平和の使者   作:おゆ

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第十二話483年 3月 80歳提督

 

 

 ルッツが調査を進め、ようやく進展が見えてきた。

 先ずは破損した戦闘艦の修理用物資の流れや人の噂を丹念に探った。一方、金に困っているかあるいは野心のある貴族に絞り込んで更に調べた。

 するとほぼ間違いないと思われる貴族の名が挙がったのだ。

 

 ヒルデスハイム伯爵である。

 

 ランズベルク家とは親類筋にあたる。しかも、継承問題に口を出せるほどに近い筋なのだ。

 事実、先代のランズベルク伯爵、ロベルト・フォン・ランズベルクの逝去の後で兄アルフレットが伯爵家を継ぐのに異を唱えた事実がある。アルフレットがまだ若いのと、その性質が領地経営などの実務に全く向いていないことを理由にして。

 それは全く事実なので人々は納得しかけた。アルフレットの芸術家肌はよく知られていて、領地経営に向いているとはとうてい言えない。

 それは当のアルフレットさえもあっさりと認めた。

 

 しかし、ヒルデスハイムが後見人候補に挙げた人物の名を聞いて人々は首をかしげた。

 ヒルデスハイム自身の名ではなかったのだ。

 何とヘルクスハイマー伯爵の名を出したのである。確かにヘルクスハイマーは大貴族だが、ランズベルク家と血筋の交流がないこともないが、それほど濃くはない。

 そうこうするうちに、ランズベルク家顧問弁護士がアルフレットを当主にして後見は不要という先代の遺命があったことを盾にして話をまとめてしまった。

 親戚の一人であり、先代と交流のあったミュッケンベルガー元帥もまたそれを支持している。

 

 ヒルデスハイムは最初から自分が後見に名乗りを上げてさっさと押し切ればよかったと歯噛みをしたらしい。

 

 そのヒルデスハイムに絞って調査をしてみれば、最近ヒルデスハイム私領艦隊が大きな被害を受けていることが浮き彫りになったのだ! それは隠そうとしても物流によって明らかである。

 しかしながらそれがランズベルク領艦隊を相手にしての戦闘なのかどうか、証拠は手に入らない。そこが重要な点なのに。

 

 わたしはルッツを先にランズベルク領に返した。警備を厳重に付けて。それと、ランズベルク領艦隊に警戒を呼びかけるよう伝言を頼んで。

 わたし自身はまだオーディンでやることがある。

 

 

 

 一目見れば分かる。ヴェストパーレ男爵夫人は想像通りの快活な人だ。

 

「まあまあ、よくいらっしゃいました。今評判のランズベルク伯爵令嬢、お会いするのを楽しみにしておりましたのよ。今日はお菓子の話、宇宙艦隊の指揮の話、どちらを聞きましょうか。時間があれば両方聞きますわ」

「ありがとうございます、男爵夫人。そんな、大した話はございませんわ。わたしの話なんて。それでは、先に用件だけ済ませてゆっくりいたしましょう。今回兄アルフレットが芸術の春コンクールの詩の部門に出展することについてなんですけれど……」

「まあ、兄様はまた詩をお出しになるんですのね。昨年の秋のコンクールではあとほんの少しで入賞できましたのに、惜しいことでしたわ。いえ、私はとてもいいと思ったんですのよ」

「兄は今年こそ入賞目指すといって意気込んでますわ。毎回そう言ってるんですけれど。それで去年のような風邪声でなく、ランズベルク伯アルフレット、今年は本調子で詩の朗読に挑む所存なり、と伝えてくれと頼まれてまして」

「それは良いことですわね」

「いえ、入賞は詩の中身の問題、それと兄は朗読の時間制限をついつい忘れがちなので、失格しないかだけが心配」

 

 二人で大いに笑った。

 アルフレットのこれまでのことを思い出せば当然だ。

 

「男爵夫人、詩も大変ですけれど、コンクールではピアノや絵画の部門も大変なのでしょう。ところで一人で部門をいくつも出される方っておりますの? オーディンの芸術については男爵夫人ならたいていのことはご存知と思いまして」

「部門をいくつも? 一人で芸術を幾つもとは、普通にはあり得ませんわ。ですが今、その普通でない方が実はいるんですのよ! 本当にいろんな方面に才能ある方ですの」

 

 それそれ、それよ。やっぱりあの人でしょう。それが聞きたかった。

 

「知っております? エルネスト・メックリンガーという方ですわ。本職は軍人なのに、詩もピアノも絵もおやりになって。本当に芸術に愛されていますのね。昨年のコンクールでは詩で入賞してますわよ」

「それはすごい方! 詩はうちに一人詩人がおりますからまにあいますわ。でも、絵画とははいいですわね。その方の絵画を見れるところってありますの?」

「伯爵令嬢は絵画に興味がおあり? それなら、ちょうど個展が終わったところで、まだ画廊に何枚かは残ってるはずですわ」

 

 おいおい、我ながら下心てんこ盛り!

 ストーカーもびっくりね。ごめんなさい男爵夫人。

 画廊の名前聞いて何枚か買っておこうっと。

 話のきっかけにもなるし、どのみち後で絶対に値段上がるから。お得な買い物なのよ。

 

 

 そんな用事を済ませ、次はたまたまオーディンにいたミュケンベルガー元帥に会った。

 元帥はイゼルローン要塞などの軍事施設、技術部門、工廠の査察や訓練といった業務のためオーディンにいることは案外と少ない。

 少ない時間をやり繰りして忙しそうなので士官学校や幼年学校の視察のお願いなどは諦めざるを得なかった。

 せっかくラインハルト、キルヒアイスに会えるチャンスだと思ったのに!

 

 更にミュッケンベルガーはすぐにイゼルローン要塞に行く用事があった。

 そのためわたしのランズベルク伯爵私領艦隊に同乗してもらい、艦上でゆっくり話をすることにしたのだ。なぜならランズベルク伯爵領はオーディンからイゼルローンに向かう途上に位置し、時間を無駄にしない。

 更に、ルッツと一緒に輸送船団も返したことで身軽であり、速度も出せる。

 

 わたしはミュッケンベルガー元帥、その随行員と共にオーディンを後にした。

 いつものように素早く軍人の随行員リストをチェックしたが、今回はこれぞという人材はいなかった。

 ノルデンとかエルラッハとか、それこそどうでもいい名はあったが。

 

 

 

 それが…… どうしてこうなっちゃうんだろう。ルッツが無事に向こうへ到着したことで油断したのか。いや、そういう問題ではない。

 

 今回は前回より良いことと悪いことが一つずつある。

 

 良いことは、横に帝国元帥ミュッケンベルガーがいてくれるってこと。

 悪いことは、敵が圧倒的優勢で向かってくること。

 

「敵艦隊、距離7光秒、ランズベルク領星系を後背にして航路を遮断しています! 戦艦約50、重巡洋艦約70、総数およそ300隻、大艦隊です!」

 

 こちらは戦艦数こそ40隻あるが、総数は140隻しかない。

 戦力でかなり劣ると考えていい。

 前の戦いは敵は分散していて各個撃破もできたのだが、今回、それはできない。正面からぶつかればまともに数の劣勢を甘受するしかない。

 

「ううむ、これは、戦略的に敵に先手を取られたな」

 

 そうなのである。オーディンからの帰途、帝国軍警備隊がぴったりくっついていた。

 いよいよランズベルク領星系に近づき、出迎えのランズベルク領艦隊と合流した。

 そのため帝国軍警備隊は役目を終えたとして、離れていったのだ。

 といっても合流してもランズベルクの全軍ではないし、ルッツもファーレンハイトもいない。

 

 そんなまずいタイミングでいきなり敵と思われる不明艦隊と遭遇する羽目になったのだ。というよりミュッケンベルガー元帥の言う通り相手の作戦なのだろう。

 

「敵の情報が優っていたということだ。おそらくこちらの日程、航路、艦隊規模、全て掴んでいたのだ。その上でこのポイントで反応炉の火を落とし、慣性状態で隠れていた。申し分ない待ち伏せだ」

 

 その通りだとわたしも思う。相手は全く憎らしいほど見事な手を使っている。

 

「もう一つ、帝国の警備隊が本来より早く帰投についた気もしないでもない。これは根が深い策謀かもしれん。敵は数も多いが、編成を見ると高速戦艦が数隻入っている。これは有能な指揮官さえいれば打撃力は文句ないな」

 

 ミュッケンベルガー元帥は敵の論評までしているが、ちょっと落ち着き過ぎではないか。

 

「しかし、こちらにはミュッケンベルガー元帥という帝国軍の重鎮中の重鎮が乗っているんです! それを示せばすぐに退散するはずでは。だって、事を構えれば帝国軍と対峙するのと同じだと分かるでしょうに」

 

 わたしは青くなってそう言った。

 戦いともなれば、この前のように倒れ込むことはないが恐怖はある。

 

「カロリーナ嬢、それは少し違うな。敵対行動をしている時点でもう遅いのだ。今示せばかえって必死で織滅にかかるのが関の山だ。それに、実は儂の沽券に関わる。うっかりしていたのは儂の方だからな。それで戦う前にカロリーナ嬢だけでも脱出してもらいたいのだが、それはタイミングが重要だ」

「え、それは…… 」

「今脱出すれば、おそらく敵は高速戦艦で追跡して確実に沈めにかかる。カロリーナ嬢は、戦闘が始まって乱戦を作り出したのち脱出せい。これは命令だ」

「閣下はどうされるのです? 脱出は?」

「それを聞くのか? この儂に。」

 

 ミュッケンベルガー元帥は豪快に笑った。

 

「この数十年、儂の仕事は何だと思っていたのだ、カロリーナ嬢。本当に」

 

 わたしまでつられて笑うしかない。元帥の落ち着きは本当に心を鎮める作用がある。

 

「儂は普通ならケタが2つは違う艦隊を扱うのが仕事だが。ふむ、思い起こせばこれくらいの艦隊を指揮していたころもあったな。准将の頃か」

 

 こうなればミュケンベルガーの意思をわたしがどうにかできるものではなく、任せよう。

 

「分かりました閣下、仰る通りわたしは脱出いたします。ですが、それは味方が敗れる局面になったらの話です。約束したします。味方が必敗の状況になれば従いますが、それまでは共にいます」

「そうだ、敗れそうになったらすぐに脱出だ。今の言葉、決して忘れてはならんぞ」

 

 

 艦隊戦はごく平凡な形で始まった。

 互いに同じような陣形をとり、有効射程ぎりぎりで長距離砲を撃ち合った。

 イオンビームは中和磁場フィールドでほとんど無力化され、双方ともにさしたる損害は出ない。

 時折二か所同時に着弾してしまってシールドの負荷を超えた不幸な艦が損害を被るが、撃沈には至らない。

 けれどこのままの状態が推移すれば、陣容の薄いランズベルク領艦隊が先に破綻する。

 

「閣下、恐れながら多勢に無勢でございます。ここは犠牲を厭わず反転、オーディン方向へ退却なさるべきかと」

 

 そんな当たり前のことしか言わない随行の将にはミュッケンベルガーは眉を上げただけで、返事をする気もないようだ。

 

 すると、地味な撃ち合いに焦れてきたのか、敵の前衛部隊が速度を速めてきた。

 ミュッケンベルガーはそれを好機と見て指示を出す。

 

「各艦、エネルギーを防御シールドに振り分けよ。長距離砲を撃つのは戦艦のみ、他はミサイルを敵艦隊に向けて発射。当たらずともよい」

 

 それから、顔をわたしに向けた。随行している帝国軍人にではなく。作戦の意図が分かるわたしはにっこりと返した。

 

 一時間後、味方の損害も無視できないものになる。

 

「閣下、ここまでです。密集して退却を」

 

 またもや無能な随行員の意見をミュッケンベルガーが無視した。そのときようやく、敵の前衛部隊も足が止まった。

 

「今だ、全艦、エネルギーをイオンビームとレールガンへ。敵前衛へ撃って撃って撃ちまくれ!」

 

 いっせいに放たれた砲撃がみるまに敵前衛部隊を爆散させていく。

 その前衛部隊は長々と攻勢を続け、いや続けさせられていた!

 あと一歩という擬態を見せられたために力を抜くことができなかったということだ。そのため、もはや効果的なシールドを展開するエネルギーを残していなかったのである。

 限界点を見切られた敵前衛部隊は脆かった。

 

「お見事ですわ、釣り出しからの駆け引き。さすがは元帥閣下」

 

 今ので敵の三割は撃ち減らした。

 しかし、まだ戦力で五分と五分にもならない。

 敵は残存部隊を収容、艦隊を再編し、重厚な布陣に組み直した。そのままゆっくり押してくる。これは必勝の態勢だ。もう油断も焦りも禁物と学習し、素直に力勝負で勝ち切るつもりだろう。

 

 

 こちらランズベルクの将兵は、たまたまあの帝国軍ミュッケンベルガー元帥が艦隊指揮をとることになって驚きは尋常ではなかった。

 こんな辺境の小さな私領艦隊、せいぜい輸送船団の護衛と海賊相手に戦うのが関の山の艦隊を帝国元帥が。

 

 長く輸送船団の護衛だけを続け、せいぜい格下の海賊しか相手にしていない。まともに艦隊戦を演じた記憶はない。軍人というにもおこがましく、あまりに末端の存在だということは自覚している。

 それが今どうだ。

 よもや、帝国元帥に率いられて艦隊戦のひのき舞台に立てる日が来ようとは!

 

 その驚きはもちろんプラスに転じた。これは武人の誉れではないか。

 光栄だ。

 恥ずかしい戦いは見せられない!

 

 

「ふむ、このままではいかんな」

 

 口調はそれほど深刻ともいえない。

 ミュッケンベルガーは敵艦隊が全面攻勢に出られないよう巧みに要所を抑えていたのである。

 敵の司令官の力量もほぼ把握したつもりである。

 ただしかし、このまま押されれば数で負けるという事実は変わりがない。

 

 わたしは子供がポーカーでラッキーな札を引き当てたようなにんまりした顔でミュッケンベルガー元帥に近づく。

 

「閣下、うまくいけば、ですけれども」

 

 

 後に80歳の戦いと呼ばれる戦闘の幕が上がった。

 

 ランズベルク艦隊から別動隊がわずか3隻という数でひそかに発進した。

 

 大きく迂回して敵艦隊の後方に達した後、あらゆる砲門を開いてでたらめに射撃を始めた。それで実数よりはるかに多くの艦に見せかけるのだ。追い打ちをかけるように「うわあ、退路が断たれる」「まもなく敵には増援が・・」などという偽通信を送りつけた。

 

 数で劣る側がさらに別動隊を編成して派遣するのは非常識であるが、かといって無視もできない。

 

 敵艦隊はこの陽動によって一時混乱に陥った。

 そこをミュッケンベルガ―が正確に狙い撃つ。

 しかし、敵艦隊はまもなく態勢を立て直すと、有力な高速戦艦を中心とした20隻もの部隊を割いてまでこちらの別動隊へ向かわせてきた。

 

 だが、その20隻の部隊は拍子抜けした。

 その宙域にはたったの3隻、しかもわけのわからない射撃をしている小型の無人艦しかいなかったのだから。

 馬鹿な陽動に乗せられた怒りを込めてあっさりと撃滅し、本隊に帰投した。

 

 再び延々と砲戦が続いたが、またもやランズベルク艦隊から15艦ほどに見える小隊が分かれて戦場の外側を大きく迂回しようとした。

 敵艦隊は今度はまったく動揺しなかった。艦隊からまたもやさっきの部隊、20艦がその小癪な別動隊めがけて発進した。

 目障りな陽動だ。おそらく無人の小型艦だろうが、さっさと片付けてくれる。こんな無駄な小細工をするということは、もう苦し紛れなのだろう。

 

 

 接近した刹那のことだった。

 明らかに15艦程度とは思えない程の強力なビームの束が輝いた!

 馬鹿な、そんなことが、という声を虚空に残すのみだ。まともに食らった艦から順に爆散し、その20隻の部隊は消滅した。

 

 実はランズベルク艦隊別動隊の総勢は何と40隻あり、それらを簡単に蹴散らしたのだ。

 

 最初に使った別動隊無人艦3隻は数を多く見せるようにした。

 今度の別動隊はそれと逆だったのだ。

 わざと反応炉の火を落とした艦を曳航しつつ、数を少なく見せかけていたのだ!

 しかも、艦隊中で高性能艦を選りすぐっていた。これで敵の20隻を罠にかけたのである。

 

 その戦果だけに満足しない。

 せっかく敵艦隊に対し有利な位置につけたのだ。直ちに急速前進、敵の側面から猛撃をかける。

 その別動隊の旗艦艦橋でわたしは最も有効な砲撃ポイントを探り当てつつ、効果的な打撃を加えるよう指示を続けている。

 

 敵艦隊の司令官はやむを得ずそれを受け流し、迎撃態勢をとれるよう、艦隊全体を回転させる運動をしようとした。

 しかし、それはうまくいかなかった。

 恐怖にかられた艦がバラバラにこの別動隊にむかって回頭を始めたのである。

 

 ミュッケンベルガーのいるランズベルク領艦隊本隊は少数ながらも敵の攻撃によく耐えていたが、その混乱を見ると一気に逆撃に転じる。

 勝機を見極めたミュッケンベルガーが命を下す。

 

「全艦密集隊形、敵中央部を突破し分断せよ!」

 

 それをあたかも予期していたかのように、わたしの別動隊も動く。

 編成途中のミュッケンベルガーを攻撃しようとしている敵艦を狙い撃ち、邪魔などさせない。

 そのためミュッケンベルガーの突撃はうまくいった。

 敵艦隊を中央突破から背面展開、回頭途中の一瞬だけ敵にとってまたとない好機であったが、その時もカロリーナがありったけのビームとミサイルの弾幕で敵に的を絞らせはしない。

 

 勝敗は決した。

 

 分断され、更に後背を取られた敵艦隊は瞬く間に損害を増やしていった。

 反撃しようにも、わたしとミュッケンベルガー元帥、防御に攻撃に、巧みに入れ替わっては付け入る隙がなかった。

 もはや勝負がついた後、こちら側の二回にわたる降伏勧告も無視し、ついに敵艦隊は無理な逃走に移った。

 エンジンが焼け付いても構わないような加速をみせた。その過負荷による暴走でいくつかの艦は爆散、しかしそれはいい方なのかもしれない。艦の冷却が追い付かない場合は中の人間だけ蒸し焼きだ。おそらく敵艦隊で逃げられたのは二割もないだろう。

 もちろんこちらは無理な追撃はしない。

 

 

「ミュッケンベルガー元帥、万歳! カロリーナ、万歳! ランズべルク、万歳!!」

 

 各艦から勝利の大歓呼が聞こえてくる。

 優勢な敵に挑まれて、最後まで危ない局面など作らせないまま、壊滅させたのである。

 完勝だ。

 特に別動隊による陽動作戦、心理戦でも艦隊運動でもひときわ鮮やかな手並だった。

 その後も本隊と別動隊でこれ以上ない有機的な連携を行い、敵の反撃を一切許さなかった。

 

 どの艦が初めかわからない。

 ミュッケンベルガーとわたしの年齢のことだろう。

 

「66と14、合わせて80、80で勝った!」「80の勝利!」「80歳の司令官、万歳!」

 

 公式記録に80歳の戦いなどと馬鹿な呼称を記載するのにためらいのあった人間もいる。

 しかし、次の事実の前に声を失うしかなかった。

 

 

 別動隊を率いるためわたしとミュッケンベルガー元帥が別れたあと、あれほど艦隊の連携を見せながら、戦いを通して一度も通信した記録がなかったのである。

 

 

 

 


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