないのだから――!!
『死にたくない、ですか。王になるだの、世界平和だのという願いよりはるかに共感できます』
どこからか響いた、凛として涼やかな声。
パリンとステンドグラスが割れる音がして、私の前には――青年? が立っていた。
「貴女が私のマスターですか」
赤い髪、白い肌。
身に纏う黄金の鎧の隙間からは、胸元に埋め込まれた赤い宝石が僅かに見える。
外見の華美な印象とは裏腹に、その目はとても優しい。
私は訳が分からないまま、しかし安堵を感じながら頷いた。
【一回戦】
ライダーの真名は?
「まだ内緒ですね」
どうして。
「貴女は魔術師として未熟です。こういっては失礼ですが、この聖杯戦争に参加している人間の中でも一番弱いでしょう」
申し訳なさそうな顔で、微塵の遠慮もなく言い放たれた言葉は私の繊細なハートにグサリと突き刺さった。
「そういう人ほど図太かったりするんですよ」
失礼な!
まあ、それは置いといて……そんな目をするんじゃない。それは置いといて理由を説明してほしい。
「真名がばれる=弱点がばれる、ですからね。貴方が敵の策に嵌って情報がばれたらその時点でおしまいです。自分でいうのもなんですが、私は戦闘向きではありませんから」
む……そう言われると何も反論できない。
というか戦闘向きではないというのは謙遜しすぎでは? あの人形、木端微塵になってたけど。
「あれくらい普通です。私の兄や異父弟なら――マスターの実力にも左右されるでしょうが――あの空間そのものが破壊されかねませんよ」
何処かは分からないけど、ライダーの故郷の英雄ってどうなってるの!?
【一回戦終了】
殺した。私が慎二を。……友人を。
「……マスター」
顔を上げると、座り込んだ私の正面に立つライダーと目が合った。
「貴女は予選で戦うことを選んだ。生きる理由があるのでしょう」
理由。自分が、生きる。相手を殺して、生きる理由?
「仮初とはいえ、友人の死を悼む心はよくわかります。しかし、まだ理由がわからなくても、一度選択したのならそれを貫くべきです」
俯いてしまった私には、その時ライダーがどんな表情をしていたのか分からなかった。
【三回戦】
凛のアドバイス通り、自分の名前をしっかり手に書き留めてアリーナへ入る。固有結界が発動するが、対策はバッチリだ。
フランシスコ、ザビ――「マスター!?」
……ハッ!? 私は今何を言おうとした……?
ライダーの呆れたような目に、慌てて「岸波 白野」と自分の名前を言うと結界が敗れる。
さあ、進もうと一歩踏み出そうとするとライダーに手を取られた。
「……」
ライダーが見つめるのは名前を書いた掌。そこには私の名前と、下に小さくフランシスコ・ザビ……と書いてある。
「……遊び心を持つ余裕は大事ですが、それで死にかけては意味がないですよ」
ていうか、こんなに小さいのに何でそこを読むんですか。というライダーの言葉に小さくなるしかなかった。
【五回戦】
敵の攻撃を受けて倒れてしまったライダー。
魔力が供給されず、生命の危機に瀕している、はずなのだが……。
なんで普通に立ってるんだ!?
「鎧の効果ですよ。兄のと違って私の鎧は回復特化なんです。それでもダメージは残ってますが」
じゃあどっちにしろ魔力供給は必要だって事か。
「いえ、放っておけば3日目くらいには全快します。普段と比べると少しアレですが、アリーナにも行けます」
そ、そうなのか。
凛にメールでこのことを伝えると「アンタのサーヴァントどうなってるの!?」と返ってきた。私が知りたい。
そして「すぐに3日目には治るならそのまま大人しくしておいた方が良いわ」という旨のメールが届いた。やっぱり凛は頼りになる。
ライダーに方針を伝えると少し不満げな顔をするが絶対に譲らない。また倒れられたらこっちの心臓がもたない。
とにかく横になってくれとライダーの体をぐいぐい押すと、諦めたのか大人しく横になってくれる。
ふむ……ライダーは押しに弱いと。
「今何か余計なことを覚えませんでしたか」
いえ、なにも。
その後で魔力が足りないのなら補充すればいいのでは? と二人でカレーパンをもそもそと食べた。
麻婆も進めたけど、珍しく全力で拒否された。
【聖杯の中】
「案外、普通ですね」
拍子抜けしたような、しかし興味深げに辺りを見渡す、私のサーヴァント。
――スラクシャ? どうして
「サーヴァントがマスターを1人にするわけがないでしょう」
そう言って彼――いや、彼女は私の手を取る。その目は、初めて会った時と変わらず、とても優しかった。
「随分と満足そうですね」
勿論。トワイスの野望は絶った。聖杯戦争はもう起こらないし、凛だって地上で生きていける。これ以上ないくらい、満足だ。
「聖杯に望めば、貴女は地上で生きていけるのに。凛と共に歩む事もできたでしょう」
スラクシャの言いたいことは分かる。「今すぐにでもそうしないのか?」だろう。
――いいんだ。私は「彼女」の再現データにしか過ぎない。そういうのは地上の私に任せる。
「後悔しないのですか? 貴女と「彼女」は同じでも別人です」
うん。「彼女」がどんな願いを持っても納得できる。
「私は貴女に生きてほしい。地上の「彼女」ではなく、貴女に」
ありがとう。でも、スラクシャが私の立場だったらしないでしょう?
願いに貴賎はない。死にたくない、という私の願いでスラクシャに会うことが出来た。あなたは、座から出ることが出来た。
だから「彼女」も大丈夫だ。
「……はあ」
なんでそこで溜息!?
「まったく、何で最弱のマスターである貴女を守ろうと思えたのか分かりましたよ」
なんだ、なんなんだ?
問い詰めるがスラクシャは答えない。ただ笑って、優しい目私を見るだけだった。
少しずつ、意識が薄れていく。いつの間にか目の前がどこまで続くかわからない暗闇に包まれていく。
「おやすみなさい、私の最初のマスター。またいつか――」